男には地図が必要だ。
荒野を渡り切る心の中の『地図』がな。
いやぁ、いい言葉だ。そして、もちろん、というべきか。男だけじゃあない。女にだって、赤ん坊にだってジジイにだって『地図』は必要だ。
が――だが。ここで一つの疑問が浮かぶ。
『地図』とは一体なんのことだ?何をもって心の中の『地図』を定義する?
もっとわかりやすく言おうか、『地図』ってのは『何のためのモノ』なんだ?
……ということで、今回は目の前に――心の中ではなく、現象として、大きな地図を広げた男の話をしよう。
●●●
「なんだこれ……地図か?」
ジョセフは目の前に広がる光景に驚きを隠せずにいた。
周囲の砂や建物の破片、仗助の血液さえも用いられて描かれた『それ』はただの絵というよりは、確かに地形のようにも見える。
「ッてことは……」
滴る冷や汗を拭う事すら忘れ、ぎこちない手つきで支給された地図を取り出す。
描かれた模様と支給品である地図に誤差はほぼ見当たらない。挙げるとするならば、数か所に付け加えられたアスタリスク記号のような印。
「じゃあ――」
「ふむ、その印はなにか重要なアイテムだか人物だかの所在を表しているようですね」
誰に言うわけでもない、ぽろりと口から洩れただけの言葉に返事が返ってきたことに勢いよく振り返る。
聞きなれた声が誰のものかであるかはすぐに理解出来たのだが、あまりのタイミングに完全に不意を突かれた。
「バッ――いやジョルノなんで起きてんだ、寝てろっつったろ」
「いやあ、職業柄というか、睡眠時間はかなり短いんですよ。でも、おかげで頭の中もすっきりしましたし、身体もだいぶ動かせます。ありがとうございました」
「な、ならいいケドよ。で……」
「この地図ですよ。あなたが作ったんでしょう?」
寝起きとは思えない応対の丁寧さがなんとも“らしい”と感じつつ、ジョルノに促されて視線を地面に戻すジョセフ。
しかしジョセフ自身にもこれがこの会場の地図を模した何か、としかわかっていない。
「いや、えっ?――オレェ?つくったー!?」
「そうですよ。その『隠者の紫』で……あぁそうか、あなたさっきスタンドを発現させたばかりでしたね」
答えを導き出せないジョセフに代わるようにジョルノが会話を引き出してゆく。
「そうだよ、それ。なんで俺だけおめーらと違ってイバラのスタンドなんだよ。仗助のやつはホラ……教えてくれないままだったしよ」
「あぁ、説明するのはそこからですか。そもそも“スタンドで殴り合う”ってのは副次的な効果なんですよ。
スタンドの本質とは――うーん、超能力という現象をビジョンにしたもの、とでも言えばわかりやすいでしょうか。
あなたのそれは、会場のアイテムらしきものを映してる。そこから推測できる能力はおそらく『索敵』もしくは『探索』。
いや、この地図……会場そのもの……なにかを……映し出す。『映し出す』……ならば『念写』か?
だとすれば撮影自体は本体であるジョセフの腕がやることだから、ビジョンも人型である必要がない、か――」
ジョルノ自身もスタンドの発現や戦闘を始めたのはつい最近なのだが、それでもジョセフとは経験値が違う。
どんどんと推測を重ねてゆくジョルノにたまらず口を挟む。
「ね、『念写』ってアレか?何でもないところカメラで撮ったのに別の場所の写真が出てきたりする?」
「そうです。心の中で見たいなと思ったものを目の前に見せる能力。今回の場合は『写真』じゃなくて『絵画』という形で写りましたが。
しかし念写という能力が発現するとなれば……ジョセフあなた、女性の風呂場とか覗こうとしたこととか、あるんじゃないですか?」
「へっ?……ばっバカそんなこと、ああある訳ねえぇじゃねーかッ!そそそんなんで能力決まってたまるかよッ!
大体だな、風呂場のカギ穴がそんなズサンなつくりなのがいけねーんじゃあねぇのッ!?
とっ、ともかく俺の“これ”が念写の能力だとして、結局こっちの『これ』はなんなんだよ!?
お前が言った通りアイテムでも落ちてんのかッ?……何か所かあるし、探しに行ってみるか?確認って意味も込めてよ」
露骨な動揺を見せながらも話題を地図のアイテム(らしき存在)に無理やりシフトさせるジョセフ。
ふむ、と少しだけ顎に手を当てて考えたジョルノの答えは、
「僕は反対です」
「はぁ?なんで」
意外!それは否定!
「あなたが本当にやるべきことはそんな『くだらないこと』じゃあないでしょう」
「あン?俺の能力がくだらねーってぇ?いくらスタンド初心者相手でもそりゃねーんじゃあねーの?」
ズバズバとしたジョルノの物言いにジョセフの語気が強くなる。
それを知ってか知らずか、ジョルノは冷静に言葉を繋ぐ。
「違いますよ。この『殺し合いゲーム』の中でわざわざ『アイテム収集』に使う時間はないってことです。
ジョセフは最終的にこのゲームでどうしたいんですか?」
「どうって、そりゃあ主催者の――黒幕ってのか、あの大統領とかいうのをぶちのめすに決まってんだろ」
数瞬ののちにきっぱりと言い放つジョセフにジョルノも頷き返す。
「そう、僕もそのつもりです。だったらそうですね……あなたにわかる表現レベルで話しましょう。
その大統領を『ラスボス』としましょう。とすればさっきまで僕たちが戦っていたDIOはいわゆる『中ボス』か、下手したら『小ボス』です」
「――てことは、って待ておい俺のレベルってどういうこった」
先ほどの死闘を、さらには自分の父親とも言えるDIOの事をも小ボスと表現するジョルノ。
若干イラっと来る言葉のチョイスではあったが、中身を理解できないほどジョセフの頭の中に余裕がない訳ではない。
「まあまあ。でも気付いたようですね。まだまだこの会場には『ボス』がいること。ゲーム打開を目指す僕らの――いうならば、目の上のタンコブ」
「ああ――だがその『ボス』のうち、俺の頭に真っ先に浮かんだクソヤローは“タンコブ”どころか“ガン細胞”だぜ」
ジョルノに対する意趣返しのような捕捉にふぅ、と短い溜息をつきつつジョルノが続ける。
「なんでもいいです……とにかく、僕たちが優先すべきはそちら。そして」
「そして?」
「その存在を同じように目の上のタンコブに」
「ガン細胞だっつったろ、しかも末期の」
「……目の上の、ガン細胞、に。感じている連中がいるはずです。まずは彼らと接触します」
ジョルノが折れながらも方針を明確にする。
しかし、ジョセフはどことなく信じられないような心境で眉を吊り上げる。
「放送で呼ばれてない連中で素直に信じられそうなやつらなんてもう何人もいねぇぞ」
「何も『仲間』である必要はありません。敵の敵は、ってやつですよ」
回答を準備していたかのような淀みのない返事と輝く瞳にジョルノの絶対的な自信と、ある種のカリスマ性を見たジョセフ。
視線を地面に落とし、映し出された地図を一瞥。
軽い音を立てながらそれらを手で払い、消し去った。
「つまり」
再び手を伸ばし、念じる。先ほどのような朧気なものではなく、はっきりと。
倒すべき相手の顔、そして会場に残った参加者たち。血縁者。主催者。守れたもの。守り切れなかったもの……
「そう」
ジョセフの想いに答えるように掌から無数の茨が這い出して来る。
再び形を表した地図は先ほどと変わらない。
――表示されているマークが一か所だけの「バツ」になり、その位置が変わったこと以外には。
ジョセフとジョルノ、二人の視線が重なり合い、どちらからともなく己の地図に印を書き込んだ。
倒すべき“ボス”が誰であるか――さらに言えば印の位置にいる相手でさえ素性は重要ではない。
目の上のタンコブがガン細胞であろうが、中ボスが小ボスであろうが。順番の問題だ。
今考えなければならないことは――まず彼らがやらねばならないことは。
『印の場所にいる、敵の敵。それらと同盟を結成させること』
たったそれだけの、シンプルな答えである。
無論、簡単に事が運ぶとは思えないし、思ってもいない。
しかし、この地図を念写したジョセフ。作戦を打ち立てたジョルノ。
この二人だからこその方針であり、今の彼らにしかできないことである。
頷きあい、立ち上がる。
「――行ってくるぜ、仗助」
歩き出す刹那に小さく放たれた言葉に返事をするものは今度こそおらず、闇夜の風に流れていった。
●●●
――と、そういう話だ。
わかるかい?地図というものは都合のいい『水先案内人』では決してない。
いいかよく聞けッ!心の中の『地図』とはッ!
自分がどこにいるのかを指し示し!
そして“自分が今どこに向かうべきかを確認させてくれるもの”の事をいうのだッ!
と、大きな声を出してしまったが、つまりはそういう事さ。
心の中の地図じゃあない、現実の地図でも同じだ。何を置いてもまずは現在位置の確認をするだろ?
今回のジョセフとジョルノの作戦に関してもそう言って差し支えないと思う。
あくまで彼らは『ゲーム打開の障害になりうる存在を、同志とともに排除すること』を優先させた。
それは決して遺体を――まあ彼らはそれが何かまでは現時点で把握してないが――軽んじているわけではない。
他人任せというと聞こえは悪いが……『今の自分たちにしかできないこと』を考えた場合、前者のほうが重要だった、という事だ。
まあ……安全な方向を指し示してくれたり、文字通りナビゲーションしてくれる、そんなスタンドもいないではないが、それはまた別のお話だ。
今あわてて話す事じゃあない。いずれどこかで――
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会西の川岸 / 1日目 夜中】
【
ジョセフ・ジョースター】
[能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:全身ダメージ(中)、疲労(やや大)
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、
基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.この『地図』を利用して『敵の敵』に接触し同盟を結成する
2.その前に空条邸に戻って仲間と合流する?
3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
4.
リサリサの風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対
※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。
※すぐ近くの地面に地図が念写されていました。現在はジョセフによってかき消されています。以下地図の詳細
※ジョセフが先に無意識で発動させた地図は『アイテムか何か』を『*』のような印で複数個所に示していた。こちらの記録はしていない。
※二度目に意識して発動させた地図は『ジョセフたちが今目指すべき場所』を『×』のような印で一か所だけ示している。その場所は以降の書き手さんにお任せします。
【
ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(中)、精神疲労(やや大)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.ジョセフの念写した『地図』を利用して『敵の敵』に接触し同盟を結成させる
2.その前に空条邸に戻って仲間と合流する?
3.考えるべきことは山ほどある。しかし『今やらねばならないこと』もあるから、そちらを優先させる
※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も
[備考]
仗助の遺体が近くに安置されています。持ち物である基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)もその場にあります。
また周囲には花京院、ジョンガリ・A、徐倫(F・F)の遺体があります。
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最終更新:2019年02月05日 01:49