その部屋は一言で言えば「漫画家の作業部屋」だった。
整理された机の小物入れには執筆の為のペンやインクが置かれ、棚には画材が幾つも置かれている。
びっしりと置かれたノートは恐らく『ネタ帳』のようなものだろうか。
机の前に置かれた椅子に座っているのは銀色の髪が特徴的な半妖の青年。
窓から外を眺めながら、ただ無言に静かに物思いに耽っている。
「………。」
動かない古道具屋、
森近霖之助。
半人半妖のハーフであり、古道具屋「香霖堂」を営む店主だ。
といっても、どちらかといえば「商売人」というよりもある種の「蒐集者」と称する方が近い人物だが。
そんな彼は、この場における自らの行動方針を決め倦ねていた。
―――あの人間達は、僕らに「殺し合いをしろ」と。
―――あの人間達は、あれ程までの人数を巻き込む程の力がある。
それは当然理解している。あの山の神様…秋穣子、と言ったか。
彼女の死を目の当たりにした。見せしめ、というべきか…殺し合いに逆らったものの末路をまざまざと見せつけられた。
正直に白状しよう。あの時の僕は、ほんの少しだけ「恐怖」していた。
自分達の命が手中に握り締められているということをはっきり思い知らされたのだから。
同時に、こんなことに巻き込まれた自分の不幸を大いに呪っていた。
「僕の役割は、『やられ役』ってところかな」
窓際で頬杖をつきながら、自嘲気味に呟く。
最初に断っておくと、僕は荒事は苦手だ。蒐集の為に危険な場所までちょっとした散歩に行くことはある。
自分が危険に近付くことなんて精々それくらいだ。
幻想郷の妖怪達が起こすような喧騒は苦手だし、戦闘能力があるワケでもない。
評価出来る点と言えば、妖怪の血が混ざってることで「人間よりちょっぴりしぶといこと」くらいだ。
精々その程度。はっきり言って勝ち残れる気なんて無い。
この惨劇において、殺人者と運悪く出会ってあっさり殺される『やられ役』くらいの役割でしかないだろう。
「…やれやれ」
盛大に溜め息をつきながら霖之助はぼやく。
柄にも無くネガティブになってしまっているのが自分でも解る。
そりゃあ、そうだ。何の脈絡も無く殺し合いなんてことに巻き込まれてしまったのだから。
幻想郷とは「理解できないこと」に満ち溢れているとは解っているが、此処まで来ると理不尽な程だ。
その上、あの主催者たちに立ち向かうことも絶望的と見える。
曰く「下手に逆らえば頭部を爆破する」と。…何だか笑えてくる。やっぱり、圧倒的なまでに理不尽だ。
僕の知識を持ってしても、あの二人に対抗出来るかどうかは怪しいだろう。
こうやって一人打開策を考えようとしても一向に浮かばない。
諦観というものを嫌になってくる程に堪能している所だ。
あの主催者には逆らえないとは思うし、かといって殺し合いに乗った所で勝ち残れる気もしない。
将棋で言う所の詰み、外来品のチェスで言う所のチェックメイト。そう表現するに相応しいかもしれない
…そう言えば、支給品や名簿をまだ確認していない。
机の上に放置していたデイパックをおもむろに開き、まずは支給品をを取り出す。
閉じられた紙の中から道具が飛び出すと言うのは流石に驚いたが、マジックアイテムの一種なのだろうか?
ともかく、僕は自らの支給品を確認してみることにした。
「…『スタンドDISC』?」
その手に持った円盤をまじまじと眺めながら彼は呟く。
「道具の名称と用途が解る能力」により、手に取った円盤の名前は理解することが出来た。
用途を調べてみた所、このDISCとやらは「スタンド能力を封じ込める道具」と。
…スタンド能力とは一体何なのか?同封されていた説明書によれば、このDISCは「頭に挿入して使用する」らしいが…
そのスタンドとやらが何なのか解らないし、そもそもこれが頭に挿入することが出来るというのがいまいちピンと来ない。
それに…何だろうか。この円盤からは言い寄れぬ「不安感」のようなものが感じられる。
蒐集者の心持ち故に好奇心で使ってみたい気持ちもあるのだが、それ以上に僕の中の警戒心がこれを拒絶する。
…得体の知れない物には触らぬが吉だな。一先ず僕はそれをデイパックにしまうことにした。
さて、もう一つの支給品を確認しよう。次は―――
「……。」
賽子。賭け事に使うような六面体の賽子が3つセット。
…だからどうした。こんなものを殺し合いでどう使えと。用途を調べてみても、何の変哲も無いただの賽子でしかない。
結論を述べれば、僕の支給品に「武器」は一つも入ってなかったのだ。ますます気合いが抜けてくる。
呆れた気分になりながらも、とりあえず名簿も確認してみることにした。
ざっと見た所、どうやら90名もの人物がこの殺し合いに巻き込まれているらしい。
記載されている名前を見る限りでは参加者に幻想郷の住民が何人もいることが解る。
紅魔館の主。白玉楼の姫君。スキマ妖怪。永遠亭の医者―――
幻想郷においても別格レベルの実力者達の名が幾つも見受けられた。
いよいよあの主催者達の格が凄まじく見えてきた。彼らは幻想郷において名だたる猛者ですら手中に収めてしまう程の実力なのか?
同時に、そんな中何故自分のような非戦闘者まで混じっているのかが疑問だった。
この場においては支給品や制限があるらしいが、それを込みにしても戦闘経験皆無の自分に勝てる気はしない。
相変わらず諦めのような感情を抱いている中で、彼は「よく見知った名前」を発見した。
「………。」
…あの二人まで、この場に巻き込まれているのか。
霊夢。しょっちゅう僕の店に訪れる博麗の巫女。
いつも用も無く店に入り込んでは勝手に商品を持っていったり、勝手にお茶を淹れてたり。
横柄ではある物の、時に世話になることもあり関わりの深い相手であることは確かだ。
魔理沙。僕の昔馴染み、かつての修業先の娘さんだ。
霊夢と同じようにしょっちゅう店に顔を出す。冷やかしにくることも多々あるが、個人的な付き合いもかなり多い。
ある意味、僕にとっての妹分のような奴かもしれない。
はぁ、と溜め息を吐きながら顔に軽く手を当てる。
あの二人が殺し合いに乗ることはないと思う。そこそこ付き合いを続けてきて、そうゆう性分だってことを理解している。
だからこそ危なっかしいし、僕は怖いと思っている。
魔理沙と霊夢はこの殺し合いを止める為に無茶をしそうな気がしてならないのだ。
彼女達の名を確認した途端、急に心配が胸の内から込み上げてきた。
僕はその場で暫し考え込む。――どうせ普通に戦った所で自分生き残れないだろうな、と。
支給品には武器さえ入っていない。勝てる訳があるか、と主催者に問い詰めたいくらいだ。
かといって主催者に反抗することも出来る気はしない。…僕の力などたかが知れている。
だからといって、何もかも諦めるのは少し馬鹿らしくなってきた。
あの二人の名を確認してから、いてもたってもいられなくなってきたのだ。
「…どうせ、こんな所でぼんやりとしているくらいなら…な」
せめて、あの二人を捜そう。魔理沙、霊夢のことが心配で仕方がない。
自分に出来ることなんてちっぽけなものかもしれないが、それでも何もしないまま死ぬのは御免だ。
故に僕は「少しだけ」主催者に抵抗してみることにした。やれるだけのことはやってみよう、と。
柄にも無く、そんな気持ちになってきたのだ。
誰が信用出来て、誰が信用出来ないかなんてのは解らない。だが一つだけ確かなこともある。
あの二人なら、確実に信用出来ると言うことだ。
椅子から立ち上がり、霖之助は歩き出し部屋を後にする。
彼は何の力も持たない古道具屋の店主。
それでも、この殺し合いの場で行動することを決めた。
自分が生き残れるとは思えない。だけど、この場には霊夢と魔理沙も巻き込まれている。
そうなると、彼とて黙ってはいられない。少しはこの場で抵抗してみる気になったのだ。
自分なりに――――やれることをやってみるとしよう。
森近霖之助の『バトル・ロワイアル』が、幕を開けた。
◆◆◆◆◆◆
―――スタンドDISCを使わなかったのは、彼にとって『正解』だったと言える。
そのDISCに封じられているのは『最弱』であり『最悪』の能力。
使用されなかったとはいえ、DISCが今も尚彼のデイパックに保管されていることも確かである。
果たしてこの力は、そのまま彼のデイパックの中に『封じられる』ことになるのか。
何らかの拍子で使用してしまい、図らずも災厄を呼び寄せてしまうのか。
あるいは、他の参加者に奪われその力を利用されてしまうのか。
今はまだ誰も知らない。
それは邪悪の化身でさえ「手に余る」と称したスタンド能力。
そう、そのスタンドの名は――――
【E-4 人間の里(岸辺露伴の家)/深夜】
【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安
[装備]:なし
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:自分が生き残れるとは思えないが、それでもやれることはやってみる。
1:まずは人里を探索。出来れば自衛の為の武器が欲しい。
2:魔理沙、霊夢を捜す。
3:殺人をするつもりは無い。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
<スタンドDISC「サバイバー」>
森近霖之助に支給。
かつてDIOがプッチ神父に渡したスタンド。
対象の脳内の電気信号に影響を与えることで闘争本能を極限まで引き出し凶暴化させる。
能力の影響下に置かれた者達は闘争心の赴くままに殺し合いを始める。
また凶暴化した者達は相手の「最も強い部分」が輝いて見え、ダメージを負った部分が消し炭のように黒く淀んで見えるようになる。
敵味方問わず乱闘を引き起こす能力を持つこのスタンドをDIOは「最も弱いが、手に余る」と評価している。
このスタンドに課せられた制限は現時点では不明。
<賽子×3>
森近霖之助に支給。
卓上遊戯や賭博などに用いられる道具。
何の変哲も無い六面体の賽子3つセットである。
最終更新:2014年08月09日 15:03