--- <早朝> GDS刑務所 1階女子監 廊下 ---
ガ オ ン ッ ! ! ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
「ハアーーッ…ハアーーッ…ハアーーッ…ハアーーッ…」
ジョニィは満身創痍のまま刑務所内を駆けていた。
この極めて危険な男―ヴァニラ・アイスと先に外へ逃がした蓮子が鉢会ってしまえば彼女はひとたまりも無い。
故にジョニィはひとまず蓮子が安全な場所へ逃げ切るまでの時間を稼ぐ為に、この敵からつかず離れずの距離を保ちつつ施設内を駆け回っていた。
…のだが、相手は不可視の移動と攻撃、そして絶対防御を併せ持つ凶悪なスタンド『クリーム』。
触れるだけで致命的なダメージを負いかねない、余りにも理不尽な攻撃を長時間避け続ける事は容易ではない。
ジョニィの体にはクリームによって『削られた』痕が何箇所もあり、その傷はかろうじて深くは無いものの既に血を流し過ぎている。
最初に接近された時は肝を冷やしたが何とか回避できた。
次の攻撃の時は左肩を少しだが掠ってしまった。
激痛が走りバランスを崩してしまった瞬間、右膝の一部を(ちょっぴりだが)持っていかれた。もし体を崩さなかったら持っていかれたのはちょっぴりどころではなかったろう。
さっきなんかは天井に穴を開けて丸ごと崩され、落下してきた瓦礫に巻き込まれた。
ここまでは運良く致命的な傷を負わずに来れたが、次は?その次は避け切れるのか…?
(時間を稼ぐ…どころじゃない。このまま長期戦はマズイ…ッ!)
当然ジョニィも隙を伺いつつ何度も『爪弾』を放ったものの、やはり暗黒空間とやらに飲み込まれるばかりでダメージは通らない。
―――だが勝機は、ある。
ジョニィは既にあのスタンドの『弱点』を確信していた。
さっきから見てればやはりあの敵、口の中に完全に隠れている時は周りが『見えていない』!
奴の攻撃の回避に成功して離れる度。
この迷路の様に入り組んだ刑務所の壁に突き当たる度に。
警戒しつつではあるが、いちいち顔を外に出し僕の姿を確認している!その瞬間が狙い目だ!
ジョニィとて、今までの旅で数え切れない程の修羅場を体験してきた男だ。
ブンブーン一家と戦った時は危機一髪のところでスタンド能力『タスク』が開花し、戦いに勝利した。
強敵サンドマンと相対した時は、絶望的な状況からも親友ジャイロの教えから活路を見出し、スタンドを新たな段階まで進化させ逆転してみせた。
過去の罪を全部まとめておっ被せ襲わせるスタンド『シビル・ウォー』と戦った時、『あの方』から道を示され、タスクは更なる道へ進んだ。
瞬間、ジョニィの脳裏にはかつての大陸レースで大統領と繰り広げた争奪戦、その『聖人の遺体』のヴィジョン(やはりあの人なのだろうか…)の言葉が蘇った。
「心が迷っているなら、ジョニィ・ジョースター…撃つのはやめなさい」
「決して『新しい道』は開かれない」
…あの時から僕はもう迷っちゃあいない。
既にこのジョニィ・ジョースター、立ち上がり前へ歩き出している。『ゼロ』から『プラス』へ。
『覚悟』などはとっくに決めていた。
この敵は今ここで『始末』する。
この敵は危険過ぎる。
人を殺す事に一瞬の迷いも戸惑いも無い。
「人は何かを捨てて前へ進む」
だがコイツは全てを捨てている。その『人間性』までも。
あるのは『漆黒の殺意』のみ。
奴にとってこのゲームは周りをチラつく鬱陶しいハエを駆除するのと変わらない事なのだ。
そんな奴はもう人間とは言えない。
そんな奴が蓮子の様な力を持たない人間と出会ってはいけない。
そんな奴がもしジャイロと出会ってしまったら…。
ジョニィは右手で懐に持つ『鉄球』に触れる。
ジョニィに支給されたただ一つの武器、壊れゆく鉄球『レッキング・ボール』。
あの『氷の世界』で死闘を繰り広げたウェカピポが扱っていた鉄球。
こっちの鉄球は触ったことが無いので上手く機能させられるか自信は無いが、14個の『衛星』と『左半身失調』は強力な武器となる。
決定打を浴びさせられずとも、奴の左半身を失調させてしまえば大きな隙を生む事が出来るかもしれない。
だが迂闊に使用してただ一つの鉄球をあの暗黒空間に飲み込まれてしまえば状況は一気に不利になる。
加えてジョニィは現在タスクのACT1までしか使用できない。
この『石作りの海』内部にはろくな自然物が無く、肝心要の黄金長方形のスケールが全く見つからないのだ。
ジョニィはいつも馬のたてがみ、あるいは木の枝や葉っぱ、近ければ小鳥の翼をスケールの参考にして回転を生み出している。
だがどうやらこの施設の設計者は自然から生まれる風情を楽しむ心を持ち合わせてなかったらしく観葉植物の一つどころか、なんと窓すら殆ど見当たらない。
「クソッ!何なんだここは!行く先行く先鉄格子だらけで外へも出られないのか!!」
当然の話である。ここはGDS刑務所、別名『水族館』。
過去に一人の脱獄者だって出したことは無い鉄壁の監獄である(実は何人か居たりするのだが)。
簡単に外へ出られるような安い構造になっている筈が無いのだ。
(マズイぞ…蓮子から少しでも遠ざけるように出入り口から離れたのがアダになった…!)
ジョニィは口内に溜まった血と同時に心の中でも唾を吐く。
攻撃を避けるのに必死で自分の現在地を把握せぬまま闇雲に施設内を走るという浅はかな行為をしてしまった。
奴を倒すには『一手』先を行き、意表を突かなければならない。
その難しい課題をこなすにはこのACT1では少々頼りないのだ。
少なくとも黄金長方形のパワーを身につけた『ACT2』の攻撃でなければ…。
その黄金長方形のスケールを探し出す為にも蓮子が出て行った出口とはまた別の出口から外へと脱出するべきだった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!
ヴァニラが暴れた衝撃からなのか、施設内で大音量の火災報知機サイレンの音が耳を貫いたが今のジョニィにそれを気にする余裕は無い。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「クッ…!……ッ!ハァー…ハァー……ッ!」
ガクリ!
ジョニィはとうとう地に膝を立ててしまった。
ここまで殆ど全力で駆けて来たうえに脚を負傷し、相当量の血を流してしまった。
しかもジョニィは今でこそ普通に立って歩けるまでに快復したが、ほんの少し前までは半身不随の身体。
そもそも素早く走ったり跳んだりする事は全くの不得手なのだ。
そんな彼がヴァニラ・アイスの容赦無い怒涛の連続攻撃を避け続けるのは時間の問題であった。
(体が、もう限界だ…。奴が…来るぞ…ッ!)
-―― ガ オ ン ッ !
ジョニィの十数メートル後方の壁から死神の足音と共に『穴』が開いた。
体中から汗が噴き出す。今度こそ逃げられない。
直後に『奴』がスタンドの口から顔を覗かせた。
獲物の息の根を完全に、確実に止めるための最後の『確認』と言うわけだこれは。
ジョニィはすぐに『爪』を奴に向けて構える。
と、同時にジョニィと敵の目が交差した。
『黒』だ。
奴の瞳はどこまでも禍々しく真っ黒な『ドス黒い暗黒のクレバス』。
血に狂った生粋の殺人狂の様な歪な瞳ではなく、ただただ純粋な『悪』。
何も考えず目の前の敵を淡々と排除する事のみを行う殺人マシーンの様な男だった。
…が、
(……?何だアイツ。僕の顔を見て、あの表情は…驚いている、のか?)
わずかな、ほんのわずかな『表情』と言えるようなものをあの男が見せた、ような気がした。
何か意外なものを見た、そんな表情だ。
しかしそんなことに気を取られている場合ではない。
絶対的な窮地であるこの場面で動きを止めてしまったらすぐに狩られてしまう。
ジョニィはありったけの爪弾を敵の脳天に向けて発射した!
「う…うおおおおおおおおおおおおぉぉああアアアアアアアーーーーーーーーーッッ!!!!」
ド バ ド バ ド バ ド バ ド バ ァ ッ ! ! ! ! !
十発もの爪弾全てが凄まじい風切り音と共にヴァニラ・アイスへ向けて発射される。
しかし、ヴァニラはまたもスタンドの口の中へ完全に隠れこの空間から『消える』。
ジョニィの半ばヤケクソの様な攻撃も全て暗黒空間に飲み込まれて消失してしまう。
これまでの攻撃と同じだ。あのスタンドにはいかなる外的要因も干渉する事が出来ない。
--- ド グ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ッ ! !
来る!
奴がコンクリートの地面をガリガリ削って猛スピードでこちらに突進してくるぞッ!
ジョニィは辺りを見回した。どうやらここは男子監の大広間らしいが相変わらず黄金のスケールは全く見つからない。
「くそォォッ!何か無いのかッ!?スケールはどこだァァァーーーッ!!!」
ジョニィは咆哮した。
敵の軌跡は5メートル前方まで迫ってきている。
(真っ直ぐ僕に向かって突っ込んで来る!か…回避をしなければ…ッ!)
しかしジョニィの身体はもう素早く動けるだけの体力は残っていなかった。
脚に力が入らない…ッ
--- ゴ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ッ ! ! !
もう目の前まで迫ってきたッ!
つ…強すぎるッ!全ての攻撃が全く通らないッ!
ジョニィはこの未知の敵のあまりにも理不尽で凶悪な能力に戦慄する。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』という能力はまさしく『鬼』のような強さを誇っている。
主君であるDIOに対する狂信的で、絶対的なまでの『忠誠心』。
そのドス黒く歪んだ精神がそのまま具現化したものが『クリーム』なのだ。
ヴァニラがあの空間に潜んでいる時は何をやっても無駄なのだ。
(そういえば…あのデタラメな能力に似た敵と、僕は『かつて』戦った事がある…)
ジョニィはヴァニラが目前にまで迫ってきたこの状況で、ある光景が走馬灯のように蘇った…
馬による大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」。
そのレースを影から操っていた黒幕。
第23代アメリカ合衆国大統領『
ファニー・ヴァレンタイン』。
フィラディルフィアの海岸でジャイロと共に死闘を繰り広げた相手。
奴の能力はこの世の空間の隙間に入り込み、あらゆる『吉良』を集め、その他の『害悪』は遠くの知らない誰かにおっ被せるというメチャクチャなものだった。
空間の隙間に隠れる。
奇妙な偶然だが、
ヴァニラ・アイスの能力はあの大統領のものと似ている部分が多かった。
大統領の『D4C-ラブトレイン-』を最終的に突破したのは『タスク』の最後の進化であるACT4。
馬の力を借りた『騎兵の回転』、その完全なる黄金回転のエネルギー。
この世界のあらゆる防御を次元や空間を越えて突破し、無限の回転エネルギーをぶつけるジョニィの最終奥義だ。
(コイツの能力はこの世の空間からまったく姿を消すスタンド…)
(だが本当にこの世界にまったく『存在』していないのか…?)
そんなことがあり得るのか?
もし本当にこの世から完全に消えているのなら、じゃあ何故向こうから一方的に攻撃できる?
重力はどうなんだ…?
奴はそれすらも『消滅』しているのか?
大統領のD4Cで自由に異空間を移動できたのは大統領本人とD4C。
そしてもう一つ、『重力』だけは大統領本人と一緒に移動していた筈だ。
もし『重力』という『引っぱる力』が無ければその人間の形や心の力の繋がりが保てなくなり、バラバラに崩壊するのではないか(これは推測だが)。
この敵の能力は大統領のソレと本質が似ている。
『重力』を支配した無限の回転のみがD4Cを突破できるのなら。
この敵には、無限の回転エネルギーが通じるかもしれない…
死を目前にしたジョニィの刹那にも等しい推察は、しかしこの状況では全く意味を成すことはない。
何故なら今のジョニィではACT4はおろかACT2ですら発現できずにいる。
ACT4の発現に不可欠である『馬』と『黄金長方形のスケール』、その両方ともこの場には揃っていない。
針の先の様に小さな『突破口』を感じ取り、ジョニィの考察は光明を見出したかもしれない。
だが、ジョニィは反撃の刃を切り出すための『大前提』からして持ち合わせていなかった。
更に不運な事に、これは今の時点でのジョニィには知る由も無い事だが…
今回の悪質極まりない下衆な殺し合いという『ゲーム』において、ジョニィの最後の切り札『タスクACT4』は主催者側による『制限』を受け、使用不可とされていた。
対象を抹消するまでどこまでも追跡し、その肉体や魂までも次元の果てへと昇華させるACT4はゲームのバランスを崩しかねないと主催に判断されたのだろう。
この戦い、ジョニィは最初からチャスや将棋でいう『詰み』(チェック・メイト)にはまっていたのかも知れない…
(蓮子は無事に外まで逃げ出せたろうか…)
(この状況…ジャイロのように…タフなセリフを吐きたい…)
(…そういえばジャイロは今、何処に居るんだろう…?彼はそう簡単にくたばるタマじゃないことはよく知ってる)
(会いたい…彼と会って、最初に感謝の気持ちを伝えたい…)
(あの時伝えられなかったこの言葉を…『ありがとう』と言いたい…)
様々な思惑、推測、親友の顔が脳裏を掠め、一瞬で消えていく。
ジョニィはいつの間にか涙を流していた。
かつての旅でも幾度と無く泣いてきた。
泣いて、挫折して、それでも立ち上がって、前へ、前へと少しずつだが歩いてきた。
立ち塞がる敵は全て倒してきた。挫けた時には親友が手を差し伸べてきた。
ジャイロが死んで、それでも僕は一人で歩いていける『自信』と『希望』を身に着けたと思っていた…
だが宿敵Dioとの戦いにおいて僕は『敗北』する。
最後に勝利したのは僕ではない。Dioだった。
そして今、僕はまたしても目の前の敵に敗北するのか。『殺され』てしまうのか。
所詮僕は独りぼっちのちっぽけな存在なのか。
…何で僕はこの期に及んで、また泣いているんだよ…。
ド ゴ ォ ッ !
「グフッ…!?」
走馬灯に思いを馳せる間にジョニィを襲ったのは、冷徹無慈悲の暗黒の空間ではなかった。
腹部に走る激痛…『痛い』という感覚だ。
奴のあの攻撃にまともに飲まれれば、痛いなどという感覚を痛感する暇も無くとっくにあの世行きの筈ではないのか。
もしくは奴の言う『暗黒空間』の中で僕は現世へ戻ることも無く、永遠の苦しみを味わいながら生きるのかも知れない。
間違い無く、今の攻撃はスタンドに直接殴られた感覚だぞ…ッ!
「グ……ッ!ぐはっ……!?」
「…………………。」
喉から吐瀉物と共に血が込み上げてきた。強靭なスタンドの拳だ……ッ
ジョニィはたまらず腰を折り、地面に情けなく倒れ伏した。
---何故、僕は今殴られた…?一撃必殺の暗黒空間へと葬らずに、この男はわざわざ『スタンドを外に出現させ』殴り抜いてきた!
ジョニィはうつ伏せに倒れたまま、顔だけを敵に向けた。未だ涙が溜まった瞳に混乱と苦痛と、再び燻ってきた『漆黒の殺意』を混ぜながら視線を向ける。
「……小僧、貴様の名は何だ。言え…」
「……ッ!?」
その重く冷たく、体の髄まで響いてきそうな低い声でヴァニラ・アイスは何と敵対するジョニィの名前を聞いてきた。
殺しのチャンスを止めてまで何を聞いてくるかと思えば、それはジョニィにとって全く予想だにしない質問だった。
「な…に?僕の……名前だと…?な…ぜ、そんな事を…聞く…」
「質問に質問で答えるんじゃあない。さっさと話せ」
ヴァニラ・アイスはとうとうスタンドの口から体を完全に出し、その強靭な脚をもってジョニィの背を直接思い切り踏み潰した。
「がァ……!!ハァー……ッ!…ジョ、ニィだ。
ジョニィ・ジョースター……それがどうした…ッ!?」
「ジョースター………貴様のその首の星型のアザは、生まれつきか…?」
「星型の…アザ…?」
アザ、だって?アザが何だと言うんだ?コイツはそんな事を聞くために僕にトドメを刺さないのか…?
…そういえば、首のアザなんて自分で気にした事も無かったが、昔ニコラス兄さんに言われた事を思い出した。
「ジョニィ。お前は首元に面白いアザがあるな。ハハハッ星型のアザなんてダセーなぁ!」
「え、マジぃ?でもそれを言うなら兄さんの首にだって星のアザがあるよ。僕見たことあるもん」
「うぇ!?それマジで言ってんのかジョニィ?オイオイ…ちっとも気付かなかったぜ。後で鏡見てみるか…」
「でも変なの。兄弟で同じアザがあるなんてさ。」
「そうだなー。でもまっ!それが俺たちが血の繋がった仲の良い兄弟だっていうなによりの証だな!」
………
……
…そうだ。子供の頃、優しかった兄さんとそんな会話したような気がする。
そんな思い出はすっかり色褪せて風化してしまったが、今の僕にもその『星型のアザ』があるのだろうか。
ジョニィは思わず首元に右手を当てようとしたが、既に虫の息であった身体はそれすら行う事が出来ないでいた。
だがそういえばさっきのヴァニラの攻撃によって左肩を抉られた際に、衣服の一部が削られ首元が露出してしまっている。
そこには確かにあった。ジョースターの血族である何よりの『証』。
その『星型のアザ』がジョニィの首筋には間違いなく存在している。
(もしや…コイツ、さっき一瞬だが僕を驚いた様にじっと見つめていたのはこのアザを見ていたのか?)
先ほどの攻防でヴァニラ・アイスが確かに一瞬見せた『表情』らしきものは、ジョニィの首筋にある星のアザを見つけた事による『驚き』だった。
「私からしてみれば…DIO様以外の参加者共など全て便所のゴキブリにも等しい害虫以下の下らん命…
だが!ジョースタアアァァーーーーーーッ!!!」
ド ゴ ァ ッ !
「うが……ッ!?」
突然!ヴァニラ・アイスは鬼の様な形相に変貌し、とてつもない怒号と共にジョ二ィの顔面を思い切り蹴り上げたッ!!先程までの冷徹な態度が嘘の様に突然怒り狂ったのだッ!
「貴様らッ!ジョースターの一族はッ!DIO様にッ!『不安』を与えるッ!存在そのものがだァーーッ!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「…………………ッ!!!???」
「DIO様はッ!『安心』を求めてッ!生きておられるッ!その『安心』を脅かすッ!貴様らジョースター共の存在がッ!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「この世にあっていいハズがあるかあああああァァァァーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「ガブ…………………………ッッ!!」
「DIO様以外のッ!参加者は皆殺しッ!そしてッ!貴様らジョースター一族は特にッ!嬲ってやるッ!
嬲り殺してやるッ!DIO様を不安にさせたッ!!その報いをさせて殺すッ!!!俺が殺す!!!!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「……………………………………!!!」
信じられない事だが、このヴァニラ・アイスの基準は全て『DIO』という男にあるらしい。
ジョニィがジョースター家の人間という理由だけでヴァニラはここまで感情を露わにしてブチ切れているのだ。
ジョニィは確かにジョースター家の末裔だがDIOなどという男には会った事も無い。いわば『無関係』なのだ。
(尤も、別の世界線の存在であるDio…『
ディエゴ・ブランドー』とは何度も死闘を繰り広げた宿敵ではあるが)
ヴァニラ・アイスは完全に理性を失い、ひたすら何度も、何度も何度も何度もジョニィの全身を蹴り上げ、踏み潰した。
(こ………この男……!まともじゃあないッ!!異常だ……!こいつの精神こそ、暗黒空間だ……ッ!
僕の一族…ジョースター家が何だって言うんだ!何か恨みでも持っているって言うのか!
しかも、コイツ…さっきからディオ…Dio様だって……ッ!?ディエゴの事かッ!?アイツにこんな部下が…!?
いや…名簿を確認した時、ディエゴの他にもう一人『DIO』(
ディオ・ブランドー)という名前を見つけた。
そのDIOという男の部下という可能性が高い……ッ!どちらにせよ、ダメだ………殺、される!!)
ジョニィの意識は段々霞んできた。
ヴァニラ・アイスは今やプッツン状態で周りが見えていない。
反撃するならば今なのだ。ほんの少し腕を上げて指先に回転を加えればそれだけで爪弾は発射される。
もしくはここまで温存してきた懐の『鉄球』を奴にぶつけるだけで簡単にダメージは通るだろう。
---だが、今のジョニィにそんな体力は残っていなかった。
攻撃を受け過ぎた。血も流し過ぎた。
既に目は朦朧としており、走馬灯の続きすら脳裏には浮かんでこない。
今度こそ、死ぬ。殺される。
結局、ジョニィはヴァニラ・アイスに掠り傷ひとつ付ける事も無くこのまま嬲り殺される。
しかも、逆恨みのような理由で、だ。
地面を這う事も出来ず、敵に啖呵を切る事も出来ずにあっけなく転げ回って最期に死ぬ。
あまりにも格好悪く、情けなく、ブザマなヒーローの姿だった。
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「蹴り殺してやるッ!このド畜生がァーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
(ジャイロ…最後に君と…話がしたかったな……すまない……………………)
少年が歩き出す物語は、大陸を駆け抜ける長い、長い旅を終えて
---最後に『祈り』を終えた………。
「……旋符『紅葉扇風』!」
「ムッ…!?」
「………!?」
突如ジョニィの耳に凛とした甲高い声が響いた。…これは女性の声だ。
蓮子ではない。ならば誰だ………?
次の瞬間、今にもジョニィを蹴り殺さんとしていたヴァニラの身体を強烈な突風、…いや、『竜巻』が襲った。
「………ッ!!??」
空気を裂く様な鋭い音とつむじ風が隙だらけであったヴァニラ・アイスを包み、皮膚を裂かれながら5メートル後方の壁に叩きつけるッ!
「そこの悪漢!そこまでにしておきなさいッ!さもなければ……」
謎の乱入者が僕の盾になるように敵との間に舞い降り、相手に指を差し向けて堂々とした態度で名乗りを上げる。
僕の眼前に映ったのは風になびく綺麗な黒髪と漆黒の翼。
頭にテントみたいな妙な帽子を被せており、フリルのついた短めのスカートと足にはこれまた見た事の無い妙な形をした靴(随分走りにくそうだが)。東洋の文化だろうか…
とにかく僕に分かる事はひとつ…
「これから少々、痛い目にあってもらう事になります!
この清く正しい
射命丸文!目の前で一方的な暴力が行われるのを黙って見てる程、薄情に育っておりませんッ!」
僕の最後の『祈り』は天へと通じたという事だ。
最終更新:2013年12月15日 21:21