第065話 玄人と素人 ◆jKyibSnggE


無言で斧を構える男、魅上をリョウはまず観察した。
構えは素人のそれだが、素人にしては妙に落ち着いている。
「(戦闘経験があるのか? この島に来てからなのか、それ以前からなのか……は、この際問題じゃないか。
 ……とりあえず、武器をなんとかした方がいいな)」
リョウ自身は平気だが、万が一ということもある。
背後にいる春香たちへ危害が及ばないようにするためにも、まずは相手を無力化しなければならない。
ちなみに、リョウに支給されたアイテムはごく普通のカメラだった。
三脚付きで、シャッターを遠隔操作するリモコンもセットになっている。
が、現状では役に立たないので、荷物の中にしまってある。
武器を持っているとは言え、相手が相当のプロでもない限り、リョウは素手でも問題なく対処できる。
その強さを感じ取ったか、魅上も迂闊には攻めてこない。
距離を保ったまま斧を構える魅上と、それに対して静かに立ち尽くすリョウ。
後方でその様子を見た春香には、両者の対決は長引くかに見えた。
  * * *
……勝負はあっさりとついた。
元より、プロであるリョウと、多少鍛えているとは言え素人の魅上とでは勝負にならないのは当然だった。
魅上は斧を叩き落され、腕をキメられていた。
「(おのれ……私は神に選ばれたのだ! その私がこんなところで、こんなところで悪に屈するのか!
 いや、それだけは、それだけは絶対に嫌だ! 悪に屈することだけは……! 悪は削除せねば!
 削除削除削除削除削除削除削除削除……!!)」
「こいつ、何をブツブツ言って……」
「おおおおおおおおおっ!!」
いきなり暴れ始める魅上。
腕をキメられているので、そんなことをすれば激痛が走るはずだが、それでも暴れ続ける。
「(こいつ、本当にただの素人か? 普通なら身動きできないはずだが……)」
リョウとしては、年端も行かぬ少女(千秋)を傷つけた外道な男を許すつもりは毛頭なく、適当に痛めつけてから、
相手の知っていることを洗いざらい吐かせようとでも思っていたのだが……
「(これじゃあ俺が何かする必要もないか?)」
――ゴキッ
魅上の肩が鈍い音を立てる。
「(やっぱり外れたか。何を考えてたのか知らないが、これでコイツは痛みで抵抗もできなく……)」
「がああああああ!!」
「おいおい! 冗談だろ!?」
リョウの予想に反し、魅上はさらに抵抗を続ける。
キラへの狂信的な崇拝が彼を動かしていると知らないリョウにとって、魅上の行動は理解しがたかった。
薬でも使ってるのかと思わせるほど魅上の暴れっぷりは凄まじく、リョウが並みの人間ならとっくに腕を振りほどかれていただろう。
だが、そこはプロのスイーパーである。最低限の動きで魅上を押さえ続け、そして。
「仕方ない、眠ってもらうか」
――トン
一撃で魅上は倒れた。
  * * *
春香の支給品である縄ばしごをロープ代わりにして、魅上をグルグル巻きにしたリョウ。
次いで千秋の様子を看ている春香に近寄ると、険しい表情の彼女に訊ねた。
「この娘の様子は?」
「幸い、眼球は潰れてはいません」
「そうか、良かった……」
「だけど、眼の怪我の場合はちゃんとした医療機関で治療を受けなければ危険な場合もありますから、安心するのは……」
怪我の場所が場所だけに、医者に見せたほうが良いということは、もちろんリョウも承知していた。
だから校医である春香に看てもらったのだ。
だが、あいにく手持ちの荷物には治療に使えるようなものがなかったので、千秋の眼から流れた血を丁寧に拭い、
飲料水で濡らした布で両目を覆ってやるくらいしかできなかった。
とりあえずの処置が終わると、二人は今後について相談し始める。
「ここでこの娘の目を治療するのは無理、か……」
「そうですね。せめて目に異物が入ってないかどうかを確認することだけでもできればいいんですけど、
 ここじゃ暗いし、菌が入るかもしれないし。私は医者なのに、こんな時に何もできないなんて……」
「落ち込むのは早い。ほら、これを見てくれ」
リョウは明るくなりかけた空の下で地図を広げると、氷川村を指差した。
「ここから南西の方角に村がある。で、地図によるとここに診療所がある」
「あ……」
「こんな小さな島の診療所じゃあ大した医療道具はないかもしれないし、あっても使えないかもしれない。
 それでも、何もしないよりはマシだろ?」
「そうですね、彼女をこのまま放っておけないわ。道具があれば、少しは何か治療ができるかもしれないですし」
「よし、じゃあとりあえず診療所に向かうことにするとして、だ。問題は……」
と、気絶したままの魅上を見るリョウだったが、その魅上はまだ起きる様子はない。
リョウは近くに落ちていた魅上の斧と荷物を拾うと、デイパックの中を確かめる。
「他には武器らしいものは持ってないな」
「この人、このままにして行っちゃっていいんでしょうか?」
「そうだな……」
リョウとしてはこんな危険人物をこのまま放置したくはなかった。
かと言って、この場で始末するというのも、春香の前ではためらわれた。
また、魅上を目覚めさせて知ってることを吐かせるのは簡単だが、それには相手を多少痛めつける必要があるだろう。
これまた春香の前では躊躇してしまう。
「俺がここに残ってこいつを見張り、春香くんが彼女を連れて行くってのも危ないな」
「……どうしましょう」
少し考えて。
とりあえず魅上はこのまま木にでも縛り付けておき、ひとまず二人で千秋を診療所へ連れて行くことにした。
そして、それなりの実力がある信頼できる人物と合流できた場合は、その人物に春香らを任せ、リョウが魅上の様子を見に戻る。
もっともそんな可能性は低いと思うので、無理だった場合は魅上のことはしばらく放っておくしかない。
現状では魅上を連れて行くわけにもいかないし、他に方法も思いつかなかった。
「じゃあ行きましょう」
「……あぁ」
リョウは千秋を背負い歩き始めるが、魅上のことが気がかりなのか、二三度振り返る。
が、やがて諦めたようにその場を後にする。
リョウと春香と千秋が去った後には、気絶して木に縛り付けられた魅上だけが残されていた。



【H-09/平野/一日目・午前5時ごろ】
【男子13番 冴羽リョウ@CITY HUNTER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 魅上の支給品 斧 カメラ(三脚、リモコン付き。メーカーなどの詳細は不明)
[思考]:1.千秋を連れて診療所(I-07)に行く
    2. 可能なら魅上の様子を見に戻る
    3.春香を守るが、あわよくば春香ともっこり
    4.香、冴子、海坊主を探す
【女子15番 山ノ上春香 @BOY】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:1.千秋を連れて診療所に行き、目の怪我を診る
    2.日々野や一条を探す
    3.リョウについて行く
【女子08番 七瀬千秋@ろくでなしBLUES】
状態:眼球に損傷(破裂はしてないが、失明の危険はある)、気絶
装備:なし
道具:支給品一式 弾丸詰め合わせ(※数や種類は不明)
思考:1.太尊との合流

【H-09/平野/一日目・午前5時ごろ】
【男子35番 魅上照@DEATH NOTE】
状態:右腕脱臼(間接にダメージ) 気絶 【縄ばしご】で木に縛り付けられてる
装備:なし
道具:なし
思考:1.キラを崇拝
   2.冴羽への裁き(殺害)
   3.全参加者への裁き(殺害)
   4.主催者への裁き(殺害)


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最終更新:2008年02月28日 01:06