第063話 続・がんばれ高菜 ◆SzP3LHozsw
空がようやく白みを帯びてきた。
木深い山裾で高菜が支給された腕時計に眼をやると、時刻は午前五時十二分だった。
どこかの梢で二、三羽の雀がかまびすしく囀っている。
「ピヨちゃん達、全然見つからないでござるねえ……」
高菜の横でハマーがくたびれた声をあげた。
ハマーは相も変わらず泥だらけの暑苦しいダウンを着込んだままだ。
しかし疲れているのは高菜も同様で、高菜は返事をするのも億劫そうに黙々と歩き続けている。
一刻も早く鷹野神社から離れたいというのが高菜の考えだった。
神社をあんな風に壊した人間がいるかもしれないと思うと、その場に長く居続けることができなかったのである。
それにはハマーの相手などしてはいられない。黙って足を前に動かさなければならなかった。
「ピヨちゃん達、全然見つからないでござるねえ……」
ハマーは黙殺されてるのが気に入らないらしく、同じ言葉を繰り返してはちらちらと高菜の横顔を窺っている。
その熱い視線を高菜も肌で感じてはいたが、意識せず気にしないようにしていた。
むしろハマーの存在そのものをも忘れてしまいたいと高菜は願っていた。
殺し合いに巻き込まれたことよりも、支給された武器が役立たずだったことよりも、
更にはいつまで経ってもアイドルになれない境遇にあることよりも、何より今こうしてハマーと二人きりで居ることが最大の不幸だと
ひしひしと感じている。
もし仮に一朝事あるとき、ハマーが使いものにならないだろうことはついさっき確認したばかりなのだ。
手裏剣もまともに投げられない忍者など、何の役にも立たないではないか。
高菜はこんな男に期待を掛けても仕方がない、自分の力でなんとかしていかなければならないと、強く思うのだった。
「ピヨちゃん達、全然見つからないでござるねえ……」
ハマーの声があからさまに大きくなってきた。自然、高菜を見るのも露骨になってきている。
だがそれでも高菜はだんまりを決め込んでいた。ここで甘い顔を見せればハマーがつけあがるのは火を見るより明らかなのだ。
そしてつけあがったハマーほど癇に障るものもなかった。
ここは我慢が肝要なのである。
しかし……。
「ピヨちゃん達、全然見つか――」
「ああ、もう、五月蝿い!」
四度目にしてついに高菜がキレた。
手にしていたハーモニックパイプが鋭くしなる。
「テメエいい加減にしろ、ウゼエんだよフナムシ! 何度も何度も同じこと繰り返しやがって……。一回言えばわかるに決まってるだろ!
なに、返事してもらいたいわけ? ああそうだね、ピヨちゃんもジャガーさんも見つかりませんね、居ませんね。
はいはいこれで満足ですか? これで納得しましたか!?」
「……いや、あの……はい、満足しました……(ガビガビーン!)」
「じゃあちょっと黙ってろ!? こっちはもうテメエのせいでクタクタなんだよ!」
普段以上の剣幕を見せる高菜の迫力に、ハマーはもう口許をわななかせていた。
小動物の仕草でガタガタと震えながら、しかしその一方で叩かれるのを待ってるかのように、好奇と屈辱に耐えている。
それがわかるだけに高菜の腹立ちは増すのだった。
「ムカツク!」
びちーん、びちりと、ハーモニックパイプが容赦なくハマーを打つ。
「大体、誰かに喋り声を聞かれでもしたら大変だろうが!」
「ちょ……待っ……痛い! 痛いでござるよ高菜殿! 確かにそれもそうでござるが……痛い!」
「黙れ、駄目人間!」
「だ、駄目に……。ちょっとちょっと、なにもそこまで言うことないんじゃない? 酷いよ高菜殿!
これでも拙者だってね、拙者だって一所懸め……痛いッ!」
高菜はハーモニックパイプを振り続ける。
振るたびに空気がパイプの中を通り抜けて、力のぬける音を奏でた。
次第に虚しさが高菜の中を込み上げてくる。こんなところに連れて来られてまで一体何をしてるのだと悲しくなった。
「って、あれ? た、高菜殿……?」
「だから黙れって言ってんだろうが、ブタぁ!」
「アイタッ! ち、違うって! 後ろ、高菜殿、後ろだYO!」
「後ろ? ……そう、今度は私の人生後ろ向きだって言いたいのね?
ああそうですとも。どうせ私なんてこんな性格だし、人生お先真っ暗だし、身分不相応にアイドル目指すなんて言っちゃってさ、
ワケのわからないエセ忍者と一緒になって胡散臭いプロダクションのふえ科に入部までしてますよ。
こんな私がアイドルなんておこがましいとペラペーラペラペーラ」
「……いや、拙者は何もそこまで言ってないでござるが……。
そうじゃなくってね高菜殿、後ろでござるよ、う・し・ろ。あっははは、もう手遅れでござるな」
「手遅れって……」
ハマーがあまりにしつこく言うので、高菜は渋々といった様子で振り返った。
杉の樹立の隙間から、真っ白な光の帯が幾筋も射し入っている。
逆光になっていてしかとは判別はできなかったが、背の高い樹の横に誰かが居るようだった。
高菜が額に庇を作って眼を凝らすと、それはフーセンガムを膨らませた長身の少年だということがわかった。
向こうも高菜たちの存在に気付いてるようで、じっと二人に視線を据えて動かそうとしなかった。
高菜が驚いていると、ハマーが横で「ね?」と言った。
「大丈夫だよ高菜殿、拙者がついてるからさ! 拙者に任せておけば万事オーケイでござるYO」
「だからそれが心配なんだろ!」
「ごへぁーっ!」
またハーモニックパイプから奇妙な音が流れた。
梢に止まっていた雀たちが、一斉に慌しく飛び去って行った。
【F-05/神塚山麓付近/1日目・午前5時30分ごろ】
【女子5番
白川高菜@ピューと吹く!ジャガー】
状態:健康、精神的に疲労大、ヒステリー状態
装備:ハーモニック・パイプ@ピューと吹く!ジャガー
道具:支給品一式
思考:1.ハマーうざい
2.ジャガー、ピヨ彦、またはまともな人と会いたい
3.殺し合いから脱出したい
【男子27番
浜渡浩満@ピューと吹く!ジャガー】
状態:全身に無数の蚯蚓腫れ、自信満々
装備:ヨーメラン(手裏剣)×9@ピューと吹く!ジャガー
道具:支給品一式
思考:1.敵が来たら忍術で高菜を守る
【F-05/塚山麓付近/1日目・午前5時30分ごろ】
【男子39番
御柳芭唐@Mr.FULLSWING】
状態:冷静
装備:アイスピック
道具:支給品一式×2(うち一つは美鈴のもの、美鈴の
ランダムアイテムは未確認)
思考:1.実力を見せつけるためにも優勝を目指す
最終更新:2008年02月28日 22:54