第051話 一種の余興 ◆7NffU3G94s


「へー、面白いじゃねーか」
遠めから見ていたため実際どのような事が具体的に起きていたかまでは伝わらなかった、それでも予想以上に残虐な舞台に御柳芭唐は一人ほくそ笑む。
普通このような場にいきなり放り出されて、脅されたとしても……簡単に引き金を引くような人間がおいそれといるなんて、芭唐は到底思えないでいた。
ただ、鳴り響いた銃声がつきつけるのはそんな予想外の現実であり。
実際に起こったそれを目にした今、芭唐も考えを改めなければいけなかった。
バトルロワイアルが言い渡された際、芭唐の中では宿敵である犬飼冥に一泡吹かせてやることが出来るという期待する感情すら込みあがっていた。
しかし現実問題、肝心の冥はこの殺し合いに参加しておらず。
矛先を定められないまま先走っただけの感情は行き場を失くし、芭唐の中でも燻る形で消滅しようとしていた。
そんな、やさぐれにも似た思いを芭唐が抱いていた時だった。
一つの凶行、そう……タイミングの悪さが生んだ悲劇、蛭魔妖一達が起こした一連のでき事を芭唐が目にしたのは。
消え欠けた感情という名の炎が再び勢いを取り戻す、芭唐は一笑した後ポケットの中からいつも口にするフーセンガムを取り出しそれを味わった。
何も変わらない、いつも通りのテンションを保つために。
「バットがコレに変わっただけだしなー。ま、いっちょ揉んでやんよ」
蛭魔達に背を向け歩き出す芭唐、あの手の連中は野放しにしておいて参加者を減らすのに貢献してくれれば問題ないとの判断の上だ。
そう、この瞬間芭唐自身の方針も取り決められたことになる。
『優勝』、他者を実力でねじ伏せる行為に対し快感を抱く芭唐には持って来いの道程だった。
芭唐が見た所、この場に集められたのは一般人以外の何物でもないメンバーであった。それも、そのほとんどが同世代。
見た目のごつい明らかに喧嘩慣れしたようなメンバーばかりであったら、さすがの芭唐ももう少し危機感を感じていたであろう。
しかし実際はこれである、芭唐は他の参加者の存在自体を舐めてかかっていた。
その上で今自分が生き残るためにどうすればいいか、すぐに考えることが出来るほど冷静になっていた。
いや、それは芭唐自身の心が元から冷めていたという事実も関係しているかもしれない、とにかく現時点で彼の覚悟は充分固まってしまったことになる。
先ほどから手にしたままの、自身の支給品であるアイスピックを改めて見つめる芭唐。
月の光に反射してきらきらと輝くそれは、まるで芭唐のスタートを祝うかのごとく華やかに彼の視界を彩った。
どこにでもあるこの普通のアイスピックがどのような手ごたえを生み出すか、芭唐は想像するだけで心が踊りだしそうになるくらいテンションが高くなるのを感じた。
その中で芭唐がそれを試してみたいという欲望に駆られるのも、ごく自然の流れである。
そして、それを試すチャンスというのが……実は、もう大分前から築き上げられていた。
「で、さっきから何なんだてめぇは。まさか気づかれてないとは、思ってねーよな?」
ガサリ。芭唐が言葉を漏らしたと同時に、側面の茂みが音を立てる。
気配だけは早くに察知していた芭唐が、いつまで経っても攻撃を仕掛けてこようともしなければ助けを求める声すらあげない不気味な存在に対し言い放ったそれ。
間違いなく伝わったであろう身を隠す行為の意味のなさを実感させるために、追い討ちをかけるかの如く芭唐は言葉をそのまま続けた。
「三秒以内に出て来い、でないとこっちから出向くぞ」
「……正気? こんな状況でそんなこと言うと敵ばかり作ることになるわよ」
ドスを聞かせた芭唐の声に返ってきたのは、思いがけない気丈さに溢れたものだった。
さすがにこの返しは想像していなかったのだろう、芭唐が目を丸くしているうちに少女は茂みから躍り出る。
セーラー服、どこにでもあるそれに身を包んだ少女は、アイスピックを手にする芭唐を見ても顔色を変えずに仁王立った。
「あなた、まさか殺し合いに乗ろうとしてるんじゃないでしょうね。無謀なこと考えるのは止めなさいよ」
恐れがない訳ではないだろう、しかし外村美鈴が普段通りの毅然とした態度を崩そうとする気配はない。
芭唐がぽかんとしているうちに、言いたいことを全て告げようとするかの如く美鈴はひたすらしゃべり続けた。
「馬鹿じゃないの? 護衛のためかもしれないけど、ソレ持ってるだけで大抵の人間はあなたに信用なんておかないでしょうね。
 ……銃みたいな音がしたかと思えば、あなたみたいな人までいるし。どうかしてるわ、馬鹿ばっかよ……って、何がおかしいのよ?!」
毒ずく美鈴の様子に、思わず芭唐は笑みを零す。
「馬鹿馬鹿言うけどよー、ならお前は何なんだ。コソコソしてかっこわり~」
「な……っ! 緊張感の欠片もないのね、あたしはあなたを警戒してるのよ? それくらい察しなさいよ」
現れたのがこのようなしっかりとした少女、しかも端麗にも程がある容姿に表情には出さないが芭唐の胸は高鳴り続けた。
少しキツめの目元が印象的だった、それこそ思わず芭唐が見とれるほどに。
「ちょっと、聞いてるの?」
怒鳴りながらもツカツカと近づいてくるその姿、視線を落とすと引き締まった太ももが芭唐の目に入る。
やはり、綺麗だった。
まるでスレンダーな体型を象徴しているかのようなラインに芭唐も目を奪われる。
――手にかけることになる第一の獲物がこのような上等のものになるとはと、芭唐の期待は否が応でも膨れ上がった。
限界まで膨れ上がっていたそれが破裂したと同時に、芭唐は即行動に出る。
そこには警戒していると言った矢先、こうして安易に近づいてきた美鈴に自身の迂闊さを呪う暇さえも与えることはなかった。
「ハンッ、うっぜーの。馬鹿はお前だろーが」
「な、何よ……むぐっ?!」
言葉は途中で断ち切らされた、野球で鍛えたフットワークで一気に距離を詰めた芭唐は美鈴の口を手で塞ぐと共にそのまま彼女を押し倒した。
突然のことに目を白黒させる美鈴の様子があまりにも滑稽で、芭唐はまた楽しそうに笑い出す。
「ま、安心していいぜ。あんまり一人に対して時間をかける気もないし、すぐにあっち行かせてやんよ」
言葉と共に振り降ろされた芭唐のアイスピック、それは美鈴の気の強さが表れていた美しい瞳を狙う。
容赦も糞もない。
今もまだ、美鈴の脳裏には疑問符ばかりが浮かんでいるだろう。
それでも構うことなどしない。
美しい顔を自身の手で破壊する行為は、想像以上に芭唐を楽しませた。
そして、芭唐は再認識する。
力を行使し他者を圧倒させる快楽の存在を、それでのし上がることの出来る舞台がこの「バトルロワイアル」なんだということを。

「~♪」
罪悪感の欠片も抱くことなく、芭唐はまた次の獲物を探しに行く。
その手には支給品として配られた鞄が二つ、うち一つの持ち主は既に芭唐によって息の根を止められている。
美鈴であったそれを放置したまま歩き出す芭唐が、遠ざかる彼女に対し振り返るような行為を取ることはなかった。
彼の中にあった美鈴への興味は既に掻き消えてしまったのだろう、芭唐は次に見つけた参加者をどう打ちのめすか、それだけを考えながら足を動かした。
相手が誰であろうと微塵も気にしない冷酷な精神と度胸が発揮される芭唐の道、それは間違いなく蛭魔妖一という引き金により形成されたものだった。
【G-04南部/1日目・午前2時30分頃】
【男子39番 御柳芭唐@Mr.FULLSWING】
状態:冷静、獲物を見つけるべく移動開始
装備:アイスピック
道具:支給品一式×2(うち一つは美鈴のもの、美鈴のランダムアイテムは未確認)
思考:1.実力を見せつけるためにも優勝を目指す
※蛭魔妖一をマーダーと判断

【女子6番 外村美鈴@いちご100% 死亡確認】
【残り52人】



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初登場 御柳芭唐 続・がんばれ高菜
初登場 外村美鈴 死亡

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最終更新:2008年02月13日 19:43