第020話 司令塔 ◆jKyibSnggE
「安西先生……一体どうしちまったんだ…」
安西の教え子の1人である
宮城リョータは、安西を知る他の面々と同様、その変貌がすぐには信じられずにいた。
「何が目的で、俺たちにこんなことさせるんだよ」
それでも、目の前で赤木の死体を見せつけられてしまっては、受け入れざるをえなかった。
「くそ…殺し合いか…ケンカならまだしも、マジで殺し合うなんて…」
リョータは夜道を歩きながら名簿に目を通す。
桜木花道、
三井寿、
流川楓…親しいメンバーが多数。
さらに、赤木の妹である晴子の名前までもが記されていた。
「…アヤちゃんがいないのが唯一の救いかと思ってたけどよ…素直に喜べねぇよ。
なんでハルコちゃんが…実の兄の死を見せつけられて、しかもこんな殺し合いに参加だなんて…」
それでもリョータは、冷静に自分にできることを考えようとした。
自分はチームの要のPGだ。焦ってはいけない。
赤木がいない今、自分が司令塔として冷静に状況を見極めなければならないのだ。
まず、支給されたのは首輪探知機。
約半径250メートル以内の首輪の位置が表示される。
つまり、エリアの中心に立てば、エリア内の首輪の位置がほぼ判るということだ。
これを使えば、相手に気づかれないようにしながら効率よく人を探せるだろう。
そして、目覚めた時に居た診療所からくすねてきた、痛み止め(飲み薬)と傷薬(軟膏)が少し。
「戦闘向きじゃないが…探知機で相手の場所が分かるのは有利か」
こんな殺し合いからはどうにかして逃げ出そうとする奴が必ずいるはずだ。
そういう奴を探知機で見つけて、さらに殺し合いに乗ってない奴も集めて大勢で逃げ出す。
そして安西先生の真意を確かめる。
そのためには探知機は大いに役に立つはずだ。
だが問題はその途中…探知機で見つけた相手をどう見極めるのか。
知り合いならば当然合流するが、そうでなかった場合は?
明らかにヤバそうな奴はスルーするとしても、ハルコちゃんのような少女だったら?
「…」
興奮しているためか、上手く考えがまとまらない。
「……ちっ…俺は神奈川No.1のガードだろ。もっと冷静になれ!」
頭をブンブンと振って気持ちを切り替えようとした時…
――…ォオン!
遠雷のように響いた何かの音。
「…なんだ?」
リョータが耳を澄ましていると、それは再び、そして三度、周囲に響き渡った。
「……じゅ、銃声…か?」
慌てて探知機に目を落とすと、北西の端に首輪の反応があった。
よく分からないが、二つ重なっているようにも見える。
「…誰かが始めちまったってことかよ!」
リョータが走りながら探知機のチェックをしていると、ひとつの反応がもうひとつの反応から離れて行く。
もうひとつの反応の方は…動かない。
…そこは池だった。(後で地図でチェックしたところ、『源五郎池』という池だと判った)
池の側にひとりの男が倒れている。
リョータは急いでその男に駆け寄って抱き起こすが、男は動かない。
「おい!しっかりしろ!おい!」
抱き起こした腕にべっとりと血がつく。
素人目に見ても、既に男が事切れていることは明白だった。
「くそっ…!」
探知機の反応を見ると、男を殺害したと思われる人物の反応は、森の中を離れて行っている。
追いかけるのは簡単だろうが、男の傷を見るに、相手は銃を持っているようだ。
武器らしい武器を持っていないリョータが追いかけて行っても何もできないだろう。
リョータは殺人者の追跡をあきらめると、男の遺体をゆっくりと地面に降ろした。
「…すまねぇな、アンタの仇を取れなくてよ。それに穴を掘るモンがないから埋葬してやることもできない」
それでもせめてこのくらいはと、リョータは周囲の草をむしって男の身体の上に被せて遺体を隠してやると、
しばらく男の遺体に手を合わせて冥福を祈った。
「…薄情なようだがよ、俺はもう行かなきゃならない。アンタみたいな犠牲者をこれ以上増やさないためにも、
俺は人を集めて、この殺し合いから脱出しなきゃならないんでな。しかも、始まったばかりなのにもう犠牲者が
いるってことは、こっちもかなり急がなきゃならねぇってことだ。悪いな、名も知らない誰かさんよ…じゃあな」
リョータは最後に一度だけ男の遺体の方を振り返ると、すぐにその場を走り去った。
【H-06/源五郎池/1日目・午前2時半ごろ】
【男子38番 宮城リョータ@SLAM DUNK】
状態:健康
装備:首輪探知機
道具:支給品一式 傷薬(軟膏)と痛み止め(飲み薬)共に数回分ずつ
思考:1.探知機を使ってゲームに乗ってない人物(主に知り合い)を集める
2.ゲームから脱出したい
備考:
安仁屋恵壹の死体は草で隠しました
※首輪探知機…約半径250メートル以内にある首輪の位置を探知できる
最終更新:2008年02月13日 13:25