第029話 キャプテン ◆4.5.3SZtq2


「俺って、なんでこんな所にいるんだよ。甲子園目指してたんじゃなかったのかよ」
 御子柴は涙を流して、自分の状況を嘆いている。
「先生が、俺たちを見捨てるわけない。そう思ってたのにさ、なんだよこの仕打ちは」
 涙する御子柴の手には拳銃が握られている。9mm拳銃、海上自衛隊の幹部が用いる拳銃だ。
整備がきちんとされていた場合、素人でも10数メートル先の標的に命中させる事が出来る中々優れた銃である。
そして、この銃はご丁寧に整備が済んでおり10発の弾が装弾されている。
 御子柴は知らない事だが、Lの推理では海上自衛隊がこの事件に関与している可能性があるとの事である。
 むろん、可能性の域は出ないが素人では入手も整備も難しい銃をきちんと整備して弾薬までも用意するとなると、
Lの推理が的中していたのではないかと思われてくる。
 そんな銃を片手に、御子柴は思い出す。
 ニコガクで練習していた日々を。

「みんな元気にしてるかなぁ。おれさぁ殺し合いに巻き込まれちゃったよ。ゴメン、甲子園目指せなくなった」
 思い出の日々から、掛け声が聞こえてくる。
『ゴー、ニコガク。ゴー!』
「この掛け声を、甲子園で叫びたかったな」

 ふぅ、っと溜息をつく。
「この銃、本物だよな」
 そう呟きながら、御子柴は銃口をこめかみに押し付ける。

「バイバイ、ニコガクの皆。 バイバイ、川藤先生……」
 御子柴はそのまま拳銃の引き金を引こうとした。けれど、御子柴の指に突然軽い抵抗が感じられ、そこで御子柴は止まってしまう。
 9mm拳銃はダブルアクションが基本である。一回引き金を引くと途中に強い抵抗を感じる場所がある。
 御子柴の指は、その抵抗を感じる場所で止まっている。
 そして、そこから少しでも力を入れると自殺が成立する。
「死ぬのか、俺?」

 手渡された拳銃。放り投げられた殺し合いの空間。
 拳銃の持つ意味は明らかである、『殺せ』と。そう言われているのだ、恩師の川藤から。
「できるわけねーじゃん」
 当たり前だ、気の弱い御子柴に殺し合いなどできる訳ない。
 でも、だからと言って自殺する事も……

 どうしたらいいんだ?

 殺し合いか、自殺か。その二択しかないという状況に置かれてしまった御子柴。
結論など出せるはずもない、彼はどちらも選択できる性格ではないのだ。
「なんで、先生こんなことすんだよ」
 涙を流しながら、現況を嘆く御子柴。死ぬべきなのか、殺すべきなのか。正解はどっちなんだ。
 そんな事を考えてみて、ふと思う。何か重要な事を忘れてないか?
 御子柴は唐突に何かを思い出し、リュックの中から名簿を取り出す。
 そこには、ニコガクメンバーの名前が数人記載されていた。
「安仁屋、新庄、平塚、なんでだよ。ニコガクのメンバーこんなにいんじゃん。
それにマネージャーの塔子ちゃんまで、どうして俺、こんな事に今頃気づくんだよ」

 ニコガクメンバー、総勢15名。そのうち、記載されているのは4名。
「なんで、気づかなかった。キャプテンじゃん俺」
 予選での目黒川戦。ネクストサークルに入ってからトイレに行ってしまった自分。
 あの日の過ちで、キャプテンとしての覚悟が足りない事に気づかされた。
「なんだよ、俺変わってねーじゃん」

 拳銃を見たときに自殺、殺し合い? ちげーだろ。
 キャプテンとして、何をなすべきかを考えるべきだろ。
 自殺も、殺し合いもキャプテンとして相応しい行為ではない。
「俺がやるべき事……」
 きっと、川藤はそれを考えろと言っているのだ。一体正解は何だ?考えろ。

 御子柴が手に握るのは、9mm拳銃。
 海上自衛隊の三等海尉以上が持つ拳銃。そして、自衛隊の理念は
 専守防衛。


【F-06/神塚山頂上付近/1日目・午前1時頃】
【男子36番 御子柴徹@ルーキーズ】
状態:健康
装備:9mm拳銃(10/10発)
道具:支給品一式
    (予備弾の支給: 無し)
思考:1.キャプテンとして相応しい行動を考える。
    2.自殺はしない。

投下順
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初登場 御子柴徹 俺達にできること

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最終更新:2008年02月11日 14:29