kairakunoza @ ウィキ

負け女?

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匿名ユーザー

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「はぁ……」
 4ミリ強化ガラスを通して見える天気は、あまり良いとは言えなかった。
 指紋やほこりでうすく曇った窓、広く厚い雲でおおわれ曇った空。
 今日は金曜日。だけど奇数週なので明日も授業がある。
「はぁ…………」
 さっきよりも長く大きなため息を一つ。
 教室内は寒い。そして徹夜でネトゲをしていた私は眠い。気分も重い。
 いっそこのまま、男子みたいに机に突っ伏して寝ちゃおうかな。

 ……。
 …………。
 ………………。
 教室がいつもより騒がしい。
 そういえば先生がまだ来てないんだ。
 黒井先生、昨日はログインしてなかったはずだから早めに寝たのかと思ってたのに。

「みんな、席に、つけ」
 カラカラという引き戸の音とともに、先生が入って来た。
 あ、黒井せんせ――――え!?
 さながらベタやトーンの貼り忘れのように真っ白に燃え尽きていた。
 何ですかその顔は……あやつり人形だってもうちょっと生きた顔してますよ。
「今日は、連絡すること、なし。ホームルーム終了。学級委員」
「え、あ、起立!」
 みゆきさんも動揺してるみたいで、声が裏返ってる。
 クラスのざわめきは静まるどころか、倍率どん、更に倍。
 そんな喧騒が聞こえないかのように、先生は正中線をずらさずにススッとドアに向っていく。
「せ、先生。ちょっといいですか」
 このまま行かせると色々と問題だ。
 特に、曲がり角とかでこんな様子の先生にいきなり会ったら、誰だって腰を抜かすね。
「……なんや泉。一限は世界史ちゃうで」
 カクカクした動作で振り返り、ボソボソっとした声で返答された。
「いや、授業の話じゃなくてですね……どうしちゃったんですか」
 スイッチを踏んでしまったようで、瞬間、先生を操っていた首の糸が切れた。
 驚いて一歩退く。ヒジョーに心臓に悪い。
「昨日な、ウチ、北海道まで行ってきたんや」
「ああ、例の日ハムロッテ戦……残念でしたね」

「成瀬がボコボコにされてな、ダルビッシュがスパスパッと投げてな――」
「陸路と空路を使って数時間もかけてな、自宅に戻って枕を濡らしてな――」
「飛行機で隣に座った家族が日ハムファンでな、子供が嬉しそうな顔しとる横で不貞寝してな――」
「電車の中でもな、知らんリーマンの兄ちゃんにな、『どうしたんですか、大丈夫ですか』って訊かれてな――」
「ウチが試合なんか見に行ったばっかりに――」
「――そんで、睡眠不足のバッテリー切れや」

 すべてを話し終えた黒井先生の口からは、エクトプラズムが飛んでいった。
「ちょ、まだ死ぬのは早いですって!」
 クタッとした姿は、水をあげ損ねたひまわりのようだった。
「気を確かに、しっかりしてください!」
「……せやな。ウチがしっかりせえへんと、カワイイ生徒まで伝染して萎びてまう」
「そうですよ。ファイト!」
「ふぁい、と……? ファイターズ……日ハム……」
 しまった、『ファイト』は禁句だった。
 ああ、先生また萎びてる……。
「……保健室で一眠りするわ。ちょうど一限は授業あらへんし、エネルギーをチャージしとかんと授業できひん」
「私もそれがいいかと。でも、寝過ごさないでくださいね。二限はこのクラスですか――」
 ――ら、と言い終わる前に先生は行ってしまった。
 ……これは重症かもしれない。













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