kairakunoza @ ウィキ

タバコと幸せのキス

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匿名ユーザー

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「なぁ~、ふゆき~。結婚してくれー」

……これで、このセリフを聞くのも今日で五度目。
本当に、ひかるは男性にこのセリフを言うつもりはないのだろうか。
ひかるは、きっと私がそのセリフを聞くたびに胸を大きく高鳴らせて、それを必死に押さえようと
している事に気付いていないのだろう。気付いているなら、そんな残酷な事、出来るはずない。

「桜庭先生、もうその冗談は聞き飽きましたよ。」

嘘だ。聞き飽きてなどいない。本当は、もっと聞きたい。本気ではないと分かっていても、
ひかるの私へのプロポーズなのだ。好きな人からのプロポーズを、聞きたくない人などいるだろうか?

……だが、同時に聞きたくないのも事実だ。けして実現しない夢を抱く事ほど、虚しい事
も無い。叶わない夢なら、最初から見せて欲しくない。期待して……しまうから。冗談だと
分かっていても、もしかしたらと、無駄な期待を。

「本当に、異性にプロポーズするつもりはないんですか?」
「ん~?あるわけないだろそんなの。前も言ったと思うが、私の面倒を見られるのは
ふゆきだけなんだ。だからふゆき~、結婚~。」

頬をぷぅっと膨らませて、更に結婚を迫ってくるひかる。普段はそんな事しないのに、私の
前でだけ時々見せる子供っぽい仕草。それはひかるの子供のような外見と相まって、とても可愛らしかった。
本当に、ひかると結婚出来たらどんなにいいだろうか。だらしないひかるの世話を焼くのが
私にとってどれほど幸せな事か、ひかるは理解してないに違いない。

「……あんまり軽々しい冗談は良くないですよ。もし、私がそれに応じたらどうするつもりなんです?」
淡々と仕事を続けるフリをしながら、ひかるに訊ねてみる。
実際、そうなったらひかるはどうするのか興味があったのだ。

「そんなの決まってるだろ。こっちからプロポーズしたんだ、結婚するよ。ふゆきと。」
「……え?」

意外な反応。ひかるは、「何故そんな分かりきった事を聞くのか分からない」といった顔で
こちらを見つめていた。てっきり、私は「そりゃ困るなー」とか、そういうリアクションを
するものだと思い込んでいたのに。
まさか、ひかるは、本当に……?

「日本じゃまだ無理だから、もうちょいお金貯めて海外に行く事になるけどいいよな?
ちゃんと調べてるんだぞ、同性婚が認められてる国。ベルギーにオランダ、カナダにスペイン、
それにアメリカのマサチューセッツ州に南アフリカ共和国だ。アフリカは流石にちょいパスだけど、
ヨーロッパならふゆきもOKだろ?」
「え、えっと……」
「パートナーシップ法っつって、夫婦に準じる権利を保障する国なら結構あるんだけどな。
どうせならちゃんと結婚したいだろ?」
「ひ、ひかる……。本気なの……?」

「私はいつでも本気だよ。言っとくが、最初のプロポーズから全部本気だったんだからな?」

……一瞬、頭が真っ白になった。ひかるの、普段のやる気の無さそうな顔からは想像も
出来ないような真剣な視線が、私を貫く。
本気?本気、なの……?いや、でも、そんな……

「……それも、冗談、でしょ?」
「だから本気だって言ってるだろう。まぁ、冗談として流されるのには慣れてるけどな。」

タバコに火をつけて、口元に苦笑いを浮かべつつ自嘲気味に呟くひかる。
もしかして、私は、今まで何度も幸せになる最大のチャンスを掴みつつ、それを冗談だと
勝手に諦めて投げ捨てていたのだろうか……?

「……桜庭先生。」
「なんだー?」
「私は、嘘をつく人とは絶対に結婚しません。だから、真剣に聞きます。」
「ん、何でも聞いてこい。」
「さっきのプロポーズ。あれは本当に、本気ですか?私は、あなたと、結婚しても……いいんですか?」
「……どっちの質問も、答えは『当たり前』だ。」
タバコの煙を吐き出しつつ、ひかるは続ける。
「私は、ふゆきと結婚したい。……本気だ。」

その答えに、からかっている響きは微塵も無かった。
だから私も、覚悟を決める。

「だったら、一つ。お願いがあるんですが、いいですか?」
「おう、他ならぬふゆきの頼みだ。何でも聞いてやるぞ?出来る範囲で、だが。」
「…………キス、して下さい。」

あっけにとられた、ひかるの顔。
そのぽかんとした表情を見るのは久しぶりな気がして、何だか笑いがこみ上げてくる。

「してくれたら、結婚してあげてもいいですよ?」
「……マジか?」
「マジです。」

やがて、手元のタバコと私の顔を交互に見比べた後困ったような顔で何かを悩んでいたひかるは、
黙っていても仕方ないと思ったのかその「困りごと」を相談してきた。
「……なあ、ふゆき。」
「どうしました?」
「私、今、タバコ吸ってるんだが。」
「吸ってますね。それがどうかしましたか?」

「……いや。タバコ吸ってたらキスが不味くなるって言わないか?それでふゆきに嫌われたらやだな、って……。」

真剣な顔でそんな事を悩んでいるひかるがおかしくなって、私はとうとう噴き出してしまった。
「ちょっ……笑うなよ!」
「あ、済みません。ふふ……。あんまり下らない事で悩んでるものだから……。」
「下らないって、お前な……」

唇を尖らせて抗議するひかるの不意をついて、私は唇を重ねる。柔らかな心地良い感触が、
唇から伝わってきた。

「その程度の事で、私がひかるを嫌いになるはずないでしょう?」

私の言葉を聞いて一瞬黙った後、それもそうだな、とひかるも笑い出した。
キスの味は少しタバコの味がしたけれど、それでもとっても幸せな味がした。













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  • こなた達も 将来こんなふうに…☆ -- 名無しさん (2011-04-28 18:35:59)
  • いいわ~ -- 名無しさん (2009-07-26 11:22:32)
  • いい!めっちゃ好きです、こういう話!GJ -- 名無しさん (2009-02-23 01:14:03)
  • いいですがちょっと私には甘すぎますね(´ω`) -- 名無しさん (2008-11-09 22:35:00)

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