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Assistant-Turn Over

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だれでも歓迎! 編集
 清々しい朝。
 カーテンの隙間から差し込む太陽の光と、小鳥たちの囀りで目を覚ます。
 雲一つない青空が、靡くカーテンの間から見え隠れした。
 今日はけたたましい自動起床装置が鳴り響く前に、起きることができたみたいだ。
 でも今日から学校だよ……
 休日開けってどうしてこう学校に行きたくなくなるのだろうな。
 そんでもって学校が終わったら収録。
 何のって? らっきー☆ちゃんねるに決まってるだろ。
 そう、短い収録時間なのにやたらと疲れるあれだよ。
 でも最近楽しくなってきてしまっているのだから、慣れって怖いよな。
 っつっても、相手が可愛い女の子じゃなかったら、今頃逃げ出してたかもしれないけど。
 さて、布団の中で脳内妄想繰り広げている場合じゃないか……
 そろそろ起きないと、やつが鳴り響く頃だし。

 目覚まし時計が鳴く前にスイッチを切る。
 今日は俺の勝ちだ。まいったか!!
 空しいな……
 あーもういいや、取り敢えず着替えよう。
 グイッと上半身だけを起こす。
 軽く伸びをすると、背中の骨がポキポキと音をたてた。


 だがそこで、違和感を覚えた。
 パジャマがでかくなった? なんかブカブカなんだけど……
 それでいて胸の辺りがパジャマに押されるような、少し窮屈な感じ。
 なんだろうと、伸びをした姿勢のままで首と視線を下に向けた。

「……は?」
 膨らんでる。
 うん、膨らんでる。
 寝ている間にぬいぐるみでも突っ込んだのか?
 ……はて、この部屋にぬいぐるみなどあっただろうか。
 ひとまず触ってみることにした。

 ふにっ

 わー、やわらかいなぁ。
 いや待て、いま確かに自分と同化しているような感覚が……
 もう一度触ってみる。

 ふにふに

「やわらかい……」
 やわらかい……
 思ったことをそのまま口に出してしまうくらい柔らかかった。
 なんだろうこれは……もう一回

 ふにゅ

「んっ」
 ……あれ?
 なんだ今の声。
 女の人の声が聞こえたような。

 ふにふに

「っあ」
 あれ、自分の口から出てる?
 ってかこのやわらかいの触るとピリピリするんですが……手じゃなくて体全体が。
 不思議だ。なんだろうこれは……今までに感じたことのない感触だ。
 俺は、その胸元をぐいっと引っ張り、中を確認してしまった。



「……はっはっは、なんだ胸が膨らんでぎゃぁあぁああぁあぁぁあぁあああ!!」



 いつもの自分の声よりも明らかに高い声が、部屋中に響いた。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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『Assistant-Turn Over』

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 い、いったいどういうことだ? 状況が掴みきれてないんだけど……
 い、いや落ち着け、落ち着くんだ俺。
 まずは状況を整理してみよう。
 ……昨日の夜までは確かに男のままだった。
 収録が終わって、あきら様にだめだしをされてから帰宅。この上なくだめだしされてから帰宅。
 夕飯を食べて、風呂に入った。それから、あがったあとに次の収録の内容を確認して、学校の準備。
 そして何事もなく就寝……


 ……どこもおかしいところなんてないと思うんだけど?
 宇宙船が墜落してきて巻き込まれて、手違いで性別が反転してしまったわけでもない……
 じゃあどうして?
「い、いや……まだ気のせいかもしれない」
 往生際の悪い俺は『自分の顔を確認するまでは』と、未だに女になってしまったのであろうことを信じていなかった。
 机の上にある折りたたみ式の鏡を手に取る。
 『あんた一応テレビに出るんだから、せめて身だしなみくらい整えときなさいよ?』と言いながらあきら様がくれたものだ。
 恐る恐るそれを開く。
 鏡に映るは女の子。まごうことなき女の子。更に言えば相当可愛い。
 そして残念なことに、その顔は自分のものだった。
 ……うぅ。

「そうか夢か」
 鏡を見ながら頬を力の限り引っ張る……のは流石に痛そうだったので、加減してクイッと摘んだ。
 痛い、この痛みは本物だ。
「いや、まだ分からないぞ」

 いや、言ってみただけだが。

 ……ごめん……語りがギクシャクしてるのは、てんぱってるからなんだ……しばらくの間は許してほしい。

「みのるー、そろそろ起きないと遅刻するわよ?」
「ぶっ!!」
 扉のすぐ向こうで聞きなれた母親の声がした。
 まずい、これは明らかに入ってこようとしている。
 俺は急いで布団に包まった。
「ほら、起きなさいよ」
「ごほっごほっ、ごめん母さん。風邪引いたみたいで体だるいんだよ。今日は学校休む」
 苦し紛れの芝居。
 地が女の子の声なので、無理やり震わせて低くしても、結局は高めになってしまう。
「あら、そうなの? じゃあゆっくり寝てなさいね? 学校には電話しておくから」
 バ……単純でよかった。
 部屋から出て、階段を下りていく音を確認してから、俺は布団から出た。
 両足でしっかりと立ってみると、いつもよりなんだか体が軽い。
 これが女の子なのか……
 手でなぞってみて分かる、女の子の体。
 といっても女の子の体なんて触ったことないけどな。
 ……それにしても。
「綺麗な顔してるなぁ」
 もう一度鏡をみて呟いた。
 ナルシストじゃないよぞ?
 だって自分の顔じゃないし。自分の顔だけど……意味分からないな。
 でもやっぱり、元の自分の顔と比べるとかなり綺麗だ。
 いや、元の顔が汚いって意味じゃないぞ?
 普通くらいかなぁ、とは思ってるし。


「それにしても、どうするかな……これ」
 直る方法とかあるのかな……
 一生このままとかないよな?
 ……考えたらちょっと寒気がし……あれ? 結構楽しいかも。

「ぶるぶるぶるぶる!! 何を考えてるんだ俺は!!」
 馬のように顔を振って、思考を中断。
 取り敢えず着替えることにした。





「……微妙」
 完全に男物のパーカーとジーパン。
 こういうのしかないんだから仕方ないだろ。
「他にもいろいろ着てみたいかも……」
 なんて考えている俺は、結構余裕あるみたいだ。
 というよりも、まだ朧なだけなんだろうな……
 ってかマジどうしよう。
「考えても仕方ないか……取り敢えず出かけよう」
 俺は、財布と携帯を掴み、部屋のドアに『しばらく熟睡するので入らないように』という張り紙をして
 音をたてないように家を出た。





「空が青いな」
 なんとなく呟いてみた。
 こんなにいい天気なのに、俺の気持ちは曇っている。
 外に出てから思ったんだけど、こんな時間に俺くらいの人が出歩ってるのはまずいんじゃないだろうか。
 補導とかもあるけど、知ってるやつと会う可能性があるってのが一番危ない。
 なんのかんの聞かれたらどう答えればいいんだろうか。
「――ってな感じで臭くってさぁ」
「!!」
 いきなりクラスメイトに遭遇かよ!!
 10m先から、クラスメイトの泉とつかさ、その姉のかがみが楽しそうに話しながら歩いてくる。
 やば、どうしよう、隠れるところないぞ!?
 右往左往している間にも、3人はこっちにやってくる。
 そして泉と目が合った。
「っ……」
「……?」
 キョトンとした顔をしながら、泉がお辞儀をした。
 反射的に俺もお辞儀を返した。
 他の2人も行儀よくお辞儀をしてくる。
「えっと……どうも」
「あ、はい、どうも」
「「おはようございます」」
 見事に挨拶が被る柊姉妹。
 流石双子、シンクロ率がすごいな。
 400%くらいか? そんなにないか、あったら溶けちゃうし。
 ってそんなこと考えてる場合じゃないだろ!!
 いつも見ている相手だけに、変な汗が流れる。
「それじゃあ、学校なんで」
「……え? あ、うん、いってらっしゃい」
 結局挨拶をしただけで、3人はバス停に向かって行ってしまった。
 今思ったけど、俺今女の姿してるんだからばれるはずないよな。
 周りの目を気にする必要はないってことか。
 これなら心置きなく調査できるな。
 って言っても、原因なんて皆目検討つかないけど。
 あれだよ、何か行動しなきゃやってらんないでしょ。

「ねぇこなた、あの人知り合い?」
「いや、それなんだけど、なんとな~く会ったことあるような気がするんだけど、全然覚えてないんだよね」
「……本当に失礼なやつだな」
「でもすごく綺麗な人だったね♪」
「そうね」
「そだねー、お姉さまって呼びたくなるね」
「ならねーよ」

 そんな会話が僅かに聞こえてきた。
「……あぅ」
 なんか顔熱い……
 お姉さまって……変な性癖に目覚めそうだ。

 と、とにかく、はやいとこ行動しよう。
 お腹空いたし。

 俺はお腹の中を満たすために、街道へと足を進めた。






「むぅ……」
 困った。いきなり困った。
 今俺は、あるデパートの中にいる。
 朝食を食べてなかったので、近くのパスタ専門店でミートソースを頼んだ。
 子供っぽいとか言うな。
 で、そのあと適当に服を見て回っていたんだ。
 理由は勿論、今の俺の状況から察してもらえるだろう。
 流石に男っ気出しまくりのこの服は、なんかいけない気がしたので
 女物の洋服を探していたわけだ。
 そして必然のようにたどり着いてしまったのが……らんじぇりーショップ。
 つまりその……パンツだとか、ブ、ブラジャーとかだ……
 えぇーいままよ!! と、飛び込んだのだが
 『いらっしゃいませー♪』という女性店員の素敵な笑顔に急に恥ずかしくなり
 僅か1秒で飛び出してきてしまった。

 いや、今困っているのはそういうことじゃないんだ。
 緊張したからか、それともメロンソーダを2杯も飲んだせいなのか分からないが
 まぁ誰にも訪れる生理的な現象が起こったわけ。
 じゃあトイレ行けばいいじゃん、てなことなんだろうけど
 生憎今の俺には、そんな軽く済ませることができる余裕はない。

「……どうやってするんだろ」
 パンツを脱いでみると、やっぱりなくなっていた『あれ』。
 延べ棒、シンボル、勲章が跡形もなく消え去っていた。
 まぁ仕方ないんだけど、今まで女性経験のない俺が、女性のそこの仕組みを知っているわけもなく
 どうやっておしっこすればいいのか分からなかった。
「普通に大するときと同じように、かがめばいいのかな?」
 ん~、悩んでても仕方ないか、取り敢えずしてみよう。
 しゃがんでみる。
「……」
 で?
 あとはどうすればいいんだろう……
 男の時と同じようにしてみればいいのかな。
「んっ」
 股間の筋肉を緩めると、堰を切ったように吹き出る尿。
「うお!? すご、変なとこから出てる!!」
 ……って何興奮してんだ俺は。
 変態か。
 済ませ終わって、トイレットペーパーで拭く。
 服を調えてからトイレを出た。これは一生忘れない初体験になるだろう。
 というかなんだ、このやり遂げた感は。





 結局女物の下着とか服とか買う勇気もなく、そろそろ高校が終わる頃になってしまった。
 俺は、何の手がかりもなく、街中をぶらぶらしていた。

 世界がいつもと違って見えた。
 通行人の目や、視線の高さ。
 話しかけてくる人(ティッシュ配りとかの人)や、足取り。

 男の視線が、なんだか品定めしているように見える。
 女の視線が、なんだかランク付けしているように見える。
 ブラをつけてないせいか、歩くたびに上下に揺れて歩きずらい。

 さっきまではパニくっていたのだろうか、落ち着いてくると
 男の体のときとは違う、今までに経験したことのない感覚に気づき始めた。
 落ち着かないっていうか、こそばゆいっていうか。
 しかも、自分の匂いなんだろうけど、少し動くだけでいい匂いが漂ってくる。
 あきら様といるときにも良く感じる、女の子の匂いだ。
 そういった、何もかも始めての、女の子特有なのだろう感覚のせいで、さっきから俺の心臓は動機が治まらなかった。




「ねぇねぇ、ちょっとそこの君さぁ」
「え?」
 そんな思考を中断するように、後ろから声が聞こえた。
 振り返ってみると、見るからに柄の悪そうな男が3人。
 変なニヤニヤ笑みを浮かべながら、俺の体を撫で回すように見てくる。
 なんか気持ち悪いな。
 そんな気持ちと同時に、今のシチュエーションに疑問を感じた。
 これってもしかして……
「お、遠くから見てて思ってたんだけど、やっぱ君可愛いね」
「格好はまぁ置いといて、かなりいけてんじゃね?」
「だよな!!」
 うわ、ナンパじゃね? ……口調がうつった。
「もしかして今、暇? 俺らも暇してるんだけどさ、一緒に遊ばね?」
「俺らおもしれーとこ知ってんだよね」
「だよな!!」
 そう言いながら、キャップを被ったリーダーみたいなやつが、肩に手を回してきた。
 他の2人もじりじりと近づいてくる。
 これは断った方が良さそうだな……
「俺……えっと、私用事が」
「こんな時間にこの辺1人でぷらぷらしてたってことはさ、遊び相手探してたってことじゃねーの?」
「なんならさ、俺らが服買ってあげよっか? ほら、なんか俺ら紳士じゃね?」
「だよな!!」
 さっきまで肩に回してた手が、いつの間にか腰に移動していた。
 しかも親指で胸を触っている。
 何が紳士だ。
 振りほどきたいのに、この体のせいか力が入らない。
 このままでは流されそうだ。
 まずいな……
「ほら、あっちいこうぜ?」
「みんなで遊んだ方が楽しいって」
「だよな!!」
 そう言いながら、ほぼ無理矢理連れて行かれそうになる俺。
 囲まれているせいで、抜け出せない。
 周りに助けを求めようとしても、皆が皆、俺から視線を反らしている。
 結局皆、自分が一番可愛い。他人の騒動に巻き込まれて、怪我なんかしたくないに決まってる。
 世間の冷たさに、いまさらになって気づかされた。


 ……そしてもう一つ気づいた……3人の中に1人、いらんやつがいる。


「「「!?」」」
 突然のことだ。
 ナンパ男達をグイッと押しのけ俺から離れさせた後、俺の手首を掴んで走り出す、小さな女の子。
 その子は、俺の知っている女の子だった。

「な!? おい待てよ!!」
「待てっていってんだろが!!」
「だよな!!」
 最後何だよ。
 一瞬呆けていた3人は、我にかえると鬼のような形相で追いかけてきた。
 こっちは女であっちは男。
 普通なら追いつかれると思うだろう。
 だけどこの子は、慣れたように人垣を縫うように駆け抜ける。
 時間が時間だけに、結構な人数が犇めきあう街道。
 体の小さなものが有利なのは、一目瞭然だ。
 振り返ると、男たちは米粒くらいになっていた。






「「はぁ、はぁ、はぁ」」
 小さなショップに駆け込んで、ようやく足を止めた俺たち。
 隣のあきら様は、膝に手をついて大きく呼吸している。
「慣れて……るんですね……はぁ」
「まぁ、ね……はぁ……私も結構有名だから、似たようなこと結構あるし……はぁ」
 その姿勢のままこちらを向いて『ニッ』と笑うあきら様は、なんだかすごく可愛く見えた。
「それにしてもあきら様、今日のこの時間は……収録じゃなかったですか?」
「え? 今日は仕事休みだけど……」
 あ、そういえばそうだった……完璧忘れてた。
「ってかあんた誰よ。なんで私のスケジュール知ってんの?」
 誰って、あれだけ一緒に番組やってて何を……
 あ、そっか。
 今俺女なんだ。
「あ、その、あの有名なあきら様なら、毎日仕事で忙しいんじゃないかなぁって」
「ふーん……」
 あわわ、怪しんでる?
「……まぁいいや。あんた名前は?」
「な、名前ですか?」
 どうやら、勘ぐってはいないみたいだ。よかった。
「えっと、白石みのるです……あ゛」
「白石……みのる?」
 し、しまったぁ――――――!!
 あきら様が明らかに(洒落ではない)怪訝な視線を送っている。
 もしかしてばれたか!?
「ん」
「んぇぅ!?」
 あきら様が突然、縦横斜め2倍2倍な感じに頬を引っ張ってきた。
 やっぱばれたのか!?
 少しして手を離すと、ふんっと鼻で息を吐き出した。

「変装だったら、星にしてやろうかと思ったけど……よく考えれば、あれがこうなるはずないか」
「い、痛いですよあきら様ぁ~」
「あーごめんごめん、同姓同名っているもんなのね」
「ふぇ?」
「ん? あーいや、私のアシスタントにさ、白石みのるってのがいるのよ。そいつは男なんだけどね」
 その白石みのるが俺なわけですが……
 まぁ、どうやらばれたわけではないみたいだ。
 ばれてないのなら好都合だ。このまま押し通させてもらおう。
「そ、そうなんですかぁ。すごい偶然ですね」
「でしょ? でもなんかあんた、そのアシスタントに似てるのよね。雰囲気っていうのかな」
「う゛……」
 そりゃあ同一人物ですから……
「まぁそんな話はどうだっていいか……ねぇあんた、その……これから暇?」
「え? それはいったいどういう」
「実はさ、今日友達と遊ぶ予定だったんだけど、みんな用事出来ちゃったみたいでね。それでぷらぷらしてたのよ」
「はぁ」
「そんで、さ、助けたお礼ってわけじゃないんだけど……よかったら……その、今から一緒に遊んだりとか」
 急にもじもじし始めるあきら様。
 目を反らしたり、上目遣いで見上げてきたりを繰り返している。
 はっきり言おう。可愛い。
 ドキドキしてます。
「そ、それはつまり……デートということですか!?」
「……え? 女同士で更に初めて会った同士なのに、デートなわけないでしょ」
「え? あ、あぁ~そうでしたね。あは、あはははは♪」
 危ない危ない、素に戻っちゃったよ。
 ……あれ? だとするとなんで俺なんだろう。
「あの、あきら様? なんでぼ……私なんですか?」
「なんでって、他に誘う人いないし、丁度近くにいるし、悪いやつじゃなさそうだし……それに……」
「それに?」



「……やっぱり、どことなくあいつに似てて……安心できるから……かな」



「……え?」
 一瞬。
 ほんの一瞬だったけど、あきら様の顔が、とても優しいものに変わったように思えた。
 それと同時に感じた胸の高鳴り。
 なんだろう、この……何かに包まれるような感覚は……
「ま、まぁともかく、暇だよね?」
「あ、はい」
「ならいいわよね。私に付き合いなよ」
「は、はい!!」
 取り敢えず俺は、その不思議な感覚を振り払い、目の前の可愛い少女の問いかけ(ほぼ強制)に大きく返事をした。
 静かに手を握ってくる感触。
 この人わざとやってるんじゃないのかな……





 空は赤く染まり、街灯がピカピカと点き始める。
 周りに気を配りながら歩く俺たち2人。
 あきら様は帽子を目深に被り、なんだか有名人みたいだ……いや、有名人なんだけど。
 かく言う俺は、握られた手の感触には慣れてきたものの
 行き交うカップルが妙にイチャイチャしているので、目のやり場に困っている始末だ。
 不意に視界の隅に入った恋人繋ぎに、目が釘付けになってしまった。

「何見てんの?」
「ふぇ!? あ、いや、その……別に……」
「……恋人繋ぎしたいの?」
「ぇえ!? あ、あはは、そそそそんなバナナ♪」
 やっば、かなり噛んだ。
「……なんか可愛いわねあんた」
「あぅあぅ……あ、あきら様の方が可愛いですよ」
 そう誤魔化すつもりで言うと、俯いて何かを考えるような仕草をしている。
 どうかしたのだろうか?
「その呼び方さ、やめてくれない?」
 呼び方? 『あきら様』っていう?
「もしかして、その……不快でしたか?」
「そうじゃなくてさ……なんかあんたみたいな子に言われると、罪悪感みたいなのが……それに……何かに目覚めそうで」
「?」
 なんだかよく分からないけど……呼び方変えろってことだよな?
 かといって苗字で呼んだら不機嫌になるだろうな、あきら様のことだから。
 ん~……あきら、じゃ慣れ慣れしすぎるから……あきらさん?
 なんかしっくりこないな……
 ってことは、あとは一つくらいしかないな。

「じゃあ、あきらちゃんでいいですか?」
「!?」
 なんで赤くなるんだろう……?
「あ、うう、うん。それでいいよ」
「なんで顔赤いんですか?」
 あ、聞いちゃったよ。
「なぁ!? あ、赤くなってなんかないっての!!」
「でも、ほら、そこのショーウィンドウに映ってるあきらちゃんは」
「だぁあー!! うっさいうっさい!! そんなことどうでもいいから、そこの店にとっとと入りなさいよ!!」
 更に真っ赤になって地団駄を踏むあきら様は、俺の背中を押して店の中に駆け込んだ。
 本当、何なんだろう。






 2人で入った店は、俺が普段来ないような店だった。
 それほど広いわけではないけれど、品揃えは豊富。
 だけど、壁一面がピンクだったり、並べられた洋服が煌びやかだったりで、目がシパシパする。
 女性の店員が3人で、ちょっと少ない気がした。
 でもお客さんの方は結構いて、賑わっているみたいだ。
 といっても、全員女のお客さんだけど。
 ……やっぱりなんか気恥ずかしい。
「いらっしゃ~いませ~、ど~ぞ~~ごら~~んくださ~~~い」
 ぽっちゃりした女性の店員が、よくわからんイントネーションで叫んでいるのが聞こえる。
 珍しくて周りを見回していると、不意に袖を引っ張られる感覚。
 見下げると、あきら様が少し考えるような顔で見上げていた。
 やばい、かわいい。
「まずはここで、あんたのこのダサいファッションをなんとかしないとね」
 そう言いながらパーカーの裾をパタパタするあきら様。
 確かにこの服はダサいかもしれないな……でも俺金あんまないから買えないし。
 そんなことを考えていると、あきら様が当然のように言った。
「お金なら私が出すって」
「……ふぇ!?」
「あんたいちいち可愛いわね」
「あきらちゃんの方が可愛いですよ」
「それはもういいっての……取り敢えず、これとこれとこれでいっか」
 あきらちゃ……様は、キョロキョロと周囲を見回しながら、ヒョイヒョイと服を選んでいく。
 すごく適当に見えるんだけど……
「大丈夫大丈夫、私のファッションセンスを信じなさいって」
 俺の念波が届いたのか、あきら様は自信満々な顔でそう言った。
「それじゃあ、はいこれ、着替えてきて」
「あ、はい」
 まぁ四の五の言ってる場合じゃないか。
 取り敢えず俺は、一つ開いていた個室へと入りカーテンを閉めた。






「どう着るんだろうこれ……」
 手渡された3枚のうちの2枚、上半身に着るものと思しきものを両手でそれぞれに持って見比べる。
 長袖のタイプともう一つ……キャミソールっていうんだっけ? よくわからないけど。
 どっちを先に着るんだろうか。
 上着だけ脱いでそんなことを考えていると……
「みのるちゃん? 終わった?」
「うひゃ!?」
「あ、ごめん」
 突然カーテンからあきら様の顔が生えた。
 反射的に胸を隠す。
「女同士なんだからそんな慌てなくてもいいじゃん」
「お、女同士でも恥ずかしいものは恥ずかしいと思いますけど」
「まぁそうだけどね」
 さっきと行ってることが違うんですけど……
 あきら様に背を向けるような姿勢で立っていると
 その背中を見てあきら様が、何かに気づいたような顔をした。

「……ん? みのるちゃんブラは?」
「ブラ? ブラジャーですか? つけてませんけど……」
「つけてない? そんなんで外出したの?」
「えっと……はい」
「……はぁ」
 あきら様は大きく溜息をつくと、首を引っ込めた。
 と思ったらまた突っ込んできた。
「そういえばみのるちゃん、バストサイズ何?」
「……バスト、ですか? えっと……分かりません」
「……みのるちゃんって本当に女?」
 はい、見た目は。中身は男ですけどね。
 とは言えない。
「……ちょっと店員さん呼んでくるから、待ってなさい」
「は、はい」
 そう言ってあきら様は、呆れたような顔をして目を瞑ると、気の抜けたような声でそう言って
 ゆっくりと顔を引っ込めた。


 少しして、店員さんがメジャーを持って現れた。
 アンダーとトップを計るとか言ってたけど、よく分からなかった。
 ただ、擽ったかったのは覚えている。
 どうやら俺のバストサイズは、14.2のCらしい。
 あきら様が、なんか羨ましそうな顔してた気がする。
 ブラジャーをあきら様に選んでもらって
 パンツの方も(男物穿いてることを知ったときは流石に引いていた)同じタイプのものを買った。
 初めての女性下着に戸惑いつつも穿いてみると、やっぱりそのために作られたのだろう、ぴったりだった。ちょっと食い込むけど。
 あきら様に言われたとおりの順番で上を羽織って
 人生初のスカートを穿く。
 なんかスースーするな。
 それから、靴とソックスも新しいものを装着。
 鏡を見ると、なんだか可憐な少女がそこにいた。
 似合ってるなぁ、流石あきら様だ。
 というかパッと見でサイズもぴったり当てるなんて……正直すごい。
「着終わった?」
「はーい」
 おかしいところがないか、もう一度鏡で確認してからカーテンを開いた。


「どうですか? おかしいところとか」
「……」
「?」
 あきら様が口をポカーンと開けて固まっている。
 店員さんはニコニコ満面の笑顔だ。
 なんだ? なんか着間違えたのかな……
「あきらさ……あきらちゃん、どうですかぁ?」
「……え!? あ、あ~、うん。ま、まぁまぁなんじゃないの?」
 しどろもどろになりながら、まるで散らばった単語を並べるようにそう言った。
 よかった、おかしくはないみたいだ。
「ここまでかわいくなるなんて……これは、なんか」
「あきらちゃん?」
「な、なんでもないよ。それより、他の服も着てみない?」
「え、べ、別に私は」
「まぁ、そう遠慮しないで♪」
 そういい残すと、他の服を探しに飛んでいってしまった。
 そしてよく周りを見てみると、店員さんたちが両手に様々な洋服を持ってウズウズしている。
 何事か。

「ほら、みのるちゃん!! これ着てみなさいよ♪」
「お客様、こちらなど今の流行なんです♪」
「お客様? こちらなど、お似合いだと思われますよ♪」
 この状況は、もしかしなくてももしかするんですか?
 なんか皆目が輝いてるよ……
 じりじりと追い詰められていく俺。
 肘がツルッとした何かに触れた。
 振り返ってみるとそれは、さっきまで俺の全身を移していた鏡だった。
 気づけば、個室に追い詰められていた。
 あきら様が後ろ手にカーテンを閉める。
 ……あ~、もういいや、仕方ないから、身を任せることにしよう。
 どうせ、逃げられないんだし……
 流されるのも人生さ……






 1~2時間の着せ替えショーが終わって、やっと俺は解放された。
 そのあとなぜかおまけで服を何着かもらえた。
 『お客様がかわいいので』という、なんかおじさんみたいな理由で。

 ピンをいくつか買ってきたらしいあきら様に連れられ、近くの公園へとやってきた。
 俺の髪がだらしないということで、あきら様が髪を整えてくれるらしい。
 確かに、視線にチラチラ入ってくる前髪がうざかったし、断る理由もないのでお願いすることにした。
 公園は人気があまりなく、ジョギングしているおじさんや
 仕事帰りなのだろうか、奥のベンチでコーヒーを飲んでいるスーツ姿の男性以外見当たらなかった。
「ほらほら、そこ座って」
 公園の入口付近のベンチを指差してそういうあきら様。
 言われたとおり座ってみる。スカート越しに冷たさが伝わってきた。
「……みのるちゃんさ、その座り方だとパンツ見えるわよ」
「あ、そうなんですか?」
 何か言いたそうな顔をしていたけど、大きく息を吐いて言葉を押し込めたみたいだ。
 仕方ないでしょ、スカートなんて初めて穿くんだから。
「はい、動かないでね……今やるから」
 そう言いながら、ベンチの後ろに回り、俺の髪を弄り始めた。
 女の子特有の優しい手つき。
 収録中とかはあんなに乱暴だけど、やっぱりあきら様も女の子なんだなぁ……
「髪、さらさら……何かやってる?」
「いえ、特には」
「何もしてないんだ……羨まし」
 櫛でとかし終わると、少しの間手櫛でスッと髪に指を通していた。
 突っかかるところがないみたいで、本当にさらさらなようだ。
 ふと、あきら様が今度は前に回ってきた。
「前髪弄るわよ」
「あ、はい」
 袋から4本の違う形をしたピンを取り出すあきら様。
 それをキュッと握りながら、前髪を左右に分けた。
 拘りがあるようで、戻しては分けて戻しては分けてを繰り返している。
 ときどきかきあげてみたり、纏めてみたり、横に流してみたりして
 試行錯誤している。
 そこで気づいたことがある。
 顔が近い……
 本当に近い……
 少し顔を前に突き出せば、キスできてしまうくらいの距離にあきら様の顔がある。
 鼻先あたりに当たる息がこそばゆい。

「あ、あの、あきらさ……ちゃん」
「ん? 何?」
「あの、いや、その」
「何よ、早く言いなさいって」
 あきら様はこちらを見ずに、前髪を凝視したまま。
 そのせいか、今の状況に全く気づいていない。
「顔が……近いんですけど」
「顔? ……ふぁ!?」
 やっとそのことに気づいたのか、瞬時に後ろに飛びのくあきら様。
 顔が真っ赤だ。
 だがそれもすぐに治まり、ちょっと短い息を吐いた。
「はぁ……なんで女の子同士でこんなどきどきしなきゃなんないのよ……」
 仕切りなおしというように首を左右に何度か振った後、もう一度前髪を弄る作業に戻った。
 でも、さっきのこともあるので、心なしか顔が遠い。
 そうなると、俺の目線も別の場所にいってしまう。
 胸元。
 この角度からだと必然的に見えてしまう谷間は、幼いながらも女性を模っていて
 微妙に桃色に色づいた鎖骨が、俺の心を静かに波打たせた。
 実際ダイレクトな色気よりも、こういう何気ない仕草からくるものの方が、結構きたりするんだ俺は……
 別におかしいことじゃないでしょ?



「はいOK」
 前髪を整え終わったあきら様が、膝に手を置いて顔全体を眺めている。
 視界から消えた前髪を右手で触ってみた。
 左半分は纏めるように流して、右側はおでこが出るくらいまで前髪を右側に追いやってある。
「え!? あ、ありがとうございます!!」
 ボーッとしていたので返事が遅れてしまった。
「?」
 あ、その体勢のまま首を傾げたりしないで下さい。
 可愛すぎます。
「この髪型が一番似合うかなって思って」
「そう、なんですか?」
 そう言われても、見えないからにはコメントしようがないんですけど。
「ん? ……あ~、ごめんごめん、えっと……はい鏡」
「あ、どうも」
 受け取ったあきら様らしい可愛い手鏡で自分の顔を映す。
 確かに似合ってる……のかな?
「ね?」
「よく……分からないです」
「あぁ~、そういう子だったわねみのるちゃんは」
 なんでもう俺を悟り始めてるんですか。

「……ほらみのるちゃん、ちょっと立ってみてよ」
「あ、はい」
 手鏡を返し、ベンチに両手を突いて、グッと力を入れて立ち上がる。
 そんな様子をあきら様は無言で見詰めていた。
 なんか分からないけど、体が固まる。
「何畏まってるんさ、普通にしてよ」
「す、すいません」
「いや、別に責めてるわけじゃないけど……どれどれ……う~む」
「……?」
 俺の真正面に立ち、顎に手を当てて撫で回すように全身を見てくるあきら様。
 目を細めて胸元を凝視して『やっぱりいいなぁ』なんて言ってるけど、どういう意味なんだろう。
 堪能したのか、手を下ろしてこちらに近づいてきた。
「かなりいいわね。その辺のアイドルくらいなら余裕で勝てるクオリティー。嫁にやるのがもったいないくらいよ」
「嫁……ですか」
 俺の嫁ぇ~とか、そんな感じなのだろうか。
「あ、いや、例えよ例え、なんか愛着あってさ。それにしても、私のセンスってのもあるけど、素材がよかったってのが一番ね」
 そう言いながら肩をぺたぺた触ってくるあきら様。
 それはもしかしなくても褒められてるんだろうな。なんか嬉しい?
 といっても、この体は自分であって自分じゃないから、妙な感覚なんだけど。

「う~ん、でもみのるちゃんの服選ぶだけでもうこんな時間ね」
「今何時ですか?」
「7時よ」
 7時!?
 やば、親とかどうだろ。
 いなくなってるのばれたりしてないかな……
 ばれる前に帰らないと。
「それじゃあ、そろそろぼ……私、帰らないと」
「ぇ……」
 そう言った途端、あきら様の寂しそうな声が脳内に響く。
 なぜか、胸が締め付けられるような現象にみまわれた。
「そ、それじゃあ、またどこかで!!」
 後ろ髪を引かれるような感覚を無理矢理振りほどきながら、俺は向きを変えて走り出そうとした。
 ところが、後ろの裾をギュッと掴まれるような感触に、足を止めた。
 それがなんなのかは分かっていたけれど、しっかりと目で確かめるように振り返る。
 案の定、俯いて裾を握り締めるあきら様がいた。
「あの、あきらちゃ」
「家に……」
 あきら様のいつもと違う声質に、周囲から入ってくる情報がシャットダウンされた。




 ――私の家に……来ない?




 ――え?




 その言葉が合図だったかのように、木々の枝や葉の擦れる音が、なぜだか大きく聞こえた。





To be continued ……






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  • つ~づ~き~!つ~づ~き~!続きを早く出せ、しばくぞ~‼
    (某引越しおばさんの声で) -- 名無しさん (2010-06-13 02:11:48)
  • 続き続き続き続き続き続き見せろやゴルァァァァ! -- 名無しさん (2010-06-08 23:16:21)
  • つ、続きが気になる……そしてGJ!! -- 名無しさん (2009-12-06 00:31:51)
  • 続きおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ続きおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ -- 名無しさん (2009-04-09 00:17:57)
  • え、まだ続き出てないの!? -- 名無しさん (2009-02-28 20:35:12)
  • 続きをぉぉぉおをを願いしますぅぅぅううう!! -- 名無しさん (2008-08-13 20:09:22)
  • 続きを!!続きを!!続きを早くお願いします -- 名無しさん (2008-02-09 22:26:38)
  • 実はこの話、好きです。続き待ってます… -- 名無しさん (2008-01-03 22:15:32)
  • こ、これは続きが気になる。
    作者GJ、続き頑張って -- 名無しさん (2007-11-09 02:06:53)

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