少女は成す術を持たなくて
ただ離れる事しか考えなかった。
そこに残されるものも知らず
あなたを想い、慕うあまりに……。
ただ離れる事しか考えなかった。
そこに残されるものも知らず
あなたを想い、慕うあまりに……。
─────
夜ふけた部屋は深い紺色をしていて、それに相応しく静寂である。
照明も家具もしんと鳴りを潜め、まるでその存在を感じさせない。
人も物も眠るこの室内において、唯一身体を起こそうとする彼女は異端であり
掛け布団の擦れ合う音と供に、その小さな存在を露呈した。
照明も家具もしんと鳴りを潜め、まるでその存在を感じさせない。
人も物も眠るこの室内において、唯一身体を起こそうとする彼女は異端であり
掛け布団の擦れ合う音と供に、その小さな存在を露呈した。
「…………」
開いたばかりの目を擦るでもなく、ただぼうっとして座っている。
こんな時間が毎晩のように、この部屋には訪れるのだ。
隣で安らかに寝息をたてるかがみもお馴染みで、今では少女も然して気にかけない。
暗闇の存在のみ誇示される空間で、彼女はただ瞑想に勤めていた。
こんな時間が毎晩のように、この部屋には訪れるのだ。
隣で安らかに寝息をたてるかがみもお馴染みで、今では少女も然して気にかけない。
暗闇の存在のみ誇示される空間で、彼女はただ瞑想に勤めていた。
未だ数時続く静寂の合間、時折に聴こえるのは咳をする声だった。
─────
季節は初冬というやつで、往来に並ぶ木々は寒気に震え
人はといえばみな、何処もかしこもを縮めて歩いている。
水色の空には若干の灰色が掛かって侘しさを促進させていて
人通りの少ない並木道は何とも寂しげに見えた。
人はといえばみな、何処もかしこもを縮めて歩いている。
水色の空には若干の灰色が掛かって侘しさを促進させていて
人通りの少ない並木道は何とも寂しげに見えた。
「……まぁ、誰もこんな時期に出歩きたくないわよね」
枯木も山の賑わいとは言うが、数える程では寧ろ寒々しいように
こうして私達が買い物袋を提げて歩こうと、この広い往来には何の変化ももたらしていなかった。
葉が落ち、朽ちた木々を縫うようにして木枯らしが吹き込み
肌を過ぎれば震えるだけの存在に、私達は留まっていたのだ。
こうして私達が買い物袋を提げて歩こうと、この広い往来には何の変化ももたらしていなかった。
葉が落ち、朽ちた木々を縫うようにして木枯らしが吹き込み
肌を過ぎれば震えるだけの存在に、私達は留まっていたのだ。
「………っ」
私は今、ひどく虚しい気分だ。
冷たい風が鳴り渡る度に、己の小人たる存在を思い知らされ
手に持つビニール袋が小煩く靡く度に、私の困窮たる風情を引き立てるかのようで。
冷たい風が鳴り渡る度に、己の小人たる存在を思い知らされ
手に持つビニール袋が小煩く靡く度に、私の困窮たる風情を引き立てるかのようで。
何とも迷惑極まりない話だ
私はまるで生活に困ってなどいないというのに。
前方に未だ数百メートルも続く並木道を見据えると、これ程になくやるせない気持ちになった。
私はまるで生活に困ってなどいないというのに。
前方に未だ数百メートルも続く並木道を見据えると、これ程になくやるせない気持ちになった。
「……っくし」
短い歩幅でせっせと横に並んでくるこなたは、時折にくしゃみをしてみせる。
必死に動いて止まない彼女でも、身体の小ささ故寒さに弱いのだろうか。
それとも単に寒がりなのかは、目算するに得ないのだが
とにかく、今にも鼻を垂らしてしまいそうなのは瞭然としていた。
必死に動いて止まない彼女でも、身体の小ささ故寒さに弱いのだろうか。
それとも単に寒がりなのかは、目算するに得ないのだが
とにかく、今にも鼻を垂らしてしまいそうなのは瞭然としていた。
「…ねぇ、こなた」
「………?」
「寒いし、手繋ごっか」
と、言ってみるテスト。
実際はその程度の事で寒さを凌げるとは思っていないし
彼女との背丈の違い故、幾分歩きづらくなるだろう。
それでもこなたと手を繋げるのなら万々歳だし
この何とも言えない気分は幾らか癒されると思うのだけど…。
彼女との背丈の違い故、幾分歩きづらくなるだろう。
それでもこなたと手を繋げるのなら万々歳だし
この何とも言えない気分は幾らか癒されると思うのだけど…。
何より、おそらく彼女はうんと頷かない。
「ふぇ………や、やだよ…。」
現に今、たじたじに断られた所だ。
まぁ、こなたのもじもじする様を拝めただけでも、充分満足に値するわけだが。
まぁ、こなたのもじもじする様を拝めただけでも、充分満足に値するわけだが。
時は優に6ヶ月が過ぎていた。
こいつの人見知りする所や、引っ込み思案な所は相変わらずで
私以外の人間には、未だ大よそに返事すらおぼつかないでいる。
当の私に対しても、確固として幾分の壁を隔てているらしく
歳相応に甘えてきた事などこの半年間において皆無だった。
こいつの人見知りする所や、引っ込み思案な所は相変わらずで
私以外の人間には、未だ大よそに返事すらおぼつかないでいる。
当の私に対しても、確固として幾分の壁を隔てているらしく
歳相応に甘えてきた事などこの半年間において皆無だった。
今のように恥じらう事は時たまあっても、応じる事はやはりない。
とくに大きな進展を伺えないこなたとの関係に、内心で私はため息をついた。
とくに大きな進展を伺えないこなたとの関係に、内心で私はため息をついた。
まだ、彼女に影響し得る存在ではないのだ。
「………。」
私が彼女に、例えば何かしらの光が射して欲しいと願うのは
生意気にも、私なりの親心なんだと思う。
極力感情を紡ごうとしない彼女の素行振る舞いは
私の保護者的感情に著しく働きかける。
話し掛けたい、構いたい
何でもいいから、関わっていたい。
そして何かを変えんとして、私は彼女に節介をやいている。
生意気にも、私なりの親心なんだと思う。
極力感情を紡ごうとしない彼女の素行振る舞いは
私の保護者的感情に著しく働きかける。
話し掛けたい、構いたい
何でもいいから、関わっていたい。
そして何かを変えんとして、私は彼女に節介をやいている。
余計な世話だと言われる事を、よもや今更に恐れながら。
「………。」
空は依然として灰を帯びていて、前より遠くに行ってしまった。
それと私との間には、何もないのだとよく分かる。
何処か気も遠くなるようで、途方に暮れてしまうようで。
伸ばした手は空を切りそうで、結局出せず終いにいる。
それと私との間には、何もないのだとよく分かる。
何処か気も遠くなるようで、途方に暮れてしまうようで。
伸ばした手は空を切りそうで、結局出せず終いにいる。
例え触れようと、何が変わろう。
色も模様も、気質もかもが
私のこの手に、変わるだろうか。
空を見る目は漠然とした。
色も模様も、気質もかもが
私のこの手に、変わるだろうか。
空を見る目は漠然とした。
…………
ふと、左手がひんやりとした。
「………っ」
青い髪をした小柄な少女が、両手で私の指先に触れている。
その頬は霜焼けのように赤くて、小さな口は言葉を紡ごうとぱくぱく。
振り向く私も、いつしか立ち止まっていた。
その頬は霜焼けのように赤くて、小さな口は言葉を紡ごうとぱくぱく。
振り向く私も、いつしか立ち止まっていた。
「……こなた?」
「え、えと……ね
手、やっぱり寒いから……その…。」
手、やっぱり寒いから……その…。」
「………。」
どうやら私の気付かないうちに、少し空模様は変わっていたようだ。
僅かな光を地に降らして、いつしかこの身体を照らしていたんだ。
日が見えて今、ようやく知った私
僅かな光を地に降らして、いつしかこの身体を照らしていたんだ。
日が見えて今、ようやく知った私
「…も…もぅ、しょうがないわね。」
本当に"親"心なのか、些か怪しく思えてきた。
─────
「………そう、か…」
ふっと目を伏せて、その様子を見納めた影がある。
エンジンがかかると、乗用車は二人の存在する並木道を離れた。
エンジンがかかると、乗用車は二人の存在する並木道を離れた。
コメントフォーム
- 構いたい、構ってほしいという気持ちから保護者の様(殆ど母親?)に接するかがみと、そのかがみに僅かながら心を開いてゆくこなた。
この不器用ながらも少しずつ距離を縮めてゆく2人の関係が、とてもいじらしくたまらなく好きです(保護者と被保護者という関係ですが)。
この話から不穏な影が見え隠れし、これからの展開が非常に気になりました。 -- 名無しさん (2008-10-13 13:25:36) - うわっ・・これは結末が気になりますな -- 名無しさん (2007-12-02 23:38:28)