ようやくバイトが終わった頃には、空はすっかり夜の闇に包まれていた。
その暗闇の中、俺は家路を急いでいた。
……しかし。
その暗闇の中、俺は家路を急いでいた。
……しかし。
「まさか夕飯作るの忘れるとはな……」
出る前のゴタゴタですっかり忘れていた。
今ごろ日下部は腹を空かせて待ってるだろうか。
そんなことを考えているうちに部屋の前へと辿り着いた。
今ごろ日下部は腹を空かせて待ってるだろうか。
そんなことを考えているうちに部屋の前へと辿り着いた。
「鍵は……かかってないな」
まあこんな時間だし、仕事が終わっているのは当然といえば当然か。
ガチャリ、とドアを開ける。
ガチャリ、とドアを開ける。
「ただいまー」
「「お帰りー」」
「ふう、今日はお互いお疲れっておうあ!」
「「お帰りー」」
「ふう、今日はお互いお疲れっておうあ!」
部屋の真ん中に辿り着いた瞬間心臓が止まるかと思った。
部屋には日下部と、そしてあきら様がいたからだ。
部屋には日下部と、そしてあきら様がいたからだ。
「な、なんであきら様がここに!?」
「みさおさんを送るついでについでに遊びに来たのよ」
「そーいうことだ」
「みさおさんを送るついでについでに遊びに来たのよ」
「そーいうことだ」
どういうことだ。
「みさお……ゲフン。えーみさおさん、あきら様に迷惑はかけませんでしたよね?」
「ん、へーきへーき。ってゆーか今日のアレは仕事っつーより――」
「ストーップ!みさおさん、あれは言っちゃ駄目だって言ったでしょ?」
「あーそうだったそうだった」
「ん、へーきへーき。ってゆーか今日のアレは仕事っつーより――」
「ストーップ!みさおさん、あれは言っちゃ駄目だって言ったでしょ?」
「あーそうだったそうだった」
そんな感じで俺をおいてきぼりにしたまま勝手に納得する二人。
その二人の様子から、今日の仕事で何かあったらしいことは明白だった。
その二人の様子から、今日の仕事で何かあったらしいことは明白だった。
「すみません。今日の仕事で何が……?」
するとあきら様はこちらにウインクをしながらこう言ってきた。
「それはー……乙女のヒ・ミ・ツ☆」
「さぶっ」
「さぶっ」
あ、やば。
と気付いたときにはもう遅い。
と気付いたときにはもう遅い。
「白石さーん?今何か言いましたかー?」
「いいえ!何でもありません!」
「ふーん……。ところで白石」
「は、はい」
「いいえ!何でもありません!」
「ふーん……。ところで白石」
「は、はい」
ガクガク震えながら次に来る制裁に備える。
「敬語」
「へ?」
「へ?」
想定して無かった言葉に思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「みさおさんには敬語じゃなくていいわよ。別に仕事場じゃないんだし、まだ仕事やってる気分になるから」
「す、すみません」
「す、すみません」
素直に謝る。
俺の気遣いが足りなかったのか。
……とりあえず一安心した。
俺の気遣いが足りなかったのか。
……とりあえず一安心した。
「それでは、お言葉に甘えて……。日下部、あきら様に迷惑かけなかったか?」
「だからへーきだっつーの。なあ小神?」
「だからへーきだっつーの。なあ小神?」
あきら様に同意を求める日下部。
「うん。みさおさんはよくやってくれたわよ。白石の代わりにアシスタントやって欲しいぐらいに」
「そ、そうですか」
「……何よ、自分から聞いておいてその反応は」
「いや、ちょっと思うところがありまして……」
「そ、そうですか」
「……何よ、自分から聞いておいてその反応は」
「いや、ちょっと思うところがありまして……」
……正直怖い。
あきら様がそういうことを言うと、本当にそうなるかもしれないから怖い。
この前の樹海だって――
いや、やめておこう。わざわざ自分のトラウマを掘り返すのは。
あきら様がそういうことを言うと、本当にそうなるかもしれないから怖い。
この前の樹海だって――
いや、やめておこう。わざわざ自分のトラウマを掘り返すのは。
「ところで」
あきら様は俺を見て、
「みさおさんと一緒に住むって本当?」
まだ俺と日下部の二人しか知らないはずのことを口にした。
「あ、あきら様。一体どこからその話を?」
「みさおさんから」
「みさおさんから」
反射的に日下部を睨みつける。
「……日下部?」
「だ、だって、白石から言うなって言われてないし……」
「だ、だって、白石から言うなって言われてないし……」
少しカチンと来たので、日下部の前に歩き、両手で少し頬をつねってみる。
「そんな非常識な事を言うのはこの口か?ん?」
「い、いひゃいいひゃい!そほ、くちひゃない!」
「次からこういう事はしないって約束出来るよな?」
「い、いひゃいいひゃい!そほ、くちひゃない!」
「次からこういう事はしないって約束出来るよな?」
ブンブン、と頭を上下に思い切り振る日下部。
ちなみにつねったままなので、頬が上に下にと伸縮した時、少し吹き出しそうになった。
ちなみにつねったままなので、頬が上に下にと伸縮した時、少し吹き出しそうになった。
「よし」
パッと手を離す。
日下部は涙目になって頬をさすった。
日下部は涙目になって頬をさすった。
「いてて……。ったく、こんなことぐらいで怒るなよなー」
「『こんなこと』だから怒ったんだけどな」
「それにさー、女の子に暴力振っちゃいけないんだぞー」
「自分で『女の子』って言ってる時点で女の子じゃないけどな。っていうか、お前本当に女か?」
「なんだよ。私はれっきとした女だぞー!」
「だったら、女だったら、それっぽいことしてみろよ」
「……ごめん。次からは気をつける」
「『こんなこと』だから怒ったんだけどな」
「それにさー、女の子に暴力振っちゃいけないんだぞー」
「自分で『女の子』って言ってる時点で女の子じゃないけどな。っていうか、お前本当に女か?」
「なんだよ。私はれっきとした女だぞー!」
「だったら、女だったら、それっぽいことしてみろよ」
「……ごめん。次からは気をつける」
うむ、素直でよろしい。
っていうか自分の女の子っぽさに自信無いのかよ。
そしてふと、自分の喉の奥が張り付くのを感じた。
バイトで大声を出したのと、今少し喋ったせいだろう。
台所のほうに歩く。
冷蔵庫を開け、ペットボトルに入ったミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
と。
っていうか自分の女の子っぽさに自信無いのかよ。
そしてふと、自分の喉の奥が張り付くのを感じた。
バイトで大声を出したのと、今少し喋ったせいだろう。
台所のほうに歩く。
冷蔵庫を開け、ペットボトルに入ったミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
と。
「いやー、まさかあんたが恋人と同棲とはねー。何が起こるか分からないもんだわ」
「ブハッ!」
「ブハッ!」
今まで俺たちを眺めていたあきら様の、突飛もない発言に口に含んでいた飲み物を吐き出してしまった。
「ゴホッゴホッ……。急に何を言うんですか、あきら様」
「え?だってそうなんでしょ?」
「違いますよ!日下部は恋人じゃありませんし、それに同棲じゃなくて同居です!」
「どっちも似たようなもんじゃない」
「どこをどうしたら似るんですか!」
「そんな細かい事気にしてたらこの先、生きていけないわよ。ねえみさおさん?」
「そうだぞー」
「え?だってそうなんでしょ?」
「違いますよ!日下部は恋人じゃありませんし、それに同棲じゃなくて同居です!」
「どっちも似たようなもんじゃない」
「どこをどうしたら似るんですか!」
「そんな細かい事気にしてたらこの先、生きていけないわよ。ねえみさおさん?」
「そうだぞー」
いや、お前は気にしろよ。
と、その時。
と、その時。
「そうだ!」
急にダン、と机を叩くあきら様。
「今度はなんですか!?」
「名前よ名前」
「は?」
「名前よ名前」
「は?」
また気の抜けた返事をする俺。
「だーかーらー。みさおさんの事、名前で呼んでないじゃない。なんか違和感あったと思ったらこれだったのねー」
「それが……どうかされましたか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。同じ部屋に住むんだし、名前で呼ぶのが普通でしょうが」
「別にそういう決まりがあるわけじゃ……」
「いいの。私が今決めたんだから」
「ジャイ○ンですかあなたは!それに日下部はいいんですか、日下部は!?」
「いい」
「それじゃあ僕も」
「あんたは駄目」
「それが……どうかされましたか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。同じ部屋に住むんだし、名前で呼ぶのが普通でしょうが」
「別にそういう決まりがあるわけじゃ……」
「いいの。私が今決めたんだから」
「ジャイ○ンですかあなたは!それに日下部はいいんですか、日下部は!?」
「いい」
「それじゃあ僕も」
「あんたは駄目」
これは酷い。扱いがまるで違う。
そしてまた反論を述べようとしたとき、突然携帯の着信音が鳴った。
そしてまた反論を述べようとしたとき、突然携帯の着信音が鳴った。
「あ、電話」
あきら様はスカートのポケットから携帯を取り出してそれに出る。
「もしもし。あ、マネージャー?どうしたのよ――」
電話をしながらあきら様は後ろを向いた。
……今がチャンスか?
……今がチャンスか?
「日下部。今日の仕事は何だったんだ」
「だから教えらんねーって」
「頼む。今後の為にどういう内容だったか知っておきたいからさ」
「だから教えらんねーって」
「頼む。今後の為にどういう内容だったか知っておきたいからさ」
あきら様の場合、一つ一つの収録でとんでもないことを口にする。
今日俺がいない間に『今日お仕事を休んだ白石さんには罰として――』なんてことも十分あり得るだろうし。
今日俺がいない間に『今日お仕事を休んだ白石さんには罰として――』なんてことも十分あり得るだろうし。
「うーん。あ、そうだ」
何かひらめいたらしい日下部はあきら様みたいに片目をウインクしながらこう言ってきた。
「それはー……乙女のヒ・ミ・ツ☆」
一瞬の沈黙。
そして時は動き出す。
そして時は動き出す。
「……なんかさ」
「うん」
「お前がやるとキモイな」
「……」
「うん」
「お前がやるとキモイな」
「……」
日下部は急に黙りこんだ後、
「……うっ」
泣いた。
……泣いた!?
……泣いた!?
「ちょ、何で泣くんだよ!」
「だってさ……そんなストレートに言うことないじゃんかよー……」
「だったらそういう事言うなよ!」
「だって、お前がさっき『女ならそれっぽいことしてみろよ』って言ったんだろ……?」
「だからってな、」
「だってさ……そんなストレートに言うことないじゃんかよー……」
「だったらそういう事言うなよ!」
「だって、お前がさっき『女ならそれっぽいことしてみろよ』って言ったんだろ……?」
「だからってな、」
この台詞は無いだろ。という喉から出かかった台詞を飲み込む。
今はこいつをなだめるほうが先決だ。
今はこいつをなだめるほうが先決だ。
「まあとにかく泣くなよ、な?」
「……謝罪の言葉が無い……」
「謝罪、必要か?」
「……ううっ」
「……謝罪の言葉が無い……」
「謝罪、必要か?」
「……ううっ」
また涙を滲ませる日下部。
もう俺のほうが泣きたい。
すると、電話が終わったあきら様がこちらに向き直った。
もう俺のほうが泣きたい。
すると、電話が終わったあきら様がこちらに向き直った。
「ごめんなさい。急に電話が――」
と、そこで当然のようにあきら様は固まった。
そしてため息を一つついて、
そしてため息を一つついて、
「スキャンダルは芸能人にとってアウトだから気をつけなさいよ。それじゃあバイバーイ」
「何そのまま帰ろうとしてるんですか!あきら様も冷やかさないで手伝って下さいよ!」
「え?私、今お邪魔じゃないの?」
「そういうのいいですから!早く!」
「はいはい、仕方ないわね」
「何そのまま帰ろうとしてるんですか!あきら様も冷やかさないで手伝って下さいよ!」
「え?私、今お邪魔じゃないの?」
「そういうのいいですから!早く!」
「はいはい、仕方ないわね」
そしてあきら様の手を借りてようやく日下部を落ち着かせることに成功した。
「んで、さっきの電話って誰からだったんだ?」
さっきの泣き顔はどこへやら、いつもと変わらない表情で日下部は質問した。
「ああ、あれはお迎えの電話よ」
「お迎え……。マネージャーさんですか」
「もうこんな時間だしね。ママも心配してるらしいし」
「お迎え……。マネージャーさんですか」
「もうこんな時間だしね。ママも心配してるらしいし」
時計を見ると、もう夜中の10時を少し過ぎていた。
あきら様が立ち上がる。
あきら様が立ち上がる。
「それじゃあみさおさん。今日はありがとう」
「おう」
「あと白石さん」
「は、はい」
「おう」
「あと白石さん」
「は、はい」
俺は少し背筋を伸ばして返答する。
さっきみたいに敬語で俺に話しかけるのは、なにか恨み言があるからだ。
さっきみたいに敬語で俺に話しかけるのは、なにか恨み言があるからだ。
「もう今日みたいに他人に仕事押し付けちゃ駄目ですよー。もし、またやったら――」
「だだだ大丈夫ですよ!僕を信用して下さい!」
「……信用してたらこういうことにも対応出来たんだけどねぇ?」
「ぐっ」
「だだだ大丈夫ですよ!僕を信用して下さい!」
「……信用してたらこういうことにも対応出来たんだけどねぇ?」
「ぐっ」
また痛いところを突かれた。
相変わらずあきら様は容赦無いな……。
相変わらずあきら様は容赦無いな……。
「ま、いいわ。今日は時間無いし」
「時間があったら何かやったんですか……」
「……何か言った?」
「い、いえいえ。何でもありませんよ」
「そ」
「時間があったら何かやったんですか……」
「……何か言った?」
「い、いえいえ。何でもありませんよ」
「そ」
あきら様はただそう言うと、玄関のほうに歩いてドアノブを回した。
「それじゃあ二人共、またねー」
「じゃあなー」
「お疲れ様です、あきら様!」
「じゃあなー」
「お疲れ様です、あきら様!」
ガチャン、とドアを閉じる音と
パタン、と日下部が床に寝転ぶ音が重なった。
パタン、と日下部が床に寝転ぶ音が重なった。
「どうした日下部。気分悪いのか?」
「さっき騒ぎ過ぎて体力がー……」
「自業自得だな」
「それは……お前にも……責任があるっての……」
「さっき騒ぎ過ぎて体力がー……」
「自業自得だな」
「それは……お前にも……責任があるっての……」
日下部の口から漏れる言葉に力が感じられない。
顔を覗いてみると、天井を見上げる目が段々と細くなっていくのが分かった。
顔を覗いてみると、天井を見上げる目が段々と細くなっていくのが分かった。
「おやすみー……」
「寝るなよ。大体夕飯はどうするんだ」
「夕飯?んー……肉で……いいや」
「寝るなよ。大体夕飯はどうするんだ」
「夕飯?んー……肉で……いいや」
さりげに贅沢な頼みをして、日下部はそのまま目を閉じた。
「おーい。日下部ー」
「……」
「……」
へんじがない ただただのしかばね――じゃなくて、本当に寝てしまったようだ。
目を閉じてから5秒も無かったぞ?
目を閉じてから5秒も無かったぞ?
「……さて」
とりあえず次にやるべきことを考える。
この後夕飯作って、それからこいつを起こして、それから……と、次々とやるべきことが思いつく。
だがその前に。一応、労いの言葉ぐらいはかけたほうがいいだろう。
この後夕飯作って、それからこいつを起こして、それから……と、次々とやるべきことが思いつく。
だがその前に。一応、労いの言葉ぐらいはかけたほうがいいだろう。
「お疲れ、日下部」
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- 何気に女らしさを気にしてるみさおが可愛すぎる! -- 名無しさん (2008-04-13 14:48:17)
- このシリーズ大好きですよ!!
続き、楽しみにしてます。 -- 名無しさん (2007-12-24 21:25:07) - 続きがすごく楽しみです。 -- 名無しさん (2007-12-13 20:23:39)
- GJですよ続きに大いに期待してます -- 名無しさん (2007-12-12 18:34:05)