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彼女は遷移状態で恋をする-こなたside-(2)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする こなたSide(2)


「好きなわけないだろ」
 そんな、十文字にも満たない言葉。
 それが一文字ずつ、私の胸に釘となって突き刺さっていく。
 毒の塗られたその釘が私の血に混じり、体を蝕んでいく。
 痛いのはどうして? なぜならそれが、毒だから。
 苦しいのはどうして? なぜならそれが、何の毒か分からないから。
 だから、笑うしかない。
 皆と騒いで、馬鹿みたいに声を張らして歌って。
 頭が真っ白になるくらい、息が出来なくなるくらい……何も考えられなくなるくらい。
「おい、こなた」
「!」
 『彼』の声が耳を劈き、体が強張る。
 どうしてだろう。
 心臓の脈打つ音が、酷く耳につく。
 声をかけられただけなのに、顔すら見れない。
「次お前だぞ」
 マイクを突きつけられ、少し呆気に取られる。
 ああ、そうだ。
 皆でカラオケに来てるんだっけ。
 それで今、私の番が回ってきたんだ。
「あ……うん」
 手を伸ばし、『彼』の手からマイクを受け取ろうとする。
 でもそのマイクが、空中で不自然に回転した。
 その所為。
 その所為で一瞬、私の体に電気が走る。
「うお!」
 ガシャンという音と、彼の驚いた声が耳に届く。
 彼の指と触れた指先が、まるで火傷をしたみたいに痺れていた。
「ごめん、取り損なっちゃった」
 手早くそれを拾い上げると、彼の顔も見ずにカラオケの画面に向かう。
 突き刺さった釘が、胸をえぐり刺激し始める。
 駄目だ、変な事考えちゃいけない。
 そうだよ、歌えばすぐに忘れちゃうような些細な事。
 ほら、私の好きな平野の曲の前奏が騒がしく鳴り出した。
 そんな気分じゃなくても、音に乗ればいい。
 それだけで、今はそれだけに集中出来る。
 うん、この曲は得意なんだ。100点だってとったことあるし。
 ってのは嘘か、でも95~97ぐらいならスタンダードで出せるもんね!
 よぅし、今日こそ100点を……。
「……なたに、」
「っ!」
 だけどサビで舌を噛む。
 鉄っぽい味が邪魔をして、上手く舌が回らない。
 向かいの席から聞こえてきた声。
 私の歌声で紛れたけど、かすかに聞こえた。
 なた? なた……鉈? 嘘だ!
 いやいやいやそうじゃなくって、多分こなた……私の名前、だよね?
 ……かがみが、私の話をしてる。
 そ、そりゃするよね。今歌ってるのは私なんだし。
 おでこに拍手打って「まいったぜ」ぐらい言ってるんだよきっと。
 うん、きっとそう。
 私の歌声に参ってるんじゃないかな、あははっ。
 ……。
 だ、だから別に気にすることじゃなくてええとっ、うんっ。
 うああ、今歌詞間違った音外したぁっ!
「わぁ、凄いやこなちゃん。92点だってさ、お兄ちゃんにまた勝っちゃったね」
 ようやく曲が終わり、席に座るとつかさが呑気に話しかけてきた。
 ……隣りに座ってるんだからそうやって名前ぐらいだしても普通だよね。
「あんがと。つかさっ」
 うん、普通だ。
 みゆき君。うん、これも普通。
 そして……むぅ。
 みゆき君の隣りに、視線を滑らせようとしてやめる。
 私って結構図太いって自覚はあったのにな。
 結構……気にするほうみたい。
 昼休みのあんな言葉、引きずってるなんて。
「そろそろ時間だってさ」
 みゆき君のこぶしの聞いたプロジェ○トAが耳を流れる途中に、つかさが割って入る。
 そっか、三時間なんて四人だったらあっという間だったね。
「あれ、もう暗いやっ」
「ですね、日が暮れるのも早くなったものです」
 みゆき君が相変わらずの物腰で空を見上げる。
 もうそろそろ肌を打つ風が冷たくなってきたころ。
「送るよ、こなちゃん。一人じゃ危ないしね」
「あははっ、いいよそんなの。平気平気」
「いけませんよ、最近は不審者も増えてきてるといいますし」
 妙に二人が突っかかってくる。
 それぞれに手を掴まれ、断ろうにも断れない。
 そこで……妙な事を考えた。
 手が三つあったら、どうなってたかなって。
 ……掴んで、同じ事言ってくれた?
 ははっ、馬鹿な妄想。ゲームのやりすぎかなっ。
「何言ってんだ馬鹿ども」
「んがっ」
「ごっ」
 妙な奇声をあげて二人が悶える。
 その拍子に、二人の手が外れた。
「かがみ……」
 視線が交わった。
 ずっと……避けてたのに。
 そしてまただ。
 心臓がまた、跳ねた。
 そのまま、切り裂かれることも知らずに……みっともなく。
「そんなガキみたいなやつ、襲うやつ居るかよ」
「……っ」
 思わず伸ばしそうになった手が止まり、行き場をなくす。
 彼の放った言葉が、私の心の釘を打ち付けていく。
 どうして痛いの?
 だってそれが、毒だと分かっているから。
 どうして苦しいの?
 それが何の毒だか……分からない、から。
 駄目だ。
 笑え。
 ……笑えっ。
「そ、そう……だよっ」
 ようやく漏れた言葉が上擦ってて、みっともなかった。
 大丈夫、ほら笑えるよ?
 だってほら。
 今は、笑うところ……だもん。
「二人とも心配性だよねっ、私みたいなの誰も相手にしてくれないよっ」
「そうそう、視界にも入らないってな」
「あははっ、酷いなぁーかがみは」
 笑うたびに、その釘が奥へと進んでいく。
 彼の笑顔を見るたびに、さらに奥に……奥に。
 いっそ、その毒が私を殺してくれればいいのに。
 だけど私には分からない。
 その毒がなんなのか。
 ううん、少し違う。
 分からないんじゃない……分かりたくないんだ、きっと。
「んじゃ、そういうことだから」
「こ、こなちゃんっ!」
「泉さんっ!」
 二人の声が聞こえない振りをして、そのまま踵を返した。
 返した踵は戻せない。
 だって振り返ればきっと私の顔は……笑って、なかったから。

















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