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先生という仕事 (2)

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だれでも歓迎! 編集
「はぁ」
 かがみは裁判に関わる書類を全て片付け、深くため息をついた。その理由は二つ、疲れ
と安堵。
 裁判の結果、依頼人と男性との離婚が成立し、親権を勝ち取ることができた。相手方の
弁護士の活躍のために、慰謝料と養育費についてはかなり減らされてしまった。
 目的は達成したので勝利といえば勝利である。だが、かがみはこの勝敗という考え方が
嫌いだった。裁判は決してゲームではないのだ。
 後味の悪い裁判だった。依頼人と元夫がしていたであろう争いを、裁判所に場を移して
かがみと相手の弁護士が繰り返す。そこにあるのは人間の醜さの極みだった。
 相手の弁護士が戯言で男の人格を虚飾し、かがみは男の愛人に接触して証言を迫る。口
を閉ざした女もいたが、金でも掴まされていたのかもしれない。
 依頼人も無傷では済まなかった。公式の場で男の不貞は彼女にも原因があると罵られて
平気でいられるはずがない。
 相手の弁護士は悪い人間ではなかった。彼はただ自分の仕事をこなしただけだ。こんな
不利な条件の弁護を引き受けたのは馬鹿なのか生真面目なのか、義理でもあったからなの
か、かがみにはわからなかったが、悪人でない者と争うのは心が痛む。
 一番気がかりなのは、依頼人の彼女がこの後幸せになれる保証はないということだ。
 親権は勝ち取ったとはいえ、まず離婚したこと自体が不幸だ。かがみの力量が足りなか
ったせいで新しい生活を始めるために先立つものも少ない。しかし、ここから先はかがみ
が踏み入るべき領分ではない。
 とにかく、後味の悪さだけが残っている。もっとも、後味の良い裁判などありはしない。
むしろ今回の事例は生ぬるいと言っていい。
「柊先生、お客様です」
 事務員の声を聞き、今は相談を受ける時間ではないはずだと思いながら、案内されてき
た客を見た。部屋の入り口に立っていた女性は、依頼人の元伊藤夫人だった。
「伊藤さん……って今は違いますね」
 彼女の現在の苗字は何だったか、記憶の引き出しを探し回る。
「冬木でございます。先生には本当にお世話になりまして」
 彼女は丁寧な物腰でお辞儀をして、持参してきた菓子折りをかがみに手渡した。
「そんな、ここまでしていただくほどのことでは……」
「今の生活があるのは先生のおかげです。いくらお礼をしても足りないくらいです」
 彼女は現在は実家で子どもと両親と共に暮らしており、少し田舎ではあるけれど、今の
生活にはとても満足していると教えてくれた。その言葉遣いや仕草はとても丁寧で、元夫
のことを必死に罵倒していた彼女と同一人物とは思えない程だった。こちらが本来の彼女
の性質なのだろう。
 瞳を潤ませながら何度も何度も頭を下げて、かがみにお礼の言葉を述べた。
「わ、私は自分の仕事をしただけですから」
 直球で誉められるとどうにも照れくさく、思わず赤くなって目線を逸らしてしまった。
「裁判は辛いこともありましたけど、先生が何があっても私は味方だと仰ってくださった
から諦めずに最後まで続けられたんです……先生を選んでよかったと思ってます」
「え、まあ、それはどうも……」
 こういう時こそ事務的に対応していれば恰好付くのだろうが、感情の抑制が苦手なとこ
ろは昔から変わらない。
「先生には感謝しています。本当にありがとうございました」
 彼女は最後にそう述べて退室していった。しばらくの間、一人でその言葉を反芻する。
「ありがとうございます、か……」
 自分の胸の向日葵のバッジに視線を落とした。かがみが先生と呼ばれる根拠たるもの。
少しでも人の役に立てたというのならば。
「ま、悪くないわね」
 もうすぐ、かがみの元に取材がやってくる予定だ。懐かしい取材者に今の仕事に満足し
ているかと聞かれたら、はいと答えようと決めていた。

「先生、大丈夫なんでしょうか」
「当院の施設だけでは十分な検査はできません。精密検査の必要がありますのでそちらへ
の車を手配致します」
 みゆきは暗い顔で患者の母親に告げた。
 彼女の子供は階段から転げ落ちて頭を打ってしまったという。直ちに外科に行って欲し
いところだったが、気が動転していたのか病院がすぐ近くにあったからなのか、小児科で
あるこの病院に来てしまった。みゆきが診た限りは深刻な異状はなさそうだったが、頭部
の怪我は油断できない。結局、精密な検査のできる大病院に後を託すしかなかった。
 取り越し苦労で終わるならそれでいい。もし、そうでなかった場合は……。
 事実がどうであろうと、もはやみゆきの力が及ぶ領域を超えてしまっている。小児科の
病院が不足している地域で働いて貢献したいと思う一方で、そういった病院では出来るこ
とに自ずと限界が生じてくる。自分の関わった患者は最後まで責任を持って診てやりたい
と思っても、都合が許さない。そんなとき、いつもみゆきは自分の無力さを感じる。
 医師は偉大な力を持っていると同時に、無力でもある。全ての患者を救うことなど出来
はしないのだ。科が科だけに患者の死に立ち会ったことのないみゆきはまだ幸運と言える。
 例えばの話、自分の親友が患者としてやってきたら冷静に対応できるかどうか、みゆき
には自信がなかった。いつかの未来、親友の子供を診察することがあるかもしれない。歳
をとっても子供にしか見えない親友とその子供が来てくれたら面白いかもしれないけれど
……仕事の最中なので夢想はそこまでにしておいた。
「車が来たようなので、あとはあちらの指示に従ってください」
 これが医師として正しい判断なのかどうかはわからない。正しいと信じるべきなのかも
しれないが、そうだとしたらあの子供は深刻な状態なわけで、そうなって欲しくはない。
かといって自分の判断が正しくないと信じるのは医者としての信念にもとる。
 もやもやした気持ちを抱えたまま、次の患者が呼び出された。カルテによれば、その子
は呼吸器が弱く、その関連で何度か通院している。
 母親に連れられて現れたのは、いつかの夜、餅を喉に詰まらせてしまった子供だった。
見覚えがあったのも当たり前で、みゆき自身もその子を診察したことがあったのだ。この
ことを覚えていたら、あの時、もっと手早く処置できたかもしれなかった。みゆきの目標
は、まだまだ遥か上にある。
「ええと、今回は軽く喘息気味ということだそうですが……」
 子供は何度も激しい咳を繰り返し、いかにも苦しそうだった。これでもまだ軽い方だ。
 母親から症状を聞き、気管支炎の薬を噴霧して吸引させ、適量の薬を処方する。一通り
の診療をつつがなく終えることができた。
「お大事にしてください」
 患者に別れの挨拶を告げ、しかし当の患者は思い出したようにみゆきに向き直った。
「せんせー、ありがとう」
「どういたしまして」
 笑顔をくれた子供に、みゆきもにこやかな笑顔で返礼する。
「死んじゃうっておもったけど、せんせーのおかげでくるしくなくなったよ」
 子供が何のことを言っているのか、みゆきはすぐに思い当たった。この子が前回ここに
来たときのことだ。覚えてくれていたのかと、みゆきは少し驚いていた。
「あの、すいません、あの時は取り乱してしまいまして……」
 思い出したように母親も追従した。意外としっかり者の子供のせいで、少し決まりが悪
かったが。
「先生、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
 みゆきは自分の救える人しか救えない。それでもこうして笑顔を向けてもらえるなら、
医者でいてよかったと思う。
(でも、あまりよろしくされてはいけませんよね……)
 ちょっとした失言に気付いたときには親子はもういない。速やかにカルテを書き終え、
次の患者を迎えた。自分の仕事に満足できるように精進しようと誓いながら。

つかさ先生、美味しいですか?」
 つかさの表情を窺うのは、椿めぐみという名の生徒。つかさが教える生徒の中では唯一
の女性である。
「うん、美味しいよ。よくできてる」
「よかったぁ」
 つかさは笑顔で答え、それを見た女生徒も思わず笑みがこぼれる。つかさが笑ったのは
料理が美味しかったから。彼女が笑ったのは、料理を誉めてもらえたから。そこに嘘偽り
は微塵もない。
 彼女が授業の課題として作ったのは、牛フィレ肉のトュルヌド・アンリ4世風と呼ばれ
る料理。一言でいえばグリルで焼いて網目の焼き色をつけた料理である。適当に焼いて、
表面をそれっぽく処理すれば見た目だけは誤魔化せるかもしれないが、美味しいものを作
ろうと思えばそうはいかない。焼き料理というものは、すべからく焼き加減が美味しさを
決めるものであり、手抜きでは決して巧く仕上がらない。アンリ4世風という名を冠する
のはあるソースを使うからだが、フランス料理においてソースは最重要課題である。それ
を含めて彼女の料理はよくできていた。
 つまり、料理が美味しかったのは彼女が調理に一切手を抜かなかったからだ。
 彼女だけではなく、生徒たちはみんな真剣だった。始めはつかさを不信の目で見ていた
生徒たちも、つかさの包丁裁きを見てつかさが作った料理を食べると、態度が一変した。
普段が鈍くさいだけにギャップが大きかったというのもある。
 そのうちにつかさも地が出てきて、生徒を君またはちゃん付けで呼ぶだけでなく、仇名
で呼ぶようにもなった。
「めぐちゃんも上手になったよ。みんなに負けてない」
「あたしって才能あるかな?」
 おどけた彼女は、何歳分か幼く見えた。なんとなく高校時代の親友を思い出す。
「才能はよくわからないけど、頑張った結果だと思うよ」
「にぶちんでも料理が巧くなれるっていう実例が目の前にいるからね」
 そういう意味では、つかさは先生に向いているのかもしれない。
「めぐちゃん、それひどいよぉ」
「そりゃ、おめぇに言われたくねえわな」
「別にいいじゃん。過ぎた話なんだし」
 別の男子生徒が彼女にツッコミを入れ、彼女は軽く受け流す。
 親しくなるうちに話を聞いたところによれば、高校三年のときに付き合っていた料理好
きの彼氏についていくために調理師学校への進学を決めたものの、入学の直前に別れてし
まい、それでも学校には通わざるをえなくなって不貞腐れていたのだとか。
『ひどい話だと思いません!?』
 彼女はそう言って同意を求めてきたが、どちらかといえばそんな動機で進路を決める方
が酷い話ではある。
 そんな彼女もつかさの料理を食べると態度が一気に変わって、熱心に授業に取り組み、
つかさを慕うようになってきた。熱し易い性格なのかもしれないが、あまりの変貌ぶりに
つかさが戸惑ったほどだ。
 つかさが思ったのは、彼女は精神的に子供だということだ。それはこれから変わってく
れればいいと、つかさは考えている。彼女は成長できる人間なのだから。
「あんなことはあったけど、おかげで先生に会えたからよかったって思ってる。自分の作
った料理で喜んでもらうのがこんなに嬉しいって、先生が教えてくれたんだよ」
 彼女の笑顔を見て、つかさは遠い昔に抱いた感情を思い出した。初めて作った料理を、
お母さんが美味しいと誉めてくれたときの感情。
「……教えてくれたのは、めぐちゃんもだよ」
「へ?」
「私ね、勉強も運動も、特技とか何もなくて……料理を好きになったのは、食べた人が喜
んでくれるのが嬉しかったからなんだ。この仕事を始めたとき、ちゃんと教えなくちゃっ
て、それしか考えてなかった。でも、私の料理をみんなが美味しいって言ってくれて……
初心を思い出したような気がしたんだ」
 一秒の沈黙の後、つかさの話を聞いた生徒たちから喝采と拍手が巻き起こる。
「え、あれ、どうしたの?」
 誉められることに慣れていないせいで、つかさは一瞬にしてパニックに陥ってしまった。
「え、えーっと、今日はこれまで! 授業終わりです!」
『ありがとうございました!』
 生徒たちの唱和は、つかさが立派に先生をやり遂げたことの証明。
 つかさは心の底から、先生をやってて良かったと思った。

「今回は……OKですよね?」
 こなたは祈るような気持ちで電話の向こうの編集さんに問いかけた。既に三回も原稿を
出しては没にされている。
『はい、OKです。先生、お疲れ様でした』
 それを聞いて、受話器を通して聞こえるくらいに盛大に溜息を吐いた。新連載の第一回
だから重要なのはわかるが、もう一回は流石に勘弁してもらいたい所であった。
『次回は早めにお願いしますよ。法廷ものとなると資料集めも手間でしょうし』
「大丈夫です。多分。きっと。おそらく。もしかしたら」
『段々灰色な表現になっていくのはやめてください』
 作家と編集はボケとツッコミ。作家にとっては笑えない展開になるが。
 かつての自分自身をモデルにした、作家を目指す女子高生の物語は締め切りに追われな
がらも無事に完結した。その次の月、その小説は若干の修正を加えて文庫化された。読者
の反応は、まだ聞かされていない。
 小説を書いていると、どうしようもなく不安になることがある。恐らく、創作をする者
は多かれ少なかれそんな感情を抱えているはずだ。すなわち、自分の作品は気に入って貰
えたのかどうか。全身全霊を傾けた作品がつまらないの一言で一蹴される可能性だってあ
るのだ。
 特に、一番この作品を読んで貰いたかった人――ななこはどう思うのか。読んでもらう
からには自分でその本を贈るべきなのだが、まだそれが出来ないでいた。あまりに自分の
内面を曝け出してしまった内容だったから。知りもしない相手に読まれるのは構わないが、
顔を知ってる相手に読まれるのはどうにも恥ずかしい。
 そんな感慨に耽る間もなく、あっという間に次の連載である。
『とにかく、よろしくお願いしますよ。……あ、先生にファンレターが届いてたので郵送
しました。中身はチェックしてあるので大丈夫ですよ』
「ファンレター? 私に?」
『はい、今時手紙なんて珍しいですけどね』
 丁度話を聞いていたそうじろうが、郵便受けから持ってきたと思しき封筒をちらつかせ
て見せてくれた。
『先生の作品を待ってる人がいるんですから、締め切りは守って下さいね』
 最後にしっかり釘を刺してくれた編集との話を終えて電話を切ると、そうじろうから封
筒を受け取った。差出人はこなたの知らない名前で、学生時代の親友や直接の知人などで
はなく、れっきとした読者のようだった。
 自分は女優になることを夢見ている高校三年生で、学校の先生から勧められてこの作品
を読んだこと、これを読んで自分も目標に向かって努力する決意を固めたこと、そして、
こなたの作品に感銘を受けて、これからも応援することが綴られていた。
「よかったな、こなた。嬉しいもんだろ?」
「……うん」
 自分の作品を好きだと言って貰えれば嬉しい。素人だろうとプロだろうと、それは変わ
らない。それでも、プロとしてファンができたことは特別に感慨深いものだ。
「大御所作家でもファンレターって嬉しいもんなの?」
「オレはそんな大したもんじゃないって。たまたま当たっただけだから」
 笑って誤魔化すそうじろうだが、それがまぐれで書けるような作品でないことはこなた
がよく知っていた。
「ところで、この主人公のモデルってこなたなんだよな? 読書好きの友達に感化されて
作家を目指すってやつ」
「お、お父さん読んだの!? あれだけ読むなって言ったじゃん」
「世間に発表された小説なんだから誰が読んだっていいだろ。お父さんだってこなたの書
いたものを読みたいんだよ」
「……そんなこと言われても恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ」
 膨れっ面で拗ねてみせるこなたは、まるで子供のようだった。とっくに母よりも年上に
なってしまったが、母譲りの幼い外見は変わりはしない。
「はは、今日はお祝いだ。寿司でも食べるか」
 父が機嫌をとってくれるなら断る理由はない。出前の電話をするために部屋を出ようと
したそうじろうに、一言だけ告げる。
「私も今から電話するけど、今度は絶対に聞かないでネ。聞いたらもうお父さんの前じゃ
エプロンつけて料理しないから」
「気をつけるよ。割烹着じゃ今一萌えないからな……いや、一概には言えないか……」
 この歳で親子でこの会話もどうかと思われるが、兎にも角にもこなたはそうじろうを部
屋から追い出し、携帯電話を手に取った。

『おう、泉か』
 通話の相手――ななこはすぐに応答してくれた。
 この用件を直接告げるのは、少しの勇気が要る。だが、あのファンレターがその勇気を
与えてくれた。躊躇うことはない。
「先生……最近、私と先生をモデルにした小説を書いたんです。もしよければ先生にも読
んでもらいたいと思いまして」
『ああ、あれな。読んだわ』
「あれ? 読んだんですか?」
 いきなりのことに面食らった。こなたのペンネーム以外は何も教えていなかったのだ。
頼みもしないのに読んでくれているとは思わなかった。
『やっぱ泉とウチやったか、あれ。泉が作家になろうと思う動機が違っとったけどな』
「別に、何から何まで私と同じじゃなくたっていいじゃないですか。それに……」
『泉とウチだけの秘密、やろ? いい話なんやから喋ってもええと思うんやけどなぁ』
「ダメなものはダメです」
 言えるはずがない。小説家になろうと志した理由が、不覚にも父が書いた小説に感動し
てしまったからだなんて。その小説には、父からの娘と亡き妻への愛が綴られていた。父
が書いた作品は世間に感動を与え、大ヒットとなった。だが、こなたにとってその作品は
それ以上の意味がある。
 読書など大嫌いなこなただったが、いつしか父のような作品を書きたいと思うようにな
っていった。いつか、自分も同じように父への愛を作品で表現したいと。自分がどんなに
家族を想っているかを形に残しておきたいと。
 そのためには、作家という肩書きが何よりも重要なのだ。
『秘密はちゃんと守っとるよ。生徒にも読ませたけど、それはかまへんよな?』
「まあ、いいですけど……」
 何を思ってそんなものを読ませたのか、少し気になった。
『それでな、泉』
 ななこの声のトーンが変わった。張り詰めた空気が受話器越しに伝わってきた気がした。
『泉は、今の道を選んでよかったと思っとるか?』
 こなたは両親と同じ大学の文学部に進学した。成績的に当時のこなたにはかなり厳しい
選択だったが、こなたの努力とななこの後押しでどうにか合格した。小説でも似たような
経緯が綴られている。
「何かあったんですか?」
『詳しいことは言えんけどな、ウチの生徒で女優になりたいって奴がおったんや。親御さ
んにも反対されたんやけど、それでもって。結局、大学に行きながら芝居の勉強しろって
言ったんやけど』
「妥当な案じゃないですか」
 十分詳しい情報を喋っていますよ、と突っ込むのはやめておいた。
『せやけど、学校行きながら他の勉強するってきついやろ? スパッと諦めさせたほうが
良かったんやないかって思ったりしてな』
「先生も悩むことあるんですね」
『他人の人生かかっとるからな』
 ななこも苦労しているのかもしれない。そう思ったからこそ、こなたはかつてななこに
言われた言葉を思い出した。
 ――先生っちゅうもんはな、先生って呼ばれるだけの仕事をせなあかんのや。それがで
きとったら、勝手に先生って呼んでくれる。
 こなたの胸に残る言葉だった。相応の肩書きを持っていれば、先生と呼んでもらうこと
はできる。だが、心を込めて先生と呼んでもらうのは誰にでも出来ることではない。
 先生と呼ばれる人は、みんな先生として努力しているのだ。
「十年後も先生って呼んでくれるんだったら、その子は先生に感謝してますよ」
『なんやそれ。十年も待たなあかんのか』
「はい。……だからそれまで元気でいてくださいね、先生」
『……まあ、お前も頑張れや。泉センセ』
 弾むような声で、先生と呼びかけてくれた。こなたもそれに答える。
「ありがとうございます、黒井先生」
 今こうしていられるのは、お互いが先生という仕事を全うしたから。
 法廷ものを書くという理由でかがみに取材のアポを取ってある。医者や料理人を主人公
にした話も構想を練っていて、いずれみゆきやつかさに取材をしたいと思っている。親友
たちが立派に先生をやっているところを、作品で表現したいと思った。
 自分の中にある愛や価値観、思い出、心の中にあるものを物語として伝えるのが作家と
いう仕事なのだから。













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  • いい話だ。心が暖かくなるようだよ。 -- 名無しさん (2012-12-10 23:04:28)
  • 感動した_φ( ̄ー ̄ ) -- 名無しさん (2010-06-21 15:31:28)
  • あれ、ここたしか人間界なのに、何で神がSS書いてるんだ・・・? -- 名無しさん (2008-10-20 23:04:20)
  • 素敵な話をありがとうございました、先生! -- 名無しさん (2008-08-23 23:00:20)
  • ところで・・・黒井先生はまだ"黒井"なんですか?

    あれ?ウチに誰か来た金髪の女性 qあwせdrftgyふじこlpとは -- 名無しさん (2008-08-23 18:37:39)
  • 長かったが素晴らしく良い話だった。GJ。 -- 名無しさん (2008-08-11 00:24:09)
  • コンナセンセイバカリナラヨイノニ…orz

    とってもよい話でした
    GJ!! -- 名無しさん (2008-08-01 10:47:18)
  • 感動した。本当に感動した -- 名無しさん (2008-04-20 02:25:22)
  • よくもまぁ…ここまでやるもんだ…感動した -- 名無しさん (2008-01-18 18:09:15)
  • ええ話や… -- 名無しさん (2008-01-18 11:29:22)

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