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栗色攻略戦 後編

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匿名ユーザー

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 夕日の差し込む教室――と、いきたいところだったけど、そんな都合のいい場所はなかった。
 まだけっこう人が残ってるし、今日は曇ってるし、そもそも日の入りまであと四、五時間はある。
 でも、コレはコレでいいもんだね。
 曇天下の屋上。
 最終ステージとしては、悪くない。

「――それで、泉ちゃん。何を調べるの?」

 峰岸さんが、一定の距離を保ったまま問いかけてくる。
 この場には今、私と彼女、二人だけ。
 その距離感は図書室で大机を挟んでいたときと変わらない。
「うん」
 私の方も、あえて、その距離を縮めようとはしない。
 今はまだ。
「まずは感想を聞きたいかな。さっきの、みさきちとの対決、“読者”として、どう思った?」
 ああ、早口になってるよ、私。
 緊張してるみたいだ。
「そうねえ……」
 峰岸さんの顔の向きが、私から微妙に外れる。そして一言。
「ハラハラしたわ」
「はらはら?」
 オウム返しに訊き返すと、視線だけが戻ってきた。
「ええ。みさちゃんったら、簡単に誘導されちゃうんだもの。しかも全然それに気付かないし」
 なるほど。みさきちの側に立ってると、そうなるわけか。面白い。
 ひよりんの気持ちが少し分かったかも。“創作活動”も悪くないもんだね。
 ってゆーか、
「それって、暗に『自分には効かない』って言ってる?」
「あら、そんなふうに聞こえちゃった?」
 にっこりと笑う峰岸さん。
 例の“多重笑顔”だ。威嚇されてる。
「気付いてないかもしれないけど、みさちゃんの勘の良さは半端じゃないのよ? 大人になって、
理屈で考えることを憶えちゃったから今は昔ほどじゃないけど、それでも普通なら誤魔化せないわ。
大したものよ、泉ちゃん」
「……そーなんだ」
 まあ、確かに野生の勘がどうたらってキャラしてるけど……ん?
 って話しすりかわってるじゃん! そもそも最初から否定してないし!
 まったく、油断もスキもありゃしない。
 睨んでやると、まるで毒気のない笑顔が返ってきた。手ごわい。
「あとは、そうね……」
 そしてまた、ふい、と視線が逸れる。
 狙ってやっているのか、考えながら話すときのクセなのか。
 そもそもその糸目の視線は本当に私から外れているのか。
「――対決、って言うけど、肝心の決着がついてないわよね? 泉ちゃんが一方的に情報を
得ただけで終わっちゃって」
「そう……なるね」
「ええ。だから今はまだ、それ以上のことは言えないわ。今後の展開に期待、って感じかしら」
 言い終えて、一拍置いて、そしてまたこちらを見据えてくる。
 慎重な態度だ。向こうもまた緊張しているのか。それともあくまで迎撃に徹する腹なのか。
 どっちにしても、それじゃ困るんだよね。
 私はもっと貴女が見たいんだから。

「それだけ?」
「そうよ?」
「もうちょっと何かあってもいいんじゃない? 例えば、次はこんなのが見てみたい、とか」
「そんなこと言われてもね……」
 困ったような笑顔を「見せる」峰岸さん。
 そうじゃない。
 そんな、わざと差し出されたもので満足するぐらいなら、最初からこんなマネはしてないんだよ。
「……みゆきさんが言ってたんだけどね」
 今度は私の方から目を逸らす。
 あ、喋りやすいねコレ。
「高良ちゃん?」
「うん。――自分は本とか読んで、一方的に受け取るばかりだから、作り手の手伝いができるなら
それは嬉しいことだ、って」
 でも、やっぱり見なきゃ。今は些細な変化も見逃したくない。
「そんなふうに思ったこと、ないかな?」
「う~ん……ないなぁ」
「思ってみようとは、思わない?」
「思わない……というより、この場合、それは当てはまらないわよ」
「なんで?」
「だって手伝いと口出しは違うでしょ?」
 ……動かないね。
 こっちが焦れそう。
「じゃあ、特に希望はないわけだ。どんな展開でも黙って見てるだけなんだね」
「ええ? そうは言ってないわよ」
「なら、あるけど言わない?」
「そうね。そういうこと」
「なるほど。希望そのものはあるわけだ」
「……ふふ。なんだか誘導尋問みたいね」
「そんな上等なもんじゃないよ」
 くすくすとおかしそうに笑う峰岸さんに、肩をすくめて返す。
 いやホント。
 実際、何を喋ってるのか自分でもよく分からなくなってるし。焦れそうっていうか焦れてるよ既に。
 峰岸さんは笑いを収めると、小さく息をついた。
「……そこまで言うなら、言ってみようかな?」
 そして目を開く。
 全開ではなく、薄っすらとでもなく、ただ普通に。
 口元の微笑みもどこか冷たいものへと変わっている。
 初めて見る、攻めの表情。
 こちらの焦りを見て取ったか。

「みさちゃんを泣かせるような真似だけは……しないで欲しいな……」

 同時に一陣の風が吹きぬけて、その長い栗色の髪をなびかせた。
 ……タイミングよすぎだって。
 でも、やっぱりそこか。
 予想は――いや、ほとんど確信してたけど、やはりみさきちこそがこの人の逆鱗。
 ならもう、そこを突くしかないよね。
「……どうしよう、か――な……」
 だけど。
 温度が。
 それを口にした瞬間、急激に下がった。気がした。

「……やめてね?」

 あはははは。
 うっわぁ。
 なにコレ。
 ってゆーか、だれコレ。
 目の前の顔は、けど逆に普段の峰岸さんのそれに近い。目を細めていて、口元は薄く微笑んでいて。
 強いて言うなら、その目の細さは、糸ではなく針の鋭さ。
 形そのものはほとんど変わらないのに、ただその威力だけがこちらを突き刺す凶器と化している。
 本当に、ネタ抜きで、目の前に抜き身の刀を突きつけられているかのよう。
「こっ――」
 ノドがカラカラだ。ツバがつっかえる。
 無理だ。
 私には、無理だ。勝てっこない。
 みさきちやかがみは知っているんだろうか、彼女のこんな姿を。
「……怖いな」
 声が震えた。
 ヒザも震えてるし。
 この距離なら見えてるかな。どっちだろ。
 ま、どっちでもいーや。
「私には……泉ちゃんの方が、怖いけどな……」
「そういうトコロが怖いんだって。……ヤンデレの素質あるよ、峰岸さん」
「……? やんでれ……?」
 気力を総動員して軽口を叩くと、峰岸さんはゆっくりと首をかしげながらつぶやいた。
 さすがに知らないか。おとといはツンデレすら微妙に理解してなかったし。
「ん……例えば、鬼子母神、とかかな」
 半ば逃げの気持ちで、とりあえず一般人でも知ってそうなものを挙げてみる。
 我が子の飢えをしのぐため、他人の子をさらってその肉を喰らわせたという、伝説の鬼女。
 母子じゃないけど、近いものがあるよね。
 みさきちのためなら、特に守るためならどんなコトだってやりそうだ、この人は。

 ……ああ、そうか。

 自分で言って、自分で気付いた。うん。そりゃ勝てる気がしないわけだ。
 子を想う母の情念に、母親を知らない私が太刀打ちできるはずがない。
 知らないからこそ逆に、って考え方もあるかもだけど、
 私の場合は「母親」というものを神聖視しすぎてる向きがあるからね。どっちにしたって無理。
 そもそも最初から勝とうなんて思ってないし。

「――怒っていいのかしら」
「え?」
 あれ?
 峰岸さんがさらに恐ろしげな形相になっていらっしゃる。一体何が。
「――って! や! ちがう! ご、ごめん! ちょっと喩えが極端すぎた!」
 慌てて手を振る。首を振る。
 あれ、じゃないよ。
 ちょっとでもないし。
 鬼子母神の素質がありますねなんて言われたらそりゃ誰だって怒るでしょ。何考えてんの。
 そもそもヤンデレからして良い意味とは言えないし。一般人にとっては。
「や、ホントごめん。オタクの戯言だと思って忘れて?」
「……もう、泉ちゃんは」
 呆れていらっしゃる。
 てゆーか顔が元に戻ってる。……本気じゃなかったのか。
 まあいーや。もう十分。むしろ本気にならないでくれて助かった気分。情けないけどね。
 それに、そろそろいいだろう。本音を言えばもうちょっとカッコ良く行きたかったトコロだけど。

「それとね、安心していいよ」
 肩の力を抜いて、言う。
「え?」
「別にみさきちを泣かせたりとかしないから。ってゆーかさ、できっこないんだよね、そんなこと」
 普段のノリで喋ってるつもりだけど、できてるかな?
 峰岸さんの表情は、一言でいえば困惑している。戸惑い半分疑い半分、って感じ。
 空気を急に変えすぎたかも。
「わからないかな? みさきちは、最初から私をすっ飛ばしてかがみのところに行って、最後まで私を
介入させないまま終わらせた。だから今回のコレはかがみとみさきち二人の問題で、私は蚊帳の外
だった。今さら割って入ったって、何もできないんだよ」
「……そうかしら」
「そうだって。考えてもみてよ。例えば、仮にみさきちがさっき言ったみたいに中間テストでがんばって、
それでかがみが私を見直してくれたとして、どうなると思う?」
「…………、……!」
 そこまで言って、ようやく、峰岸さんの目に理解の色が浮かび上がる。
「わかった?」
「……ええ」
 そして指先を唇に当てて、ためらいがちに彼女はうなずいた。
 私はそんな峰岸さんに、にっこりと笑顔を向ける。

 そうなんだよね。
 みさきちは負けを認めるかもしれないけど、肝心のかがみがそんな判断をするわけがないんだ。
 それまでのみさきちの努力を無かったことにして前の状態に戻るだなんて、
 あの優しくて不器用なかがみにできるわけがない。
 かといって変な小細工で二人を引き離しなんかしたら、それこそ逆効果。
 そんなんじゃみさきちは負けを認めないだろうし、下手したらかがみにまで嫌われる。
 正攻法も搦め手も通用しない。
 まったく、確かに大した勘の良さだよ、ホント。
 こんなにも完璧で隙のない手を初っ端から使ってくるなんて、ね。無自覚なところがさらに恐ろしい。

「じゃあ、どうするの?」
 しかしまだどこか懐疑的な調子で、峰岸さんは言う。
 どうするかって?
 簡単だよ。勝てないなら、勝たなきゃいいんだ。
「だから、どうもしないってば」
「いいの? 泉ちゃんはそれで」
「そりゃ満足なんてしてないよ。正直悔しいし、かがみは私のヨメだって気持ちには変わりはないし。
でもいいんだ。妥協、って言ったらアレだけど、かがみの意思を尊重しようかな、って。」
「……」
 ありゃ、ますます固くなっちゃってる。
 遊びすぎたかな。
「だったらなんで、こんな回りくどいマネしたのか――って思ってる?」
「……」
 無言で、慎重なうなずき。
 思わず苦笑い。
「あの手紙が、みさきちはフェイクで、本命は峰岸さんだってことは分かってるよね?」
「……ええ」
「それが答えだよ」
「…………私の、何が狙いだっていうの?」
 ううん、どうやら本気で困惑してるね。表情を取りつくろうことすらやめちゃって。
 どっちかって言えばこういうことにこそ気の回る人だと思ってたんだけど。
 てか軽くヘコむよ。一体私はどんだけ危険視されてるんだろ。
 って人のコト言えないか。鬼子母神扱いとかしちゃったし。
 しょうがない。温度差を調整しなおそう。

 息を吐いて、
「本気にさせたかった」
 表情を消す。
「……本気?」
「そう」
 うなずいて、一拍。脳内パーソナリティーを入れ替える。
 配役は、長門でいいか。
「本気にさせて、かがみを中心とするこの状況に貴女を介入させること。それが私の目的。
そのために、貴女の大切な友人を騙して情報を得るような真似までして見せた。そうすれば
貴女は傍観者でいられなくなると思ったから。つまり――」
「……」
「全ては、“読者”に甘んじている貴女に、“ここ”まで降りてきてもらうため。その動機は――」
 再び肩から力を抜いて、
 表情と口調を、戻す。

「“読者”と“登場人物”じゃ、友だちになれないじゃん?」

「……え……」
 峰岸さんが呆然となった。
 ちょっと、いやかなり面白いかも。
「そっ、それだけ、なの?」
「そだよ」
 勝てないなら、勝たなきゃいい。
 つまり敵対しなければいいんだよ。
「え? でも、だって……え?」
 手と視線をあっちこっちにさまよわせて、軽くパニくる峰岸さん。
 さっきまでと違ってずいぶんと忙しそうだ。
 頃合いを見た私は、カバンを開いて用意しておいた切り札を取り出した。
 葉書きサイズの白い封筒。曇天下でもそれなりの光を集め、相手の注意を引きつける。
「な、なに?」
「友好の証、ってトコロかな」
 訝しげな問いに、答えて歩み寄る。一歩下がられたけど気にしない。
「はい」
 差し出すと、ぎこちない動きで受け取ってくれた。
 しかしそれ以上は動かず、顔全体で疑問を投げかけてくる。
「開けてみて」
 こればっかりはその目で確認して欲しい。だってせっかく二時間もかけて手作りしたんだから。
 やがて峰岸さんは観念したように封筒の口を開いた。
 出てきたのは、これまた葉書き大の、二つに折りたたまれたケント紙。
 裏面は白紙で、表には花模様の縁取りを施してある。
 その中央に印刷された文字を、峰岸さんが読み上げた。
「招待状……?」
 また私を見て、それからゆっくりと開く。
「……峰岸、あやの様……来たる九月十六日……岩崎みなみちゃんの……誕生日? ――を、
祝う会に、あなたを招待いたします……泉、こなた」
 英文を空で訳してるみたいな口調で、記された全ての文が音読される。
 ちょっと恥ずかしかも。
 てゆーか改めて耳で聞くと色気のない文章だね。丸一日考えた結果がコレか。
 決めたときは「シンプルイズベスト!」 とか思ったんだけどなあ。
「なに、これ?」
 峰岸さんが、いよいよ訳が分からないといった様子で私を見下ろしてきた。
 ちょっとした見ものかもね。
「見ての通りだよ」
「見ての、って……十六日って、明日、よね?」
「うん。ホントの誕生日は十二日なんだけどね。パーティーはその日。――予定あった?」
「ない、けど……」
「そか。よかった。それだけが心配だったんだ」
「……」
 もう困惑や混乱を通り越して、途方に暮れている。さすがに気の毒になってきた。
 半笑いのため息をついて、私は口を開いた。
「みなみちゃんのことは、知ってる? よね?」
「ええ……夏休みに……」
 戸惑いがちにうなずく峰岸さん。
 ああ、そっか。夏休みにゆーちゃんたちがみさきちと遊びに出かけたとき、彼女も一緒だったって
 ひよりんが言ってたっけ。なら私とゆーちゃんとみなみちゃん、三人の関係も知ってるはずだ。
 説明の手間が省けたね。
「うん。私のかわいいゆーちゃんの、大切な友だちだよ。その子が生まれた記念すべき日を、
ヘンな陰謀に利用したりなんかしない。――だからね、」
 そこで一旦言葉を区切り、目を伏せて胸に手を置いた。
「ゆーちゃんに誓って宣言する。私は、本当にただ貴女と友だちになりたいだけなんだ」
 これが切り札。
 これで信じてもらえなかったら、もう打つ手はない。


 顔を上げる。
 峰岸さんは少し茫然としていて、だけど私と目が合うと、その顔にゆっくりと笑みが浮かんだ。
「……負けたわ」
 そして小さくつぶやく。
 満足げな顔してよく言よ。ま、私も勝ったなんて思ってないけどね。
 あえて言うなら「逃げ切った」って感じかな。
 あるいは、チャンバラする気でいる相手をいきなり銃で撃った、とか。何かの映画でもあったね。
「じゃあ、来てくれるんだね?」
「いいえ」
「あり――」
 がとう、と言いかけて、固まった。そこに峰岸さんが招待状を突き返してくる。
「これは受け取れないわ」
「な、なんで!? 予定は空いてるんだよねっ?」
 愕然とする。
 逆にこっちが撃たれた気分だ。この流れで「だが断る」はないでしょ常識で考えて。
 慌てる私に、峰岸さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「だって泉ちゃん、みさちゃんには渡さなかったじゃない。私だけなんてイヤよ」
「あ……」
 ああ……なんだ。そんなコトか。
 びっくりしたぁ。
「そ、そっか。そりゃそーだよね。そーなるよね。ごめんごめん。でもだいじょぶだから」
 苦笑い。
 峰岸さんが首をかしげる。
「じゃあ、みさちゃんの分もあるの?」
「ん、ないけど。――じゃなくて、つまりね? 別に正式な招待状ってわけじゃないんだよ、ソレ。
このシーンのためだけに私が勝手に作った、ちょっとした演出の小道具みたいなモノだから。
みさきちのこともちゃんと誘うよ」
「でもみさちゃん、帰っちゃったわよ? 明日なんでしょ?」
「あ……」
 そうだった。
 やっちゃったZE。
 この人を相手にすることしか考えてなかったよ。策士策に溺れるとはこのことか。違うか。

「じゃ、じゃあ、峰岸さんから誘ってくれない?」
「もう……しょうがないんだから」
 呆れ果てた感じでため息を吐く峰岸さん。
 もう笑うしかないね。あっはっは。
「ご、ごめんね? お願いできるかな。ってゆーか、来てもらえるのかな?」
「ええ、行くわ。みさちゃんのことも任せて」
 もう一つため息。
「……最初から普通に誘ってくれればよかったのに」
「やっ、それはホラ、だから、だって、ね?」
「わかってるわよ。もう“読者”はやめます」
 そして峰岸さんの笑顔が、普段どおりの優しい笑顔にようやく戻った。
 普段どおり。
 そのはずなのに、私の記憶の中にあるものより何倍も綺麗に見えるのは、なんでだろう。
 修羅場をくぐり抜けたから、かな。
 ちょっとドキドキする。
「だから――これからは一緒に物語を作っていこうね、泉ちゃん」
「は、恥ずかしいセリフ、禁止」
「あらあら。役柄が変わっちゃったね」
 口元にこぶしを添えてくすくすと笑う峰岸さん。
「むぅ……でも、ありがと。あとゴメンね。なんか試すようなマネしちゃって」
「ううん、楽しかったよ」
 すっかり余裕を取り戻したそんな姿がなぜか悔しくて、ついちょっかいを出したくなる。
「そう? そーいやノリノリだったよね。おとといも、」
 ぴっ、と人差し指を一本立てて。
 ニヤリと意地悪く笑ってみせた。
「『じゃあ、ヒント』、とか言ってすっごい楽しそうだったし。実はけっこうこういうの好きだったりする?」
「ふふっ、そうかも」
 しかし峰岸さんは動じることなく。
「……またこんど、やってみる……?」
 再び鬼子母神の冷笑を浮かべながら、そんなことを言ってくる。
「ご、ご勘弁を……」
 冗談だとは分かるけど、それホント怖すぎるから。
 ああもう、やっぱ敵わないや。

 ひとしきり恐れおののいて、なんかコレばっかりだなぁなため息をついて、私は手を伸ばす。
「それじゃ、改めてよろしくね。峰岸さん」
「うん、よろしく。泉ちゃん」
 その手を優しく握り返しながら、峰岸さんもトゲの抜けた笑顔でうなずいてくれた。
 そしてふと小首をかしげて、
「……名前で呼んではくれないんだね?」
「これ以上みさきちにヤキモチ焼かれたくないからね」
「ちゃんと考えてくれてるんだ」
「あったりまえだよ。こう見えても友達のことは第一に考える主義なのさ」
 どんよりと曇った空の下で。
 それでも明るく笑いあいながら。
 こうして私たちは、友だちになった。

 栗色攻略、成功!


     ☆


 ……でもね、泉ちゃん。
 ちゃんと考えて、最善の選択をして。
 それだけじゃ足りないときもあるんだよ?
 言葉にして伝えるべきことを、伝えるべき相手に、手遅れになる前に、あなたは言えるのかしら……?


     ☆


「――何か言った? 峰岸さん」
 浮かれた気分で屋上の出入り口に向かう私の耳に、何かが届いた気がした。
 振り返ると、峰岸さんは、
「うん。これからみさちゃん誘って、岩崎ちゃんのプレゼント選びに行こうかなって」
 風に流れる髪を梳き上げながら微笑んで、そう言った。
「あ、そっか。……ごめんね? 急な話で」
「いいのよ。――あ、じゃあ泉ちゃん、付き合ってくれる?」
「ん、わかった。ってゆーかゼヒ!」
 自分の都合のために告知を直前にしてしまった罪悪感――否。
 もっと単純に、新しい友だちと遊びたいという気持ちから、私は勢いよくうなずく。
「私はもう買っちゃったけど、その分、全面的に手伝うよ」
「そう? ありがと。何を買ったの?」
「んっふっふ。見てのお楽しみさ♪」


 ……たぶん私は、浮かれていたんだと思う。
 いや、間違いなく浮かれていた。 
 浮かれていて、忘れていたんだ。
 携帯電話のことを。
 かがみから入っていた着信のことを、つい十数分前に目にしたはずのそれのことを。
 私は忘れていたんだ。

















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  • うおーw先が気になるぅw -- 名無しさん (2008-03-30 23:34:23)
  • ツヅキツヅキヲクダサイコウフンシスギテシニソウデスwwwwwwwwww -- 名有りさん (2008-01-23 02:41:58)
  • 続きが気になって鼻血が出そうだ… -- 名無しさん (2008-01-22 14:51:08)
  • 気になる!
    続きを、どうか続きはやく -- 美緋 (2008-01-22 02:57:45)

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