同人誌には、生モノと呼ばれるジャンルがある。
実在の人物を題材にした作品の総称であり、その萌えの対象はアイドル、バンド、芸能人、
お笑い、スポーツ選手、俳優、声優、政治家など多岐に亘るが、歴史上の人物に関しては
『干物』と呼ばれ、生モノとは区別される。
基本的に女性作家が多く、内容は男同士、つまりやおい物が多いが、もちろん例外はある。
例えば『らっきー☆ちゃんねる』で長いことコンビを組んでいる小神あきら×白石みのると
いうカップリングの同人誌を作る者もいるわけで――
「どーゆーことよ!?」
『らっきー☆ちゃんねる』のタレント用の控え室で、小さい机を挟んで番組出演者の二人
が座っていた。そのうちの一人、小神あきらが凄まじい怒りの形相で、数冊の同人誌を机に
叩きつけた。この夏のコミケのいくつかのサークルで新刊として発行されたものである。
「ど、どうって言われましても……」
その向かいにいるのは白石みのる。こちらはただうろたえることしかできない。
「どうしたんですか、それ?」
「なんか番組宛てに送りつけられてたのよ」
生モノにおける萌えの対象をご本尊と呼び、当然だがご本尊に作品を見せることは暗黙の
了解で禁じられている。しかし何事にも例外はあるもので、そういった掟を理解していない
馬鹿者が暴走してご本尊に同人誌を送りつけてしまうということが稀にある。
「ディレクター、止めてくれなかったんですか……」
白石はげんなりした。
事務所宛てに送りつければ、もちろん本人の眼に触れないように差し止めてくれる。番組
のディレクター宛てにしても同様のはずだが、この番組のディレクターはそうしてくれなか
ったようだった。その意図を白石は用意に察することができた。この同人誌を今回の番組の
ネタにしろということだ。白石はまだ中身を読んでいなかったが、表紙を見れば内容を推測
するには十分だった。
「なんであたしがアンタなんかと!」
「僕に言われましてもっ、ぐあっ!」
机越しに身を乗り出したあきらに襟首を掴まれて白石は息ができず、悲鳴を出したせいで
肺の中の空気も搾り出してしまう。すぐに苦しくなってあきらにタップした。
「どこ触ってんのよ!」
「うぐっ」
あきら、怒りのボディブロー。白石は最後の酸素を吐き出し、床にのた打ち回った。
さらに追い討ちをかけるべく、あきらは白石を踏みつけようと足を上げて、そこで動きが
止まった。
「……アンタ、まさかあたしに踏まれて喜んだりしないでしょーね」
あなたは何を言っているんですかと聞き返したかったが、まだ白石の肺は正常に動いて
くれなかった。
「あ、あたしに、あそこを踏まれて、気持ちよくなったりとか!」
あきらには珍しく、頬を紅く染めて言い淀んだ。カメラの前ではアイドルとして猫を被って
いるあきらだが、そのアイドルとしても見せることのない、ある意味可愛らしい表情だった。
もっとも、そうなった原因は例の同人誌の内容を思い出したせいだったりするのだが。
「この、変態!」
鳩尾を一蹴り。白石は悲鳴すらあげられず、さらにのた打ち回る。
白石はただ単に返事できなかっただけなのだが、あきらはそれを肯定と受け取ってしまった。
「アンタとなんて、絶対にないわよ!」
そんな捨て台詞を残して、あきらは控え室を出て行ってしまった。
実在の人物を題材にした作品の総称であり、その萌えの対象はアイドル、バンド、芸能人、
お笑い、スポーツ選手、俳優、声優、政治家など多岐に亘るが、歴史上の人物に関しては
『干物』と呼ばれ、生モノとは区別される。
基本的に女性作家が多く、内容は男同士、つまりやおい物が多いが、もちろん例外はある。
例えば『らっきー☆ちゃんねる』で長いことコンビを組んでいる小神あきら×白石みのると
いうカップリングの同人誌を作る者もいるわけで――
「どーゆーことよ!?」
『らっきー☆ちゃんねる』のタレント用の控え室で、小さい机を挟んで番組出演者の二人
が座っていた。そのうちの一人、小神あきらが凄まじい怒りの形相で、数冊の同人誌を机に
叩きつけた。この夏のコミケのいくつかのサークルで新刊として発行されたものである。
「ど、どうって言われましても……」
その向かいにいるのは白石みのる。こちらはただうろたえることしかできない。
「どうしたんですか、それ?」
「なんか番組宛てに送りつけられてたのよ」
生モノにおける萌えの対象をご本尊と呼び、当然だがご本尊に作品を見せることは暗黙の
了解で禁じられている。しかし何事にも例外はあるもので、そういった掟を理解していない
馬鹿者が暴走してご本尊に同人誌を送りつけてしまうということが稀にある。
「ディレクター、止めてくれなかったんですか……」
白石はげんなりした。
事務所宛てに送りつければ、もちろん本人の眼に触れないように差し止めてくれる。番組
のディレクター宛てにしても同様のはずだが、この番組のディレクターはそうしてくれなか
ったようだった。その意図を白石は用意に察することができた。この同人誌を今回の番組の
ネタにしろということだ。白石はまだ中身を読んでいなかったが、表紙を見れば内容を推測
するには十分だった。
「なんであたしがアンタなんかと!」
「僕に言われましてもっ、ぐあっ!」
机越しに身を乗り出したあきらに襟首を掴まれて白石は息ができず、悲鳴を出したせいで
肺の中の空気も搾り出してしまう。すぐに苦しくなってあきらにタップした。
「どこ触ってんのよ!」
「うぐっ」
あきら、怒りのボディブロー。白石は最後の酸素を吐き出し、床にのた打ち回った。
さらに追い討ちをかけるべく、あきらは白石を踏みつけようと足を上げて、そこで動きが
止まった。
「……アンタ、まさかあたしに踏まれて喜んだりしないでしょーね」
あなたは何を言っているんですかと聞き返したかったが、まだ白石の肺は正常に動いて
くれなかった。
「あ、あたしに、あそこを踏まれて、気持ちよくなったりとか!」
あきらには珍しく、頬を紅く染めて言い淀んだ。カメラの前ではアイドルとして猫を被って
いるあきらだが、そのアイドルとしても見せることのない、ある意味可愛らしい表情だった。
もっとも、そうなった原因は例の同人誌の内容を思い出したせいだったりするのだが。
「この、変態!」
鳩尾を一蹴り。白石は悲鳴すらあげられず、さらにのた打ち回る。
白石はただ単に返事できなかっただけなのだが、あきらはそれを肯定と受け取ってしまった。
「アンタとなんて、絶対にないわよ!」
そんな捨て台詞を残して、あきらは控え室を出て行ってしまった。
「な、なんなんだ……」
しばらく呼吸と痛みに苦しんで、ようやく回復した。今回の件では白石に全く非はなく、
災難だったという他ない。
「書くだけならともかく、なんだわざわざ送ってくるんだ」
これらの同人誌を送ってきたのは作者本人ではなく、きっとご本尊が読んでも気に入るに
違いないと勘違いした一読者であった。そういう意味では作者も災難である。
もちろん白石がそんな事情を知るはずもなく、ただ作者が恨めしいばかりである。どんな
事情があろうとも、火の粉を被るのは白石なのだ。
「僕とあきら様って……ありえないよな」
机の上に置き去りにされた同人誌を見やる。番組をやるたびに身も心もフルボッコにされ
ている現実を考えれば、恋人関係になることなど絶対にありえない。
「ありえない……よな……」
それでも同人誌をちらちらと見てしまう。どのくらいありえない内容なのか気になる。
「トークのネタにするには、読まないとな」
彼も年頃の男子なのである。
机の上に重ねられたうちの、一番上の本を手にとって開いてみた。その内容は……
白石が踏まれていた。あきらが白石の勃起した男性器を踏み、ぐりぐりと嬲っていた。
何故かあきらは裸であり、この後にコトに及ぶことが容易に想像できた。
『中学生に踏まれて喜んでるんだー。この変態アシスタントが』
きっちり言葉責めも忘れない。そのまま本の中の白石は嬲られ続け、あきらの足に射精した。
「これかー……」
さっきあきらが踏まなかったのも合点がいった。もしあの状況で踏まれていたら……
その場面を想像してしまった。気が付けば下半身がムクムクと……
「なっ……!」
普通のエロ本ならともかく、よりによってこんな内容のエロ漫画に反応してしまったこと
に、軽くパニックになっていた。
(僕は変態じゃない、僕は変態じゃない。きっと女の子の裸の絵を見ちゃったから……って
14歳じゃ十分変態じゃん!)
必死になって否定しようとすればするほど、下半身の膨らみを意識してしまう。もうすぐ
収録が始まるこの時間に、発散するわけにもいかない。
本を閉じて目を閉じ、何か別なことを考えようと精神を集中する。
「3.14159265358979323846……」
「白石さん……何やってるんですか?」
白石を呼びに来たADに目撃され不審がられたが、大した問題ではなかった。ただ、立てる
ような状態になるまでその場を取り繕うのに苦労しただけだ。
しばらく呼吸と痛みに苦しんで、ようやく回復した。今回の件では白石に全く非はなく、
災難だったという他ない。
「書くだけならともかく、なんだわざわざ送ってくるんだ」
これらの同人誌を送ってきたのは作者本人ではなく、きっとご本尊が読んでも気に入るに
違いないと勘違いした一読者であった。そういう意味では作者も災難である。
もちろん白石がそんな事情を知るはずもなく、ただ作者が恨めしいばかりである。どんな
事情があろうとも、火の粉を被るのは白石なのだ。
「僕とあきら様って……ありえないよな」
机の上に置き去りにされた同人誌を見やる。番組をやるたびに身も心もフルボッコにされ
ている現実を考えれば、恋人関係になることなど絶対にありえない。
「ありえない……よな……」
それでも同人誌をちらちらと見てしまう。どのくらいありえない内容なのか気になる。
「トークのネタにするには、読まないとな」
彼も年頃の男子なのである。
机の上に重ねられたうちの、一番上の本を手にとって開いてみた。その内容は……
白石が踏まれていた。あきらが白石の勃起した男性器を踏み、ぐりぐりと嬲っていた。
何故かあきらは裸であり、この後にコトに及ぶことが容易に想像できた。
『中学生に踏まれて喜んでるんだー。この変態アシスタントが』
きっちり言葉責めも忘れない。そのまま本の中の白石は嬲られ続け、あきらの足に射精した。
「これかー……」
さっきあきらが踏まなかったのも合点がいった。もしあの状況で踏まれていたら……
その場面を想像してしまった。気が付けば下半身がムクムクと……
「なっ……!」
普通のエロ本ならともかく、よりによってこんな内容のエロ漫画に反応してしまったこと
に、軽くパニックになっていた。
(僕は変態じゃない、僕は変態じゃない。きっと女の子の裸の絵を見ちゃったから……って
14歳じゃ十分変態じゃん!)
必死になって否定しようとすればするほど、下半身の膨らみを意識してしまう。もうすぐ
収録が始まるこの時間に、発散するわけにもいかない。
本を閉じて目を閉じ、何か別なことを考えようと精神を集中する。
「3.14159265358979323846……」
「白石さん……何やってるんですか?」
白石を呼びに来たADに目撃され不審がられたが、大した問題ではなかった。ただ、立てる
ような状態になるまでその場を取り繕うのに苦労しただけだ。
「3、2、1、キュー!」
ディレクターによる、番組開始の合図がとぶ。
『おはらっきー! らっきー☆ちゃんねる司会の小神あきらでーす!』
……と、本来ならば、そんなあきらの名乗り上げから番組が始まるはずなのだが、いくら
待ってもあきらは仏頂面で黙ったままだった。
「あの、あきら様……?」
本番中にあきらがそうなったことは何度かあったが、白石が変な恰好をしたときを除いて
オープニングから黙ってしまうというのは初めてのケースであり、戸惑った白石はおずおず
と話しかけた。
「あ?」
あきらは鋭い目つきで白石を睨みつける。
「も、もう本番始まってますから……」
本番、という自分自身の言葉に、白石は別の意味を連想してしまった。
さらに、あきらの鋭い視線に晒されて自分が詰られる様を想像して、何故か胸が高鳴って
しまった。
「ちょっと白石! なんで赤くなってんのよ!?」
あきらが白石に掴みかか――ろうとして、白石の襟首に手が届く直前で動きが止まった。
あきらもまた、同人誌の内容を思い出してしまったのだ。
実に豊富なバリエーションでもって、二人の情事が描かれていた。
例えば、番組の関係そのままにあきらが白石を尻に敷きながら恋人関係を続けているもの。
例えば、もっと暴力的にSとMの関係で、プレイもそういう内容のもの。
例えば、番組が終わった途端、あきらが『ごめんね』としおらしくなるというもの。
例えば、白石が『下克上』をする、というもの。
あきらは送られた同人誌を全部読んでしまっていた。あきらもまた年頃の女の子なのだ。
あれらの本のようなことが実現するのはゴメンなのだが、何をどうやっても実際の行動が
本の内容と被ってしまう。それであきらは動けないでいた。
「どうしたんですか?」
「なに期待してんのよ、この変態!」
「へ、変態じゃないですよ!」
ある意味図星を突かれて狼狽する白石。
「うるさい、近寄るんじゃないわよ!」
どの本にも書いてなかった攻撃手段としてあきらは灰皿を投げつけ、見事に命中した。
「ちょっとあたしが優しくしたからって調子に乗るな!」
「いつ優しくしたんですか」
番組進行を無視して続く言い争い――
この回の放送は白石がいつも以上の被害を受けていたということで、概ね評判が良かった。
同人者からは『白石が変態と呼ばれるようなことをやったのだ』と全くの誤解を受けながらも、
やはり評判は良かった。もちろん彼らは白石の災難など知る由もない。
この後、白石は数週にわたってあきらに嬲られ続けることになる。
結論、夏場の生モノは取り扱いに注意すること。
ディレクターによる、番組開始の合図がとぶ。
『おはらっきー! らっきー☆ちゃんねる司会の小神あきらでーす!』
……と、本来ならば、そんなあきらの名乗り上げから番組が始まるはずなのだが、いくら
待ってもあきらは仏頂面で黙ったままだった。
「あの、あきら様……?」
本番中にあきらがそうなったことは何度かあったが、白石が変な恰好をしたときを除いて
オープニングから黙ってしまうというのは初めてのケースであり、戸惑った白石はおずおず
と話しかけた。
「あ?」
あきらは鋭い目つきで白石を睨みつける。
「も、もう本番始まってますから……」
本番、という自分自身の言葉に、白石は別の意味を連想してしまった。
さらに、あきらの鋭い視線に晒されて自分が詰られる様を想像して、何故か胸が高鳴って
しまった。
「ちょっと白石! なんで赤くなってんのよ!?」
あきらが白石に掴みかか――ろうとして、白石の襟首に手が届く直前で動きが止まった。
あきらもまた、同人誌の内容を思い出してしまったのだ。
実に豊富なバリエーションでもって、二人の情事が描かれていた。
例えば、番組の関係そのままにあきらが白石を尻に敷きながら恋人関係を続けているもの。
例えば、もっと暴力的にSとMの関係で、プレイもそういう内容のもの。
例えば、番組が終わった途端、あきらが『ごめんね』としおらしくなるというもの。
例えば、白石が『下克上』をする、というもの。
あきらは送られた同人誌を全部読んでしまっていた。あきらもまた年頃の女の子なのだ。
あれらの本のようなことが実現するのはゴメンなのだが、何をどうやっても実際の行動が
本の内容と被ってしまう。それであきらは動けないでいた。
「どうしたんですか?」
「なに期待してんのよ、この変態!」
「へ、変態じゃないですよ!」
ある意味図星を突かれて狼狽する白石。
「うるさい、近寄るんじゃないわよ!」
どの本にも書いてなかった攻撃手段としてあきらは灰皿を投げつけ、見事に命中した。
「ちょっとあたしが優しくしたからって調子に乗るな!」
「いつ優しくしたんですか」
番組進行を無視して続く言い争い――
この回の放送は白石がいつも以上の被害を受けていたということで、概ね評判が良かった。
同人者からは『白石が変態と呼ばれるようなことをやったのだ』と全くの誤解を受けながらも、
やはり評判は良かった。もちろん彼らは白石の災難など知る由もない。
この後、白石は数週にわたってあきらに嬲られ続けることになる。
結論、夏場の生モノは取り扱いに注意すること。
-おわり-
コメントフォーム
- おかしい表現があったので訂正。
ついでに言うと送り主はひよりんじゃありません。
それはそれで面白い展開になりそうなんですが、
送り主は誰だか知らないどっかの馬鹿者、ってことで。
-- 3-283 (2008-08-13 00:53:46)