魔法使い、あなたまで余計なことを喋るというのなら
「あんたは黙ってろ!」
魔法使いは杖を振り――
「え? あれ?」
「あ、ごめん。黙ってろっていうのは泉ちゃんに言ったんじゃないよ」
「じゃあ、誰に言ったのさ?」
「……『物語の意志』。もうあいつには一切干渉させない」
「あんたは黙ってろ!」
魔法使いは杖を振り――
「え? あれ?」
「あ、ごめん。黙ってろっていうのは泉ちゃんに言ったんじゃないよ」
「じゃあ、誰に言ったのさ?」
「……『物語の意志』。もうあいつには一切干渉させない」
「物語の意志?」
「この世界そのものって言ってもいいね。この世界で『シンデレラ』の物語を成立させよ
うとする意志。わたしが作り出して、泉ちゃんたちのことを滅茶苦茶にしちゃったモノ。
泉ちゃんも他のみんなも、どっかで自分にその『意志』が介入してることを感じていたん
じゃないかな。心当たりあるでしょ。知らないはずのことを知ってたり、その逆だったり」
「なぜか靴が毛皮製なのを変だと思ったり?」
「そ。言っておくけど、ゆたかちゃんたちはちゃんと血が繋がってるし意地悪な事なんか
しないし、かがみちゃんは妹を虐げたりするような人じゃないし、つかさちゃんやみゆき
さんは自分の利益のために家族を謀殺したりするような人じゃないよ。『物語』の設定が
勝手にそう決めただけだから」
「うん……」
「もちろんつかさちゃんは乱暴するような子じゃないしかがみちゃんを憎んだりなんかし
ない。みゆきさんは人の死を喜んだりなんかしないし、みなみちゃんは人を殺したりなん
かしないよ。それも『物語の意志』が勝手にやらせたことだから」
「……うん」
「この世界そのものって言ってもいいね。この世界で『シンデレラ』の物語を成立させよ
うとする意志。わたしが作り出して、泉ちゃんたちのことを滅茶苦茶にしちゃったモノ。
泉ちゃんも他のみんなも、どっかで自分にその『意志』が介入してることを感じていたん
じゃないかな。心当たりあるでしょ。知らないはずのことを知ってたり、その逆だったり」
「なぜか靴が毛皮製なのを変だと思ったり?」
「そ。言っておくけど、ゆたかちゃんたちはちゃんと血が繋がってるし意地悪な事なんか
しないし、かがみちゃんは妹を虐げたりするような人じゃないし、つかさちゃんやみゆき
さんは自分の利益のために家族を謀殺したりするような人じゃないよ。『物語』の設定が
勝手にそう決めただけだから」
「うん……」
「もちろんつかさちゃんは乱暴するような子じゃないしかがみちゃんを憎んだりなんかし
ない。みゆきさんは人の死を喜んだりなんかしないし、みなみちゃんは人を殺したりなん
かしないよ。それも『物語の意志』が勝手にやらせたことだから」
「……うん」
「『物語の意志』が暴走して、『シンデレラを幸せにする』こと以外の目的意識を全部と
っぱらっちゃったんだ。でも、グリム童話の世界って残酷だから、こんなことになっちゃ
った。ほんとにごめん」
「じゃあ、ひよりんが私のこと助けてくれたのは?」
「多分、泉ちゃん本人の意思も無視できなかったんだろうね。だから助けを求めれば誰か
助けてくれたし、泉ちゃんを殺しそうになったみなみちゃんは消滅した。泉ちゃんがこん
な世界いらないって言ったから、この世界は消滅するんだ」
「消滅って、や、やばいじゃん! 私はどうなるの?」
「慌てなくていいよ。わたしの魔法で泉ちゃんたちを元の世界に戻すから。物語は嘘をつ
けないけど、ここで起こったことは全部嘘になる」
「魔法ってそんなことまでできんの?」
「言ったでしょ。魔法を使うっていうことは、この世界が決めた約束に背くっていうこと。
この世界の約束はたった一つ、『シンデレラを幸せにする』こと。たったそれだけでこの
世界は成り立ってた」
っぱらっちゃったんだ。でも、グリム童話の世界って残酷だから、こんなことになっちゃ
った。ほんとにごめん」
「じゃあ、ひよりんが私のこと助けてくれたのは?」
「多分、泉ちゃん本人の意思も無視できなかったんだろうね。だから助けを求めれば誰か
助けてくれたし、泉ちゃんを殺しそうになったみなみちゃんは消滅した。泉ちゃんがこん
な世界いらないって言ったから、この世界は消滅するんだ」
「消滅って、や、やばいじゃん! 私はどうなるの?」
「慌てなくていいよ。わたしの魔法で泉ちゃんたちを元の世界に戻すから。物語は嘘をつ
けないけど、ここで起こったことは全部嘘になる」
「魔法ってそんなことまでできんの?」
「言ったでしょ。魔法を使うっていうことは、この世界が決めた約束に背くっていうこと。
この世界の約束はたった一つ、『シンデレラを幸せにする』こと。たったそれだけでこの
世界は成り立ってた」
「……でも、こんな世界で泉ちゃんが幸せになれるわけないんだよね。ほんとに、わたし
がバカだったよ。泉ちゃんがお姫様待遇っていうだけで幸せになれるって思ってたんだか
ら……そんなの泉ちゃんのガラじゃないのにね」
「よくわかんないけど、今は幸せじゃないと思う」
「うん……わたしも見てて辛かった。誰かが死んだり不幸になったり、他人事でもたった
それだけで悲しい気持ちになる人って沢山いるから……泉ちゃんはもっと辛かったよね」
「何でこんなことしたの?」
「泉ちゃんに幸せになって欲しかったから……別に、シンデレラじゃなくてもよかった。
白雪姫でもおやゆび姫でも何でもよかった。結局、わたしの自己満足なうえに大失敗だよ。
当たり前っていえば当たり前の結果だね」
がバカだったよ。泉ちゃんがお姫様待遇っていうだけで幸せになれるって思ってたんだか
ら……そんなの泉ちゃんのガラじゃないのにね」
「よくわかんないけど、今は幸せじゃないと思う」
「うん……わたしも見てて辛かった。誰かが死んだり不幸になったり、他人事でもたった
それだけで悲しい気持ちになる人って沢山いるから……泉ちゃんはもっと辛かったよね」
「何でこんなことしたの?」
「泉ちゃんに幸せになって欲しかったから……別に、シンデレラじゃなくてもよかった。
白雪姫でもおやゆび姫でも何でもよかった。結局、わたしの自己満足なうえに大失敗だよ。
当たり前っていえば当たり前の結果だね」
「やっぱり泉ちゃんたちには争ったり憎みあったり殺しあったりなんて似合わないよ」
「似合わないったって、生きてる以上はどこかでそういうことがあるんじゃない?」
「ないよ、絶対にない! もしそんなことが起こったとしたら……その世界は歪んでるん
だろうね。ここと同じように誰かの意志が働いて無理矢理不幸にされちゃった、紛い物の
世界だよ。泉ちゃんたちはそんなとこにいちゃいけない」
「自分で作っといて紛い物って」
「だからほんとにごめん。いくら謝っても謝りきれることじゃないけど……泉ちゃんたち
がいるべき世界では、そんなことは絶対ないよ。心配する人もいるだろうけど、大丈夫。
少なくとも泉ちゃんの好きな人たちは、ちゃんと泉ちゃんに好きになってもらえるような
いい人たちだから、心配しなくていいよ」
「そこって幸せな世界なの?」
「幸せな世界ってわけじゃないけど、シンデレラ……泉ちゃんが幸せになれる保証がない
代わりに、誰にでも幸せになれるチャンスがあって、泉ちゃんが自分の意思で人を好きに
なることができて、大きい不幸がない代わりに大きい幸せを掴むことも難しいけど、でも
それが普通だって思える、そういう世界。でも、そのほうがいいよね」
「うん。私を幸せにしようっていう意志が働いただけでこんなになっちゃったんだから」
「これから戻る世界には魔法が存在しないから、幸せになりたければ自分でなんとかしな
いといけないんだけどね」
「魔法がないって、それじゃ魔法使いはどーなるの?」
「泉ちゃんはこの世界のことを忘れちゃうだろうし、わたしは……泉ちゃんのそばには居
られない」
「似合わないったって、生きてる以上はどこかでそういうことがあるんじゃない?」
「ないよ、絶対にない! もしそんなことが起こったとしたら……その世界は歪んでるん
だろうね。ここと同じように誰かの意志が働いて無理矢理不幸にされちゃった、紛い物の
世界だよ。泉ちゃんたちはそんなとこにいちゃいけない」
「自分で作っといて紛い物って」
「だからほんとにごめん。いくら謝っても謝りきれることじゃないけど……泉ちゃんたち
がいるべき世界では、そんなことは絶対ないよ。心配する人もいるだろうけど、大丈夫。
少なくとも泉ちゃんの好きな人たちは、ちゃんと泉ちゃんに好きになってもらえるような
いい人たちだから、心配しなくていいよ」
「そこって幸せな世界なの?」
「幸せな世界ってわけじゃないけど、シンデレラ……泉ちゃんが幸せになれる保証がない
代わりに、誰にでも幸せになれるチャンスがあって、泉ちゃんが自分の意思で人を好きに
なることができて、大きい不幸がない代わりに大きい幸せを掴むことも難しいけど、でも
それが普通だって思える、そういう世界。でも、そのほうがいいよね」
「うん。私を幸せにしようっていう意志が働いただけでこんなになっちゃったんだから」
「これから戻る世界には魔法が存在しないから、幸せになりたければ自分でなんとかしな
いといけないんだけどね」
「魔法がないって、それじゃ魔法使いはどーなるの?」
「泉ちゃんはこの世界のことを忘れちゃうだろうし、わたしは……泉ちゃんのそばには居
られない」
「居られないって……誰にでもチャンスがあるって言ったじゃん!」
「この杖の光が視界を埋め尽くしたとき、この世界は消滅して泉ちゃんは元の世界に戻る」
「ちょ、スルー!? なんか光ってるし!」
「わたしだけは自分の意志で『物語の意志』に逆らうことができた。だから、泉ちゃんの
傍にはいられないんだ。それに、泉ちゃんに合わせる顔がないしね」
「なにそれ、うおっまぶしっ!」
「あははっ、泉ちゃんらしくなってきたね。……ねえ、この世界が消える前に一つだけ約
束してほしいな」
「約束なら目を見て言ってよ。まぶしくて何も見えないよ!」
「これから戻る世界にはハッピーエンドが存在しない。だから約束してほしいんだ」
「この杖の光が視界を埋め尽くしたとき、この世界は消滅して泉ちゃんは元の世界に戻る」
「ちょ、スルー!? なんか光ってるし!」
「わたしだけは自分の意志で『物語の意志』に逆らうことができた。だから、泉ちゃんの
傍にはいられないんだ。それに、泉ちゃんに合わせる顔がないしね」
「なにそれ、うおっまぶしっ!」
「あははっ、泉ちゃんらしくなってきたね。……ねえ、この世界が消える前に一つだけ約
束してほしいな」
「約束なら目を見て言ってよ。まぶしくて何も見えないよ!」
「これから戻る世界にはハッピーエンドが存在しない。だから約束してほしいんだ」
「幸せになってね。泉ちゃんにはきっと幸運の星がついてるから……」
◆ ◇ ◆
陵桜学園高等部、三年B組。こなた、つかさ、かがみ、みゆきの四人は他愛もない話に
花を咲かせる。本当に他愛もない話だった。
「シンデレラで十二時になると魔法が解けるっていう話でさ、どうして靴だけはガラスの
靴のままなんだろ?」
「靴だけは本物だったから、なんて説明がよくされるわよね」
あの物語を読んだ者ならば誰でも一度は行き着く疑問である。
「恐らく翻訳や設定の変更をした際にミスがあって、そのような矛盾が生じてしまったの
ではないでしょうか?」
「ミス?」
三人の視線がみゆきに集まる。
「シンデレラは元々各地に伝わる民間伝承をまとめたものなんです。ペローが編纂した版
では、シンデレラのもとに魔法使いが現れて、魔法で衣装をドレスに変化させます。現在
よく知られている形に最も近いものですね」
「他にもあるの?」
「はい。グリム兄弟版では、ドレスや衣装一式は亡くなった母親の遺産で揃えています。
助けてくれるのは小鳥だったりネズミだったりすることもありますが、グリム兄弟版が最
も原型に近いと言われています。その時シンデレラが履いていた靴は毛皮製なんですよ」
「毛皮? ガラスじゃないの?」
こなたが特別驚いたような反応を見せる。
「元々はリスの毛皮(vair)だったものを、ペローがガラス(verre)に誤訳したのだと言われ
ています。どちらもヴェールと発音するのでペローが聞き取りを間違えたのだという説と
美しさと脆さの象徴としてわざとガラスに変えたという説があります」
「言われてみれば、ガラスの靴なんて踊りにくくてしょうがないわね」
「ガラスの靴って素敵だね。綺麗なんだろうなぁ」
前者はかがみの、後者はつかさの反応である。
「姉妹でこうも反応が違うとは」
「う、うるさいわね」
二人の性格は正反対だけれど、こなたはそんな親友二人が心の底から愛しいと思った。
「それでみゆき。それってどっちが正しいのかしら」
こなたの興味の矛先を変えようと、話の続きを促すかがみ。
「どちらというわけではありませんね。さっきも申し上げたように元は民間伝承が寄り集
まったようなものですから、『完璧に正しいシンデレラ』というものはないと思います。
現代向けに話がアレンジされているものもありますしね」
「アレンジってどんなふうに?」
「えーとですね……よく知られているのは、シンデレラに擦り寄ろうとした継母と姉たち
が、鳩に目をえぐられるという話なんですが」
「そんな話なのっ!?」
つかさは今まで知らなかったらしくショックを受けている。
「そのようなショッキングな場面がかなり削られていたりするんです。最近では、桃太郎
は戦わずに話し合いで鬼と決着をつけるそうですね」
「なんか風情がないわねー」
「いいのかなー、それ……」
「私達の知ってる話も、昔から見れば大分アレンジされているのですから、どれも似たよ
うなものではないでしょうか。改変された部分には、改変した人なりに伝えたかったもの
が込められていると思います」
「うーん……」
まだ納得いかない顔のかがみとつかさ。こればかりは話し合ってもどうしようもない。
「でもさ、鬼と戦わないんなら何でお供を連れて行ったんだろ? 脅しに使うための圧力
として用意したんなら、ある意味現代の世相を反映した名アレンジだよネ」
「またあんたはケンカを売るような発言を……」
花を咲かせる。本当に他愛もない話だった。
「シンデレラで十二時になると魔法が解けるっていう話でさ、どうして靴だけはガラスの
靴のままなんだろ?」
「靴だけは本物だったから、なんて説明がよくされるわよね」
あの物語を読んだ者ならば誰でも一度は行き着く疑問である。
「恐らく翻訳や設定の変更をした際にミスがあって、そのような矛盾が生じてしまったの
ではないでしょうか?」
「ミス?」
三人の視線がみゆきに集まる。
「シンデレラは元々各地に伝わる民間伝承をまとめたものなんです。ペローが編纂した版
では、シンデレラのもとに魔法使いが現れて、魔法で衣装をドレスに変化させます。現在
よく知られている形に最も近いものですね」
「他にもあるの?」
「はい。グリム兄弟版では、ドレスや衣装一式は亡くなった母親の遺産で揃えています。
助けてくれるのは小鳥だったりネズミだったりすることもありますが、グリム兄弟版が最
も原型に近いと言われています。その時シンデレラが履いていた靴は毛皮製なんですよ」
「毛皮? ガラスじゃないの?」
こなたが特別驚いたような反応を見せる。
「元々はリスの毛皮(vair)だったものを、ペローがガラス(verre)に誤訳したのだと言われ
ています。どちらもヴェールと発音するのでペローが聞き取りを間違えたのだという説と
美しさと脆さの象徴としてわざとガラスに変えたという説があります」
「言われてみれば、ガラスの靴なんて踊りにくくてしょうがないわね」
「ガラスの靴って素敵だね。綺麗なんだろうなぁ」
前者はかがみの、後者はつかさの反応である。
「姉妹でこうも反応が違うとは」
「う、うるさいわね」
二人の性格は正反対だけれど、こなたはそんな親友二人が心の底から愛しいと思った。
「それでみゆき。それってどっちが正しいのかしら」
こなたの興味の矛先を変えようと、話の続きを促すかがみ。
「どちらというわけではありませんね。さっきも申し上げたように元は民間伝承が寄り集
まったようなものですから、『完璧に正しいシンデレラ』というものはないと思います。
現代向けに話がアレンジされているものもありますしね」
「アレンジってどんなふうに?」
「えーとですね……よく知られているのは、シンデレラに擦り寄ろうとした継母と姉たち
が、鳩に目をえぐられるという話なんですが」
「そんな話なのっ!?」
つかさは今まで知らなかったらしくショックを受けている。
「そのようなショッキングな場面がかなり削られていたりするんです。最近では、桃太郎
は戦わずに話し合いで鬼と決着をつけるそうですね」
「なんか風情がないわねー」
「いいのかなー、それ……」
「私達の知ってる話も、昔から見れば大分アレンジされているのですから、どれも似たよ
うなものではないでしょうか。改変された部分には、改変した人なりに伝えたかったもの
が込められていると思います」
「うーん……」
まだ納得いかない顔のかがみとつかさ。こればかりは話し合ってもどうしようもない。
「でもさ、鬼と戦わないんなら何でお供を連れて行ったんだろ? 脅しに使うための圧力
として用意したんなら、ある意味現代の世相を反映した名アレンジだよネ」
「またあんたはケンカを売るような発言を……」
本当に、他愛もない話だった。
そんなことが繰り返される、そんな毎日。
そんなことが繰り返される、そんな毎日。
その日の夜。
「こなたお姉ちゃん、どうかな……?」
ゆたかは上目遣いでこなたの表情を伺う。ゆたかが作った絵本の感想を、こなたに求め
ているのだ。
その絵本は、こんな内容だった。
『シンデレラ』に登場し、彼女を手助けすることで見事に彼女を幸せにした魔法使い。
彼(魔法使いは男性という設定である)はその後も魔法でたくさんの人たちを幸せにして
きたが、ある時、一人の女性に一目惚れしてしまう。魔法使いは魔法でその女性のために
贈り物をして気を引こうとするが、どんな豪華な贈り物でも彼女は満足してくれない。業
を煮やした魔法使いは彼女に問いかける。一体何が不満なのか。どんな贈り物をすれば喜
んでくれるのか。彼女は答える。贈り物なんかいらない。ただ自分のことを好きだという
気持ちがほしい。それを受けて彼は、魔法で二人で住むための家を作って、晴れて彼女と
両思いになることができた。
わりと簡単に恋が成就している点は童話的といえば童話的だし、恋愛というものを実直
に描いている点は漫画的といえば漫画的。そんな話だった。
「ゆーちゃんらしい話だと思うよ。私だったらもうちょっと違う話にしてたかも」
「そうなの?」
こなたが思いついたのは、別の魔法使いが現れて、シンデレラの魔法使いを幸せにして
くれるという展開だった。シンデレラもそうだが、分不相応な幸せが欲しければそれこそ
魔法の力を借りるしかない。創作としての出来は悪くないが、あまりに身も蓋もない意図
が込められているので、こなたはそれをゆたかに話すのはやめておいた。
物語を作るには、何かの動機がある。作者は何かを表現したくて作品を発表する。それ
をどう解釈するのかは、もちろん読者次第である――それを踏まえたうえでこなたは思い
を巡らせる。
こなたは学校でのみゆきの話を思い出していた。あの話が正しければ、魔法使いという
ものは、ただシンデレラに魔法をかけるためだけに作られた存在なのだ。小鳥とか、母親
の遺産とか、そういったものと同等の価値しか認められない人格なのだ。その魔法使いが
幸せになる物語を作ったゆたかという人は――
「ゆーちゃんは優しいね」
「そんな、照れるよー」
照れくさそうに真っ赤になって俯くゆたかはとても可愛らしく、こなたはとても幸せな
気持ちになった。
「なんでこういう話を書こうと思ったの?」
「えーと、お姫様ばっかりじゃなくて魔法使いが幸せになるお話があってもいいと思った
から……」
「うん、やっぱりゆーちゃんは優しいよ。私が中学のとき仲の良かった友達で、魔法使い
になりたいって言ってたのがいたんだけど、今は全然連絡とってないもん」
「それって全然関係ないんじゃ……」
「ゆーちゃんはみんなに幸せになって欲しいって思ってるんだよね。そういう人が書いた
お話は、読んでていい気持ちになれるよ。やっぱりハッピーエンドの話がいいよね」
「うん。ありがとう」
花が綻んだような笑顔。その笑顔を見ていると――
「こなたお姉ちゃん、どうかな……?」
ゆたかは上目遣いでこなたの表情を伺う。ゆたかが作った絵本の感想を、こなたに求め
ているのだ。
その絵本は、こんな内容だった。
『シンデレラ』に登場し、彼女を手助けすることで見事に彼女を幸せにした魔法使い。
彼(魔法使いは男性という設定である)はその後も魔法でたくさんの人たちを幸せにして
きたが、ある時、一人の女性に一目惚れしてしまう。魔法使いは魔法でその女性のために
贈り物をして気を引こうとするが、どんな豪華な贈り物でも彼女は満足してくれない。業
を煮やした魔法使いは彼女に問いかける。一体何が不満なのか。どんな贈り物をすれば喜
んでくれるのか。彼女は答える。贈り物なんかいらない。ただ自分のことを好きだという
気持ちがほしい。それを受けて彼は、魔法で二人で住むための家を作って、晴れて彼女と
両思いになることができた。
わりと簡単に恋が成就している点は童話的といえば童話的だし、恋愛というものを実直
に描いている点は漫画的といえば漫画的。そんな話だった。
「ゆーちゃんらしい話だと思うよ。私だったらもうちょっと違う話にしてたかも」
「そうなの?」
こなたが思いついたのは、別の魔法使いが現れて、シンデレラの魔法使いを幸せにして
くれるという展開だった。シンデレラもそうだが、分不相応な幸せが欲しければそれこそ
魔法の力を借りるしかない。創作としての出来は悪くないが、あまりに身も蓋もない意図
が込められているので、こなたはそれをゆたかに話すのはやめておいた。
物語を作るには、何かの動機がある。作者は何かを表現したくて作品を発表する。それ
をどう解釈するのかは、もちろん読者次第である――それを踏まえたうえでこなたは思い
を巡らせる。
こなたは学校でのみゆきの話を思い出していた。あの話が正しければ、魔法使いという
ものは、ただシンデレラに魔法をかけるためだけに作られた存在なのだ。小鳥とか、母親
の遺産とか、そういったものと同等の価値しか認められない人格なのだ。その魔法使いが
幸せになる物語を作ったゆたかという人は――
「ゆーちゃんは優しいね」
「そんな、照れるよー」
照れくさそうに真っ赤になって俯くゆたかはとても可愛らしく、こなたはとても幸せな
気持ちになった。
「なんでこういう話を書こうと思ったの?」
「えーと、お姫様ばっかりじゃなくて魔法使いが幸せになるお話があってもいいと思った
から……」
「うん、やっぱりゆーちゃんは優しいよ。私が中学のとき仲の良かった友達で、魔法使い
になりたいって言ってたのがいたんだけど、今は全然連絡とってないもん」
「それって全然関係ないんじゃ……」
「ゆーちゃんはみんなに幸せになって欲しいって思ってるんだよね。そういう人が書いた
お話は、読んでていい気持ちになれるよ。やっぱりハッピーエンドの話がいいよね」
「うん。ありがとう」
花が綻んだような笑顔。その笑顔を見ていると――
――幸せになってね
どこかで誰かと交わしたかもしれない約束が、頭のどこかで蘇った。
今、幸せなのか。こなたは考える。
平凡な学生だ。魔法なんか使えないし世界を救う勇者でもなければ王子様が迎えに来て
くれるようなお姫様でもない。勿論、輝かしい将来なんか約束されていない。
母親はいない。物心つく前に、もう亡くなった。
それでも。
こなたがオタクだと受け入れて付き合ってくれる親友。天然ボケで人の良い、どこか放
っておけない親友。博識なのにやたらとドジを踏む、萌え要素満載の親友。妹のように可
愛がっている、心も純粋な従妹。その従妹の親友となってくれた優しい少女。その二人を
見守る、ちょっと危ない腐女子な同級生。こなたと趣味の合う、日本の文化をちょっと勘
違いしている留学生。親友を通じて仲良くなった、妙に親近感を覚える親友二人。やたら
と元気で暴走気味な従姉。友達みたいな付き合いをしている先生。こなたをオタク趣味に
染めた父親。
もっともっと、数えればキリがないほど、こなたの好きな人はたくさんいる。
他愛もない話。他愛もない毎日。大切な人たち。
いつかこれが崩れてしまわないかという不安もある。でもそんなときは――
――泉ちゃんには幸運の星がついてるから
いつの間にか、不安は消え去っている。
「ハッピーエンドが好きって言ったけど、私たちは終わらないよね」
「うん、そうだよね。終わっちゃったら困るよ」
それは、この先幸せになれる絶対的な保証はないという意味でもある。それでも、今は
幸せなのかと聞かれたならば……
「私は今、幸せだよ」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ゆーちゃんは幸せ?」
幸せだからといって、普通は独り言で幸せだよなんて言わない。それが幸せということ
なのだから。
怪訝そうに訊ねるゆたかに、こなたは誤魔化すように聞き返した。返ってくる答えはも
うわかっている。
「うん、幸せだよ」
聞かれたらそうだよと答える。それが、幸せということなのだから。
「物語はいつか終わっちゃうけどさ」
こなたは本を閉じて言う。
「私たちハッピーエンドじゃないから、明日もまた幸せだよネ」
どこかで誰かと交わしたかもしれない約束が、頭のどこかで蘇った。
今、幸せなのか。こなたは考える。
平凡な学生だ。魔法なんか使えないし世界を救う勇者でもなければ王子様が迎えに来て
くれるようなお姫様でもない。勿論、輝かしい将来なんか約束されていない。
母親はいない。物心つく前に、もう亡くなった。
それでも。
こなたがオタクだと受け入れて付き合ってくれる親友。天然ボケで人の良い、どこか放
っておけない親友。博識なのにやたらとドジを踏む、萌え要素満載の親友。妹のように可
愛がっている、心も純粋な従妹。その従妹の親友となってくれた優しい少女。その二人を
見守る、ちょっと危ない腐女子な同級生。こなたと趣味の合う、日本の文化をちょっと勘
違いしている留学生。親友を通じて仲良くなった、妙に親近感を覚える親友二人。やたら
と元気で暴走気味な従姉。友達みたいな付き合いをしている先生。こなたをオタク趣味に
染めた父親。
もっともっと、数えればキリがないほど、こなたの好きな人はたくさんいる。
他愛もない話。他愛もない毎日。大切な人たち。
いつかこれが崩れてしまわないかという不安もある。でもそんなときは――
――泉ちゃんには幸運の星がついてるから
いつの間にか、不安は消え去っている。
「ハッピーエンドが好きって言ったけど、私たちは終わらないよね」
「うん、そうだよね。終わっちゃったら困るよ」
それは、この先幸せになれる絶対的な保証はないという意味でもある。それでも、今は
幸せなのかと聞かれたならば……
「私は今、幸せだよ」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ゆーちゃんは幸せ?」
幸せだからといって、普通は独り言で幸せだよなんて言わない。それが幸せということ
なのだから。
怪訝そうに訊ねるゆたかに、こなたは誤魔化すように聞き返した。返ってくる答えはも
うわかっている。
「うん、幸せだよ」
聞かれたらそうだよと答える。それが、幸せということなのだから。
「物語はいつか終わっちゃうけどさ」
こなたは本を閉じて言う。
「私たちハッピーエンドじゃないから、明日もまた幸せだよネ」
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- 童話の原作に少し興味が湧いたかも。
ハルヒの様な、そうじゃ無い様な。
とても不思議な気分で読めました。GJ -- 名無しさん (2010-06-24 03:19:10) - 魔法使い=あやの? -- 名無しさん (2008-11-13 21:27:21)
- めずらしいタイプのお話だったかもしれませんね
ものすごく面白かったです、ありがとうございました -- 名無しさん (2008-10-03 03:28:04)