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Lucky star エピローグ

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kairakunoza

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だれでも歓迎! 編集
高校入学。義務教育を終えて自立した大人になる、という意識が強まる節目。2chで『厨房w』等と馬鹿にされることがなくなる高校。
私はお父さんに受験合格とゲーム機とを交換条件に、陵桜高校入学を決意した。
決意と言ってもそんな堅苦しいものではなくて、まあ取り合えず入れればいいか、というくらいの気持ちの持ち様だった。
それでも、合格できたのにはやはりゲーム欲が強かったからだろうか。
電車、バスを乗り継いで高校に到着。お父さんは女子高校生たちが集うこの高校に来させると大変だということで、私が運動会だけは来てもいいという条件付きで同行を断った。
陵桜の名に似合う桜の木の下を通り過ぎ、新入生たちの人ごみと共に校門をくぐる。これから毎日、嫌というほど通るんだろうなと思うと、少し感慨深くも合った。

「新入生の皆さん!生徒玄関手前にクラス表が掲載されておりますので、そこで自分のクラスを確認次第、速やかに自分のクラスに移動してください!」

誘導係らしき陵桜の制服を着た先輩が、拡声器を片手に新入生に向けて呼びかけた。それを聞いた群れと共に、私もクラス確認の為に玄関に向かう。
泉こなた。『い』で五十音順だと上の方にあるので、自分の名前を見つけるのにそう時間はかからなかった。一年D組四番。
自分の名前を見つけると、同じ中学だった友人とクラスが同じになる喜びを分かち合うなどできない私は、早々にD組へと向かった。
D組に入ると、流石に名門校というだけあって、騒がしくしている生徒は少なかった。見知らぬ人ばかりで話す相手がいない所為もあるだろうが。
男女別の出席番号順の並びでいくと、私の席は教卓のまん前の列の、前から四番目だった。
よくアニメなどで主人公が座る配置だと考えながら、入学式の説明を長ったらしくする関西弁の先生の話を聞き流していた。


「新入生代表挨拶、高良みゆき」
「はい」

入学式はいくつかのプログラムを終え、新入生代表の挨拶まで進んだ。
名前を呼ばれた高良という人はステージに上がり、校長先生の前で二、三分の挨拶を紙も見ずに言いあげた。
典型的な優等生タイプだな、と振り向いたときに気づいた眼鏡を見て確信する。おまけに私と同じクラスときた。覚えておいて損は無いだろう。
高良さんがステージから降りるときの階段で転びそうになったのを見て、『天然ドジっ子』属性も付け足した。

教室に戻ると先生は今日の日程を大雑把に説明した。今日は三時限までしかないらしく、その三時限もクラスの役割を決めるものらしい。
今日は楽に終わりそうだと、心の中で昨日一夜で終わらせることができなかったPCゲーを思い出す。
三時限目。クラスの役員を決める時間だ。先生が決めなければならない役割を順に黒板に書いていく。
『学級委員、書記、広報担当etc』期待通り、漫画やアニメには必ずある学級委員が記された。

「えー重要な役から先に決めていきたいと思うんやけど、まずは学級委員や。これは中学の時に経験しとる奴がええんやけど……、立候補か推薦はおらんか?」

ここだ!

「先生!高良さんが良いと思います!」

高々と右手をあげ、先生に意思表示する。周りのみんなは驚いていたが、それこそ高良さんが一番驚いていた。

「なんや、お前高良と同じ中学なんか?まあええわ。高良、泉がああ言ってることやし、やらへんか?」
「え?……、ではやらせていただきます」

一瞬面識すらない私の推薦に戸惑うも、高良さんは承諾した。よし、これで優等生キャラは保たれる。
予想通り。


「あの、泉さん。どうして私を学級委員に推薦なさったんですか?」

全ての授業が終わり、帰る支度をしているときに高良さんが私に聞いた。近くで見ると巨乳でもあるし、何より美人だ。なんなんだこの人は。

「いやね、高良さんみたいな人は学級委員をやらなくちゃいけない人なんだよ。明らかな優等生タイプじゃん、高良さんて」

私がそう言うと、そうですか、と理解しがたいように高良さんは首をかしげた。

「一緒に帰らない?高良さん」
「いいですよ。それとできれば私を呼ぶときは、下の名前でお願いしたいんですが……」
「じゃあみゆきさんで」
「はい」

私に笑顔で返したみゆきさんを見て、初めて高校生活が楽しくなってきたな、と実感した。


入学式があったあの日は月曜日で、今日は五日後の土曜日。
五日も経つとクラスの皆とも打ち解けることができたし、つれて緊張もほぐれていくのが実感できた。
その証拠に私は今日、水曜日から始まった部活動勧誘に同じクラスの子に誘われた。
誘われた部活はバレー部。○タックNo.1に感化されてやったことがあるから、少し興味は合ったが基本インドア派の私は最初っから断るつもりだった。
電車を乗り継いで、入学式のときから随分慣れたこの通学路には早くも飽きが来始めていた。先日渡ったばかりのジャージに身を包み、手ぶらで学校へと歩く。
一応、都心部の埼玉は車通りが激しく、朝っぱらから何台もの車が行き交う騒音と、道に沿って続く店の横を歩いていかなければならない。
深呼吸してもすがすがしい空気は肺に溜まらず、通るだけ通って抜けていく。もどかしさを感じながら私は歩みを進めた。
いつもの癖で下を向いて歩いてしまっているのに気がつき、頭を上げると

「Exucuse me, would you tell me the way to the Akihabara?」
「ええっと……、あの……」
「you can't speak English,by any chance?」
ガタイの良い黒人の外国人、愛称をつけるなら『ボブ』、みたいな人としどろもどろしている神岸あか○、もとい女子高生が道の真ん中で話していた。
見たところ、あまり良い雰囲気ではない。いや、見ただけだが。
女子高生の方は凌桜のジャージを着ている、ということは同じ高校か。取り合えず助けた方が良さそうだ。

「えくすきゅーずみー、そこの外国人さん」
「What?」
「子供がまだ食べてるでしょーがー!!」
「oh!」
外国人が振り向きざま、豪快な回し蹴りをみぞおちに食らわせてやった。GJ、私。

「え、えっ……、あの」
「さあ行くよっ!」
動揺が残る神岸さんの手を引いて、二人でその場を走り去った。
「Nice kick……」

「あの、助けてくれてありがとう」
「いやいや、当然のことをしたまでだよ」
平面の胸を張ってそう返すと神岸さんはありがとう、とまた言って微笑んだ。

「私は泉こなた、確か同じクラスだったよね?」
「うん。高良さんを学級委員に推薦した、こなちゃんだよね」
私は妙な単語が出てきて、神岸さんの顔を見た。

「こなちゃん?」
「あ、ごめん。私ね、あだ名付けるのが好きで、D組の名簿見ながら、全員分のあだ名考えたんだ。……変かな?」
背は私より高いのに、上目遣いのような視線で私を見る神岸さんを見て心の中でほくそえむように笑った。

「いや、むしろそれで呼んでよ。ええっと……」
「柊つかさっていうんだよ。よろしくね、こなちゃん」
そう言ってつかさが笑うと、心の底がふわっと暖かくなった気がした。

「そういえば、こなちゃんも部活見学なの?」
二人で高校生活の話をしているとき、不意につかさが話題を変えた。

「平たく言えばそうかな。私は誘われたんだけど、今携帯見たら友達来れないみたいだし。帰ろうかな」
「へえー、すごいね。何の部活?」
「バレー部だよ、つかさは?」
「私は料理研究部だよ。お料理するの大好きなんだ」
声を高揚させて話すつかさが、益々神岸あか○に見えてきたのは言うまでも無い。
この後つかさと学校に行ったが、料理研究部は今日は活動していないらしく、それで消沈したつかさは部活動には入らないと決めたらしい。


「私、双子なんだよ」
「そうなんですか?」
「そうなの?」

ある日の昼休み、三人で弁当を広げているときに唐突につかさが言った。
つかさとみゆきさんは、私がみゆきさんにつかさを紹介すると時間を要さず打ち解けた。おっとりタイプ同士、気が合うのだろうか。
話を聞くとB組に柊かがみというつかさの双子の姉がいるらしく、二卵性双生児なので似てはいないが、その分姉の方がしっかりしているので頼りにしているという。

「中学のときとか、クラスが違っても一緒に昼休みにお弁当食べたりしたんだよ」
「仲がよろしいんですね」
「うん!」
みゆきさんにさも嬉しそうに返すつかさを見て、頭の中で様々なギャルゲの双子キャラが頭に浮かんだ。これは姉を見てみたいな、単純に見てみたい。

「じゃあ、そのかがみさん呼んでおいでよ」
「えっ、いいの?」
意外そうにつかさは聞き返すけど、表情から連れて来たいということは丸分かりだ。

「全然おkだよー。みゆきさんも大丈夫だよね?」
「ええ、私も構いませんよ」
「本当?じゃあ呼んでくるね」
二人の同意を得たつかさは、更に嬉しそうに教室を出て行った。そんなに仲が良いのか、レズフラg(ry


「こんにちはー。つかさの姉、って言っても双子だけど、柊かがみよ。かがみ、って呼んで頂戴」
つかさが連れてきたのは、私の予想の斜め上を行く、ツリ目が印象的なツインテールの子だった。
一瞬で、この子はツンデレだと理解できた。本人も自覚できてない、典型的なあのタイプ。
会った瞬間から、悪く言えば馴れ馴れしく、良く言えば付き合いやすい話し方で話しかけられた、第一印象は普通だった。

「よろしくー、あたしは泉こなた」
「高良みゆきと申します」
「こなたに、みゆきね。呼び捨てでいい?」
かがみはつかさとみゆきさんみたいに、私とみゆきさんにすぐ打ち解けることが出来た。
いわゆるヲタクな私は対人関係に疎く、知らない人とこれから長く付き合うこと前提で話すのは苦手だった。
けど、みゆきさん然り、つかさ然り、かがみ然り。私が変わったのか、それとも三人の性格が良いのか。これから、三年間、この三人とだけは離れない気がした。

「つかさから聞いたんだけど、こなたってヲタクなのよね?」
つかさとかがみと私の三人で下校しているとき、不意にかがみが聞いた。みゆきさんは家の方向が違うので、必然的にこの三人になる。
バスの一番後ろの席で、左から私、かがみ、つかさの順で座る。中は適度に涼しく、開け放った窓からバスが走るたびに入る風が気持ちよかった。

「そだよ」
「へえー。ねえ、聞いた話なんだけど、ヲタクの人って出費が激しいって本当?」
「あー、よく言うね。大体好きな作品一つに、原作が漫画だった場合、漫画全巻、アニメDVD全巻、出たらOVAとか、劇場版とか。
あとはオープニング、エンディングにキャラソン全員分にサントラ、ドラマCDにビジュアルブックとか。
これらを全部×4」
「×4?なんで?」
つかさが頭を前へ後ろへゆらして、船を漕いでいるのを横目にかがみが返した。

「観賞用、保存用、布教用、んで友達に貸す貸し出し用。けど貸し出し用は最近買ってないから、×3かな」
「すごい出費ね……、そんなお金どうするのよ」
「バイトとかー、良ければお父さんに買ってもらったり」
「お父さんが買うの?」
「うん、お父さんもヲタクだから、結構共用してるものとか多いんだよ」
「良くわかんないわね……」
腕を組んで首をかしげるかがみ。

「例えれば、ご飯と一緒だよ。白米と梅干だけじゃ、少し物足りないけど、それでも足りないわけじゃない。
けど、おかずが何品か付くとちょっとそそられるじゃん?」
「それは違う気がするぞ」

気づくとバスは目的地に着いていた。かがみがつかさを起こして、三人でバスを降りると、春の心地よい風が体を撫でた。


時は飛びに飛んで、三年の秋。
「あのときは変なヤツだな、って思ってたわよ」
「お姉ちゃん、それは言い過ぎ……」
かがみに苦笑いで返すつかさの顔は、それでもどこか楽しそうだった。今は昼食を食べ終えた昼休みの時間。適度に騒がしい教室で、いつもの四人で輪になって話していた。
「でも、こなちゃんがヲタクだってちゃんとイメージ付けするまで、結構時間かかったよね」
「え?そうなの?」

つかさの言葉に思わず聞き返してしまった。
私は常に負のオーラを出していて、暗くしていると自分でも分かっているので、「ヲタクだよ」って言っても「ああ、そうだよね」くらいの納得ぶりだと思っていた。
つかさの言葉に続いて、二人も賛同する。

「私も正直、最初はそうだったわね。清楚なお嬢様タイプ、って感じだったもの。話すまではね」
「私もです。髪もきれいですし、静かな方だと思っていました」

私を置いて、三人で私の第一印象について話し出す。
専ら、「おとなしい子だと思ってた」とか、「頭がすごく良さそう」とか、聞いてて良い意味で歯がゆくなるような気持ちになった。
知らないうちに、三人の輪の中に自分がいることに、今気づく。中学のころは、ヲタクってだけで皆から蔑まれ、虐げられた。無論、三人にはこの話はしていないし、可哀想な自分カコイイなんてしたくもない。
本音を言えば、三人にヲタクだということを話すのには気が引けた。世間一般の目で見ると、気持ち悪い対象でしかなくて、それでいて邪魔で。
負の要素しかないヲタク、という事実を三人に話すことができた理由は未だ分からない。考えたところで……、
まあ、どうでもいいや。

「三年の秋かあ、もうすぐ卒業だね」
感慨深そうにつかさが窓の外を眺めた。入学式のときは桃色に色づいていた桜の木も、今は素っ気無い木の色だけを残している。

「あんた大学行っても、ちゃんとできんの?」
「絶対言われると思ったよー。かがみんは心配性なんだからぁ~」
言いながらかがみを突付くと、即座に目線を逸らした。分かりやすいデレだ。

「べ、別にそういう意味じゃなくて、つかさは毎日会うし、みゆきはしっかりしてるから……」
「……そっか、私とお姉ちゃんは大学近いから、離れること無いんだよね」
つかさの言葉には、いずれこの四人が離れ離れになる、という意味も孕んでいる気がした。

「お前等ー、もう授業始まるでー!」
いつのまにか入ってきていた黒井先生が、出席簿をかざしながら私たちに呼びかけた。
その声は一瞬で、私たちを子供に引き戻す。まだ若々しい、高校生の顔に。

「「「「はーい!」」」」



















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