アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

『4seasons』 夏/窓枠の花(第一話)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


§プロローグ

 窓枠の花が揺れている。

 窓の外は、夏の陽射しに白く輝いていた。
 窓枠に置かれた花も、逆光に晒されて黒く陰となって佇んでいる。
 まだ爽やかさの残る七月の風が、さわさわと私の髪をくすぐれば、花もおじぎをするように
ゆうらりゆらりと揺れていく。
 少し桜色がかったマーガレット。それは想い人からもらった大切な花。
 指先でちょんとつついて、その人のことを考えた。
 あいつは、今どうしているだろう。暑くてへばっているかな。冷房の効いた部屋でゲーム
でもしているのかもしれない。まさか勉強をしているなんてことはないだろう。
 汗ばむ陽気。青い空。見上げる白い入道雲は、まるで建造物のような重厚な存在感をもって
空に浮かんでいる。

 ――また、夏が始まる。暑い暑い夏が、始まる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 4 s e a s o n s

 夏 / 窓 枠 の 花

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


§1

 風薫る五月。
 冬服では少し汗ばむくらいの陽気。弾む心。新しい教室にも慣れてきて、つい二年生の
昇降口に向かってしまうことも少なくなってきた。机についたへこみや傷をみて、これが
自分の机なのだと思える程度の愛着。中間考査は悲喜こもごもで。誕生日に贈った腕時計を
あいつがつけてくれていて、嬉しかった。
 五月、私はこなたに恋をしていた。

 泣き濡れて六月。
 糊の利いた夏服。じめじめと降る雨。しめった心。想うのはこなたのことばかりで。
そして涙の似合う梅雨。三階の教室に通じる西翼の階段は、雨に濡れると滑りやすいと身を
もって知った。家で勉強会を開けば、こなたのことばかり見ている自分がいる。笑ってくれる
だけで嬉しい。そばにいるだけで嬉しい。眺めているだけで嬉しい。庭で紫陽花が咲き誇る。
花言葉は“辛抱強い愛情”。 
 六月、私はこなたに恋をしていた。

 そして七月。私はこなたに恋をしている。
 初恋だった。 
 人を好きになるということが、こんなに世界を輝かせるとは思いもしなかった。
 こなたがいるだけでどきどきする。こなたを見るだけでわくわくする。
 その細く閉じた目。いつもぴんと立ったアホ毛。へにょへにょした声。甘ったるい匂い。
細いうなじ。横着して上履きのかかとを踏んで歩くその脚の形。好きなアニメの話をしている
ときのキラキラした表情。他人の表情をみて話題を変えるそのバランス感覚。引き締まった
身体。体育のときに見せる躍動感。グロスも塗ってないのに艶めいて光る唇。たまに見せる
寂しそうな顔。夏が近づくにつれだらしなくなっていく部屋着。ちらちらと見える仄かな膨らみ。
ゆたかちゃんにだけ向ける優しそうな微笑み。猫みたいな口。たまにへそを曲げてすねるときの
眉毛の下がり具合。シャーペンをクルクルと回すときの指先の動き。不思議そうにかしげるときの
首の角度。宿題を写すときの真面目そうな顔。私を弄るときの小悪魔めいた顔。私に話しかけて
くれるときの嬉しそうにも見える顔。私に笑いかけてくれるときの顔。
 どうして、今までそれに気づかないでいられたのだろう。
 これまでの二年間、どうして気づかないで過ごせたのだろう。
 今思えば、始めからずっと好きだった。桜の樹の下で出会ったあの日から。
 その思いを抑えこんできたのは、常識という固定観念だったろうか。それとも好きという感情は
そういうもので、今好きになったことで始めてあの当時の感情を名付けることができた、そういう
ものなのかもしれない。

 つかさと夏物を買いに出かけたときも、見る物全てに目移りして困った。
 こなたはこういう服好きだろうか。こなたが喜んでくれそうな、ツンデレっぽいファッションって
どういうものだろう。この服は私よりもむしろこなたに似合いそうだ。
 そんなことを考えているうちになにを買えばいいのかわからなくなって、結局つかさに全部
決めてもらった。
 つかさは目を白黒させて困惑していたけれど、頑張って可愛い着こなしを考えてくれた。
 ツイードのミニスカートがお気に入り。サテン地のリボンにひらひらフレアーも可愛らしく、
けれど黒系のモノトーンで大人らしくもあった。
 組み合わせで買ったタイ付きカットソーともよく似合う。つかさ、私がタイ好きなのも考えて
くれたのかな。そう思うとなんだか嬉しかった。
 部屋の鏡の前で合わせると、モノトーンで纏まりすぎてほんの少し地味な印象を受けた。
靴下とバッグを派手めにすれば上手くポイントになるかもしれない。
 くるりとその場で回るとミニスカートがひるがえる。もう少しで見えてしまいそうだ。
ちょっと不安だけど、そのくらいが可愛いのだとも思った。
 そう、やはり恋といったらミニスカートだ。
 それにプラネタリウム。そしてヨハン・シュトラウス。ピカソ。アルプス。すべての美しい
ものに出会うということ。
 これはなんだっけ――そうそう、谷川俊太郎の詩だ。
 中学の国語の教科書に載っていた詩で、一目見て強烈な印象を受けたことを覚えている。
“生”を詠った詩だったけれど、なぜだか私はそれが恋の詩だと感じた。思えば私がよく本を
読むようになったのもあの頃からだ。

 そんなことを考えながらメイクの練習をする。
 ツンデレっぽい部分といえばやはり釣り目なのだろう。ライトブラウンのアイラインを
引いて、マスカラでまつげもしっかりと。
 ファンデーションは止めどきが難しいので最近は敬遠気味だ。チークで頬を染めれば
デレっぽさもアップするかもしれない。
 リップを伸ばしてグロスを塗って、しっかり誘うような唇になっているだろうか。
 鏡を見直しても悪くないと思う。ちゃんと可愛く見えるけど、どうかな? こなたもそう
思ってくれるかな? 喜んでくれるかな?
 これなら私のことも、好きになってくれるかな?

 ――いや、そんなはずがない。

 そもそもあいつも女じゃないか。女が女に可愛らしさを見せつけられたからといって、
女のことを好きになるはずがない。
 それに気がついたとき、紅潮した頬から血の気が引いて、チークでは隠せないほど青ざめていく。

 あいつが“可愛い”と云ってくれるのは、あくまでツンデレな性格だけのこと。女の子
としての可愛らしさを求めているわけではない。メイクをして可愛い服を着て可愛い仕草を
して、それでこなたが振り向いてくれるはずもないのだ。
 こなたがレズビアンなら話は別だろうけれど、生憎そうとは限らない。いや、確率的に
云えば、たまたま想い人がレズビアンである可能性なんて、無視できるほど低い。

 そう思うと、自分がやっていることがバカバカしくなって、その無意味さが可笑しくなって、
声を出して笑った。
 笑って笑って、目尻に涙が浮かぶほど笑う。
 気がついたらちっとも可笑しくなくなっていた。
 けれど涙は止めどなく流れ落ちてくる。
 嗚咽は止めようもなく、こなたを愛しく思う気持ちも抑えようもなく、ただベッドに突っ伏して
泣いて泣いて泣き続けた。
 どうすればいいのかわからない。
 どうすれば振り向いてくれるのかわからない。
 振り向いてくれたところで、その先に何があるのかもわからない。

 私はなんという恋をしてしまったのだろう。先もなく、なんの望みもなく、ただ無為に
焦がれて我が身を引き裂くような、そんな恋だった。

 人を好きになるということが、こんなに辛く哀しいことだとは思いもしなかった。

 いっそ打ち明けてしまえば楽になれるかもしれない。
 何度そう思ったことだろう。
 けれど親友としてのこなたを失うことが怖くて、いつも二の足を踏んでしまう。
 自惚れではなく、こなたと私は親友同士なのだと思っている。いつも私にひっついてくるし、
つかさやみゆきには余り振らないオタクな話題も楽しそうに持ち出してくる。宿題を忘れたときは
いつも最初に私のところにくるし、私もB組に行ったときは最初にこなたに声を掛ける。
 誰が見ても仲がいい親友同士だ。自分でもそう思う。
 だからこそ辛かった。だからこそ想いを告げることはできなかった。
 親友だからと打ち明けてくれた恥ずかしい過去もあっただろう。
 同性だからと安心して見せた恥ずかしい所もあっただろう。
 それを今更好きだなんて、恋人になりたいだなんて。
 そう告げたらこなたはどう思うだろう。気持ち悪いと思うだろうか、ショックを受けるだろうか。

 裏切られたと、そう思うだろうか。

 それを思うと、告白するなどということは、到底できなかった。

 ――どうして友達になってしまったのだろう。
 どうして、なんの心構えもなくずるずると惹かれていってしまったのだろう。
 どうして、あんなに楽しい二年間を共に過ごしてしまったのだろう。
 せめて友達にならなければよかったのに。
 そうすれば、悩んだ末に清水の舞台から飛び降りるつもりで告白して、振られて、しばらく
涙で枕を濡らして、そうしていつの日か立ち直ることもできようものなのに。
 今更そんな無責任なことはできなかった。
 捨て去るにはあまりに多くの時間を共有してきてしまった。
 無くすにはあまりに大切な友達になってしまった。

 だから私は、今日もこの想いを胸に秘めてむせび泣くのだ。

 涙に滲んだ視界の中、見上げれば窓枠の花が揺れている。
 惑う私をからかうように揺れている。

 それはこなたがくれたマーガレット。

 泉家にはちょっとした庭があって、そこで家庭菜園やガーデニングを営んでいる。
 この五月、つかさとみゆきと一緒にこなたの家にいったとき、ふとつかさが花言葉の話を
始めたことが切っ掛けだった。
 泉家の庭を見せてもらって、あれやこれや話しているうちに、みんなで泉家自慢の
マーガレットを株分けしてもらうという流れになったのだ。
“お母さんから引き継いできた花壇なんだよ”こなたは遠い目をしてそういった。
 あの日、桜の樹の下でしていたような表情をして。
 泉家からの帰り道、つかさはずっとニコニコしていた。その喜色満面の笑みを不思議に
思って訊ねると、妹は云った。
“こなちゃん、ほんと素直じゃないよね~”
“そりゃ知ってるけど、なんの話だ?”
“マーガレットだよ。花言葉の話してたでしょ? マーガレットの花言葉『真実の友情』なんだよ~”

 そのときはすごく嬉しかった。私たち四人は真実の友情に包まれて、これからもずっと
一緒なのだと、素直に思えた。

 今はその想いが重荷に感じる。
 窓枠に揺れるマーガレットは私の友情を監視しているようだった。恋心を抑えこもうと
しているようだった。

 涙も枯れ果てた私を見下ろしているそれは、想い人からもらった大切な花。
 少し桜色がかったマーガレット。

 それは、まるで私を呪うかのように揺れていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『4seasons』 夏/窓枠の花(第二話)へ続く








コメントフォーム

名前:
コメント:
  • かがみの切ない心情が…
    でも面白いです!かがみ
    大好きです。 -- チャムチロ (2012-08-14 13:05:51)
  • つかさが選んだファッションてもしかして”柊ミク”? -- 名無しさん (2008-07-06 00:17:09)
  • 熱くなってまいりました! 禁断の恋とかけがえの無い友情に
    終わりが近い学生生活と、切なさが堪らないです。 -- 名無しさん (2008-04-12 04:55:03)
  • しかし本当に文が綺麗
    舌を巻きます -- 名無しさん (2007-12-06 13:18:23)
  • マーガレットの花言葉は、「真実の友情」以外にも
    「恋を占う」とか「誠実」とか「心に秘めた愛」とかもある
    らしいですね、展開がたのしみです。 -- 名無しさん (2007-12-06 10:46:03)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー