『4seasons』 夏/窓枠の花(第二話)より続く
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§3
予兆は、あった。
今思えば、この頃のこなたはずっとおかしかった。
なのに私がそれに気づくことができなかったのは、ひとえに私自身がおかしかったからに
他ならない。
こなたの様子に常と違うところを見いだしたとしても、それが果たしてあいつ自身の変化に
よるものなのか、それとも色に惚けた私の受け取り方に問題があるものなのか、判然と
しなかったからだ。
それに最近の私は、自制しようと必死になるあまり、こなたとできるだけ二人きりになるまいと
していたから。
だからこなたの変化に気づけなかったのだし、だからこそあいつはそれを誰にも相談
できずに、一人で胸の裡にため込んでいってしまったのだろう。
自分の不甲斐なさに愕然とする。こなたのことを傷つけて、そしてこなたがその傷口を
自分で拡げては呻いていることに気づきもせずに、なにが“自制”なのか。
なのに私がそれに気づくことができなかったのは、ひとえに私自身がおかしかったからに
他ならない。
こなたの様子に常と違うところを見いだしたとしても、それが果たしてあいつ自身の変化に
よるものなのか、それとも色に惚けた私の受け取り方に問題があるものなのか、判然と
しなかったからだ。
それに最近の私は、自制しようと必死になるあまり、こなたとできるだけ二人きりになるまいと
していたから。
だからこなたの変化に気づけなかったのだし、だからこそあいつはそれを誰にも相談
できずに、一人で胸の裡にため込んでいってしまったのだろう。
自分の不甲斐なさに愕然とする。こなたのことを傷つけて、そしてこなたがその傷口を
自分で拡げては呻いていることに気づきもせずに、なにが“自制”なのか。
そんな私は、夏の驟雨を浴びて一人佇んでいるのがお似合いだ。
空を振り仰げば、滝のような雨が全て私に向かって降り注いでくるように思える。
厚い雲に覆われて、太陽がどこにあるのか探せない。
手で庇を作って、眼に入り込む雨を少しでも遮ろうとするけれど、すぐにそんなことは
無意味だと思い知る。
探したかったのは、太陽じゃない。
遮りたいのは雨じゃない。
厚い雲に覆われて、太陽がどこにあるのか探せない。
手で庇を作って、眼に入り込む雨を少しでも遮ろうとするけれど、すぐにそんなことは
無意味だと思い知る。
探したかったのは、太陽じゃない。
遮りたいのは雨じゃない。
このまま雨に溶けて消えていければいいのに。
――そう、思った。
――そう、思った。
それに最初に気づいたのは、誕生日プレゼントに貰った『マリア様がみてる』のアニメを
見ているときだった。
馬鹿みたいに私は、自分を主人公の福沢祐巳に見立てて妄想していた。主人公だし、
ツインテールだし、そのくらい自己投影してもかまわないだろうと思った。
当然長髪の祥子様はこなただ。
その清流のようにこぼれ落ちるぬばたまに艶めく黒髪は、光の加減かあいつの髪みたいに
青めいて見えるから。
“かがみ、リボンが曲がっていてよ”
そう云って、こなたは私のリボンを直してくれる。手元が見えないから、少しつま先だちして。
“かがみ、このロザリオ、あなたの首にかけていい?”
そう云ってこなたは私の首にロザリオをかける。それは崇高な姉妹の儀式だ。妄想の中の
こなたは、私の頭に手が届かなくて、やっぱりつまさき立ちになっていた。
「……お姉様」
小声で呟いてみる。
口に出すと途端に恥ずかしく、慌ててその妄想を打ち消した。
姿見に映った私の顔は、馬鹿みたいに蕩けていた。
――なにやってんだ私は。
そんな自分に呆れかえりながら、トレイからDVDを取り出してケースにしまう。
そのとき、ふとブックケースに書かれた値段表示が目についた。
見ているときだった。
馬鹿みたいに私は、自分を主人公の福沢祐巳に見立てて妄想していた。主人公だし、
ツインテールだし、そのくらい自己投影してもかまわないだろうと思った。
当然長髪の祥子様はこなただ。
その清流のようにこぼれ落ちるぬばたまに艶めく黒髪は、光の加減かあいつの髪みたいに
青めいて見えるから。
“かがみ、リボンが曲がっていてよ”
そう云って、こなたは私のリボンを直してくれる。手元が見えないから、少しつま先だちして。
“かがみ、このロザリオ、あなたの首にかけていい?”
そう云ってこなたは私の首にロザリオをかける。それは崇高な姉妹の儀式だ。妄想の中の
こなたは、私の頭に手が届かなくて、やっぱりつまさき立ちになっていた。
「……お姉様」
小声で呟いてみる。
口に出すと途端に恥ずかしく、慌ててその妄想を打ち消した。
姿見に映った私の顔は、馬鹿みたいに蕩けていた。
――なにやってんだ私は。
そんな自分に呆れかえりながら、トレイからDVDを取り出してケースにしまう。
そのとき、ふとブックケースに書かれた値段表示が目についた。
税込価格:8,190円。
えっと、全6巻だから――48,000円!?
えっと、全6巻だから――48,000円!?
その値段の高さに気づいて愕然とする。
アニメのDVDがこんなに高いとは思わなかった。私だけではなくつかさにも贈っているの
だから、併せて十万近くにもなるだろう。
それは高校生が気軽に出せる金額じゃない。
いくらこなたがバイトをしているといっても、まだ学生のこと。平日は週二で放課後四時間、
それに土日のどちらかで出るというシフトだったはずだ。
時給がいくらかは知らないけれど、少なくとも一月分のお給料をまるまるつぎ込んでも
足りないだろう。
お互い社会人なら高価なプレゼントを喜びもしようけれど、私たちはまだ親のすねをかじって
いる高校生で。誕生日プレゼントなんて、そこに気持ちが籠もっていれば、お小遣いで気軽に
買えるもので十分なのだ。
だからそのとき私は、嬉しいと思うよりも先に、なんだか釈然としない、変な気持ちになった。
急にきなくさい臭いを嗅いだような、なにか大切なものを見過ごしているような。
そんな感覚だった。
アニメのDVDがこんなに高いとは思わなかった。私だけではなくつかさにも贈っているの
だから、併せて十万近くにもなるだろう。
それは高校生が気軽に出せる金額じゃない。
いくらこなたがバイトをしているといっても、まだ学生のこと。平日は週二で放課後四時間、
それに土日のどちらかで出るというシフトだったはずだ。
時給がいくらかは知らないけれど、少なくとも一月分のお給料をまるまるつぎ込んでも
足りないだろう。
お互い社会人なら高価なプレゼントを喜びもしようけれど、私たちはまだ親のすねをかじって
いる高校生で。誕生日プレゼントなんて、そこに気持ちが籠もっていれば、お小遣いで気軽に
買えるもので十分なのだ。
だからそのとき私は、嬉しいと思うよりも先に、なんだか釈然としない、変な気持ちになった。
急にきなくさい臭いを嗅いだような、なにか大切なものを見過ごしているような。
そんな感覚だった。
「ふひー、すずしー! やっぱ喫茶店は都会のオアシスだよ」
「ほんと、今年の夏は暑いわよねー」
太宮駅東口、ルミネ前の喫茶店で、私とこなたはほっと一息ついていた。
夏休みも一週間が過ぎ、私は久しぶりにこなたと会った。
なんのかの理由をつけて会うのを避けてきた私だけれど、『参考書を買うから一緒に見て
欲しいんだ』と云われたらつきあわざるをえない。
太宮に来たのは三省堂があるからだったけれど、用が済んだ後ゲーマーズに寄るのもどうせ
いつものことで。その点はすでに最初から諦めていたのだった。
喫茶店の半透明の窓から見える駅前広場では、じりじりと降り注ぐ陽射しに誰もが辟易した
様子だった。
早く涼しい所に避難しようとしてるのか足早に歩く人、ぐったりと肩を落として力なく歩く人、
待ち合わせなのだろう、親の敵のように陽射しを睨みながら時計のポール脇で佇んでいる人。
この国は今夏で、外はうだるように暑く、誰もが汗をかきながらそれに耐えている。
けれど私はこの涼しい喫茶店で、暑さのせいではない汗が噴き出てくるのを感じていた。
サテン地のレースが入ったキャミに、胸元にリボンの入った花柄の透けキャミを併せた
こなたは可愛らしかった。
黙々とチョコレートバナナパフェをついばむ姿が、なにかの小動物みたいで無性に抱きしめ
たくなる。
と思えば突然「交換」といって、私のマンゴーフラッペとパフェを入れ替えた。
「あ、ちょっ、返事聞く前に勝手に交換するなっ!」
「いいでしょ、食べたかったんだもん!」
そう云って、まるで私に取られるのを恐れるようにフラッペを抱えこんで、勢いよく食べ出す。
「おおお……頭が……」
そう云って頭を抱えて突っ伏した。
「……お約束だな、おい」
まったく何をやってるんだか。
呆れながらも目の前にあるパフェを食べようとして手が止まる。
こなたが使ったスプーン。
ためらったのは一瞬のこと。こんなことで照れるのも明らかに不自然だったから、平気な
ふりをして食べ始める。
ちらとこなたの方を眺めると、何も気づかなかった様子で、黙々とマンゴーフラッペを
ついばんでいた。
その姿がなにかの小動物みたいで、無性に抱きしめたくなる。
――私こそ、まったく何をやってるんだかな。
「ほんと、今年の夏は暑いわよねー」
太宮駅東口、ルミネ前の喫茶店で、私とこなたはほっと一息ついていた。
夏休みも一週間が過ぎ、私は久しぶりにこなたと会った。
なんのかの理由をつけて会うのを避けてきた私だけれど、『参考書を買うから一緒に見て
欲しいんだ』と云われたらつきあわざるをえない。
太宮に来たのは三省堂があるからだったけれど、用が済んだ後ゲーマーズに寄るのもどうせ
いつものことで。その点はすでに最初から諦めていたのだった。
喫茶店の半透明の窓から見える駅前広場では、じりじりと降り注ぐ陽射しに誰もが辟易した
様子だった。
早く涼しい所に避難しようとしてるのか足早に歩く人、ぐったりと肩を落として力なく歩く人、
待ち合わせなのだろう、親の敵のように陽射しを睨みながら時計のポール脇で佇んでいる人。
この国は今夏で、外はうだるように暑く、誰もが汗をかきながらそれに耐えている。
けれど私はこの涼しい喫茶店で、暑さのせいではない汗が噴き出てくるのを感じていた。
サテン地のレースが入ったキャミに、胸元にリボンの入った花柄の透けキャミを併せた
こなたは可愛らしかった。
黙々とチョコレートバナナパフェをついばむ姿が、なにかの小動物みたいで無性に抱きしめ
たくなる。
と思えば突然「交換」といって、私のマンゴーフラッペとパフェを入れ替えた。
「あ、ちょっ、返事聞く前に勝手に交換するなっ!」
「いいでしょ、食べたかったんだもん!」
そう云って、まるで私に取られるのを恐れるようにフラッペを抱えこんで、勢いよく食べ出す。
「おおお……頭が……」
そう云って頭を抱えて突っ伏した。
「……お約束だな、おい」
まったく何をやってるんだか。
呆れながらも目の前にあるパフェを食べようとして手が止まる。
こなたが使ったスプーン。
ためらったのは一瞬のこと。こんなことで照れるのも明らかに不自然だったから、平気な
ふりをして食べ始める。
ちらとこなたの方を眺めると、何も気づかなかった様子で、黙々とマンゴーフラッペを
ついばんでいた。
その姿がなにかの小動物みたいで、無性に抱きしめたくなる。
――私こそ、まったく何をやってるんだかな。
パフェの味は全然わからなかった。
食べながら、色々とたわいないことを話した。
最近のテレビのこと、マリみて小説版の展開のこと、受験のこと、家でつかさがだらしないこと。
私はそれだけで幸せだったけれど、なんだかこなたはたまに沈んだ表情をしていた。思い
起こせば、近頃たまにこんな表情をみせていた気がする。それを見る度に、なぜだか私の
脳裏には桜の幻影が浮かぶのだ。
そして会計のときだった。
こなたはおもむろに伝票を掴むと、「ここ、わたしが払っとくから」と云ってさっさと会計に
向かってしまったのだ。
「え、ちょ、ちょっとこなた?」
鞄の中を確かめていた私は慌てておいかけたけれど、こなたはもうお財布を出してしまって
いた。ここで押し問答をすると迷惑になると思って、お店を出たところで問い詰めた。
「なんでよ、なんであんたのおごりなの? 払うってば」
「いいからいいから。ほら、今日はわたしにつきあってもらったんだし?」
「はぁ? そんなの…誰が誰につきあってもらったとか、私たちそんなんじゃないだろ」
「んなこと云ったら、おごったとかおごってもらったとかも、そんなんじゃないんじゃないの?」
「……そりゃ…そうだけどさ。うーん、でもなんか今のは違くないか?」
「もう、かがみってほんと変なところで生真面目だよね。わたしは働いてて、かがみはそうじゃ
ないんだから、もらっとけばいいじゃん」
「働いてるっていっても、バイトでしょうに。そんな十万二十万もらってるわけじゃないだろ。
本分は学生なんだから、やっぱりおごってもらう筋合いなんてない!」
最近のテレビのこと、マリみて小説版の展開のこと、受験のこと、家でつかさがだらしないこと。
私はそれだけで幸せだったけれど、なんだかこなたはたまに沈んだ表情をしていた。思い
起こせば、近頃たまにこんな表情をみせていた気がする。それを見る度に、なぜだか私の
脳裏には桜の幻影が浮かぶのだ。
そして会計のときだった。
こなたはおもむろに伝票を掴むと、「ここ、わたしが払っとくから」と云ってさっさと会計に
向かってしまったのだ。
「え、ちょ、ちょっとこなた?」
鞄の中を確かめていた私は慌てておいかけたけれど、こなたはもうお財布を出してしまって
いた。ここで押し問答をすると迷惑になると思って、お店を出たところで問い詰めた。
「なんでよ、なんであんたのおごりなの? 払うってば」
「いいからいいから。ほら、今日はわたしにつきあってもらったんだし?」
「はぁ? そんなの…誰が誰につきあってもらったとか、私たちそんなんじゃないだろ」
「んなこと云ったら、おごったとかおごってもらったとかも、そんなんじゃないんじゃないの?」
「……そりゃ…そうだけどさ。うーん、でもなんか今のは違くないか?」
「もう、かがみってほんと変なところで生真面目だよね。わたしは働いてて、かがみはそうじゃ
ないんだから、もらっとけばいいじゃん」
「働いてるっていっても、バイトでしょうに。そんな十万二十万もらってるわけじゃないだろ。
本分は学生なんだから、やっぱりおごってもらう筋合いなんてない!」
なんでだろう、今日はやけにつっかかる。
そもそもあのオタク趣味一直線でいつもお金に困っていたこなたが、飲食物を気軽に
おごろうなんていうのはおかしいのだ。
そういえば今日は本屋やゲーマーズでもなにかおかしかった。私が手にとった本をみて、
『欲しかったら買ったげようか』なんて変なことを何度か云っていた。てっきりなにかの
ネタなのかと思って流していたけれど、してみるとあれは本気だったのだろうか。
表通りでは目立ってしかたがなかったから、裏路地にひっこんで、汗だくになりながら
払うの払わないの云い続けた。
私は、誕生日プレゼントのDVDの値段のことを考えていた。
今日のこなたの服だって、初めて見たものだった。去年も一昨年も、ずっと同じ服を着合わせで
ごまかしてたのに。
「あんたまさか……」
声色が変わったのを察したか、こなたが虚を突かれたように私を見つめる。
「あんたまさか、変なバイトに手を……」
と云いかけたところでこなたの鞄が私の顔面に直撃する。痛くはなかったけれど、
『ふごっ』なんて変な声がでた。
「んなわけないでしょ!!」
真っ赤な顔をして、ふーふーと息を荒げて私をにらみつけてくる。“あ、可愛い”なんて
思った私はきっと暑くて脳が溶けている。
しばらく無言でにらみあったあと、こなたはふっと哀しそうな顔をしてこう云った。
そもそもあのオタク趣味一直線でいつもお金に困っていたこなたが、飲食物を気軽に
おごろうなんていうのはおかしいのだ。
そういえば今日は本屋やゲーマーズでもなにかおかしかった。私が手にとった本をみて、
『欲しかったら買ったげようか』なんて変なことを何度か云っていた。てっきりなにかの
ネタなのかと思って流していたけれど、してみるとあれは本気だったのだろうか。
表通りでは目立ってしかたがなかったから、裏路地にひっこんで、汗だくになりながら
払うの払わないの云い続けた。
私は、誕生日プレゼントのDVDの値段のことを考えていた。
今日のこなたの服だって、初めて見たものだった。去年も一昨年も、ずっと同じ服を着合わせで
ごまかしてたのに。
「あんたまさか……」
声色が変わったのを察したか、こなたが虚を突かれたように私を見つめる。
「あんたまさか、変なバイトに手を……」
と云いかけたところでこなたの鞄が私の顔面に直撃する。痛くはなかったけれど、
『ふごっ』なんて変な声がでた。
「んなわけないでしょ!!」
真っ赤な顔をして、ふーふーと息を荒げて私をにらみつけてくる。“あ、可愛い”なんて
思った私はきっと暑くて脳が溶けている。
しばらく無言でにらみあったあと、こなたはふっと哀しそうな顔をしてこう云った。
「かがみは、そんなにわたしに借りを作りたくないの?」
なにか電撃のようなものが私の背筋を貫いた。
この会話は危険だ。本能がそう告げる。
「そ、そんなことないわよ……でも……」
そう云って目を伏せた私に、こなたは激するでもなく責めるでもなく、淡々とした口調で
問いかけた。
この会話は危険だ。本能がそう告げる。
「そ、そんなことないわよ……でも……」
そう云って目を伏せた私に、こなたは激するでもなく責めるでもなく、淡々とした口調で
問いかけた。
「かがみはさ、最近わたしに冷たいよね?」
「ちがっ!」
反射的に顔を上げて放った言葉は、最後まで云いきることもできず、私とこなたの間、
空中のどこかで消えていった。
空中のどこかで消えていった。
こなたの青竹色をした大きな瞳の端に、みるみる涙がふくれあがっていって、頬を伝って
こぼれ落ちていく。
こぼれ落ちていく。
「みんなと一緒にいてもわたしと目をあわせてくれないし、勉強も教えてくれなくなったし、
前は自然と隣に座ってくれたのに、最近絶対つかさを間に挟むようにしてるし、試験休みから
何回誘っても全然会ってくれないし、メールの返事は他人行儀だし、今日だって……
久しぶりに会ったのに、あんまり楽しそうじゃなかった……」
前は自然と隣に座ってくれたのに、最近絶対つかさを間に挟むようにしてるし、試験休みから
何回誘っても全然会ってくれないし、メールの返事は他人行儀だし、今日だって……
久しぶりに会ったのに、あんまり楽しそうじゃなかった……」
だってそれは。
全部。
あなたのことが好きだからで。
全部。
あなたのことが好きだからで。
好きで好きでどうしようもないから、なんとか距離を置こうとしていて。
それで。
それで。
そう云いたかった。声を荒げて叫びたかった。
けれど私は何も云えずに立ちつくしていた。
けれど私は何も云えずに立ちつくしていた。
「……ごめん、ほんとはわかってるよ。かがみは受験で一生懸命だから、そういうの邪魔
なんだよね? わたしなんかと違ってかがみには夢があって……。慶応とか上智とか入って、
弁護士になって、沢山の人を助けてあげるんだよね? それには一杯一杯勉強しないといけないから、
わたしみたいな落ち溢れと遊んでる暇なんて、そりゃないよね……」
なんだよね? わたしなんかと違ってかがみには夢があって……。慶応とか上智とか入って、
弁護士になって、沢山の人を助けてあげるんだよね? それには一杯一杯勉強しないといけないから、
わたしみたいな落ち溢れと遊んでる暇なんて、そりゃないよね……」
「ちが……ちがうよ……こなた…そんな…そんなことじゃ……」
のどがひりつくように痛い。
懸命に言葉を絞りだそうとするけれど、喋り方を忘れてしまったみたいに、途切れ途切れに
しか声がでてこない。
それでもこなたはそんな私の言葉を黙って聞いてくれたあと、ぎゅっと目を閉じてぶんぶんと
頭を振った。
こなたの青い長髪がたおやかに流麗になびき、そのあわいに舞い飛ぶ涙がきらきらと光を
反射していて。
なんて綺麗なんだろうと、こんなときなのに、まるで人ごとみたいに思った。
懸命に言葉を絞りだそうとするけれど、喋り方を忘れてしまったみたいに、途切れ途切れに
しか声がでてこない。
それでもこなたはそんな私の言葉を黙って聞いてくれたあと、ぎゅっと目を閉じてぶんぶんと
頭を振った。
こなたの青い長髪がたおやかに流麗になびき、そのあわいに舞い飛ぶ涙がきらきらと光を
反射していて。
なんて綺麗なんだろうと、こんなときなのに、まるで人ごとみたいに思った。
「じゃ……なに?」
うつむいたまま、こなたは呟いた。
「なに……なにって……」
なんだろう。
なんて云えばいいのだろう。
なにが云えるだろう。
うつむいたまま、こなたは呟いた。
「なに……なにって……」
なんだろう。
なんて云えばいいのだろう。
なにが云えるだろう。
“私はずっと黙ってたけど実は両性愛者です。あなたが好きです”
云えない。
それは云えない。
人口の97%を占める異性愛者の中で、こなたが私を受け入れてくれる可能性は3%を
はるかに下回る。
アニメや漫画なら、どれだけ可能性の低さを示されてもハッピーエンドになるけれど、
生憎現実はそうじゃない。
それは云えない。
人口の97%を占める異性愛者の中で、こなたが私を受け入れてくれる可能性は3%を
はるかに下回る。
アニメや漫画なら、どれだけ可能性の低さを示されてもハッピーエンドになるけれど、
生憎現実はそうじゃない。
永遠に失ってしまうなら、誤解されたままのほうがましだった。
私が押し黙っていると、こなたはうつむいたまま小さくため息を一つついた。
「云えないんだね……」
そう云うとこなたは振り向いて、手の平で涙を拭いながら走り去っていく。
「あ、こなた! ま、まって、まってよ!」
慌てて手を伸ばして追いかけようとするけれど、私の足はまるで別人みたいに云うことを
聞かなくて。
心も体も錆びついて軋んでいる。
走り出そうとしたけれど、足がもつれてふらふらとしゃがみこんだ。
そして私は力尽きたように倒れ込む。
聞かなくて。
心も体も錆びついて軋んでいる。
走り出そうとしたけれど、足がもつれてふらふらとしゃがみこんだ。
そして私は力尽きたように倒れ込む。
――何かが、砕けていく音がした。
雨がいつ降り出したのかは、よくわからない。
気がついたらどしゃぶりの雨に打たれていた。
それが私の心象風景なのか、それとも現実の雨なのか、それすら判然としなかった。
そんなことはどちらでもよかった。
それが私の心象風景なのか、それとも現実の雨なのか、それすら判然としなかった。
そんなことはどちらでもよかった。
こんな私など、夏の驟雨を浴びて一人佇んでいるのがお似合いだ。
空を振り仰げば、滝のような雨が全て私に向かって降り注いでくるように思える。
厚い雲に覆われて、太陽がどこにあるのか探せない。
手で庇を作って、眼に入り込む雨を少しでも遮ろうとするけれど、すぐにそんなことは
無意味だと思い知る。
探したかったのは、太陽じゃない。
遮りたいのは雨じゃない。
厚い雲に覆われて、太陽がどこにあるのか探せない。
手で庇を作って、眼に入り込む雨を少しでも遮ろうとするけれど、すぐにそんなことは
無意味だと思い知る。
探したかったのは、太陽じゃない。
遮りたいのは雨じゃない。
――こなた。
こなた。あいつは。
私に嫌われていると思って、悩んでたのかな。
私がこなたのことを避けようとしたことなんて、初めてだったから。
だから、どうしていいかわかんなくて、迷って悩んで。
せめて気前よくお金をだすことで、つなぎ止めようとしたのか。
こなた。あいつは。
私に嫌われていると思って、悩んでたのかな。
私がこなたのことを避けようとしたことなんて、初めてだったから。
だから、どうしていいかわかんなくて、迷って悩んで。
せめて気前よくお金をだすことで、つなぎ止めようとしたのか。
それがあまりにも哀しすぎて、なぜだか笑ってしまった。
不器用で、馬鹿で、優しくて。
そんなこなたが哀しすぎるから。
不器用で、馬鹿で、優しくて。
そんなこなたが哀しすぎるから。
そしてこなたにそんなことをさせたのが私なのだ。
――このまま、雨に溶けて消えていければいいのに。
服が雨に濡れそぼり、水を吸って身体に張り付いて気持ち悪い。
それはつかさが見立ててくれたお気に入りの服。
ボーダーのタイ付きカットソーに、リボンがついたフレアスカート。
今朝姿見の前でこの服を着たときは、あんなに幸せだったのに。
今朝姿見の前でこの服を着たときは、あんなに幸せだったのに。
あのときの気持ちを思い出そうとしたけれど、なんだかテレビでみたシーンを思い浮かべて
いるみたいで、まるで現実感がなかった。
いるみたいで、まるで現実感がなかった。
――ごめんね。ごめんねつかさ。あんたが選んでくれた服、哀しい思い出の服に
なっちゃった。
きっとあんたのことだから、“この服を着てて、おねえちゃんがずっと笑ってたらいいな”
なんて思ってたんだろうにね。
なっちゃった。
きっとあんたのことだから、“この服を着てて、おねえちゃんがずっと笑ってたらいいな”
なんて思ってたんだろうにね。
いったいどのくらいそうしていたのだろう。
まるで時間感覚が失われていた中で、ふと鞄の中のケータイが着メロを歌いだした。
反射的に慣れ親しんだ動作で取り出して、送信者名を確認した。
まるで時間感覚が失われていた中で、ふと鞄の中のケータイが着メロを歌いだした。
反射的に慣れ親しんだ動作で取り出して、送信者名を確認した。
『ツカサ』
そのなによりも日常を思い出させてくれる文字列は、私をやっと現実に引き戻してくれた。
そのときになって初めて、私は泣くことができたのだ。
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『4seasons』 夏/窓枠の花(第四話)へつづく
『4seasons』 夏/窓枠の花(第四話)へつづく
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- 佳境入ってキタ!他の百合話と一線を画してるのは現実的だからか。
原作がギャグなだけにシリアス展開はギャップがあって盛り上がる -- 名無しさん (2008-04-12 05:23:43)