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若瀬いずみの憂鬱

最終更新:

匿名ユーザー

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で、いつになったらハルヒの新刊が出るのか。
二期が出れば新刊が出る、そう考えていた時もありました。
すっぱり諦められればまだ気が楽なんだけどね。
『ミナミノミナミノ』? そんなやつもあったっけ? みたいに。
ともあれ、ライトノベルヲタの自分にとっては、続きが読めずに止まっている話ほど辛いものはない。
楽しみにしていた『キノの旅』は、しょっぱなからナイスな時雨沢っぷりで、
朝のSH前の時間はもうこれから目が離せなかった。
「ちょっと、○○くん?」
『キノの旅』から視線を上げる。
若瀬いずみ――うちのクラス委員長が俺を見下ろす。
ああ、そう、朝倉さん、朝倉さん。
髪も長いし、成績優秀、人当たりもいい、眉目秀麗。
うん、こう並べて見るとハルヒの朝倉涼子にそっくりだ。
やっぱこういうタイプの人が委員長に向いてるよな。
「ちょっと、○○くん。聞いてるの?」
「あ、わりぃ、ボーっとしてた。何?」
「進路希望調査票、まだ出してないでしょ?今日中に提出だから出してくれる?」
あ、鞄の中に入れっぱなしだ。しかも白紙。
「ごめんごめん、すぐ書くからちょっと待ってて」
二年の時点の進路希望調査なんて大して書くことなんてない。
進学か就職(一応進学校だから、進学を選ぶ人がほとんどだけど)を書いて、
後は適当な大学名を書くだけ、三分もかからない。
さらさらとシャーペンを走らせる。
「あ、キノの旅、キミが借りてたんだ」
何のこと、と思い、視線を上げる。
ああ、さっき読みかけの『キノの旅』が、しおりを挟んで机の上にある。
結構うちの高校の図書館はライトノベル系のすぐに新刊を入れてくれるからありがたい。
「次、私予約入れてるんだ。読み終わったらよろしくね」
「へぇ、意外だね。委員長ってもっとお堅い小説ばかり読んでる気がしてたけど」
高原にある池を目の前にした白亜の別荘。サマードレスで純文学を読む委員長の姿がありありとイメージできる。
「やだ、私だってライトノベルぐらい読むわよ。ハルヒとか、禁書目録とか……」
「あ、ハルヒ読んでるんだ。俺もこの間分裂まで読み終わったとこ」
「この間で幸せだったわね。私なんて二年間も待たされてるんだから」
志望大学に陵桜大の名前を書いて、委員長に手渡す。
「ん、おっけ。それじゃ、読み終わったらよろしくね」
長い髪をなびかせる委員長の後姿。
ああ、あの長い髪をポニーテールにしたら、きっと似合うんだろうな。
そんなことを考え始めた俺は、きっとキョンに毒されはじめているのかもしれない。


読み終えた『キノの旅』を返却し、下校時刻まで図書館で粘った。
ライトノベル棚から『天国に涙はいらない』を借りて教室に戻った頃には、
教室には誰も残っていなかった。
バスの時間も近い。さっさと帰らないと……
「うおっ」
慌てたついでに机に足を引っ掛けた。
机の横にかかっていた鞄が転がり、中身がこぼれる。
あ、やべ。これ委員長の机だ。
ごめん、委員長。床に落ちた本に手を伸ばそうとして……手が止まった。
「……長門?」
パンフレットぐらいしかないその薄い本に描かれていたのは、間違いなく長門だ。
でも、そのイラストはいとうのいぢのイラストじゃない。
もう少し柔らかい感じで……ごめんなさい、原作よりこんなタッチのイラストが好きです。
こんな本、俺の知らない間に出てたのか?
「……」
唾を飲み込む。
俺は涼宮ハルヒに飢えていた。
シリーズをまとめて読んで、その続きがもう二年以上出ていないと知って、
そこから先、どうやって生きていけというのか。
どうなるんだ、ハルヒは? 長門は? 朝比奈さんは?
新キャラの佐々木は? 橘は? 九曜は?
そんな渇きを、癒すものが目の前にある。
止まっていた手が伸び、ページを開いた。
そこには、原作では止まっていた世界があった。
原作では語られない世界があった。
原作では感情が表に出始めてきた程度の長門の、キョンとの切ないラブストーリーがあった。
あんまりデレることのないハルヒの、こそばゆいほどの甘い話があった。
原作ではそんなそぶりを見せなかったのに、古泉と朝比奈さんのカップリングに惹かれてしまった。
今がどういう状態かも忘れ、床に散らばった本に読みふけってしまう。
完全に俺は、自分の置かれている状況を忘れていた。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
その、悲鳴とも言えるべき声が聞こえるまでは。
教室のドアをあけた姿で凍りつく委員長。
夕焼けの中の委員長は、一巻の朝倉涼子を髣髴とさせた。
清楚そうなまっすぐな髪と、スカートから伸びる白い足と白いソックス。
そして、自分の置かれている状態を理解し、委員長の手にナイフを幻見した。
ああ、俺終わった。
勝手に人のカバンの中の本読んで、どう言い訳ができよう。
一歩も動けない俺の目の前で、委員長は床に散らばった本をかき集める。
「……見た?」
しゃがみこみ、胸に本を抱えた委員長が目の前にいる。
顔を真っ赤にして、目にはうっすら涙がたまってる。
「見たんでしょ……」
言葉も発することもできずに俺は、こくこくと頷く。
委員長はちょっと赤くなった目でじっと睨む。
「言わない?」
「え?」
「絶対に他の人に言わないでよ。言ったら……」
間近で睨む委員長の迫力に、抗することのできないまま頷いた。
「はぁ、どうして最近よくバレちゃうんだろ。この前もコミケで鉢合わせするし……」
委員長は小さくため息をついて、目尻をこすった。
なんかあれ、見ちゃいけないものだったのか?


「な、なぁ、委員長」
「何っ」
「それ、見られちゃまずいんだよな」
「そうだけど、何!!」
「足音、聞こえるんだけど……」
下校時間だからもう生徒はいないと思ってたけど、遠くからこっちの教室の方へ来る足音がする。
「や、ヤバイ!! わわっ!!」
立ち上がった委員長の手から本が落ちる。
慌てて拾うおうとするけど、その間にも足音は迫る。
「ちょ、ちょっと。手伝って!!」
てか、委員長慌てすぎだって。
俺も一緒になって本をかき集める。
もう足音は間近まで迫っていた。
「早く、隠れて!!」
教壇の後ろに隠れた委員長の声。
拾った本を抱えて、俺も教壇の裏に滑り込む。
「なぁ、委員長」
「何? もうすぐ来るから黙って!!」
「隠れる必要、なかったんじゃない? 鞄にしまっておけば」
「!!!」
委員長が何か叫ぼうとして、慌てて自分の口を押さえた。
扉の開く音がする。
「ごめんね、みなみちゃん。保健室で休んでたらこんな時間になっちゃって」
「気にしないで。私もふゆき先生とお話できて楽しかった」
あ、岩崎と小早川か。
もうすぐ下校の時間、鞄をとったらすぐ帰るだろう。
ふにっ、と柔らかいものが体に触れる。
その感触が思考を目の前に引き戻す。
「!!!!!!」
委員長の顔が、すぐ目の前にあった。
教壇下の狭いスペース、本を抱えて手をつくことのできない委員長が、バランスを崩しもたれ掛かるような姿勢になる。
うわっ、あったけぇ、やわらけぇ。
首筋を撫でる委員長の吐息、俺の顔にかかる委員長の髪の毛のいい香り。
音を立てないように、委員長は身動きもできないまま自分に体を預けている。
「どうしたの、みなみちゃん」
「? 今何か音がしなかった?」
ヤバイ、この体勢を女子に見られたらなんていい訳ができるだろう。
目の前の委員長もなんだか半泣きだし。
「……何も音しないよ」
「そう、私の勘違いだったみたい。行こう、ゆたか」
荷物を持ち上げて机が軋む音、扉のあく音と、閉まる音。
足音が遠ざかっていき……聞こえなくなった。
「行ったみたいだ、もう動いてもいいよ、委員長」
「ひぅっ……!!」
俺の声にビクッと反応したかと思うと、委員長は俺を突き飛ばす。
バランスを崩して頭をぶつける。安作りの教卓は派手な音を奏でる。
目を開けたときには、委員長は教卓の下を飛び出していた。
「っう……何するんだ、委員長……」
教卓から這いずり出た俺が見たのは、本をギュッと胸に抱きめ、涙をボロボロと
こぼしている委員長の姿だった。
「い、委員長。大丈夫?どこか打った?」
「ちがっ……急に……あんな風に……なって……ちょっと……びっくり……しただけ……」
目の前で女の子が泣いているといい想定外の出来事に、俺の脳みそは完全に対応できない。
だってそうだろ?
漫画や小説の主人公みたいにとっさにカッコいいセリフなんて出てこない。
完全に足がすくんで、どんな言葉をかけたらいいか、皆目見当がつかない。
金魚のように口をパクパクさせ、何とか言葉を紡ぎだす。
「外で、待ってるから……」
そう言い残し、鞄を掴む。
逃げるのかよ俺、かっこ悪りぃ……
閉じた扉の向こう、小さなすすり泣きの声。
背中を壁に自分の無力さにこっちまで泣きたくなる。
そして、こんな時もさっきまで抱き合っていた委員長の体温とか柔らかさを思い出してしまう、
この情けなさにも。

「いい? 今日あったことは忘れて、全部」
春日部駅にバスが着いた時には、太陽は沈みきり空に夕焼け色を残しているぐらいだった。
オレンジ色に大分宵闇を練りこんだ空を背景に立つ委員長は、どこか寂しげだった。
あの後教室を出てきた委員長は、表面上にはいつもの委員長に戻っていた。
でも、泣きはらした目は真っ赤だったし、バスの中でも俺と不自然に離れて座っていた。
「じゃあね、明日学校で」
小さく手を振って委員長は駅に歩き出す。
ダメだ、何も言えない、このままじゃ。
何か、何か言わなきゃいけないんだ。
「委員長!!」
勢いに任せて声を出す。
振り返る委員長。
「あ、あのさ……」
そうだ、何か言わなきゃいけないんだ、考えろ。
エンドレスエイトみたいに、何か言わなきゃループから脱出できないわけじゃない。
でも、いいのか、彼女の言うとおり、今日あったことをなかったことにして。
あるんだろ、今日あの間にあった、俺が言わなくちゃいけないこと。
ライトノベルの登場人物のようにはいかないけどさ、なんでもいい、伝えたい。
「さっきの本さ、すごくよかった。委員長は他の人に知られたくないっていうけどさ、
 俺は読みたい、さっきみたいな本、すげー読みたい。だからゴメン。忘れられない」
委員長が絵に描いたように真っ赤になる。
そうだ、言った俺本人もなんだかこっ恥ずかしい。
困ったようにおろおろした後、委員長は恥ずかしげにあっかんべーをして、改札へ駆け出した。
まるで、ハルヒの表紙のようなあっかんべーが、
どことなく嬉しそうに見えたのは、きっと俺の見間違いじゃないだろう。












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コメント:
  • よし・・・。待ちに待った俺モノSSだ・・。
    百合はお腹いっぱいだったんだww
    作者さん、GJです! -- 名無しさん (2009-11-06 04:06:19)
  • 誤字ご指摘ありがとうございました。修正いたしました -- 4-320 (2009-11-03 07:50:07)
  • お互いにあまり知らない二人の、
    さわやかな感じがでていてGJです。 -- 名無しさん (2009-11-02 06:50:56)
  • GJ
    ところで、○○君はなんで「委員会」に突き飛ばされたの? -- 名無しさん (2009-11-02 00:05:40)

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