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背徳のイマジネーション

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だれでも歓迎! 編集
「ああああああああああ」
 ごろごろごろごろ。
 かがみは自室で一人悶えていた。年末のコミケに連れて行かれたときに見かけた同人誌の
内容を不意に思い出してしまったからだ。
 かがみの好きなフルメタル・パニック。ではなく、その同人誌。単なる二次創作なら問題
はなかったが、宗介とガウルンが裸のまま肌を合わせるというとんでもない表紙だった。
 思わず手にとって読んでしまった内容は、もっととんでもないものだった。硬派な宗介と
ガウルンが性別を越えて互いを求め合う……。
「ありえないありえない」
 ありえない。彼らは同性愛者ではないし、そもそも敵同士なのだ。宗介にとってガウルン
は幼少の頃から大切なものを奪われ続けた憎んでも憎みきれない仇敵である。ある意味宗介
にとって呪いのような存在。宗介がどんなにあがいても解かれることのない呪縛。
 『呪縛』。それが件の同人誌のタイトルだった。宗介にとってガウルンは付きまとい続け
る呪縛。しかし彼はその呪縛を受け入れて身体を求め……仇敵の身体を受け入れることで、
自らの人生に一つの答えを見出す。愛憎という言葉があるように、愛と憎しみは隣り合わせ
にある感情。ガウルンのことを憎み続けたからこそ、その愛は……。
「違う違う違う!」
 気づけばその同人誌の内容を思い出してしまう。それほど、例の同人誌はかがみに強烈な
インパクトを残していた。
「あーもうふざけるんじゃないわよ」
 宗介とガウルンがそんな関係になるなど、原作に対する冒涜だ。原作を好きであるからに
は、あんなものを読んではいけない。
「私はフルメタのファンなんだから」
 かがみは本棚からフルメタル・パニックを一冊取り出す。最近、二巻まで読み返したとこ
ろだったので、次の『揺れるイントゥ・ザ・ブルー』を読むことにした。
 いつもの力を発揮できず、かなめと微妙にすれ違いながらも、仇敵ガウルンを捕らえるこ
とに成功する。しかし、ある出来事からガウルンに艦内を掌握され、絶体絶命のピンチに。
宗介とかなめの活躍で再逆転に成功、最後は宗介とガウルンによるアーム・スレイブの一騎
打ち。互いの命を懸けた土壇場の決戦(ショウ・ダウン)、まさにクライマックス。
 かがみは物語の世界に没入していく。やはりフルメタはこうでなくては。
『愛してるぜぇ、カシム~っ!!』
「!!」
 宗介もろとも自爆しようと、下衆な笑いを浮かべるガウルンの叫び。かがみは思わず反応
してしまった。
 いやいや、これは違うから。かがみはもう一度その部分を読む。これはガウルンの偏執狂
的な性格がそうさせただけであって、深い意味などない。あるはずがない。でも、決着した
あと、ガウルンのことで悪態をつく宗介は妙に活き活きしていたような気が……。
「んなわけないってば!」
 次々と湧き出る変な想像を振り払って、かがみは物語の続きを読むことにした。


「なんていうか……変な雰囲気ね」
 かがみがこなたに連れられてきたのは、同人誌販売店である『とらのあな』。秋葉原にい
くつか存在する店舗の一つである。
「コミケが地下99階の大部屋モンスターハウスならここは10階程度だよ」
「なんだその例え……コミケに行ったのにわざわざこんな店に来なくてもいいんじゃない?」
「さすがの私もコミケで全部買えるわけではないのだよ」
 結局、つかさに任せた部分はほとんど満足に買えていなかったという。そもそもつかさに
は、こうして後からフォローできそうなところを任せていたらしい。普段は面倒くさがりな
くせに、こういうときは用意周到なこなたであった。
「でも……ねえ」
 気後れしているかがみを尻目に、こなたは目ぼしい同人誌を次々と手にとっていった。と
りあえずかがみもそれに着いていく。ほとんどは18禁のもので目を逸らしたくなるが、中に
は思わず目を奪われてしまいそうになるほど美麗な絵もあって驚かされる。
(ん……?)
 視界に何か見覚えのある絵が入ったような気がして、反射的にそちらの方を向く。次の瞬
間、そうしてしまったことを後悔した。
 その本のタイトルは『呪縛』。表紙に描かれているのは宗介とガウルンである。
「お、かがみそういうのに興味あるんだ」
「なななななな、何言ってんのよ、あるわけないでしょ!!」
 店内にいたほぼ全員が、いきなり大声をあげた少女を振り向いた。
「いやいや隠さなくていいって。そういうのが好きな人はいっぱいいるから」
「違うわよ! ただフルメタのキャラがいたから思わず見ちゃっただけなんだから!」
「ん? 私はこれのことだなんて一言も言ってないけどなぁ。『呪縛』?」
「わ、わあああああ!」
 盛大に自爆して真っ赤になった。気づくと注目を浴びていてさらに恥ずかしくなる。かが
みの額に汗がにじむのは、決して暖房の効きすぎなどではなかった。
「大丈夫だよ。ホモが嫌いな女子なんかいないっていう格言もあるくらいだよ」
「そんなの知らない! わ、わたし先に出るから!」
 逃げ出したかがみを責められる人はいないであろう。


「あー恥ずかしかった……」
「恥ずかしいと思うから恥ずかしいんだって。周りはみんな同類なんだよ」
「あんたと同類になったつもりはない」
 帰りの電車。座席に座って落ち着いてくると、愚痴を言いたくもなってくるものだ。
「でもさぁ……健全な作品を題材にどうしてあんなものを描くかな……」
「人間には想像力があるんだよ。かがみは終わっちゃった漫画の続きを想像したことはない?」
「まあ、あるわね……」
 例えば、壮絶な戦いの末に世界を救った勇者はその後どんなふうに生きるのか。英雄とし
て崇められているのか、また新たな戦いを求めて旅を続けるのか、それとも愛する誰かと幸
せに暮らすのか。
「ヤマトの勇気は世界を救えるのか……!」
「誰だよそれ」
「とにかくそういうのはあっち方面も同じことなのだよ。大抵の作品は恋愛要素があるしね」
「それはわかるけど……」
「最近は金目当てで人気作品を描く人が多いけど、純粋に好きだから描く人もいるわけだよ。
もちろん、好きだからこそ二次創作を嫌う人もいるけどね」
 物語の外にもその世界の存在を求めるのか否か。結局は人それぞれということなのだろう。
「というわけで、これかがみにあげるよ」
 こなたはA4サイズの紙が入りそうな紙袋を手渡してきた。この状況なら、中身が同人誌で
あることくらい察しがつく。
「まさかこれ、18禁じゃないでしょうね」
「開けてのお楽しみってことで」
「否定しろよ」
 かがみは嫌な予感がした。まさか……。
 電車が一旦止まって、駅名を告げる。車内の数人が下車したあと、数名の高校生と思しき
男子たちが乗車してきた。
「あいつまた練習さぼりやがったな」
 その高校生のうちの一人。その声には明らかに怒りがこもっていた。彼らの持っている道
具から、彼らは野球部員だと伺い知れる。
「今度の試合はあいつ抜きだな」
「でもここに来てエースピッチャーがいないって」
「練習に来ない奴にマウンドを任せられるかよ!」
 熱くなっているらしく、声を荒らげた。そんなつもりはないのだが、かがみは思わず聞き
耳を立ててしまう。先ほどのこなたではないが、人間には想像力が働くものなのだ。
「だよな。あいつ何かおかしいぞ」
「ちょっと待ってくれ」
 彼らの総論が決まりかけたとき、一人が反論した。
「確かに先月あたりからあいつの様子がおかしかった。あいつに何かあったんじゃないかな。
俺が話をつけてやる」
「そこまでしてやることねーよ。それこそあいつの都合じゃねえか」
「俺は、あいつがピッチャーじゃなきゃイヤだ」
 彼は自分の手に持つキャッチャーミットを見つめた。おそらくは、『あいつ』の球を受け
続けてきたものだろう。
 ちょうど電車が次の駅に到着すると、キャッチャーミットを持った彼はさっさと電車を降
りてしまった。『あいつ』の家の最寄り駅なのかもしれない。この後彼はどんな言葉で説得
するのか、かがみには知る由もない。
「青春だねぇ」
 同じ年代であっても、青春とは無縁のこなたであった。

『どうしたんだよ。あんなにも練習を続けてきたじゃないか!』
『今は練習してないだろ! もう俺に構うな!』
『一緒に甲子園行こうって行ったのは嘘だったのか!?』
『ああ、嘘だよ! 俺は一度も甲子園に行きたいと思ったことはない。ただ、お前と野球を
やっていたかっただけなんだ』
『だったらなんでだよ! お前の球を受けるために、俺は野球をやってるんだぞ!』
『俺はお前にバッテリーをやっていい人間じゃない』
『なんだって?』
『俺はお前を友達として見れなくなっちまったんだ』
『俺が何かしたのか? 俺に悪いことがあったら何でもする!』
『そうじゃない……悪いのは俺のほうだ! お前のことを……好きになっちまったんだ……
気持ち悪いだろ? 軽蔑するだろ?』
『いいや……俺はお前の全部を受け止める』
 夕日の差し込む部屋で、二人は――

「だー! 違ーーーーう!」
「ど、どうしたのかがみん」
 電車の中でいきなり頭を振って絶叫する女子高生というのはかなり奇異なものであった。
(な、何考えてるんだ私は……!)
 心の底から自分の想像力を恐ろしいと思った。あろうことか仲間の欠員に悩む野球少年で
そんなことを考えてしまうなんて……。
「東武動物公園~東武動物公園~」
 アナウンスが到着駅を告げる。ちょうどかがみが乗り換えをするべき駅だった。
「じゃ、私はこれで!」
 かがみは脱兎のごとく駆け出した。


「やはりこれか……」
 予感はしていた。というよりも、あの流れで行けばこれしかないと思っていた。
「あいつ何考えてんのよ……っていうか店員も売るなよ」
 こなたは十八歳以上ではないし、こなたを見て十八歳以上だと思う人もいないだろう。
「どうしろっていうのよ、これ……」
 家に帰って勉強のノルマを済ませ、風呂に入ってすっきりした……はずが、こなたが寄越
した紙袋の中身によって一気に重苦しい気分になった。
 紙袋の中身はやはり同人誌。そしてタイトルは『呪縛』である。
「やっぱりこなたに返して……ダメだ」
 こなたに返すためには学校に持っていかなければならない。言語道断、絶対にやってはい
けない。そもそもこなたは譲渡したのだから返すというのは正しくない。
 万一家族に見つかると思うとゴミ箱には捨てられない。直接こなたの家に行くかこなたに
来てもらうかして持ち帰ってもらわなければならないが、それまではこの部屋に保管するこ
とになる。
「どこかに隠さないとね……」
 初めてエロ本を手に入れてしまった男子中学生のように――実際、それはエロ本と言って
いい代物なのだが――かがみは悩んでいた。
 こんなものが部屋にあるのは迷惑でしかない。こなたも嫌がらせのためにこんな本を買っ
たのだから大したものだ。と、ここで携帯電話の着信音が鳴る。
「もしもし、ってこなた!」
 さっさと電話で話をつけるべきだった。そんなことも気づかなかった自分に愕然となる。
『プレゼントは楽しんでいただけたかね?』
「あんた、何考えてんのよ!」
『興奮気味だねぇ。もしかして読んでた?』
「怒ってんのよ! あんたのせいだろうが!」
 ここにこなたがいたら殴る。次に会ったら絶対殴ってやる。
「私の家はあんたのとことは違うんだからね。こんなもの押し付けられても困るのよ。捨て
るわけにもいかないし」
『それをすてるなんてとんでもない!』
「なら責任もって取りに来なさい! 私がそっち行くんでもいいけど!」
『気に入ってもらえなくて残念。来週には宿題見せてもらうからその時にでも』
「今から見せてもらうつもりかよ」
『いつもすまないねぇ』
「それは言わない約束……って違うだろ!」
『お、かがみんもノリがよくなったね』
「少しは悪びれろよ」
 それからひとしきり話して、電話を切った。
 すると、再びこの問題と向き合うことになる。さて、この『呪縛』をどうしてくれようか。
 宗介とガウルンがそんな関係になるなど、いくらなんでもふざけている。他人の作品世界
に好奇心が湧くのは仕方ないとして、どうしてこの二人なのか。宗介にはかなめというれっ
きとした恋人(?)がいるのだ。
 まあ、男女と男同士ではそういった場面の機微が全く異なるのだから無理矢理にでもそう
いうカップリングにしてしまうという理屈はわからなくはない。それでも、宗介にはクルツ
という仲間がいる。飄々とした男だが宗介との信頼関係は強く、美形なので絵的にも映える
だろう。いや、やはり長年の因縁があるガウルンのほうがある意味結びつきは強いし、その
設定を逆手にとって背徳感を演出……。
「だから何考えてるんだ私はーっ!」
 思わず脳内カップリング議論を繰り広げてしまった自分が恥ずかしくなる。頭が沸騰し、
全身がむずがゆくなり、じっとしていられなくなってベッドの上をごろごろ転がり、叫び声
をあげながら枕をバシバシ叩く。
 それで本の存在が消えてくれるわけでもなく、例の同人誌が目に入る。鎖で繋がれた表紙
の二人は、これから起こることを全て覚悟しているかのように、熱い眼差しをしている。そ
の絵はとても完成度が高く、最初見たときもこれに目を惹かれてしまった。その内容は……。
(その内容は……)
 一枚目をめくる。まだそのような場面ではない。このとき、二人はまだ引き返せたのかも
しれない。
 二枚目、三枚目もまだそんな場面ではない。四枚目をめくると、二人は生まれたままの姿
になる。五枚目をめくると、二人は肌を触れ合う。その次のページで、手や足などではない、
もっと重要な意味を持つ部分が触れ合う。
 次のページで、二人は激しく互いを求め合う。呪いが二人を縛り付けてしまったかのよう
に、二人は離れることなく、共に堕ちてゆく。もしかしたら、二人が引き返せる地点などな
かったのかもしれない。呪いに縛りつけられてしまったその時から……。
 ガチャッ
「お姉ちゃーん」
「うわああああああああああ!!」
 ガサガサガサガサ!
 かがみは大慌てで本を隠した。
「ど、どうしたのお姉ちゃん」
「どうしたのよつかさこそ」
 あっけにとられているつかさに、平静を装って訊ねる。……とはいえ、この状態のかがみ
を平常だと思える者はまずいない。
「こなちゃんから電話があってね、お姉ちゃんの様子が変だから見てやってくれないかって」
「こなたのやつぅ~!」
 怒りに震えるかがみに、つかさは恐怖で震えている。
「んー、これは私とこなたの問題だから、つかさは『絶対』手を出さないように」
 『絶対』の部分を強調する。
「どうしてくれようかしら。明日が楽しみだわ……」
「お姉ちゃん怖いよ……」
 なんとか落ち着きを取り戻して怯えるつかさをなだめ、やんわりと部屋に帰ってもらう。
いろいろあって精神的に疲れてきたので、早めに寝ることにした。
 部屋を暗くすると、余計なことばかり考えてしまう。例えばベッドの上で……。
「あーもう!」
 よく見たらフルメタル・パニックの本そのものが枕元、手の届くところにあった。原作本
に罪はないが、安眠のために棚に戻しておいた。フルメタとは全く関係ない音楽CDをかけて
なるべく何も考えないようにする。たっぷり二時間を要してかがみは眠りに落ちていった。
例の本は一瞬で隠せる場所――すなわち枕の下に置いたまま。

 かがみはこの夜、悪い夢を見た。

 それはまるでタチの悪い呪いのようにかがみに付きまとい続ける。しかし、悩まなくなる
ことが呪縛からの解放とは限らない。それは、新たな世界を自分の一部として受け入れてし
まうことなのだから……。

-終わり-



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  • みょーにリアルだなー。私も似たよーな経験あるし(ヘテロ物だけど) -- 名無しさん (2011-04-12 21:41:20)




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