想い出はの続き
休み時間を迎えた教室。
あちらこちらで話し声、そして笑い声のあがる中、変わらず私の周りは静かだった。
あれから、ずっと黙っている。ただ机に頬杖をついて、休み時間も、授業中も…昼休みも、ずっとだ。
話し掛けても頷くだけ。そんな私に愛想を尽かしたのか、今では誰も言い寄って来なくなった。
話し掛けても頷くだけ。そんな私に愛想を尽かしたのか、今では誰も言い寄って来なくなった。
それでも、構わないと思った。
ただ昨日の出来事と、それについての感想を述べるだけの会話。
到底今の私には、何の魅力も見い出せないのだ。
ただ昨日の出来事と、それについての感想を述べるだけの会話。
到底今の私には、何の魅力も見い出せないのだ。
昼休みには、つかさが来るようになった。
アイツなりに気を使っているのか、それとも単に淋しいだけか。
毎日のように弁当を持って来ては、私に向かい合って座った。
別段話す事は無かった。私は黙って箸を進め、それに従ってつかさも同様。
たまに会話を切り出すつかさ。やはり頷くだけの私に、どれだけの諦観を抱いただろう。
アイツなりに気を使っているのか、それとも単に淋しいだけか。
毎日のように弁当を持って来ては、私に向かい合って座った。
別段話す事は無かった。私は黙って箸を進め、それに従ってつかさも同様。
たまに会話を切り出すつかさ。やはり頷くだけの私に、どれだけの諦観を抱いただろう。
下校も、最近は独りだった。
未だに雪のはらつく道を、飽きもせずに毎日歩いた。
淡く暗い空気の中、私は薄く積もった雪を踏み締めて歩くのが気に入っていた。
寄り道は、いつも途中に構えるベンチ。
雪を払ってそこに座ると、何時間もの間、灰色の空を見つめるのだった。
未だに雪のはらつく道を、飽きもせずに毎日歩いた。
淡く暗い空気の中、私は薄く積もった雪を踏み締めて歩くのが気に入っていた。
寄り道は、いつも途中に構えるベンチ。
雪を払ってそこに座ると、何時間もの間、灰色の空を見つめるのだった。
夜、遅くなって家に帰り着く。
やはり私は独りだった。
やはり私は独りだった。
サランラップを被せられた、一人分の冷めた夕食。毎晩、私は手をつけることなく、暗い食卓を素通りする。
部屋に戻ると、着替える事もせず音楽を聴いた。
スローテンポで、静かで…優しい曲。私はヘッドホンに閉じ籠った。
どんなアニメの曲だろう、微塵たりとも知らなかった。
スローテンポで、静かで…優しい曲。私はヘッドホンに閉じ籠った。
どんなアニメの曲だろう、微塵たりとも知らなかった。
それでも、目を閉じると浮かぶものがあった。
忘れもしない…アイツの顔だ。
心地よい闇の中で、呑気な造りのそれは私の名前を呼んだ。私はふっと笑顔になり、そっと小さく…返事をするのだ。
忘れもしない…アイツの顔だ。
心地よい闇の中で、呑気な造りのそれは私の名前を呼んだ。私はふっと笑顔になり、そっと小さく…返事をするのだ。
好きだった…この時が。
居ないアイツが語り掛けてきて、そして居る私が言葉を返す。
この時間は永遠だと思った。そうでなくてはならないと思った。
この時間は永遠だと思った。そうでなくてはならないと思った。
だから、音楽が途切れたとき…私は毎夜、すすり泣いた。
「…ねぇ、お姉ちゃん…」
閉ざした戸の向こう側から、つかさが私を呼んだ。
私は涙を拭う事なく、そして戸を見るでもなく、返事をする事さえもせず、ただ床に縮まって座っていた。
「明日ね…明日、また一緒に登校しない?
雪道を歩きながらお話したり、途中で雪合戦したりするの。きっと楽しいよ…?」
雪道を歩きながらお話したり、途中で雪合戦したりするの。きっと楽しいよ…?」
少しだけ明るい声色で、それでも控え目に語り掛けてくる。
珍しく返事をした私。対照的に、無表情な声しか出なかった。
珍しく返事をした私。対照的に、無表情な声しか出なかった。
「…いい……そんなの、楽しくない」
長年連れ添った双子の妹にとって、それは余りにも冷たい言葉だと思った。
私は、突然と現れたつかさと話したい気分ではなかった。諦めろ、だからそんな念がこもっていた。
私は、突然と現れたつかさと話したい気分ではなかった。諦めろ、だからそんな念がこもっていた。
「楽しいよ~。お姉ちゃん、雪…好きなんだよね?
雪だるまでも、雪ウサギでもいいから…歩きながら、私と作ろ?
…楽しいよ、きっと楽しい…」
雪だるまでも、雪ウサギでもいいから…歩きながら、私と作ろ?
…楽しいよ、きっと楽しい…」
そんな念は通じなかったのか、未だ戸の向こうに立つ妹。
大きな声で追い払うのも面倒な私は、ただつかさが折れるのを待つしかなかった。
大きな声で追い払うのも面倒な私は、ただつかさが折れるのを待つしかなかった。
「楽しくないって言ってるの…つかさ。」
「そんな事、してみなくちゃ分からないじゃない?」
すぐにそう帰ってきた。
私はもう、何も言うまいと思った。
楽しい…あり得なかった、私には。軽やかな足取りで道を歩き、くだらない事で談笑する。
そんな気分になる為の要素が、つかさとの登校には欠落していた。
そう思ったから、もう黙っていた。
私はもう、何も言うまいと思った。
楽しい…あり得なかった、私には。軽やかな足取りで道を歩き、くだらない事で談笑する。
そんな気分になる為の要素が、つかさとの登校には欠落していた。
そう思ったから、もう黙っていた。
「…こなちゃん…居ないから?」
「………っ」
こなたが居ないからだ。
アイツが居れば私は楽しい。
アイツが居れば私は笑える。
アイツが居れば…私は、また私に戻ることができる。
私は何よりそれを望んだ。
アイツが居れば私は笑える。
アイツが居れば…私は、また私に戻ることができる。
私は何よりそれを望んだ。
だけど、こなたはもう居ない。戻ってすら来ないのだ。
だから私は必然的に、ずっとこのままの私だろう。
だから私は必然的に、ずっとこのままの私だろう。
そう決めつけた私の耳に、それは未知の振動を与えた。
「こなちゃん…居るよ?」
飛び起きた。
直ぐ様戸を見据えた私の顔は、ひどい形相だっただろう。
直ぐ様戸を見据えた私の顔は、ひどい形相だっただろう。
「どっ…何処に!?」
未だかつてない大声で、私はつかさに話し掛けた。つかさはそれ程驚く様子もなく、優しい声で教えてくれた。
「何処に…って、お姉ちゃんには居ないの?
ずっと変わらない…明るいこなちゃん、私達の心の中に居ない?」
ずっと変わらない…明るいこなちゃん、私達の心の中に居ない?」
先程の行動を、私はひどく後悔した。
ドラマか何かに影響されたのだろう。それだけの安易な考えで私を連れ出そうとするつかさに、思わず怒号してしまったからだ。
ドラマか何かに影響されたのだろう。それだけの安易な考えで私を連れ出そうとするつかさに、思わず怒号してしまったからだ。
「ふざけないでよ!アイツは死んだの、この世に居ないの!
記憶だけ残ったって…何の意味もないじゃない…!」
記憶だけ残ったって…何の意味もないじゃない…!」
「居るよ、私にも…お姉ちゃんにも。
想い出の中で、いっぱい遊ぶの。そうすると、楽しいし…自然と笑っちゃってるし。
だから、こなちゃんは私の心に住んでるんだって思うの
お姉ちゃんにも…居ると思うよ」
想い出の中で、いっぱい遊ぶの。そうすると、楽しいし…自然と笑っちゃってるし。
だから、こなちゃんは私の心に住んでるんだって思うの
お姉ちゃんにも…居ると思うよ」
もう何も考えなかった。それは無意味だと悟ったから。
私が静かに「帰って」と言うと、閉ざした戸からは何も聴こえなくなった。
私が静かに「帰って」と言うと、閉ざした戸からは何も聴こえなくなった。
月も見えない、未だ灰色の冬の空。したがって辺りは見通せないほど紺色で、私は点々と立つ街灯を頼りに雪道を彷徨いた。
行きたい場所も、したい事も特に無かった。あるとすれば、それは気晴らしだろうか。
つかさの言葉をひどく鬱陶しいと感じた私は、胸に詰まった何かを冷たい空気に晒したかった。それで消えてくれると思った。
今から理由をつけるとすれば、きっとそんな処だったのだろう。
つかさの言葉をひどく鬱陶しいと感じた私は、胸に詰まった何かを冷たい空気に晒したかった。それで消えてくれると思った。
今から理由をつけるとすれば、きっとそんな処だったのだろう。
期待した通りに肌寒く、私の身体を鎮めてくれる街。
すっかり気を許し、下校時のように散策する私は、徐々に暗闇に慣れた目を頼っていた。
すっかり気を許し、下校時のように散策する私は、徐々に暗闇に慣れた目を頼っていた。
ふと、この雪道を…こなたと歩きたいと思った。
青い髪を揺らし、私に寄り添って歩くこなた。
時折は離れて、私に雪玉を投げてくるのだろう。
そんなこなたを相手にしながら、いつかはあのベンチに辿り着く。
二人して大人しく腰掛けると、膝の上で雪だるまを拵えるのだ。
時折は離れて、私に雪玉を投げてくるのだろう。
そんなこなたを相手にしながら、いつかはあのベンチに辿り着く。
二人して大人しく腰掛けると、膝の上で雪だるまを拵えるのだ。
今では夢のような、簡単な事を…私は想像しながら歩いた。
変わらず独りで無口な私は、いつから笑っていたのだろう。
そしてベンチを正面に迎えた時、やはり想像した世界とは違い、私は一人で立っている。
うっすらと雪を被ったベンチは、歩き疲れた私を座らせてはくれなかった。
うっすらと雪を被ったベンチは、歩き疲れた私を座らせてはくれなかった。
そんな冷たいベンチに無理をして挑み、小さく居座る先客がいた。
崩れた、雪だるまだった。
以前に私が拵えたそれは、新雪を被って形を変え、ベンチに備え付けられているかのように馴染んでいた。
以前に私が拵えたそれは、新雪を被って形を変え、ベンチに備え付けられているかのように馴染んでいた。
「……こなた…」
私は呟いた。
最愛の人の名を、再びこの雪だるまに向けて。
最愛の人の名を、再びこの雪だるまに向けて。
いつしかゆっくりとしゃがみこみ、それと目線を合わせていた。
そして、私は時を巡った。
青く、長い髪を背に引き連れ
グラウンドを駆け抜けるこなた。
弁当はいつもチョココロネで、合わせて牛乳も欠かさないこなた。
会話は大抵オタク系の事
ついて行けない私を他所に、延々と持論を語るこなた。
グラウンドを駆け抜けるこなた。
弁当はいつもチョココロネで、合わせて牛乳も欠かさないこなた。
会話は大抵オタク系の事
ついて行けない私を他所に、延々と持論を語るこなた。
そんなこなたを、思い出した。
「こなた………」
いっつも私をからかって、反応を見て楽しむこなた。
いっつもダルいと机にへばり、結局は一年中だるそうなこなた。
たまに、わたしに痛い処を突かれ
唸って何も言い返さなくなるこなた。
いっつもダルいと机にへばり、結局は一年中だるそうなこなた。
たまに、わたしに痛い処を突かれ
唸って何も言い返さなくなるこなた。
そんなこなたを、思い出した。
「…こな…た……」
放課後、いつも一緒に下校し
私の寄り道に付き合ってくれるこなた。
自分で考えようとせず、宿題を私に頼ってばかりのこなた。
結局は一夜漬けで勉強して、テストの高得点を私に自慢するこなた。
私の寄り道に付き合ってくれるこなた。
自分で考えようとせず、宿題を私に頼ってばかりのこなた。
結局は一夜漬けで勉強して、テストの高得点を私に自慢するこなた。
そんなこなたを、思い出した。
「……こ…な……っ」
『何て言うのかなー、かがみんがムキになってるのみてると…こう、可愛く思えちゃうんだよね。
ぷくーって膨らんだほっぺたをさ、指でつんつんってしたくならない?
ぷくーって膨らんだほっぺたをさ、指でつんつんってしたくならない?
つつかれて焦るかがみんは、また可愛いんだろーなぁーって思ってね。
だから、かがみんは怖い顔ーだなんて思ってないよ、あたし。
むしろ可愛いよ、萌えだよかがみん!
むしろ可愛いよ、萌えだよかがみん!
…だからさ、最近はそんなかがみ見てると…ちょっとドキドキしちゃってるんだよね。
……もう書いちゃうね?どうせ言うつもりだったし…
あの、あたし…あたしね、かがみんのこと――…
――……好きなんだ。』
「……ーっ」
…誰だよ、想い出は楽しいなんて言ったバカは。
私が、こんなにも泣き崩れていると云うのに。
――――――
通りは一面、薄桃色に染まり
心地よい風が、それを揺れ動かした。
心地よい風が、それを揺れ動かした。
四月
私とつかさは3年生だ。
最上級生だとはしゃぐつかさ、大学受験に緊張する私。
そんな二人が足並み揃え、この春の道を歩いていた。
私を急かすつかさの声に、ようやく足が止まっていた事に気付いた。
……この場所も、一緒に歩きたいな…。
それだけを想うと、私はまた歩き出した。
こなたへ
あの時は…その、怒ってごめん。
アンタがしつこく言うから、放ったらかして帰っちゃった。
もう怒ってもないし、気にしてもないから…仲直りっつー事で、またよろしく。
もう怒ってもないし、気にしてもないから…仲直りっつー事で、またよろしく。
もうすっかり春だねー、通学路なんて桜が満開でさ~。
びっくりする位キレイだから…アンタもネトゲーばっかりしてないで、たまにはこっちも観に来なよ。
びっくりする位キレイだから…アンタもネトゲーばっかりしてないで、たまにはこっちも観に来なよ。
それで思ったんだけど…アンタの青い髪ってさ、桜の色と合いそうじゃない?
こう…風でさらさら~って流れると、風流っていうか、何ていうか…。
それだと私が隣を歩いてあげて、恋人の役でもやってあげてもいいかな~なんて。
それだと私が隣を歩いてあげて、恋人の役でもやってあげてもいいかな~なんて。
…まぁ…ホント言うとね、私が歩きたいのよ。アンタと。
友達しながら歩くのも良いんだけど…なんつーか、もっと親密な感じで…って言うかさ。
つ…つまり…さっきも言ったけど、恋人よ恋人!わかる?
アンタと私がくっついて歩くと、桜吹雪に映えるかな~って、そう思ってさ。
アンタと私がくっついて歩くと、桜吹雪に映えるかな~って、そう思ってさ。
だから…だからさ
恋人として、一緒に歩いて欲しいのよ。私は。
恋人として、一緒に歩いて欲しいのよ。私は。
…もう…あの返事、分かったでしょ?
…こなた…私も、こなたの事――…
桜並木にそよ風がふく。
それは桜の花びらを舞い上げ、静かな通りを彩っていた。
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- 現実としっかり向き合って克服するというのが、切ないけど感動しました。 -- 名無しさん (2023-08-13 17:14:48)
- 素晴らしい作品でした。文章上手いですね… -- 名無しさん (2010-06-10 04:21:14)
- 安易にハッピーエンドにもっていかないからこその質の高さだと思います。
素晴らしいです。 -- 名無しさん (2009-05-20 17:37:36) - でもやっぱりもうちょっと救いも欲しかったなぁ……読者として……
もちろん作品自体は神と呼ばれるのに相応しいと勝手に判断しますw
ただ、やっぱり、別ENDとしてでも良いから救いが欲しかった……
、とわがままを言ってみる^^; -- 名無しさん (2009-03-09 17:25:54) - やっと気持ちの整理をつけて立ち直ってゆくかがみに少しの救いが、でもやはり辛いなあこの話
でも文章うまいなあ、作品の完成度も -- yomirin (2009-02-11 20:20:22)