「ふぅ」
家路について、ドアを開ける。何も言わずにドアを閉めて、ため息を一つ。ただいま
を言うことはない。それを言う相手がおらず、おかえりなさいと言ってくれる人もいない
のだから。
「あー、今日も疲れたわ」
関西なまりの独り言に、当然返事をくれる者はいない。彼女自身、返事など期待しては
いなかった。
帰宅途中に寄ったコンビニで買った弁当を食べて風呂に入り、髪を乾かす。何度となく
一人で繰り返してきた単純作業。
黒井ななこ。高等学校世界史教諭、二十七歳、独身。世間的には結婚適齢期にさしかかる
頃であり、女性としての『品質』低下が気になり始める年頃でもある。
一人暮らしに不満はない。その自由さを適度に満喫しており、不便さを受け入れている。
それでも、人恋しくなるときがあるものなのだ。同僚や友人はもちろんいる。そういった
ものとは全く違う動機で他人を求めたくなることが、人にはある。
自分と同類だと思っていた成実ゆいが実は人妻で、しかも年下だとわかったときには
ショックを受けた。ショックを受ける自分にまたショックを受けた。
「あー、やめやめ」
せっかくの週末。むしろここはテンションをあげるべきところだ。陰鬱な気分を振り
払って冷蔵庫からビールの缶を一本持ち出し、パソコンを置いてある机に向かう。緊急
メンテナンスされていないことを祈りながらいつものネットゲームを起動させた。幸い
そのようなことはなく、ログインすると早速ゲーム仲間の姿を探す。その中で一番親しい
相手は、すぐに見つかった。
《またやっとんのかい》
《お互い様じゃないですか》
相手は泉こなた。彼女の教え子であり、リアルのゲーム仲間。そして、お互い様。
《今日は金曜ですからね》
《土曜出勤のない学生は気楽なもんやな。ほどほどにしとけ》
狩りに出かけるまえに、軽くチャットした……つもりなのだが、軽くならなかった。
《お父さんに感謝しいや》
始めはそんな軽い説教のはずだったのが。
《一人暮らしは寂しいもんやで》
ビールの缶が軽くなるたびに。
《彼氏いなくて悪いかー》
口も軽くなっていく。自分に合う男がいないとか、そもそも出会いがないとか、話の
内容はほとんど愚痴も同然だった。相手が生徒だということはあまり気にしていない。
《オフ会やることになったんですけど参加しますか?》
一瞬、自分への同情でそんなことを言い出したのかと思ってしまった。
《いつ?》
《あさって集まれるメンバーだけで》
《急な話やな》
《もっと前から計画はありましたよ。先生がいなかっただけで》
突発的な思わぬ誘い。少し考えたが、断る理由もなく誘いを受けることにした。細かい
予定をチャットで打ち合わせしていく。
家路について、ドアを開ける。何も言わずにドアを閉めて、ため息を一つ。ただいま
を言うことはない。それを言う相手がおらず、おかえりなさいと言ってくれる人もいない
のだから。
「あー、今日も疲れたわ」
関西なまりの独り言に、当然返事をくれる者はいない。彼女自身、返事など期待しては
いなかった。
帰宅途中に寄ったコンビニで買った弁当を食べて風呂に入り、髪を乾かす。何度となく
一人で繰り返してきた単純作業。
黒井ななこ。高等学校世界史教諭、二十七歳、独身。世間的には結婚適齢期にさしかかる
頃であり、女性としての『品質』低下が気になり始める年頃でもある。
一人暮らしに不満はない。その自由さを適度に満喫しており、不便さを受け入れている。
それでも、人恋しくなるときがあるものなのだ。同僚や友人はもちろんいる。そういった
ものとは全く違う動機で他人を求めたくなることが、人にはある。
自分と同類だと思っていた成実ゆいが実は人妻で、しかも年下だとわかったときには
ショックを受けた。ショックを受ける自分にまたショックを受けた。
「あー、やめやめ」
せっかくの週末。むしろここはテンションをあげるべきところだ。陰鬱な気分を振り
払って冷蔵庫からビールの缶を一本持ち出し、パソコンを置いてある机に向かう。緊急
メンテナンスされていないことを祈りながらいつものネットゲームを起動させた。幸い
そのようなことはなく、ログインすると早速ゲーム仲間の姿を探す。その中で一番親しい
相手は、すぐに見つかった。
《またやっとんのかい》
《お互い様じゃないですか》
相手は泉こなた。彼女の教え子であり、リアルのゲーム仲間。そして、お互い様。
《今日は金曜ですからね》
《土曜出勤のない学生は気楽なもんやな。ほどほどにしとけ》
狩りに出かけるまえに、軽くチャットした……つもりなのだが、軽くならなかった。
《お父さんに感謝しいや》
始めはそんな軽い説教のはずだったのが。
《一人暮らしは寂しいもんやで》
ビールの缶が軽くなるたびに。
《彼氏いなくて悪いかー》
口も軽くなっていく。自分に合う男がいないとか、そもそも出会いがないとか、話の
内容はほとんど愚痴も同然だった。相手が生徒だということはあまり気にしていない。
《オフ会やることになったんですけど参加しますか?》
一瞬、自分への同情でそんなことを言い出したのかと思ってしまった。
《いつ?》
《あさって集まれるメンバーだけで》
《急な話やな》
《もっと前から計画はありましたよ。先生がいなかっただけで》
突発的な思わぬ誘い。少し考えたが、断る理由もなく誘いを受けることにした。細かい
予定をチャットで打ち合わせしていく。
その翌々日、朝日を受けてななこは目を覚ます。ワイシャツ姿のまま寝ぼけまなこで
コーヒーを淹れ、トーストをかじる。昨夜も飲んだが、翌日に出かける予定があったから
には深酒をするわけにもいかず、案外目覚めはよかった。
「しかし泉が外出なんて、珍しいこともあるもんやなぁ」
オフ会とはいえ、泉は社交的とは言えない性格ではあった。一般的には、女子高生が
男と会うというのはあまり歓迎できないことではあるのだが……。
「ま、えっか」
世間一般からすれば遅めの朝食を終えて、朝のシャワーを浴びる。酒の匂いが残って
いるかどうか気になって歯をみがき、クローゼットを開けて服を選ぶ。
それなりに見栄えのする服を選ぼうと思ったが、結局ピンと来る服がなくて、いつもの
スーツ姿になってしまった。これは女としてまずいのではないだろうか。少し反省した。
鏡に向かって化粧を始める。たまの休日、外に出かけるのだからと、多少念入りに。
(まて、なんでこんなに気合入れとるんや)
そんなふうに思ったりもしたが、化粧は大人の女のたしなみ。大人の兆しの見えない
小生意気な生徒に大人の女というものを見せてやるのもいいだろう。
生徒同伴とはいえ今回会う相手は、自分と同年代程度の男たち。基本的に趣味は合う。
となれば、多少の期待というものがなくはない。
(あかんあかん)
自分の頭に湧いてきた変な考えを振り払って、化粧を終え、髪を整える。こなたほど
ではないが腰に届くほど長い髪は、毎日整えるのはなかなか手のかかる作業である。
もし誰かにやってもらえたら、と思う。
全ての支度を終えて、戸締りを確認して扉の外に出る。行ってきますを言うことはない。
行ってらっしゃいを言ってくれる人がいないのだから。
まず向かうは泉家。こなたを迎えに行くのだ。
コーヒーを淹れ、トーストをかじる。昨夜も飲んだが、翌日に出かける予定があったから
には深酒をするわけにもいかず、案外目覚めはよかった。
「しかし泉が外出なんて、珍しいこともあるもんやなぁ」
オフ会とはいえ、泉は社交的とは言えない性格ではあった。一般的には、女子高生が
男と会うというのはあまり歓迎できないことではあるのだが……。
「ま、えっか」
世間一般からすれば遅めの朝食を終えて、朝のシャワーを浴びる。酒の匂いが残って
いるかどうか気になって歯をみがき、クローゼットを開けて服を選ぶ。
それなりに見栄えのする服を選ぼうと思ったが、結局ピンと来る服がなくて、いつもの
スーツ姿になってしまった。これは女としてまずいのではないだろうか。少し反省した。
鏡に向かって化粧を始める。たまの休日、外に出かけるのだからと、多少念入りに。
(まて、なんでこんなに気合入れとるんや)
そんなふうに思ったりもしたが、化粧は大人の女のたしなみ。大人の兆しの見えない
小生意気な生徒に大人の女というものを見せてやるのもいいだろう。
生徒同伴とはいえ今回会う相手は、自分と同年代程度の男たち。基本的に趣味は合う。
となれば、多少の期待というものがなくはない。
(あかんあかん)
自分の頭に湧いてきた変な考えを振り払って、化粧を終え、髪を整える。こなたほど
ではないが腰に届くほど長い髪は、毎日整えるのはなかなか手のかかる作業である。
もし誰かにやってもらえたら、と思う。
全ての支度を終えて、戸締りを確認して扉の外に出る。行ってきますを言うことはない。
行ってらっしゃいを言ってくれる人がいないのだから。
まず向かうは泉家。こなたを迎えに行くのだ。
オフ会に参加したメンバーはこなたとななこを除けば全て男性だった。事前にちゃんと
性別は教えあっていたから、それに問題はない。
集合場所は秋葉原駅電気街口、昼の一時。『大人の女性を連れた見た目小学生くらいの
女の子が、アホ毛を立たせつつ団長の腕章をつけて黒いノートを持っている』という目印
のもと、つつがなくメンバー全員が集合することができた。
「ケータイ番号知らせあったんやから、こんなんせんでもええんちゃうか?」
「まー、遊び心も必要ですよ」
単にやりたかっただけじゃないのか、とメンバーの一人が冷静に突っ込みを入れた。
こなたとななこと数名の男性が集まり、そのメンバーで互いに自己紹介する。
「いやー、本当に女性だったとは思いませんでした」
メンバーの一人が、軽いジョークのつもりなのか、そんなことを言う。確かにネット
上では女性を名乗る男性、いわゆるネカマが多い。
そして、男性を名乗る女性も多い。ネット上では女性というだけで好奇の目で見られる
ことがよくあるのだ。酷いケースになると『やらせろ』などと言ってくる男さえいる。
本人は冗談かもしれないが、言われたほうはたまったものではない。
彼がそういった手合いなのかどうかはわからないし、あまり人を疑いたくはないが、
泉だけはガードせねばなるまい、と考えるななこであった。
こなたも同じ不安を持っているのだろうか、ななこに手をつないできた。ななこは
何も言わず、その手を握り返した。
性別は教えあっていたから、それに問題はない。
集合場所は秋葉原駅電気街口、昼の一時。『大人の女性を連れた見た目小学生くらいの
女の子が、アホ毛を立たせつつ団長の腕章をつけて黒いノートを持っている』という目印
のもと、つつがなくメンバー全員が集合することができた。
「ケータイ番号知らせあったんやから、こんなんせんでもええんちゃうか?」
「まー、遊び心も必要ですよ」
単にやりたかっただけじゃないのか、とメンバーの一人が冷静に突っ込みを入れた。
こなたとななこと数名の男性が集まり、そのメンバーで互いに自己紹介する。
「いやー、本当に女性だったとは思いませんでした」
メンバーの一人が、軽いジョークのつもりなのか、そんなことを言う。確かにネット
上では女性を名乗る男性、いわゆるネカマが多い。
そして、男性を名乗る女性も多い。ネット上では女性というだけで好奇の目で見られる
ことがよくあるのだ。酷いケースになると『やらせろ』などと言ってくる男さえいる。
本人は冗談かもしれないが、言われたほうはたまったものではない。
彼がそういった手合いなのかどうかはわからないし、あまり人を疑いたくはないが、
泉だけはガードせねばなるまい、と考えるななこであった。
こなたも同じ不安を持っているのだろうか、ななこに手をつないできた。ななこは
何も言わず、その手を握り返した。
何をするかは特に決めていなかったのだが、誰だったかの提案でメイド喫茶に行くこと
になった。店に入る前には、意外なほどの長さの行列。
「泉、メイド喫茶って女が行ってもええんか?」
「女性客も結構多いですよ」
「オレ、メイド喫茶来るの初めてなんですけど」
「そんな意識しなくていいって」
「いや、なんか別世界って感じがするんっすよ」
思い思いに会話していると、ななこたちの分の席が空いた。
「お帰りなさいませ」
「…………」
メイドコスチュームの店員たちが独特の挨拶で迎え入れた。
誰かが『おかえりなさい』と言ってくれる生活に、どこか憧れがあった。しかし、
これは何か違うような気がする。
「思ったより普通の内装ですね」
先程入店に戸惑いを見せていた男性が呟いた。
「ま、ここもある意味別世界と思うよ。店員さんがメイドに扮してるんなら、こっちは
ご主人様ってことになるわけだから」
また別のメンバーの意見。
「ご主人様、ですか……?」
まだこの状況に順応できていないらしい。彼はこっち方面の耐性が低いのかもしれない。
「プロレスが観客も一緒になって盛り上がるのと一緒でしょ」
「店員としては、客にもノってほしいね」
これまた別のメンバーとこなたの意見。
「せっかくサービスを受けに来たんだから、それを楽しまないと意味ないでしょ。もっと
ゲームやってるときみたいに盛り上がって」
それはやりすぎやろ。ななこは心の中で突っ込む。
「せっかく学校来とるのに授業居眠りするヤツもおるけどな」
「うっ……」
思わぬ切り替えしにたじろぐこなた。
「フランス革命の部分ならちゃんとわかりますよ」
「それは漫画の話やろ」
「でもそういうのが興味のとっかかりになることってありますよね。俺はギリシャ神話や
北欧神話なんかを一通り読んだりしたんですけど」
「歴史なんか役に立たないって言う人いるけど、むしろこーゆーのに役立てるものだと
思うよ。日本の戦国時代とか」
「そっちを調べると、まずは衆道の存在に驚かされるけどね」
「あー、男同士ってやつ」
一度始まるととことん熱くなる性格はみんな同じらしい。いつもはオタクとして趣味で
孤独を味わうこなたもここでは周りがみんな同士なのだ。活発に趣味を語るこなたが
少しだけ可愛く思えて、ななこは目を細めて見つめていた。
「坊さんがホモでシスターがレズっていうのがとりあえず定石だけどね」
会話の内容は可愛くなかったが。
になった。店に入る前には、意外なほどの長さの行列。
「泉、メイド喫茶って女が行ってもええんか?」
「女性客も結構多いですよ」
「オレ、メイド喫茶来るの初めてなんですけど」
「そんな意識しなくていいって」
「いや、なんか別世界って感じがするんっすよ」
思い思いに会話していると、ななこたちの分の席が空いた。
「お帰りなさいませ」
「…………」
メイドコスチュームの店員たちが独特の挨拶で迎え入れた。
誰かが『おかえりなさい』と言ってくれる生活に、どこか憧れがあった。しかし、
これは何か違うような気がする。
「思ったより普通の内装ですね」
先程入店に戸惑いを見せていた男性が呟いた。
「ま、ここもある意味別世界と思うよ。店員さんがメイドに扮してるんなら、こっちは
ご主人様ってことになるわけだから」
また別のメンバーの意見。
「ご主人様、ですか……?」
まだこの状況に順応できていないらしい。彼はこっち方面の耐性が低いのかもしれない。
「プロレスが観客も一緒になって盛り上がるのと一緒でしょ」
「店員としては、客にもノってほしいね」
これまた別のメンバーとこなたの意見。
「せっかくサービスを受けに来たんだから、それを楽しまないと意味ないでしょ。もっと
ゲームやってるときみたいに盛り上がって」
それはやりすぎやろ。ななこは心の中で突っ込む。
「せっかく学校来とるのに授業居眠りするヤツもおるけどな」
「うっ……」
思わぬ切り替えしにたじろぐこなた。
「フランス革命の部分ならちゃんとわかりますよ」
「それは漫画の話やろ」
「でもそういうのが興味のとっかかりになることってありますよね。俺はギリシャ神話や
北欧神話なんかを一通り読んだりしたんですけど」
「歴史なんか役に立たないって言う人いるけど、むしろこーゆーのに役立てるものだと
思うよ。日本の戦国時代とか」
「そっちを調べると、まずは衆道の存在に驚かされるけどね」
「あー、男同士ってやつ」
一度始まるととことん熱くなる性格はみんな同じらしい。いつもはオタクとして趣味で
孤独を味わうこなたもここでは周りがみんな同士なのだ。活発に趣味を語るこなたが
少しだけ可愛く思えて、ななこは目を細めて見つめていた。
「坊さんがホモでシスターがレズっていうのがとりあえず定石だけどね」
会話の内容は可愛くなかったが。
「やっぱ歳とると焦るよなー」
「ああ、ウチも彼氏欲しいわー」
一行は秋葉原ならではの『専門店』をいくつも回ったりして時刻は夜。
メンバーはこなたを除いて全員が大学生か社会人で、大人が集まるとなれば最後は
酒を飲むのが必然であって、酒を飲むとなれば居酒屋に行くのが自然な流れであった。
左手に箸、右手にジョッキ。話しに花が咲けば酒は進む。
メンバー全員、恋人はいないらしく、余裕を失くしかけている年齢の人間が集まれば
次第に話は生々しくなってくる。
「職場が――」
「出会いが――」
日常生活への愚痴は序の口。同年代の人間が結婚するとなれば焦りが生まれるのは
世の常。出会いがないと嘆いては互いの傷を舐めあう。
「ななこさん美人じゃないですか。彼ならすぐできそうですけど」
「あんたも結構いけるやん」
こんな社交辞令も生きる上では必須となるもの。この男も悪くはないが付き合うと
なるとしっくり来ない。そんなことだからいつまでも恋人ができないのだろう。
「先生って大変なんじゃないですか?」
「ウチの高校は悪いヤツはおらんよ」
頭の良い人間が悪いことをしないわけではないが、彼らはきちんと善悪を区別した
うえで行動する。そういう意味ではネット上で出会う人間よりよっぽど扱いやすい。
「ま、変なヤツはおるけどな」
隣の席にいるこなたに目をやった。こなたは別のメンバーと何やら熱心に話し込んで
いる。相手はこなたの『嫁』だった。酒を勧められてはいないので、それ以上干渉する
理由もないと思って注意を自分の話し相手に戻した。
「変なヤツって、やっぱり?」
向かいの席にいる彼はこなたを指差しながら尋ねた。
「そーなんよ。オタクレベルではこん中で一番上やろ。ウチもときどきゲームの貸し借り
とか攻略法聞いてたりするんやけどな――」
そのこなたがこちらに寄りかかってきたが、気にしない。
酒は人間関係の潤滑油。ついでに口も滑りやすくなる。こなたが授業中寝ていたときに
殴って起こしていることや、生徒指導室に呼び出して攻略法を尋ねたりすることなど、
他人に聞かせたらまずいような話もあっさり口外してしまう。
「ウーロンハイのお客様ー」
「あー、こっちですこっち」
急いで手元のジョッキを飲み干し、受け取りがてら店員に手渡す。
止めようなどというつもりは一切ない。酔うとはそういうことなのだ。
「ああ、ウチも彼氏欲しいわー」
一行は秋葉原ならではの『専門店』をいくつも回ったりして時刻は夜。
メンバーはこなたを除いて全員が大学生か社会人で、大人が集まるとなれば最後は
酒を飲むのが必然であって、酒を飲むとなれば居酒屋に行くのが自然な流れであった。
左手に箸、右手にジョッキ。話しに花が咲けば酒は進む。
メンバー全員、恋人はいないらしく、余裕を失くしかけている年齢の人間が集まれば
次第に話は生々しくなってくる。
「職場が――」
「出会いが――」
日常生活への愚痴は序の口。同年代の人間が結婚するとなれば焦りが生まれるのは
世の常。出会いがないと嘆いては互いの傷を舐めあう。
「ななこさん美人じゃないですか。彼ならすぐできそうですけど」
「あんたも結構いけるやん」
こんな社交辞令も生きる上では必須となるもの。この男も悪くはないが付き合うと
なるとしっくり来ない。そんなことだからいつまでも恋人ができないのだろう。
「先生って大変なんじゃないですか?」
「ウチの高校は悪いヤツはおらんよ」
頭の良い人間が悪いことをしないわけではないが、彼らはきちんと善悪を区別した
うえで行動する。そういう意味ではネット上で出会う人間よりよっぽど扱いやすい。
「ま、変なヤツはおるけどな」
隣の席にいるこなたに目をやった。こなたは別のメンバーと何やら熱心に話し込んで
いる。相手はこなたの『嫁』だった。酒を勧められてはいないので、それ以上干渉する
理由もないと思って注意を自分の話し相手に戻した。
「変なヤツって、やっぱり?」
向かいの席にいる彼はこなたを指差しながら尋ねた。
「そーなんよ。オタクレベルではこん中で一番上やろ。ウチもときどきゲームの貸し借り
とか攻略法聞いてたりするんやけどな――」
そのこなたがこちらに寄りかかってきたが、気にしない。
酒は人間関係の潤滑油。ついでに口も滑りやすくなる。こなたが授業中寝ていたときに
殴って起こしていることや、生徒指導室に呼び出して攻略法を尋ねたりすることなど、
他人に聞かせたらまずいような話もあっさり口外してしまう。
「ウーロンハイのお客様ー」
「あー、こっちですこっち」
急いで手元のジョッキを飲み干し、受け取りがてら店員に手渡す。
止めようなどというつもりは一切ない。酔うとはそういうことなのだ。
「あー」
酔った。飲んだ。飲みすぎた。
「うー」
電車の中。車両の揺れとガタコトいう音が気持ち悪い。
「あー」
こなたに寄りかかる。小さい。
「先生、うるさいです」
「んー」
頭が痛い。視界が霞む。吐きそう。
「ちゃんと答えてください」
「んー」
初芝、あんたのことは忘れへん。
「先生聞いてますか」
「あー」
なんか言うとる。
「飲みすぎです。生徒に介抱させちゃいけないですよ」
「んー」
気持ち悪い。死にそう。死なせて。
「先生、一人で帰れますか?」
「あー」
働けウチの肝臓。
「私ん家に泊まりますか?」
「んー」
もう飲みません助けてください。
「じゃあ、連絡入れときます」
あたまがいたい。
酔った。飲んだ。飲みすぎた。
「うー」
電車の中。車両の揺れとガタコトいう音が気持ち悪い。
「あー」
こなたに寄りかかる。小さい。
「先生、うるさいです」
「んー」
頭が痛い。視界が霞む。吐きそう。
「ちゃんと答えてください」
「んー」
初芝、あんたのことは忘れへん。
「先生聞いてますか」
「あー」
なんか言うとる。
「飲みすぎです。生徒に介抱させちゃいけないですよ」
「んー」
気持ち悪い。死にそう。死なせて。
「先生、一人で帰れますか?」
「あー」
働けウチの肝臓。
「私ん家に泊まりますか?」
「んー」
もう飲みません助けてください。
「じゃあ、連絡入れときます」
あたまがいたい。
「んー……」
目が覚めて視界に入ってきたのは、見知らぬ天井、見知らぬ壁、見知らぬ家具。
何があったのだろう。少しだけ覚醒した頭が動き始める。
一つだけ見覚えのあるものがあった。パソコンに向かって何かをやっている少女だ。
「先生起きましたか」
「もしかしてここって……」
「私の部屋です」
やってしまった。酒に酔って生徒に醜態を晒したうえに迷惑をかけてしまうとは。
ベッドから上半身を起こして自分の姿を見下ろすと、下着の上にシャツ一枚という
いつもの寝起きのスタイル。スーツは近くに脱ぎ散らかしてあった。
「すまん泉!」
まずい。いろいろとまずい。何と言えばいいやら。
「電車の中のこと、覚えてないんですか」
「あー……」
覚えているような覚えていないような。
「覚えてなくてもいいんですけど」
こなたは用意してあった麦茶をコップに注いで、ななこに勧めた。ななこはそれを
ありがたく受け取り、喉に流し込む。
「少しは気をつけましょうよ。私が男だったらどうするんですか」
「!!」
麦茶を噴出しかけた。口を押さえて咳き込む。
「ホイホイ誘われて、無防備すぎです」
まさか生徒にこんなん言われることになるとは。
「寝かせようとしたらいきなり脱いじゃいましたし」
すまん覚えてへん。
「オフ会でもそうでしたよ」
へ?
「男の人相手に楽しそうに喋ってましたし」
泉だってそうやろ?
「美人って言われてまんざらでもなさそうでしたし」
女なんだから当たり前や。
「あんたも結構いけるなんて言っちゃったりして」
あれは社交辞令ってもんや。
「私がコナかけられても助けてくれなかったですし」
すまん、あのとき助けを求めてたんやな。
「妙に気合入ってますよね? 化粧なんかして」
いや、それは違うんやで?
「先生、お持ち帰りされるつもりだったんですか」
頼むからお前がそんな単語使わんでくれ。
反論したいことはいくらでもあったが、肺と気管が言うことをきかない。
ゆっくり呼吸を整えて、なんとか正常を取り戻す。
「あのな、泉――」
「それに、お持ち帰りするのが男だけとは限らないですよ」
「は?」
理解不能。こちらにやってくるこなたを、ただ見つめることしかできない。
「先生も、覚悟はできてますよね」
答える暇もなく、ななこの唇はこなたにふさがれた。
「うぉい、泉!?」
こなたの肩を掴んで思いっきり突き放す。
「私じゃだめですか?」
再び迫ってくるこなたの眼差しは、冗談ではありえなかった。
「泉、ウチらは」
女と女。教師と生徒。だから。
こんなこと、ありえないはずであって。
「クリスマスも正月も、一緒にいたのは私ですよ」
こなたは左手だけでシャツのボタンを外していく。
「先生の一番近くにいるのは、私です」
そうこうしているうちにボタンは全て外された。
「料理作ってあげられますよ」
シャツをはだけさせられ、肩も露になった。
「趣味も合います」
シャツを脱がされる。その手つきは丁寧で繊細だった。
「行ってらっしゃいって言います。おかえりなさいって言います」
髪留めを外される。束ねられていた髪がはらりと広がった。
「先生のこと好きです。誰よりも」
ブラのホックを外される。
「私じゃ、だめですか?」
ブラを脱がされた。ななこの胸が支えを失って少し弾んだ。
女と女。教師と生徒。なのに。
こなたの言葉に、段々と抵抗心が剥がされていく。
「いいんか、ウチで」
「先生がいいんです。だから先生……答えてください」
最後の一枚は、自分で脱いだ。
目が覚めて視界に入ってきたのは、見知らぬ天井、見知らぬ壁、見知らぬ家具。
何があったのだろう。少しだけ覚醒した頭が動き始める。
一つだけ見覚えのあるものがあった。パソコンに向かって何かをやっている少女だ。
「先生起きましたか」
「もしかしてここって……」
「私の部屋です」
やってしまった。酒に酔って生徒に醜態を晒したうえに迷惑をかけてしまうとは。
ベッドから上半身を起こして自分の姿を見下ろすと、下着の上にシャツ一枚という
いつもの寝起きのスタイル。スーツは近くに脱ぎ散らかしてあった。
「すまん泉!」
まずい。いろいろとまずい。何と言えばいいやら。
「電車の中のこと、覚えてないんですか」
「あー……」
覚えているような覚えていないような。
「覚えてなくてもいいんですけど」
こなたは用意してあった麦茶をコップに注いで、ななこに勧めた。ななこはそれを
ありがたく受け取り、喉に流し込む。
「少しは気をつけましょうよ。私が男だったらどうするんですか」
「!!」
麦茶を噴出しかけた。口を押さえて咳き込む。
「ホイホイ誘われて、無防備すぎです」
まさか生徒にこんなん言われることになるとは。
「寝かせようとしたらいきなり脱いじゃいましたし」
すまん覚えてへん。
「オフ会でもそうでしたよ」
へ?
「男の人相手に楽しそうに喋ってましたし」
泉だってそうやろ?
「美人って言われてまんざらでもなさそうでしたし」
女なんだから当たり前や。
「あんたも結構いけるなんて言っちゃったりして」
あれは社交辞令ってもんや。
「私がコナかけられても助けてくれなかったですし」
すまん、あのとき助けを求めてたんやな。
「妙に気合入ってますよね? 化粧なんかして」
いや、それは違うんやで?
「先生、お持ち帰りされるつもりだったんですか」
頼むからお前がそんな単語使わんでくれ。
反論したいことはいくらでもあったが、肺と気管が言うことをきかない。
ゆっくり呼吸を整えて、なんとか正常を取り戻す。
「あのな、泉――」
「それに、お持ち帰りするのが男だけとは限らないですよ」
「は?」
理解不能。こちらにやってくるこなたを、ただ見つめることしかできない。
「先生も、覚悟はできてますよね」
答える暇もなく、ななこの唇はこなたにふさがれた。
「うぉい、泉!?」
こなたの肩を掴んで思いっきり突き放す。
「私じゃだめですか?」
再び迫ってくるこなたの眼差しは、冗談ではありえなかった。
「泉、ウチらは」
女と女。教師と生徒。だから。
こんなこと、ありえないはずであって。
「クリスマスも正月も、一緒にいたのは私ですよ」
こなたは左手だけでシャツのボタンを外していく。
「先生の一番近くにいるのは、私です」
そうこうしているうちにボタンは全て外された。
「料理作ってあげられますよ」
シャツをはだけさせられ、肩も露になった。
「趣味も合います」
シャツを脱がされる。その手つきは丁寧で繊細だった。
「行ってらっしゃいって言います。おかえりなさいって言います」
髪留めを外される。束ねられていた髪がはらりと広がった。
「先生のこと好きです。誰よりも」
ブラのホックを外される。
「私じゃ、だめですか?」
ブラを脱がされた。ななこの胸が支えを失って少し弾んだ。
女と女。教師と生徒。なのに。
こなたの言葉に、段々と抵抗心が剥がされていく。
「いいんか、ウチで」
「先生がいいんです。だから先生……答えてください」
最後の一枚は、自分で脱いだ。
「んっ……くちゅっ……」
二人きりの部屋、そこにある音は、パソコンの駆動音、キスの水音、そして、
衣擦れの――こなたの服が脱がされる音。
キスのときは目を閉じるもの――そんなことを誰が決めたかは知らないが、ななこは
それに従うことをしなかった。理由は二つ。
一つは服を脱がすため。
一つは可愛いこなたを見つめるため。
今まで恋をした相手を見るのと同じように、ななこはこなたを見つめた。どうして
さっきまでは単なる生徒としか見ていなかったこなたを、こんな風に思えるのかは自分
でもわからない。
酒の魔力か、こなたの唇の魔力か。恋の魔法というのは便利なフレーズだ。
こなたとのコンビでは自分が魔法使いだったことを思い出した。陳腐な発想に思わず
苦笑する。
「先生は初めてじゃないんですね」
簡単に全裸にされてしまったこなたが囁く。
「泉は初めてなのに積極的やな」
太股を撫でられた。その優しい愛撫に身体が熱くなる。
「エロゲーの賜物ですね」
「おい」
こなたが急に活き活きしてきたような気がした。たった一言ながらツッコミどころ
満載の台詞だった。
「勉強じゃなくても役に立つことはあるってことです」
「問題はそこやなくて、あっ」
太股を撫でていた手が内股に移った。優しい愛撫が、今は焦れったい。
「先生、どこにしてほしいですか?」
その手は、あそこに限りなく近い部分を撫でて、しかしそこに到達しない。
「わ、わかっとるくせに」
早くそこにされたい。体がこなたを求めている。ななこははっきりと自覚した。
「いいえ、名前をはっきり言ってくれないとわかりません」
「このっ……」
底意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。さっきまでのこなたとは別人の
ようだった。とりあえず後でエロゲーを没収することを決意した。
「お、おめ……」
その名前を口にすると、顔が熱くなり、体が疼く。
「さあ、早く」
「おめこにして欲しいんや、泉に」
言わされてしまった。言ってしまった。既に裸を晒しているというのに更に恥ず
かしくなる。初体験のときの気持ちを思い出した。
「よく言えました」
ななこの要望どおりに、そこに指が入れられた。
「いっ、いずみ、あっ、あっ」
中をかきまわされ、どうしようもなく喘ぎ声が漏れる。体の中からやってくる感覚に、
どうしても逆らえない。
「先生、いいですよ、その表情」
「あっ……なに、いうとる、ああっ、あぅっ」
今、自分はどんな表情をしているのか。どんな恥ずかしい顔を晒しているのか。
「もっと、見たいです。先生の感じてる顔」
こなたがそう言うから、もっと見せたい。もっと感じたい。
「泉、もっと、もっと、ふぁあああ!」
「ふふ、はしたないですね。先生なのに、生徒にされてこんなに感じてるんですよ」
言葉とともに、こなたの攻めは激しさを増す。
「そっ、そんな、あうぅっ……関係、ないやろっ」
どんなに言い張っても感じていることは事実。感じさせているのは泉こなた。
泉こなたは生徒。泉こなたは――好きになった人。
「そんな先生も好きですよ」
その台詞に感じ入ってしまい、身も心もこなたに屈服してしまったのだと思い知った。
「あかん、ウチ、もう」
「イきたいですか」
「いきたい、いきたいんや」
恥ずかしい言葉が簡単に出てきてしまう。
「じゃあ、私のこと好きって言ってください」
「好き、好きや、いずみっ、好きやぁ」
好きだから。もうこの快感に全てを委ねてしまいたい。
「もっと、もっと言ってください」
その指はさらに激しくなって、ななこを導く。
「好き、いずみ、好きや、すき、すきや、あああああっ!」
思いのたけをぶちまけて、ななこは果てた。こなたは指を抜いて、それを舐めさせる。
「先生の味ですよ」
「泉の味も、欲しい」
こなたの顔を抱き寄せて、キスをした。引き寄せられたこなたはバランスを崩して
ななこに倒れ掛かる。
脱力して後ろに倒れる。ちょうどそこに枕があってよかった。
「って、泉、何しとるんや」
「胸枕」
仰向けになってもなお膨らみを失わない、ななこの胸に顔を埋めていた。
「ま、ええか」
相手が同性であることとか生徒であることはどうでもいい。そういう意味の呟き。
「なんちゅーか……泉とこんなんなるとはなぁ」
「エロゲーの賜物です」
後で没収しようと決意したことを思い出した。
「別人みたいやったぞ。変な台詞連発しよるし」
「告白するときはヒロインが迫るシーンを参考にしたんですけど、エッチのときは
男の主人公を参考にしましたからね。まあ、エッチシーンのときだけ性格が変わる
主人公ってよくありますけど」
「それはシナリオが下手なだけちゃうんか……」
そんなものを参考にされた方はたまったものではない。
「ゲームを参考にするのはやめとき。そんなうまく行くわけないやろ」
「うまく行ったじゃないですか」
「うっ……」
「ちょっと焦ってたんですよ。先生が誰かにとられるかもって」
「……すまん」
生徒同伴だというのに、そういうつもりがいくらかあった。よりによってその生徒に
篭絡されてしまうとは思わなかったが。
「そっちはもういいです。ただエッチシーンがうまくいかなかったのが残念です」
「シーン言うな」
いくらなんでも毒されすぎだ。
「感じてるときは『好き』って言おうとすると『しゅき』になったり、アノときは
『らめええええええ!』って叫んでイくべきだと思うんですよ」
「アホ言うな! 誰がそんなん言うか!」
頭が痛くなってきた。
「というわけでもう一回戦です」
こなたはどこからともなくローターを取り出した。
「泉、そんなもんどこで」
「秋葉原で『専門店』を回ったじゃないですか」
「い、いつやそれ」
「いいじゃないですか、そんなの」
「おい、泉――んむっ」
ななこの抗議は唇で封じられた。
この夜、こなたの思い通りの叫び声をあげるまで、こなたはやめてくれなかった。
二人きりの部屋、そこにある音は、パソコンの駆動音、キスの水音、そして、
衣擦れの――こなたの服が脱がされる音。
キスのときは目を閉じるもの――そんなことを誰が決めたかは知らないが、ななこは
それに従うことをしなかった。理由は二つ。
一つは服を脱がすため。
一つは可愛いこなたを見つめるため。
今まで恋をした相手を見るのと同じように、ななこはこなたを見つめた。どうして
さっきまでは単なる生徒としか見ていなかったこなたを、こんな風に思えるのかは自分
でもわからない。
酒の魔力か、こなたの唇の魔力か。恋の魔法というのは便利なフレーズだ。
こなたとのコンビでは自分が魔法使いだったことを思い出した。陳腐な発想に思わず
苦笑する。
「先生は初めてじゃないんですね」
簡単に全裸にされてしまったこなたが囁く。
「泉は初めてなのに積極的やな」
太股を撫でられた。その優しい愛撫に身体が熱くなる。
「エロゲーの賜物ですね」
「おい」
こなたが急に活き活きしてきたような気がした。たった一言ながらツッコミどころ
満載の台詞だった。
「勉強じゃなくても役に立つことはあるってことです」
「問題はそこやなくて、あっ」
太股を撫でていた手が内股に移った。優しい愛撫が、今は焦れったい。
「先生、どこにしてほしいですか?」
その手は、あそこに限りなく近い部分を撫でて、しかしそこに到達しない。
「わ、わかっとるくせに」
早くそこにされたい。体がこなたを求めている。ななこははっきりと自覚した。
「いいえ、名前をはっきり言ってくれないとわかりません」
「このっ……」
底意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。さっきまでのこなたとは別人の
ようだった。とりあえず後でエロゲーを没収することを決意した。
「お、おめ……」
その名前を口にすると、顔が熱くなり、体が疼く。
「さあ、早く」
「おめこにして欲しいんや、泉に」
言わされてしまった。言ってしまった。既に裸を晒しているというのに更に恥ず
かしくなる。初体験のときの気持ちを思い出した。
「よく言えました」
ななこの要望どおりに、そこに指が入れられた。
「いっ、いずみ、あっ、あっ」
中をかきまわされ、どうしようもなく喘ぎ声が漏れる。体の中からやってくる感覚に、
どうしても逆らえない。
「先生、いいですよ、その表情」
「あっ……なに、いうとる、ああっ、あぅっ」
今、自分はどんな表情をしているのか。どんな恥ずかしい顔を晒しているのか。
「もっと、見たいです。先生の感じてる顔」
こなたがそう言うから、もっと見せたい。もっと感じたい。
「泉、もっと、もっと、ふぁあああ!」
「ふふ、はしたないですね。先生なのに、生徒にされてこんなに感じてるんですよ」
言葉とともに、こなたの攻めは激しさを増す。
「そっ、そんな、あうぅっ……関係、ないやろっ」
どんなに言い張っても感じていることは事実。感じさせているのは泉こなた。
泉こなたは生徒。泉こなたは――好きになった人。
「そんな先生も好きですよ」
その台詞に感じ入ってしまい、身も心もこなたに屈服してしまったのだと思い知った。
「あかん、ウチ、もう」
「イきたいですか」
「いきたい、いきたいんや」
恥ずかしい言葉が簡単に出てきてしまう。
「じゃあ、私のこと好きって言ってください」
「好き、好きや、いずみっ、好きやぁ」
好きだから。もうこの快感に全てを委ねてしまいたい。
「もっと、もっと言ってください」
その指はさらに激しくなって、ななこを導く。
「好き、いずみ、好きや、すき、すきや、あああああっ!」
思いのたけをぶちまけて、ななこは果てた。こなたは指を抜いて、それを舐めさせる。
「先生の味ですよ」
「泉の味も、欲しい」
こなたの顔を抱き寄せて、キスをした。引き寄せられたこなたはバランスを崩して
ななこに倒れ掛かる。
脱力して後ろに倒れる。ちょうどそこに枕があってよかった。
「って、泉、何しとるんや」
「胸枕」
仰向けになってもなお膨らみを失わない、ななこの胸に顔を埋めていた。
「ま、ええか」
相手が同性であることとか生徒であることはどうでもいい。そういう意味の呟き。
「なんちゅーか……泉とこんなんなるとはなぁ」
「エロゲーの賜物です」
後で没収しようと決意したことを思い出した。
「別人みたいやったぞ。変な台詞連発しよるし」
「告白するときはヒロインが迫るシーンを参考にしたんですけど、エッチのときは
男の主人公を参考にしましたからね。まあ、エッチシーンのときだけ性格が変わる
主人公ってよくありますけど」
「それはシナリオが下手なだけちゃうんか……」
そんなものを参考にされた方はたまったものではない。
「ゲームを参考にするのはやめとき。そんなうまく行くわけないやろ」
「うまく行ったじゃないですか」
「うっ……」
「ちょっと焦ってたんですよ。先生が誰かにとられるかもって」
「……すまん」
生徒同伴だというのに、そういうつもりがいくらかあった。よりによってその生徒に
篭絡されてしまうとは思わなかったが。
「そっちはもういいです。ただエッチシーンがうまくいかなかったのが残念です」
「シーン言うな」
いくらなんでも毒されすぎだ。
「感じてるときは『好き』って言おうとすると『しゅき』になったり、アノときは
『らめええええええ!』って叫んでイくべきだと思うんですよ」
「アホ言うな! 誰がそんなん言うか!」
頭が痛くなってきた。
「というわけでもう一回戦です」
こなたはどこからともなくローターを取り出した。
「泉、そんなもんどこで」
「秋葉原で『専門店』を回ったじゃないですか」
「い、いつやそれ」
「いいじゃないですか、そんなの」
「おい、泉――んむっ」
ななこの抗議は唇で封じられた。
この夜、こなたの思い通りの叫び声をあげるまで、こなたはやめてくれなかった。
「んー……」
朝。目覚まし時計のけたたましい音に起こされる。寝不足がたたって爽やかとは
程遠い。そもそも居酒屋に入ってから先、時間の感覚がなくなってしまっている。
隣で寝ているこなたを見つめる。このまま眠っていたい誘惑にもかられたが、今日は
月曜日、そういうわけにはいかない。
ベッドから這い出て、伸びをする。下着の上にシャツ一枚といういつものスタイル。
「せんせ、おふぁようごじゃいますー」
欠伸のせいで発音が乱れている。
「おう、起きたか」
「裸シャツっていうのも萌えですね。下が見えそうで見えないのとむき出しの太股が
なんとも」
「な、やめんかい!」
相手は同性なのに。恋人なのに。なぜか恥ずかしくなる。昨日まではありえなかった
反応に、自分でも驚く。
「泉、それ親父くさいで」
「ブルマに萌える私が太股に萌えないわけないじゃないですか」
「どんな理屈や」
朝の萌え談義(?)はこの辺で終わりにしなければならない。
「先生」
こなたはいつのまにか髪留めと櫛を持っていた。
「あ、頼むで」
こなたに背中を預ける。人に髪を梳いてもらうのはいつぶりだっただろう。こなたは
自分のも手入れしていないだろうに、丁寧に櫛を通す。その指が髪をなで、ついでに
頭を撫でる。こんなふうにしてもらうのはいつぶりだっただろうか――
深い安らぎと共に眠気が訪れそうになって、名残惜しみながらも早々に打ち切らせて
もらった。
「泉、ここから学校までどのくらいかかるんや?」
「今から出てギリギリですね」
「そんな時間にセットすな! お前もはよ着替えんかい!」
急いでスーツを着る。シャツにアイロンをかける暇がないが仕方ない。
「ほら、行くで!」
「今日、学校が終わったらここに来てください」
「そうやな、お父さんにちゃんと挨拶せな」
「お帰りなさいって言ってあげます。約束ですから」
「……ああ、そうやな」
こなたは玄関に立ち止まって手を振った。
「だから先生、いってらっしゃい」
胸にジーンときた。その言葉と笑顔に、求めていたものが満たされた。今日一日を
生きる活力が湧いてきた気がした。
「行ってきます」
こなたに見送られて、ななこは玄関を出る。目指すは糟日部市、陵桜学園高等部。
いつもと違う道、一歩一歩、足を踏みしめる。
月曜日という日が、ななこには陰鬱ではなかった。学校という場所は、ななこに
とっては好きになった人と会える場所でもあるのだ。彼女とともにそこへ向かう。
今のななこには肩を並べて歩く人が――
――いない。
「って、お前も来んかい!」
「あ~れ~」
まだ玄関にいたこなたの腕を掴んで、ななこは走り出した。
今日、学校が終わったらここに帰ってこよう。そうしたら、こなたにおかえりって
言ってもらおう。ご飯を作ってもらおう。髪を梳いてもらおう。
こなたと過ごす一日に、今から期待が高まる。
朝。目覚まし時計のけたたましい音に起こされる。寝不足がたたって爽やかとは
程遠い。そもそも居酒屋に入ってから先、時間の感覚がなくなってしまっている。
隣で寝ているこなたを見つめる。このまま眠っていたい誘惑にもかられたが、今日は
月曜日、そういうわけにはいかない。
ベッドから這い出て、伸びをする。下着の上にシャツ一枚といういつものスタイル。
「せんせ、おふぁようごじゃいますー」
欠伸のせいで発音が乱れている。
「おう、起きたか」
「裸シャツっていうのも萌えですね。下が見えそうで見えないのとむき出しの太股が
なんとも」
「な、やめんかい!」
相手は同性なのに。恋人なのに。なぜか恥ずかしくなる。昨日まではありえなかった
反応に、自分でも驚く。
「泉、それ親父くさいで」
「ブルマに萌える私が太股に萌えないわけないじゃないですか」
「どんな理屈や」
朝の萌え談義(?)はこの辺で終わりにしなければならない。
「先生」
こなたはいつのまにか髪留めと櫛を持っていた。
「あ、頼むで」
こなたに背中を預ける。人に髪を梳いてもらうのはいつぶりだっただろう。こなたは
自分のも手入れしていないだろうに、丁寧に櫛を通す。その指が髪をなで、ついでに
頭を撫でる。こんなふうにしてもらうのはいつぶりだっただろうか――
深い安らぎと共に眠気が訪れそうになって、名残惜しみながらも早々に打ち切らせて
もらった。
「泉、ここから学校までどのくらいかかるんや?」
「今から出てギリギリですね」
「そんな時間にセットすな! お前もはよ着替えんかい!」
急いでスーツを着る。シャツにアイロンをかける暇がないが仕方ない。
「ほら、行くで!」
「今日、学校が終わったらここに来てください」
「そうやな、お父さんにちゃんと挨拶せな」
「お帰りなさいって言ってあげます。約束ですから」
「……ああ、そうやな」
こなたは玄関に立ち止まって手を振った。
「だから先生、いってらっしゃい」
胸にジーンときた。その言葉と笑顔に、求めていたものが満たされた。今日一日を
生きる活力が湧いてきた気がした。
「行ってきます」
こなたに見送られて、ななこは玄関を出る。目指すは糟日部市、陵桜学園高等部。
いつもと違う道、一歩一歩、足を踏みしめる。
月曜日という日が、ななこには陰鬱ではなかった。学校という場所は、ななこに
とっては好きになった人と会える場所でもあるのだ。彼女とともにそこへ向かう。
今のななこには肩を並べて歩く人が――
――いない。
「って、お前も来んかい!」
「あ~れ~」
まだ玄関にいたこなたの腕を掴んで、ななこは走り出した。
今日、学校が終わったらここに帰ってこよう。そうしたら、こなたにおかえりって
言ってもらおう。ご飯を作ってもらおう。髪を梳いてもらおう。
こなたと過ごす一日に、今から期待が高まる。
-終わり-
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- この手のもので初めて読んだのがこれだったな。
一字一句暗記するほど読んでたけど未だに覚えてるとは思わなかった -- 名無しさん (2015-03-16 01:07:27) - ななこサンめっちゃエエ女や思うねんけどな~ -- 名無しさん (2011-04-16 08:08:26)
- 黒井先生大好きです!!!!! -- 名無しさん (2008-05-11 01:12:00)
- すごく、イイ話でした。 -- 名無しさん (2008-01-29 05:09:19)
- 初めて読みましたけど、いい話で感動しました。
-- 名無しさん (2008-01-26 16:22:28) - 読むの2回目ですけど
この話がきっかけで、ななこてんてーが好きになりましたよb -- 名無しさん (2007-11-20 22:42:12) - イイハタシダナー -- 名無しさん (2007-09-01 23:08:16)
- お疲れ様でした。
とても心に残るラスト
でした。
発想も、とても優れている感じで好きです。
こなたとななこの
やりとり(会話)も
成る程と頷けるモノが
ありました。
次回作をぜひ期待します。(_ _) -- 裁宝 (2007-08-09 02:30:39)