「ゆたか、ほっぺたについてる」
「んっく、ありがとう、みなみちゃん」
ああっ、これ、これっすよ!!
小早川さんのほっぺたについたケチャップを拭ってあげる小早川さん。
冷たく見える岩崎さんの目に浮かぶ柔らかい光と、小早川さんの純粋無垢な笑み。
自重しろ、自重しろ、私。どんどん膨らむ妄想を二人の死角になる角度のノートに書き取る。
これで次の本のネタは頂きっすね~
世間の澱みから離れたお城で育ったような無垢な小早川さんと、
白馬に乗った王子様、少女歌劇の男装の麗人を地でいけるような岩崎さんとの絡みは、
まさに日本中の、いや、世界中の腐女子の夢!!
ああっ、私も小早川さんのような純粋な乙女でいたい、
そして岩崎さんのような麗人に抱かれてみたい。こう考えるのはオタク少女にとって当然!!
……え、私っすか?
ガリガリとノートに書きとめていた手が止まる。
他人の絡みには嬉々として飛びつく私だけれども、私自身と誰かということは考えていなかった。
思えば私も高校生。そろそろ誰かと付き合うなんてお年頃のはず。
漫画やライトノベル、エロゲーなんかでも後輩キャラとして攻略可能なお年頃。
実際、向こうに固まっている女子の一団はそんな色恋沙汰の会話をしているわけですし。
でも、やっぱり私はこっちっすよね~
自分の色恋よりも、やっぱり創作活動。
惨事ばかりの世界を捨てて虹の世界へ~
「田村~、田村いるか~」
はっ、いけないいけない。また夢の世界へTravelしてた。
そそくさとノートを机の奥にしまい、立ち上がる。このノートは何があっても見られてはいけない。
「はい~、誰か呼びました?」
振り返ると教室の入り口で男子生徒が手を振っていた。
オタクだからって二次元の世界だけで生きていけるもんじゃないっすよ。
クラスメイトとの交流も、重要なネタ元の一つですしね。
「何~、何か用?」
「いや、俺じゃなくてこいつが用があるみたいで」
クラスメイトの隣にいたのは……む~、面識ない人っすね。
さっきの色恋沙汰の話をしていたグループが、こっちのほうを興味深そうに見ている。
あ、そういえば、今年の一年の中でも結構かっこいいって噂になっている人っすね。
他にも二、三人かっこいい人同士でつるんでて、女子の間で結構有名らしいっすね。
私はあんまり興味なかったんだけど。
「田村さん。ちょっといいかな。人のいないところで話がしたくて。時間はとらせないから」
むむ、人に聞かれたくないとすると、もしかしてアニ研入部希望者?
やっぱり自分がオタクだってこと、知られたくない人も多いっすからね。
「分かりました、ちょっと待っててください」
小早川さんと岩崎さんのところに戻って、食べかけの弁当箱を閉じて少し席を離れることを詫びる。
小早川さんは笑顔で、岩崎さんも頷いて送り出してくれる。
「お待たせしました。行きましょう」
さて、こう先輩に怒られないように、しっかり引き込んであげないと……
「んっく、ありがとう、みなみちゃん」
ああっ、これ、これっすよ!!
小早川さんのほっぺたについたケチャップを拭ってあげる小早川さん。
冷たく見える岩崎さんの目に浮かぶ柔らかい光と、小早川さんの純粋無垢な笑み。
自重しろ、自重しろ、私。どんどん膨らむ妄想を二人の死角になる角度のノートに書き取る。
これで次の本のネタは頂きっすね~
世間の澱みから離れたお城で育ったような無垢な小早川さんと、
白馬に乗った王子様、少女歌劇の男装の麗人を地でいけるような岩崎さんとの絡みは、
まさに日本中の、いや、世界中の腐女子の夢!!
ああっ、私も小早川さんのような純粋な乙女でいたい、
そして岩崎さんのような麗人に抱かれてみたい。こう考えるのはオタク少女にとって当然!!
……え、私っすか?
ガリガリとノートに書きとめていた手が止まる。
他人の絡みには嬉々として飛びつく私だけれども、私自身と誰かということは考えていなかった。
思えば私も高校生。そろそろ誰かと付き合うなんてお年頃のはず。
漫画やライトノベル、エロゲーなんかでも後輩キャラとして攻略可能なお年頃。
実際、向こうに固まっている女子の一団はそんな色恋沙汰の会話をしているわけですし。
でも、やっぱり私はこっちっすよね~
自分の色恋よりも、やっぱり創作活動。
惨事ばかりの世界を捨てて虹の世界へ~
「田村~、田村いるか~」
はっ、いけないいけない。また夢の世界へTravelしてた。
そそくさとノートを机の奥にしまい、立ち上がる。このノートは何があっても見られてはいけない。
「はい~、誰か呼びました?」
振り返ると教室の入り口で男子生徒が手を振っていた。
オタクだからって二次元の世界だけで生きていけるもんじゃないっすよ。
クラスメイトとの交流も、重要なネタ元の一つですしね。
「何~、何か用?」
「いや、俺じゃなくてこいつが用があるみたいで」
クラスメイトの隣にいたのは……む~、面識ない人っすね。
さっきの色恋沙汰の話をしていたグループが、こっちのほうを興味深そうに見ている。
あ、そういえば、今年の一年の中でも結構かっこいいって噂になっている人っすね。
他にも二、三人かっこいい人同士でつるんでて、女子の間で結構有名らしいっすね。
私はあんまり興味なかったんだけど。
「田村さん。ちょっといいかな。人のいないところで話がしたくて。時間はとらせないから」
むむ、人に聞かれたくないとすると、もしかしてアニ研入部希望者?
やっぱり自分がオタクだってこと、知られたくない人も多いっすからね。
「分かりました、ちょっと待っててください」
小早川さんと岩崎さんのところに戻って、食べかけの弁当箱を閉じて少し席を離れることを詫びる。
小早川さんは笑顔で、岩崎さんも頷いて送り出してくれる。
「お待たせしました。行きましょう」
さて、こう先輩に怒られないように、しっかり引き込んであげないと……
「田村さん、遅いな……」
ちょっと出かけてくるっていったきり、もう昼休み終了五分前。
そろそろくっつけた机も戻さなきゃいけないし、田村さんのお弁当箱も机に残っている。
それよりも、今日は田村さんとあんまりお喋りできなかったし……
「ゆたか、心配?」
みなみちゃんの言葉に頷く。
そう、それよりも、どうしちゃったんだろう。
何か悪いことが起こっていないといいけれど……
「あ、帰ってきた」
みなみちゃんの言葉に振り返る。
帰ってきた田村さんは、なんだか暗い表情。
どんよりとしたオーラをまとわせて、ふらつく足取りで机に戻ってくる。
「た、田村さん。どうかしたの?」
「え、いや……大丈夫。なんでもないから……」
その返答もどこか上の空。
弁当箱を包む手つきもどこかおぼつかない。
「田村さん。大丈夫?」
みなみちゃんの言葉に返事もしないで、田村さんは机に突っ伏した。
田村さんの長い髪が、ばさっと机の上に広がる。
「こら~、授業を始めるぞ。席に着け」
先生が教室に入ってきて、私たちはあわてて机に戻る。
田村さん、どうしちゃったんだろう。
授業が始まっても田村さんの調子は相変わらず。
ノートと教科書は机の上に出しているものの、机に倒れこんだまま動かない。
「それで、この公式が……おい、田村、聞いてるのか」
あっ、先生が気がついた。
チョークで黒板を強く叩く音。それにも田村さんは反応しない。
「田村さん、起きて、起きてってば……」
小さく声をかけるけれど、田村さんに反応はない。
先生もだいぶ苛立っているみたいだし、ううっ、どうしよう。このままじゃ……
「先生」
透き通った、凛とした声が教室に響く。
クラス全員がみなみちゃんのほうを振り向く。
「田村さん、朝から調子が悪かったみたいなんです。保健室に連れて行ってもいいですか?」
「あ、おお、そうだったのか。早く連れて行ってあげなさい」
みなみちゃん、ナイスフォロー。
戸惑う先生の目の前を横切り、みなみちゃんは田村さんの顔を覗き込む。
二、三言言葉を交わしてから、ぐったりとした田村さんの肩をみなみちゃんが抱えあげる。
田村さんの表情はどこかうつろとしていて、目が焦点を結んでいない。
みなみちゃんは田村さんの肩を支えたまま、慣れた手つきで扉をあける。
扉のところで一礼をして教室を出て行くときに、みなみちゃんと視線がかち合った。
そうだよね。私もほっておけないもん。
ちょっと出かけてくるっていったきり、もう昼休み終了五分前。
そろそろくっつけた机も戻さなきゃいけないし、田村さんのお弁当箱も机に残っている。
それよりも、今日は田村さんとあんまりお喋りできなかったし……
「ゆたか、心配?」
みなみちゃんの言葉に頷く。
そう、それよりも、どうしちゃったんだろう。
何か悪いことが起こっていないといいけれど……
「あ、帰ってきた」
みなみちゃんの言葉に振り返る。
帰ってきた田村さんは、なんだか暗い表情。
どんよりとしたオーラをまとわせて、ふらつく足取りで机に戻ってくる。
「た、田村さん。どうかしたの?」
「え、いや……大丈夫。なんでもないから……」
その返答もどこか上の空。
弁当箱を包む手つきもどこかおぼつかない。
「田村さん。大丈夫?」
みなみちゃんの言葉に返事もしないで、田村さんは机に突っ伏した。
田村さんの長い髪が、ばさっと机の上に広がる。
「こら~、授業を始めるぞ。席に着け」
先生が教室に入ってきて、私たちはあわてて机に戻る。
田村さん、どうしちゃったんだろう。
授業が始まっても田村さんの調子は相変わらず。
ノートと教科書は机の上に出しているものの、机に倒れこんだまま動かない。
「それで、この公式が……おい、田村、聞いてるのか」
あっ、先生が気がついた。
チョークで黒板を強く叩く音。それにも田村さんは反応しない。
「田村さん、起きて、起きてってば……」
小さく声をかけるけれど、田村さんに反応はない。
先生もだいぶ苛立っているみたいだし、ううっ、どうしよう。このままじゃ……
「先生」
透き通った、凛とした声が教室に響く。
クラス全員がみなみちゃんのほうを振り向く。
「田村さん、朝から調子が悪かったみたいなんです。保健室に連れて行ってもいいですか?」
「あ、おお、そうだったのか。早く連れて行ってあげなさい」
みなみちゃん、ナイスフォロー。
戸惑う先生の目の前を横切り、みなみちゃんは田村さんの顔を覗き込む。
二、三言言葉を交わしてから、ぐったりとした田村さんの肩をみなみちゃんが抱えあげる。
田村さんの表情はどこかうつろとしていて、目が焦点を結んでいない。
みなみちゃんは田村さんの肩を支えたまま、慣れた手つきで扉をあける。
扉のところで一礼をして教室を出て行くときに、みなみちゃんと視線がかち合った。
そうだよね。私もほっておけないもん。
病気で授業を途中で抜けることは今までも多かったから、今回も怪しまれずに保健室へ行くことができた。
ちょっぴりの罪悪感を抱えて、誰もいない廊下を急ぎ足で保健室へ向かう。
授業を抜け出すのは悪いことだけれど、親友のためだもの、仕方ないよね?
「失礼します」
鼻に慣れた消毒薬の臭い。
保健の先生は席をはずしているみたい。
心配そうに田村さんの背中をなでるみなみちゃんと、ベッドに腰掛けている田村さん。
「あ、ごめん。小早川さん。心配かけちゃったね」
申し訳なさそうに笑う田村さん。
違う。私が見たいのは、そんな苦しそうに笑う田村さんじゃないのに。
「ねぇ、田村さん。お昼休みに出て行ってから何があったの? 私たち、力になれないかな」
田村さんは言葉を詰まらせる。
俯いた黒く長い髪に縁取られた顔は色白で、お化粧をすればきっとかわいいのに、
田村さんは他の人に比べてそういったことに興味が薄い。
ちょっともったいないななんて、思うこともあるけれど……
田村さんは何かを言いかけるように、うつむいたまま小さく唇を動かす。
そして、決心したように真っ赤になった顔をあげて、
「あの……私……告白されちゃった……」
ちょっぴりの罪悪感を抱えて、誰もいない廊下を急ぎ足で保健室へ向かう。
授業を抜け出すのは悪いことだけれど、親友のためだもの、仕方ないよね?
「失礼します」
鼻に慣れた消毒薬の臭い。
保健の先生は席をはずしているみたい。
心配そうに田村さんの背中をなでるみなみちゃんと、ベッドに腰掛けている田村さん。
「あ、ごめん。小早川さん。心配かけちゃったね」
申し訳なさそうに笑う田村さん。
違う。私が見たいのは、そんな苦しそうに笑う田村さんじゃないのに。
「ねぇ、田村さん。お昼休みに出て行ってから何があったの? 私たち、力になれないかな」
田村さんは言葉を詰まらせる。
俯いた黒く長い髪に縁取られた顔は色白で、お化粧をすればきっとかわいいのに、
田村さんは他の人に比べてそういったことに興味が薄い。
ちょっともったいないななんて、思うこともあるけれど……
田村さんは何かを言いかけるように、うつむいたまま小さく唇を動かす。
そして、決心したように真っ赤になった顔をあげて、
「あの……私……告白されちゃった……」