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オタク少女は恋する乙女の夢を見るか 2話

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だれでも歓迎! 編集
時間は深夜二時。
耳元でうるさいぐらい響く鼓動の音を静めようと、ぎゅっと目を瞑る。
いつもなら寝れない夜は机に向かって朝まで原稿に取り組むんだけれど、
でもこの想像は原稿にできない。できるはずがない。
つい数日前、こんな少女マンガのキャラのように自分が身もだえするなんて想像できただろうか。
恋に身もだえたりするのは、もっとかわいい、小早川さんのような人がするものだと思っていたのに。
私はその横で眺めていれば、満足だったのに。
恋に関しては脇役だと思っていた私の身に余るこのイベントは、私の心をじりじりと締め付ける。
悶々と繰り返すイメージを抑えることもできず、私は布団の中で丸くなる。
布団の中でつく荒い息。
中にこもる熱気が蒸し暑い。
その熱気がまた良からぬ想像を引き起こして、私は布団の中でのた打ち回る。
脳内に繰り返されるイメージがさらに私の鼓動を加速させる。
落ち着こうと呼吸を整える私の頭に、またもあの昼休みの記憶が甦ってくる……


「俺と、付き合ってくれないか?」
校舎の隅で受けた告白は、そんな今時エロゲーでももう少し捻るだろうってくらいストレートなものだった。
特別教室の集まる廊下の、さらに奥まった隅の所。
昼休みにわざわざここまで出向く人もおらず、遠くに喧騒が聞こえるだけの静かな場所。
てっきりアニ研の話でもされるかと思っていた私は、その一言で完全に硬直する。
「君とはあまり親しい訳でもないし、もしかしたら今まで俺の名前すら聞いたことがないかもしれない。
 でも、君を初めて見たときから、ずっと君のことが気になっていた」
その言葉に私の心臓は大きくドクンと跳ねる、顔が紅潮する。
自分でもよく思うのだけれど、私ってば社交的な割には結構あがり症だ。
閉鎖的なオタクが多い中(ってのは偏見か)、私はそれなりに友達も多くて見知らぬ人とも話せる。
でも、不意に隙を突かれたりすると、真っ赤になって口ごもってしまうこともしばしば。
そんな私だったけれども、このときの緊張は今までにないくらい。
耳の後ろで鼓動が早鐘を打つ。
自分の顔が真っ赤になっていることなんて簡単に想像できる。
緊張のあまりに視界までぶれて見えるほど。もうすでに相手の言っていることの半分も理解できていない。
「もちろん、すぐに返答してくれなんて言わない。もし時間があるなら明日……って、田村さん。大丈夫?」
緊張のあまりふらついた私の肩を、そっと支えてくれた彼の手。
びくっと、彼が触れたところが電気にあたったみたいに痺れる。
私の顔を覗き込む、彼の顔。
その端正な顔に、さらに私の鼓動は高まる。
「どうしたの、大丈夫かい? 保健室に……」
「い、いや、大丈夫ですから」
手をバタバタさせて差し出した彼の手を断る。
離れた彼の顔。16連打も超えるくらいの私の鼓動が少しだけ軽くなる。
でも、少し寂しそうなその顔に、私の心臓がまたぎゅっと痛くなる。
「じ、じゃあ、明日放課後にまた……」
彼が壁の向こうに消えるまで、私は一歩も動けなかった。
彼の姿が見えなくなると同時、すとんと足から力が抜けて、私はリノリウムの床に座り込んだ。
座り込んだ体に触れる冷たい床も、私の心を静めてくれるほどには至らない。
火照った頬に手を当てても、その熱気は冷めない。
結局、予鈴が鳴るまで私はその場を一歩も動くことができなかった。


布団の中をのた打ち回るうち、ガラス窓の外は夜中の黒から朝の青へと変わっていき、
小鳥の声が聞こえるようになって、私は眠ることを放棄した。
結局、今夜は一睡もできなかった。
重い体を引きずり、学校までの道を辿っていく。
「おはよう、田村さん。あの……大丈夫?」
スクールバスの列で出会った小早川さんと岩崎さん。
小早川さんは心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。
岩崎さんも、少し昔の私だったら無表情だと言うだろうけれど、その精悍な顔に心配そうな表情を浮かべている。
昨日、心配して保健室まで連れて行ってくれた二人。
ここまで私のことを思ってくれる友達を持って、私は幸せだと思う。
だから……
「うん、大丈夫だよ。一晩寝たら大分落ち着いたし」
心配させたくない。
できるだけの笑顔で小早川さんと岩崎さんに答える。
私は仲のいい二人を見ているのが好きなんだから、私のことなんかで心配させたくない。
昨日も放課後まで付き合っててくれた彼女たち。
私のせいで午後の授業を二つもふいにさせてしまった。
やさしい二人……だからこそ、二人のやさしさに頼りっきりになってはいけない。
「そうならいいんだけれど……私たちにできることがあったらなんでも言ってね」
心配そうな表情で私を見守る小早川さん。
隣で岩崎さんも頷いてくれる。
だめ、私また心配をかけちゃってる。
「大丈夫だよ~。それよりも昨日の宿題~」
カバンからノートを取り出し、無理やり話の方向をずらして誤魔化した。
スクールバスで学校に着くまでの間、私たちは宿題の答えを確かめ合う。
こうやって楽しく話せる友達は、やっぱりこの二人が一番だ。
だからもう、これ以上心配をかけたくない。
それに、これは私自身が決める問題なんだから。


「で、私のところに来た訳か」
「ううっ、すみません。こう先輩」
とか何とか言っても、私の心は脆かった。
うう、色々考えといて、情けないっす。
長い午前中までの授業を乗り切った昼休み。
小早川さんと岩崎さんの誘いを断り、私はアニ研の部室へと向かった。
二人と一緒にいると気を使わせてしまうって心配も大きかったけれど、
それよりも誰かに相談せずにはいられなかった。
小早川さんも岩崎さんもそういった経験はないみたいだし、
こんなことを相談できる人なんてこう先輩くらいしかいなかった。
幸いアニ研の部室にはこう先輩しかおらず、私はお弁当を広げながらこう先輩に話を聞いてもらっている。
「だが、私もそういった経験ないしな。ひよりの期待しているようなアドバイスができるとは限らんぞ?」
困ったように頭を掻くこう先輩。
私の知り合いで唯一期待していたこう先輩も経験ないなんて。
「でもまあ、大切な後輩だからな。まあ、私にできるアドバイスといえば、
 ひよりと同じアニメとか漫画から得た情報しかないんだけれど……」
コーヒーを一口飲み、遠くを見るこう先輩。
たった一年先輩、誕生日で考えれば三ヶ月しか違わないのに、こういった時のこう先輩は大人っぽく見える。
「ところでひよりんは、そいつについてどう考えているんだ?」
「え、私……ですか?」
「そうだ、ひよりんが好きかどうか決められなければ、返事もできないだろう?」
好きかどうか。
そう、それが一番難しい問題。
「好きかどうかなんて、分かりません」
ぎゅっと胸が痛くなる。
手のひらを締め付けられるような痛みの胸にあて、私は続ける。
「ただ、あの時告白されたときからぎゅっと胸が痛いんです。私が壊れちゃうくらいに。
 あの時初めて会った人だから、どんな人かだってよく分からない。
 でも、あのときからずっと胸が痛いんです。こう先輩。私、どうしたらいいんですか?}
うーん……と箸を鉛筆のように唇の上にのせ、こう先輩は考え込む。
目を瞑って、瞑想するように考え込み……びくっと顔をあげる。何か考え付いたみたい。


「そうだ、ひよりんに私の好きな漫画から一つ言葉を贈ろう」
こう先輩はこぶしをぐっと握り締め、
「女は子宮で考えるんだ!」
…………………………………………………………はぁ?
い、いや、意味わからないし……
うまく反応が返せない私に、こう先輩はため息をついた。
「なんだ、ひよりん『最終兵器彼女』知らないのか」
「いえ、タイトルは知ってますが、そんなマイナーなセリフは……どんな意味ですか?」
ま、私もはっきり意味わかって使ってるんじゃないんだが、と前置きしてこう先輩は話し出す。
「男は色々理性で物事を考えるが、女は本能で物事を考える。女の勘って奴ね。
 ことに恋愛に関しては理性で考えるほうが無駄。
 あれこれ考えず、直感でぶつかった方がいい。私はそう考えているよ」
初め聞いたときは単なるセクハラにしか聞こえなかった言葉が、すごく重大な意味をもって聞こえる。
女は子宮で考える……か。
「だから、ひよりが好きって言いたければ言えばいい。嫌いだったら嫌いと言えばいい。
 もちろん、どっちも選べないなら、そういった選択肢もあるかもな。
 相手が傷つくかもとか、変に思われるかもなんて考えなくていい。
 ひよりの考えたこと、そのまま話せばいいよ」
こう先輩の言葉に私はこくこく頷く。
やっぱりこう先輩に相談してよかったっす。
「……まあ、こう言ったアケミは幼馴染寝取られて、結局死んじゃうけど」
……って、それダメじゃないですか!!
たはは、と笑って、こう先輩は頬を掻く。
「まあ、ひよりんも私も経験ない以上、深く考えてもしょうがないよ。
 自分の直感を信じて、思うようにやればいいんじゃないか」
まあ、そうするしかないっすよね。
結局、お昼休みが終わるまでこう先輩に付き合ってもらってしまった。
私と同じ、恋愛を紙の上でしか知らないこう先輩だったけれど、
でも、ここに相談しに来る前よりもずっと気楽になったことは間違いない。


















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