SIMPLE 書き手ロワ3 THE 煽動マーダー

空が白んでくる中、三重県はとある集落の片隅で物陰に身を潜めながら一人の少女が口をつく小さな欠伸を噛み殺した。
今回の書き手ロワが始まったのが真夜中と言う事もあり、最初は緊張等もあって何とか持ちこたえられてきた所が、
そろそろ気も弛み、身体も疲れてきた所に空の色が徹夜明けのあの色に変わりつつあるのも手伝って、酷く眠気を誘っているのだろう。

やれやれと言わんばかりに桃色の着物に身を包み漆黒の大きな弓を携えた彼女は苦笑を浮かべ、一度首を左右に振る。
そして改めて視線を向けた先には黒い竜を従え、無人の郵便局の前にぽつんと佇む金髪の男、
熊岡県の死闘を何とか生き延びて三重県に戻ってきた甲賀騎兵ひぐらしの姿があった。

腕を組んだ彼が思い出しているのは先ほどの一連の事件の数々だろうか。
己の忍者補正とAT乗り補正を駆使して何とか生き延びてこうして死地から戻ってくる事は出来たけれど、
KIが乱れ飛ぶ空中戦、巨大なご立派様に触手にボール的な物を投げる二頭身……どれを見ても並々ではない超展開。
もしも次にあんなカオスに巻き込まれたら、今度はどうなる事だろうか。

けれども、次があったとしてもその時も甲賀騎兵は何とか生き延びるしかない。
己の目的、他のロワ参加者への布教を行うためには簡単にくたばる訳にはいかないのだから。
「ん……?」
彼の傍らでスタンバっていた真紅眼の黒竜が低く鳴く音に、甲賀騎兵はハと我に返る。
首をもたげれば、通りの向こうから小走りに駆けてくる彼の同行者、芸人的戦闘の伝道者の姿が目に入るだろうか。

といっても、別に向こうはトイレに駈け込んでいた訳ではない。
熊岡県から離脱するついでに一行はそのまま伝道者が目指す墓のある集落へと一足飛びにやってきて、
伝道者の言う所の『ナギサ』がカヲル君ではない事、そして己とさほど縁のない者の墓参りもどうかと言う事から
墓地へ向かう伝道者と墓地の手前の郵便局で待つ甲賀騎兵とで一旦別れていたのだった。

ある意味では裸が芸人の正装とも言えるかも知れないが、さすがにほぼ全裸で墓参りするわけにはいかないと
リアルはっぱ隊スタイルから戻した衣服を着込んだ姿で近づいてくる伝道者の目元はほんのり赤い。
それでもその表情がどこか明るくもある辺り、幾らか吹っ切る事は出来たのだろう。

「気が済んだか」
黒竜の前で立ち止まった甲賀騎兵が問いかけるとこくりと伝道者は頷く。
そしておもむろに肩から下げていたデイパックを左手に持ち替え、持ち上げると、甲賀騎兵へと差しだした。
「…………?」
「持って行って」
相手の行動の意図がわからないのか動きが止まる甲賀騎兵に伝道者は告げる。
「自分はここに残る。だから甲賀さんはこれを持って旅の扉……大阪に行って」

「何を……いきなり」
強張った声で言葉を続けられ、甲賀騎兵はしばし言葉を失う。
「わた……俺なんかがバトルロワイアルに放り込まれてもどうせ長生きは出来ないなら……そう思って何とかここまで来られたけど、
 目的を達成した今の俺にもう生き延びるためのフラグはない訳だろ。
 だったらまだまだやるべき事のある甲賀さんがより良い状態で先に進むべきだ、そう思っただけだ」
「だが、そんな事してもこのフィールドはもうすぐ……」
「わかってる。だから残りたいんだ。試してみたい事もあるし……」
他のチートどもが暴れるのを待つまでもなく、間もなくこのフィールドは崩壊する。
そんな中でこの場に残るのはそれこそ自殺行為でしかない。
伝道者の思考が理解できないのか声を荒げる甲賀騎兵に、伝道者は再びぐっとデイパックを差し出した。
「何より、これがケジメだから」

「…………!?」
それでもなかなかデイパックを受け取ろうとしない甲賀騎兵に痺れを切らしたか、伝道者はぐっと右の拳を握りしめると
アッパー気味に甲賀騎兵の鳩尾に拳を叩き込む。
細腕から発される一撃は人体にダメージを与えるには弱いかも知れないが、それでも不意打ちだったのも手伝って
甲賀騎兵の身体はくの字に歪んだ。
「『真紅眼の黒竜』! お願い、行きなさい!」
己のデイパックごと甲賀騎兵を黒竜に押しつけて伝道者が鋭い声で命ずると、黒竜は素直に甲賀騎兵の身体を咥えて背に乗せて舞い上がり
あっという間に大阪の方角の空へと消えていく。


「ちっ……」
竜の翼によって巻き起こる風が己の髪や衣服を揺らし、面白くなさそうに少女は舌打ちをした。
確かに書き手のメタ視点から考えれば、小さな目的を達成した今この時が向こうにとっては一番のウィークポイントとなりうる訳で
それを回避するべく大急ぎでこの場を離脱しようというのも決して間違ってはいない。
実際に黒い弓を構えて弦を引き絞っている彼女のような存在もいるのだから。

「せっかくのチャンスで慎重になりすぎましたか……まぁ良いでしょう、そんなにここで死にたいのなら」
モノローグを紡ぐ間もなく殺してあげるのも一興でしょう。
言葉の後半は内心だけで呟いて、少女は黒い弓の弦を引く手を離した。
弓には矢がつがえられていないけれど、弓に集約された光が矢の替わりに伝道者へと放たれる。



「……っ!」
少女が射った光が左肩を掠め、ぴしりと己の皮膚が弾ける感覚と続いて起こる激痛に、伝道者は顔を歪めた。
蹌踉めきそうになるのを堪えて狙撃が行われただろう方向へと身体を向ける。
「誰か居るんだな、そこ」
デイパックはもう手放した為に伝道者には武器はない。
痛みが走る左腕をぶらんと下げたまま、右手の拳を握りしめて伝道者は呼びかけた。
「俺は芸人ロワの芸人的戦闘の伝道者。十年来の友人のように気さくに略してげーせん、とか
 トリップが◆8eDEaGnM6sだからハチイー、とでも呼んで貰っても構わないけど」


「そこまでされたならこちらも答えない訳にはいかないな」
痛みを堪え、逆に薄く笑みすら浮かべて名を名乗る伝道者の態度に感服したか、少女は釣られるように小さく嗤い、物陰から姿を現す。
「私はオリロワ書き手が一、初雪。そなたをここで討つ者だ」
桃色の和服の袖が夜明け間際の風に揺れる。
2m程ある黒い弓を構えたその姿は何とも東洋的で、しばし見とれていたくなるけれども、
弓に再び光が集約しつつある状況でさすがにボーッとはしていられない。

「その光の矢がさっきの一撃、と」
「………………」
確認するように呟いて身構える伝道者に対し、初雪は口を閉ざした。
初雪とは名乗ってはみたモノの、実は彼女は初雪ではない。
彼女……いや、彼は初雪の姿に変装した青き鬱のエレメント。

己の正義(笑)に目覚めた初雪をそのまま尾行して彼の行く末を見守るのも楽しそうではあるが、やはりそれだけでは面白くない。
初雪にすれば理不尽な事この上ない話ではあるが、青き鬱のエレメントが初雪に変装してこっそり悪評を立てる事で
更なる苦難が初雪を見舞い、それに抗う様をより一層楽しむ事が出来るはず……そう思ってのこれはエレメントなりの思いやりである。

その点で考えれば、先ほど伝道者が甲賀騎兵と一緒にいる内に狙撃を行っておくべきだったのだが、まぁ過ぎた事はしかたがない。
見たところ、そして向こうが名乗った内容を信じれば、恐れるほどの相手ではないのだし。

――それよりも、寧ろ。


先ほどよりも比べものにならないほど明らかに強く光が集束している様を確かめて、初雪……いや、エレメントは光の矢を放つ。
エレメントが持つこの弓は月天弓と呼ばれており、終わりのクロニクル出典でマルチロワに登場した武器だという。
『光とは力である』という概念に基づき月の力をエネルギーとする対概念戦争用兵器で、夜しか使えなかったり
月の光が当たらない場所では威力が半減するデメリットがあるが、弓の代わりにレーザーのように撃ちだされた月光は
何ともパねぇ威力を発揮するのだという。

ただでさえ夜明け前の月光の弱くなる時間帯、そして先ほどは物陰から射った為に被害も微々たるモノではあったが
こうやって物陰から出てくれば当然のように光も集まり、破壊力も跳ね上がる。

光の帯は一直線に伸び、伝道者の横を通過して相手の背後の民家に命中して轟音を上げて爆ぜた。
続けざまにエレメントは周囲の建造物を狙って手当たり次第に光の矢を放つ。
家屋が、大地が、ひしゃげ砕けて悲鳴を上げる。
破壊のエネルギーが生み出す空気の流れが、伝道者の髪を揺らした。



「………………」

伝道者の事情を知らないエレメントでも、甲賀騎兵を大阪に向かわせ、一人この地に残った伝道者の言動から
この場所が伝道者にとって意味のあるモノだというのは推察できる。
故の、狙撃。そして、破壊。
集落が無差別に破壊されて呆然とした伝道者の顔がこれからどう歪むか、面白がるようにエレメントが口元に笑みを浮かべると。

「…………くく、はは、ははははは」
目を細め、身体を震わせて、伝道者は笑い出した。
あまりのショックに気でも狂ったのだろうか?
否。
「どこ狙ってンだよ、初雪さん。私の心臓はここなんだよ?」
笑いながら情熱的に右手で左胸をトンと叩いて伝道者はエレメントへと言い放つ。

「こういう回りくどい事するって事は初雪さんは鬱展開書きさんなのかな。でもさ、あくまでここはミニチュアの日本であって本当の日本じゃない。
 あの人のお墓はあったけど、遺骨が納められてる筈がない。
 自分の中のこれまでの記憶や知識がこの場所と結びついて意味を成していたってだけ」
そもそも放っておいてももうすぐ崩壊するし、ね。
何事もないようさらりと告げようとする伝道者だが、その表情は、声はどこか歪んでいて、
決してショックがない訳ではない事が伺えた。
それでも。
「そりゃ……目的を達する前に壊されたらブチ切れもするけどさ、実際和歌山とか破壊された時は心配と怒りがマッハでヤバかったし。
 でもイミテーションだと確認できた今はもう、どうって事ない。私の心は壊れない!」
「だったら何でそなたはここに残った?」
「あんたのようなのから甲賀さんを護るため、そしてかつて2002年版の芸人ロワであの人を殺し、
 また今度もあの人を殺すつもりだった自分へのケジメのため」
出来うる限り軽い口調で、どこか己に言い聞かせるかのように伝道者は言い放つと、改めて身構える。

「……理解できぬ。いや、ここは馬鹿にされていると憤慨するべきか」
潜伏しているマーダーから仲間を逃がすためにわざとその場に残り、殿を勤める行為自体は良くある話だ。
しかしそれはある程度の実力を持った者が成すべき仕事であろう。
武器を持たず、かといってぶっちぎりを至上とするロワの書き手でもない伝道者が残った所でむざむざ命を散らすだけ。
ハ、と面白くなさそうに息を吐き、ならば、とエレメントは月天弓を構えた。
夜の終わりの、微かな月の光が集束してひときわ輝く一本の矢を形成していく。

「ならばそなたの望み通りケジメとやらをつけさせてやろう。この一撃で」
「そうこなきゃ、ね…………ただ」
バトル書き手の本能か、にやりと引きつった笑みを浮かべながら伝道者は右手を前方へと突き出した。


「カオスやチート、そもそも異能すらないロワの書き手なんか敵じゃない、安牌だってあんたが考えてるんなら」


ギュッと握りしめた拳の周囲の空気がゆらりと揺れる。



「               」


朗々と詠うように伝道者が紡ぐ言葉は、それを発した伝道者ごとエレメントが放った光の帯に飲み込まれた。

炸裂する光とエネルギーの奔流が嵐となって辺りを包み込む。
腕で顔を覆いながらこういう場では和服は面倒だな、と他人事のようにエレメントは思考し、
光が薄れてクリアになっていく視界に目を凝らした。
ぐにゃりと溶けてひしゃげた郵便局、途中でへし折れた電柱、ヒビの入ったアスファルト。
あまりの威力に、芸人的戦闘の伝道者だったモノの痕跡すらもう存在しない。

「……やれやれ、これではただの草臥れ儲けではないか」
相手がデイパックを持っていたならば支給品の補給も出来た所だが伝道者は全くの丸腰。
月天弓の威力と使い方のコツを学べたぐらいしか今回の襲撃で得られた所はない訳で。
面白くなさそうにエレメントが呟いた、その時。

「はぁああああっ!」
エレメントの背後から裂帛が上がる。
咄嗟に振り向いたエレメントの顔面目がけ、振り下ろされる手刀。
月天弓を掲げて防ごうとするも、タイミングが遅かったか手刀はエレメントの手首を打ち据えて弓が手から弾き飛ばされる。
地面に跳ねてカランと音を立てる弓からエレメントが視線を衝撃が襲った方へと向ければ。

「何が草臥れ儲け、だって?」
左肩から腕にかけてを血に染めた細身の男性……芸人的戦闘の伝道者が薄く微笑みながらエレメントを見下ろしていた。





「なっ……!」
完全に抹殺したと思った相手の姿にエレメントは言葉を失う。
あの一撃を躱したというのか。あるいはどこかにひらりマント的な支給品を隠し持っていてそれを行使したのか。
それとも……と思考を紡ぎ駆けた所で、エレメントの耳は羽音を聞きつけ、主に我に返るよう促す。

「『真紅眼の黒竜』! 黒炎弾(ダーク・メガ・フレア)だっ!」
続いて発される張りのある声とその内容を理解すると同時に、エレメントの身体は天から降り注ぐ漆黒の炎に包まれた。

「……やぁ、さっきぶり」
ゆっくりと舞い降りてくる黒竜の気配に、目の前のエレメントから視線は外さずに伝道者はへらと言葉を発する。
「派手にやってるのが見えて心配したが……間に合って良かった」
「言っただろ、仮にもバトル書き手だから時間稼ぎぐらいなら大丈夫だって」
伝道者の左肩の傷に甲賀騎兵は微かに眉根を寄せるも、強がりか余裕の発露かざっくりと言い放ってみせる伝道者の様子に
ふ、と苦笑を浮かべると甲賀騎兵は黒竜の背から地面へと跳び降りた。
「じゃあ……ここからは俺の出番だ。真紅眼の黒竜を頼む」
「了解」
王者の剣を抜き身で携えた甲賀騎兵の姿に伝道者は軽く応じて臨戦態勢を解き、黒竜の助けも借りながら主不在のその背中へとよじ昇る。

「向こうはオリロワの人みたいだけど、甲賀さんの布教が通じるかは難しいと思う。気をつけて」
騎英の手綱を握りしめて伝道者が言い残す伝言に甲賀騎兵は小さく頷き、剣を構えた。
見据える先は、炎に包まれたエレメント。

常人ならばそのまま消し炭になってしかるべきだろうけれども、ここは書き手ロワである。
故に、不意にエレメントの周囲の炎は四散し、代わりにいかにも戦隊モノと言ったデザインの薄いエメラルドグリーンの
コスチュームに身を包んだ男が姿を現し、甲賀騎兵はひゅうと小さく口笛を鳴らした。


もちろん、これは本物の初雪から頂戴したシュリケンボールを用いてシュリケンジャーに転じたエレメントであるが、
頭部を覆うヘルメットのせいで表情も伺えないエレメントの内心は身体を焼いた炎よりも熱く煮えたぎっていた。
そもそも、目の前の伝道者と甲賀騎兵にちょっかいをかけようとしたのは初雪の苦難を盛り上げるための些細な余興の一つとしてだった。
それが何故、シュリケンジャーへの変身という奥の手すら使わされてしまう苦境に陥ってしまっているのだろうか。


理由を挙げられるならば、一つはエレメントが相手を侮っていた事。
もう一つは、相手が打った小芝居(コント)に見事に騙された事。

「………………」
二人の会話から察するに、伝道者がこの地に残って甲賀騎兵が一旦竜に乗って離脱するのは当初からの既定路線のようだった。
確かに伝道者自身が口にした通り、一つの目的を達した直後は狙われやすいという書き手としての経験則から、
きっとどこかに隠れているだろうマーダーに無防備な背中を晒すぐらいなら、という事な
のだろう。
伝道者といういかにもカモといった餌を吊す事でマーダーを物陰からおびき寄せ、甲賀騎兵が叩く、もしくは伝道者を連れて逃げる。
それは過剰とも言える策ではあるが、カオスの極みを目の当たりにし、何が起こるかわからないという
書き手ロワの流儀を身にしみて感じ取った彼らだからこそ、慎重にならざるを得ない所もあったのだろう。
もしも本当にマーダーが付近にいなければ、伝道者がちょっぴり滑った空気になっている所に甲賀騎兵が戻ってくるだけなのだから。

「全く、腹立たしいにも程がありますよ」
シュリケンジャーの装備であるシュリケンズバットから刃を引き抜き、エレメントは身構えた。
「はぁぁっ!」
そのまま流れるような動きで裂帛と共にシュリケンズバットを振るえば、甲賀騎兵も王者の剣を振るって刃が衝突し、耳障りな硬質な音が響き渡る。
二合、三合、四合と刃と刃の衝突は繰り返されるが、エレメントの振るう刃は全て甲賀騎兵に受け止められた。

ちなみに戦隊ロワでも今のエレメント同様煽動マーダーとして行動しているこのシュリケンジャーは、
忍風戦隊ハリケンジャーの物語中に於いては『ニンジャ・オブ・ニンジャ』を自称する実力の持ち主である。
つまり、疾風流&迅雷流と甲賀流、と流派は違うとはいえ、エレメントも甲賀騎兵も忍者補正を持つ書き手という事になる。
その為に力量は拮抗しているのか、それとも本当の力量を探るべくまずは拮抗させているのか、刃の振るい合いでは互角のように見えた。
ならば黒竜の黒炎弾で介入する手もない事もないが、甲賀騎兵を巻き込む危険性が高い上にそもそもそれは野暮というモノ。
故に辛うじてその遣り取りを目で追いながら、伝道者は手綱を握る手に力を込める。

「くっ……」
これではキリがないと察したか、エレメントが一度大きくシュリケンズバットを振るう。
隙を見せるデメリットを覚悟で今までよりも一際強い力で振るわれた刃は、それを受け止める甲賀騎兵を僅かに揺らがせた。
生まれるのは一瞬足らずの空白。
その間に一度間合いを取り直すべくエレメントは大きく後方に飛び退こうとする。
そのエレメントの首もとで不意にバチバチと火花が上がった。


火花の発生源は甲賀騎兵の舌が巻き付いたバタフライナイフ。
遠ざかろうとするエレメント目がけてburrontとの戦いの際に行ったように、喉元に隠しておいたバタフライナイフを吐き出したのだ。
常人が相手ならば首にナイフが刺さるか頸動脈を掠めるかして大ダメージを与える事が出来ただろうが
如何せんエレメントの身を包んでいるスーツを貫くまでには至らなかったらしい。

「………………」
しゅるりとバタフライナイフを飲み込んで、甲賀騎兵は苦々しげな表情を浮かべる。
今の技は忍の技らしく不意打ちにこそ効果を発揮する。ネタが割れた今の状況では再び用いても効果はないだろう。

その一方で甲賀騎兵と間合いを取り直したエレメントは間髪入れずに跳躍した。
戦隊モノらしく空中で前転し、その勢いをシュリケンズバットに乗せて縦に振るってくる。

「翼忍剣技、天空斬!」
律儀に技の名前を口にしてくれるのも戦隊モノらしくはあるが、渾身の力を込めて甲賀騎兵へと振り下ろされたエレメントの一撃は。



エレメント自らの脇腹に突き刺さっていた。

「…………甲賀の瞳術、堪能していただけましたか?」
どさりと地上に落ち、何が起こったのか理解できないと言わんばかりに甲賀騎兵を見上げるエレメントに
くく、と笑って甲賀騎兵は告げた。
その双眸はこれまでと異なって金色の輝きを帯びており、この目は危険だとエレメントの中で何かが叫ぶ。

「これでもうあなたは俺らに対してあらゆる攻撃が出来なくなりました。嘘だと思うなら、斬り掛かってみると良い」
「………………」
シュリケンズバットを脇腹から抜き、エレメントは身体を起こしながら身構えるも、甲賀騎兵に斬り掛かる事は出来なかった。
相手の言う事を素直に信用した訳ではない。しかし全身に走る違和感が、エレメントに動くなと囁いていて。

先ほどエレメントに向けてバタフライナイフを吐き出すと同時に、甲賀騎兵が発動した忍術は室賀 豹馬の猫眼呪縛(ぴょうがんしばり)。
室賀が生来の盲目故に夜間しか使用する事は出来ないが、一度その術に填れば、敵意を持って相手を攻撃しようとすると、
その敵意は跳ね返され、仲間がいる時は同士討ちを行い、一人の時は自分の武器で自殺してしまうのだという。
もっとも、書き手ロワという空間を考えれば、気合いを込め魂を燃やせば何とか瞳術の強制を解除する事も出来なくもないだろうが
今敢えてそれをするには代償が大きすぎた。
「く……はは、ははははははは」
脇腹から伝わってくる熱と痛みを堪えながら、エレメントは自然と漏れ落ちる笑いをそのままに、甲賀騎兵を睨み付ける。

ヘルメットのせいでその憎悪の眼差しは甲賀騎兵に伺う事は出来なかったけれど。
刹那、エレメントはシュリケンズバットで大地を叩き付けて粉塵を巻き起こすとそのまま姿を消した。







粉塵が収まり、エレメントの気配が無くなって。
あちこち建物が破壊されてはいるが、元の静かで自然の豊かな集落の風景が戻ってくる。

「甲賀さん、大丈夫?」
強力な忍法を使ったからか、あるいは夜間限定の技を明け方に無理して行使したからか。
戦いのプレッシャーから解放されると同時にぐらりと蹌踉めく甲賀騎兵に伝道者が慌てて声を掛けた。

「あぁ……ちょっと無理したが少し休めば大丈夫だ」
「そう。だったら大阪まで俺が『真紅眼の黒竜』を運転するから後ろに乗って」
王者の剣を鞘に戻し、路上に放置されたままの月天弓を回収して甲賀騎兵は伝道者に答えると、促されるままに黒竜の背に乗る。
二人が背に乗り、伝道者が騎英の手綱で指示を出せば翼を広げて黒竜は舞い上がり、今度こそ大阪の旅の扉へと向かって飛翔しだした。


「そういえば……さっきお前が言っていた試したい事ってどうだったんだ?」
あっという間に奈良県の上空に差し掛かりながら、甲賀騎兵は目の前の伝道者に尋ねる。
「あぁ……あれね。おかげさまで何とか上手くいったよ」
心地良い早朝の風が声を背後へと流す中、辛うじて聞き取れる問いかけに伝道者は答えた。
ニコロワとかカオスロワの書き手が向こうの流儀をここに持ち込むなら、俺も俺の……芸人ロワの流儀を持ち込めないかと思ってね。
 ちょうど良いパクリ元……じゃなくてインスパイア元があったから、上手い事できたんじゃないかな」

へらっと軽い口調で告げながら、伝道者が思い出すのは先ほどのエレメントが己へと月天弓を放った瞬間の事。
その時右手を前に突き出して伝道者が口にした言葉は『……まずは、その幻想をぶち殺す』だった。
この言葉はかの有名などこぞの不幸だけど不幸じゃない青年の決め台詞であり、彼がその右手に持つ異能、『幻想殺し(イマジンブレーカー)』は
右手で触れた他の魔法や超能力と言った異能を無力化するモノである。

その異能にあやかり、一気に傷が癒えるような回復アイテムも、魔法も、超能力も、KIも、アルター能力も、
核金も、スタンドのDISCも、悪魔の実も、インテリジェントデバイスも、ぶっちぎれるようなモノの何もない、
限りなく現実設定の芸人ロワの空気を伝道者は己の右手に集約させ、『偽幻想殺し』を作り出して月天弓の一撃を無効化させたのだ。

「……それは良かった」
疑問が晴れたからか、ふぅと息をついて甲賀騎兵は呟く。
金色から元の色に戻った双眸で眺める光景が東の方角に日本列島を裂く乖離剣エアの光というのもなかなかアレではあるけども。
「そういえば、これからあんたはどうするんだ? 俺はもちろん布教を続けるつもりだが」
「んー、とりあえず死にたくはないしどうしようかな……」
そんな壮絶な光景を見なかった事にする訳にも行かないが、とりあえず話題を変えようとする甲賀騎兵に
伝道者が手綱を操作しながら答えようとした、その時。

不意に周囲に冷たい空気が走った。

「くっ……止まって、真紅眼の黒竜!」
「……遅い」

黒竜の進行方向に一人の男性の姿があった。
空中に男性が佇んでいるのも何ではあるが、それ以前に男の相貌がロシアの元大統領現首相のモノである事に二人が気付くとほぼ同時に。
その男……女プーチン書き手は迫り来る黒竜へと右手を地面と水平に振るう。


閃光が走ったかのような一撃で、真紅眼の黒竜の首が飛ばされ、手綱を取る伝道者の胸元にも一筋の裂傷が走り、血が噴き出した。
頭部を失った黒竜はカードに戻るべく徐々に姿を消していくが、これまでの加速から来る慣性から
甲賀騎兵と伝道者は女プーチン書き手の後方、大阪の地に広がる旅の扉へと吸い込まれるように落下していく。


「私とした事が、仕留め損ないましたか」
チ、と舌打ちをして女プーチン書き手は呟く。
本来ならば今の一閃で黒竜と後ろの二人の頭部と胴体を一気に切り離すつもりだったのだけれども。
騎英の手綱で黒竜が強化されていた分楯となって、乗り手二人へのダメージは軽くなってしまっていたようだ。

「だが、これもまたバトルロワイヤルというものだな」
苦笑を浮かべて女プーチン書き手は腕を組んだ。
次の獲物が近づいてくるのを待ちながら。




【一日目・早朝】
【現在位置・新フィールドへ】

【甲賀騎兵ひぐらし@オールロワ】
【状態】ダメージ(中)疲労(小)
【装備】王者の剣@ニコロワ、バタフライナイフ@オールロワ、DMカード(真紅眼の黒竜)(召喚中)@ニコロワ、騎英の手綱、月天弓@○ロワ
【道具】支給品一式×2、不明支給品0~1
【思考】基本:自分が好きな作品の布教を行う
    1:芸人的戦闘の伝道者に引き続き布教する
    2:話を聞いてくれそうな参加者を捜す
    3:邪魔する参加者には容赦しない
※外見は金髪のキリコ=キュービィ@装甲騎兵ボトムズです

【芸人的戦闘の伝道者@芸人ロワ】
【状態】ダメージ(大)
【装備】丸太@動物ロワ、世界樹の葉@ニコロワ、村正@お笑いバトルロワイアル(2002年版芸人ロワ)
【持物】支給品一式
【思考】基本:???
    1:???
※外見はネプチューンの原田泰造です
※甲賀騎兵ひぐらしの布教により、バジリスクに関して多少の知識を得ました



【一日目・早朝/奈良と大阪の境目】

【女プーチン書き手@カオスロワ】
【状態】健康
【装備】暗殺用針@カオスロワ
【道具】支給品一式×3、キング・クリムゾンのDISC@漫画ロワ、CD-ROM、ののワさん@ニコロワβ、
不明支給品0~5
【思考】
基本:参加者をズガン、大量虐殺する
1:時間ギリギリまで大阪へ向かおうとする参加者をズガンする
※外見はウラジーミル・プーチン@ムダヅモ無き改革です。


黒竜が飛び去り、静寂を取り戻した三重県某所。
木々が茂る中で青き鬱のエレメントは地面に仰向けになって荒い呼吸を繰り返していた。
その姿はシュリケンジャーに変身する前の初雪のモノに戻っている。

――これがバトルロワイアル、か。

声に出さずに呟いて、エレメントは息を吐き出した。
ほんの戯れで仕掛けてみたつもりが、脇腹に深い傷を負ってほうぼうの体で逃げ出す体たらくぶり。
不死の薬で傷は手当てできたし瞳術の影響も抜けてきたように思えるけれども、シュリケンジャーへの変身の反動もあって
エレメントはまだもうしばらくはこのままは動けそうもなかった。
とはいえ、まもなくこのミニチュア日本は崩壊する訳で、何とかそこまでには動けるようにならないと行けないのだけれども。


「そこの人、どうなさいましたか?」

ふと聞こえるのは凛とした声。
返事をするのが億劫だったのと返事をしたくても出来ない状況が相まって口を閉ざしたままで居るエレメントの元に
下草を書きわけて声の主が歩み寄ってくる。

「……そなたは、何者だ」
足音がエレメントの間近で止まり、降ってくる声は強張ったモノに変わった。
「何故そなたは私の姿をしている」
「………………」
エレメントの傍らに立ち、覗き込んでくるのは本来エレメントが尾行するつもりであったオリロワの書き手である初雪。
彼からすれば自分と姿格好が同じ者が寝そべっているとあれば警戒してしまうのも当然といえようか。

そして誰かの姿に変装する者が一番ピンチに陥るのが本物と出会った今のような状況である。
先ほど名乗った夜明けのイエローの名を出しても初雪の警戒は解けないであろう。

「そなたは……私の道を塞ぐ輩か?」
「違う。私は……」
「違うものか。そなたは私を殺そうとしているな」
詭弁を弄して見たところで、相手に聞き入る姿勢がなければ意味もない。
エレメントの言葉を遮って初雪はデイパックからさつまいもを取りだした。

「私は殺される訳にはいかないのだ。何をやってでも生き延びるとあの人と約束した」
ブツブツと呟きながら初雪はさつまいもを握りしめると。


エレメントの首へと振り下ろした。







【青き鬱のエレメント@戦隊ロワ  死亡】



【一日目・早朝/三重県】

【初雪@オリジナルキャラ・バトルロワイアル
【状態】全身に軽い痣(不死の薬の効果は切れました)
【装備】さつまいも@テイルズロワ、折れた格さんの日本刀@オールロワ
【持物】基本支給品、不明支給品0~1
【思考】
基本:悪を滅ぼし、弱きものを助く
1・こびへつらってでも生き残り主催者の隙を突いて討つ
2・自己防衛は全力でする。
3・殺し合いに乗っている者はできるなら始末し、弱いものは保護する
※外見は桃色の着物を着た少女、声はロアルド・アムンゼンです
※どうみても少女ですが成人男性です

時系列順で読む


投下順で読む


絶対運命ハルマゲドン 甲賀騎兵ひぐらし  ?
絶対運命ハルマゲドン 芸人的戦闘の伝道者 君のような人材を求めていたんだ! (弟子的な意味で)
暗殺でしょでしょ!?(書き手ロワ3編) 女プーチン書き手 大阪はいつもズガンのちGuu!
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最終更新:2009年06月27日 21:05
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