「こう見えても私、逃げ足だけは自信あるのよね……!」
京都の街中を猛スピードで走る
逃走王子。
碁盤目になった京都の道を右に左に。
狭い路地をも駆け抜ける。
走ってる途中戦闘機のような爆音を聞いたような気もするが、そんなことは無視してひたすら走る。
小一時間以上は走り回っただろうか、追ってである神父服の青年――
【勇気】ハーグの姿は見えなかった。
誤解フラグで死ぬなってまっぴらだと彼女はほっと一息つく。
もっともハーグは逃走王子を保護しようと追いかけていたのだが、彼女はそれを知る由もない。
「撒いたと思って後ろ振り返ったらそこにいる――なんてオチはなしだからね……」
ぱっと素早く振り向いた逃走王子。
誰もいない無人の通りが広がっている。
月だけが闇に閉ざされた古都を青白く染め上げていた。
「……夜の京都って、何か不気味だわ……こんなに都会のはずなのに」
普段なら多くの車や人が行き交う交差点。
それが今や人っ子一人いない無人の街。
なのに信号機だけがいつもと同じように青黄赤と明滅を繰り返していた。
他の大都市とは違った雰囲気を持つ京都の街並み。
さすが千年王都と呼ばれるだけあっていたるところに寺や神社が立ち並ぶ。
先の戦争でも空襲に遭わず。文化遺産を数多く残す古都の空気。
街が発展し、街並みが変わっていってもその底に佇む空気は千年たっても同じ物だった。
ゆえに千年に渡り澱んでいる『闇』もそこに息を潜めている。
京都に蠢く人ならざる存在。
この街は大昔から魑魅魍魎や怨霊と隣り合わせに存在してきた。
文明が発展し、21世紀になっても街に澱んだ闇は変わらない。
肌寒く、重苦しい空気がどんよりと京都市全体を覆ってるように逃走王子は思えた。
「そういえばここどこかしら……」
逃走王子は近くにあった道案内の標識を見上げる。
東に見える公園らしき施設……二条城と言うらしい、そして西に御所。
今のいる位置は京都を南北に貫く主用道路の一つ堀川通だった。
すぐそばのバス亭にも『二条城前』と書かれている。
どうやらこの場所は二条城で間違いないようだった。
余談だがこの二条城、戦国時代の足利将軍が自らを暗殺しようと来た刺客に対し、
古今東西の名刀を何本も畳に突き刺し、刃こぼれしたり折れた刀を次々と取り替えつつ刺客を向かえ討ったと
さながらアンリミテッドブレードワークスのような光景が行われた場所でもある。
とまあそんなことはどうでも良いとして。
逃走王子は追跡者から隠れつつ一休みでもしようと二条城の敷地に入ろうとしたその時。
「黒井せんせーーーー!」
と、背後で黄色い少女らしき声が聞こえてきた。
■ ■ ■
「ひぃっ!」
予想もしなかった声の出現に驚く逃走王子。
もしかしてさっきの神父?
いや、そんなはずはない、声の主は少女だ。それに黒井先生と言った。
誰なんだろう……と逃走王子は振り返る。
振り返った先、道路を挟んだ向かい側の歩道で小柄な少女が手を振っていた。
桜色のセーラー服、青く長い髪とアホ毛。
逃走王子も良く知っているキャラ、泉こなたその人だった。
こなたの姿をした少女は、ちょこちょこと小走りにこちらに近づいてきた。
どこの書き手だろう……と逃走王子は考える。
最近始まったらきロワはもちろんアニ2、
漫画ロワ、
ニコロワ、カオスとらき☆すたキャラは数多くのロワに参加している。
一見しただけではどこのロワの人間かは解らない。
(こなたの姿をした書き手か……)
ふとアニ2の地球破壊爆弾の姿を思い浮かべる。
確かにあの人もこなただった。正確には『こなたの姿を取れるアーカード』なのだがその辺はどうでもいい。
逃走王子は目の前の少女を凝視する。
どっからどう見ても泉こなただ。デイバックを提げ、腰には長めの直剣を携えている。
本物と違う所を挙げるとすると瞳の色だった。
オリジナルがエメラルドの様な翠の色に対して彼女はルビーの様に真紅の色。それぐらいの違いだった。
(まあ、私も亀仙流の胴着を着た黒井ななこだから人の事は言えないんだけど)
じっと少女を見つめる逃走王子。
少女は小首をかしげながら口を開いた。
「んー? どしたの黒井せんせー?」
「あ、ああ……ごめん、ちょっとぼーっとしてて。というか私、黒井ななこの姿をしてるだけなんだけど」
「やだなぁ、そんなことわかってるよっ。ほら、同じらきすたキャラ同士なんだし、ねっ」
少女はにぱっと笑う。
その表情に逃走王子も警戒心が薄れてゆく。
「あの……私、オールロワ書き手の逃走王子です」
「逃走王子さんと言うんだねっ。私は――」
ずんっと胸に鈍い衝撃と熱い痛みが走るのを逃走王子は感じた。
喉の奥から錆びた鉄のような味がする液体が溢れ口内を満たしてゆく。
「あ……かはっ……」
手を伸ばす少女には青い刀身の剣が握られている。
だけどその剣の刀身は全体の長さの半分ぐらいしか逃走王子の目には見えない。
残りの半分はどこに?
痛みがより鮮明に脳を刺激する。
剣の残り半分は逃走王子の身体深く沈み込み、背中を貫通して赤く血塗られた刀身を外気に晒していた。
ずるりと剣が引き抜かれる。
少女は血で染まった剣を振り上げると今度は袈裟懸けに逃走王子を切りつける。
ぱぁっと血飛沫が大量に噴き出し少女の顔に飛び散る。
少女は顔に付いた血を手で拭うと恍惚とした表情で手に付いた血を舐めていた。
「ん~贄の血には劣るけど、それでも及第点の味だねっ。黒井先生っ、いや逃走王子」
「が……っ、どうし、て……!」
仰向けに倒れ信じられない表情で目の前の少女を見上げる逃走王子。
月の光が逆光になって少女の顔はよく見えない。
なのにその二つの瞳だけが血のように赤く輝いていた。
「あのさぁ、らき☆すたキャラ同士ってだけで味方と思ったの? 甘いねぇ……チョココロネより甘いよぉ……きひひ」
「その、笑い方……まさ、か」
「自己紹介がまだだったね。私の名前は
ブッチギリ平野。らきロワの書き手だよっ」
姿や口調こそ泉こなたであるが、その特徴的な笑い声。
歯軋りのような耳障りな声の持ち主のキャラは一人しかいない。
「か……神(笑)……」
「あははっHALと言って欲しいねぇ。まあ、こなたの姿でラッキーだったよ。ハルヒの姿だったら神(笑)の可能性もあるから警戒されちゃうからね」
「そ、ん……な」
「で、案の定君が釣れたってわけw」
にたにたと哂う平野。
逃走王子は必死に起き上がろうとするも出血がひどくまともに身体が動かない。
「私、今お腹空いてるんだよね。さっき極上の食べ物にありつけたんだけど、逃げられちゃったんだ」
こいつは何を言っているんだと朦朧とする意識の中逃走王子は思う。
平野は少女とは思えない力で彼女の胸倉を掴み上半身を持ち上げる。
「さぁっディナータイムの時間だよっ☆」
口を大きく開ける平野。
その口内に生えそろった鋭い牙。
平野は逃走王子の首筋に乱暴に齧りついた。
「あ、ごっ……ぼ、げが……ぐ、ぎ」
血を啜るだけとは到底思えない勢いで牙を突き立てる。
食い込んだ牙が肉を抉り骨にまで到達する。
それでも平野はさらに顎に力を入れてゆく。
ぎちぎちと骨が軋む音。
やがてごきっと嫌な音を立てて逃走王子の身体が地面に落ちる。
平野の両手には食いちぎられた逃走王子の頭部が握り締められていた。
「あっごめーん、やり過ぎちゃったねっ。でも私はもう一人の私と違って死体を食い散らかすような下品な事はしないから安心してね!」
そう言って平野は逃走王子の首を身体のそばに添えて置く。
月に照らされた奇怪なオブジェ、材料は人の身体。
「あーあ。服が汚れちゃった。さすがにこの姿だと怪しまれちゃうよねぇ……なにかないかな~」
自分のデイバッグにはアイスソード以外に目ぼしい支給品は入ってはいなかった。
平野は落ちている逃走王子のデイバックを漁る。
「おお、これはっ!? って今の私からしたら微妙な服だねぇ……まるで嫌がらせだよ」
デイバックから出てきたのは北高の女子制服だった。
微妙な気分を抱きながら平野はそれに腕を通す。
血で染まった元の稜桜学園の制服は持っていても仕方ないのでその辺に捨てておくことにした。
平野は他にも何かないかと探したが結局服以外は何も入ってはいなかった。
「結構シケてるね……まっいっか」
腹も膨れ二条城を後にする平野。
その時――
『頼む、この放送を聞いた者達よ! 知らせてくれ、広く誰もが助かるように』
頭の中に直接響く男の声。
否、頭の中に響くだけではない。街に設置されたスピーカー、街頭テレビ、家電量販店のテレビやラジオにパソコン。
街中の全ての音響機器からもその声は聞こえてくる。
彼の声は旅の扉の場所を告げ、決死の叫びを伝えて来た。
――死ぬな、殺すな、諦めるな!
平野はその声を冷ややかな表情で聞いていた。
少しだけ嘲りの表情も見せながら。
「あらら、誰だか知らないけどこれは見事な死亡フラグだねぇ」
どこの誰だか知らないけどご苦労様。
旅の扉の位置だけはありがたく聞いておくよ、とひとりごちる。
「しかし……今の演説……」
平野には引っ掛かる物があった。
音響機器を利用した電波ジャックもそうだがそれ以上に頭の中に直接響く声。
おそらく全参加者に彼の声は聞こえているはず。
彼女はそう思った。
なぜか、それと同じイベントを平野は知っているからだ。
彼女はらきロワの書き手であると同時に
ギャルゲロワ2の書き手でもある。
それはギャルゲロワ2のとある作品内で行われていた。
「あいつと同じくギャルゲの連中が自ら書いた話の出来事を再現できるのなら……あの人の仕業だねぇ……」
くつくつと哂う平野。
これで埼玉には旅の扉を求め参加者が集結するだろう。
そして殺し合いはますます加速する。
「埼玉か……京都からはさすがに遠いなぁ」
しかし……本当に旅の扉は一つだけなのだろうか?
参加者は日本全国に分散している。
もしかしたら地方ごとに旅の扉が存在していてもおかしくはない。
関東には埼玉。
大都市に近い場所に旅の扉があるかもしれない。
なら近畿地方はどこだ?
大阪か京都か神戸かそのあたりだろう。
「ま、どうでもいっか。私は一人でも多く鬱グロ展開にするだけだからねっ☆」
【逃走王子@オールロワ 死亡】
【一日目 早朝/京都府京都市・二条城東大手門前】
【ブッチギリ平野@らきロワ】
【状態】健康、吸血鬼、贄の血の摂取より強化中
【装備】アイスソード@らき☆ロワ 北高女子制服@涼宮ハルヒの憂鬱
【持ち物】支給品一式
【思考】
基本:鬱グロ展開のために殺し合いに乗る
1:お腹一杯だよっ☆
2:こなたの姿って結構便利かも
【備考】
※姿は泉こなたですが瞳の色は赤です。
※地球破壊爆弾の能力、ソードカトラス投影を使用できます。
弾数は無限ですが体力を消費します。
※逃走王子の死体のそばに血で汚れた陵桜学園の制服と逃走王子のデイバッグが放置されています。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年05月27日 09:48