氏は、同一の人物を祖とし、祭祀する集団の
名号(よびな)。
『説文解字』は、
巴蜀にて山の山腹に着いてまさに崩落しようとする箇所を
氏といい、これが崩れると数百里に渡って響き、その音の象形文字とする。
『説文解字注』の段玉裁は、氏の本字は「是」であるとし、
姓は上に於いて統べる者なり。氏は下に於いて別つ者なり。是は分別の詞なり。
とする。
白川静氏は、「字統」において、氏は
宗族の共餐にて用いられる肉切りナイフの象形文字であるとし、
そのとき氏族の長老が犠牲を割き、共餐の儀礼は氏の上の司会によって行われる。氏はその儀礼に用いられる肉を裂く刀であり、氏族の象徴たるものであった。
とする。
漢代の伝統的な考えでは、
姓が、人の生まれによって定まり
天子より賜った百の類別(
百家姓)であるのに対して、
氏は、人の功績有徳を示すものだとされた。『白虎通』は、
氏を有する所以は何か? 功德を貴び、伎力(技能勇力)を賤しむ所以である。或いはその官を氏とし、或いはその事を氏とする。その氏を聞けば即ち、その徳を知るべく、人の善を為すを努める所以なり。
とする。氏は、天下や天子に対して挙げた功績の内容によって下賜されるものだった。
応劭の『風俗通義』は姓には九種の氏の類別があるとする。
蓋し姓に九有り。或いは
号(国号)を氏とす。或いは
謚を氏とす。或いは
爵を氏とす。或いは国(封国)を氏とす。或いは官を氏とす。或いは
字を氏とす。或いは居を氏とす。或いは事を氏とす。或いは職を氏とす。
号を以ってするは、唐・虞・夏・殷である。
謚を以ってするは、戴・武・宣・穆である。
爵を以ってするは、王・公・侯・伯である。
國を以ってするは、齊・魯・宋・衛である。
官を以ってするは、司馬・司徒・司寇・司空・司城である。
字を以ってするは、伯・仲・叔・季である。
居を以ってするは、城・郭・園・池である。
事を以ってするは、巫・卜・陶・匠である。
職を以ってするは、三烏・五鹿・青牛・白馬である。
『春秋左氏伝』隠公八年が、
これ(諸侯)に土を胙い、而してこれに氏を命ず。
とするように、氏は
姓と同じく天子に賜るものとされたが、『史記』注「世本」が、
姓を言うに、則ち上に在り、氏を言うに、則ち下に在り。
といい、段玉裁が氏を「分別」と解釈したように、姓が
生来不変の
先天の性質を示すものであるのに対して、氏は出生後に分岐した
後天の性質を表すものであった。しかし、命名の基準がまったく異なる二者であるから、「同姓異氏」が存在したと同時に、「異姓同氏」も生まれた。後天の氏が同じであっても、姓が異なれば
同姓不婚は適用されなかった。
ただし、現代の遺伝学的な先天/後天とは異なり、祖先によって獲得されたこの
後天の性質は、子孫に受け継がれるものと意識された(「その氏を聞けば即ち、その徳を知るべし」)。同じ
郷里に住む同氏の人々は、
宗族を構成し、
宗廟を祭って結束を維持し、家風を継いで誇りとした。
参考文献
所属項目(タグ)
関連項目・人物
「項目名を入力」をタグに含むページは1つもありません。
-
最終更新:2016年03月01日 16:38