船頭多くして、船山昇る ◆F0cKheEiqE
旅籠「やませみ」の二階の一室に、6人の男女が集まっていた。
ガラスの無い窓枠に、腰を下ろしているのは、
薄汚い黒い紋付きの、総髪の牢人。
上記の如くナリは汚いが、顔立ちは中々整った精悍な顔だ。
具体的に言うと役所…ゲフンゲフン!
壁を背に、やや部屋の隅に座っているのは、
これまた特異な容貌をした男だった。
年のころは三十ほど。色は白く、背は高い方だが、
一番眼を引くのは、顔に落書きのように刻まれた無数の刀傷だ。
合戦や立ち合いの向こう傷、でもこうはならないだろうと言う、
異様な面貌をしていた。
最後の一人は座敷の中央近くに座っている優男だ。
赤毛の総髪で、背も低く、まるで少女の様な優しげな風貌をしており、
一見すると剣も握ったことないような青瓢箪さえ見える。
しかし頬には明らかに刀傷だと思われる十字傷があり、
また何気ない立ち居振る舞いにはまるで隙がなく、
尋常ならざる達人であることを感じさせる。
彼の眼前には地図と名簿が広げられており、
さらにそれを囲むようにして三人の見目麗しい少女が三人座っている。
何れも年若く美しい少女で、芯の強そうな凛々しい顔立ちの
その身を包む服装は、
小袖、道着、唐人風の珍しい装束と各々バラバラだが、
何故か皆一様に髪留めで長い髪を後ろで一つの纏める、
俗に言うポニーテールの髪型をしていた。
小袖、道着の二人は、何処か似かよった雰囲気をしており、
「剣術小町」といった言葉を連想させる。
一人だけ服装の文化圏が明らかに異なる唐人服風の少女は、
まるで鳥の羽根を思わせる奇妙な耳飾りを着けている。
…実は耳飾りでなく、直接生えているのだが、回りでその事に気が付いている者はいない。
彼、彼女達6人がいるこの旅籠の一室は、今や奇妙な空気が充満していた。
険悪な空気…という感じでは無い。
何か訳のわからないモヤモヤが、6人の脳髄を満たすのみならず、
頭からモクモクと湧き出て部屋を満たしている、と言った感じだ。
その証拠に、誰しもが口をへの字に曲げて難しい顔をしていた。
はてさてどうしてこうなってしまったのか。
◆
剣心は当初、初事情で気絶して寝込んでいたのだが、
ようやく覚醒して、すわ、情報の交換をしようと言う所であった。
二人は旅籠の二階にいたのだが、ひと剣心が、
何者かが旅籠に近づいてくる気配を感じ取った。
窓からこっそり覗いてみると、
「薫殿!」
「剣心!」
映画などだと別れた男女は容易に再会出来ないのがお約束だが、
何とまあ、互いの探し人がこうもあっさり見つかってしまうとは。
すぐに旅籠の一階で再会を喜ぶ二人。
二人の間柄は知らねど、素直に一緒になって喜ぶさな子。
この時、さな子が少しでも二人の背後の不気味なスカーフェイスに気を配れば、
その挙動が明らかにおかしかった事に気が付けたのだが、
幸か不幸か、それに気が付く事は無かった。
閑話休題、再会を一通り喜んだ、
神谷薫と剣心、そしてさな子と、
一人不気味な沈黙を守っていた傷男、
座波間左衛門の四人は、ゆっくり情報を交換しつつ、
今後の方針について話合おうと再び二階に上がった所で、再度一階に降りる羽目になった。
今宵は千客万来、旅籠の主人のいないが御気の毒、
さらなる二人の来訪者、
センゴクこと牢人、
久慈慎之介と、
エヴェンクルガの武士、
トウカの来訪であった。
◆
幸い、腹に一物ある者も一人いるものの、
『今のところは』6人のうち誰一人として殺し合いに乗っている者はいなかった。
取り敢えず今だ状況がよく解らぬ6人は、
兎に角一室に集まって仲良く情報交換と行こうと思ったのだが…
所がどっこい、ここで一行は暗礁に乗り上げてしまった。
何せ剣心、薫は同時代とは言え、
座波は寛永初期、さな子は幕末、千石は江戸中期、
トウカに至っては、人の世が一旦崩れた後の遠未来(本人は知らないが)とくれば、
話が噛み合う筈もない。
「座波さんにも言ったけど、この人別帖だけど、まるで信用できないわ」
「同感にござる」
「全くだ」
「
宮本武蔵とか、
塚原卜伝とか、終いには
柳生十兵衛とか
坂本龍馬とか…
死んでる人ばっかりじゃない!」
「ちょっと、龍馬さんを勝手に殺さないで欲しいわ」
「はて、十兵衛殿は、あの白州の但馬殿と同じく御存命だったと思うが…」
「「へっ!?」」
(ん・・・・何か妙な流れになってきやがったぞ・・・)
(某、全然話しについていけない…)
「じゃ、桃香さんの知り合いはこの“朧”って人一人なの?」
「左様…それ以外はまるで…」
「コイツは蝦夷の出身だからな。わからんのも仕方ねぇだろう」
「やーねー、蝦夷なんて…ちゃんと北海道っていいなさいよ」
「あん!?何だそりゃ?」
「ちょっと!?蝦夷が北海道に改称されて何年たったと…」
「何ですそれ?私もまるで知らないわよそんな事!?」
「おろ?」
「蝦夷っつたら蝦夷だろ。ほら松前の領地の」
「はて、蝦夷と言えば蠣崎殿の…」
「「「「はあっ!?」」」」
「むっ!?」
(某、またも置いてきぼり)
「えっ!?じゃあ、あの白州の人が柳生但馬だって言うの!」
「うむ、間違い御座らん」
「ちょっと待て。流石に冗談がきついぞ。今何時だとおもってる」
「そうよ今は明治11年よ!」
「はいっ!?今は安政でしょう!?」「待たれい、今は寛永でござろう」
「えっ?」「むっ?」「はいっ?」「おろろ?」
「ああんっ?…どうなってんだ一体…」
(某・・・)
とまあ、上の如く、
結局話はまるで纏まらず、6人はみんな黙りこくってしまった。
そして話の冒頭に戻る。
◆
結局6人は各々考え込んでしまったのだが、
内4人、剣心、薫、トウカ、さな子の4人は、
どうしてこうも話がこじれてしまっているか?
というただ一点について考えていた。
一方、4人の輪から少し外れた二人の男衆は、
少し4人と別の事を考えていた。
◆
(はてさてどうしたものか・・・)
座波間左衛門は考えていた。
しかし、その思考内容は4人とはまるで違った物だった。
この自分の歪んだ欲望にとても忠実な男は、
4人の美男美女をどうやって味わいつくすかという謀略に思考を巡らせていたのだ。
当初、思いのほか早く済んだ剣心、薫の再会に、
剣心が修羅道から立ち直った話などもはや欲望の奔流に吹き飛んで、
いざ、思い人を恋人の前で斬ってくれん、と間左衛門は臍を固めたのだが、
ここで予期せぬ事態が起こる。
薫の思い人、緋村剣心が、思いのほか美しかったのだ。
凛々しい美貌の薫に対し、少女の様な柔らかな美貌の剣心。
とてもではないが、かつて修羅道にあったとは信じられない、
可憐な美『少年』ではないか!?
間左衛門は剣心を美少年だと思い込んでいた。
恐らくそんな彼が剣心の実年齢を聞いたら飛びあがるだろうが、
そんな事は今はどうでもいい。
兎に角重要なのは、剣心が美しいと言う事だ。
しかも彼好みの、柔らかな美貌である。
間左衛門の狼狽は、遅れて出てきた千葉さな子を見たことで頂点に達した。
薫一人でも我慢するのが苦痛な美少女なのに、
それに剣心、さな子を加えて三人…
もはや両手に花と言うレベルではない。
間左衛門は必死で、己の体を貫く欲望の濁流を抑えなくてはならなかった。
間左衛門は改めて、美しい美男美女に眼をやる。
自分達に遅れて旅籠にトウカと千石が来た時は、
余計な邪魔が増えたと思ったが、はたしてトウカも彼好みの美少女であった時は、
彼は一瞬天にも昇る高揚感を覚えた。
(ああっ!今にでも斬られたい、斬られたい!しかし…)
今はまだ駄目だ。いかに自分の腕でも、一度に相手出来るのは一人が限度。
特に、剣心は恐るべき使い手。じっくりと腰を据えて、一人ずつ料理していかねば…
(と、なると)
チラリと、流し目で窓枠に腰かけ、外を見るムサい男に眼をやる。
(邪魔な奴…速い事始末したいが)
こちらの視線に気が付いたか、ジロリと此方に顔を向ける千石。
間左衛門は慌てて視線を四人の方へ戻した。
(クソッ!抜け目のない奴よ。しかしそれ故に尚更…)
厄介者は出来るだけ早く始末したい。
間左衛門の脳内で、千石を如何に効率よく葬るかの算段が、
現われては消え、現われては消えた。
◆
(気味の悪い野郎だ…何か不埒なこと考えてやがるな…)
視線に気が付き眼をやれば、すぐに逸らしてしまった間左衛門に、
千石は内心で毒づく。
この不気味な傷達磨。一見紳士面しているが、
その腹で何を考えているか解った物では無い。
最初にトウカを見たとき、その目つきが尋常で無かったのを、
千石は見逃してはいなかったのだ。
(緋村の野郎も何か感づいてるみたいだったが…とにかく目が離せねぇな)
千石は他人に対するぶっきらぼうな対応が目立つが、女には意外と優しいのだ。
この不気味なスケベ親父から、あの花の様な娘たちを守ってやらねば鳴るまいと、
意外とお節介焼きな千石は一肌脱ぐ覚悟を決める。
しかし、間左衛門の怪しさに気が付いた千石も、
その異常性と、馬鹿げた欲望の本質にまでは気がつけて居なかった。
それが彼の運命にどう作用するかは、まだ解らなかった。
【はノ伍 旅籠の二階/一日目/黎明】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】健康 全身に軽度の打撲、混乱、座波に不信感?
【装備】斬鉄剣@ルパン三世
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:何が何だか解らない
二:座波殿の視線が気になるが…
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※京都編での傷は全て完治されています。
※座波の異常性に少し感づいているようです
【千葉さな子@史実】
【状態】健康、混乱
【装備】物干し竿@Fate/stay night
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いはしないけど、腕試しはしたいかも。
一:何が何だか解らない
二:龍馬さんや敬助さんや甲子太郎さんを見つける。
【備考】
二十歳手前頃からの参加です。
【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】健康、混乱
【装備】「正義」の扇子@暴れん坊将軍
【道具】支給品一式
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
一:何がどーなってんのよ!
二:人は殺さない。
三:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
※人別帖は確認しました
【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:健康、決意 混乱
【装備】:打刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:某、浮いているのでは?
【座波間左衛門@駿河御前試合】
【状態】健康、極度の興奮(抑えている)
【装備】童子切安綱
【道具】支給品一式
【思考】基本:殺し合いの場で快楽を味わい尽くす。優勝してきぬと再戦するも一興。
一:この4人、どうやってしゃぶり尽くすか…
二:千石を早く始末したい
三:剣心と活人剣についての興味と、薫を斬る事への僅かな躊躇と不安。
※原作死亡後からの参戦です。
※過去の剣豪は自分と同じく本物だと確信しています。
※
犬坂毛野、川添珠姫、
沖田総司の姿を白州の場で目にしています。
【久慈慎之介@三匹が斬る!】
【状態】:健康、座波に不信感
【装備】:木刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:試合には積極的に乗らない
一:この傷達磨、妙な真似しやがったら…
二:柳生宗矩を見つけたらぶっ殺す
【備考】
※トウカを蝦夷と勘違いしています
※人別帖の内容をまるで信用していません
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最終更新:2009年05月08日 22:32