とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part21

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― 制約と誓約 ―


「はい、完了」
「ん、ありがとな」

美琴は風呂場から退散した後、改めて制服に着替え、後から風呂場からジャージ姿で出てきた上条に包帯を巻いていた。
そして今、美琴は上条の肩から背中にかけての部分に包帯を巻き終えた。
ここまで範囲の広い作業はあまり経験がなかったため、途中手間取ったものの、そこは持ち前の器用さを発揮。
最終的には少し慣れている人が巻くくらいにまで上手く巻けるようにまでなっていた。

「ねえ、お腹すかない?何か作ってあげようか?」
「作るって言っても……わかってると思うけど、うちの冷蔵庫には何もないぞ?」
「それくらいわかってるっての。一年間いなかったのに何かあったら逆に怖いわよ。それに、外で食べるにしても時間的に混むだろうし、ないなら買ってくればいいでしょうが」

確かに美琴の言うとおり、今の時刻は19時になろうとしているところ。
世間一般では今の時刻あたりがレストランの客のはいりがピークに達する頃。
今から外に食べに行こうにも、混んでいるに決まっている。
そうわかっているのなら、わざわざ混んでいるところに飛び込むより、家で静かに食べる方が落ち着ける。
それに、上条の中にも一年ぶりに彼女の手料理を食べたいという思いもあった。

「えっと……じゃあお言葉に甘えさせてもらいます?」
「なんで疑問系なのよ……んじゃ何か買ってくるけど、適当なものでいいわよね?」
「ん?食うものそりゃ美琴が作るものなら何でもいいけどさ、買い物には俺も…」
「それはいいからケガ人は家で大人しくしてなさい!!……いいわね?」
「……はぃ」
「よろしい。それじゃあ行ってくるから」

美琴が怒鳴ったことですっかり萎縮している上条を置いて、美琴は身一つで上条の家を後にした。
残された上条はというと、ケガとは言っても、今回のものはいつもしているものに比べればてんで大したことはない。
処置もしたし、多少の痛みが伴うのを我慢すれば走ることだって、動き回ることだってできる。
体は元気そのものなのである。
さらに、単に手伝いからついていきたいと言ったわけではない。
風呂場で美琴の一年間で溜め込んでいた心の内の一部を聞き、しばらくはできるだけ彼女のそばにいなければという思いもあったからだ。
そういうこともあっての行動だったのだが、結果は予想に反して玉砕。
自惚れじゃなく、きっと美琴も一緒にいたいと思っていると思っていたから。

(そりゃあケガもしたけどよ、これくらい、お前のことを考えりゃどうってことないのに…)

結果的に一年間ほったらかしにしてしまったが、美琴が大事なことには変わりはない。
彼女に誓ったこと、ある男と約束したことだって破るつもりはない。
離れていたって、彼女のことはずっと考えていた。

(……?っと電話か)

そこで不意に家の電話が鳴り、上条の意識はそっちへと向かった。
なんで携帯にかけないのか、などと考えたが、今はそれは使えないことをすぐに思い出す。
のそっと、少し重く感じる体を動かし家の電話のある方へと動いていった。




19時過ぎ、とあるスーパー

「んー、適当にって言ったけど、何がいいかしら。あまりに適当すぎるのはなんとなく私が嫌だしなぁ…」

買い物に出かけると上条の家から出て行った美琴は、彼の家の近くにあるスーパーで何を作るかを考えていた。
時間も買い物をするには少し遅めであったからか、スーパーにいる客は疎らで、夕方や昼時のような活気はない。
そんなスーパーに美琴は今いるのだが、品物を前にうなっているだけであった。

「じゃああいつが好きなものでも…って何だろ?……ヤバ、私よく考えてみればあいつの好み知らないじゃん。……あぁこれって彼女失格なのかな…」

いやそんなことはないと、もう一度頑張って思い出してみようともするが、やはり何も思いつかない。
今までのことを思い出せばとも思ったが、いつも彼は自分が作る料理は全て等しく美味しそうに食べていた。
どれが嫌い、どれが好物などの類のことは何一つ言っていなかった。
貧乏してると好き嫌いがなくなるなどということを聞いたことはある気はする。
なら適当にと言ったし、時間もないので今回だけはと思い、試しに目の前にある豚肉を手に取ってみる。
豚肉一つをとってみても、男が好きそうな料理はいくつかは思いつく。
だが果たしてそれを上条も美味しいと言ってくれるのか。
恐らく言うだろう。

(あいつは食べ物ならなんでも美味しいって言いそうな気がする…)

実際問題そうだろうし、特に自分が作ったものなら経験上、有無を言わずにほぼ確実に美味しいと言うだろう。
それは作る側としては喜ばしいことだし、作りがいもあるのでいいことのはずなのだが、美琴にはあまり面白くない。
だからと言って好き嫌いばかりされても、それはそれで嫌なのだが…

「……お姉様?」
「んー?あっ…」

お姉様。
それは自分の名前ではないし他人のことを言っているのかもしれないが、そんな風にと呼んでくる人物が数人(実質的には約一万人)いるので声のしたほうへ反射的に顔を向ける。
その人物を見て、どうやら自分のこと指してお姉様と言ってきたことを理解する。

「黒子じゃない、どうしたのよ?こんなところで」

夕食を何にするかで悩んでいた美琴に声をかけた人物。
それは赤毛のツインテールが特徴で、風紀委員をしている常盤台中学の後輩、白井黒子であった。
彼女はもちろん今も美琴が以前住んでいた常盤台の女子寮に住んでおり、そこからここまでは少し立ち寄るにしては距離がある。
だからこその美琴の疑問。

「お姉様こそ…って、そういえばここはお姉様が選んだ高校の学生寮の近辺でしたわね」
「そうよ」

美琴の学生寮も上条と同じ高校ということで、ここの近辺にある。
それはまた男子学生寮とも近いことになるのだが、そこは敢えて言わない。
彼を信用したとは言え、彼の家の場所を教えるのは万が一自分と彼に何かあり、それが黒子が猛るようなことがあった場合、些か面倒なことになる。
それに、そうでなくても彼を絶対に襲撃しないとも言い切れない。

「私は見ての通り風紀委員の仕事をしておりますの。決して夜遊びというわけではないのでご心配なさらず」

常盤台女子寮には厳しい寮監がおり、特別な用事がない限り、門限破りをすると厳しい罰則を与えられる。
美琴はそれの常習犯的ななのもあって、門限破りの大変さは重々承知している。
だから黒子がそれをしているのではないかということも美琴は少し心配したのだが、それはいらぬ心配だったらしい。

「風紀委員の仕事って…何かの事件でも起きてるの?」
「いえ、違いますわ。今回はただ落とし物を探すのを手伝ってほしいという依頼に駆り出されてるだけですの」
「落とし物?何よそれ?」
「……どうやら、その依頼主はこの近辺で財布を落としたようですの」
「あぁ…」

風紀委員の仕事と一概に言っても、グラビトン事件のような大きなものから、街の清掃や道案内といったとても小さいものまで大小様々だ。
大抵彼女が一枚絡んでいる風紀委員の仕事はその中でも大きい方の事件が多いように思うが、今回の彼女の一件は十分小さいものの一つらしい。
そういう正直どうでもいいような仕事がある風紀委員を、美琴は心底面倒だと思う。
正味な話、それくらい自分でしろよとも言いたくなってくる。

「相変わらず風紀委員は大変ねぇ…」
「まぁ、これも仕事ですから仕方ないのはわかっているのですけど、確かにこういうのはやってて少し嫌になりますわね…」

黒子は多少うんざりしたような表情を作って、少しため息をつく。

「……ところで、そういうお姉様は何故ここへ?」
「へ?そりゃあこんなところですることなんて買い物くらいしかないでしょ?」
「まぁ、そうなのですけど…」

食い入るように黒子は美琴ににじり寄り、ジロジロと美琴を隈無く観察し始める。

「な、なによ。そんなに私が買い物するのがおかしい?」
「……お姉様、上条さんは帰ってきたのですか?」
「ふぇ!?な、なななんで!?」
「その様子を見る限り帰ってきたようですのね」

自分と上条の関係についてほぼ全て知り尽くしている黒子に対して、別段これは隠し立てするようなことではない。
むしろ諸手をあげて真っ先に教えにいってもいいくらいだ。
それをいきなり話題を振られたためか、ついどもってしまった。

「お姉様の雰囲気が以前のものに戻ったように感じましたので、もしかしたらと思ったのですが……お姉様、よかったですわね…」
「ぁぅ……あ、ありがとう。そ、そんなに雰囲気変わってたかな?」
「あの頃のお姉様は目も当てられない程でしたのよ?特にここ一月は…」

少し顔に影を浮かべ、黒子は少し辛そうに呟いた。
彼女が言うここ一月に何があったか。
それは上条との連絡が途絶えた日からの時間。
確かにここ一月の自分は、自分でも酷かったと思う。
黒子にはもちろん、佐天さんや初春さんといった他の後輩にも心配をかけ過ぎた。
もう少ししっかりしてればなとも今になって思うが、それは恐らく夢物語。
もう一度同じ状況になれば、ほぼ間違いなく同じことを繰り返すだろうから。

「本当に、心配かけたわね。…でも、もう大丈夫。心配しないで」

今出来うる限りの笑顔をつくって、心配してくれていた黒子に応える。
それを見て黒子も安心したのか、さっきまでとはまた違った優しげな笑顔を見せ、

「……私の願いはお姉様の幸せですので、お姉様が今幸せならそれでいいんですの」
「黒子…」

やっぱり、彼女はよくできた後輩だ。
あんなに心配してくれていたのに加えて、今は自分と上条の仲を祝福さえしてくれる。
かつて彼とは(一方的に)いがみ合っていたのに関わらず。
少し、と言うか、かなり変わった性格なのが玉にきずだが、自分にはもったいないくらいの、後輩。

「何はともあれ、さっそくお姉様にそんな辛い思いをさせたあの類人猿には当然の報いを受けてもらわなければ…」
「黒子!」
「冗談ですの。……天誅を下したいというのは本当ですけども」
「そんなことしたらその天誅を下したアンタに今度は私から天誅が下ることになるけど、それでいいわね?」

数瞬前に考えたことを撤回したくなるような彼女の発言。
本当、こういうことには苦労する。
よくも悪くも自分に関しては見境がなくなってしまう。

「だから、冗談だと言ってるじゃありませんの……それでは、どうやらここに目的の物はないようですので、名残惜しいですが私はこれで」
「帰ると見せかけて、アイツを襲撃したら本当に怒るからね」
「何度もしないと言ってますのに……その嫉妬深さはどうにかした方がいいと思いますわよ?」
「余計なお世話よ!」

それだけ言って、黒子はスーパーを出て行った。
世話焼きだからなのか、善意からとわかっていてもやたらと注意ばかりしてくるのはやはりたまらない。

「全く、アンタは私の保護者じゃないっつの」

でも、同時にありがたくも思う。
ここまで注意してくれるのは好かれている証拠。
それに、今や超能力者となっている自分に対して注意なんてしてくる友人なんて、上条を除けば彼女くらいのもの。
他は友人と言える人達でさえ引け目を感じてか、そういったことは全く言ってこない。
だから、たとえ疎ましく思っても、そういうことを気軽に言ってきてくれる彼女の存在は本当に大切。
彼とどちらが大切か、なんて馬鹿げた質問。
どっちも比べられないくらい大切。

「って、さっさと買ってかないと待たせちゃうわね。……色々悩んでたけど、結果的に本当に適当になりそう……まぁ、仕方ないか」

美琴はとりあえず適当に目の前にある豚肉を手に取り、他の食材を求めてまたスーパーの中を歩き出した。




19時半前、男子学生寮前

「もうこんな時間かぁ……大分待たせちゃったけど、大丈夫かな…」

美琴が買い物に出かけてからここに帰ってくるまで約30分。
そう考えれば決して長い買い物でもない。
さらに、いつもの彼女の買い物に比べれば格段に短いとも言える。
美琴自身も、普段なら30分くらい買い物で待たせても何とも思わないのだが、その待たせている相手は何と言っても上条当麻。
一年間ぶりに再会した美琴の恋人。
今は彼と一緒にいる時間は一秒でも大切にしたいのが本心。
そんなことなら買い物も一緒に行けばよかったじゃないか、などと思うかもしれないが、それはそれ。
美琴だって本当のことを言えば、彼と一緒に買い物に行きたかった。
しかし、彼との時間が大切なのと同様に、彼の体もまた大切なのだ。
彼の怪我の状態は確かに重くはないとはいえ、無茶は禁物。
本当に彼のことを案じているのなら、あの判断は当然の判断と言えよう。

「……とにかく早く戻ろ」

美琴は片手に食材の入ったスーパーの袋を下げ、少し小走りでエントランスを過ぎてエレベーターへと乗った。
一年前からの相も変わらずのザル警備に、オンボロのエレベーター。
流石にここまでくると逆に愛着すら湧いてくる。
そしてそのエレベーターで七階まで上り、突き当たりの彼の部屋の前まで歩いていく。

(……?あれ?なんか中から声が…?)

確か今部屋の中には彼一人だけのはず。
中から声がするということは、その彼が声を出しているしかない。

(ひとりごと…?まさかね)

ひとりごとでここまで微かに聞こえてくるってどれだけなのよと思いつつ、内容を聞き取ろうとドアに耳をあてる。
もしなんか変なことを言っていたなら後で言ってやろうと思ったからだ。

「ぅん?―――おぉ―――だったのか、それで?―――なるほど」
(あぁもう、やっぱりところどころしか聞こえない…)
「―――わかった、じゃあ―――なんだな?」
(……ここまで聞いてる感じではこれは明らかにひとりごとじゃないわね。誰かと電話かな?)
「―――あぁ、―――は大丈夫だ。明日、―――に行くよ」
(…………ぇ?)

他にも少し声を聞いてみると、ひとりごとにしては会話が成り立ちすぎている。
恐らく誰かと電話しているのだろうか。
それならそれでいい。
携帯はたとえ使えなくても、家の電話を使えばなんとかなる。
だが、問題なのはその内容。

(で、でも、どこかってのは聞き取れなかったけど……確かに、どこかに行くって言った…)

行くと一概に言っても、行き場は様々だ。
近所の誰かのところかもしれないし、学校かもしれない。
もしかしたら、また"外"という可能性もないことはない。

(っ!!)

その考えに行き着いた瞬間、目が見開いた。
必ずしもそうとは決まってはいないのに、可能性も捨てきれないことは問題。
思い返せば、別に彼はもうずっと学園都市にいるとは言ってない。
仕事は終わった風な感じはにおわせていたが、近い内にまた離れるかもしれない。
単に、たまたま今日学園都市に帰ってきただけなのかもしれない。
どれもこれもが美琴の想像で、あくまでも可能性のお話。
実はないかもしれないお話。
それは恐らく可能性の低いだろう話。
だが、美琴は今までの状況が状況なだけに、どこか"外"に行ってしまうように思えた。
それは、美琴にとって一番あってほしくない場合の話なのにかかわらず。

(いや…それは絶対にいや!!)

これからも彼とはずっと一緒にいたいのに、再会したばっかなのに、またすぐに離れてしまう。
そんなことは絶対にあってほしくない。
前回は許しても、今回ばかりは許せそうにない。
たとえ彼が何と言ってこようとも、絶対に引き留める。
それが彼の意志に反しても、偶には私の願いをきいてくれたって…
今までも自分でも驚くくらい、またしろと言われても耐えきれないくらいの我慢はした。
そんな自分の、どうしようもないくらい身勝手なわがままを言ったって、罰は当たるまい。
気がつけばドアノブへと手をかけていた。
そして手をかけたドアノブをまわし、彼がいる部屋へと押し入った。

「―――当麻!」


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