とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part23-1

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―制約と誓約―


同日22時頃

「ふーっ……とりあえず勝手にお風呂入っちゃったけど、よかったわよね?」

一通りの後片付けを終え、彼も起きてこず、手持ち無沙汰となったのでこの部屋の主には無断で勝手にお風呂に入った。
今は眠っている彼は、背中の血を拭いた後にシャワーを浴びていたようなので恐らく大丈夫だろうとたかをくくった故の行動。
何にせよ、今日かいた嫌な汗を洗い流したかった。

「ってか普通に服も借りちゃったけど……ま、まぁこれも多分いいわよね。前も貸してくれたわけだし…」

今美琴が着てるのは下は以前泊まった時に着たジャージで、上は彼の男物のワイシャツ。
ワイシャツはぶかぶかで、なんとも不格好と言わざるをえない格好であるが、上の以前着たジャージは何故だかなかったので仕方ない。

「にしてもこいつ、全然起きないわね」

余程疲れているのだろうか、彼は依然として気持ち良さそうに寝息をたてて眠っている。
別にこのまま明日まで寝かせててもいいのだが、ベッドにもたれかかったまま寝ては恐らく明日に彼の体が悲鳴をあげる。
せめてベッドで寝るように説得するため、一度は起こさなければならない。
試しに彼の頬を数回つついてみる。

「……起きない」

彼は特にこれといった反応も示さず、そのまま眠っている。
今度は彼の頬をはたいて、声をかけてみる。
うーんと少し反応こそしたものの、目を空けてくる様子は特に見られない。

「はぁ……どうしよう」

思いっきりはたく、彼の体に電気を少し流してやる等のことをすれば起きるだろうか。
そんな考えが脳裏をよぎったが、それは却下。
寝ているとは言え、今彼に手荒なマネをするのは少し気がひける。
ではどうすればよいか。
数分考えても、やはり手荒なマネ以外に確実に起こす方法は思いつかない。
こうなれば、恐らく、いやほぼ間違いなく起きないだろうが、一つの作成を決行してみる。
彼にかけてあるかけ布団の端を奪い、彼が眠る布団に潜り込む。
そしてごそごそと布団の中で動いて、彼の隣にきたところで顔をだし、彼にもたれかかるようにして座ると、彼の寝顔を覗き込みながら、

「ねぇ、当麻…」

今まででもだしたことのないくらいの、

「起きないと、イタズラしちゃうぞ?」

柄にもなく、媚びたような甘い声で、そう囁いた。
その後、少し彼を隣で観察してみる。
どうせ起きないだろうと思っての行動だったので、起きることに関しては大した期待はしていない。
ただ、ほんの少したけやってみたかったという気持ちから起こした行動なので、既に少し満足になってたりする。
正直こんな行動、それだけの雰囲気が漂ってるか、こういう彼の意識がないときくらいしか恥ずかしくてできない。
それに自分の問題以外に、彼は常識の範囲内で甘えることは許してくれても、それこそベタベタに甘えることは、そういうことされると理性がなんとかなどと彼が言って、させてくれない可能性がある。
だから、こういう時に少し媚びてみるように甘えてみる。

「まぁ、やっぱり起きないわよ…ね?」

彼の顔を少し観察してて、さっきまでとは明らかに違うという違和感を感じた。
まずさっきまで気持ち良さそうにたてていた寝息を、たてていない。
そしてこれまた気持ち良さそうにしていた寝顔は少し眉を歪めて、曇っている。
心なしか、汗もかいてるきがする。

「ちょっとアンタ……実はもう起きてるでしょ?」

ほぼ確信をもった問いに対して、彼は小刻みに首を横に振った。
こんな馬鹿げた反応をして、人を馬鹿にしてるのかと思う。

「いつから起きてたの?さっき?まぁそれはないか。どちらにしろ、いつから起きてたの?」
「…………」
「…………五つ数えるからそれまでに起きなかったらお仕置きね。五、四、三、二、」
「わーー!!すいませんすいませんすいませんでした!!」

今まで寝ていた彼が飛び起き、バチバチと激しく音をたてて頭からだしていた電気は頭に彼の右手をのせられて防がれる。
無論、放電はあくまでも威嚇用で、実際に放つつもりはなかった。
本当に起きてこなかった場合、それはそれで別のことをするつもりだった。

「……で、いつから起きてたわけ?」
「……お前にほっぺたはたかれて、起きろーって言われた時。まだ少し眠たかったから目はあまり開けなかったけど、その時くらいからうっすらと意識はあった。……んで、段々意識がはっきりしてきた時に、お前が…」
「じゃあ起きてたならたとえ眠くても起きてるって言いなさい!!もう!!」
「それでなくても人の寝込みを襲おうとするとか、どんだげっ!!??」
「うるさい!!」

絶対寝ていると思っていての行動。
彼には絶対聞かれないと思っていての行動。
それなのに実は彼は起きていて、彼は自分のとった行動を知っている。

(うぅ……は、恥ずかしすぎる…)

彼とは今までそれなりの数のスキンシップをはかっている。
晴れて彼と結ばれたときは30分だけという制約のもとでベタベタに彼に甘え、ちょうど一年前で言えば公衆の面前で抱きしめたり、キスしたり。
今日という一日で言えば、風呂場で裸の彼に後ろから抱きついたり、彼の肩のあたりに痕をつけたり。
そして流石に彼は気づいていなかったと思うが、さっきは寝ている彼の頬と額にキスをした。
そのどれもこれもが決して恥ずかしくなかったわけではない。
一年前の空港での行動は状況がイレギュラー過ぎたというのも絡んでいるが、むしろ恥ずかしいと感じてる比重の方が大きかったりもする。
自分から平気でベタベタしていたバレンタインの時でさえ、羞恥の気持ちが全くないわけではなかった。
それだけの羞恥を感じているのに、さっきとった行動を彼に知られたとあれば、恥ずかしくないはずがない。
なるべくして顔全体、というか体中が熱くなり、今の自分は真っ赤だというのがわかる。
あまりの恥ずかしさに、思わず彼と自分にかけていた布団を奪い、その布団にくるまって隠れる。

「美琴さーん。そんな布団にくるまってないで、でておいでー」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!全部アンタが悪いのよ!!」
「お、おーい」
「ちょっとアンタは黙っててて!」
「はぁ……仕方ねぇな」
「…?っ!きゃあ!」

彼がため息をついたかと思うと、彼に布団をつかまれ、やや強引に布団を剥ぎ取られてしまった。
急に自分を隠す役割を担っていた布団がなくなり、少し涙目で真っ赤になった自分が露わになる。

「ちょっと何すんのよ!返しなさい!」
「いや、返したらお前また布団に……っておい!」
「……?ど、どうしたのよ」

口をパクパクとさせながら、自分を指差して彼はそのまま固まる。
その彼の行動に疑問をもって自分の今の格好を見るが、多少ワイシャツの胸元が申し訳程度にはだけている以外には、特にこれといった問題点はないように思われる。
強いて言うなら想像通り体が少し赤くなってるくらい。
胸元も申し訳程度にはだけているとは言え、鎖骨の辺りが露わになっているだけで、胸そのものは全く見えない。
一体今の自分の何がいけないのか。

「な、なんかおかしいところでも…?」
「お、お、お前!なにさも当然のように俺の服着てんだよ!?しかもワイシャツだしちょっと胸元はだけてるし!」
「だって今日泊まる予定だし。それにこのワイシャツに関しては、前着た上のジャージがなかったんだから仕方ないじゃない」

本来以前泊まった時と同様のジャージを着る予定ではあったが、前述の通り見当たらず、他にめぼしいものもなかったのでワイシャツを着てみた。
確かに自分でもこれは不格好とは思うものの、彼以外の誰かに見せるわけではない。
しかも寝るときのためだけなので、多少の不格好さはご愛嬌。
ここから自分の本来の住居の女子寮は近く、とりに行くという選択肢もあるにはあるが、それはそれで面倒。

「と、泊まる予定って俺の許可も無しに……まぁお前のことだからダメと言っても帰らないだろうからいいとしてだ」

そこで彼は一旦言葉を切る。
気のせいか心なし赤くなっている顔でチラチラとこちらを見て、

「その格好、下はいいけど上はどうにかならないか?今日着てたシャツを着るとか」
「汗かいたし汚れてるから嫌。というかこの上のジャージはないの?前泊まった時に着たやつ」
「あー、その上のジャージは向こうにもってって色々あって着れない状態なんです……俺のシャツも今はあまり替えがないからだめだし、参ったな…」

困った、と額に指をあてて何やら考えをひねりだしているようにみえる。
そしてさっきからたまにちらりとこちらを見てきたと思えば、今度は明後日の方向に視線を向けたりと、何かと挙動不審。
何故だか彼はこちらを直視してこない。
そもそも何故彼がそこまでワイシャツが嫌がるなのか。
学校があって、それに着ていくからというのならわかる。
だが彼の通う高校の制服は学ランで、ワイシャツなど着るはずがない。
かと言って普段から頻繁に着ているわけでもなく、明日着れないからといった理由はあるとは思えない。

「あのさ、なんで私がワイシャツ着てちゃダメなの?なんか理由でもあるの?」

だから思い切って聞いてみることにした。
何故、自分がこれを着るのがダメなのか。

「別にダメじゃないけどよ。何と言いますか……刺激が些か強いと言いますか…」
「……は?最後のあたりがボソボソ言い過ぎて何言ってるか聞こえないんだけど」
「いや、だから……だぁー!ってかそんなことはどうでもいいじゃねえか!!」
「……ふーん、そういうこと言うんだ」
「な、なんだよその意味ありげな言葉は」

彼にはこの一年間でこれ以上ないくらい苦しめられた。
これだけの苦難があったのだから、約一年前の恐らく一生忘れることはないであろう日に、偶にならという条件の下で約束したアレを執行する。

「じゃあ今日一日は私のすること言うことにはなんでも従って。抵抗もくちごたえも無しね」
「はぁ!?なんだそのむちゃくちゃな条件は!いきなりそんなの聞くわけないだろ!」
「私が告白した約一年前のバレンタインの日に、アンタは言ったわよね?"私が望むなら、偶になら何でも言うこと聞いてやる"って。忘れたとは言わせないわよ」
「バレンタインの日…?……!!」
「思い出した?」

バレンタインの日に一体何があったのか、今でも鮮明に覚えてる。
頑張って一緒に遊ぼうと彼を誘って、チョコを作って、疑似デートをして、今ではもうなくてはならないネックレスを買って、そして、告白をした。
"始めは"彼に振られてしまった。
それも半ば嫌いとまで言われて。
だけどそれは実は嘘で、最終的にはちゃんと受け入れてくれた。
初めてのキスはその時にした。
そこまででも信じられないことの連続で、その時点でもかなり夢見心地な気分だったのを今でも覚えてる。
それなのに、何を血迷ったのか、自分は一度振られた腹いせに、あることを申し出た。
30分間、自分の言うことすることには全て無抵抗でくちごたえも無し、と。
状況が状況で、彼はその時は渋々ながらも了承してくれた。
その30分間で自分が彼にしたことは、間違いなく一年間経った今でも恥ずかしくなるくらい、今までで一番の甘えっぷりだったと思う。
約束の時間が経ってしまった時は少し寂しかったが、そんな少し落ち込んでいた自分に言った言葉がさっきの言葉。
若干の改訂はしてあるものの、大意は何も間違えていない。
要はそういうこと。
あれから一年以上経っているが、それを発動した時は一度としてない。
そこにこれまでの自分に対する仕打ち。
今その約束を発動して、彼と言い争いになったとしても、負ける気は全くない。
むしろ負ける要因が何も見当たらない。

「……認めたくねぇが、確かにそんなことを言ったような気はします…」
「でしょ?というわけで、今日一日の間は……いや、これまでのことを考えたら明日一日も加えようかな?」
「ちょっと待て!それは流石に酷すぎやしませんか!?」
「……ちょっと今から10秒だけこの一年間の私のことを考えてみて」
「は、はぁ?」

そう言って彼は目を閉じ、自分は10秒を数える。

「……9、10。はい、何かご不満でもあれば何でも言ってみなさい?」
「……全て私、上条当麻が悪かったです。今までとんだご無礼を…」
「わかればいいのよ」

彼は顔を真っ青にして、まるで殿様か何かに謁見する平民を思わせるような土下座で自分の前にあっさり屈する。
それを言われれば、上条は自分に抵抗できる気が全くしないだろう。
彼だって自分のしたことの重大さがわからないほど馬鹿でもないはず。

「……で?なんでなの?」
「は?」
「だ・か・ら!結局私がこれを着るのがダメな理由が何なのかって話よ!」
「やはり言わないとダメなんですか…」
「当たり前じゃない」

彼はもうこれ以上はと観念したためか、はぁとため息をつき、

「健全な男子高校生たる上条さんにはあなた様のそのお姿はまぶしすぎてまともに見れないってことです!」
「……えっと、意味わかんないんだけど」
「要するにお前のその格好が、その……色っぽいっつー話だよ!」
「……ふ、ふーん」

色っぽい、彼には今までを通して初めて言われた気がする。
今までの彼は何かにつけて自分を子供扱いしたりしていた。
それは決して自分を女の子扱いしていないというわけではなく、大切にしたいからとか、そういう類の話。
だから、そういう雰囲気になりそうになったとしても、彼は必ずそれを打ち砕く。
それは大切にしてくれるという意味では大変嬉しいのだが、反面、悲しくなる時もある。
自分には彼を十分惹きつけるだけの魅力が無いのだろうかと。
だから彼の今の言葉もまた恥ずかしいと思う反面、嬉しかったりもする。

「だから、そういうわけなんで……って美琴さん!?」
「なんかさー初めて当麻から女の子として褒められた気がして、嬉しくって…」

そして体が勝手に動いた。
嬉しかったのを表現したかったのか、彼が戸惑っているのでこの機に乗じようと悪戯心が芽生えたのか。
とにかく体は彼のところに向かい、彼を抱きしめていた。

「さ、先ほどのお話は聞いてたんでしょうか!?」
「もちろん聞いてたわよ?だだなんでだろうね、体が勝手に動いちゃってさー。とにかくこれ私の意思じゃないのよねぇ」
「じゃあ美琴さんの意思で早く離れてくれると嬉しいのですが…!」
「それは嫌。第一、アンタは私のすることには一切抵抗しちゃダメだし」

やっぱり彼の体はあったかい。
心地よくて、安心できて、思わず独り占めしたくなるほどに。
いや、すでに誰のものでもなく、自分のものか。
自分のしるしだってついてるし、ネックレスだってつけている。
そう考えられてしまうのはなんだか幸せすぎてくすぐったい。
そういう物に依るもの以外にも、こうしているとより一層そう感じられる。
最早自分の顔は自分でもわかるほどに緩んでいた。

「……うにゅ」
「……できたら、上条さんが理性を保てるくらいに手加減してくれるとっ!?」

彼が何やら言ってきたので、その口を塞いだ。
彼の声は大好きで、聞いてても飽きず、いつもならどれだけでも聞いていたいような声。
けれども今この時だけは彼の声は少しだけ邪魔。
だからちょっとだけの間、黙ってもらうことにした。

「ん……今は、ちょっと黙ってて?」
「!!……おま、おま…っ!?」

やはり立ったままだと身長差があるため、主導権を握りにくい。
このままこの流れに乗ってしまい、彼の後ろにあるベッドに押し倒す。
急に倒してしまったのと、相も変わらず自分が抱きついていることが相まって、彼は大した受け身もとれずに倒された。
二人が一気に倒れたので、ギシギシとベッドのバネが軋む音が部屋中に響く。

「み、美琴さん!?」
「……?」
「うっ!」

名前を呼ばれたので彼の胸に埋もれていた顔を上げて、彼の目を見つめてみた。
彼の目には今のこの状況がどういう風に映ったのだろうか。
視線を自分からものすごいスピードで逸らし、抱きついているためわかるのだが、鼓動がとても速い。
これはドキドキしてくれているということだろうか。
もしそうならば純粋に嬉しい。
もっともっとドキドキさせてやりたくなる。
それはまた甘えられるという自分の欲求も満たされるから。

「当麻…?」
「な、なんだよ」
「…………好き」
「…………」

甘えた声で彼の名前を呼び、愛おしく彼にそう囁いた。
電気がついていて部屋は明るいため、視線を外してても彼の顔が赤くなるのがわかる。
今は大好きな彼にこうして抱きつくことができる。
彼に愛を囁くことだってできる。
これはこの一年間したくてしたくてたまらなかったことで、できなかったこと。
それが今こうして心置きなくできる幸せ。
夕方あたりに一度絶望の淵に蹴落とされているためか、余計に幸せに感じる。
だがそれ抜きでも今日は幸せなことが起きすぎているくらいだ。
起きすぎているから、これが実は夢でしたなんてオチがありそうで怖い。
これは夢?自分の都合の良い幻想?

「ねぇ当麻、右手で頭撫でてよ…」
「…?お、おう…」

彼にしては珍しく、彼はさっきからどもってばかりだ。
その反応が何故だかどうしようもなく可愛く思えてくる。
親バカならぬ、彼女バカだとでも言われても否定できない。
そしてもしこれが幻想なら、きっと彼の右手が全て壊してしまうはず。
だが彼の右手が頭の上にのっかって、頭を撫でられても一向に何かが変わる気配はない。
それが示すのはこれが幻想ではなく現実であること。
撫でられることで自分にもたらされたことは、安心と心地よさ、さらに幸福感。
これは間違いなく現実、夢なんかではない。
きっと今の自分は、彼以外の人間、特に自分を慕ってくれているような人達には絶対に見せられないほど緩みきっている。
普段の凛々しく、かっこいいとまで言われる自分とは対局の顔。
万が一こんなところを見られたら、失望されてしまうかもしれない。
それほどまでに今はとても幸せな気分。

「ふにゃー」
「お前は猫かっつーの。……にしても、本当に幸せそうだな?」
「だって当麻がいて、抱きしめて、撫でられてから。……とっても幸せよ?」

彼の問いに対して、緩んだ顔でできる限りの満面の笑みで応える。

(なんだこの可愛い生き物は……まぁ前にも同じ状況があったから驚かねえけどさ。にしても、この状況に、この美琴の状態。こりゃ理性保てってほうが難しいよなぁ…)

今なお彼の胸でゴロゴロしている美琴を見て、上条はそう思った。
彼女も自分で言っていたが、美琴はもう高校生。
上条が気にする倫理観の面では、ことにおよぶことに関してはクリアしてしまっている。
さらに今の彼女の抱擁に、風呂場での抱擁でも思っていたが、会わない内に確実に彼女は成長している。
まだ幼さが抜けきっていなかった顔は可愛い、というより綺麗になりつつある。
そして身体の方も未成熟だったあの頃とは異なり、でるとこはでて、引っ込むところは引っ込んできている。
元々中学生という枠組みでは色気のある方であったのに、それが今ではさらに拍車をかけてグッとくるほど。
だからと言って、彼女をそんな簡単にキズモノにしていいはずもない。

(結局は我慢、か……た、耐えるんだ、俺…)

心の中で上条はため息混じりにそう呟いた。
もっとも、もし彼女に対して不幸だなどと口にだして言おうものなら飛んできてほしくないものが飛んでくるので言わない。
あくまでも心の中での呟き。

「なーに考えてるの?」
「…………美琴のこと?」
「!!……も、もぅ…!」

それでも見破られたようだが、こんな時の対応だって上条は心得ている。
上条当麻は学習するのだ。
一度おかしたミスはできる限り次に持ち越さない。
そして美琴は照れたのか、また顔を上条の胸に埋めた。

「……ねぇ、当麻?」
「……なんでしょうか?」
「当麻は、今幸せ?」

美琴は今幸福感で満たされている。
それはそれで彼女にとってはとてもよいこと。
けれどもそれが独りよがりな幸せではダメなのだ。
二人が等しく幸せであって、それでようやく満足。
自分だけが幸せでも、彼が幸せではなければ素直に喜べない。

「もちろん、幸せだぞ?晩飯の時も言ったじゃねぇか。俺は美琴が彼女で幸せ者だって」
「それもそうなんだけどさ、それはそれ。今は?今はどうなの?」
「……この状況を幸せじゃないと言えば、色んなところから非難の嵐が巻き起こりますね。……ま、それ抜きでも幸せだよ」
「そっか……幸せ、か…」

やはり彼の口から直接聞くと、より一層嬉しく感じる。
そして、同じ状況で一つの同じ感情を共有できることもまた嬉しい。
これからも、こうやって同じ時を過ごして同じ感情を共有していきたい。
もぅ一人で時を過ごすのも、一人で悲しんだり辛い思いをするのは嫌だから。
辛い思いをするにしても、二人でなら必ず乗り越えられる。
彼がいるのといないのと、一人でやるのと二人でやるのとでは、生まれる結果は当然のように違う。


「もう、寝るか?なんか眠そうだけどさ」
「うーん…?」

彼は自分のことを見て眠そうだと言った。
確かに今日は朝から色々なことがありすぎたせいか、疲れはたまっているかもしれない。
恐らく彼を抱きしめ彼に包まれで、目を閉じて幸福感に浸っているところを見て、眠そうだと思ったのだろう。
けれども今はすぐに寝たいと思うほど眠くはなかった。
まだまだこの幸福感に浸って、彼に甘えていたいから。

「眠く、ない…」
「ならいいんだけどさ。なんかお前そのまま寝てきそうだし、そうなったら動けなくなるから電気消してもいいか?」
「あ、うん…わかった…」

それだけ言うと、一旦彼に預けていた体を動かし、抱擁をといてベッドの縁にちょこんと座る。
それに呼応して彼が起き上がると、電気のスイッチのある所へと真っ直ぐ向かっていき、スイッチをきった。
部屋の明かりは全て消え、部屋を照らすのは月明かりだけとなる。
ふと窓の外を覗いてみると、空は雲が所々に見られ、夜の光源となる月を覆い隠そうともするが、その状態は長くは続かない。
雲は流れ、月はまたその神々しい姿を露わにする。
月明かりは消して強くはない。
それでも部屋の窓際のあたりを照らす分には申し分ない強さ。

「今日は半月と満月の間くらいか?電気消した割に明るいな」

後ろからそんな声が聞こえた。
どうやら彼が戻ってきたらしい。

「そう…ね。上弦の月だから満月に近づいてってるとこかな」
「そっか、どおりで明るいわけだ」

電気は消えているものの、互いが互いの姿をはっきり見てとれる。
それほどまでに月は煌々と輝いている。

「星も見えたらもっといいのにね。まぁそれも学習都市じゃ無理か」
「まぁそうだろうな」

この辺りのところは暗いが、は学習都市全体でみれば明るいため、星は一等星や二等星クラスのものでないとはっきりは見えない。
科学が発展すれば人の生活は豊かになり、便利な世の中となるが、こういう自然のことに関しては失われてしまう部分もある。
科学の発展に犠牲はつきもの、とはよく言うが、それでもなくなってはいけないもの、なくなってほしくないものは存在する。
自然もその内の一つに入るだろう。
ふと、隣に気配を感じた。
彼が隣に座ってきたのだ。
座ってきた彼との間はほとんどなかったが、その間をさらにつめ、密着して彼の肩に頭をのせる。

「お前って、制限がなくなる時とかはやたらと積極的でベタベタしてくるよな。普段の時とか前の態度からは想像もつかねえ」
「………こんな私は、嫌?」
「………別に嫌じゃねえよ」
「よかった…」

少しだけ、甘えたがりの自分を拒絶されたらどうしようと思った。
これは彼にしか見せない態度。
逆に言えば彼に対してしか出すことができない自分。
彼に拒絶されたら、この感情をどこに向ければいいかわからなくなる。
嘗てのの自分ならば内に秘めておけたが、今はそうもいかない
だから自分から聞いておきながら、少しだけ怖かった。

「……俺は、短気で怒りっぽくて嫉妬深いお前も、優しくて後輩思いで俺と同じくらい自分を省みないお前も、そしてこうやって俺にベタベタに甘えてくるようなお前も、全部ひっくるめて御坂美琴という人間が好きなんだ。だから嫌じゃない、そんなわけがない」
「!!」

彼にそう言われて、驚くと同時に、本当に心が軽くなった。
彼はこんな自分も、どんな自分も好きだと言ってくれた、受け入れてくれた。
何も、怖がる必要などない。

「~~~っ!!もう!ばか!」
「どわっ!…お、お前!いい加減そのパターンやめろ!!」
「い~や~」

こうして自分の思うままに抱きつくことができること、それだけで十分幸せ。
自分の下で何やらドタバタと彼がもがいているが、もちろんそんなことは知らないし、気にするまでもない。
こうなったら今日と明日は自分が思うがままに彼を堪能しようと思う。
今日と明日はそれができるから。
そういうことができる約束だから。
この一年間分で溜まりに溜まった分を全て放出したい。
まだ何も聞いてないし許可もとってないけど、明日も泊まろうと思う。

「お前はガキか!」
「っていうかそもそも、今日と明日はずっと私の言うことすることには全て無抵抗って約束じゃない。なんか文句でも?」
「ぅぐっ…!」

これを彼に言えば彼は何も抵抗できない。
本当に便利な約束だ。

「今日と明日は私のものはもちろん私のものだけど、当麻のものも全部私のもの!」
「どこのジャイアニズムですか!?というかやっぱりそれ理不尽すぎやしませんか!?」
「そして、言うまでもなく…」
「……?な、何だよ…」

ニヤリと自分の下にいる彼に、悪戯っぽい笑みを向ける。
その笑みを向けられた彼は、ダラダラ額から汗を滲ませ、視線も落ち着いていない。
嫌な予感しかしない、といったところだろうか。
彼はどうせなら早く言えよと、彼は定まらない視線で訴えている気もするが、ここは彼が聞いてくるまで待ってみようと思う。
そして変わらずニヤニヤとした顔を彼に向けていると、

「…………そっちから言わないようなら、嫌な予感しかしねぇが敢えてこちらから聞こうじゃねぇか。言うまでもなくなんだよ!」

痺れを切らした彼が自分の希望通りのことを聞いてきた。

「ぅん、それはね…」

彼に向ける顔をいたって自然なものに戻し、彼の目を真っ直ぐ見据え、

「当麻ももちろん私のもの!!」
「はぁ!?っぐ!!??」

それだけ告げて、驚く彼の唇を強引に奪った。
口を塞いでから数秒の間は、彼は息苦しそうにされるがままの状態だったが、それも束の間。
握っていたはずの主導権もあっさりとられた。
自分が上だったはずなのに、いつの間にか自分は下になっていた。
こういう時、つくづく男はずるいと思う。
その体勢をとって少しすると、彼は離すまいとしていた自分の腕をやや強引に振りほどき、彼の熱はゆっくりと離れていった。
離れていった彼の顔は月明かり程度の明かりしかないこの部屋でもわかるほど赤い。
恐らく、自分も赤くなっているだろう。
顔、特に耳や頬のあたりがやけに熱い。

「はぁ…お前な…!」
「べ、別にいいじゃない。したかったんだから…」
「っ!?」
「あ、あとね。まだ言うことがあって…」
「……」

彼は何を言うでもなく黙っていた。
これまでの流れからおおよその予想がついたのかもしれない。
これは彼にとってはとても複雑。

「私も…当麻のものだよ?」
「………プチ」

その瞬間、上条当麻の中の何かが切れた…


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