とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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三人の長い一日~対決編~


時刻はいつの間にか午後7時を過ぎていた。辺りはもう随分暗くなってしまっているが、真っ暗というほどでもない。
そんな中、人気の無い川原で美琴と10039号は対峙している。その距離およそ25m。
当麻は二人の真ん中から10m程離れた土手で心配そうに二人の姿を見ている。

(さっきまであんなに仲良さそうにしてたのになんでこんな事になったんだ…)

先程までゲーセンで勝負勝負といいつつも笑顔を見せていた美琴と初めての経験に戸惑いながらも楽しんでいた10039号。
その二人が今、自分の目の前で激突しようとしている。

(何とかしてやりたいが…)

当麻は10039号を見る。
妹達の行動は本来なら止める必要も無い。彼女達がそれを望むなら影で支えていくのが自分達のすべき事だろう。
だが、ここは学園都市。数多くの能力者がいる都市で絶対に安全という保障はどこにもない。
特に自分や美琴の場合は闇の部分もよく知っている。だからこそ彼女達には少しでも危険な事をして欲しくないというのが正直な所だ。

(でも…)

力の有無なんて関係なく、目の前で困っている人がいたら助けたい、手を差し伸べたいと思うその気持ちが分かるからこそ彼もまた悩む。
今度は二人を交互に見る。辺りの空気は張り詰め、他人を寄せ付けない雰囲気が漂っているのを感じる。

(…今、俺があいつ等にしてやれる事は無い…か…)

苦しむ人々を幾度と無く救ってきたこの右手も、今は何の役にも立たない。その事に歯噛みし、右の拳をきつく握り締める当麻。
自分がどちらかに付いてしまえばこの戦いは避けられるかもしれない。だが、それをしてしまえば二人の絆に傷を付けてしまう可能性がある。
そう考えた彼は対峙する二人を見守る事にする。この戦いがどんな結末を迎えたとしても二人を支えていくという決意と共に。


一方、向き合う姉妹の間には緊張感が漂い、時間が経つにつれて、その表情は真剣な物に変わっていく。
それぞれがここに立つ理由を持っているからこそ二人は一歩も引かず、お互いを見据えたまま動かない。
しかし、両者にはレベル5とレベル3という圧倒的な実力差があり、単純に考えて美琴が本気を出してしまえば10039号に勝機はない。
それが分かっているから、10039号は先手を取る。

「…制限時間は5分、何でも有りの勝負でよろしいですか?とミサカは確認します」
「それでいいわ。…なんなら少しハンデあげてもいいわよ」

その実力差から、あまりにアンフェアな戦いだと感じた美琴は多少のハンデならと考え、10039号に申し出るのだが、彼女は首を横に振る。

「それは魅力的な申し出ですが遠慮しておきます、とミサカは情けは無用だということを伝えます。
 お姉様の電撃がミサカに当たった場合はその時点でミサカの敗北で構いません、とミサカは自らハードルを高くします」

10039号の言葉に目を見開き驚く美琴。本気で攻撃できない自分に気を使ってくれたのだろうか?と思う。
確かに『倒す』ではなく『当てる』だけで良いなら戦いやすい上、10039号に強力な電撃を当てる必要も無い。
どんな弱い電撃だろうと、とにかく当てれば良いのだから。その事に対して美琴は、

「万に一つも無いと思うけど、あんたが勝ったら何でも言う事聞いてあげるわよ」
「それは素敵な提案ですね、とミサカはお姉様の提案に奮起します」
「…恨んでくれても構わない、…私はあんた達には安全で平和な日々を送ってもらいたいだけなんだから」

美琴の言葉にピクリと少し反応した10039号。だが、それを振り払うように首を左右に振ると再び美琴を見つめる。

「それはミサカに勝ってから言ってください、とミサカはお姉様を挑発します。
 …勝負を始める前に少し準備がありますので時間をいただきます、とミサカはお姉様に少し待って欲しいことを伝えます」

10039号は二人に背を向ける。そして右手でおなかの辺りを押さえる仕草を見せると、大きく深呼吸する。
そして、おでこに着けていた軍用ゴーグルを下げて振り返ると、サブマシンガンを構える。
その様子を見ていた二人は気付く。10039号の纏っている空気が『変わった』事に。
迷いを微塵も感じさせないその姿からは『絶対に負けられない』という気迫がビリビリと伝わってくる。

(本気…なのね…。それだけ強い想いを持ってるって事か…)

普段は見せないその気迫に動揺を隠せない美琴。ここに来て『やめさせないと』『自由にさせたい』という相反する感情が迷いとなって表れる。

(…でもごめん。私はやっぱりあんた達には危険な事をしてほしくない…だから…止める―――!)

迷いを振り払った美琴と10039号が当麻を見ると準備が出来た事を手で合図する。そして、当麻が美琴から借りたコインを二人の中央に向かって高く投げる。
そのコインが地面に落ちた瞬間、美琴と妹達の真剣勝負はその幕を開ける―――

―――――――――――――

――――――

(先手必勝です―――!)

コインが落ちると同時に10039号は美琴に向かって真っ直ぐ走り出す。

(な!?正面から!?舐められたもん…ね!!)

5分間逃げればいい筈の彼女が開始と同時に正面から向かってきた事に少なからず驚く美琴。
バチィ!っと電撃を発生させた美琴は10039号の足元目掛けて槍を放つ。
だが、それを読んでいたかのように10039号はサッと横に飛んで回避する。
続けざまにバチ!バチィ!と足を狙って電撃を放つが左右に軽く飛ぶだけで回避されてしまう。

(なるほど、こっちの狙いはお見通しって事ね、ならこれはどうかしらね!)

ザァァっと地面から砂鉄が舞い上がり、10039号の前に壁を作る。
10039号がその足を止めると、そのまま砂鉄を制御し、彼女を砂鉄の檻に閉じ込める。
開始早々10039号はその動きを封じ込められてしまう事となった。

「さー捕まえた。それに触れると怪我するかもしれないからもう降参しなさい」
「まだまだ、この程度ではミサカは諦めませんよ、とミサカは降参の意思が無いことを告げます」

10039号の言葉を聞いた美琴の表情は曇る。

「…お願いだから降参して?私はあんたに怪我なんてしてほしくないの」

その言葉に俯き唇を噛み締める10039号。彼女は美琴の気持ちなんて最初から分かっている。
自分達の幸せを望んでくれている事も、その為にこうして止めようとしてくれている事も…
でも、それが分かっていてもここでやめるわけにはいかない。
10039号は顔を上げ、砂鉄の檻の中からゴーグル越しに美琴を真っ直ぐ見つめると、

「いつまでも守られるだけの存在ではいられません、確かにお姉様に比べればミサカは弱いです、足元にも及ばないでしょう。
 でも!それでも!お二人の過ごすこの世界を守りたいという気持ちは絶対に譲れないのです―――!!」
「!!」

バチィ!!叫ぶように放たれた言葉と同時に10039号が電気を発生させる。

(っ!私は…)

10039号の言葉を聞いた美琴は激しく動揺する。そしてその思考は混乱し、砂鉄の制御が大きく乱れる。
その隙を突き、砂鉄の檻に自分の電気を流して一部の制御を奪った10039号は檻から抜け出す。

(くっ…迷うな美琴…今は止める事に集中するのよ!)

先程の10039号の言葉を振り払うように首を振った美琴は前を見る。
すると、タタタタ!とサブマシンガンから弾丸を打ち出す10039号が見えた。
放たれた弾丸は2m程先の地面に数発打ち込まれ、更に頭上に向かって放たれる。

(これは…ゴム弾?それにこの軌道は…?)

足元に転がってきた弾丸がゴム製であることに気付き、その銃口の向きから当てる気は無いと直感したが狙いが分からない。
視線を戻すといつの間にか10m付近まで接近されている事に気付く。よく見ればその左手は強く握られ、帯電している。

(私を倒すつもりなの!?…これ以上は近寄らせない!)

電撃自体は当たってもダメージにはならない。だが先程のパンチ力を見る限り、左手とはいえ、直撃したら勝負が決まってしまう可能性がある。
接近戦は危険だと判断した美琴は砂鉄剣を作り出し、そのリーチの差で牽制しようと考える。
しかし、砂鉄剣を生み出す為に周囲の砂鉄を集め始めた瞬間、10039号は接近を止めるとバックステップで距離を取り始めた。

(もう下がっていく!?…時間稼ぎって事?)

あっさりと引き下がっていく彼女にますます混乱した美琴は出来上がったばかりの砂鉄剣を急遽霧散させる。
伸ばして襲うことも出来るが、それはあまりにも危険すぎると判断したからだ。
そして、少しずつ距離を取っていく彼女に向かって電撃を数発放つ。だが、威力を目一杯落としている事もあり、簡単に相殺されてしまう。

(くっ!もう少し威力を上げて…でも…!)

一撃入れれば勝ち―――その事が手加減をしている美琴の能力を更に制限する。今からでも威力を上げて行動不能に追い込むのは容易いかもしれない。
だが、出来ることなら無傷で決着をつけたいと思う彼女は迷ってしまう。

(まさか…こっちがハードルを上げられてたなんて……)

今更ながらあの時、10039号が放った言葉の真意に気付いた美琴だが、もう遅い。その迷いは決定的な隙を作る事になる。

(隙ありです―――)

バチィ!と10039号の全力の電撃が美琴に向かう。威力を上げるかで迷い、一瞬目を閉じてしまった彼女は反応が遅れる。

(くっ!)

バチィ!美琴が反射的に相殺しようと電撃を放つ。だが、電撃を放った瞬間に彼女は気がついた。
10039号の放った電撃は自分を狙った物ではなく、2m程横を通過する軌道を取っていた事に。

(なっ…嘘でしょ!?)

相殺を狙って放った電撃は、10039号の電撃に当たる事なく真っ直ぐ彼女に向かって行く。
あんな高出力の電撃が彼女に当たってしまえばただで済むはずがない。
目を見開き、自分の電撃の行方を追う美琴の顔からは血の気が引いていく。
――だが、その電撃の先、10039号との間に何か飛んでいる事に気付く。

(あれは…?…サブマシンガン!?)

美琴がそう気が付いた時、電撃はサブマシンガンに直撃する。更に一瞬遅れて10039号の電撃がそこに打ち込まれた。
すると、バチィィン!!っと言う甲高い音と共に美琴と10039号の電撃がぶつかった場所から眩い紫電の光が放たれる。
美琴は咄嗟に顔を逸らし、右手で前を覆う。同時に周囲の電磁波も乱れてしまい10039号の姿を完全に見失ってしまった。

(くっ、こんな事してくるなんて…でも良かった…何とかやり過ごしたみたいね…)

電撃を上手くやり過ごした事にひとまず安堵した美琴。
だが、おかしいとも思う。何故なら10039号が自身の最大の武器であるサブマシンガンを捨てたからだ。

(このタイミングでサブマシンガンを捨てたって事は、私が見失ってる内に勝負を決めに来るはず)

次の一手を予想した美琴は周囲に意識を散らしながら右手を除け、前を見る。

(何処から来――……え?)

目に飛び込んできた光景に思わず固ってしまう。
接近戦で自分を倒しに来ると予想していた彼女が予想に反して土手に移動していた上、当麻の後ろから腕を回して抱きついていたからだ。
そのあまりにも予想外の事態に口をパクパクさせていると、いつの間にかゴーグルを元の位置に戻した10039号が当麻の後ろからひょっこりと顔を覗かせる。

「勝負有りですね、とミサカは勝利宣言をします」
「…え?何?…どういう事?」
「心理戦という奴ですよ、とミサカはお義兄様に抱きつきつつ返答します」

実は距離を取り始めた10039号は徐々に当麻の方へ近づいていた。
そしてあの瞬間、美琴が見失った隙を突いて一気に接近し、当麻の後ろに回り込んでいたのだ。
美琴は状況が分からず、試しに雷撃の槍を放つと、当麻が右手でかき消す。

「おいぃ!いきなり撃ってくるなぁ!!」
「ひっ、怖いです、とミサカはわざとらしい悲鳴を上げつつ強くしがみついてみます」

そう言うと10039号はぎゅっと当麻の背中に隠れながらしがみつく。

「どわぁ!?こら!あんまり強く抱きつくなっての!?」

なんか柔らかいのが当たってるー!といった顔で10039号に抱きつかれている当麻だが、振りほどこうとはしていない。
そんな様子を見ていた美琴は俯くとブルブルと震え出した。

「…ふ…ふ……」
「み、美琴?」
「おや、限界のようですね、とミサカはお姉様の心境を冷静に分析してみます」

何やら言葉を発する美琴。バチィ!バチィ!っと強烈な空気を鳴らす音が辺りに響く。そして、その体は青白く浮かび上がり、髪の毛は逆立ち始めた。
二人はそんな彼女の様子を見てこれから自分達を襲うであろう事態に気付いてしまう。そして文字通り雷は落ちる…

「ふ・ざ・けんなぁぁぁあああ――――――!!!!!」
「どわぁぁああああ―――――!!!」

バチバチバチィィン!!と本気を出した美琴の電撃が次々と襲い掛かる。当麻は必死でかき消しているが、10039号がしがみついている所為で結構危ない。

「やめろー!死ぬ!死んじゃう!」
「お義兄様、しっかり守ってください、とミサカはお義兄様を鼓舞しつつも抱きつく手は緩めません」
「人が真剣にやってるっていうのに…何なのよアンタは――!!」
「離して!?右手が追いつかないー!!」
「お義兄様から離れたらミサカは消し炭になってしまいます!とミサカは生命の危機を感じている事を告げます!」
「うがぁぁああ!!いいから離れろやコラ――!!」

バチィ!バチィ!バチィィン!!っと連続攻撃の手を緩める気配の無い美琴。
散々その心を弄ばれた彼女は本気で怒ってしまったらしくもはやお手上げの二人は生き残る為に必死だ。
その猛攻をギリギリの所で耐えていると、ピピピ!ピピピ!と電子音が鳴る。…それは勝負が始まって5分たった合図だ。
その音を聞いた三人はピタリとその動きを止めると、

「…ミサカの勝利ですね、とミサカは勝ち誇ります」

当麻を開放した10039号はえっへんと胸を張ると勝利宣言をする。そんな彼女の姿に美琴は噛み付く。

「ちょっと!?おかしいでしょ!当麻を盾にするなんて卑怯よ!」
「ですから最初に『何でも有り』と確認したではありませんか、とミサカはしれっと言ってのけます」

美琴の言葉を素知らぬ顔で受け流す10039号。すると今度は当麻が驚いたように反応する。

「なにぃ!?じゃあ始めから俺を盾にするつもりだったのか!?」
「当然です、でなければこんな無謀な戦いはしません、とミサカはぶっちゃけてみます」

更に、前半は美琴を混乱させて隙を誘い、当麻という盾を手に入れるための動き。
そして無事盾を手に入れたら今度は美琴の冷静さを奪い、残り時間をやり過ごすという作戦を暴露する。
それを聞いた当麻は自分が戦闘に巻き込まれる…というか始めから10039号の作戦に組み込まれていた事実に唖然とし、
美琴はというと膝と両手を地面に付き、ガックリとうな垂れる。

「納得いかない…こんな…この私が始めから手の平で踊らされてたなんて…」

美琴にとって5分とは手加減しても余裕のはずだった。
だが、こうして終わってみれば10039号の言葉と動きに惑わされ、終始主導権を握られていたという事実にショックを受けているようだった。
と、そこに10039号が歩み寄る。

「…ミサカの力は大体分かってもらえたはずです、ミサカとしてはこのまま活動を続けたいと考えていますが、
 お姉様の意見を聞かせてください、とミサカはお姉様に聞いてみます」

自分の持つ頭脳と力を全て発揮して勝負には勝った。だが、それはあくまで限界まで手加減していた美琴だ。
もし、彼女が本気で戦っていたら10秒と持たなかった事くらい理解している。
だから、この戦いでおおよその実力を把握したであろう彼女に意見を求める。すると、美琴は顔を上げて言葉を発する。

「…勝負に勝ったあんたが何でそんな事聞くのよ?」

勝負に勝ったら活動を続ける。そう言った10039号が意見を聞いてきたことを不思議に思った美琴がそう返すと、

「勝敗などどうでもいいです。ミサカはお姉様の意見が聞きたいのです、とミサカは再度お姉様に聞いてみます」
「……」

真剣な眼差しで美琴を見つめる10039号。
美琴は10039号のその言葉を聞き、立ち上がると、自らの疑問を口にする。

「…ねぇ、あんたはさっき二人の過ごす世界を守りたいって言ったわよね?その為に風紀委員みたいなことをしてるの?」

美琴の心を大きく揺さぶったその言葉。その真意が知りたい彼女は真っ直ぐ10039号を見つめ返す。
そして、美琴の問いに首を傾げ考えるような仕草を見せる10039号。自分達が人助けをする理由…

「勿論それもありますが、最近それとは別に、ミサカの力で困ってる人が笑顔になるなら、それはとても素晴らしい事ではないのか?
 と思いましたのでああいった活動を続けています、とミサカはお姉様の問いに答えます」

10039号の言葉に目を瞑る美琴。彼女が迷う事無く立ち向かってきた理由、その強い想いの根源を知った美琴は目を開き、10039号を見据える。

「…分かった。じゃあ私からはもう何も言わないわ。でも危ない事だけはしないでね?
 もし危ないと思ったら遠慮なく私を呼んでよね?すぐに助けに行くから」

もし、自分達の為に危険な事をするのであれば突っぱねている所だった。
だが、10039号…いや、妹達の答えを聞いた美琴は胸が温かくなる感覚を得ると、その考えを尊重し見守ることを決意する。
それでも不安は残る。だから念のため釘を刺しておくと共に、妹達の後ろには自分が付いているという事を教える。
そしてその言葉を聞いた10039号はコクリと頷くと、

「約束します、とミサカはお姉様を真っ直ぐ見つめ返答します」

元々危険な事をするつもりは毛頭ないのだが、この戦いで自分達がどれほど大切に思われているか再認識した10039号はそう答える。
すると安心したかのように美琴が息を付く。

「…あんたはちゃんと自分の力を把握してるみたいだし、当麻みたいに無茶しないだろうから大丈夫だとは思うけどね」

先程の戦いと、昼間の動きを思い出した美琴はそう呟く。
先の戦いは褒められたものではなかったが、自分の勝利条件を満たすために組み立てられた戦術、
それを実行できる力、そして無闇に突っ込まずに相手の動きを冷静に分析していた事からそう結論付けた。
その美琴の言葉を聞いた10039号は当麻の方をチラッと一度見ると美琴に言葉を返す。

「当然です、怪我をして入院などしてしまっては元も子もないですから、とミサカはしょっちゅう入院していた誰かさんの事を思い出します。
 おや?ですがミサカは病院で生活していますので毎日入院している事になるのでしょうか?とミサカは混乱してみます」

首を傾げ、むむーっと唸り始めた10039号。その様子を見てふふっと笑う美琴。
…とそこに、今まで二人の様子を見守っていた当麻が近づいてきた。

「無事に終わったみたいだな。はぁ~…本当に心臓に悪かったんだぞ?」

心底安心した様子で息を付く当麻。

「心配かけてごめん。私もこの子の気持ちは分かってたんだけどね…」

当麻の言葉を聞いた美琴の顔には影が差し、そのまま俯いてしまう。

(馬鹿だなぁ…この子達の事を一番側で応援してあげなきゃいけなかった筈なのに…)

きっと妹達もそうして欲しかったのだろうと思う。だが彼女達の無事を願うあまり、その前に立ち塞がる事になってしまった。
それどころか、彼女達が新しく歩き始めた道を閉ざしてしまうところだった。そう考える美琴の表情はどんどん暗いものになっていく。
その時、美琴の頭の上にぽんと手が置かれた。そして、優しく声が掛けられる。

「仕方ないだろ?誰だって自分の大切な人には平和に過ごして欲しいと思うもんなんだから。
 それに、勝とうと思えばいつでも勝てたはずだ。それをしなかったのは…出来なかったのはあいつ等の気持ちを汲んでたからじゃないのか?」
「……」
「美琴は妹達の事を大切にしたかっただけなんだろ?それは決して悪いことじゃない。それに、あいつ等だって美琴の気持ちは分かってるはずだ。
 だからそんな顔してないで、あいつ等の行く道を見守ってやろうぜ?なっ?」
「…うん」

右手で頭をぽんぽんとしてくる当麻の言葉とその笑顔に心が軽くなった美琴は顔を上げて10039号を見る。
すると、二人のやり取りを少し羨ましそうに見ていた10039号と目が合う。

「ミサカを差し置いて目の前でいちゃいちゃするとは…見せ付けてくれますね、とミサカはちょっぴり寂しさを感じます。
 まあそれはいいとして、お二人がミサカの身を案じてくれるのは嬉しいのですが、ミサカはお二人を守れるくらい強くなりますよ、とミサカは目標を語ってみます」

胸を張り、自らの目標を語る10039号を見て、美琴はため息を一つ付く。

「…手に負えなくなりそうだから…それ以上強くならなくていいわ…」

やれやれといった感じで発した言葉に、少し笑いながら「そうだな」と言った当麻は「でもさ」と続ける。

「1万人のレベル5とかになったら凄いと思わないか?」
「おお、それはいいですね、とミサカはお義兄様の発言にノッてみます。1万人のレベル5…フフ…フフフ…」

残った妹達のレベル5移行計画を頭の中で展開する10039号は不気味に笑う。
その様子を見ていた二人は顔を見合わせ、笑みを零す。
暫くそうしていると、10039号がふと思い出したかのように美琴の顔を見る。

「そういえば、ミサカは見事勝利をもぎ取りましたので、お姉様に何を要求しましょうか、とミサカはお姉様に何をさせるか考えます」

その言葉にビクッと一度体を跳ねさせた美琴の額から冷や汗が流れる。

「うぐっ…忘れて無かったのね…。あんまり無茶な要求はしないでくれると助かるわ…」
「敗者は黙ってミサカのいう事を聞けばいいのです、とミサカはバッサリ切り捨てます」
「うぅぅ――――!」

敗者という言葉に唇を噛み締める美琴。悔しさと敗北感から再び膝を突いた彼女だったが、自分で言った手前撤回することも出来ない。
10039号は口元をニヤリと吊り上げると腕を組み、美琴を見下ろす。少しの間を置いて、では…と声を掛ける。
美琴はその言葉にゴクリ…と喉を鳴らす。この後、何を言われたとしても聞く以外に道は無い。
当麻絡みなら却下したい所だが、敗者の自分に拒否権は無い為、不安と恐怖でその表情は青ざめていく。だがそんな思考はすぐに解消される事となる。

「お義兄様とお姉様とミサカで『プリクラ』とやらを撮りに行きましょう、とミサカはお姉様に要求します」

そのあまりにも以外…というか普通の要求に暫く沈黙する美琴。そして目をパチパチさせると、

「……は?そんなんでいいの?」
「はい、とミサカは即答します。お二人と映っている写真等は持っていませんので欲しいのです、とミサカは要求の理由を述べます」

さあさあ早く、と言わんばかりに美琴を立ち上がらせると二人の手を取ってそのまま引きずる様に歩き出す。
10039号の要求に拍子抜けした美琴は薄く笑みを浮かべると、

「わかったから引っ張らないでよ!それと、当麻の手をさり気無く掴むのはやめなさいっての!」
「む、今日くらい良いではありま」「あんたの『今日くらい』は多いのよ!駄目ったら駄目!」
「敗者の癖に生意気な、とミサカは」「あんた、調子に乗るのも大概にしときなさいよ?」
「ひ、怖いです、とミサカは白々しい事を言いつつ」「はいはい、その手はもう通用しないわよ~」
「「………」」

何とかして当麻に引っ付こうとする10039号の思考を先読みして阻止する美琴。
暫く睨み合って(?)いると10039号はしょうがないですねといった感じで当麻の手を離す。

「なんだ、お前等もうすっかり元通りじゃないか、良かった良かった」

いつものやり取りを聞いて当麻がそう漏らすと、10039号が当麻の方を見て、胸を張りながら言葉を返す。

「当然です、お姉様とミサカの絆はそう簡単には壊れないのです、とミサカは誇らしげに語ります」

そう言うと10039号は美琴の右側に移動し、そのまま右腕に抱きつく。
そして、当麻の方を見て羨ましいかーといった視線を送る。すると、

「もー、暑苦しいから抱きつくなー」

と邪険に扱う美琴だが、先程の10039号の言葉が嬉しかったのか、その顔は笑っている。

「む、その言い方はあんまりです、とミサカはショックを隠しきれませんがそういう事でしたらミサカにも考えがあります」
「?」

そう言うと10039号は絡めた腕を美琴から外し、突然彼女を強く押す。

「きゃっ!」
「っと…」

10039号に押され小さく悲鳴を上げた美琴を当麻がしっかりと抱きとめる。
美琴を押した後、当麻の左側へ移動した10039号は受け止めた彼に対してグッジョブですと言わんばかりに右の親指を立てると、

「では行きましょう、とミサカは己のアシストを賞賛しつつ抱き合うお二人を促します」
「もう!突き飛ばさなくてもいいじゃない!」
「その割りに顔はニヤ付いてますが、とミサカは指摘します。
 それと勝者の権限でゲーセンに付くまでは腕を組んで歩きなさい、とミサカはお姉様に命令します」

先程の言葉に加え、更に当麻に抱きとめられた事で一層顔を緩めていた美琴だが、突如放たれた追加命令に驚き、妹の方を向く。

「勝者の権限って…あんたいくつ要求する気よ!?」
「…少しは空気を読んでください、とミサカはお姉様の対応に嘆息します」

美琴の慌てぶりにため息を付いた10039号。そのくらい分かれよといった顔でふるふると首を振る。
だが、確かにあの言葉で気付けというのも酷だと思った為、仕方なく言葉を続ける。

「そこは『し、しょうがないわねぇ~』とか適当な事言ってお義兄様にしがみ付いとけばいいのです、とミサカはお姉様の真似をしつつ適当に流します」

その言葉を聞いてようやく妹の言葉の意味に気付いた美琴は顔を少し赤くする。

(全く…余計な気なんて遣わなくてもいいのに…でも…)

恐らく妹の前では過度に甘えないようにしていた自分に対してのメッセージだったのだろう。
そう考えた美琴は10039号にウインクをして『ありがとう』と合図すると、彼女も『どういたしまして』と言わんばかりに右の親指を立ててそれに答える。
そして、それを見届けた美琴は当麻の右腕に遠慮なく抱きつく。

「み、美琴!?突然引っ付かれると色々と困るのですが!?」
「命令なんだからしょうがないでしょ!ほら、行くわよ!」
「こらこら引っ張るな!それと、御坂妹もニヤニヤすんな!」
「ここにはミサカしか居ませんし、そんなに照れなくても良いのです、とミサカはもっと密着するのを心待ちにしてみます」

さあさあ遠慮なくいちゃつくのです!といった感じのオーラを醸し出す10039号。
その圧力を感じ取った美琴は、思わずたじろぐと、

「そんな期待しなくていいわよ…」

とそのオーラを受け流そうとするのだが、10039号がそれを許さなかった。
彼女はニヤリと口元を吊り上げると、『即席!お義兄様&お姉様密着作戦』を発動する。

「仕方がありません、ではお姉様の替わりにミサカがお義兄様に抱き付きま」「だから駄目だって言ってんでしょ!」

当麻の左腕にスッと近づき、抱きつこうとした10039号から当麻を遠ざけるように腕を強く引き寄せた美琴。
先程よりも密着し、その腕に美琴の柔らかさを強く感じた当麻は更に真っ赤になると、

「どわあ!?だからそんなに強く抱きつくなって!」
「おやおや、そこまでされては手が出せませんね、とミサカは抱きつくのを諦めます」

狼狽する当麻を無視し、わざとらしくため息を一つ付いた10039号は内心で自分に親指を立てる。
そしてその表情を緩めると、それを見た美琴が声を掛ける。

「…あんたもしかしてわざとやってる?」
「はて?何のことでしょう?それより遅くなるといけないので早く行きましょう、とミサカはシラを切りつつお二人を促します」

二人の対応に満足した10039号は二人の少し前を歩き出す。そして、腕を組みながらその後に付いていく当麻と美琴。
すっかりいつもの調子を取り戻した三人はゲーセンから歩いてきた道を再び歩く。
そこには賑やかな会話と、確かな笑い声が響き渡り、一度離れてしまったように見えたその心の距離もしっかりと縮まっていた。


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