第11章 帰省1日目 深夜の闘い
受信日時:01/02 22:38
送信者:初春飾利
受信者:御坂美琴
件名:犯人について
御坂さんこんばんは。
初春飾利です。
犯人追跡はこちらで行う事
になりました。
御坂さんは安心して削除に
あたってもらえれば幸いで
す。
というか白井さんが突っ走
って行ってしまいました。
犯人確保よりも、白井さん
に事がばれないかが心配
です。
受信日時:01/02 22:39
送信者:御坂美琴
受信者:初春飾利
件名:Re:犯人について
わかった
こっちは任せて頂戴(^_-)
あの子が暴走したら悪い
けどお願いするわね
怪我しない範囲で
受信日時:01/02 22:40
送信者:初春飾利
受信者:御坂美琴
件名:全力で阻止します!
恋の応援隊員として頑張ら
せて頂きます!
ヒトの恋路の邪魔をする
輩はたとえ友人であろう
と容赦いたしません!
◆
1月2日 PM10:55 雨
当麻「んー、うるせえ」
いつの間にか寝てしまったらしい上条は、携帯がブルブルと暴れる音で目が覚めた。頭が半分寝ている
割に、耳に外の雨音がよく響く。
割に、耳に外の雨音がよく響く。
当麻「ったく、誰だよこんな時間に」
コール回数からしてどうやら電話らしい。
目を開けるのも面倒なので適当に手を伸ばしてそのまま耳に当てる。
目を開けるのも面倒なので適当に手を伸ばしてそのまま耳に当てる。
当麻「……はいもしもし」
元春『おっすーかみやーん』
当麻「……」
元春『おっすーかみやーん』
当麻「……」
ピッ。と、上条は迷わず通話を切った。
うう、今日は一段と寒いな。などと独りごちて布団を深めに被る。布団の中は場所によって冷たく、暖かい
真ん中あたりで体を縮こまらせる。
しかし僅か5秒程度で携帯がまたブルブルと畳の上を振動する。
無視しても、コールが10回、15回と鳴り止まない。留守電モードにしておけばよかったと考えるがもう遅い。
うう、今日は一段と寒いな。などと独りごちて布団を深めに被る。布団の中は場所によって冷たく、暖かい
真ん中あたりで体を縮こまらせる。
しかし僅か5秒程度で携帯がまたブルブルと畳の上を振動する。
無視しても、コールが10回、15回と鳴り止まない。留守電モードにしておけばよかったと考えるがもう遅い。
当麻「……はあ」
緊急の用事だったらヤバイしな、と心の中で唱えて再び携帯を取った。
面倒事は嫌だが、後悔するのはもっと嫌である。
面倒事は嫌だが、後悔するのはもっと嫌である。
当麻「あのな土御門。先に言っとくが、よっぽどでない限り面倒事は無しな。大体にして俺今帰省中で学園都市
にいねーから」
元春『いやいやかみやん。今回はそう言うんじゃ無いぜよ。友人として、ちょっとした警告をしてあげようという
優しい心遣いから電話したんだにゃー』
当麻「土御門、お前の優しい心遣いはたまに人を傷つけてるから気をつけろよ?」
元春『うにゃー。随分ご機嫌斜めだにゃーかみやん。もしかしたら『お楽しみ』の最中お邪魔しちゃったか?』
当麻「あ? 何の事だ?」
元春『いやぁほら、常盤台のレールガンとニャンニャンしてる最中だったかなー、と思って』
当麻「はぁっ!?」
にいねーから」
元春『いやいやかみやん。今回はそう言うんじゃ無いぜよ。友人として、ちょっとした警告をしてあげようという
優しい心遣いから電話したんだにゃー』
当麻「土御門、お前の優しい心遣いはたまに人を傷つけてるから気をつけろよ?」
元春『うにゃー。随分ご機嫌斜めだにゃーかみやん。もしかしたら『お楽しみ』の最中お邪魔しちゃったか?』
当麻「あ? 何の事だ?」
元春『いやぁほら、常盤台のレールガンとニャンニャンしてる最中だったかなー、と思って』
当麻「はぁっ!?」
上条の目が一気に覚める。
何故土御門からそんな言葉が出てくるのだろうか。
まさかあの時ばれたのか、それとも舞夏が言ってしまったのだろうか。
何故土御門からそんな言葉が出てくるのだろうか。
まさかあの時ばれたのか、それとも舞夏が言ってしまったのだろうか。
当麻「何言ってんだお前? 頭でも打ちましたかー?」
元春『うん、やはりまだ知らないみたいだにゃー』
当麻「……何をだ。イヤな予感しかしないが言ってみろ」
元春『ネット上のちょっとした噂だぜい。かみやんとレールガンのお嬢様が付き合ってる、ってにゃー』
当麻「ぶふーっ!!? な、なな何だそりゃ!?」
元春『うん、やはりまだ知らないみたいだにゃー』
当麻「……何をだ。イヤな予感しかしないが言ってみろ」
元春『ネット上のちょっとした噂だぜい。かみやんとレールガンのお嬢様が付き合ってる、ってにゃー』
当麻「ぶふーっ!!? な、なな何だそりゃ!?」
思いっきり動揺してしまう。
上条は有名人ではないし、美琴は有名だがアイドルというわけでもない。どうしてそんな熱愛報道みたいな
しょうもない噂が流れるのか。全く理解できなかった。
上条は有名人ではないし、美琴は有名だがアイドルというわけでもない。どうしてそんな熱愛報道みたいな
しょうもない噂が流れるのか。全く理解できなかった。
元春『かみやんも水くさいにゃー。別に彼女が出来たからって俺は嫉妬に狂ったりなんかしないってのに。から
かいはするけど。ああでも、青髪他クラスメイトはどうなるかにゃー? 吹寄あたりはひょっとすると鬼と化す
かもしれんぜい』
当麻「って、んなもんデマに決まってんだろ! ネットの噂くらい適当に流せよ!! あと、例え俺に彼女が出来た
所でクラスのヤツらはそんなの興味無いだろ?」
元春『しかし意外だにゃー。俺としては本命インデックス、対抗ねーちん、五和あたりと踏んでたんだが。科学サイド
とは盲点だった。さすがはフラグ大魔神。今度拝ませて貰って良いかにゃー?』
当麻「聞けよ!! 大体義妹に濃厚接吻してるヤツにからかわれたくねーぞ?」
元春『だだだだだ誰が舞夏に舌を入れたって!? み、見てもいないのに決めつけんじゃねー!!』
かいはするけど。ああでも、青髪他クラスメイトはどうなるかにゃー? 吹寄あたりはひょっとすると鬼と化す
かもしれんぜい』
当麻「って、んなもんデマに決まってんだろ! ネットの噂くらい適当に流せよ!! あと、例え俺に彼女が出来た
所でクラスのヤツらはそんなの興味無いだろ?」
元春『しかし意外だにゃー。俺としては本命インデックス、対抗ねーちん、五和あたりと踏んでたんだが。科学サイド
とは盲点だった。さすがはフラグ大魔神。今度拝ませて貰って良いかにゃー?』
当麻「聞けよ!! 大体義妹に濃厚接吻してるヤツにからかわれたくねーぞ?」
元春『だだだだだ誰が舞夏に舌を入れたって!? み、見てもいないのに決めつけんじゃねー!!』
電話の向こうが良い感じにテンパる。
やはりこのネタは効くらしい。
やはりこのネタは効くらしい。
当麻(ならあんな所でキスしなきゃ良いのに……)
元春『っつか、かみやんの彼女に皆が興味無いわけないのにゃー。高校生の色恋沙汰に対する目敏さは血に
飢えた野獣レベルだぜい?』
当麻「ほう。そうか。確かに俺もお前が舞夏にどこまで手を出しているかは気になるな」
元春『うぐっ……。まあ正直なところ俺はどっちでも良いんだけどにゃー。だけど、『どうでも良くない事』もあるだろ?』
当麻「はあ? 意味わかんねーよお前は相変わらず。そもそもそんなデマが流れたからって俺は別に」
元春『どうってことない、か? 自然災害級な鈍感っぷりだにゃー』
当麻「……?」
元春『いいかかみやん。気づいてないようだから鈍感馬鹿なお前にも分かり易くストレートに言うぞ?』
当麻「何だよ」
元春『っつか、かみやんの彼女に皆が興味無いわけないのにゃー。高校生の色恋沙汰に対する目敏さは血に
飢えた野獣レベルだぜい?』
当麻「ほう。そうか。確かに俺もお前が舞夏にどこまで手を出しているかは気になるな」
元春『うぐっ……。まあ正直なところ俺はどっちでも良いんだけどにゃー。だけど、『どうでも良くない事』もあるだろ?』
当麻「はあ? 意味わかんねーよお前は相変わらず。そもそもそんなデマが流れたからって俺は別に」
元春『どうってことない、か? 自然災害級な鈍感っぷりだにゃー』
当麻「……?」
元春『いいかかみやん。気づいてないようだから鈍感馬鹿なお前にも分かり易くストレートに言うぞ?』
当麻「何だよ」
元春『これは上条勢力の一大危機なんだぜい?』
◆
美琴「何よ……これ」
御坂美琴は上条当麻の実家からほど近い24時間営業のファミリーレストランに居た。
まさかあの家からクラッキングする訳にもいかない。足が付くなんてことはほぼあり得ないが、一応不正行為
ではあるので気分的な問題である。
出かける際に美鈴から早く帰るよう釘を刺されてしまったので、近いようでいて歩くとそれなりに時間が掛かる
自宅へは行けないし、タクシーは住宅街であるためかほとんど走っていなかった。
そこで近場の公衆無線LANから持参した携帯端末でアクセスする事にしたのだ。
当然回線の帯域幅としては貧弱すぎるし、足が付くとまずいので、何ステップか学園都市内のコンピュータを
迷惑が掛からない範囲で踏み台にする。
頼んだストロベリーシェイクが届くのを待たず、ネットワークに接続して情報を改竄しようとし始めたその1分後、
美琴の手は完全に止まってしまった。
まさかあの家からクラッキングする訳にもいかない。足が付くなんてことはほぼあり得ないが、一応不正行為
ではあるので気分的な問題である。
出かける際に美鈴から早く帰るよう釘を刺されてしまったので、近いようでいて歩くとそれなりに時間が掛かる
自宅へは行けないし、タクシーは住宅街であるためかほとんど走っていなかった。
そこで近場の公衆無線LANから持参した携帯端末でアクセスする事にしたのだ。
当然回線の帯域幅としては貧弱すぎるし、足が付くとまずいので、何ステップか学園都市内のコンピュータを
迷惑が掛からない範囲で踏み台にする。
頼んだストロベリーシェイクが届くのを待たず、ネットワークに接続して情報を改竄しようとし始めたその1分後、
美琴の手は完全に止まってしまった。
美琴「……」
ただただ押し黙り、小さく唇を噛む。
簡単に言ってしまえば、ネット上における上条の評判が最悪だったのだ。
思い起こして見れば、わざわざ外のネットワークで上条当麻の名前を検索したことは無かったし、そもそも
評判は今日書き込まれたものばかりだった。知らないのも無理はない。
美琴の周りでバチンと電撃が爆ぜる。ストロベリーシェイクを運んできた店員が驚き、頭にハテナを浮かべ
ながら逃げるように去っていくが、美琴は気づかない。口からふぅーっと慎重に息を吐き、激高しそうになる気
を抑える事で精一杯であった。
簡単に言ってしまえば、ネット上における上条の評判が最悪だったのだ。
思い起こして見れば、わざわざ外のネットワークで上条当麻の名前を検索したことは無かったし、そもそも
評判は今日書き込まれたものばかりだった。知らないのも無理はない。
美琴の周りでバチンと電撃が爆ぜる。ストロベリーシェイクを運んできた店員が驚き、頭にハテナを浮かべ
ながら逃げるように去っていくが、美琴は気づかない。口からふぅーっと慎重に息を吐き、激高しそうになる気
を抑える事で精一杯であった。
美琴(とにかく、アイツが気づく前に……)
気を引き締めて指を動かし始める。
忌々しいものを消し去るため。情報を攪乱するため。
その副作用として、帯域幅が許す限りの膨大な情報が、美琴の脳に流れ込んでくる。脳に入ってくる前に能力
でフィルタリングすることも出来るが、敢えて全てを受け入れることにする。
忌々しいものを消し去るため。情報を攪乱するため。
その副作用として、帯域幅が許す限りの膨大な情報が、美琴の脳に流れ込んでくる。脳に入ってくる前に能力
でフィルタリングすることも出来るが、敢えて全てを受け入れることにする。
ある者達は上条を見下していた。疫病神たる上条当麻ごときが学園都市の第三位に釣り合うわけがない。
下僕か何かとして利用されているのだろう。と。
ある者達は上条を罵倒ていた。上条当麻はこの世から消え失せろ。努力して超能力を勝ち得た御坂美琴に
近づくとは言語道断だ。彼女を不幸にする気か。空気読め。と。
ある者達は上条を非難していた。上条当麻の近くに居たせいで受験に落ちた。給料が下がった。財布を落とした。
ギャンブルに負けた。女が逃げた。ペットが死んだ。家族が病気になった。災害が起きた。国が戦争を始めた。と。
ある者達は上条を侮辱していた。親にすら見捨てられ、逃げ出す形で学園都市に行ったのに、それでも居場所
が無かった上条が、腹いせに女性トップの能力者である美琴の彼氏だと吹聴しているに違い無い。と。
ある者達は上条を妬んでいた。御坂美琴のファンとして、上条当麻を呪い殺したい。きっと御坂美琴の弱みを
握って脅しているに違い無い。俺も御坂美琴と×××したり、無理矢理××××させたり、めちゃくちゃに××
したりしたい。と。
下僕か何かとして利用されているのだろう。と。
ある者達は上条を罵倒ていた。上条当麻はこの世から消え失せろ。努力して超能力を勝ち得た御坂美琴に
近づくとは言語道断だ。彼女を不幸にする気か。空気読め。と。
ある者達は上条を非難していた。上条当麻の近くに居たせいで受験に落ちた。給料が下がった。財布を落とした。
ギャンブルに負けた。女が逃げた。ペットが死んだ。家族が病気になった。災害が起きた。国が戦争を始めた。と。
ある者達は上条を侮辱していた。親にすら見捨てられ、逃げ出す形で学園都市に行ったのに、それでも居場所
が無かった上条が、腹いせに女性トップの能力者である美琴の彼氏だと吹聴しているに違い無い。と。
ある者達は上条を妬んでいた。御坂美琴のファンとして、上条当麻を呪い殺したい。きっと御坂美琴の弱みを
握って脅しているに違い無い。俺も御坂美琴と×××したり、無理矢理××××させたり、めちゃくちゃに××
したりしたい。と。
学園都市のネットワークに接続できない彼らが得られる上条の情報は、上条の幼少期の物と、今日の出来事。
それ以外は僅かな噂のみだ。それでも上条への罵詈雑言は止まない。世間一般から見たらまだ子供である事
などお構いなしだ。
原因へは簡単に辿り着いた。
上条当麻の過去をまとめた、『上条当麻とは』で始まるような複数の情報サイト。
その情報に触れた時、美琴の背中にゾクリと怖気が走った。
掲示板で上条の事を悪魔と呼んでいる者も居たが、確かにその経歴は悪魔じみたトラブル体質であった。
その情報がどこまで本当で、どの程度誇張されているか分からない。安易に信じるのは危険だろう。
だがそれでも、これは上条に見せてはいけない代物である事は間違いない。見るだけで不幸になれる内容
だと思った。
それ以外は僅かな噂のみだ。それでも上条への罵詈雑言は止まない。世間一般から見たらまだ子供である事
などお構いなしだ。
原因へは簡単に辿り着いた。
上条当麻の過去をまとめた、『上条当麻とは』で始まるような複数の情報サイト。
その情報に触れた時、美琴の背中にゾクリと怖気が走った。
掲示板で上条の事を悪魔と呼んでいる者も居たが、確かにその経歴は悪魔じみたトラブル体質であった。
その情報がどこまで本当で、どの程度誇張されているか分からない。安易に信じるのは危険だろう。
だがそれでも、これは上条に見せてはいけない代物である事は間違いない。見るだけで不幸になれる内容
だと思った。
美琴(だから消す。全部消してやる。私にはそれしか出来ない)
過去は変えられないが、過去を知られる前に隠す事は出来る。
彼はまだこの事を知らないだろう。知らない方が良い。だから上条が気づく前に終わらせなければならない。
彼はまだこの事を知らないだろう。知らない方が良い。だから上条が気づく前に終わらせなければならない。
美琴は初めて、上条が記憶喪失である事に感謝する。
その事が、自分の心を傷つける事も厭わず。
その事が、自分の心を傷つける事も厭わず。
◆
話はほんの数分前に遡る。
当麻「これは……何だ?」
上条当麻は刀夜の書斎にあるパソコンの前で呆然としていた。
土御門から教えられた噂とやらを調べたら、自分に対する罵倒が出てきたからだ。
土御門から教えられた噂とやらを調べたら、自分に対する罵倒が出てきたからだ。
当麻「まあ、そっか。一応有名人のお嬢と付き合ってるんだもんな。当たり前か」
上条だって、他の誰かが有名人と付き合っているだなんて記事があれば嫉妬するだろう。
考えてみれば当たり前の事だ。インターネットはそう言う軽い発言がしやすい。
考えてみれば当たり前の事だ。インターネットはそう言う軽い発言がしやすい。
当麻「縁日でばれたのがいてーな。クソ、あいつに迷惑を……」
いや、と首を振る。それは考えすぎだ。
美琴の性格なら『この程度のひがみ放置しなさいよ』くらい言ってくれるだろう。下手に自分だけ臆病になり
すぎても滑稽なだけだ。
この件に関しては違う、そう思う事にする。
美琴の性格なら『この程度のひがみ放置しなさいよ』くらい言ってくれるだろう。下手に自分だけ臆病になり
すぎても滑稽なだけだ。
この件に関しては違う、そう思う事にする。
当麻「ふぃー。寒いしそろそろ切り上げるか。問題があったら美琴に消してもらえば良いし、上条勢力の危機?
ってのも結局どういうことか分からねえし」
ってのも結局どういうことか分からねえし」
しかし、無理矢理そう独りごちてパソコンの電源を切ろうとした時、最後に開いていたページに気になるワード
を発見してしまった。
を発見してしまった。
『こいつの近くに居ると嘘偽りなく「不幸」になるよ。うちの母親もそうだった』
当麻「……」
上条の体が一瞬熱くなり、すぐに暖房を付けていない書斎の空気に冷やされる。
その書き込みは、幼い頃の上条の近くを通りがかった母親が、数日後重い病に掛かって死んだ、というもの
だった。更に参考サイトを幾つか挙げている。
ほとんど無意識のまま、そのリンクに手が伸びた。
よせばいいのに、と頭の中で声がするが、止まる事は出来なかった。今抱えている疑問のヒントがある気が
して。
その書き込みは、幼い頃の上条の近くを通りがかった母親が、数日後重い病に掛かって死んだ、というもの
だった。更に参考サイトを幾つか挙げている。
ほとんど無意識のまま、そのリンクに手が伸びた。
よせばいいのに、と頭の中で声がするが、止まる事は出来なかった。今抱えている疑問のヒントがある気が
して。
当麻「……ッ」
上条の手が震えた。部屋が寒いせいかもしれない。
上条はその自分について書かれたページをゆっくりとスライドしていく。
上条はその自分について書かれたページをゆっくりとスライドしていく。
上条当麻が登場したテレビ番組。
上条当麻の特異体質についての考察。
上条当麻が実際に遭遇したとされる事件。
上条当麻が遭遇した事件における不自然な出来事。偶然ではかたづけられない点。
その事件における被害者、損害。規模。報道。
学園都市への入学とその後の噂。
そして、上条当麻と御坂美琴との関係。
上条当麻の特異体質についての考察。
上条当麻が実際に遭遇したとされる事件。
上条当麻が遭遇した事件における不自然な出来事。偶然ではかたづけられない点。
その事件における被害者、損害。規模。報道。
学園都市への入学とその後の噂。
そして、上条当麻と御坂美琴との関係。
喉が渇き、心臓の音が頭に響く。
すぐにウィンドウを閉じろと脳が警告する。
それなのにカーソルは、関連掲示板リンクへと移動した。
無意識に喉が鳴らした音が聞こえる。
すぐにウィンドウを閉じろと脳が警告する。
それなのにカーソルは、関連掲示板リンクへと移動した。
無意識に喉が鳴らした音が聞こえる。
当麻(……こりゃ、ひでぇな)
そこでは先ほどの場所よりもっと激しい表現が飛び交っていた。上条当麻という単語がまるで呪詛のように
何度も唱えられる。
擁護意見が少ない。いたとしてもからかっているだけに見えた。原因の一つには、実際に今日美琴を、ファン
の追跡という危険な目に遭わせた事らしい。
とにかくそこでは上条が悪魔のような、恐怖と憎悪の対象として認識されていた。
何度も唱えられる。
擁護意見が少ない。いたとしてもからかっているだけに見えた。原因の一つには、実際に今日美琴を、ファン
の追跡という危険な目に遭わせた事らしい。
とにかくそこでは上条が悪魔のような、恐怖と憎悪の対象として認識されていた。
当麻(…………寒い)
自分の体を痛いくらいに激しく擦る。
それでも体の震えが止まらない。
上条当麻が悪い。
上条当麻のせいだ。
上条当麻が不幸を呼ぶ。
上条当麻が憎い。
上条当麻の――――
文字を追う度に震えは大きくなり、頭に血が上り、吐き気がする。
口から意図せず妙な唸り声が上がる。
体が狂いだす。風邪でも引いたのだろうか。
それでも体の震えが止まらない。
上条当麻が悪い。
上条当麻のせいだ。
上条当麻が不幸を呼ぶ。
上条当麻が憎い。
上条当麻の――――
文字を追う度に震えは大きくなり、頭に血が上り、吐き気がする。
口から意図せず妙な唸り声が上がる。
体が狂いだす。風邪でも引いたのだろうか。
当麻「………………ぁ」
何か口から出そうになった時、プツンと、パソコンの電源が切れた。
当麻「……?」
パソコン本体を見ると、指がいつの間にか電源スイッチを押している。
無意識の行動に若干の恐怖を感じたが、それ以上に安堵した。これでアレを見ないで済む。
無意識の行動に若干の恐怖を感じたが、それ以上に安堵した。これでアレを見ないで済む。
当麻「あー、えっと、……まあクソ寒いし寝るか」
そう独りごちて上条は椅子から立ち上がる。
当麻(美琴は、どこ行ったんだろうな)
体の震えは既に止まっていた。
◆
1月2日 PM11:12 晴れ
白井黒子は28階建て学生マンションの最上階にいた。
コの字型をした割と規模の大きいマンションであったが、帰省時期であるためか、はたまた深夜だからか、シン
と静寂だけが耳を突いた。
ここに来るまですれ違ったのは、せいぜい入り口付近の男子高校生数人くらいである。彼らは顔を赤くしながら
馬鹿みたいに騒いでいて、明らかに酒を飲んでいた風だったが、風紀委員の腕章をした白井は一瞥をくれてやる
だけで取り合う事をせず通り過ぎた。
今はそれどころではない。
白井は20メートル以上離れた反対側の通路、仄かな白色光に照らされた一つの扉を睨み付ける。
コの字型をした割と規模の大きいマンションであったが、帰省時期であるためか、はたまた深夜だからか、シン
と静寂だけが耳を突いた。
ここに来るまですれ違ったのは、せいぜい入り口付近の男子高校生数人くらいである。彼らは顔を赤くしながら
馬鹿みたいに騒いでいて、明らかに酒を飲んでいた風だったが、風紀委員の腕章をした白井は一瞥をくれてやる
だけで取り合う事をせず通り過ぎた。
今はそれどころではない。
白井は20メートル以上離れた反対側の通路、仄かな白色光に照らされた一つの扉を睨み付ける。
白井「初春、部屋の見取り図はまだですの?」
インカムに向かってほんの少し苛立った声を投げつける。
初春『はいはーい、今見てますよーっと。……うーん、でもこの見取り図じゃちょっと無理そうです。その部屋、
別の業者が改築しているらしいんですが、新しい方の見取り図が見つからないんですよ』
白井「テレポートで安全に入る隙くらい分かりませんの? それだけでもいいですわよ」
初春『改築した事実しか書いていないので、中がどうなっているか全く分からないんです。ただ、バルコニーは
さすがにまだありそうですし、そこからなら入れると思います』
別の業者が改築しているらしいんですが、新しい方の見取り図が見つからないんですよ』
白井「テレポートで安全に入る隙くらい分かりませんの? それだけでもいいですわよ」
初春『改築した事実しか書いていないので、中がどうなっているか全く分からないんです。ただ、バルコニーは
さすがにまだありそうですし、そこからなら入れると思います』
白井は視線を上に向ける。屋上までは飛べる範囲内のようだ。
初春『どうします? その部屋の見取り図を引き続き探す事もできますけど』
白井「いえ、あの噂の広まる速度を考えればそう悠長にもしてられないでしょう。バルコニーからでいいですの」
初春『そうですか……。はあ、始末書だけで済めば良いんですけど』
白井「いえ、あの噂の広まる速度を考えればそう悠長にもしてられないでしょう。バルコニーからでいいですの」
初春『そうですか……。はあ、始末書だけで済めば良いんですけど』
令状も持っていなく、相手の犯行すら確定していない状況でのこの行動は、もちろん一般人と同様何らかの
罪に当たる。ジャッジメントとは言え叱られるだけでは済まないかもしれない。
罪に当たる。ジャッジメントとは言え叱られるだけでは済まないかもしれない。
白井「貴方には悪いですけれど、わたくしは止まりませんわよ?」
初春『へ? 何で私が止めるんですか?』
初春『へ? 何で私が止めるんですか?』
インカムから心底不思議そうな声が白井の耳に聞こえてくる。
美琴を中傷されて怒っているのは白井だけではないのだ。
美琴を中傷されて怒っているのは白井だけではないのだ。
白井「……、いえ、何でもありませんの。でもまあ、一応最初は正攻法でいきますわよ」
数瞬後、白井の体が突如その場から消え去り、代わりに反対側の通路にある玄関前に出現した。
何の躊躇いもなく指が呼び鈴のボタンへと伸びる。
ピンポーンという軽快な音が余計に緊迫感を際立たせる。
何の躊躇いもなく指が呼び鈴のボタンへと伸びる。
ピンポーンという軽快な音が余計に緊迫感を際立たせる。
白井「…………………………………………………出ませんわね」
続けて3回鳴らし、更に60秒ほど待って諦める。
留守なのだろうか。
留守なのだろうか。
初春『居留守と言う可能性もあります』
白井「悪事をはたらいている自覚があるのでしたらあり得ますわね」
白井「悪事をはたらいている自覚があるのでしたらあり得ますわね」
斜め後方、マンションより高い位置にテレポートしながら白井は応える。
高層マンションの割りにこざっぱりした屋上の地形を視認した後、柵の外側、少し高くなった縁へと再び
テレポートする。
高層マンションの割りにこざっぱりした屋上の地形を視認した後、柵の外側、少し高くなった縁へと再び
テレポートする。
初春『逃げたのかもしれないですけど』
白井「まあそれならそれで、犯人だと断定できればこちらももう少し大胆な事が出来ますし」
白井「まあそれならそれで、犯人だと断定できればこちらももう少し大胆な事が出来ますし」
白井はその場から後ろ向きに飛び降り、テレポートを利用して音もなく広いバルコニーへと着地する。
中は緑地に笹とパンダ柄のカーテンで覆われていたが、幸い隙間が少し空いていた。鍵の掛かった厚い
二重窓も、中が見えるのであれば白井には関係無い。
片目を閉じて中を覗うと、真っ暗な部屋の中でぼんやりと薄く青白い光だけが見えた。
恐らくディスプレイの光だろう、と当たりを付け、白井は薄く不敵な笑みを浮かべる。
中は緑地に笹とパンダ柄のカーテンで覆われていたが、幸い隙間が少し空いていた。鍵の掛かった厚い
二重窓も、中が見えるのであれば白井には関係無い。
片目を閉じて中を覗うと、真っ暗な部屋の中でぼんやりと薄く青白い光だけが見えた。
恐らくディスプレイの光だろう、と当たりを付け、白井は薄く不敵な笑みを浮かべる。
白井「(ビンゴですの。……乗り込みますわよ)」
初春『気をつけて下さいね』
初春『気をつけて下さいね』
太ももから鉄矢を抜き、その青白い光に包まれた部屋へと白井は跳ぶ。
そして光源の机へ向かい、
そして光源の机へ向かい、
白井「ジャッジメントです……の?!」
ガタッ、と言う音と共に、ソレは白井の方へ緩慢な動きで振り向いた。
白井が突入するまでディスプレイを覗き込み、端末を操作していたらしいソレは、青白い光を金属質の黒い
表皮で反射しながら白井を見る。
そして異常に素早い動作で、音もなく大きな銃口を持ち上げると、白井に狙いを定める。
白井が突入するまでディスプレイを覗き込み、端末を操作していたらしいソレは、青白い光を金属質の黒い
表皮で反射しながら白井を見る。
そして異常に素早い動作で、音もなく大きな銃口を持ち上げると、白井に狙いを定める。
白井「ッ!!」
1秒、あるいはもっと短いかもしれない。白井は呆気にとられてしまった頭を無理矢理起こすと、次の瞬間には
その部屋から忽然と消えていた。
ほぼ同時、先ほど居た屋上にその姿が現れる。
ズバン!! という大きな音がテレポート直後の白井の耳をつんざく。
心音が早まり体が熱くなるのを感じる。
その部屋から忽然と消えていた。
ほぼ同時、先ほど居た屋上にその姿が現れる。
ズバン!! という大きな音がテレポート直後の白井の耳をつんざく。
心音が早まり体が熱くなるのを感じる。
白井「……ぱ、駆動鎧《パワードスーツ》ですって!? 何故あんなものが?」
中は部屋の住人だろうか。大能力者に駆動鎧なんて反則だ。
いや、そもそも見たことのないタイプの外見であった。もし最新型であれば、中が誰であれ関係無く分が悪い
かもしれない。
そう考え白井は唇を噛む。
いや、そもそも見たことのないタイプの外見であった。もし最新型であれば、中が誰であれ関係無く分が悪い
かもしれない。
そう考え白井は唇を噛む。
白井「不本意ですが、一旦退却……ッ?」
ふっ、と、白井の視界がほんの少しだけ暗くなった。白井と月の間に素早く何者かが入り込み、影を落とした
のだ。2,3秒掛ければその事に気づいたかもしれない。
しかしそれよりも早く、白井は直感で何かを悟る。
背中にぞわりと寒気が走った。
のだ。2,3秒掛ければその事に気づいたかもしれない。
しかしそれよりも早く、白井は直感で何かを悟る。
背中にぞわりと寒気が走った。
初春『白井さん、後ろ!!』
白井「くっ!!」
白井「くっ!!」
監視カメラの映像から異常を察知した初春の絶叫と同時、再び空間を跳躍する。
今度は斜め後ろ。屋上の中央、そこから更に20メートルほどの高さへ。
白井は視線を元の場所に投げる。
そこでは、2メートルに届きそうな背丈の駆動鎧が、その腕がビュンッと鋭く宙を貫いていた。
ドゴン!! という衝撃と共に屋上のコンクリートが割れ、大きな穴が開く。
もし跳ばずに防いでいたら、ぺしゃんこになっていたのは白井の体だろう。
無音のまま、ロボットを思わせるような若干機械的な動きですっくと体勢を立て直した駆動鎧の姿が、月明かり
に晒される。
今度は斜め後ろ。屋上の中央、そこから更に20メートルほどの高さへ。
白井は視線を元の場所に投げる。
そこでは、2メートルに届きそうな背丈の駆動鎧が、その腕がビュンッと鋭く宙を貫いていた。
ドゴン!! という衝撃と共に屋上のコンクリートが割れ、大きな穴が開く。
もし跳ばずに防いでいたら、ぺしゃんこになっていたのは白井の体だろう。
無音のまま、ロボットを思わせるような若干機械的な動きですっくと体勢を立て直した駆動鎧の姿が、月明かり
に晒される。
白井(……しっぽ??)
黒い塊はおおよそ人型をしてはいたが、ドクロを思わせるヘルメット大の頭部、その天辺付近から首筋、背中
を通り、その先に至るまで、頭より少し細い棒が曲線を描き垂れていた。
更にそれにはコブが6つ付いており、よく見るとしっぽと言うより太い脊椎。あるいは束ねた髪にも見えるかも
しれない。
を通り、その先に至るまで、頭より少し細い棒が曲線を描き垂れていた。
更にそれにはコブが6つ付いており、よく見るとしっぽと言うより太い脊椎。あるいは束ねた髪にも見えるかも
しれない。
白井(いえ、そんなことより)
見た目の印象から思考を離す。
白井は物凄く嫌な予感を抱いていた。
その正体にもう少しで気づこうかという時、眼前で起きる光景が先に証明してしまう。
白井は物凄く嫌な予感を抱いていた。
その正体にもう少しで気づこうかという時、眼前で起きる光景が先に証明してしまう。
白井「ッ!!」
駆動鎧が白井の視界から忽然と消えた。
素早い動きなどではない。例え時速500キロメートル出ていたところで、凝視していた白井には残像くらい
見えるはずだ。
咄嗟に白井は更に後方へとテレポートする。
と、ほぼ同時。持ち歩くには余りに大きい銃から爆発音と共に弾丸が発射される。
素早い動きなどではない。例え時速500キロメートル出ていたところで、凝視していた白井には残像くらい
見えるはずだ。
咄嗟に白井は更に後方へとテレポートする。
と、ほぼ同時。持ち歩くには余りに大きい銃から爆発音と共に弾丸が発射される。
発射したのは一瞬前まで白井が居た場所に『出現した』駆動鎧。
発射した先は『テレポート後』の白井。
発射した先は『テレポート後』の白井。
屋上の地面に着地した白井の腕を弾がかすめ、風紀委員の腕章がゆっくりと地面に落ちた。
腕から熱い液体が吹き出すのを感じる。
それだけではない。
更に白井は絶句する。
腕から熱い液体が吹き出すのを感じる。
それだけではない。
更に白井は絶句する。
白井(脚が、動かない!?)
巨人の手で掴まれているかのように膝から下の自由が利かなくなる。
これではまるで――――
これではまるで――――
白井「……冗談、きついんじゃありませんの? ラスボスが出るには早すぎますわよ」
歴戦の経験が白井に一つの可能性を告げる。
白井(多才能力《マルチスキル》……とでも言うんですの!?)
??「うぇ、もう気づいちゃったの?? やるねツインテール!」
??「うぇ、もう気づいちゃったの?? やるねツインテール!」
黒い塊からあんまりな事実があっけらかんとした声で告げられる。
??「よっと!」
重そうな体躯を不自然なほど軽々と動かし、柔らかな曲線で白井が居る傍へとジャンプしてくる。ふわりと
浮かび上がったように見えたが、着地と共に屋上のコンクリートが痛い音と共にめくれ上がる。それほどの
衝撃と言うことだろう。
浮かび上がったように見えたが、着地と共に屋上のコンクリートが痛い音と共にめくれ上がる。それほどの
衝撃と言うことだろう。
??「それジャッジメントの腕章? ってことは君、やっぱ文津じゃないの? ちょっとは期待したのに」
白井「……ええ、貴方こそ文津幸美じゃないようですわね」
白井「……ええ、貴方こそ文津幸美じゃないようですわね」
白井は迷う。
マルチスキルを信じられない、というほど頭が固いわけではない。方法はわからないが、前例もあるし、何より
今目の前でそれが起こっているのだ。
今脚を縛っているのは念動力《テレキネシス》の類だろう。メジャーな能力であるため感触としてなんとなく分かる。
そして先ほど白井のテレポート先を予測したのは、
マルチスキルを信じられない、というほど頭が固いわけではない。方法はわからないが、前例もあるし、何より
今目の前でそれが起こっているのだ。
今脚を縛っているのは念動力《テレキネシス》の類だろう。メジャーな能力であるため感触としてなんとなく分かる。
そして先ほど白井のテレポート先を予測したのは、
??「そ、読心能力《サイコメトリー》系の能力で合ってるよ。コレクションの中には色々ヘンテコなのいっぱい
あったんだけどね、ぼくとしては覚えるのも相性を考えるのも面倒だしね。他に使えるのは電気と炎と風。
まあ意外と駆動鎧に乗ってるとこいつら使わないんだけどね。とりあえずほら、格好良いしね。って、こん
なこと教授に言ったら殺されそうだけどね」
あったんだけどね、ぼくとしては覚えるのも相性を考えるのも面倒だしね。他に使えるのは電気と炎と風。
まあ意外と駆動鎧に乗ってるとこいつら使わないんだけどね。とりあえずほら、格好良いしね。って、こん
なこと教授に言ったら殺されそうだけどね」
重厚な異形の塊には似つかわしくない軽い声がぺらぺらと訳の分からない事をしゃべり出す。
??「それでツインテールは何者なの? あ、名前は分かってるからいらないよ。ちなみにぼくは楽華《らっか》
って呼んでね。偽名だけど」
白井「あら、わたくしは警邏中だった極普通のジャッジメントですけど。その楽華さんはここで何をしていたん
ですの?」
楽華「って、そんなわけないでしょ。こーんな正月の真夜中にこーんなピンポイントで……って、ああっ!!
その制服常盤台の冬服じゃないの? すっげえ、ぼく初めて見たよ。てことは、もしかして用事は常盤台
の第三位関係?」
って呼んでね。偽名だけど」
白井「あら、わたくしは警邏中だった極普通のジャッジメントですけど。その楽華さんはここで何をしていたん
ですの?」
楽華「って、そんなわけないでしょ。こーんな正月の真夜中にこーんなピンポイントで……って、ああっ!!
その制服常盤台の冬服じゃないの? すっげえ、ぼく初めて見たよ。てことは、もしかして用事は常盤台
の第三位関係?」
白井の肩がその単語にぴくっと動く。
楽華「およ、良いお返事だね。なるほど-マイラヴァーねぇ…………って、レズなのぉ!? すっげえ、それも
初めて見たよ」
初めて見たよ」
楽華と名乗る駆動鎧はその体躯でズガーン! というようなリアクションをとるが、状況的には笑えない。
逆に不気味なだけだ。
逆に不気味なだけだ。
楽華「え、違う? お姉様限定? へえ……なんかよく分からないけど色々あるんだなあ女子校って。……ん、
ぼくが何をしていたかって? ああ、噂ね。やっぱり……でも悪いのは文津だよ。人質のくせにつまんない
事しちゃってね。しょうがないからぼくはそれを止めてたの。まあ細かいことは良いや、ツインテールはどちら
にせよ今殺すしかないしね」
白井「ッ!?」
ぼくが何をしていたかって? ああ、噂ね。やっぱり……でも悪いのは文津だよ。人質のくせにつまんない
事しちゃってね。しょうがないからぼくはそれを止めてたの。まあ細かいことは良いや、ツインテールはどちら
にせよ今殺すしかないしね」
白井「ッ!?」
白井の思考を読みつつぺらぺらと勝手に喋っていたが、マスク内にやや篭った声が最後に物騒な言葉を
付け加える。
付け加える。
楽華「うん、テレポートすれば足枷は外れるけど、結局思考が読めるから意味ないよ」
詳しくは判らないが、これほどの質量をテレポートできるとすれば白井と同等以上のレベルだろう。もし他の
能力も大能力以上であるなら、例え相手が生身であっても勝利は厳しい。
過去に美琴が大能力者クラスの多才能力者を相手に勝利したが、さすがの白井もそこまで自分の力量を
過信していない。状況にもよるが、引き際は心得ているつもりだ。
とはいっても、上手く逃げる方法も思いつかない。
相手の能力の組合わせが悪すぎる。
心が読めるのだから、ただの『チェック』では足りない。『チェックメイト』できるだけの方法、つまり読まれたと
しても上手くいく方法でなければならない。
能力も大能力以上であるなら、例え相手が生身であっても勝利は厳しい。
過去に美琴が大能力者クラスの多才能力者を相手に勝利したが、さすがの白井もそこまで自分の力量を
過信していない。状況にもよるが、引き際は心得ているつもりだ。
とはいっても、上手く逃げる方法も思いつかない。
相手の能力の組合わせが悪すぎる。
心が読めるのだから、ただの『チェック』では足りない。『チェックメイト』できるだけの方法、つまり読まれたと
しても上手くいく方法でなければならない。
白井(戦いつつ考えて、隙を見て退くしか……)
鉄矢を握る手に力を込める。
楽華「無理無理。逃がさないよ。じゃないとぼくが教授に怒られるからね。ツインテールがその棒を放った直後か、
自分をテレポートさせた1秒後、君は死ぬことになるよ。あ、銃殺と圧死と焼死と感電死と窒息死、どれが
いい? 死に方くらい選んで良いよ。ぼくだってこんな事したくてしてるわけじゃないんだし」
白井「予知能力《ファービジョン》も持っているんですの? でなければ、そういうセリフは死亡フラグですわよ?」
楽華「ん、フラグ……って何? ま、何でもいっか」
自分をテレポートさせた1秒後、君は死ぬことになるよ。あ、銃殺と圧死と焼死と感電死と窒息死、どれが
いい? 死に方くらい選んで良いよ。ぼくだってこんな事したくてしてるわけじゃないんだし」
白井「予知能力《ファービジョン》も持っているんですの? でなければ、そういうセリフは死亡フラグですわよ?」
楽華「ん、フラグ……って何? ま、何でもいっか」
駆動鎧は重たそうな銃をゆっくりと持ち上げる。まるで死のカウントダウンでもするかのように。
強がってはみたものの、白井にこの状況を打開する方法は思いつかない。せいぜい運任せでランダム方向
にテレポートしてみることくらいだが、上や横に飛べば目視で見つかるし、建物の方向に飛ぶのは分の悪すぎ
る賭けだ。いつかのようにビルを丸ごと落とす手もあるが、人が居るため使えないし、相手もテレポート能力を
持っているので意味がない。
いずれにせよ、大能力者クラスの相手に思考を読まれるという条件ではむしろチェックメイトされているのは
白井の方だろう。
強がってはみたものの、白井にこの状況を打開する方法は思いつかない。せいぜい運任せでランダム方向
にテレポートしてみることくらいだが、上や横に飛べば目視で見つかるし、建物の方向に飛ぶのは分の悪すぎ
る賭けだ。いつかのようにビルを丸ごと落とす手もあるが、人が居るため使えないし、相手もテレポート能力を
持っているので意味がない。
いずれにせよ、大能力者クラスの相手に思考を読まれるという条件ではむしろチェックメイトされているのは
白井の方だろう。
白井(くっ、こんな面白みのない展開で終わりだなんて御免ですのよ!?)
それでも何もせず終わる訳にはいかない。
白井は仕方なく11個の数字を無差別に選んでいく。
と、その時、
白井は仕方なく11個の数字を無差別に選んでいく。
と、その時、
初春『白井さ――――ん!!!!』
キィーン! と耳をつんざくような金切り声が白井の耳を貫いた。
思わず鉄矢を二本落としてしまう。
思わず鉄矢を二本落としてしまう。
白井「う~い~は~る~!! こんな生死を分ける時に貴方は」
初春『白井さん!! 月はどっちに見えてますか!? 綺麗な半月です!!』
白井「……は?」
初春『白井さん!! 月はどっちに見えてますか!? 綺麗な半月です!!』
白井「……は?」
白井は呆気にとられる。
白井「今遊んでる暇は」
初春『白井さんっ!!』
白井「……」
初春『白井さんっ!!』
白井「……」
初春の切羽詰まった声に気圧され、白井は前を見る。
正面の銃を構える駆動鎧、その頭上に煌々と輝く半月があった。
正面の銃を構える駆動鎧、その頭上に煌々と輝く半月があった。
白井「真っ正面に、ありますの」
初春『なら、そちらがX軸、右がY軸、下がZ軸、原点が白井さんで単位がメートルです!!』
白井「ッ!?」
楽華「ッ!?」
初春『なら、そちらがX軸、右がY軸、下がZ軸、原点が白井さんで単位がメートルです!!』
白井「ッ!?」
楽華「ッ!?」
その言葉にまず白井が理解し、その思考を楽華が読む。
初春『跳んで下さい!! 御坂さんのスリーサイズを全て5で割った方向です!!』
楽華「はあっ??」
楽華「はあっ??」
戸惑ったのは楽華。白井の脳から御坂美琴に関する膨大な数値が流れ込んでくる。
慌ててトリガーを引くが、弾が射出される前には白井の姿は消えてしまった。
慌ててトリガーを引くが、弾が射出される前には白井の姿は消えてしまった。
白井「……はぁっ、はぁっ」
白井はマンション中程の通路に出現する。と同時に前方へ走り出した。
少しだけなら攪乱出来たかもしれないが、飛んだ先は相対座標も絶対座標もばれているのだ。その場に
留まっていたら十中八九何かしら跳んで来るだろう。
そう予想した通り、白井がその通路に出現した約4秒後に、先ほど落とした鉄矢が跳んできた。そしてその
2秒後、通路に面した吹抜けから駆動鎧が風に載ってふわりと通路に舞い降りる。
テレポートを使わなかったのは白井が座標のみで跳んだためだろう。跳ぶ意図が理解できないため、その
先の地理条件が読み取れないし、正しい方向に跳んだかも分からない。駆動鎧であっても跳ぶ先が分から
ないままテレポートするのは危険であるようだ。
少しだけなら攪乱出来たかもしれないが、飛んだ先は相対座標も絶対座標もばれているのだ。その場に
留まっていたら十中八九何かしら跳んで来るだろう。
そう予想した通り、白井がその通路に出現した約4秒後に、先ほど落とした鉄矢が跳んできた。そしてその
2秒後、通路に面した吹抜けから駆動鎧が風に載ってふわりと通路に舞い降りる。
テレポートを使わなかったのは白井が座標のみで跳んだためだろう。跳ぶ意図が理解できないため、その
先の地理条件が読み取れないし、正しい方向に跳んだかも分からない。駆動鎧であっても跳ぶ先が分から
ないままテレポートするのは危険であるようだ。
初春『そこで止まって下さい! 次は御坂さんの携帯番号、上からマイナスxxx、xxxx、xxxxの方向です!』
白井「了解ですの!!」
楽華「居た!! 逃げんな!!」
白井「了解ですの!!」
楽華「居た!! 逃げんな!!」
駆動鎧は弾丸より手っ取り早い電撃を放つが、またしても逃してしまう。かすりさえしていない。
楽華「あ、ありえない。ちょっとでもミスったら死ぬかもしれないこの気狂い能力で、何で他人の言ったままに
跳べるの!?」
跳べるの!?」
それはまるで他人の指示に従い、目隠しをされたままビルからビルへと跳び移るようなものだ。相手の発言
に絶対の信頼があっても簡単に出来ることではない。
楽華は駆動鎧の力で怒りのままに壁を殴る。
に絶対の信頼があっても簡単に出来ることではない。
楽華は駆動鎧の力で怒りのままに壁を殴る。
楽華「クソ、こっちが気を使ってやってんのに!!」
間を置かず、廊下から下へと飛び降りる。
楽華(あーもう、相対座標から絶対座標にするのが面倒くさい!!)
何年も育んできた能力ではない。
出来ると慣れるは違うのだ。
出来ると慣れるは違うのだ。
楽華「待てこらー!!」
白井「…………」
楽華「無心!? いや……、つ、ツインテール。君何考えてんの!? 女同士でそんな、いやらしいよ!!」
白井「…………」
楽華「無心!? いや……、つ、ツインテール。君何考えてんの!? 女同士でそんな、いやらしいよ!!」
棒立ちのまま目を伏せる白井へ向けて、駆動鎧の両手から電撃と真空刃が飛ぶ。
それも一瞬遅く白井の体が消える――――しかし、白井の体は廊下を10メートルほど移動しただけだった。
それも一瞬遅く白井の体が消える――――しかし、白井の体は廊下を10メートルほど移動しただけだった。
楽華(ミス!?)
楽華がそう判断しようとした時、ガガンッ!! と硬い物が割れる音を背中に聞く。
楽華「……ッ!!?」
駆動鎧の動きが止まる。
その中の顔が苦虫をかみ砕いたような表情をしている事は、白井にも何となく分かった。
その中の顔が苦虫をかみ砕いたような表情をしている事は、白井にも何となく分かった。
白井「やはりそこが弱点ですのね。分かり易すぎですの」
テレポートした鉄矢が五本、うち二本が駆動鎧の背中にある、でこぼこしたパイプに刺さっていた。
刺さった場所から赤黒い液体がポタポタと滴る。
刺さった場所から赤黒い液体がポタポタと滴る。
白井(……油? いえ、むしろこれは……、ッ!?)
駆動鎧はあからさまに肩を落とした後、突如けたたましい音と共に辺りへ電撃をまき散らす。ただし白井の
体を避けながら。
体を避けながら。
白井「? ……当たっていませんわよ?」
楽華「はあ、最初からこうすれば良かったよ」
初春『白井さんっ! マンションの防犯カメラが壊れました。でも逃走……は、……下……メート……ブツッ』
白井「……初春!? 初春!!」
楽華「はあ、最初からこうすれば良かったよ」
初春『白井さんっ! マンションの防犯カメラが壊れました。でも逃走……は、……下……メート……ブツッ』
白井「……初春!? 初春!!」
応答がない。
インカムも電撃により破壊されたようだ。
冷たい辺りの空気を静寂が包む。
冬の外気にさらされた汗が体温を奪うのを感じる。
インカムも電撃により破壊されたようだ。
冷たい辺りの空気を静寂が包む。
冬の外気にさらされた汗が体温を奪うのを感じる。
白井(能力の二つは奪えたのでしょうが、その中に読心能力が入っていれば……)
逆を言うと、入っていなければ死に近づく。
楽華「ふふん。今、読心能力が潰れてればなーって、思ったでしょ?」
白井「くっ……」
楽華「ざーんねーんでした。生きてるよーだ」
白井「くっ……」
楽華「ざーんねーんでした。生きてるよーだ」
そう言って駆動鎧が何やら滑稽なポーズをしようとした時、
??「楽華、何をしているんです?」
楽華「ひゃぁっ!?」
楽華「ひゃぁっ!?」
突如、白井の後ろからした声がして、それに駆動鎧がビクッと震えた。
白井(新手!?)
白井は壁に背中を当て、楽華に注意しつつそちらを見やる。
白井「? ……痛っ!」
誰も居ない、と思った瞬間、頭にチクリと痛みが走った。
??「楽華。貴方、なかなか可愛らしい女の子と戦っていますね」
先ほど見ていた場所に楽華のと似た外見の駆動鎧が、手に白井の髪の毛を数本持って出現した。
白井(またテレポート使い!?)
??「テレポートは使い勝手が良いですから」
白井「…………」
??「テレポートは使い勝手が良いですから」
白井「…………」
さらっと心を読まれたことに、白井が絶句する。
その白井を放っておいて、新たに出現した駆動鎧は、立ち尽くす楽華の傍へと一瞬で移動した。
その白井を放っておいて、新たに出現した駆動鎧は、立ち尽くす楽華の傍へと一瞬で移動した。
楽華「せ、先生……何でここに」
黒い塊は声を震わせながら新たな黒い塊に問いかける。
先生「何故って、貴方が遅いからですよ楽華。クリーナーは既に作戦のため第三位と幻想殺しの元へ向かって
います。貴方も早く合流しなさい」
楽華「ご、ごめんなさい。ぼく、その、第一位の介入を防ごうと」
先生「楽華。『ぼく』はやめなさいと言ったはずです。女の子でしょう」
楽華「ご、ごめんなさい」
先生「それと何ですかその体たらくは。よりによって読心能力と電撃を奪われるとは。作戦に支障が出るじゃな
いですか。修理代はお給料から引いておきますからね」
楽華「うっ……はい」
います。貴方も早く合流しなさい」
楽華「ご、ごめんなさい。ぼく、その、第一位の介入を防ごうと」
先生「楽華。『ぼく』はやめなさいと言ったはずです。女の子でしょう」
楽華「ご、ごめんなさい」
先生「それと何ですかその体たらくは。よりによって読心能力と電撃を奪われるとは。作戦に支障が出るじゃな
いですか。修理代はお給料から引いておきますからね」
楽華「うっ……はい」
禍々しい外見の駆動鎧だが、その姿は教師に怒られる生徒そのものであった。
白井はジリッと後退りつつ隙を窺う。
白井はジリッと後退りつつ隙を窺う。
先生「では適当に片付けますよ。時間がありません」
先生と呼ばれる駆動鎧は白井の様子などはお構いなしに、右手を空へ上げた。
楽華「こ、殺しちゃうの!? だってその子、先生の趣味でしょ!?」
先生「DNAは手に入りました。オリジナルと戯れる時間はありません」
白井「?」
先生「DNAは手に入りました。オリジナルと戯れる時間はありません」
白井「?」
楽華の視線は白井と先生と呼ぶ駆動鎧の間を行ったり来たりする。
何かに迷っているようだ。
何かに迷っているようだ。
先生「私は先に行きますから、貴方は研究所で装備を整えてきなさい」
楽華「文津幸美は?」
先生「放っておきなさい。何も出来やしません」
楽華「文津幸美は?」
先生「放っておきなさい。何も出来やしません」
その言葉を残して片方の駆動鎧が消えた。
白井はその事に詰めていた息を吐く。
経緯は不明だが、これでサイコメトラーが消えたわけである。
白井はその事に詰めていた息を吐く。
経緯は不明だが、これでサイコメトラーが消えたわけである。
白井「さて、ではわたくしもお暇させて頂きますの」
楽華「ちょ、バカ。今跳んだら死んじゃうよ!?」
白井「……はあ? まだ何か用がありますの?」
楽華「ちょ、バカ。今跳んだら死んじゃうよ!?」
白井「……はあ? まだ何か用がありますの?」
テレポートしようとした白井は面倒くさそうにため息をつく。
楽華が読心能力を持っていない以上、白井がここから勝つことは厳しいが、逃走することは簡単なのだ。
楽華が読心能力を持っていない以上、白井がここから勝つことは厳しいが、逃走することは簡単なのだ。
楽華「違うよ! 先生の複合能力は怖いんだよ! 今に上空の水分を冷やして出来たデッカイ雹が君目掛け
て降ってくるよ!!」
白井「雹? というか貴方、私を殺そうとしていませんでしたっけ?」
楽華「そ、それは……、だって、視られてるから」
白井「誰にですの?」
楽華「教授だよ。複合能力、十里飛眼《スカイスコープ》を持ってる……。でも、先生の大ざっぱな攻撃は関係
の無い人を巻き込みすぎるし、作戦とは関係無いし、教授も許してくれるはず……だよね。うん」
て降ってくるよ!!」
白井「雹? というか貴方、私を殺そうとしていませんでしたっけ?」
楽華「そ、それは……、だって、視られてるから」
白井「誰にですの?」
楽華「教授だよ。複合能力、十里飛眼《スカイスコープ》を持ってる……。でも、先生の大ざっぱな攻撃は関係
の無い人を巻き込みすぎるし、作戦とは関係無いし、教授も許してくれるはず……だよね。うん」
楽華は自分に言いかけるように頷く。
楽華「引き留めてごめんね。後はぼくがやるから大丈夫」
そう言って残った駆動鎧も白井の前から消え去る。
白井「……」
白井は一瞬、先ほどの文津の部屋に戻ろうかと思ったが、頭を振りその考えを掻き消す。
状況的に深追いは禁物だろう。
状況的に深追いは禁物だろう。
そして白井も跳んだ。後に静寂のみ残して。
◆
白井は何度かテレポートして、マンションから100メートルほど離れた建物の上へ降り立った。
右腕に出来た傷が冷たい風に撫でられてジクジクと痛む。
右腕に出来た傷が冷たい風に撫でられてジクジクと痛む。
白井「……お姉様」
先ほど、やや背が高い方の駆動鎧が言っていた言葉が気になった。
第三位と幻想殺し。
とにかく初春の元へ一旦戻ろうと、再び空間移動しようとする。
第三位と幻想殺し。
とにかく初春の元へ一旦戻ろうと、再び空間移動しようとする。
とその時、ダァーン!! という爆発音と、一瞬遅れて衝撃波が白井の背中から届いてきた。
咄嗟に振り向いた白井の目に、異様な光景が飛び込んでくる。
先ほど居たマンションの3割程はあろうかという巨大な質量の氷が屋上で『立って』いたのだ。
そして静止した氷が、丸ごと業火に包み込まれて、大量の水蒸気と共にその身を小さくしていくのだ。
咄嗟に振り向いた白井の目に、異様な光景が飛び込んでくる。
先ほど居たマンションの3割程はあろうかという巨大な質量の氷が屋上で『立って』いたのだ。
そして静止した氷が、丸ごと業火に包み込まれて、大量の水蒸気と共にその身を小さくしていくのだ。
しかし白井はその光景を見ながら、やけに覚めた頭で冷静に考える。
果たしてこの能力は大能力《レベル4》か、超能力《レベル5》か。
そんな大きな力で、自分が慕う御坂美琴に何をする気なのか。
果たしてこの能力は大能力《レベル4》か、超能力《レベル5》か。
そんな大きな力で、自分が慕う御坂美琴に何をする気なのか。
白井は踵を返すと、急いで空間を跳び越えた。
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