とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part28

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―あれから一週間―


 同日12時55分、屋上

「酷い目に遭った…」

 その後、あの諍いは通りすがりのデコの広いとあるクラスの委員長によっておさめられ、事なきを得た。
 青髪と土御門の上条に対する敵対心はものすごく、その委員長の五分ほどの説教の後にも、以前ならば『いつかみとれよ…』などの捨て台詞を吐いて終わるはずのところでも噛みついてきたのだが、そこで美琴の本領発揮。
 少量の電撃を二人に浴びせ、なんとか二人から上条を引き離し、今へと至る。
 今は屋上で、備え付けのベンチに腰かけ、二人並んで座っている。
 意外なことにここは穴場なようで、ここには二人以外の人影は見当たらない。
 春のうららかな日差しに二人は包まれ、春らしい心地よい風がそよそよと吹き、二人の髪を揺らしていく。
 まだ入学式して一週間程度だが、この高校ではここが美琴にとってお気に入りの場所となりつつある。
 夏場は日差しがキツくなってしまうので恐らくこれないだろうが、そうなる前はとても気持ちいい場所。

「大丈夫?」
「多分……いてて、あいつら本気でやりやがって……いつかみてろよ…」
「まぁそれだけのことが言えたら大丈夫ね。あんなことがあった後だけど、お弁当食べられる?」
「ちょっと右手が傷むけど、この程度なら大丈夫だと思う。と言うか、大丈夫じゃなくても食う!」

 この時を待ってましたと言わんばかりに、上条は美琴の口からでてきた弁当という単語に飛びつく。
 それを受けて、美琴はカバンから大小が少しある弁当箱を二つカバンから取り出した。
 その弁当箱はサイズの違いあるが、やはりお揃いの弁当箱。
 携帯もその内の一つだが、最近の美琴は身の回りの小物類はできる限り二人ともお揃いにしたがる。
 上条がここまでやる必要あるのかと問うても、アンタは黙って従いなさい、の一点張り。
 本当に拒否したときは許してくれるものの、基本的には上条に拒否権はない。

「はい」
「はぁー、やっと飯にありつけっ!!」
「えっ?ちょっとどうしたの!?」
「……右手で箸が握れねえ…思ったよりも指に力が入らん。やっぱりさっき少しひねったのがいけなかったか…」

 とりあえず箸を取り出してこれから食べようという時、握りかけた箸を痛みからか、握りそこなった。
 上条が痛みでそちらに気を取られている間、握りそこなった箸がカラカラという音をたてて地面へと落下していく。
 それに気づいて慌てて拾うが、時既に遅し。

「あーあー……悪い、ちょっと箸洗ってくるわ」
「え?あ、ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「?なんだよ」

 もちろんここは野外であるので、地面に落ちてしまったその箸を直後に使うのは気がひけるというもの。
 なので別に彼の行動にはなんらおかしいところはない。
 だがその彼を美琴は引き止め、箸を洗いに行くのを制止する。

「別にわざわざ洗いに行かなくても、お箸ならここにあるわよ」
「は?いやここにあるってそれお前のだろ?俺のは洗わないと流石に使えないって」
「そうよ、ちゃんと私のお箸があるからいいじゃない」
「だから、それはお前のだから俺は使え……って、まさかお前…」

 上条の頭の中をある一つの案がよぎった。
 それは様々な面が大人に近づきつつあっても、未だに根強く残る少女趣味な彼女がいかにも好きそうなこと。
 今でも時折執拗に迫られる時があること。

「当麻が何考えてるかは知らないけど、どの道当麻はお箸握れないんだから私が食べさせてあげるわよ。それならこの箸だけでいいでしょ?」
(……やっぱり)

 美琴はほんの少しだけ、照れたような表情を見せて、上条に向かって微笑んだ。
 食べさせる、それは何故だか彼女が好きな行為。
 以前から機会さえあれば、何度も彼女はこれをしようと迫ってきた。
 家でご飯を食べる時、外で二人で食べる時、弁当を食べる時。
 それこそ何度でも。
 その時々に上条はできる限り拒否の色を示し、彼女を怒らせるのが日々だった。
 だがしかし、今回ばかりは上手くかわせそうにない。
 今は利き手で箸を握れそうにないことから、無理に左手を使うからなどと言って押し切るにしても、そこをつかれては言い返せない。

「あー、うー…」
「こういう時くらい甘えなさいよ、何のための私なの?」
「何のためって他にも色々役割あるというか……いや、そういう意味じゃなくて…」
「何よ、別にここには私達以外いないんだからそこまで恥ずかしくもないでしょ?」
 いくら人の目が無いとはいえ、恥ずかしいことは恥ずかしいものだ。
 こういうことは理屈ではない。
 そこでふと、何故美琴の方はこれまで耐性ができているのだろうかと、上条は疑問に思う。
 以前ならばこういうことには必ずと言っていいほどに恥ずかしさからか、どもったりしていた。
 それが今このときは、前と比べればいたって平然と喋り、接している。
 無論皆無というわけではないのだが…

「……お前は、再会して間もないってのに、そんなことやって恥ずかしくないのかよ」

 だから上条は聞いてみた。
 胸の中に秘める小さな疑問の答えを求める問いを。

「……別に、恥ずかしくないといったらもちろんそんなことないわよ?今朝のだって、恥ずかしかった。……けどね」

 美琴は上条からの問いに、初めはキョトンとした表情を示したが、それも束の間。
 その後は淡々と感慨深げに話を始めてゆき、そこで美琴は一旦言葉を切った。
 そして、隣りに座る上条への視線を逸らし、逸らされた視線は空へと向かう。
 いつしかのような、雲一つない青空へと。

「恥ずかしいからってやりたいことせずに何気なく日々を過ごしてたら、もし万が一、当麻がまた私の目の前からいなくなった時にきっと、いや、絶対後悔する。少なくとも去年の私は後悔してたから…」

 それは美琴が去年した寂しい、辛い思いから得られた教訓。
 幸せや楽しいことは、ただ待っているだけではそうそうやってこない。
 例え恥ずかしいからと言っても、やれる時にやりたいことをして、自分から進んでいかなければ望むことは簡単には得られない、と。
 それを別れる前にしていなかったため、美琴は去年激しく後悔していた。

「だから別に恥ずかしくないなんてことはないし、むしろ今も前と同じようにちょっとは恥ずかしさもあるわよ?けど、自分から動かないとなかなか幸せはやってこないし、やらないと後悔すると私は知ってる。なら、必然的にやるべきことは決まってくるんじゃない?」
「………」

 美琴の独白を、上条は横やりをいれるわけでもなく黙って聞いていた。
 彼女の行動の理由の、一つ一つの言葉にこもっているものはとても重くて、意味があったから。
 上条のいない間に、彼女はとても強くなっていた。
 何をすればより気持ちよく前に進んで行けるか、今の生活を楽しめるかをちゃんと理解した上で、それに基づいて行動している。
 その行動を実行することでまとわりついてくる邪魔な感情を押しのけて。
 それに比べて自身はどうだろうか。
 この留年にしても、出席日数という大きな壁は確かに存在していたかもしれない、一年次の成績もあったろう。
 それでもそれを踏まえた上で、自分は何かをしよう、変わろうと少しでも思ったか。
 現実は留年は嫌だ、面倒くさいと言って、現実を直視していない。
 この一年間で、自分が得たものとは何かあるのか、と。

「……って、こんな話はもうお終い!ほらアンタもそんな辛気くさい顔しないの。時間もそんないっぱいあるわけじゃないんだから、もうご飯食べましょ?」
「ん?あぁ…」

 二人を包んでいた微妙な空気を、美琴がパッと振り払う。
 実際今の時間13時5分であり、午後の授業は20分から。
 彼女の言うとおり、あまりゆったりとしているほどの時間は残されてはいない。
 美琴は取り出した弁当箱の蓋を開け、箸入れから一対の箸を手に持った。
 弁当箱の蓋が開けられたことで、弁当の美味しそうな香りが、フワッとその辺りに漂う。
 そしてまず一口目を彼女が口にして、自身が作った弁当の出来を確認する。

「ん、我ながら美味しくできてる。ほら、当麻の弁当ちょっと貸して」
「ん、ほい」

 未だに少し上の空な上条は、少し前に渡された弁当箱の蓋を開け、それを美琴に渡す。
 もちろん自分で食べるわけではなく、事前に言っていたとおり、上条に食べさせるため。

「はい、あーんして」
「……あ、あーん」

 なんともぎこちない動きで上条は口を開けて、美琴が差し出すおかずがついた箸へと顔を近づけていく。
 上条は食べさせられることは初めてではないにしろ、年単位でご無沙汰していた。
 そのためか照れもあり、まだかまだかと待っている美琴を直視もできていない。
 やっとのことでその口は箸の先のおかずをとらえ、口を閉じる。

「……ん、ンマイ」
「そっかそっか。やっと毎日弁当作るのに慣れてきたとこだからまだまだ心配でさ」
「お前の作った料理で不味いのなんてないから心配すんなって。上条さんは作ってくれるだけでお腹いっぱい胸いっぱいですよ」
「そこで満足されるのもそれはそれで嫌なんだけど……まぁ美味しいなら別にいいけどね。まだあるからさっさと食べちゃいましょ」

 そう言って美琴はまた同じような動きで今度はご飯の方を箸でつかみ、上条へと差し出す。
 少し照れくさそうにしながらも、上条もまたその箸へ食いつく。
 周りに人がいないのでいいものの、その雰囲気はさながらまだ初々しいながらも、仲睦まじい恋人達のそれ。
 そういった二人の様子は、飢えている高校生達には目の毒でしかない。
 ましてやこの二人は最早クラス内では注目の的の二人。
 万が一誰かの目に触れられてしまったならば、大変な事件が起こることは必然。
 それでも、この空気を壊す原因となる人の目がない今、美琴は止まることはない。
 一方上条は、明るい美琴とは対照的に、先ほどのことで生まれた頭の中でもやもやと引っかかる何かを、未だに拭えないでいた。


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