想定外の邂逅[二つの世界]
上条の熱っぽい視線を余所に、美琴の胸中は複雑怪奇と化していた。
(「まさか同棲しているなんて…」)
銀髪シスターとはち合わせた時、電撃をぶっ放さなかった自分を褒めてやりたい。
上条とあのシスターの仲が良いのは理解していたのだ。
上条に関わるならばいつかはこうなることは目に見えていたけれど、こんな形になるとは想像すらしていなかった。
ようやく彼女の“帰ってきてくれる発言”の意味がわかってしまった。納得はしないが。
それに一級フラグ建築士、上条当麻が好きならばこの道は避けられない。
もう、つまらない劣等感に振り回されることは止めたのだ。
自分のやりたいこと、ありのままの自分を表現することに迷いは無い。
上条とあのシスターの仲が良いのは理解していたのだ。
上条に関わるならばいつかはこうなることは目に見えていたけれど、こんな形になるとは想像すらしていなかった。
ようやく彼女の“帰ってきてくれる発言”の意味がわかってしまった。納得はしないが。
それに一級フラグ建築士、上条当麻が好きならばこの道は避けられない。
もう、つまらない劣等感に振り回されることは止めたのだ。
自分のやりたいこと、ありのままの自分を表現することに迷いは無い。
「(…上等よ)」
さらに彼女との邂逅は美琴にとって望んでいたことでもある。
この機会を不意にするつもりはない。
未来の旦那のために、未来の出来る奥さんとして在るために!
この機会を不意にするつもりはない。
未来の旦那のために、未来の出来る奥さんとして在るために!
「(やってやるわ!)」
美琴は闘志を燃やし加速するっ!
「(……あれ?)」
前言撤回。
付け合わせとしておひたしを作るためにほうれん草を刻んでいたのだが…
包丁の手を止めて、美琴は現状を振り返る。
付け合わせとしておひたしを作るためにほうれん草を刻んでいたのだが…
包丁の手を止めて、美琴は現状を振り返る。
「(私は料理をしていて…そこには当麻がいて…今のわたしは無防備で…)」
そこで美琴の料理の師、土御門 舞夏の言葉がよみがえってきた。
(「男はだなー。料理をしている女の子の背中を見ているとだなー。ムラムラしてしまう、そんな哀しい性を持った生き物なんだぞー」)
「(ムラムラ!?私ムラムラされちゃうのっ!?あんなことやそんなこともっ!?)」
インデックスの存在を彼方に追いやって、美琴の暴走(+妄想)は止まらない。
(「まして裸エプロンをするとなー。男はいろんな意味で悦んでくれると思うぞー。上条当麻も例外では無いと思うなー」)
「(はっはは裸!?むむ無理よ!?そんにゃの無理!!!)」
そもそもまだそんな関係に至っていないのだが……美琴にとってそれこそ関係ないのか?
(「御坂もだなー、上条に頼まれたら断れないんじゃないのかー?」)
それに対して美琴はどう返したのか覚えていない。
恐らくテンプレ通り、ふにゃー化したのだろう。
恐らくテンプレ通り、ふにゃー化したのだろう。
「(今とうまに頼まれたら…)」
断れない、そう思う。
自分のやりたいことの中には、上条が自分に対して望むことも含まれている。
自分のやりたいことの中には、上条が自分に対して望むことも含まれている。
でも――
上条が自分に対して何か望んだことがあっただろうか?
彼は美琴に笑顔であることを望んでくれた、それだけ。
他に具体的に何かを望まれたことは………無い。
彼は美琴に笑顔であることを望んでくれた、それだけ。
他に具体的に何かを望まれたことは………無い。
わからない――と思う。
美琴と上条は付き合っているわけではない。
最初は告白しようか、と考えてもいた。
しかし告白とはあくまで一方的なものだ。相手に応えてもらって始めて恋人になれる。
つまり、どんなにこちらが想いを募らせても相手にその気が無ければ意味が無い。
だから、まず上条に美琴を好きになって貰うことから始めることにした。
最初は告白しようか、と考えてもいた。
しかし告白とはあくまで一方的なものだ。相手に応えてもらって始めて恋人になれる。
つまり、どんなにこちらが想いを募らせても相手にその気が無ければ意味が無い。
だから、まず上条に美琴を好きになって貰うことから始めることにした。
――惚れるより惚れさせろ――昔の人は良いことを言った。(惚れている時点で失敗してるだろ、おい)
冬休みの間、帰省先であろうと学園都市であろうと上条の都合が付く時間はほぼそれに費やしたと言ってもいい。
ただ一緒にいるだけでは異性として意識してもらえないだろうから、気絶寸前モノのスキンシップすら頑張った。
(おかげで美琴から攻勢に出ることに耐性が付いた)
加えて、“あの”上条だ。鈍感スキルでスルーされても困る。だから《約束》を作った。
無理やり交わしたとはいえ《約束》を上条は律儀に守ってくれる……罰ゲームでさえも。
罰ゲームにかこつけて親密になろうとする様は以前と変わらないかもしれない。
でも、“あんなこと”をしないと彼には気づいてもらえない、そう思ったから。
嫌がられている訳ではないと思う。本当に嫌なら彼はそう言う性格だ。
そんな素振りを見せることも無く、ただされるがままの上条。
ただ一緒にいるだけでは異性として意識してもらえないだろうから、気絶寸前モノのスキンシップすら頑張った。
(おかげで美琴から攻勢に出ることに耐性が付いた)
加えて、“あの”上条だ。鈍感スキルでスルーされても困る。だから《約束》を作った。
無理やり交わしたとはいえ《約束》を上条は律儀に守ってくれる……罰ゲームでさえも。
罰ゲームにかこつけて親密になろうとする様は以前と変わらないかもしれない。
でも、“あんなこと”をしないと彼には気づいてもらえない、そう思ったから。
嫌がられている訳ではないと思う。本当に嫌なら彼はそう言う性格だ。
そんな素振りを見せることも無く、ただされるがままの上条。
では好いてくれているのか?――それがわからない。
美琴は能動的で上条は受動的、それを繰り返していつも思う。
彼からなにか些細なことでも良い、本当に小さなことでもいいから動いて欲しい、と。
“結果として”彼から動いたことは無い。そう“結果として”だ。
一度だけ、彼から動こうとしてくれたことがある。といっても大袈裟なことじゃない。
ただ肩に触れようとしただけ、それを知ることができたのは偶然だ。
彼からなにか些細なことでも良い、本当に小さなことでもいいから動いて欲しい、と。
“結果として”彼から動いたことは無い。そう“結果として”だ。
一度だけ、彼から動こうとしてくれたことがある。といっても大袈裟なことじゃない。
ただ肩に触れようとしただけ、それを知ることができたのは偶然だ。
あれは学園都市で何回目かのデート(美琴はそう思っている)をしたとき。
私は彼と待ち合わせをしていた。
約束した場所にはまだ着いていなかったようで、暇つぶしに近くにあったアクセサリーを眺めていた。
店内に入って眺めていたわけではなく、外からのガラスケース越しにそれらを見つめる。
ガラスが鏡の役割を果たしていたのか、彼が背後から近寄って来たのがわかった。
申し訳なさそうな顔で呼びかけようとして、なにやら考え込んでいる様子。
困った顔が、小さく笑い、戸惑い、でも赤くして。
彼が私の事で百面相するのが嬉しかった。
私が原因で色々と考えている、その事実がなんだかたまらない。
すると彼はいつかのように顔を真っ赤にして手を伸ばし――――
私は彼と待ち合わせをしていた。
約束した場所にはまだ着いていなかったようで、暇つぶしに近くにあったアクセサリーを眺めていた。
店内に入って眺めていたわけではなく、外からのガラスケース越しにそれらを見つめる。
ガラスが鏡の役割を果たしていたのか、彼が背後から近寄って来たのがわかった。
申し訳なさそうな顔で呼びかけようとして、なにやら考え込んでいる様子。
困った顔が、小さく笑い、戸惑い、でも赤くして。
彼が私の事で百面相するのが嬉しかった。
私が原因で色々と考えている、その事実がなんだかたまらない。
すると彼はいつかのように顔を真っ赤にして手を伸ばし――――
―――あのときの当麻の顔が忘れられない―――
《イタイ》
そう表現するしかない、そんな顔。
言葉は便利なもので、何かを表すとき様々な単語がある。
そのときは、痛、怖、恐、悲、哀、惑、辛、涙、怯、苦、けれど、どれも当てはまるようで当てはまらない。
そんな表情を浮かべながら――
言葉は便利なもので、何かを表すとき様々な単語がある。
そのときは、痛、怖、恐、悲、哀、惑、辛、涙、怯、苦、けれど、どれも当てはまるようで当てはまらない。
そんな表情を浮かべながら――
――私の知らない上条当麻がそこにいた。
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「できたわよー」
その言葉を聞いてインデックスがなにやら瞳に星を浮かべ、落ち着かない様子。
そんな彼女を放置して上条は食器を並べ、料理を運び、美琴を手伝う。
献立は、親子丼、ほうれん草のおひたし、お吸い物。
しかし美琴は勘違いをしたのか上条とインデックスの分量を間違えていた。
そんな彼女を放置して上条は食器を並べ、料理を運び、美琴を手伝う。
献立は、親子丼、ほうれん草のおひたし、お吸い物。
しかし美琴は勘違いをしたのか上条とインデックスの分量を間違えていた。
「あー、美琴。すまん言い忘れてた」
「そのやけにデカイ器使ったけどまずかった?でも成長期なんでしょ?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
自分とシスターのどんぶりを交換する。
彼女の物に手を出そうとした時、凄まじい殺気を感じてしまったが、意図が分かったのかソレを引っ込めてくれた。
おまけに胸を張って堂々としている。これがあるべき立場なのだと。
彼女の物に手を出そうとした時、凄まじい殺気を感じてしまったが、意図が分かったのかソレを引っ込めてくれた。
おまけに胸を張って堂々としている。これがあるべき立場なのだと。
「食べきれるの?」
「あたりまえなんだよっ」
「見た目からは想像できねえよな、ははは…はぁ」
乾いた笑いにため息が続く。
察しが良いのか、美琴は食糧事情が理解できたらしい。
察しが良いのか、美琴は食糧事情が理解できたらしい。
「とーうーまー……」
「わかってる。もう大丈夫か?」
「(まるで家族の団欒風景よね…)…え?あ、うん」
上条が許可を得ようと聞いたのだが上の空だった。
呆けていたことに気付き、美琴は反射的に答える。
呆けていたことに気付き、美琴は反射的に答える。
「じゃあ」
「「「いただきますっ!」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事の様相はなかなか苛烈だった。
インデックスがショベルカーのように貪り、ブルドーザーのようにおかわりを奪って消化していく。
上条も奮闘するが、腹ペコシスターに8割以上奪われた。
美琴は予想以上の食べっぷりに目を白黒させていたが、どこか嬉しそうだ。
そんな感じで今は三人とも食後のお茶でのほほんと過ごしている。
インデックスがショベルカーのように貪り、ブルドーザーのようにおかわりを奪って消化していく。
上条も奮闘するが、腹ペコシスターに8割以上奪われた。
美琴は予想以上の食べっぷりに目を白黒させていたが、どこか嬉しそうだ。
そんな感じで今は三人とも食後のお茶でのほほんと過ごしている。
「ありがとうな」
「ありがとうなんだよ」
「え?」
突然の感謝の言葉に呆けたように驚く美琴。
「美味かった。本当に」
「とうまの100倍はおいしかったんだよ」
「…インデックスさん?はっきり言われると上条さんは」
「でも本当のことかも」
このシスターはいい加減に遠慮という言葉を覚えて欲しい、そう思う上条を無視してインデックスは続ける。
「短髪もなかなかやるんだよ」
「短髪やめて。私には御坂美琴って名前があるんだから」
「じゃあ…みこともなかなかやるんだよ」
「ありがとう。あなたのことは…インデックスでいい?」
「かまわないかも」
遭遇したときはどうしようかと思ったけれど、二人の様子に安心してしまう。
地下街で出会ったときからは考えられないくらいに温和な雰囲気だ。
地下街で出会ったときからは考えられないくらいに温和な雰囲気だ。
「ねえ、当麻?」
「なんだ?」
「このあと予定ある?」
「いや?無いな」
イギリスやロシアなどに飛ばされ出席日数が心配された上条だが、代わりに課せられた補習や課題は無事に年内に終わらせることができた。
それは周りの人間が彼を支えてくれたおかげだろう。
小萌先生、姫神、クラス委員である吹寄をはじめクラスメートには多大な感謝をしなければならない。
(もっとも、手伝ってくれたクラスメートがほとんど女子ということもあって、昼にあったようなことも起きた)
そして冬休みの課題は美琴に教わりながら頑張って終わらせることが出来たので、追加の課題は無い。
(美琴が年末の二の舞やデートの妨げになるのを恐れて、上条に即行で終わらせることを強いた為)
それは周りの人間が彼を支えてくれたおかげだろう。
小萌先生、姫神、クラス委員である吹寄をはじめクラスメートには多大な感謝をしなければならない。
(もっとも、手伝ってくれたクラスメートがほとんど女子ということもあって、昼にあったようなことも起きた)
そして冬休みの課題は美琴に教わりながら頑張って終わらせることが出来たので、追加の課題は無い。
(美琴が年末の二の舞やデートの妨げになるのを恐れて、上条に即行で終わらせることを強いた為)
「じゃあインデックスと二人で話があるから…」
「…あるから?」
美琴は笑顔で玄関を指さし―――
「出てって」
「………へ?」
家主へのこの言い様。
上条は突然、必然、唖然、愕然。
上条は突然、必然、唖然、愕然。
「なによ?女の子同士の会話を邪魔する気?」
「どうしたんだ?いきなり」
「もともとインデックスにも用事はあったのよ」
意外な用件を切り出されたので困惑の色が隠せない。
どんな内容か聞きたいところだが答えてはくれないだろう。
どんな内容か聞きたいところだが答えてはくれないだろう。
「話が終わったら連絡するから」
「……わかったよ」
「今度は忘れないようにね、携帯」
「はいはい」
釈然としないが大切な話かもしれない、そう思い携帯を掴んで外出する。
しかし―――
美琴はインデックスに用事があると言ったが、プライベートなものだろうか?
だが、互いの自己紹介を済ませたばかりの二人がどんなことを話すのか想像できない。
一抹の不安を覚えるが、あの二人なら大丈夫か、そう自分に言い聞かせて行き先も定まらないまま足を進めた。
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しかし―――
美琴はインデックスに用事があると言ったが、プライベートなものだろうか?
だが、互いの自己紹介を済ませたばかりの二人がどんなことを話すのか想像できない。
一抹の不安を覚えるが、あの二人なら大丈夫か、そう自分に言い聞かせて行き先も定まらないまま足を進めた。
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さて、と美琴はインデックス視線を向ける。
彼女も美琴の纏う真剣な雰囲気を察したのか居住まいを正している。
まるで夫の浮気相手を問い詰めるような雰囲気だ。
そこまで考えて苦笑してしまう。
彼女も美琴の纏う真剣な雰囲気を察したのか居住まいを正している。
まるで夫の浮気相手を問い詰めるような雰囲気だ。
そこまで考えて苦笑してしまう。
「(どっちが浮気相手なんだか…)」
それが案件ならば、ここにいるのが現在の私で良かった。
かつての私なら怒って彼を問い詰めるだろう。
でも今は違う。
かつての私なら怒って彼を問い詰めるだろう。
でも今は違う。
「(当麻にだって事情がある)」
そもそもそんな話をするために彼女と1対1になったわけじゃない。
だからこの雰囲気はなんとかしないと…
だからこの雰囲気はなんとかしないと…
「ねえ。インデックス」
「なにかな。みこと」
真っ直ぐにこちらを見つめて返す彼女。
「紅茶とココアどっちが良い?」
「え?…どっちでもいいかも」
「じゃあ…ココアで良い?」
「うん」
すでにあったお茶だけではなにかと続かないだろう。
台所にあるココアとカップを拝借して二人分用意する。
その間、電磁波によるレーダーで盗み聞きの存在に警戒するが…いないようだ。
念のため盗聴されないようジャミングする。今ので電子機器類が逝ってしまったかもしれないが、しょうがない、後で弁償しよう。
台所にあるココアとカップを拝借して二人分用意する。
その間、電磁波によるレーダーで盗み聞きの存在に警戒するが…いないようだ。
念のため盗聴されないようジャミングする。今ので電子機器類が逝ってしまったかもしれないが、しょうがない、後で弁償しよう。
「はい」
「ありがとうなんだよ。」
これで緊張がほぐれてくれるなら幸いだ。
「それで?聞きたいことってなにかな?」
「そうね。」
まずは彼女の誤解を解くことから始めよう。
「インデックスは当麻のこと好きなのよね?」
「もちろんなんだよ」
「私もよ」
その真っ直ぐな言葉に嫉妬してしまう、彼女の素直さに。
そこに辿り着くために私はどれだけ苦悩したことか。
そこに辿り着くために私はどれだけ苦悩したことか。
「今日聞きたいのはね?」
「うん」
「そういう話じゃないの」
「………え?」
驚いてる驚いてる。なんか可愛い。抱きしめてギュっとしたくなるような可愛さだ。
しかし、この話題と“あの”話題は関係ないのだろうか?根本的にはあるのかもしれない。
なぜなら私は彼が好きだから。失うわけにはいかないのだから。
しかし、この話題と“あの”話題は関係ないのだろうか?根本的にはあるのかもしれない。
なぜなら私は彼が好きだから。失うわけにはいかないのだから。
「じゃあ…みことは何を聞きに来たの?」
「逆に聞くけど、何聞かれると思った?」
「それは…なんで一緒に住んでるのとか…とーまとはどんな関係とか…」
「どんなことかは知らないけど事情があるのよね?」
「そう…だけど」
「なら私が口出しする問題じゃないわ」
「結局みことは何が知りたいの?」
焦れてきたらしい。
「前置きはこのくらいで十分よね」
「私が知りたいのはね……」
彼女を真っ直ぐ見据えて、告げる。
「――――――――――――――魔術のことよ」
ここまで来た以上、もう止まれない。