とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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とある右手の名誉挽回(キューピッド)


後日談

 いつもと少しだけ違ったあの日以来、上条当麻と御坂美琴の生活は一変してしまった。
 あの日の翌日には退院できた上条であったが、その横には“恋人”である御坂美琴が居て、しっかりと【赤い糸】という手綱を握られてしまっていた。(『恋人じゃないもん。奧さんだもん』とは美琴の弁……である)

 特に変わったのが上条の生活であった。変わったと言うべきか、美琴に変えられてしまったと言うべきかは、敢えて言わない。
 ただ、ちょっとした不幸(?)が原因であった。
 病院を出て、途中スーパーで食料品やら何やら(上条の部屋で使う美琴用の色々な小物)をイチャイチャ(本人達にはその自覚0)しながら買い物をしていたところを、とある人物に見られてしまったのだ。
 その人物とは、二人にとって決して見られたくない上条と美琴の双方を知る人物だった。彼女は早速その情報を兄である人物へと伝えた。色々と尾ヒレが付いていたことは言うまでもない。愛しの妹からの情報を鵜呑みにした彼は『デルタフォースの友情を裏切った奴には制裁が必要だにゃー』と、どす黒い声で言い放ち、すぐさま行動を開始した。
 “神より貸し与えられし浄化の力”を宿すその右手は、上条を『不幸にしたことなど無い』と言ったが、それは多分、『右手が“不幸”の原因ではない』ということなのだろう。どうやら“右手”とは全く別のところで、上条当麻は【不幸体質】を持ち合わせてしまっているらしい。

 そんな裏事情など全く知らない二人は、病院からスーパー、そして上条の寮までの間、初々しくもしっかりと手を繋いで仲良く歩いて帰って来た。

「ふ、不幸だ……」

 寮に戻ってきて、自分の部屋の入り口を見た上条の第一声である。
 入り口の前にはミカン箱大の段ボールが3箱『でで~ん』と置いてあった。箱の横には風で飛んでしまわないように、ガムテープでしっかりと貼り紙がしてある。

 『先週休んだ分+土曜日の補習用の問題集やテスト等 ・ 提出期限:月曜日 ・ 担任:月詠小萌』

 と、ワープロででかでかと書かれた貼り紙を見て、上条はいつもの口癖を呟くしかなかった。
 実は、小萌先生が出した補習やら追試用のテスト等は確かにそれなりの量ではあった。だが、段ボール3箱分もあるはずがなかった。それを段ボール3箱分にまで増幅させたのは(お気付きの方も多いと思うが)この部屋の隣に住む人物であった。
 彼は妹からの電話を切ると部屋を飛び出し、もう一人のデルタフォースに連絡を入れ、自分たちに出された分+クラスメイトらの分などの補習資料をかき集め、段ボール箱に詰め込み、貼り紙をして上条の部屋の前に置いたのである。そして、自分たちは部屋で待機し、隣室の様子を伺いながら、事ある毎にジャマをしてやろうという魂胆であった。

 ところが……彼らの演算(企みとも言う)には大きな誤算があった。
 そう、御坂美琴の存在を計算に入れていなかったという点である。彼女はレベル1から努力のみでレベル5になった稀有な例として知られており、その功績は教育指導の模範とされている程の存在だ。
 美琴も上条と同じく、部屋の前に置かれている段ボールとその横に貼られた貼り紙を見て、最初は唖然としていた。
 しかし、この状況を見ただけで唖然としたまま、上条のように『不幸だ……』と呟いて事態を打開しようとしない。などという行動を彼女が取るはずがなかった。美琴は“目の前にハードルがあれば、飛び越えなければ気が済まない”性格なのだ。
 しかも、今日は上条と一緒に病院から帰ってきて、この後色々とやりたいことがあった。
 二人で一緒に部屋を片付け、二人で一緒に食事を作って、それを食べたかった。そして何より、二人一緒に他愛ない時間を過ごし、時には甘え、通じ合った気持ちを育みたかったのだ。
 その想いを踏みにじるように置かれた段ボール3箱を見て、彼女は自分の中のスイッチが次々と“ON”になっていくのを止めようとは思わなかった。

 部屋の前でorzの姿勢を取っている上条の後ろで、スイッチが既に入ってしまった美琴は『ゴゴゴゴゴゴゴ……』と彼女をレベル1からレベル5にまで押し上げた“努力”という名のオーラを身に纏い、上条の背中越しに段ボール箱3箱を見つめていた。
 この時、段ボール箱に押し込められた補習資料や追試テスト達は、箱の外から押し寄せてくる超強烈なプレッシャーにその身を縮こまらせていた。そして、自分たちをこんな状況に追い込んだ隣室に息を潜めて隠れているデルタフォースの残り2名を間違いなく恨んだのだった。

「……当麻……、やるわよ!」

「ヘッ!?……あ、あの……み、美琴……」

「いいから!!……やるわよ!!!」

「(ビクゥッ!!!!!)……な…ななななななななな何をそんなにやる気になっておられるんでせうか?」

「この課題、サッサと片付けちゃいましょ?……イイわね。やるわよ!!!」

「お、お前なぁ……そんなコト言うけど……この量だぞ。そう簡単に終わる訳が……」

「ああ~もうッ!!ゴチャゴチャうるさいっ!!!!!ウダウダ言ってるヒマがあったら、まず動く!!!」

「ヒッ!!!」

「サッサとカギを開けて!段ボールを玄関の横に置いて!!カゼひいてんだたから、部屋の中散らかしっぱなしでしょ?ゴミ拾って、要るモノと捨てるモノに分けて!!!その間に私は買い物の片付けとか洗濯をするから!!!!ちょっと寒いけど、窓開け放って部屋の掃除もやっちゃいましょ?イイわね!!!!!!」

「は、はひぃぃぃいいいいい~」

 美琴の勢いに気圧された上条は、彼女の言う通りにするしかなかった。
 スイッチが入ってしまった美琴の行動力は、上条の想像を遥かに超えるモノだった。
 食料品や小物などをテキパキと冷蔵庫や食器棚に収めていく速度が尋常ではない。まるで、もう既にそこが居場所であったのではないかと錯覚するほど適切で、しかもキチンと収まってゆくのである。
 掃除する段になって、上条は信じられないモノを見ることになる。
 美琴がいきなりベッドをフワリと持ち上げたのである。美琴曰く、床の鉄骨とベッドのスプリングに磁気を帯びさせ、互いに反発させているから重さはほとんど消えているのだという。リニアモーターカーの原理だが、上条はそれを自分の部屋の中で見ることになるとは思わなかった。
 部屋のスミに溜まったホコリを集めるのも、静電気を自在に操って掃除機を使うよりも短時間で、しかもより綺麗にしてしまった。
 美琴はある程度の掃除が終わった時点で、拭き掃除などの仕上げを上条に任せると、食事の支度に取りかかる。正に八面六臂の大活躍だった。

 昼食は宿題をやりながら食べられるもの。ということでサンドウィッチに眠気覚まし用のコーヒーに決定。美琴の作ったそれは見た目はありふれたモノだったが、味の方は何処に出しても恥ずかしくない。と思える程のモノだった。
 だが、その至福のサンドウィッチを食べながらも、上条は地獄に突き落とされた気分だった。段ボール3箱分の課題の山を今日中に片付けてしまわねばならないからだ。
 一方美琴は食事もソコソコに、その段ボール3箱に収められた中味を調べ始めていた。そして、その中味がおかしいことに気付いていた。同じものが2~3冊入っていたり、どう見ても上条レベルでは解けない内容の問題集が入っていたりするからだ。

(ウーン…どう考えてもヘンよね、コレ。でも、貼り紙には先生の名前があったし……何かの意図があるんだろうし……)

 この件を仕組んだデルタフォースの二人は、この宿題の山を見たら彼女は上条のレベルの低さに愛想を尽かすだろうと踏んでいた。
 つまり、彼らが描いたシナリオはこうだ。

 彼女と一緒に上条が帰ってくる。⇒ 部屋の前に置かれている宿題の山を彼女が見る。⇒ 上条のレベルの低さに彼女がショックを受ける。⇒ 彼女に捨てられる“不幸”な上条。⇒ 一人取り残され、宿題をやる上条。⇒ 中味を調べることなく、全ての宿題を明日の朝まで徹夜して仕上げる。⇒ 自分たちは宿題をせずに済む。

 というモノだった。
 ところが、美琴は上条を見捨てなかった。いや、見捨てる以前にこの宿題の山を見た途端、自身のスイッチが入ってしまい、この宿題というハードルを飛び越えることしか考えなかったと言って良い。
 しかも、上条ならば宿題の中味を調べることもせずに、ただ淡々とそれと向き合っていただろうが、美琴はまずその内容を調べることから始めた。そして幾つモノ資料が重複していることを発見し、それを出した担任の意図を推察しようとしている。
 コトの一部始終を隣室で探っているデルタフォースの二人は、全く思い通りに進まない展開にヤキモキしていた。このままではヘタをすれば、自分たちの身が危うくなる。担任の小萌先生に電話でもされたら、全てが終わってしまう。上条一人が相手なら、絶対にそんなところにまで気が回らないだろう。だが、今の相手はこの学園都市に7人しか居ないレベル5の第3位なのだ。学園都市が世界の誇る、超お嬢様学校【常盤台中学校のエース】なのである。デルタフォースレベルの悪巧みが通用する相手ではない。
 美琴は自身のセンサーのレベルを上げてみた。すると隣室に息を潜めている二人が居ることを感知した。こちらの部屋の壁に耳を当ててこちらを探っているのが美琴には“見えた”。そして『ピンッ!』と来たのである。

(何らかの意図がある)その答えが出たのだ。

 状況を理解した美琴の行動は早かった。
 まず隣室の潜伏者(バカ)達に気付かれぬように筆談で上条に状況を伝え、担任の先生に連絡を取らせた。
 そして、自分に出された分の課題の内容を確認させ、その上で現在の状況を説明するように伝えた。もちろん隣室の二人には気取られぬように、上条をバスルームに移動させた上でだ。
 連絡を受けた小萌先生は大凡の状況を理解した。そして、デルタフォースの残り二人の悪巧みを瞬時に見抜いた。小萌先生は【出来ない子】の面倒をみるのは大好きだが、【ズルをする子】は大嫌いなのだ。
 上条からの電話を受けた小萌先生は、すぐに上条達が居る寮に向かい、上条の隣の部屋に突入した。突入時に結標淡希の能力【ムーブポイント】が役立ったのは言うまでもない。蛇足だが、小萌先生はいきなり天井近くに出現し、二人の後頭部を踏みつけて仁王立ちしたという。大人の小萌先生を怒らせると怖いのだ。
 そして上条の部屋を訪れ、デルタフォースの二人がかき集めた分の宿題を持って隣室へと再突入していった。その後、隣室から小萌先生にしごかれながらかき集めた宿題をやらされる二人。明日から1週間『すけすけ見る見る』を補習として受けることを約束させられた二人は、小萌先生が帰る頃には真っ白に燃え尽きていたという。

 一騒動遭ったモノの、今は落ち着いて美琴に教えて貰いながら、上条は出された課題に取り組んでいる。
 美琴からすればイライラしてしまうほどの速度なのだろうが、上条からしてみれば信じられない速度で宿題をやっつけていることになる。
 第一、段ボール箱3箱分などという量ではなくなったことが何よりも、気分を楽にしてくれていた。とは言え出されている宿題の量は確かに多い。が、美琴の支援もあって今のペースでやっていければ夕食までには片が付きそうだった。

 一方美琴にとっても、ドタバタはあったモノの上条との時間を確保出来たことに満足していた。
 実は美琴は、どうしても上条に聴いておきたいことがあったのだ。
 それを夕食時に勇気を出して聴いてみようと思っていた。
 だが、あの量の宿題があったなら、それも聴けないところだった。
 その壁が取り払われたのだ。もう彼女を止めるモノは存在しなかった。

 今夜のメインメニューは、この季節には有り難い温か~いシチューである。もちろん師匠である舞夏直伝の味付けが施されている美琴自慢の逸品である。
 大量の宿題を終えた上条は今、風呂に入っている。美琴は付け合わせのサラダを盛り合わせているところだ。

「あ゛~……イイ風呂でした~。オッ、美味そうな臭いだ」

「もう出来るから、座って待ってて」

「ありがとうな、美琴。しかし、こうしてると新婚さんみたいだな~」

「(し、しししししししし新婚~ッ!!!!????)……ふ、ふ……」

「ン?……どうした?美琴?」

 その時、上条の不幸センサーがアラームを鳴らした。
 『ヤバイッ!!!』
 そう思った上条は、神速モードで美琴に駆け寄り、右手で頭を撫でる。

「……ふ……ふにゃぁあ~……(バチッ!…バキィンッ!!)」

 上条の放った“新婚”の一言に過剰反応してしまった美琴は、漏電しそうになった。
 それを上条が【幻想殺し(イマジンブレーカー)】で止める。
 後一瞬遅かったら、上条宅の家電製品のほとんどはその役目を終え、成仏していたところだった。

「お、オイ、美琴。大丈夫か?」

「あ、当麻ァ~……ふにゃぁあ~……」

「あ、あの、いきなり漏電モードになられても……困るんですけど……」

「ヘッ!?……あ、アレ?……わ、私、どうしたの?」

「それはコッチが聴きたい……」

「あ、ご、ゴメン。……でも、何でだろ?」

「さあ……?」

 (さあ……?じゃねぇだろが……ったく)
 とツッコミを入れたくなるのは我慢しても、二人のデレイチャモードを止める者は居ない。止められない。
 正直、筆者としてもこれ以上は書く気が失せるほどのデレイチャぶりである。

【閑話休題(それはさておき)】

「「いただきます」」

 初めての二人だけの二人揃っての夕食。美琴にとってはそれだけで幸せだった。
 今までも食事を一緒にしたことはあったが、二人だけの空間で……というのは初体験だった。
 帰る前に挨拶に来られた小萌先生には、ちゃんとお裾分けのシチューを渡してある。
 こういう気配りが出来るのも、美琴だからだろう。
 但し、渡したのは上条で、美琴はその時姿を隠していたのは言うまでもない。
 ということで、二人揃っての楽しい時間が始まった。

「ん!美味い!!……けど……」

「えっ!?……け、けど……何?」

「ウーン、どっかで食ったような……味だぞ……」

「えっ!?うそっ!!」

「いや、確かに食った味だ。……何処でだったっけ?」

(そ、そんな……この味は舞夏直伝の味よ。こ、コイツまさか……舞夏とまで関わりが……)

「そうだ!!隣の土御門んトコだ!!!」

「ええっ!?な、何で当麻の隣に舞夏が住んでるのよ!?」

「ヘッ!?……ああ、違う、違う。隣に住んでるのは舞夏のアニキだよ。オレのクラスメイトなんだよ、ソイツ」

「えっ、そうなの?」

「そうだぞ。それより美琴こそ、舞夏と知り合いなのか?」

「う、うん。舞夏は繚乱家政でしょ?で、常盤台の寮に修行によく手伝いに来てるから、顔見知りなの」

「そっか、しかし、世の中って広いようで狭いよな」

「そう言われるとそうね。でも、隣の人って……」

「あ、アハハ……今日のドタバタの首謀者……だったらしい」

「……(ピンッ!!)……」

「ん?どした、美琴?」

「何でもないわ……ただ……」

「ただ……?」

「今度一度、舞夏をとっちめなきゃって思っただけ」

「(う、うゎわぁぁ……こ、怖えぇぇぇ……)」

「あ、と、とととととところでさ……ちょっと聴きたいことがあるんだけど……イイかな?」

「ん……ングッ……な、何だ?」

「あ、ああああ、ああああああああああのね・・」

「美琴、落ち着け……」

「う、うん……スーハー、スーハー……あのね……」

「ああ」

「き、昨日、私のこと“好きだ”って言ってくれたじゃない?」

「(ボンッ!!)グッ!?ブホッ、ゲホッゲホッ!!……い、いきなり……何を!?」

「す、スゴく嬉しくって、私も泣いちゃって……聴けなかったから……今日、聴こうと思ってたんだけど……」

「う……ンンッ…ゴホッゴホッ…ハァ……あ~、ビックリした……それで?」

「い、いつから……私のこと……“好きだ”って思って……くれてたのかな……って……」

「……」

「ねぇ……教えて……(じぃ~~~~~~~~~~~)」

「(出たね。出たよね。出ましたね。の3段活用。……じゃなくって、出たな、美琴の必殺技【上目遣い攻撃】……コレで堕ちない男は……いない)……ハァ」

「ねぇ……(じぃ~~~~~~~~~~~)」

「……あ、あのさ、美琴」

「え?……何?」

「オレはお前みたいに頭も良くないし、自分の気持ちもあんまり掴みきれてないから……、ちゃんと説明出来ないと思う。それに、もしかするとお前を傷つけることになるかも知れない……それでもイイのか?」

「あ……うん……でも、やっぱり聴きたい……」

「分かった……」

 上条は暫し天井を見上げながら、ゆっくりと思い出すように語り出した。

「オレ、あの夏休み最後の日に、ある奴と約束したことがあるんだよな。ソイツは海原に化けていた奴なんだけど……『御坂美琴とその周りの世界を守る』って約束をしたんだよ」

「えっ!?(ボンッ)~~~~~~~~~~~~~~~」

「本当はそんなヤツと約束するなんておかしな話だよな。そういう約束するんなら、ちゃんとお前にも伝えなきゃいけない。でも、その場はそれで良いかなって、終わらしてたんだけど……」

「……(い、言えない。ま、まさか、聴いてたなんて……絶対に言えない)……」

「あの戦争の時にさ、美琴が最後の最後に助けに来てくれただろ?オレは自分の意志でそれを断ち切ったけど……。まだやらなきゃならないこともあったし……さ。あの時、ホントに嬉しかったんだ……。でも、同時にメチャクチャ腹が立ったんだ……」

「えっ!?」

「だって、オレにとっては守るべき存在である美琴が、わざわざ俺を追いかけて戦争のまっただ中に来てるんだぜ。そんなの許せる訳無いよ。『オレは何て莫迦なんだろう』って自分にメチャクチャ腹が立ったんだ……」

「あ……」

「その後色々あって、なんとか学園都市に戻って来れて……でも、色んなモンを失ってて……美琴を一杯泣かせて……でも、なんとか日常を取り戻せて……」

「……うっ……ひっ……ひくっ……グスッ……うっ……ううっ……」

「そんな時に昨日の一件が起こってさ……」

「(ビクッ!!)」

「昨日、記憶が全部戻ってるのが分かったけど……それって、昨日見た“夢”が原因だと思うんだよな」

「夢?」

「うん……それまでは確かに断片的なモノ、記憶みたいなのはあったと思う。ただ、それが全部バラバラでさ、繋がらなかったんだよな」

「それって、風邪で寝込んでた時に見たって言う……」

「そう、それ。……でもさ、その後美琴と追いかけっこしただろ?あの時もそれはまだゴチャゴチャしてて、記憶だなんて気付けなかったんだよ。そうまるで、ジグソーパズルを始める前みたいにピースが全部バラバラでさ、それも袋か何かに入ったままのような、何の絵なのかも全然分からない状態だったんだ」

「……そう、だったんだ……」

「ところが、昨日はさ……結構ハッキリ覚えてるんだけど……もの凄く綺麗なところに居てさ……何かこの世じゃないような感じだったな。“特別な場所”っていうか、何て言うか……上手く言えないけど……」

「……うん……何となくだけど、分かるよ……」

「そこで、その場所以上にもっと綺麗な……何か“繭”みたいなモノの中にオレは寝かされてたんだ。で、そこで誰かがオレに聞いて来たんだよ」

「……何を聞いて来たの?」

「色んなコトを聴かれたと思うんだけど、全然覚えてないんだ……。でもこれだけは覚えてるんだよな。『お前は目の前にある者を沢山救ってきた。だがもし、たった一人しか救えないとしたら、お前は一体誰を救うのだろうな?』って聴かれたんだよ……」

「で、……どう答えたの?」

「……答え……られなかった……」

「えっ!?」

「オレは、目の前で誰かが泣いていたら、誰かが救いを求めていたら、そいつを助けたいと思う。オレってそういう奴だからさ……。だけど、たった一人しか選べないとしたら……何て状況を考えたことがなかったんだよ。だから……選べない……と思ったんだよな……。……でも……」

「でも……?」

「悩んでる最中にフッと目を開けたらさ……美琴の顔が見えたんだよ。目に涙を一杯に溜めて、ホントに心配そうにオレを覗き込んでる美琴の顔がさ……」

「(……あ、あの時……の……)」

「その瞬間に分かったんだ。オレはお前を選ぶんだって。上条当麻は御坂美琴を最後の最後に選ぶんだって。その瞬間に分かったんだ。そうか、そうだったんだ。って……もの凄く納得出来たんだ。……そうしたら、全部のピースがその瞬間に並び変わったような気がして……」

「ピースが並び変わったって?」

「で、気がついたら……美琴に告白してて、記憶も戻ってたってコトに気が付いた……」

「……」

「だから……美琴を“好きだ”って分かったのは……ホントに昨日って言うか……ついさっきみたいなモンなんだよ」

「そう……なんだ……」

「……ゴメン……」

「な、何で謝るのよ!?……だって、だって当麻は……その気持ちに気付いた時に、ちゃんと私に告白してくれたんでしょ?」

「……ああ、それは間違いないよ……。でも、それは……美琴が素直だったから、オレも自分の気持ちに素直になれたからだ……。全部お前の、美琴のお陰なんだよ」

「ううん、そんなこと無いよ。私なんて、ホントに何度素直になろうって思っても……全然出来なかったんだよ?当麻の方がキチンと自分の気持ちに気がついて、その時に正直に伝えてくれたんだもん。本当に嬉しかったんだよ。ワンワン泣いちゃうぐらいに、ホントに嬉しかった……」

「……でも……ホントは、もっと早くに気付いていなきゃいけない気持ちだったんだって……今になると思うんだよな、ただ……」

「ただ……?」

「コレはコレで良かったのかも?……とも思うんだよな。美琴には悪いと思うけど……」

「そ、それは……そうかも……知れない……(カナ……ゴニョゴニョ……)~~~~~~~~~~~~~~~」

「美琴に『プロポーズでしょ?』って迫られた時に、少しずつで良いから一緒に前に進んで行きたいって言っただろ?アレは、このことを経験したから言えたことだったんだよ」

「……そ、そうなんだ……」

「美琴に告白して、美琴がオレの恋人になってくれて、オレにとっては美琴は何物にも代え難い存在になった。オレは美琴が居るから、今度もし何処かに誰かを救いに行くことがあっても、絶対にここに帰ってくる。どんなことをしてでも絶対に生き延びて、そしてここで『美琴と美琴の周りの世界を守り続ける』って言う約束を絶対に果たすんだって、今は思えるんだ」

「(ボンッ!!!!!)~~~~~~~~~~~~」

「だからさ、美琴。今度は本当にお前に誓わせて欲しいんだ。何処の誰かも分からない奴じゃなくて、オレが世界で一番大切な美琴に誓わせて欲しい」

「そ、それって……あ、あの……」

「オレは、上条当麻は、御坂美琴と御坂美琴の周りの世界を必ず守り続ける。そして御坂美琴を絶対に幸せにしてみせる。その為にはオレは絶対に死んじゃいけないんだ。生きて、生き抜いて、御坂美琴と美琴の周りの世界を守り続けると誓う。だから、美琴もオレと一緒にその世界を守って欲しい」

「……ホンットに……ホンットに、アンタって奴は……」

「エッ!?」

「……ホンットに、……ホンットに……アンタって奴は……どうしてそんな気障なセリフを……」

「……あ、あの……み、美琴……?」

「そんなコト言われたら……、そんなコト言われたら……」

「え?」

「絶対、一生、当麻と一緒に守るって言うしかないじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……美琴……」

「バカ、馬鹿、莫迦、バカ、馬鹿、莫迦、ホンットにバカなんだからッ!!!!!!!!!!!!!!」

「……お、オイ……」

「私が一体どれ程、当麻に惚れ込んでると思ってるのよ!?私にとって、当麻は必要不可欠な存在なの!!!絶対に居なきゃいけない存在なの!!!当麻が居ない世界なんて私にとっては地獄そのものなのよ!!!だから、当麻は絶対に私の許に帰って来なきゃダメなの!!!!!だから……だから……」

「……美琴……」

「私も当麻に誓う。絶対に当麻と一緒に幸せになるって。当麻と一緒に私も幸せになって、私の周りの世界を守ってみせるって。だから…だから…絶対に私を離さないで!!!!!!!」

「ありがとう……美琴」

「絶対に離しちゃダメなんだからね!!!」

「分かってる!」

「ずっと、ずっと、一緒なんだからね!!!!」

「ああ、ずっと、ずっと一緒だ!!」

「私を幸せにするのは当麻の義務なんだからね!!!!!」

「分かった。必ず幸せにしてみせる!!!」

「私だけ置いてけぼりにしたら、今度こそ許さないんだからね!!!!!」

「ああ、今度は絶対に一緒だ!!!!!」

「……ああ、当麻、当麻、当麻ァ……」

「美琴……愛してるぞ」

「私も……当麻のこと……世界で一番愛してる」

「……」

「……」

 互いに見つめ合い、何も言わずに目を閉じて唇を重ねる二人。
 言葉はもう要らない。
 互いの気持ちを確かめ合った二人は、永遠の絆を手にした。
 その絆は【幻想殺し(イマジンブレーカー)】であっても絶対に壊せない【幻想】ではなく【確固】たる現実のモノとしてこの世界に現れた。
 例え神の力であっても、この絆を壊すことは出来ないだろう。
 いや、この絆こそ、愛こそが神の力の源なのかも知れない。否、そう信じることが大切だ。
 神がこの世界を人に託し、人が神に応えようとする限り、世界は必ず良き方向に向かうだろう。

 当麻と美琴の二人には、これからも様々な試練(不幸)が襲いかかるだろう。
 でも、心配は要らない。この二人ならきっと切り拓いていけるだろうから。


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