とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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生き方、在り方、考え方[ふたりの道]


――――――私の想いは届いたのだろうか?

必死に、縋りつくように、抱きしめてくる少年を見て思う。
私が中学生にすぎないならば、彼はただの高校生にすぎない。
少しだけ特異な能力を持って生まれただけの少年。

「いたいよ」

そのはずなのに、どうしてこうなってしまったのか。
どうしてここまで強い意志を持って、この生き方を選んでしまったのか。

「いたいよ。とうま」

本当に、いたい。
もっとずるくて、賢い生き方だってあっただろうに…
でも、それはきっと上条当麻じゃない。
こんなにも不器用で、真っ直ぐで、真剣だから。
私も好きになったのだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「落ち着いた?」

「…ああ」

あれからどれくらい時間が経っただろうか。
しかし、お互いにお互いを離さない。

「…こんなときなんて言えば良いんだ?」

「私に聞かないでよ」

デリカシーの無い奴だ。でも彼らしい。

「とうま?」

抱き合っているせいで表情はうかがえない。
不安を感じて離れようとするが……

「悪い」

離れようとする体をより強くギュっと抱きしめられる。

「もう少し」

「あう」

こんな風に正面から抱き合うのは初めてだ。
その事実に加え、彼からこんなに強くされるのは。

「もう少しだけ…こうさせてくれ…」

「…うん」

そういったものの、いろいろとヤヴァイ。
彼から感じる温かさとか腕の逞しさとか匂いとか。
溶けてしまいそうだ。いやもう溶けている。とろけている。

「なあ…美琴」

「うぇ?」

愛しい人から声をかけられて、情けない声が出てしまった。

「…キス…していいか?」

「うぇぇ?」

KISS?キスって言った?接吻?するの!?しちゃうの!?

「………ダメ……か?」

「ッーーーー!!ダメじゃない!ダメじゃ……ない」

耳元で囁かれて昇天してしまいそうだった。
繰り返すが彼からされたことなんて無い。
自分からするのと相手からされるのでは意味がかなり異なる。
そんなことされたらどうなるかわからない。
でも、彼から動いて欲しい、そう期待していたではないか?

「(大丈夫。大丈夫。たぶん)」

もう何度も予習は済ませてある。
想像の中で、夢の中で、体験実習をバッチリ済ませた。
ならば本試験に臨むだけなのだ。
筆記用具は?消しゴムは?受験票は忘れてないか?

「美琴」

「え?」

呼びかけられたことに気付いて彼の顔を見た、その一瞬―――私は彼と唇を逢わせていた。
それはただ重ねるだけの簡単なもの。荒々しいものでもなく、貪るようなものでもなく。

――――――優しい――――――

それだけで私は意識を飛ばしてしまった。


________________________________________________________________________________


「………あれ?」

「起きたのか?」

美琴は気絶していたことに気付いたらしい。
とはいえ、わずか数分程度なので気絶と表現するのは大袈裟かもしれない。

「もしかして気絶してた?」

「ああ」

その返答に美琴は噴火した火山のように赤面する。
彼女が今まで積み重ねた経験は攻勢に出るものばかりなので、防御は慣れていない。
免疫があるのか、それともないのか、微妙なところに笑みがこぼれてしまう。

「びっくりしたぜ?今まであれだけ人の唇を蹂躙しておいて気絶すんだもんな」

呆れるように言う上条。

「うるさいわねっ!私からすることはあっても当麻からしてくれたことなんて…」

無いじゃない、と呟く美琴。

「俺からするのはダメなのかよ?」

「ダメじゃない」

即答。しかし今までの不安は一度流れ出すと止まらない。

「不安だったんだから…もしかしたら迷惑なんじゃ…って思うと…」


「………はあぁぁぁ」

わかってない、そう言うかのように上条はため息をつく。

「あのなぁ。あれだけされれば意識すんなってのが無理だろ」

でも、と反論しそうな美琴を、ストップ、そう言って上条は遮る。最後まで話を聞いてくれ、と加えて。
悩むように、目を瞑り、それでも目を開いて、美琴を見据えて説明する。

「……怖かったんだ」

「惹かれていることに自覚はあったよ」

「でも、それすら怖かった。だからその気持ちすら遠ざけようとした」


上条は周りから鈍感扱いされている。
でもそれは本当だろうか?
鈍感とは他者の気持ちに鈍いことを指す。
ならば誰かが困っていることにすら気づけないはずだ。
でも気づける。なぜならその経験があるから。皮肉にも、不幸体質であるが故に。
ではなぜ他者からの好意に鈍いのか?それもまた不幸体質であるせいかもしれない。
それが原因で彼は幼少期に暗黒時代を送っている。
周りの人間は彼を遠ざけ、それに巻き込まれることを恐れた。
だから他者から好意を向けられることに慣れていないのかもしれない。
人格を構成する過程で、多大な影響をうける幼年期ならば尚更だ。

しかし、好意が向けられていることを自覚してしまい、好意を向けてしまったら?


「俺は不幸体質だから」

「いつかそれが好きな人を傷つけてしまうかもしれない、その時が怖かった」

「いや、それは言い訳かもしれない」

「それに傷ついて、好きな人が俺から離れていくのが怖かったんだ」


その経験があるのかどうか、記憶を失ってしまった今では確かめる術は無い。
しかし、その経験が無くとも厄介なことに想像というものがある。
恐怖を想像すればそれだけで体に経験として刻まれる。
考える、悩む、それも立派な経験だからだ。
人の想像力を侮ってはいけない。思いこみだけで人は簡単に壊れ、歪む。
そこから生まれた防衛本能。つまり大切な存在をつくらない。

――だれかを愛することさえしなければ、傷つくこともないのだから――

それはありふれた台詞。
普遍的な考え方であるからこそ、辿り着き易い。


「正直、今も怖い…でも…もう無理だ…」

「あんなこと言われたらどんな男だって落とされちまうよ」

ずるいだろ。反則だ。美琴は。そう言って上条は見つめる。

「もしかしたら俺の不幸に巻き込んでしまうかもしれない」

“不幸に巻き込むのが怖い”それすらも押しつけかもしれない。
自己満足で遠ざけても、彼女は彼女の理由で傍にいると言った。
ならきっとそれに意味は無い。そしてそんなことさえ言い訳だ。

「それでも美琴の傍に居たい。離れたくない。美琴と一緒に―――――笑いたい」

大切なのは自分の気持ち。自分がどうしたいのか。これからどう生きたいのか。


「だから」

だから―――

「一緒に」

共に―――

「これからもずっと」

死が二人を分かつまで―――

「それこそ果てなんて無いくらいに」

それこそ『死』なんて壊してでも―――

「俺と付き合って欲しい」

―――美琴と愛し合いたい―――





「ッーーーーー!!」

対して美琴は戸惑った。

「(ふにゃにゃにゃにゃにゃぁぁーーっ!!)」

まるでプロポーズだ。ここまで要求した覚えはない。

「(こんなときになんて言えばいいのよっ!!)」

上条は本当に極端すぎる。好きと言ってくれるだけで良かったのに。
でも返事をしなければいけない。そして出た言葉が――――

「…うん」

情けない、の一言。
それでもよかったのか、上条は安堵している。
そしてまた抱きよせて…

「(……うぇ?)」

美琴は忘れている、今の態勢を。ずっと抱き合ったままなのだ。
そして先ほど男女間の告白儀式を済ませたばかり。ならば当然――――

「とう……んっ……」

――――こうなる訳で。

それから互いの気が済むまでの時間、二人は唇を求め合った。


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