とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part08

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生き方、在り方、考え方[ふたりの道]


上条の困惑を無視して少女は続ける。

「アンタはね。きっと誰も助けるべきじゃなかったのよ」

「他人の苦しみなんて気付かないでいれば、普通より少し不運な人間でいられた」

「他人の絶望を無視して、幸せになるべきだった、そんなヤツであるべきだった」

上条の生き方が否定される。

「けれど、不幸にも、そんなことが出来ない性格だった」

「そして、不幸にも、記憶を失ってさえその道を選ばなかった」

当たり前だ。出来るわけがない。そんなの幸せなんて言えない。
脳が覚えていなくても、心が覚えている。上条当麻の選ぶ道を。

「誰かの不幸に偶然巻き込まれて、頑張ってその誰かを助け出して、それを何度も繰り返してる」

「アンタはそれで幸せかもしれない」

「でも…………その誰かは幸せになれたの?」

少女の審判は終わらない。

「アンタは良いヤツよね。いろんな人に慕われている」

「インデックスを始め必要悪の教会、天草式、当麻が助けてきた人たち全て」

それは彼女が知らないはずの人々。

「その人たちが、戦うたびにボロボロになるアンタを見て、幸せだって言えると思うの?」

突き付けられた罪状に上条は答えられない、答えることは―――――できない。

「他の人が実際にどう思うかわからない」

「けれど私には思えない。幸せだ、って胸を張って言うことはできない」

「だから言うわ」

怒りを込めて少女は上条を睨みつける。


「そんな惨めで、アホくさい幸せ、押し付けないで」


皮肉にもかつて自分が父に叩きつけた言葉を返された。

「結局、アンタは私にそんなハリボテを押しつけて自己満足に浸ってるだけじゃない」

「そういうの、偽善者っていうのよ」

《偽善使い》―――知らない単語が不意に浮かんだ。

「違うわね。もっとタチが悪いわ。結果的にほとんど助け出して、アンタもこうして生きているんだから」

「でも次は?それが上手くいっても……その次は?」


たとえ記憶を失うことになっても、上条は“自身の死”という結末を以て悲劇にはしていない。
だが、あたかも物語のように彼の周りでは争いが続き、戦いに身を投じる事の繰り返し。
異能力を打ち消すことしかできない少年が“心”だけを武器に戦えばどうなるかは明白。
死にかけたことなんて1度や2度ではない。戦うほど彼の命は削られていく。
これが、上条当麻が無事である物語、であれば良いかもしれない。
しかし生憎これは物語では無く、現実だ。
死に物狂いで戦い抜いて、いつか上条は死ぬかもしれない。いや、既にロシアの一件で死んでいたかもしれない。


「わたしには笑っていて欲しい、アンタはそう言ったわ」

「はっきり言って笑えない。笑いたくない。」

少女は上条の誓いを地に堕とす。守れていないと、そう、糾弾する。

「自分を軽んじてんのよ」

「アンタが傷つくたびに、それが周りにどれだけ影響を与えるか、わかってない」

上条は知らないのだ。少女の苦悩も、シスターの絶望も。

「あの夏の恋人ごっこの日、初詣の日、どれだけ矛盾した事を言ってたか理解してないわよね?」

「御坂美琴を守るって、私とその周りの世界を守るって」

「すごく嬉しかった」

でもね、と。

「それ以上に、哀しいよ」

「御坂美琴の世界にはね、上条当麻って人も含まれてる」

泣きそうな顔で、少女は告白する。


「ううん」

「とうまに恋したときから」

「私の世界はとうまを中心にまわってる」

「もうベタ惚れよ。ほかの男とか考えられないくらいに、とうまラヴ全力全開よ」

「とうまにはもう戦って欲しくない、傷ついて欲しくない」


愛の告白なのに、どうしてか悲しい。
上条当麻として在るほどに目の前の少女は不幸になっていく。
それが突き付けられた―――――――罪
少女の笑顔を守りたい、その気持ちに嘘の欠片も存在しない。
しかし、戦いは苛烈と化してきている。
故にこれからも上条当麻が傷つく事は避けられない必然。
なれば気付けたはずの、誰かの不幸を見捨てて安穏と過ごせと言いたいのか。
それこそ在り得ない。
《誓い》と《上条当麻》 どうしようもない――――――矛盾


「………………堂々巡りよね」

なぜなら互いの望みは対立しているのからか。

「上条当麻の生き方、在り方から考えれば無理な注文だわ」

しかしてそれは上条の理屈なのだ。“望みが対立する”ということでさえもが。
その考え方を尊重し受け入れる必要なんてどこにも無い。

「だからアンタの事情なんて知らない」

美琴が納得しなければならない決まりなど―――――無い。
ならばどうすればいいのか。どうしたいのか。それはもう決めている。

「どれだけ嫌がっても関係無い」

「私は私の事情でアンタの傍にくっついてやる」

「傷なんて負わせない」

「上条当麻を傷つける全てから護り抜くって私は決めた」


これが物語(運命)ならば、先にはHappy EndなりSad Endなり決まっているだろう。
そして脚本通り、役者の想いを無視して、その結末は訪れる。
美琴にとってソレ(未来)がどうなるかはわからない。

わからないからこそ―――抗う。

後悔なんてしないために―――選ぶ。



「上条当麻を傷つける全てが」


「もし神様の作った法則通りに動いてるっていうなら」


「何年、何十年、それこそ私が死ぬまで暴れて」


「そんな幻想〈世界〉をぶち殺してみせる」



「そうすれば私は笑えるから――――」


「それが、御坂美琴の選んだ幸せだから――――」





無茶苦茶だ、としか言えない。
ここまで上条当麻の生き方を否定した人がいただろうか?
これほど上条当麻の在り方を許容した人がいただろうか?
こんなに上条当麻の考え方を無視した人がいただろうか?
答えはNOだ。
記憶喪失であってもそう言える。

だって――――

どんな記憶よりもこの体に刻まれた心が、魂が叫んでいる。

こんな人知らない――――

もちろん、生き方を変えるつもりは毛頭無い。
上条当麻の在り方を貫く気持ちに偽りは無い。
彼女はただただ自分自身を中心に据え置いた意見〈ワガママ〉をぶつけてきただけなのだから。
要するに今まで通り、戦って、生き残って、そして最後に少女の笑顔を守れば良い、ただそれだけ。

なのにどうして――――

涙が止まらないのだろう。どうしようもないくらいココロが震えるのは何故だろう。

わからない………わからない、けれど――――

目の前で笑っている少女がいとおしくて
そんな言葉を言わせてしまった事実が無性に悲しくて
触れてしまえば、壊してしまいそうで怖いけれど
今も心の何処かで警報は鳴っているけれど


衝動に身を任せ、彼女を抱きしめる。


強く、強く抱きしめる。


腕の中の存在が決して、決して―――――


幻想ではないことを確かめるように―――――――――――――


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