とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

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生き方、在り方、考え方[ふたりの道]


「どうしよう」

「どうしませう」

夜か深夜か微妙な時間帯である。
間違いなく学生が外にいていい時間ではない。
美琴は慌てて携帯を確認するがメール、電話の着信が凄まじい数になっていた。

「今から寮に帰っても……」

「……遅いだろうな」

絶対に殺される。あの最強の寮監に。
まして理由がいちゃついていたなら尚更だ。
同居人に連絡しても同様に厄介事になる。

「当麻」

「なんだ美琴」

縋るような目をしている美琴。

「その……今日泊めてもらえない?」

ダメ…とは言えない。
なぜならこうなった責は上条にもあるのだから。

「ダメ?」

「………だめ……じゃない」

そう答えると美琴は驚いていた。

「いいの?」

「言いだしたのは美琴だろ?」

「でも当麻は断ると思ってたから」

「そうだな」

でもな、と上条は続ける。

「こうなったのは俺にも責任あるし…それに……」

「それに?」

「今日は……今日だけは………美琴から離れたくない」

その言葉を聞いた美琴は瞬間沸騰。
年頃の少女には無理もない話かもしれない。
今まで一方行だった気持ちがようやく通じ合ったのだ。
加えて今日は離れたくない発言、意識するなと言うのが無茶な注文である。
しかしそんな美琴に上条はコールドスプレーを噴射する。

「インデックスもいるから間違いも起きないしな」

その言葉を聞いて美琴は瞬間冷却。
あまりの上条っぷりに落胆してしまう。
思わずスプレーの噴射口に火を近づけてやりたいくらいだ。

「行こうぜ」

とは思ったものの心なしか上条の顔は赤い。
どうやら意識しているのは美琴だけではないらしい。

「うん」

上条の部屋へ向かう道すがら、忘れていたことを思い出してしまった。

「インデックスのヤツ怒ってるよな…」

「あはは…」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ただいまー」

「お…おじゃまします……」

居候に帰った旨を報告するが返事が無い。既に寝てしまったのだろうか。
だとすれば申し訳ない気持ちになってしまう。
しかし………この部屋を出たのが夕方なのでまだ夕飯は作ってないのだ。
あの食べる専門家に家事スキルは無いので、帰ってきた瞬間いつもの洗礼が待っていると思ったが…いない。
と、そこでテーブルの前で固まっている美琴の存在に気が付いた。

「どうしたんだ?テーブルに何か………」

そこには置手紙があった。内容は―――

『――とうまの帰りが遅いから、今日はこもえの家にお世話になるんだよ――』

―――あるぇ?この手紙は何をほざいてるんでせう?

そこで理解する。美琴が固まっている訳を。

「(まずい…)」

先ほど二人は互いの気持ちを通わせることができた。それは大変めでたい。
そのあともキスするなり、ベタつくなりした、してしまった。それも当然なのかもしれない。
そんな男女が二人っきり、同じ部屋に、しかも彼女はこの部屋で夜を明かす。この状況は些か非常事態である。
美琴の提案にはかなり抵抗があったが、上条が受け入れたのは事情が事情で、それにインデックスがいたからだ。
だがその存在はいない。しかも提案を了承してしまった以上、追い返すわけにもいかない。

「(落ち着け…)」

美琴から悶々と吹きだす妖しい雰囲気に巻き込まれないように、上条は深呼吸する。
取りあえず、固まっていては始まらない。

「美琴」

呼びかけにビクッと反応する美琴。
あんな過激な発言をしてしまう割には彼女も混乱している。
ならばここは上条がリードすべきところだろう。

「何か食うか?」

「……ふぇ?」

「美琴も食べるだろ?かなり遅い夕飯だけどな」

「………食べ……る…?」

少々遅い時間とは言え、何も食べないのはあまりよろしくない。
どこか遠い場所に言ってしまった美琴を引き戻す。

「何がいいんだ?」

「……………とうま………を……?」

「……………………………………………おい」

どうやら遠い場所どころではなかったようだ。彼女の飛んだ先は遥かなる時空の彼方らしい。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

妄想先からなんとか帰ってきてもらって数時間後。
食事は冷凍食品で済ませることにした。
互いの入浴は終わらせたので、後は寝るだけだ。
美琴の着替え問題はジャージを進呈することによって解決し、上条は浴室で寝床の準備をしようと布団を運んでいた。

「??……とうま、なにしてるの?」

「なにって、寝床の準備。さすがに同じ部屋で寝るわけにはいかねーからな」

年頃の男女が同じ部屋で寝ればどうなるのか、しかも成り立てカップルなら想像に難くない。

「なんで?一緒に寝てくれないの?」

「なんでって………」

美琴は普段はインデックスが使っているベッドの上に座り込んでいた。
おまけに枕を抱きこんで上目づかいに唸っている…………止めて欲しい。
上条さんは決して己の欲望から解き放たれた聖人では無いのだ。

「上条さんも男なんです。勘弁して下さい」

「ううぅぅぅぅ~~~~」

いつのまにか美琴が背後まですり寄って、しがみ付いてきた。
入浴したばかりのせいか、温かさと匂いで理性が揺さぶられる。
互いに寝間着のせいか、女の子特有の柔らかさが外出着に比べてより強く伝わる。
背中越しに感じるソレらが上条の理性やら倫理やらを侵していた。

「(ふぉぉおおおーーーっ!上条さんの理性が危ないのですのよぉぉーーーっ!!)」

振り切ろうにも本能という蛇が首をもたげてきた。
上条の理性を丸呑みにしようと口を大きく開いている。
そしてそのまま――――

「……………嘘つき」

「……え?」

ポツリと美琴が漏らした呟きに思考が止まる。

「………離れたくないって……言ってくれたのに…」

最初にそう言ったのは、果たして誰だったか?
呆然として布団を取り落としてしまった。

「……わたしだって………とうまと離れたくない…」

腰に回された両手は微かに震えていた。
そして自らの行動に反省して、悔いて、手を重ねる。

「悪い…」

安心させるように、優しく握る。それだけで彼女の震えは…………止まってくれた。

「……ばかっ」

「……そうだな」

不思議と先ほどまでのせめぎ合いは無くなっていた。
どうでもいい、とすら思う。有るのは一つだけ。
背中に伝わる温もりが、それをくれる美琴が、ただただ愛おしい。

「取りあえず離してくれ、もう何処にも行かねえから」

このままでは二人とも風邪を引いてしまうかもしれない。
家計の事情からエアコンは効かせていないのだから。
そして考える。やはり妥協案としては同じ部屋で寝ることだろうか?
そのためにはベッドの隣に布団を敷かなければならない。
だから落とした布団を拾おうとして――――

「…やだっ」

より強く抱きしめられて、より深く密着する。
女の子特有の柔らかさどころか心臓の鼓動すら感じる。

「このまま一緒に寝るの。とうまの事情なんて………関係無いもん…」

そういえば先の告白でそんなことを言っていた。
ならば浴室で鍵をかけていてもドアを破壊してくるだろう。
別の布団で寝ていても潜り込んでくるだろう。
つまり………要するに………

「(どうしようもないじゃねーか…)」

それが結論。(諦めの境地とも言う)
抵抗は無駄だと悟りため息を吐く。

「はあぁぁ、わかった。わかったから……電気消すぞ?」

「………うん」

二人羽織状態でベッドまで歩く。非常に歩きにくい。
さらに電気を消したので部屋の中は暗い。
唯一の灯りはカーテン越しに漏れる月灯で、それを頼りに転ばないようにする。
ようやく辿り着くと、背中からの気配が離れ、布団に潜り込んだ。
解放されて、そして上条も入ろうとした瞬間――――

「うおっ!」

視界に黒くて長い何かが現れて彼の体を掴み布団に引きずり込む。
あたかも四本の触手に絡め取られているような感覚。
びっくりして確かめると、それは美琴だった。当然と言えば当然かもしれない。
単に美琴が両手両足フル稼働で上条に抱きついているだけで、触手などの人外では無い。
(ある意味でこれはホラーだ、と後に上条は語る)

「美琴?」

尋ねるも返事がない。
ちなみに上条が美琴を押し倒しているような体勢だ。
しかも下にいる彼女は彼にしがみついている。
色々と寝るには適していない、そんな二人。

「(どうしろってんだよ…)」

きっとまた聞いても答えてはくれない、そんな気がする。
自信は無いけれど、美琴が求めていることは“コレ”なのだろうか。

「みこと……」

優しく“自分から”口づける。

「うん……正解」

すると満足そうに笑って、名残惜しそうに離してくれた。
そして体を横にして彼女に並び、掻き抱く。

「ふぇぇ?」

何とも情けない声が聞こえてきた。やり過ぎた……か?

「悪い、調子に――」

――乗り過ぎた、と謝ろうとして今度は逆に唇を塞がれる。

「ううん、嬉しかっ――」

続く言葉を逆に逆に塞ぐ。

「お返しだ。これも彼氏のとっ――」

逆に逆に逆に塞がれる。

「甘いわね。これが彼女の――」

逆に逆に逆に逆に塞ぐ。

「やりやがっ――」

――以下略。


どれほど意味不明な応酬を重ねたのか、わからない。
上条は10を超えたところで、美琴も30を超えた辺りで数えることを止めた。

「「っぷ」」

噴き出してしまう。
そして訪れる静寂。
美琴は上条の胸元に頭を乗せて抱きついた。

「…………私の覚悟は…………………伝わった?」

「……ああ」

それは彼女自身が決めた事。

「でも……」

「でも?」

「お前を巻き込むつもりはねーよ」

こちらにも譲れないことがある。
美琴の傍にいたい、それが正直な気持ち。
しかしそれでも巻き込みたくない、という気持ちもあるのだ。

「そう言っても首を突っ込んでくるんだろうけどな」

「当たり前でしょ?」

自信満々に告げる美琴。

「ならきっとこの問答には意味がねえよ」

「結局、お互いの生き方《ワガママ》を貫くしかないんだ」

交わっているのか、交わっていないのか、とても微妙な道。









「けどよ」


「…え?」


漠然とした予感がある。それは“まだ”幻想かもしれない。


「お互いの辿り着く場所はわかんねえけど………」


右手を高く、高く、伸ばし―――――――


「いつか見つけ出せる、そんな気がする」


――――――――つかむ


「ふたりの生き方《幸せ》ってヤツをさ―――――」







かつては他人だった


今は恋人になった


では次は?


どんな関係になるかはわからない


ただ、確かな未来はひとつだけ



――――ふたり――――



これはそんな二人が紡ぐ――――ふたりの物語


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