とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part13

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見知らぬ記憶


 それはさておき、あの夢の後、どんな顔をして美琴に会えばいいのかを悩んでいた上条にとっては、今朝美琴が来れないというのは“不幸”なはずなのに、それを“不幸”だとは思えなかった。

「ん~…何となく…助かったよーな…そうじゃないよ~な。……さてと、美琴のいう通り準備しますかね…」

 誰に言う訳でもなく、でも上条はそんな事を呟きながら朝の準備を始めるのだった。
 とは言え、昨夜の“夢”は相当強烈だったようで、右手の【幻想殺し】でも打ち砕けないその“幻想”は上条を捕らえて離さなかった。
 ちょっとでも気を抜くと、あの“魅惑の美琴”が“あの表情”が“あの仕草”が…そしてあの“(自主規制)”が脳裏を過ぎり、その度に顔を真っ赤にしてニヤけてしまう。そうなると上条はツンツンウニ型PCをリセットすべく、頭をブンブン振りまくるのだが、小さな小さなメインメモリはしっかり昨夜の“幻想”というウィルスに冒されていた。
 …という訳で、朝からの勉強は何も頭に入らなかった。朝食の目玉焼きはしっかり焦がしてしまうし、トーストは炭化させてしまった。貧乏暮らしが板に付いているので食材をムダにするという事が出来ない上条は、その二つをしっかりと食べ、お昼は学食か購買でのパンと決めて、その分少し早めに寮を出た。

「…不幸だ…」

 どこがだっ!!!!!!
 と、ツッコミを入れたくなる呟きを久々に口にしながら、トボトボと学校までの道程を歩いて行くのだった。

 学校に行っても、ツンツンウニ型PCの調子は一向に変わらない。イヤ、むしろ悪化の一途だ。ちょっとでも気を抜くと…である。
 お陰で今日は“不幸(?)”の連続だった。
 最近授業をマトモに聞くようになったと、見直され始めていた親船先生にはニヤケ顔を気味悪がられるわ。
 黄泉川先生の授業では、呆けてたところに飛んできたソフトボールに顔面を直撃されるわ、そのプレーが元でグラウンドを10周走らされるわ。
 小萌先生には

「上条ちゃんは先生の授業がそんなに楽しくないのですか?」

 とウルウルと目に涙を溜めて訴えかけられ、クラスの男子全員からまたまた恨みを買う事になるわ。
 最後には災誤先生からお説教フルコース&受け身の練習を喰らうハメになるわ。
 と散々であった。

 上やんの様子がおかしい。
 今日一日、同じ反応の繰り返しだ。
 『いきなりニヤける』⇒『頭をブンブン』⇒『リセットして集中』⇒『でもニヤける』をエンドレスで繰り返している。
 先日の“補習追加で上やんを失恋させる作戦”の失敗を未だに根に持っているデルタフォースの二人(特に青ピ)は、その上条の様子を見て完全に勘違いし、嫉妬の炎を燃やしていた。

「か、上やんのあの反応。あ、あれはどう見ても“大人の階段”をォォォおおおおおお…」

「まぁまぁ、青ピ。まずは落ち着くにゃー」

「許されへん、許さへんでぇ~。フラグ回収しただけでも許されへんのに、その上“大人の階段”までぇぇぇぇえええええ」

「しかし、昨夜の盗聴内容にそんな記録はなかったはずだがにゃー」

 オイオイ…仕掛けてあるのか?盗聴器。

「きっと、あの常盤台のお嬢様が気付いて壊してしもたんや!そうに違いあらへん!!」

「イヤ、別件でかすめた発電系能力者にも感知され難い特殊な奴なんだがにゃー…」

「つっ、土みーこそエラい落ち着いてるやないか?…はっ!?ま、まさか…土みーも既に“大人の階段”を…」

「(ギクッ!!)」

「ああ~、ワイだけやったんや、ワイだけ置いてきぼりにされてたんやぁ~」

「貴様ら!!五月蠅い!!!!『ドゴンッ!!』」

 暴走する青ピの後頭部に十八番のおでこマックスを叩き込み、一撃で青ピを撃破した吹寄がそこに仁王立ちして居た。

「あ、相変わらず…オレたちには容赦が無いのニャ…吹寄…」

「さっきから何をゴチャゴチャと…。第一貴様らにかける情けなど持ち合わせている訳がないわ。何なら土御門も…」

「そ、それだけは御免被るぜよぉ~…」

 そう言い残し、青ピを見捨てて土御門は教室から走り去っていった。
 逃げる土御門の背中に『フンッ』と言い放つと、青ピには一別もくれず吹寄は、呆けている上条に向かってツカツカと歩いて行く。

「貴様、最近少しマシになったと思ったのに、今日はまた特別に呆けまくりよね。上条当麻」

「ヘッ?」

 今日一日エンドレスなループにはまり込んでしまい、ほとんど熱暴走気味のツンツンウニ型PC搭載の上条は、吹寄の呼びかけで何処かの世界に行っていた意識をこちら側に戻すことになる。

 意識が戻りかけたその時、上条の目に飛び込んできたのは、(本人にその意志は全くないのだが)腕組みをする事でより強調された吹寄の胸だった。
 美琴がコンプレックスを感じてしまうほどのそれは、昨夜のイケない“幻想”を思い出させるに充分な威力を持っていた。

「どわっ!!!」

 そう叫んで、慌てて飛び起きた上条だったが、身体の方はまだ完全に起きていなかった。
 立ち上がった時に膝を机にぶつけてしまい、慌てて膝を抱えようと前のめりになったところでバランスを崩して、そのまま吹寄の胸に突っ込んでしまった。
 もし、この場に美琴がいたら…間違いなく最大出力の【電撃の槍】と【超電磁砲(レールガン)】の多重攻撃が展開されていただろう。
 だが…そこは吹寄。“対カミジョー属性完全ガードを誇る凄い人”である。『ヒクッ』とこめかみ辺りに血管が浮いたかと思うと、目の前にある上条の脳天めがけて、吹寄おでこマックスが火を噴いた。

『ッゴンッ!!!!!』

 鈍い音と共に上条は、青ピの後に続く事に…はならなかった。
 青ピの時と違い、目標が近かった事が幸いした。射程が短かったお陰で威力がそれほどではなかったのだ。もちろん青ピのそれに比べての話だが…。

「いててて…な、何すんだよ…吹寄」

「それはこっちのセリフよ!!それより、彼女との待ち合わせはイイの?上条当麻」

「えっ!?…ゲッ!!!や、やべえ…。あ、スマン吹寄。ありがとな。ンじゃまた明日な」

 上条は吹寄に礼を言って、慌てて教室を飛び出し美琴との待ち合わせ場所を目指す。
 その背中を見ながら吹寄は…

「フンッ!頭突きを喰らわせてやったのに、礼を言われるとはね…フッ…」

 と、独り言を呟き、教室を後にするのだった。
 因みに、教室に独り取り残された青ピは、用務員のオッチャンが巡回に来るまで誰にも気付かれずに放置されていたという。

 一方、吹寄のおでこマックスで強制的に現実世界に引き戻された上条は、美琴との待ち合わせ場所であるいつもの自販機を目指して走っていた。
 走りながら考える事は、待ち合わせ時間に間に合うかという事だけ。
 昨夜の“幻想”も、今朝の“悩み”も、今日の“無限ループ”も、全て上条の頭の中から消えていた。
 そう、それこそが彼にとっての“不幸”だった。

「ハァッハァッ…ハァッハァッ…ま、間に合った…ハァ~」

「残念でした、30秒の遅刻よ。でも、走ってきた事に免じて許してあげる」

 そう言って上条の腕を“ギュッ”と抱き締める。それが誰かなど分からぬはずはない。
 ただ不意を突かれ、腕に伝わる“柔らかい”感触にドギマギしながら、そちらを見る上条。
 そこにはいつもの美琴の笑顔があった。

 …だが…その笑顔に重なる昨夜の“幻想”。
 その二つが重なるのを見た瞬間、上条は忘れていた全てを思い出す事になる。

「(ボンッ!!!!!)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「け、今朝はゴメンね当麻。その代わりという訳じゃないけど、今夜はサービスするからね。…アレ?…当麻?当麻ったら?」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

 全てを思い出し、真っ赤になって固まっている上条。
 そんな上条を見て、美琴は“?”を頭の上に浮かべ、首を傾げるだけだった。
 だが、その仕草がイケなかった。
 今、上条の目には“現実”の美琴と“幻想”の美琴が二重映しになっている状態なのだ。
 それでなくても上目遣いで可愛く首を傾げるポーズは、上条にとっては凶器である。
 いつもなら目を逸らして逃げるのだが、今日はダブル攻撃で全身が既に固まっているためそれも出来ない。
 そこに先程の美琴からの『今夜はサービスする』との言葉がループして…。

「ふ…」

「ちょっと、当麻?当麻ったら?」

「(ボムッ!!!)ふ…ふにゃぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 どうやらツンツンウニ型PCはハングアップしてしまったようだ。
 今日一日無限ループに入り込み熱暴走気味だった上に、処理速度を遙かに超える情報量を与えられたのだから仕方がない。
 美琴なら漏電して、辺り一面に電撃を撒き散らしていたところなのだろうが、上条では何も起こらない。
 だが、いきなり倒れてしまった上条を見て、美琴は大慌てしてしまうのだった。

「えっ、えっ、ええぇぇぇぇええええ!?…とっ当麻!?当麻!?当麻ったら!!一体どうしちゃったって言うのよ!?」

「ふにゃー…」

「『ふにゃー』じゃないでしょ!!…ホントにもう、何がどうなってるのよッ…?」

「…エヘヘ…み、美琴ォ~…」

「えっ?何、何なの?当麻?」

「…き、綺麗だ…美琴…愛してる…」

「(ボンッ!!!)…い、いいいいいいいいいいいきなり何を言い出すのよ!!!!…それは、その…スゴく、嬉しいけど…さ…」

「ふにゃ~…」

「…できれば…こんなとこじゃなくって…二人っきりになれる場所で、二人っきりの時に、言って欲しいな…エヘ、エヘヘ…」

「ん…あ?」

「…だからさ、その、綺麗だって言ってくれるのは嬉しいんだけど…もうちょっと、シチュエーションを考えて欲しいって言うか…その…」

「…アレ…美琴?」

「…た、確かにもう、プロポーズもした仲だから、別に…その…、イイとは思うんだけど…、まだちょっと心の準備って言うか…」

「…あ、あの~…美琴さん?」

「あっ、べっ別に当麻がイヤってコトじゃなくって…私もまだ、中学生だし。ちょっとまだ早いかなぁ~何て…でもっ、でもっ、当麻が…当麻が…望むのなら…別に…私は」

「ヘッ!?」

「私は…イイよ」

「あ、あの~、一体何がイイんでせうか?」

「ヘッ!?…あ、…(ボムッ!!!)…ふにゃぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~~」

「何でそうなるんだァ~~~~~~!?」

 『知らねぇよ(by自販機)』
 という呟きは放っといて、それにしても噛み合わない二人である。
 今度は漏電と共に美琴が気絶してしまった。
 上条は慌てて【幻想殺し】でそれを防ぎつつ、倒れてくる美琴を支えようとする。
 だが、手を出したところが悪かった。
 漏電を防ぐために前に突き出した右手だったが、上条は倒れて寝ていたのだ。
 その上に美琴が気絶して覆い被さってくる格好になった。
 その為、上条の右手は美琴の柔らかい部分をもろに掴んでしまったのだ。

『フニッ』

 と柔らかい感触が上条の右手に広がる。
 腕になら何度も経験があった。だが、右手にとっては初体験だった。
 イヤ、そのはずだった。
 ところが…それを受けとめた瞬間に…

「…小さいな…」

 と、上条は思わず呟いてしまったのである。

 一方美琴も漏電と共に気絶してしまったが、それは一瞬であり、自分の胸が掴まれている感触と共に覚醒しようとしていた。
 そこに上条の先程の一言である。

「…あ、アンタは…、…アンタはさあ…」

「ヘッ!?」

「いきなり彼女の胸を掴んで“小さいな”ですってぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「えっ!?…あっ!!」

「一体誰と比べてんのよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『ドバキッ!!!!!』

「ごわっ!!」

 【幻想殺し】で胸を掴まれているため電撃が出せない美琴は【常磐台中内伝おばあちゃん式斜め45°からの打撃による故障機械再生法】を起き上がりつつあった上条の側頭部に叩き込む。
 それを喰らった上条は右手を前に突き出したまま、数メートル先の自販機に激突させられるのだった。



「…一体どういうコトか、説明して貰えるかしら?」

 手の中で数枚のコインを遊ばせながら、目の前で土下座している彼氏に向かって美琴は言い放つ。
 上条はただただ、地面に額をこすりつけて謝り続けるしかなかった。

「いきなり気絶するかと思えば、急に“美琴、綺麗だ。愛してる”なんて言ってくれちゃうし…。そ、それは嬉しかったんだけど…さ。かと思えば、いきなり胸を掴んで“小さいな”ですって?」

「い、イヤ、あの…胸を掴んでしまったのは、美琴が倒れてきたからで…」

「ふ~ん、そ~ゆ~コト言うんだ…。覚悟はイイ訳ね?」

「あイヤッゴメンゴメンなさい~。ちゃんと説明するからだからだから【超電磁砲(レールガン)】の連発だけはご勘弁を~」

「ホントにキッチリ説明して貰うからね!!!納得出来なかったら…分かってるでしょうね!?」

「は、はひぃぃぃぃいいいいいい…」

 久々に出た美琴のお怒りモードに上条は心底震え上がっていた。
 『不幸だ』と口には出さず、心の中で呟く上条だった。

 何だかんだで、上条の部屋に戻ってきた二人。お怒りモードの美琴のご機嫌を損ねぬように、スーパーでの買い物を済ませてからのご帰宅である。

「じゃあ、そろそろ説明して貰える?」

「あ…は、ハイ…」

「何よ?まさか、今更…」

「あイヤ、そういう事じゃないんだけど…信じて貰えるかどうか…」

「どういうコトよ?」

「実は…今回も、その…“夢”が原因で…さ…」

「えっ?」

「実は、昨夜…」

「昨夜?」

「ちょっと、その、何て言うか…」

「…もう、ハッキリ言いなさいよ!!!!」

「…(ダラダラ)…」

「…」

「…(ダラダラ)…」

「(ジャラジャラ)」

「だ…」

「だ?」

「だだだだだだから、はっはははははは裸の美琴を抱いてる夢を昨夜見ちまったんだ!!」

「(ボムッ!!!)えっ!?えっ!?ええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「ゆっ夢に出て来た美琴は、今よりも大人っぽくって、今の美琴も充分可愛いけど、それ以上にもの凄く綺麗で、魅力的で…」

(ボンッ!!!カワイイ?綺麗?魅力的?ボムッ!!!)

「スゴく、その積極的って言うか魅惑的で、でもって…大きくって…柔らかくって…」

(ボンッ!!!せっせっ積極的で魅惑的でって…それに大きい?柔らかい?ボムッ!!!)

「さ、最後まで見た訳じゃないんだけど、その夢の中でオレと美琴は裸で愛し合ってて…」

(ボムッ!!!はだっ裸であっ愛し合ってるってェ~~ボムッ!!!)

「美琴もスゴく自然にオレのこと受け入れてくれてたみたいで…、でも…でも、でも今すぐにそういう事を美琴としたいとかそういうんじゃない!!!…と、思いたいんだけど…」

(ボムッ!!!自然に受け入れてるって…きゃぁぁぁぁぁああああ…でも、当麻になら…私、私ィ…ボムッ!!!)

「まっまだ早いと思うんだよな。オレたち学生だし。そっそのいくら恋人同士になったからって、美琴がどんなに魅力的でも、やっぱりまだ超えちゃイケないというか…でも、欲望もあったりして…あああああ~~~~~~~~~~~オレ何言ってんだろ?」

(そ、そうよ、そうよね。恋人同士なんだもん。それが自然な…え?…あ)

「あ、コレは美琴に魅力がないとかそういう事じゃなくって、オレがそういう風に思ってるってコトで。だけどっこっこんな夢見ちゃうってコトは、オレってやっぱりそんなことをしたいのかって、心の何処かでそんな風に思ってるのかって考えたら…自己嫌悪に…」

「…」

「でも、やっぱり夢の中の美琴はスゴく魅力的で、だから、チョット気を抜くとすぐその姿が浮かんできて…だからっだからっ…」

「バカ…」

「ヘッ?」

「ホントに…バカ…」

「あ、あの…」

「そ、そそそっそそんなの当麻ぐらいの男の人だったら、そういう事考えてても当たり前だと思うし…って言うか、むしろ考えない方がおかしいと思うしっ!!!」

「…えっ!?…あ、それは…」

「そ、それにわっわ、わたっゎたっわたわた私だって…ちょっとは、その…考えないこと無いって言うか(ゴニョゴニョ)」

「…」

「わっ私は、別に…その、当麻が…望むのなら…」

「…美琴…」

「たったった確かに、私はまだ中学生だし、ちょっと早いかなぁ~?なんて思うけど、当麻とならイイと思ってるもん!!!そっそれに将来は絶対にそうなるんだし…」

「(ゴクッ!)」

「だから、だからっ…!!!!!!」

「美琴…」

「当麻が望むのなら…私は…イイよ…」

(ま、マジですか…)

「…当麻…優しく…してね…」

「(もうダメ、もう無理。オレの理性はもう…)み、みみみ美琴…」

「…当麻…」

 震えながらも、目を閉じ、唇を差し出す美琴。
 この唇に自分の唇を重ねたら、もう止まれない。止まれる訳がない。
 例え美琴が途中で怖がって「やめて」と叫んでも、自分は絶対に止まれないだろう。その自覚があった。
 それに美琴はどれ程怖くとも自分を最後まで受け入れてくれるだろう。全てを捧げてくれるだろう。それが痛いほど分かった。
 だからこそ、覚悟を決めて上条は…。


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