とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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You_are_my...? 1 [2/10]



 2月10日、木曜日。御坂美琴は悩んでいた。もちろん、バレンタインデーのことで。

  ここはセブンスミスト内にある、バレンタインイベントの特設会場。数十にも及ぶ有名チョコレート店が、バレンタインデー当日までの一週間限定で集まっている。
「色々ありすぎて迷うわね」
その特設会場に、美琴はお返しのチョコレートを探しに来ていた。お返しだからホワイトデーでも問題ないのだが、美琴の場合は貰う数が多いので、貰ったその場で渡してしまうのが一番簡単だったりする。白井黒子曰く、
「お姉様に受け取っていただけるだけでも光栄なのですから、お返しなどその輝かしい笑顔だけで十分ですわ!」
しかし、それでは美琴の気が済まないのだ。
ただ、今年のバレンタインデーは三連休明けの月曜日。故に、普段は作る時間がないと購入する人でも、今年は手作りにするという人が多いらしい。しかも時間がたっぷりあるので、いつもより手の込んだものを作る人が多いという。
ということは、今年受け取るチョコの数は去年よりも多くなるに違いない。さて、今年はいくつ用意すればいいのだろう?
そして他にも、御坂美琴には悩んでいることがあった。それは自分が渡すチョコレートのことだ。
 現在、御坂美琴には想い人がいる。認めるのは癪だが、寝ても覚めても彼のことが頭を過るのだから、認めざるを得ないだろう。恋する乙女の宿命だ。
 あの馬鹿はおそらくたくさんの女の子からチョコレートを受け取るだろう。連休明けのバレンタイン。女の子たちはきっと、それはそれは手の込んだ「本命」をアイツに送るだろう。そんな激しい競争率の中、自分は一体何をどうすべきか。美琴はここ数日ずっと悩んでいた。
お返しの方は昨年同様、某ブランドのチョコレートを大量購入しよう。問題は数だが……とりあえず80個。足りなかったら最悪、名前を聞いてホワイトデーにまた用意すればいい。
 しかし、アイツへのチョコレートは未だにどうすべきか迷っている。やっぱりここは手作りにすべきなのだろうか?

 もうかれこれ1時間近くは歩き回っている。そろそろ結論を出すべきだ。
歩き回っていた美琴は、とある一角で足を止めた。なんとそこは、
「ゲコ太!?」
そこはキャラクター系チョコレートのコーナーだった。可愛らしい小さな丸い緑色の箱に、ゲコ太型のミルクチョコレートが入っている。ちなみにピョン子型もあって、こちらはストロベリー味らしい。
 瞳をキラキラさせてショーウィンドウに貼り付く奇態な常盤台中学のエースが今ここに。
(買いたい。でも買っても食べるなんて無理! こんな可愛いのに食べられるわけないじゃない!?)
 もはや、当初の目的をすっかり忘れ掛けている。いや、一応は思い出したが、
「だぁーっ!! くそ、そもそも何で私があの馬鹿の事でここまで頭を悩ませなくちゃならないのよ! あの馬鹿の分なんて板チョコで十分よ! 今重要なのはこの子を持ち帰るかどうかよ!」
 やや壊れ気味な恋する乙女であった。

 それからさらに30分後。ゲコ太の元を何とか離れて冷静になった美琴は、再び当初の目的について悩んでいた。ちなみに結局ゲコ太は購入していない。食べるなんて、無理だ。
「やっぱり手作りかしらね。でも作るにしたって何を作ればいいのよ? あの馬鹿の好みなんて知らないわよ?」
 そんなことをぶつぶつ呟きながら、会場内をぐるぐる歩き回る。ワンフロア全て使用した広い会場ではあるが、これで少なくとも2周はしているはずだ。そして再びキャラクター系チョコレートのコーナーのある通路へと差し掛かった時、
「? あれって……」
 通路の一番向こうキャラクター系チョコレートのコーナー辺りに、何やら見慣れたツンツン頭が見えたような気がした。いやでもきっと気のせいだろう。だってこんな女子だらけの催し場に一人でくるような奴じゃないはずだ。……いや、女子がいるところだからこそ、アイツがいても不思議はないのか?
 しかし似てる。すごくよく似てる。薄っぺらい学生鞄をだるそうに担ぐ姿や、眠たそうな表情、そして何より、私と目が合ったのにもかかわらずスルーしやがるところが特に。
「……、」
 ヒャ!? という小さな叫び声が周りから聞こえた。それもそのはずで、美琴の周辺の空気が不穏な感じに帯電し始めていた。本人に自覚はない。
「ほう。アンタはそんなに私を認識したくないわけか……」
マジでキレる5秒前、なんて言葉が流行った頃があったらしい。今の美琴はまさにそんな感じだった。
「私はこんなにもアンタのことで頭を悩ませてるっていうのに……」
10億ボルト炸裂まで残り5、4―――
「おいッ!? 御坂ッ!?」
 異変に気付いたツンツン頭の少年が、通路の向こうから慌てて走ってくる。

10億ボルト炸裂までは残り3秒。特設会場の運命は如何に?


 2月10日、木曜日。上条当麻は悩んでいた。もちろん、バレンタインデーのことで。

 事は今朝まで遡る。
「日本のバレンタインはおかしいんだよ」
朝の番組で流れたバレンタイン特集を見て、インデックスが不満げな声を上げた。
「ん? あー、別に宗教的な伝統を馬鹿にしてるとかじゃないぞ。元々はどこかのチョコレート会社が始めたキャンペーンで、それが全国的に広まって、今やバレンタインデーは女子が好きな男子にチョコレートを贈る日になったらしい―――」
「それがおかしいんだよ! なんで女の子から男の子限定なの!? わたしも欲しいんだよっ!!」
 おかしいってそこかよ!? とツッコみたい衝動をなんとか抑え、上条は歯をギラリと輝かせているインデックスをなだめる為の言葉を考える。
「いやでも別に絶対そうと決まってるわけじゃないぞ!? 確かに日本では女子が男子にチョコレートを贈るってパターンが定着してるけど、最近じゃ友チョコとか逆チョコとかって渡し方も結構色々あるらしいし!!」
「ともちょこ? ぎゃくちょこ? それって何?」
インデックスが怪訝そうな顔で訊いてくる。このままでは近い未来に起こりそうな理不尽な噛み付きを回避すべく、上条は誠意をもって彼女の疑問に答える。
「友チョコってのは、男女関係なく友達にチョコレートを渡すこと。逆チョコってのは、男子が女子にチョコレートを渡すことだよ。ちなみに、最近はお前が言ってるような女子から男子へってパターンよりも、友チョコの方が主流になりつつあるらしいぞ」
「ということは、とうま。とうまは私にチョコレートをくれるんだよね?」
「……、へ?」
「く れ る ん だ よ ね ?」
「……、」
 ギラリと輝く白い歯。
 上条に拒否権など、ない。


 同日午前8時25分、とある高校の教室にて。
「不公平や!!」
 中に入った途端、上条はそんな力強い声を聞いた。青髪ピアスが教壇の前に立って、何やら固く拳を握っている。
「……、何やってんだお前?」
「お? いいところに来たなカミやん。ちょうど今から我らが青髪の演説が始まるところなんだにゃー」
 扉付近に立っていた土御門が、教壇の方を指差してにやりと笑う。見れば教室中の生徒が皆、教壇前の男に注目しているではないか。
 あれ? 意外と真面目な演説なのか? と思って上条も耳を傾ければ、
「バレンタインで一部の男だけが得をするなんて不公平や!!」
 真面目とは言えなかった。
「ボクら男子はみんなで一つや! 一人に渡すんならあとの全員にも同じように渡すべきや!!」
 そうだそうだ! と男子勢から歓声が上がった。女子の方からは不満そうな声が漏れている。
「しかし女子だけに男子全員分作ってこいというのも不公平やとボクは思う」
 予想外の女子勢に配慮した言葉に、教室がしんと静まり返った。怪訝そうな顔をしていた女子たちも、ここで初めて青髪ピアスの演説に注目する。
「だから今、ボクはここに提案する。今年のバレンタインデーにおける友チョコ義務化を!!」
 おおーっ!! と教室中から歓声が沸き起こった。その声に煽られる形で、青髪ピアスがさらに語る。
「男も女も関係ない! 次の月曜日、我がクラスの諸君はみーんなクラス全員分のチョコを用意すること! 小萌学級限定バレンタイン友チョコ祭開催やで!!」
 これにはクラス全員が賛同した。なんだかんだ言って、このクラスは基本的に面白いことが大好きな連中の集まりなのだ。
 しかし女子たちは知らない。この企画が上条以外の男子の上条に対する嫉妬から生まれたものだということを。上条一人だけが本命チョコでウッハウッハという光景を阻止する為の、青髪ピアスを筆頭とした男子全員による妥協案であるということを。そして、
「ということは俺もクラス全員分のチョコを買う必要があると……?」
 そんなフラグ魔を経済的に苦しめるための制裁でもあるということを。
「「イエス!(なんだにゃー)」」
 暴食シスター分に加えてクラス全員分を用意するとなると、その予算は……
「……、不幸だ」
 今月15日以降、上条の夕飯からおかずが一品消えるかもしれない。


 ということがありまして。珍しく補習もなくあっさり解放された木曜日の放課後なのに、上条当麻は一人でセブンスミストに来ていた。
目的はセブンスミストで行われているというバレンタインイベント。様々なチョコレート店が期間限定で集まっており、なんと試食もたくさんありますよーという贅沢な催しらしい。バレンタインで「渡す側」になるのは初めてなので、とりあえずバレンタイン関係のものが集まる場所に行ってみようという安易な発想だ。
 現在、上条はとても可愛らしく飾られたブースの前にいた。キャラクター系チョコレートのコーナーで、どちらかと言えば子供向けのコーナーなのでお値段も比較的優しい。
ショーケースの中には何だか見覚えのあるキャラクターのチョコレートもあって、
「御坂が見たら喜ぶだろうな……」
 後でアイツにメールでもしといてやるか、と携帯で写真を撮っておく。よく宿題を手伝ってもらうし、これくらいのことはしておくべきだろう。
「これなんてインデックスにいいかもな」
 それはゲコ太の横に展示されているネコ型のチョコレートだった。これにも名前があるのかもしれないが、あいにく上条は知らない。
「6個入りか……これでアイツが満足するとも思えないけど、後で板チョコも買っとけば何とかなるだろ」
 本人が聞いていれば間違いなく噛み付かれるであろう失礼な事を呟きつつ、上条はポケットから財布を取り出す。そして中身を確認した上条はピタリと固まった。
「……、あれ?」
 お金が、ない。そういえば今日の昼、購買でパンを買った時に「やったね! お釣りも出ないピッタリ賞!!」とか言ってハイになっていた自分がいたような。
 せっかくここまで来たというのに。不幸だ。
「仕方ない。また明日にでも出直すか」
 薄っぺらい学生鞄を担ぎ直し、上条はショーケースから距離を置いた。出直すと決めればもうここに用はない。さっさとこのバレンタイン一色の空間から抜け出すに限る。今更な気もするが、女子学生だらけのこの会場に男一人というのは結構気まずい。
 ふと会場出口へと続く通路に目をやれば、色とりどりの制服に身を包む女子学生たちの姿が目に映った。その中に見覚えのある常盤台中学の冬制服が見えたのは気のせいだろう。しかもその少女が茶髪で、何やらこちらをじっと見ているのも気のせいに違いない。
上条はパチパチと瞬きして、
「さぁ、帰るとしますかー」
 無気力に一歩踏み出したが、
「ヒャ!?」
 何やら前方から少女の小さな悲鳴が聞こえ、周囲がざわつき始めた。
「何が……ッ!?」
声の方を見れば原因は一目瞭然。常盤台中学の制服に身を包んだ少女の周辺の空気が、何やら不穏な感じに帯電しているではないか。本人は無意識なのか、俯いたまま身動き一つしていない。しかしあれはどう見ても10億ボルト炸裂寸前―――
「おいッ!? 御坂ッ!?」
 こんな人の多い場所で10億ボルトだなんてとんでもない。右手に幻想殺しを宿した少年は慌てて少女の元へと走り出す。

 10億ボルト炸裂までは残りわずか。特設会場の運命は如何に?

 結果から言えば、特設会場は、無事だった。

 10億ボルト炸裂寸前、上条当麻は勢い余って御坂美琴に抱きつく形でそれを防いだ。ただ上条には理由がわからないが、何故かその時に美琴が意識を手放してしまったようなので、今はセブンスミスト内に設置されている休憩用のベンチで一休みしている。左肩に乗せられた美琴の頭からシャンプーの良い匂いがして、上条は目線を泳がせるなどしてそわそわしていた。

「んんっ……ここは?」
「あーやっと気が付いたか。おはようございます、ひめ」
「ふえ? おはよー……ッ!?」
 自分の状況に気付いた美琴の前髪から、反射的に青白い火花が散る。
「ちょ!? いきなり何すんだ!? というかここは建物内なんだから自重しなさい!!」
「あ、ごめん。つい」
 つい、じゃねー!! という叫びを堪えて、上条は代わりに溜息をついた。
「で、お前はあそこで何してたんだ?」
「何って……」
「白井は一緒じゃないんだろ? 何だ、お前。もしやこっそり本命チョコでも買いに来てたとか?」
「!?」
 お前がそれを言うかー!? という叫びが美琴の心中で渦巻く。しかしそんな事を知る由もない上条は、
「本命なら手製がベストですな。たとえボロボロでも手製の威力は大きいのですよ」
「!?!? な、何変なこと口走ってんのよアンタは!」
「ん? 違うのか?」
「ち、違うってわけじゃないんだけど……ぁぅ」
「?」
 お湯が沸かせるのではないかと思うほど紅潮した美琴の声は、小さすぎて上条の耳まで届かない。
 深呼吸して落ち着きを取り戻してから、美琴は再び口を開いた。
「アンタこそあそこで何してたのよ? しかも男一人で!」
「うっ!? 男一人ってとこにはあまり触れないで下さい……」
「男一人で寂しく自分チョコを探しに来たとか?」
「完全スルー!? お、俺は……」
 かくかくしかじか。今朝から起こった一連の出来事をかいつまんで話す。インデックスの名はあえて伏せた。特に深い理由はないが、美琴の前でインデックスの名を出して平和だったことはないような気がする。
「つまりはこういうことね」
 納得したのか、美琴はつまらなさそうな口調で言う。
「アンタは大量のチョコを用意しなきゃならない。いいのが見つかったから買おうと思ったけど財布の中身はスッカラカン。しかもそれが買えたところで数はまだまだ足りない」
「そう改めて淡々と言われると悲しくなるな……」
「いっそ作った方が安上がりなんじゃない? それだけの量を買うとなると大変でしょアンタは」
 最近の美琴は上条の経済事情を察してくれるようになっている。お一人様○○個の特売などに協力してもらうことがあるからだ。少なくとも2000円のホットドッグが高いという上条の感覚は理解してくれたらしい。
「それはそうだけど、俺チョコとか作ったことないしさ」
「型チョコなら溶かして固めるだけよ?」
「そうなのか? じゃあ連休中に作るかな……あ、でもまずは型を買わなきゃダメか」
 作る、という方向で決めたらしい上条。その横顔を見つめながら、美琴は自分の当初の目的を思い出していた。
(コイツの言う通りやっぱり本命は手作りよね……というか本人が言うんだから作るしかないじゃない!? でも作るとしていつコイツに渡す? 今のうちに会う約束しとかなきゃ、コイツのことだから他の女ときっと……)

 と、その時。何かが美琴の中で引っ掛かった。

アイツは何と言ったか。確か大量のチョコを買わなきゃいけないと言わなかったか?
それは美琴も同じだ。美琴も大量のお返しを用意しなければならない。だから某ブランドのチョコを大量購入する予定なのだ。
アイツは何と言ったか。チョコを大量に買うのは大変だから家で作ると言わなかったか?
美琴は買う事にした。でもそれは買う方が楽だからであって、上条と同じく「作る」という選択肢もあるのだ。
アイツは何と言ったか。確か作り方がわからないと言わなかったか?
だから簡単な型チョコを提案したが、美琴は他にも色々なチョコの料理法を知っている。アイツに教えることだって出来るし、一緒に作ることだって出来る。
そう、上条と、一緒に。

「……、ねぇ?」
 作るという方向で計画を立て始めている上条に、美琴は声を掛ける。
「ん? なんだ?」
「実は私もチョコたくさん用意しなきゃいけないのよね」
「たくさんってことは、常盤台でも友チョコってあるのか?」
「まぁね。でさ、ものは相談なんだけど……」
「?」
「一緒に、作らない?」

 つまり、美琴の計画はこうだった。
 上条と一緒にチョコを作る。手製だから費用も安く収まる上、共同作業だから一人で作るよりも楽しいし簡単だ。もちろんその間、上条との時間は美琴が独り占めだ。
 しかも一緒に作ることで、上条の好みを聞き出して「本命」作りに生かすことが出来るという特典付。
 さらに「で、味の評判はどうだったのよ?」とか言えば、14日当日も容易く呼び出せるはず。
 かなり計算高い、恋する乙女の提案である。

 さらに美琴は畳み掛ける。
「一緒に作るんだったら材料も共同購入で安上がりだし。うちの寮では作れないから必然的にアンタの家ってことになるけど、場所を提供してもらう分として材料費は私が多く持つわよ?」
 上条にとってのメリットを立て続けに提示する。
「ついでにその日の夕飯とかも作ってあげる。また連休中の課題が溜まってるなら、それも面倒見てあげるわ」
 上条はと言えば、目を丸くして美琴の顔をじっと見ている。突然の美味しい申し出に驚いているようだ。
そして美琴は返事を促す。
「どう?」

 美琴のおかげで、上条のチョコ作り計画は思ったよりも順調に進みそうだった。買わざるを得ないと思っていただけに、お財布にも優しい型チョコ案はとても役に立った。
 が、今ここに更なる思い掛けない名案が提示された。なんと、美琴が一緒にチョコを作ろうと言っている。
「どう?」
 何故か少し不安そうな顔をした美琴。本人に自覚はないのだろうが、上目遣いで自分の返事を待つ美琴に、不覚にも頬が紅潮するのがわかった。しかし。
 申し分のない提案に今すぐ飛びつきたいのは山々だが、上条には一つ問題がある。インデックスだ。
彼女が家にいるのに美琴を呼ぶのは……自身の頭蓋骨と家電たちの為にも絶対に止めた方がいい気がする。気はするのだが、
「やっぱり……ダメ?」
 ただでさえ効果抜群だった上目遣いのまま、美琴が少しだけ首を傾げた。
「ダメじゃないぞ」
 美琴の知らない所で、上条当麻が御坂美琴に敗北した瞬間だった。

You_are_my...? 2 [2/13]



 2月13日、日曜日。上条当麻は一人で家にいた。もうすぐ美琴が訪ねてくる。

 結局、この3連休のほとんどを上条は美琴と過ごすこととなっていた。
祝日だった金曜はほぼ丸一日かけて、ファミレスで美琴に課題を手伝ってもらった。小萌先生が通常の宿題に加え、「上条ちゃん専用課題」なるものを手加減なしで出してくれたおかげである。それでも一日で終わったのは、ひとえに学園都市第3位を誇る美琴センセーのおかげだ。
土曜は今日の為の買い出しをした。せっかく外に出たのだからと、何故か映画も観ることになった。前日に頭を使い過ぎて疲れていた為、上条は鑑賞中ずっと爆睡していた。その間ずっと美琴が上条に寄り添って手を握っていたなんて話は、寝ていた上条が知る由もないことだ。
ちなみにこんな3連休が実現したのは、小萌先生が「三日間食べまくりツアー」とやらにインデックスを誘ってくれたからである。上条ちゃんは三日間課題で忙しいだろうと考えた小萌先生による素敵な配慮だった。

 上条がここ数日のことを思い出していると、不意にインターフォンが鳴った。
「お、きたきた」
 ドアを開けると、そこにはいつも通り常盤台中学の冬服に身を包んだ御坂美琴が立っていた。
「迷わなかったか?」
「大丈夫よ。アンタが昨日GPSの使用コード送ってくれたしね」
「そっか。寒いし早く入れよ」
「え? あ、うん」
「? どうかしたか?」
「ふえ!? う、ううん。なんでもにゃい……」
「ならいいけど。ほら、どうぞ」
 上条が招き入れると、
「お、お邪魔します……」
 まるで迷宮にでも入るかのように、美琴はおずおずと中に入った。ドアを閉めた瞬間「にゃ!?」という変な声が聞こえたのは気のせいだと思う。
 だって考えてみたら男の子の部屋に入るのなんて初めてで緊張したんだもん! というのは後の美琴の言い分である。

 美琴に洗面所などの説明を一通りすると、上条はエプロンを身に着けて台所へと美琴を手招いた。
「これでいいか? 一応お前に言われたものは用意しといたつもりなんだけど」
「ふむ。どれどれー?」
 調理台の上には今日のチョコ作りに必要な調理器具が並べられていた。昨日の内に美琴がメールで指示した通りだ。
「生クリームとかはまだ冷蔵庫の中だけど」
「問題ないわよ。ちゃんと準備出来てるじゃない。これなら手際よく作れそうね」
 作るのはトリュフ。作り方も単純で、簡単に可愛くデコレーション出来るのが嬉しい定番チョコレシピだ。
「じゃあ早速作り始めましょうか」
 今日買った材料を冷蔵庫に入れ、持参したエプロンを身に着けた美琴が言う。
「アンタはお湯を沸かしてくれる? 私は板チョコ刻むから」
「わかった」

 現在時刻13時過ぎ。
上条当麻と御坂美琴の楽しいクッキングタイムが始まる。


 トントントンとまな板を叩く軽快な音が響く中、
「結構な種類買ったけど、アンタはどれが好みなの?」
「味か? そうだな……俺はビターとか好きだぞ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「ホワイトも好きだけど、たくさん食べると飽きるしな」
「ふーん、なるほどねぇ」
「ストロベリーや抹茶とかって、あんまり普段食べないからなぁ」
「じゃあもしかすると今日から好物になっちゃうかもよ?」
 そんな感じで雑談(のようで実はちゃっかりした美琴の情報収集)をはさみながら、二人は順調にトリュフ作りを楽しんでいる。
 すでにいくつかの溶かしたチョコレートは冷蔵庫の中で冷やされており、今は第四弾となる抹茶チョコレートを刻んでいる。
「そろそろいい時間かしら。冷蔵庫の中チェックしてみて」
「おう」
「包丁で切れるくらいの硬さだったらOKよ」
「……、ミルクとビターは大丈夫そうだぞ? ホワイトはまだ掛かりそうだな」
「そう。じゃあこれ刻み終わったらミルクとビターから丸めていきましょ。パウダーの準備しといてくれる?」
「任せとけ」
 ココアパウダーを大きな皿にふるい入れつつ、上条はチョコレートを刻む美琴を盗み見る。
(ビリビリさえなけりゃコイツも可愛い普通の女の子なのになぁ……。面倒見も良いし、見る限り料理や家事も出来そうだし、結構いい奥さんになりそうだよなぁコイツ)
「……、何アンタこっち見てんのよ? あッ!? よそ見しないで入れなさいよアンタ! 粉末こぼれてるんだけど!?」
「え? ええッ!?」
 そんなハプニングがありながらも、二人の平和なクッキングタイムは楽しく過ぎてゆく。


「出来たっ♪」
 時刻はすでに17時。
「おおっ!!」
 エプロンを付けた二人の目の前には丸いコロコロした色とりどりのトリュフがたくさん並んでいた。冷蔵庫の中にある分も合わせると相当な数になる。
「じゃあ私は夕飯作るからラッピングは……」
「5つずつだろ? 上条さんに任せなさいっ!」
「うん。ありがとね」
 トリュフは完成した。後は袋に小分けするだけだ。
 ただ門限のこともあるので、美琴には夕飯を作ってもらい、その間に上条が一人で小分けすることになった。
「あんまり時間ないから焼き飯にしちゃうけどいい?」
「御坂に任せるよ」
 そうこうしている内に小分け作業も3分の1ほど終わり、台所からは美琴の楽しげな鼻歌が聞こえている。
 内職ってこんな感じなのかなー? とか思いつつ、台所から漂う美味しそうな匂いを嗅ぎながら黙々と小分け作業を続ける上条であった。


 2月13日、真夜中の常盤台学生寮。御坂美琴は寮内の調理室にいた。普段は鍵が掛かって入れないのだが、とある給仕の少女との取引を経てその鍵を今夜だけ貸してもらったのだ。少女曰く「これかー? みさかがくれたんだぞー。私好みな兄と妹でドロドロになるマンガだぞー」らしい。
 あの後は上条と一緒に夕飯を食べ、上条が小分けしてくれたトリュフを美琴の取り分だけ受け取り、門限ギリギリに寮へと帰ってきた。
 夕食時の不在はいつものように白井が上手くごまかしてくれていたらしい。その代償とばかりにこの連休中のことを色々と聞かれたが、何とかごまかして今に至る。

「アイツの好みはビター。ホワイトも好きだけど、少しがベスト」
 誰に言うでもなく、美琴は今日得た情報を整理してゆく。寮監の見回りなどもある為、許された時間はわずか。一秒たりとも無駄には出来ない。
「ようし。見てなさいよッ!!」
 誰に言うでもなく、美琴は気合いの一声を出す。
 帰り際、上条と明日の放課後に会う約束もきちんと取り付けられた。というか、珍しいことに、上条の方から言い出してくれた。美琴はその時のことを思い出す。

「門限ギリギリになったな。大丈夫か?」
「何とでもなるわよ。黒子もいるし」
「そんなもんなのか?」
 上条は自ら進んで、美琴を途中まで送ってくれた。本当は寮まで送ると言ってくれたのだが、それは美琴が断った。本当に嬉しかったのだが、誰かに見られる可能性を考えて断ったのだ。
「じゃあここまでで」
 とある分かれ道で上条は立ち止まった。セブンスミストへ行く時に通る道だ。
「今日は本当にありがとな。夕飯も美味しかったよ」
「こちらこそ。楽しかったわ。ありがとう」
 自分でもビックリするくらい、素直に言葉が出てきた。この調子で明日も素直に言えるといいのだけれど。
「なぁ御坂」
「ん? 何?」
「明日も会えるか?」
「え!? そ、そりゃ放課後なら会えるけど……」
「そっか。じゃあ明日の夕方5時にいつもの自販機前で会おうぜ」
「え!? あ、うん」
 美琴が顔を真っ赤にさせながら頷いたのを確認すると、
「じゃあまた明日な」
 笑みを残し、上条は走り去ってしまった。帰り道とは違う道だったが、どこか立ち寄る場所でもあったのだろうか?

 とここまで思い出に浸って、はっと美琴は我に返る。
「しっかりしろ私!! 時間は有限なんだから!」
 レシピは……大丈夫。頭の中にちゃんとある。
 真夜中の調理場で今、御坂美琴の「本命」作りが始まる。

You_are_my...? 3 [2/14]



2月14日、月曜日。言わずと知れたバレンタインデー当日。
 時刻は午後4時半。上条当麻はすでに自販機前にいた。

 たくさんチョコを用意したかいもあってインデックスの機嫌は朝から良く、一日の始まりは好調だった。
 高校では木曜日の宣言通り「小萌学級限定バレンタイン友チョコ祭」が盛大に開催されており、きちんとトリュフを用意していた上条は歓声と共にクラスメイトに迎え入れられた。もちろん企画の趣旨通り、上条自身もたくさんの「友チョコ」を貰った。貰ったのだが。
 思えばこのチョコを貰った辺りから何かがおかしくなっていたのかもしれない。そして昼休み、上条の周りの雰囲気が決定的に変わった。

「……カミやん、これ誰から貰ったん?」
 貰ったチョコレートはその日の内に食べるのが礼儀なんやでー! という青髪ピアスと共にクラスメイトから貰ったチョコレートを見ているた時、それは起こった。
「へ? お前も貰っただろアイツから」
 そう言って上条は教室の隅で他の女子と一緒にいる眼鏡の少女を示す。
「じゃあこれは誰から貰ったのかにゃー」
 一緒に見ていた土御門が、先程とはまた別のチョコレートを指差す。
「これは……アイツ。ほら、これ。お前も同じの貰ってるじゃん」
 上条はそう言って、同じラッピングが施された箱を指差す。
「お前ら何訳わかんないこと言ってるんだよ。みんな同じチョコ貰ってるんだから、俺のじゃなくて自分の見ればいいだろ」
 しかし、上条は間違っていた。気付けていなかった。青髪ピアスが指差したものは上条のものだけ明らかに大きさが異なっていたし、土御門が指差したものは上条が貰ったものにだけある言葉が書いてあったのである。
「「カーミーやーん」」
「……、えーとお二人さんは何故にそんな怖い顔をしていらっしゃるんでせう?」
 その異変に気付いたクラスの他の男子が3人の周囲に集まってくる。そして上条の机の上に広がったものを見るや否や、青髪や土御門と同じ形相に変わってゆく。
「「「「「またお前だけかッ!!!!!」」」」」
「なッ!?」
 こうして上条の平和な学校生活は幕を閉じ、騒々しく不幸な学校生活へと切り替わった。


 自販機近くのベンチに腰掛け、上条はそんな不幸な出来事を思い出していた。今自分の隣にはその騒ぎの元凶とも言えるクラスのみんなから貰った「友チョコ」が入っている紙袋があるのだが、男子勢とした死に物狂いの追いかけっこのせいでもうボロボロになっている。まだ破れていないこと自体、不幸な上条にとっては奇跡と言える状態だった。

「にしても俺が何をしたって言うんだ……上条さんは何か間違っていましたでせうか?」
「あれ!? アンタもういたの?」
 絶対私の方が先だと思ったのにあれー? といった様子の美琴が、気が付けば上条の目の前に立っていた。
「あ、御坂。おっすー」
「どうしたのよ? やけにテンション低いわねアンタ。もしかしてトリュフ不評だった?」
「いや、トリュフは人気だったぞ。おかげで俺の株が上がった」
 本当は美琴が手伝ってくれたと正直に言うつもりだったのだが、何となく言わない方が身の為だと思ってやめたという経緯があったりする。
「そうじゃなくてだな。実はさ……」
 かくかくしかじか。上条は今日学校で起こった出来事をかいつまんで美琴に話す。つい数日前にもこんな事があったような。
 一方、上条の隣に腰掛けて話を聞いていた美琴は、大体の真実を理解出来たような気がした。
「ちょろっと失礼するわよー」
 今は上条の足元に置かれている紙袋の中身をチェックする。やっぱり……クラス全員に配るものにしては一人当たりの量が多いと思われる物が、ぱっと見ただけでもたくさんあるではないか。しかも、
「”You are my Valentine” ねぇ」
「ん? そんなメッセージあったっけ?」
「……、あるわよここに」
 上条が気付かないのも無理はない。その言葉は箱を包むリボンの上に小さく書いてあるだけなのだから。でもこれは間違いなく……
「アンタ、今日は本命一つも貰わなかったの?」
「本命? ないない。ありませんのことよ。上条さんはそんな幸せとは無縁ですよー」
 上条はおかしそうに笑って否定する。コイツときたら全然乙女心をわかっていない。美琴は心底呆れたように、はぁーっと深い溜息をついた。
「あれ? 御坂さん……?」
 でもこれはある意味チャンスなのかもしれない。コイツが気付いていない今なら、私にもまだ希望があるのだから。
「えーと、美琴さーん? 返事して下さーい?」
「アンタ」
「!?」
 ビクッと上条が姿勢を正した。何もそんなにビビらなくてもと思うけど、普段から電撃飛ばされている側としては無理もない反応かもしれない。
 ゆっくり深呼吸してから、美琴は上条の目をまっすぐ見据えて問い掛ける。
「You are my Valentine. この意味わかる?」
「えっと……?」
 美琴の意図が分からずに戸惑う上条。対する美琴はつまらなさそうに、
「あなたは私の愛しい人」
 続けてとんでもない言葉を口にした。唐突な愛の言葉に、上条はぽかんとした顔になる。
「……へ?」
「You are my Valentine. 意味は、あなたは私の愛しい人」
「あ……」
「そういうこと。アンタのチョコは本命よ」
 ということは、もしかすると土御門はこれに気付いたのかもしれない。いやだからと言って追いかけられても仕方ないとは思えないが。
 そんな事を考えて悶々としていると、何やら美琴が自分の鞄の中をごそごそし始めた。その様子をぼんやり見ていると、
「You are my Valentine…」
 先程とは違い、とても小さい美琴の呟きが聞こえた。俯いているので表情もよく見えないが、膝の上には先程まではなかったものが置かれていた。美琴が鞄の中から出したものだろう。
 急に静かになった美琴の次の言葉を待っていると、突然美琴が立ち上がった。そして上条の目の前に立つと、ゆっくりと顔を上げて、
「You are my Valentine!!」
 はっきりとそう言い切った。
 目の前には馬鹿みたいにぽかんとしたアイツの顔。だけどここで止めるわけにはいかない。
「You are my Valentine.」
 再びそう言って、両手で持っていたものを上条の目の前に差し出す。
「受け取って?」
 するとナマケモノ並みにゆっくりとした動作で、上条がそれに手を伸ばす。
「……、いいのか?」
 こくん、と頷くのが精一杯だった。
「あ、開けてみてもいいか?」
 こくん、と美琴は再び頷いた。
「これチョコレートケーキだよな? ……もしかして昨日帰ってから作ったのか?」
 こくんこくん、と美琴は真っ赤な顔で二度頷いた。
 箱の中のチョコレートケーキをじっと見つめて動かなくなった上条を見て、判決を待つ被告人ってこんな感じなのかもしれないと美琴は思った。今の美琴に下される判決はYESかNOの二択しかないわけだが、心臓がこれ以上ないくらいバクバクしている。
「御坂」
 上条の真っ直ぐな視線が突き刺さる。
「……、」
 耐えられなくなって、美琴は思わず下を向く。
 コトンと音がしたので恐る恐る顔をあげれば、上条がチョコレートケーキの入った箱を横に置いて、何やら鞄の中をごそごそしていた。そして何かを取り出して、
「御坂」
 もう一度、美琴の名を呼んだ。
「……、」
 判決の時が来たようだ。上条の返事はまだわからない。怖くて不安で泣きたくなる。
 だけど泣かない。たとえ答えが悲しいものであってもずっと友達でいたいから。上条を困らせるような、泣きわめくようなことは絶対にしないと決めている。だけど、
「受け取れ御坂」
 そう言って差し出されたのは、見覚えのあるカエル柄の包装紙で包まれた箱。
「You are my Valentine.」
 続けて貰った言葉は、夢みたいな愛の告白。
「これが俺の本命だよ」
 最後にくれたのは、美琴が大好きな少年の優しい笑顔。
「……ッ!!」
 少年がくれた最高の判決を前に、美琴はその場で泣き崩れた。
「御坂ッ!?」
 美琴が完全に崩れ落ちる前、上条は何とか美琴を抱きとめることに成功した。
 泣き顔を見られたくないのか、美琴は上条の胸に顔を埋めたまま小さく震えていた。見えている両耳は真っ赤に染まっている。
「……、ごめんな」
「ヒック……なんでアンタが謝るのよ」
「いやでも泣かせちゃったし?」
「ヒック……馬鹿。嬉し泣きだから謝る必要なんてないわよ」
「じゃあ何か俺に出来る事は?」
「……、美琴」
「?」
「美琴、って呼んで」
「み、美琴……?」
 すると美琴がゆっくりと顔を上げた。涙は止まっているものの、赤く腫れて潤んだ目での上目遣いはとんでもない破壊力を秘めていた。にもかかわらず、
「ッ!?」
 この泣き虫娘。少し顎を持ち上げて瞼を閉じてなんて連続攻撃を仕掛けてきたではないか。
 恥ずかしいが、それは美琴も同じだろう。そっと彼女の望みを叶え、ゆっくりと顔を離す。
「……、嬉しい」
 これ以上どうやったら赤くなるのかというくらいに顔を真っ赤にして、美琴は上条に体重を預ける。上条はそれを受け止めて、美琴の背中に回している腕に少しだけ力を込める。
 美琴が落ち着くのを待って、二人はゆっくりと体を離した。時間にすれば5分も無かったかもしれないが、2人にとってはとても長い時間に感じた。
「あ、私も開けていい?」
 改めて上条から「本命」を受け取った美琴は、嬉しそうに確認を取る。
「ああ、いいぜ」
 中身は美琴の予想通りセブンスミストで見たあのゲコ太チョコレートだった。ということは、
「アンタ、もしかして昨日別れた後に買いに行ったの?」
「まあな。昨日作ってる時にお前にも友チョコ渡そうって思ったんだけどさ。お前と一緒に作ったやつを渡したって意味がないだろ? だからあの後買いに行ったんだ」
 まさか「本命」として渡すことになるとは思わなかったけどな、と上条ははにかむ。
「……、なんで私に応えてくれたの?」
「んー……まあ確かにお前が告白してくれたからってのもあるんだけどさ」
「うん……」
「この三日間お前と過ごして思ったんだよ。お前との時間は楽しいってさ。この連休だけしゃない。今までだって……そりゃあ電撃とか怖いこともあるけどさ。それもひっくるめて、お前との時間は楽しいなって思えたから」
「……、」
「だからお前の本命を受け取った時、思ったんだよ。お前との未来が見てみたいって」
「……それって!?」
 上条は右手で美琴の右手を取る。
「俺は無能力者だけど、それでもお前に誓ってやる」
 上条はじっと美琴の目を見据えて続ける。
「御坂美琴とその周りの世界を守る」
「!!」
 上条は知らないが、美琴がこの誓いを耳にするのは二度目だ。だが間接的に聞いた前回と直接的に言われた今回では、その嬉しさも重みも天と地ほど違う。でも、
「わかってる? その世界にはアンタも含まれてるのよ?」
「……、」
「アンタが命掛けて私守って死んだら、その誓いが守られたことにはならないのよ?」
 黙って美琴の言う事を聞いていた上条は、美琴の手を握る右手にぎゅっと力を込めた。
「ああ、わかった。俺はこれからも誰かが困っていれば助けに行っちまうと思う。でも何があっても必ずお前の元に帰ってくるから」
「……!! うんッ!!」


 2月14日、夕方。とある自販機前にて。
 この日、学園都市最強のカップルが誕生した。
 その後ベンチに座ってそれぞれの「本命」を味わっていたところ、巡回中だった白井黒子やたまたま通りかかった青髪ピアスらに見つかって騒がれるのは、また別のお話。


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