ひな祭り
to御坂さん from佐天
御坂さんと上条さんに
お聞きしたいことがあ
ります。
いつものファミレスで
待ってます。
ある日、涙子から美琴の元にメールが届いた。
(聞きたいこと?聞きたいコトって何だろう?)
と疑問に思いながら、いつもの待ち合わせ場所に向かう美琴だったが……。
一抹の不安がない訳ではない。
何せ、あの佐天涙子が『お聞きしたいことがあります』と言っているのだ。
生半可なことではあるまい。
確かに、最近は……特に『夢』が共有出来るということが分かってからは、週末は必ず上条の部屋から帰らずにいる。
『お泊まり』が当然になっているのである。
別にやましいことは何もない(私としてはあってもイイんだけど……ふにゃぁ~)のだが、いざ聞かれるとなると……。
それに『夢』のことは二人だけの秘密だ。
誰かに知られた途端、見られなくなってしまった。ではシャレにならない。
だから、美琴はこの件に関しては、上条に
「絶対、誰にも言っちゃダメなんだからねっ!!!!!!」
と、キツ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い、お達しをコインの音と共にしてある。
だから、その件に関して上条が口を割る心配はないはずなのだが……それでも一抹の不安がない訳ではない。
それに、最近かなり疎遠になっている佐天からの呼び出しを無視する訳にもいかない。
そんなことをしたら……背筋が一瞬にして寒くなり、ゾクゾクッと身震いをする美琴。
出来るはずがない……。その方がもっと怖い……。
(コレはもう……腹を括るしか無さそうね……ハァ……)
いつもの自販機の前に着いた美琴は、溜息と共に『俎板の上の鯉』の気分を味わうのだった。
しばらくすると上条がやってきた。
「オーイ、美琴。悪い、悪い。ちょっと遅れちまった」
と言い訳する上条の右腕に抱きつきながら、上目遣いに
「んもう……何が『悪い、悪い』よ。こんな美少女を待たせるなんて、アンタ罰が当たっても知らないわよ」
と言って可愛くむくれる。
「み、みみみ、美琴さん?そんなカワイイ顔で怒られても……上条さんはどーしてイイか分からないんでせうが……」
美琴の攻撃に、もうメロメロの上条。
もう……サッサと結婚しちまえよ、オマエら……。
「……まぁ……罰って言うか……もう当たってるのがあるんだけどね……」
と切り出す美琴。
「ヘッ!?」
上条さん、何が何だか判らない。
「あの……これ……」
と言って、先程のメールを見せる美琴……。
上条は血の気が一気に引くのを感じた。
そして、真剣な表情で……
「美琴……二人で逃げよう」
「なに昨夜見た、ドラマのセリフをこんなトコで使ってんのよ。……そりゃあ、当麻と二人なら……ドコに行ったってイイし……逃避行も悪くはないな……何て思ったりもするけど……その逃避行の途中で……二人っきりになれたなら……っていうか、逃避行なんだからずっと二人っきりな訳で……夜になったら……あんなことや……こんなことされたりして……(別に私は当麻がしたいなら構わないんだけど)……。確かに……まだ、ちょっと怖いかなぁ……恥ずかしくてふにゃ~にならないかなぁ……何て想像する時もあるけど……当麻にだったら……当麻だったら……いいよ……」
「あのー、美琴さん……何がいいんでせうか?もしかして佐天さんに呼び出されたのがそんなにイイと?いつの間に『ツンデレ』美琴さんが美琴Mに……」
「だっ、誰が『ツンデレ』よっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
(無自覚かい!!!それともそれが『素』なのか?)
と、心の中で美琴にツッコミを入れる上条だった。
(決して口には出さない……というか出せないが……)
そんな楽しい夫婦漫才の時間は瞬く間に過ぎ……いつものファミレスに向けてトボトボと歩く二人の姿があった。
「あっ、やっと来た~。遅いですよ~、御坂さん、上条さん」
「アハハ……ゴメン、ゴメン。ちょっと当麻が遅れちゃって……」
「な……何でオレのせいな訳……、まぁ確かに遅れたけど……」
「相変わらずのラブラブぶりですねぇ~」
「い……イイじゃない。わ、わ、私たちは、こ、こここ恋人同士なんだから……」
(今の会話の何処が『ラブラブ』何でせう?美琴のヤツ、それに全然気づいてない……完全にお釈迦様にやられてる孫悟空だな……)
「そんなに照れなくってもイイじゃないですか。実は今日お呼び立てしたのは……ちょっと付き合って欲しいところがあったからなんですよ」
「「付き合って欲しいところ?」」
「ホントはそう書くつもりだったんですが、初春が『それだと呼び出せません。『聞きたいことがある』といった方がイイです』と言うもんですから……」
(さすが……ブラック初春さん……こちらの行動はお見通しって訳ね……)
「もう初春も白井さんも行ってるはずですから。早速行きましょう」
「えっ!?黒子も来てるの?」
「……悪い……オレ、用事を思い出した……」
「あ、上条さん、逃げちゃダメですって……今日は金属矢を打ち込まないように言ってありますから大丈夫です!!!」
「ホントに……?」
「ウーン、多分……」
「不幸だ……」
「私が見張ってるから大丈夫よ。じゃあ……とりあえず行きましょうか?」
ということで佐天に案内されたのは、ごくごく普通のゲーセンだった。
「こんなところに何があるって言うの、佐天さん?」
「まあ、イイから、イイから。とりあえず入ってみましょうよ」
「あ……御坂さん、上条さん、佐天さん、コッチですよ~」
(チッ……やっぱりあの類人猿も一緒ですの……)
「白井さん、どうかしたんですか?」
「何でもありませんの……お姉様ァ~ん、お待ち申し上げておりましたのぉ~……あ゛あ゛ッ!!」
「いきなり抱きつくなっていつも言ってるでしょっ!!!ハァ、ハァ」
「お、オイ……美琴、ちょっとやり過ぎなんじゃ……」
「この子にはこれくらいでちょうどいいのよ。これだけやっても全ッ然懲りないんだから……」
「一度や二度の失敗で黒子はめげませんわ!類人猿からお姉様の操を守るためにも、まずわたくしが……グヘッ!?」
「だからやめなさいっつってんでしょうがぁ~、このど変態がぁ~~~!!!!!」
「あ゛あ゛ッ、お姉様の愛のムチッ……あ゛あ゛~……イイですわぁ~~~」
「「「アハ、アハハ、アハハハハハ……ハァ……」」」
とまあ、いつものドタバタ劇がそこで展開される訳だが……店にとってはイイ迷惑だろうなぁ……。
まあ、そんなドタバタ劇も何とか治まり……
「実は、このメンバーでないと撮れない写真があるんですけど、それが今日までなんですよね」
「えっ!?今日までって……何で?」
「だって、今日はひな祭りじゃないですか?御坂さん」
「そう言えば……」
「ひな祭りって、女の子の日なのにイベント感が無いんですよね」
「言われてみれば……そうだよなぁ……」
「バレンタインが近くにあるから……ですかね?」
「学園都市だと、親元を離れていますから、ひな人形を飾るなんてコトもしませんわね」
「確かに……」
「だから、少し気分だけでも味わいたいってコトで、今日お二人に来て戴いたんですよ」
「「ヘッ!?」」
「まあまあ、イイからイイから。じゃあ、上条さんはコッチ。御坂さんはコッチに座って下さいね」
「え?……え?」
「で……私たちはここに3人並んで……」
「じゃあ、行きますよ~。それッ!」
『パシャッ!!!』
「もう一回、行きますよ~」
『パシャッ!!!』
「……ねぇ、佐天さん。何をしたの?」
「もうちょっと待って下さいね。……ねぇ、初春。このアドレスでイイんだよね?」
「はい、合ってますよ。……でも、佐天さん……何をするつもりなんですか?」
「まあ、イイからイイから……っと……コレでヨシッ……送信っと」
「いい加減教えて下さいません?佐天さん」
「もうすぐ、分かりますから……待ってて下さいね」
「……なるほどね」
「えっ!?当麻は佐天さんが何をしようとしているのか判ったの?」
「ハッキリと判った訳じゃないけど、大体の予想は立つだろ?第一このメンバーなんだからさ」
「今日の上条さん、冴えてる~♪」
「「「???」」」
そうこうしている内に、各自の携帯にメールが届いた。
何やら、写真が添付されているようだ……。
添付ファイルを開いてみると……
「えっ!?」
「何ですの!?」
「カワイイですっ!!」
「やっぱりな」
「イイでしょう?」
その写真には、上条のお内裏様、美琴のお雛様と、白井・佐天・初春の三人官女が写っていた。
その後、この写真を見た美琴と上条がイチャイチャし出したり、佐天と初春の質問攻めに遭ったり、黒子が美琴と並んで写真を撮ろうとして、美琴からキツ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い愛のムチを頂戴したのは……また別の話。