定食屋と云えば、会社員が往来しているようなイメージがあったのだが、そうでもなかった。
カップルこそはいなかったが、親子連れや女友達がいたので、ちょっと安心した。
当然だけど、向かい合わせに私達は座る。私がソファでアイツが椅子。
カップルこそはいなかったが、親子連れや女友達がいたので、ちょっと安心した。
当然だけど、向かい合わせに私達は座る。私がソファでアイツが椅子。
「比較的安いからなとは言いつつも御坂とかには破格にしか見えんだろうが」
「一々皮肉言うのやめてよね」
「一々皮肉言うのやめてよね」
ウェイターがお茶の入った湯呑みを2つ置いて去っていく。
メニューを開くと、私は金額に驚く。………安過ぎる。
メニューを開くと、私は金額に驚く。………安過ぎる。
「ああ、言っておくけど何でも食べていいぞ」
…とは言われたけども、私は食べた事ないものが…。
「…アンタのオススメは?」
「ん?ここは丼モノが美味いからそれでいいんじゃねぇか?」
「ん?ここは丼モノが美味いからそれでいいんじゃねぇか?」
ぺらぺらと捲って、『どんぶり』のページを見る。
カツ丼、親子丼、他人丼、マグロ丼、海鮮丼………
ここら辺ならどんなものか、っていうのは分かるから…
カツ丼、親子丼、他人丼、マグロ丼、海鮮丼………
ここら辺ならどんなものか、っていうのは分かるから…
「じゃあ…親子丼で」
「ん、わかった」
「ん、わかった」
そう言うと、コイツは椅子から身を乗り出す。
「すんませーん、親子丼とカキフライ定食でー!」
「かしこまりましたーっ」
「かしこまりましたーっ」
え、そんなぶっきらぼうな頼み方でいいのっ?
こう、伝票を持って慎ましく、というか、そもそもこっち来てないじゃない!
――という不可思議を熱いお茶と共に飲み込んでいく。
ここは学舎の園みたいなお嬢様ばっかな規律に縛られた場所じゃないんだから、うん。
分かんない時はコイツに任せてればいいのよ、そうしよう。
こう、伝票を持って慎ましく、というか、そもそもこっち来てないじゃない!
――という不可思議を熱いお茶と共に飲み込んでいく。
ここは学舎の園みたいなお嬢様ばっかな規律に縛られた場所じゃないんだから、うん。
分かんない時はコイツに任せてればいいのよ、そうしよう。
「…おーい、聞いてますかー?」
はっと我に返ると、目の前で手がぷらんぷらんしていた。
どうやら暫くぼーっとしてたらいい。
どうやら暫くぼーっとしてたらいい。
「えっ、ご、ごめん!何っ!?」
「あーいや、こういう場馴れしてないとこは苦手なんじゃねーかな、と気になって…」
「だ、大丈夫よ。アンタが選んでくれたんだしっ!全然!」
「あーいや、こういう場馴れしてないとこは苦手なんじゃねーかな、と気になって…」
「だ、大丈夫よ。アンタが選んでくれたんだしっ!全然!」
って何言ってんだ私ーっ!!
「そうか、なら良かった。そういやさ、イルミネーションのやつ、ちょっと調べてみたんだが」
ポケットから幾つも折られた紙を取り出して、広げる。
「なんかあそこ、有名らしいな。こーいうの疎くてダメなんだが、恋が実るとかあるんだけど」
「―――――っ!!!!」
「―――――っ!!!!」
み、見られたくなかった!こっそり胸に秘めて歩くつもりだったのにっ!
ああもう、下心丸見えじゃないっ!
ああもう、下心丸見えじゃないっ!
「おもしれーよな、こういうの。こんなんで叶えば苦労しないって話」
って、ひ、否定っ!?…コイツこういうやつだからなぁ…。
根本的に云えば科学の街で非現実的なモンやってるしね…。
根本的に云えば科学の街で非現実的なモンやってるしね…。
「これでさ、俺達が恋人とかになったらすげーって思わねぇ?」
――――は?
「いいい今なんてっ!?」
「え、いやだからさ、これで本当に恋人にでもなったら俺もこういう迷信的なの信じるって…」
「ア…アンタは私と恋人になりたかったのっ!?」
「いや、恋人レベルにでもなればお前のビリビリも多少でも控えてくれのぐわっ!?」
「あっ、ちょ、ごめん!大丈夫っ!?」
「え、いやだからさ、これで本当に恋人にでもなったら俺もこういう迷信的なの信じるって…」
「ア…アンタは私と恋人になりたかったのっ!?」
「いや、恋人レベルにでもなればお前のビリビリも多少でも控えてくれのぐわっ!?」
「あっ、ちょ、ごめん!大丈夫っ!?」
思わず電撃を発してしまった…わ、悪いのはあっちよね!
アイツは電撃の勢いで後ろに倒れていった。
アイツは電撃の勢いで後ろに倒れていった。
私は咄嗟に席を立ち、駆け寄る。
「いつつ…お前、流石に店内では止めろって…」
「……ごめん」
「けど、俺も言い過ぎた。こんなお前に対して失礼な思考で行っても楽しくないよな」
「……ごめん」
「けど、俺も言い過ぎた。こんなお前に対して失礼な思考で行っても楽しくないよな」
店員も駆けつけてたが、立ち上がって、「すいませんでしたー」と店員・客全員に謝る。
特に問題視されてなかったようなので一安心、か。
私も席に戻った。
特に問題視されてなかったようなので一安心、か。
私も席に戻った。
「つっても、その前にプレゼントだな。場所的にオススメとかあるか?」
「ええっとー…ある、けど…… …アンタは子供趣味っていう気が…」
「そんな事言うわけないだろ。そもそもお前へのプレゼントなんだし」
「そ、そう…ならいいけど… あ、ちゃんとしたのもあるからあのシスターにも買ってあげるといいんじゃない?」
「んーそうだな。アイツも喜んでくれるだろうし」
「ええっとー…ある、けど…… …アンタは子供趣味っていう気が…」
「そんな事言うわけないだろ。そもそもお前へのプレゼントなんだし」
「そ、そう…ならいいけど… あ、ちゃんとしたのもあるからあのシスターにも買ってあげるといいんじゃない?」
「んーそうだな。アイツも喜んでくれるだろうし」
他愛もなく話してると、さっきとは違う女の店員さんが器用に2つお盆を持って来た。
私の前に親子丼、アイツの前にはカキフライ定食が置かれ、「ごゆっくり」と言って去って行く。
私の前に親子丼、アイツの前にはカキフライ定食が置かれ、「ごゆっくり」と言って去って行く。
「ねぇ、あの人曲芸師か何か?こんな重そうなお盆2つもバランスよく…」
「仕事してたらああいうのは出来るみたいだぞ。レストランだと腕に乗せたりしてるのもいるしな」
「う、腕っ!?」
「台車だとスペース取っちまうから、そっちのが効率的なんだろ」
「仕事してたらああいうのは出来るみたいだぞ。レストランだと腕に乗せたりしてるのもいるしな」
「う、腕っ!?」
「台車だとスペース取っちまうから、そっちのが効率的なんだろ」
テーブルの壁際にある割り箸の山から1つ私に取ってくれた。
手を合わせて「いただきます」と言うので私もつられて「いただきますっ」と言う。
…割り箸なんてここんとこ触った事ないわね…コンビニでも弁当買わないし。
…割り箸なんてここんとこ触った事ないわね…コンビニでも弁当買わないし。
「ん、どした?食わないのか?」
コイツは難無くパキッと綺麗に真ん中の窪みに沿って割っていた。
「た、食べるわよ」
先っちょを摘み、左右に広げる。
ぱきゃっ、と音がして逆の端を見る。
……案の定、バランスよく割れてはいなかった。ていうか片方はささくれ立っている。
ぱきゃっ、と音がして逆の端を見る。
……案の定、バランスよく割れてはいなかった。ていうか片方はささくれ立っている。
「あーあー、こういうのも経験なかったのか」
「っさいわね。誰だって失敗はあんのよ!」
「っさいわね。誰だって失敗はあんのよ!」
お盆の端っこに失敗した箸を避ける。
割り箸をもう1つ取ろうと思ったら、ソレはアイツの方が近く、私の腕が届かない。
割り箸をもう1つ取ろうと思ったら、ソレはアイツの方が近く、私の腕が届かない。
「ん?取れねーのか」
そう言って、お椀に箸を置いて私の分を取ってくれた。
そして再度挑戦する。
そして再度挑戦する。
「ていっ」
小さく言葉を発すると同時に箸をまた二分する。
…今回はちゃんと割れた。ちょっとズレたけど。
…今回はちゃんと割れた。ちょっとズレたけど。
「ほら、わ、私にだって出来んのよ。どう?」
「へいへい、御見逸れ致しました」
「へいへい、御見逸れ致しました」
コイツは…っ。
に、二度で出来たんだからもっと驚きなさいよっ!
何の気もなく、カキフライに噛り付いてるじゃない…。
に、二度で出来たんだからもっと驚きなさいよっ!
何の気もなく、カキフライに噛り付いてるじゃない…。
「…ねぇ」
「ん?」
「カキフライって何?」
「ん?」
「カキフライって何?」
一瞬、コイツの表情が固まった――気がするけど、気のせいよね。
「…食った事ないのか?」
「まさか果物を揚げてるんじゃないわよね」
「そのまさか」
「嘘っ!?」
「なんなら食べてみろよ」
「まさか果物を揚げてるんじゃないわよね」
「そのまさか」
「嘘っ!?」
「なんなら食べてみろよ」
ほれ、と言いながら漬物が入ってた皿にカキフライを置いて私に渡してくる。
「く、くれるの?」
「食わず嫌いはよくないだろ。気になるなら食べてみるべし」
「食わず嫌いはよくないだろ。気になるなら食べてみるべし」
私は受け取って、恐る恐る箸で掴んで、先端だけ食べた。
さくっと香ばしい音がして、まず口の中にカスの食感がする。
さくっと香ばしい音がして、まず口の中にカスの食感がする。
「………柿じゃないわよね」
「ああ」
「ああ」
あっさり言われた。
こっちの『カキ』じゃないって事は。
こっちの『カキ』じゃないって事は。
「水産物のカキ?」
「その通り。ホントに柿なんか揚げるかっての」
「…私のドキドキ返してよ」
「ま、美味しいだろ?」
「その通り。ホントに柿なんか揚げるかっての」
「…私のドキドキ返してよ」
「ま、美味しいだろ?」
確かに。美味しかった。
にゅるっとしてたけど、これはこれで…美味しい。
にゅるっとしてたけど、これはこれで…美味しい。
「そうだ、御坂」
「? 何よ」
「? 何よ」
貰ったカキフライを食べ終え、鶏肉を一切れ口に入れる。
「何でお前は未だに俺の名前を呼ばないんだ?」
「――っ げふっ、げほげほっ」
「わ、悪い!ほら、茶!」
「――っ げふっ、げほげほっ」
「わ、悪い!ほら、茶!」
思わず鶏肉についていた卵が一気に喉に入っていきむせてしまった。
手渡されたお茶を貰い、一応温いのを確認して多めに飲む。
ふぅー、と一息つくと回復した。
手渡されたお茶を貰い、一応温いのを確認して多めに飲む。
ふぅー、と一息つくと回復した。
「え、な、なな…名前…?」
「ああ。いつも"アンター"だとか"コイツが"だとか、それしか呼んでくれてねーだろ?」
「名前……」
「後ろからそんな事言われても気付くのは遅くなるし、俺だって"御坂"って呼んでるしさ」
「ああ。いつも"アンター"だとか"コイツが"だとか、それしか呼んでくれてねーだろ?」
「名前……」
「後ろからそんな事言われても気付くのは遅くなるし、俺だって"御坂"って呼んでるしさ」
名前か…いや、すっごい今更な事だけど…ていうか何て呼べばいいのよっ!
「アンタは何て呼んで欲しいのよ」
「上条様」
「ほう」
「冗談です 上条でも当麻でも、今更敬称は要らんと思うし」
「上条……当麻……」
「上条様」
「ほう」
「冗談です 上条でも当麻でも、今更敬称は要らんと思うし」
「上条……当麻……」
…いや、どっちで呼べばいいのよ…
私から"当麻"だなんて恥ずかしいし…かと言って"上条"は何か…尚更離れた感が…。
思わず頭を抱えて悩む。
私から"当麻"だなんて恥ずかしいし…かと言って"上条"は何か…尚更離れた感が…。
思わず頭を抱えて悩む。
「……そこまで悩む事じゃねーだろ…」
私には死活問題だっつーの…。
「そういやさ、さっきお前が泣いてた時なんだけど。
お前、俺の事"当麻"って言ってたから"当麻"でいいんじゃないか?」
「………は?」
お前、俺の事"当麻"って言ってたから"当麻"でいいんじゃないか?」
「………は?」
全く記憶に無い。
「"は?"じゃなくて。ちょっと泣き始めた時、申し訳なく"ゴメンね…当麻"って言ってたぞ」
「…い、言ってない言ってない!!」
「…い、言ってない言ってない!!」
言ってた…かも知れないけども!記憶に無いっ!ウソ!?
「言ってたんだって。ってそこはどーでもいいんだ」
どーでもよくないっ!!
「だから、"当麻"って呼べばいいじゃんか。そっちのが助かる」
「聞けよ。 って、え……と…当麻……?」
「ああ。それでいいだろ」
「聞けよ。 って、え……と…当麻……?」
「ああ。それでいいだろ」
と、当麻…って、何で私が赤くなって……。
「ふ、ふにゃー…」
「お、おい大丈夫か?おい、御坂っ!?」
「お、おい大丈夫か?おい、御坂っ!?」
瞬時に私は記憶がトんだ。