とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある春の1日



4月上旬、この日美琴はこの上なくご機嫌だった。

「えへへ~当麻から誘ってくれるなんて……嬉しいな~……」

ご機嫌な理由は昨日の夜に上条から電話でお花見に誘われたため。
付き合って数ヶ月経つがいつもは美琴から遊びに誘うことがほとんどだ。
しかし今回は上条から誘ってくれた。
大好きな彼氏から遊びに誘われて嬉しくないはずがなく自然と顔には笑みが表れてしまう。
今日のために腕によりをかけて作ったお弁当を手に提げてドキドキしながら第7学区の桜の名所へと急ぐ。

15分後、いつもとは違う公園に到着。
周りには友達同士やカップルで桜を見に来ている学生達でにぎわっている。

(ふ~ん、カップルで来てる人も多いのね。まあ私もその1人なんだけど……えへ…)

若干不気味な笑みがこぼれる。
するとそこに

「美琴……何にやけてんだ?」
「ッ!!?」

タイミング悪く上条登場。
花見の用意が入っているのかリュックを背負い左手には飲み物などが入ったスーパーの袋を提げている。
上条の言葉に美琴は顔を真っ赤にする。

「ア、アンタ……なんでもういるのよ……!?」

恥ずかしさのあまり呼び方が『当麻』から『アンタ』になってしまった。
美琴は今日のお花見が楽しみすぎて約束の11時半より1時間も早い10時半に到着しのだが上条はすでに来ていた。
しかもその様子からして到着したばかりではなくもっと前からいたようだ。

「なんでって場所取りとかしないといけないだろ?ほら行くぞ!」

そう言うと上条は右手で美琴の手を握って歩き始める。

(わわっ!い、いきなり手……えへへ……今日はいい1日になりそうね……)

しかし手をつないだまま着いた場所には……

「おー上条、買出しお疲れなのよな。(五和!まだ諦めちゃダメなのよ!この花見で上条を奪い取るのよな!)」
「あ、どうもありがとうございます!(な、何バカなこと言ってるんですか!私はそんなこと考えて………ないですよ!)」
「(じゃあその間はなんなのよな……)」

なぜか天草式のメンバーがいる。
さらには……

「ねえかおり~すている~……おなかがすいたんだよ……」
「も、もう少し待って下さいインデックス、今オルソラが料理を持ってくるので……」
「ちょっとしたお菓子ならあるけど食べるかい?」

イギリス清教の面々までいるではないか。
これを見た美琴は唖然とする。

「……あの当麻?」
「なんだ?」
「これは一体……何?」

美琴はキレかけていた。
2人きりで楽しくお花見という桃色空間を想像していたのにもかかわらず目の前のこの状況。
しかも上条はこの状況が当たり前、という反応をしている。
これは明らかに上条が悪くキレてもおかしくない。

「いや何って……昨日電話で言ったじゃないか。」
「………え?」
「だから電話で『明日と花見にいかないか?イギリス清教と天草式と花見するんだけど美琴も一緒にどうかなって思ってさ。』って。」

前言撤回、これは美琴のミスだった。
確かに昨日上条はイギリス清教の面々もいると言った。
しかし美琴は『明日花見に行かないか?』のところだけ聞き嬉しさのあまり続きを全く聞いていなかった。

(そ、そうだ!今からでも当麻に二人っきりでお花見しない?って言えば……)

天気予報によれば明日から数日間は雨が続くらしく桜は散ってしまう。
つまり花見をするなら今日がラストチャンスなのだ。
2人きりでのお花見を諦めきれない美琴は上条に頼もうと考えた。
押しに弱い上条なら頼みまくればOKしてくれるかもしれない。

「あ、あのさ……私としては2人で「お~い!上やんおまたせ~!」お花見……」

美琴の言葉を遮り上条に声をかけてきたのは上条のクラスメイトの青髪ピアス。
さらに青ピの後ろには上条のクラスメイトがほぼ全員いる。

「おう。遅かったな。」
「いやすまんにゃー。少し準備に手間取っちまったぜよ。」
「え!?え!?なんで!?」
「いやなんでってクラスメイトのことも電話でちゃんと言っただろ?」

電話のとき美琴は上の空で聞いていなかったが上条は『クラスメイトも来る』とちゃんと付け足していた。
そう、今日はイギリス清教と上条のクラスメイトの合同お花見だ。
少し前にいろいろあってイギリス清教が上条のクラスメイトにお世話になったことがあった。
今回はそのお礼も含めてのお花見なのだ。
知り合った理由が適当すぎるのは気にせいなんですよ。
あとこんなに魔術師が学園都市内に入り込んでたらおかしいだろーが、とかいうツッコミはなしの方向で。
結局花見は大人数で行うことになった。
こうなってはもう上条と2人でお花見など不可能だ。
2人で抜け出そうとすれば(上条が)どんなひどい目に遭うかわからない。

「そういや美琴、その手に持ってるのって……まさか弁当か?」
「ッ!?あ、と、そ、そうだけど……」

それを聞いた青ピが即座に反応する。

「それほんまか!?今日はなんていい日なんや!まさか常盤台の女の子の手作り弁当が食べられるなんて!!上やんの彼女に感謝!!」
「え!?あの……」
「じゃあとりあえず今ある食料だけ集めましょうか。」

神裂にみんなは賛同しそれぞれが持ってきた弁当やお菓子などが集められる。
そんな中美琴だけがそれをためらっていた。

「?どうしたんだ美琴?」
「あの…その……なんでもない……」

結局美琴のお弁当も回収されてしまった。
美琴としては上条のために作ったのだから上条以外の人に食べられるのは正直嫌だ。
しかしみんながいる場所そんなことを言えるわけがなかった。
それからいろいろ準備したり話しをしたりして1時間とちょっとが経過、インデックスも限界に近くなった頃、

「みなさ~ん!準備ができたのでございますよ。」

小型の即席調理場で料理をしていたオルソラがご馳走を運んできた。
その出来栄えは誰もが驚くほどだ。
さらにアネェーゼ部隊のシスター達が次々と料理を運んでくる。
全員の視線がその料理に集中し、美琴も思わず見とれてしまった。
そして先ほど回収されたお菓子や弁当などもみんなで食べられるように配置される。
いわゆる宴会状態だ。

(よし!いつまでも落ちでちゃだめよ私!全部じゃなくても少しでも当麻に食べてもらえばいいんだから!)

ここまできて美琴はようやくプラス思考に切り替え元気を出す。
しかし―――――――――

「あ、あれ!?ない………私のお弁当がない!」

集められた食料の中に美琴のお弁当はなかった。
つい先ほどまではあったはずなのにオルソラの料理に気をとられ数分間目を離したうちに誰かが持っていってしまったようだ。
思い当たることもなくもはやどこへいったのか見当もつかない。

「そんな……せっかく作ったのに……」

美琴はお花見に来る前と比べ別人のように落ち込む。
今日はついていない、もう帰ろうかと考えたとき、

「おい、美琴!」

後ろから上条がそっと近づいてきた。
何やらやたら周りを気にしている。

「どうしたの……?」
「あのな……ってなんか元気ないな?」
「いや……なんでもない……それでどうかしたの?」
「ああ、あのさ、ちょっと抜け出そうぜ。」
「へ?あ、ちょっと!」

上条は再び美琴の手を握るとみんなに気づかれないようにこっそりと移動を始める。
幸いほとんどの人がオルソラの料理に気をとられていて2人には全く気づいていない。
そして無事バレることなく公園内の別の場所に到着。

「い、いきなりなんだったの……」

後半は走ってきたため若干息が荒くなる。
ふと上条の顔を見るとなにやら嬉しそうな恥ずかしそうな表情をしている。

「あの……俺としては2人きりで花見したくてさ……」
「あ……」
「それで、その、お前の反応見てたら美琴も2人きりがいいのかなーって思ってここまで来たんだけど……俺の勘違いだった?」

そう、実は上条も美琴と2人きりで花見がしたかったのだ。
美琴を誘おうと思っていたが先日(運悪く?)土御門に花見に誘わた。
断れば理由を追求され確実に美琴と花見をしようとしていることはバレてしまい2人で花見などできない、
妨害されるに決まっている。
だから美琴と2人で花見をするためにあえて土御門の誘いにのったわけだ。
まあ土御門がこの日を選んだのは上条が美琴と2人っきりで花見をするのを防ぐためなのだったのだが。

「か、勘違いじゃない!!その、私も……2人がよかったから……」
「ほんとか!?よかった~!」
「でも……せっかくのお花見なのにお弁当が……」

上条と2人きりでお花見ができるのにお弁当がない、美琴にはそれが残念でしかたなかった。

「それなら大丈夫だぞ。」

そういって上条はリュックを肩から下ろす。
そしてその中から取り出したのはなんと美琴が作ったお弁当だった。
上条はしてやったり!という表情をしている。

「え?なんで?どうして当麻が持ってるの!?」
「いやさ、みんながオルソラの料理に目を取られてる隙にこっそりな。まあ……本音を言うと美琴の弁当が他のやつに食べれれるのが嫌だったんだよ。」

照れながら話す上条。
『他のやつに食べられたくない』その言葉を聞いた美琴はなんだか幸せな気分になった。

「えへ……じゃあ早速お弁当にしましょ!当麻もお腹減ったでしょ?」

時刻は12時を少し回ったところ。
朝から花見の準備をしていた上条はかなりお腹が減っていた。
上条が持っていたシートを敷き美琴がお弁当とお茶を準備する。

「じゃーん!どう?私としては結構うまくできたと思うんだけど……」
「おお……うまそうだな……」

おせち料理に使うような2段重箱のふたを開けるとそこには色とりどりのおかずが広がっていた。
そしてもう1段には1口サイズに切られた手巻き寿司が綺麗に並んでいる。

「それじゃ早速……いただきます!」

そう言うと上条は寿司を1つ口にほうりこむ。
もぐもぐと十分に味わったあとゆっくりと飲み込む。
そんな上条をドキドキしながら美琴は見ていた。

「うまい!めちゃくちゃうまい!!」
「ほんと!?……ま、まあ当たり前よ!だ、だだだだだって当麻への愛がたっぷり詰まってるんだもの!」

自分で言っておきながら美琴は顔を真っ赤にする。
言われた上条も赤くなっている。
それからしばらく無言で食べていたあと美琴はあることを思いついた。
少し迷ったもののすぐに行動に移す。

「そ、そうだ!ほら当麻、あ~ん///」
「お、それじゃお言葉に甘えて……あむっ」
「うあ……///」
「んん……やっぱうまいな。それに美琴が食べさせてくれたからうまさが倍増したよ。」
「やだ当麻ったら……じゃあもう一回食べさせてあげる……///」

見事なまでのバカップル。
周りにはそこそこの人がいるがそんなことは気にしていない。
いや気にしていないというより2人には周りが見えていないと言ったほうが正しいかもしれない。
美琴がもう1回食べさそうとしたところで、

「ふっふっふ~見とったで上やん!!」
「「!!?」」

不気味な笑い声とともに現れたのはビデオカメラを持った土御門と青髪ピアス。
何やら機嫌が悪いようだ。

「よくも弁当持って逃げてくれたな~……今の様子はばっちり撮らせてもらったで!」
「まあ安心するぜよ、まだ上やんが抜け出したことは誰にも言ってないからにゃー。」

そう言いながらじりじりと近ずいてくる2人。
ちなみに他のメンバーが上条と美琴がいなくなったことに気づいていないのは全員オルソラの料理に夢中だからである。

「なんだお前ら……何が望みだ!」
「望み?そんなん決まっとるやないか!!」
「このビデオの内容をばらされたくなかったら……その弁当をよこすんだにゃー!!」

どうしても常盤台の女の子の弁当が食べたい青ピ(土御門は便乗)が上条から弁当を奪い取ろうとする。
が、この2人は美琴の『当麻愛』をなめていた。
いくらなんでも上条の友人でさらにレベル0である俺達に能力はつかわないだろうと、
それも上条に直接危害を加えるのではく弁当を盗るだけなのだから大丈夫だと思っていた、が……
弁当を奪い取ろうとする2人に電撃が飛んだ。

「「%#@*◇Э○$¥Й§!!?」」

まともに電撃を食らった2人は声にならない声を上げ地面に倒れこむ。
それと同時にビデオカメラもぶっ壊れた。
しかし美琴はそんなことは気にも留めない。

「あんたたちねぇ……せっかくの当麻とのお花見を邪魔すんじゃないわよ!次何かしたら真っ黒こげにするからね!!」

上条は少しやりすぎかなーとか思ったがあまり気にしていない。
動かなくなった2人を上条が別の場所へ引きずって移動させておいた。
まあほうっておいてもなんの問題もないだろうと考えてのことだった。

「しかしあいつらには参ったな……もう何もしてこないといいけど……」
「ま、あれだけ脅しておけば大丈夫でしょ。さ、それより続き続き♪はい、あーん///」
「もぐ……やっぱうまいなー。そうだ美琴もほら、あーん」
「!?……はむ……ふにゅ……」

外なのにこのいちゃつきっぷりはハンパない。
ここで2人の周りにいる一般人の意見を1つ。

(あの女の子…彼氏と彼氏以外の人とで態度が変わりすぎ……)


◇ ◇ ◇


それから20分後、美琴が作ってきたお弁当はすべてなくなっていた。
結構多めに作ってきたのだがあまりのうまさに上条がほとんど食べたのだ。
それだけで美琴は嬉しくてたまらなかった。
そろそろみんなのところへ戻ろうかとも思ったがもう少し2人の時間を楽しみたいのでジュースを飲みながら桜を見ていた。

「キレイね……」
「ああ……」
「……ってなんでこっち向いてるのよ?」
「いやだって……きれいだから……///」

ボンッ!っという音とともに美琴は顔を真っ赤にする。
少し間があった後、2人は目をつぶりゆっくりと距離を縮めていく。
そして距離はゼロに―――――――――カッ!!

「うお!?」
「え!?何々!?」

2人が目を開けるとそこには刀が桜の木に刺さっていた。
下手したら死ぬだろこれ、と思いつつその刀が飛んできた方向を見てみると

「か~み~じょ~う~と~う~ま~……」

ふらふらしながらすごい形相の神裂が立っていた。
その様子からしてかなり酔っている。

「我々との、ヒック……花見をほったらかしにして……女子と2人で花見とは……覚悟はできているのだろうな……」
「な、なんで酔ってるんだよ……」
「上や~ん、さっきはよくもやってくれたんだにゃー」

神裂とは少し離れた場所ボロボロの土御門がやたらニヤニヤしながら立っていた。
そんなボロボロの少年を見て上条は気づいた、これは土御門の逆襲だと。
弁当が食べられなかったことと電撃をくらったことの仕返しをするために神裂を騙して酒を飲ませたのだと瞬時に理解した。

(20分足らずでこれだけ酔うとか土御門のやつどんだけ飲ませたんだよ……)

さらによく見ると酔った神裂につれてこられたようで天草式メンバーも数人いるようだ。
正直言ってこれは洒落にならない。
美琴に戦わせるわけにもいかないので上条がとる行動は1つ。

「美琴!逃げるぞ!!」
「う、うん!」

上条は三度美琴の手を握るとシートなどほったらかしで大急ぎで逃げ出した。

「あっ!待てコラァァァァァァァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!!」

それを見た神裂と天草式メンバーは全力で追ってくる。
神裂が酔っていて『聖人』の力を使えていないのが唯一の救いだろう。
とは言ってもやばい状況なのは言うまでもなく……

「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

いつもの口癖を叫びながら上条は美琴と逃げた。


◇ ◇ ◇


「はぁ……散々な目に遭ったな……」

あの後なんとか逃げ切り2人はいつもの公園で休んでいた。
逃げ切るのに1時間近くかかりへとへとだった。

「まあお花見はできたからいいじゃない!それより今からどこか遊びに行きましょ♪」
「そうだな……あいつらに見つかるとやっかいだから映画でも―――」

そこまで言ったところで上条の携帯電話が鳴った。
表示されている名前は『月詠小萌』。

「はいもしもし……ええ!?あ、はいすいませんでしたー!!今すぐ行きますから!!」

電話を終えた上条の顔からは生気が消え去った。

「ど、どうしたの!?なんかまた事件!?」
「いや……小萌先生に嘘がばれた……不幸だ……」

そして上条は美琴に説明した。
実は今日補習があったのだが病院で検査があると嘘をついて花見へ行っていたのだ。
土御門はそれを知っており、どうやらバラされたらしく今から学校へ行かなければならなくなってしまった。

「ごめんな美琴……花見も中途半端だったしデートもろくにできなくて……」

上条は悲しそうな表情で美琴に謝った。
自分が不幸だからデートもうまくいかない、言葉には出さなかったが美琴には上条がなんと言いたいかわかっていた。

「ううんそんなことないよ。今日はすっごく楽しかったし当麻から誘ってくれて嬉しかった。」
「でも……まともに2人でいられたのは1時間くらいだったわけだし……」
「私が楽しかったからいいの!それとも当麻は楽しくなかった?」

上条はそんなわけないと慌てて否定する。

「じゃあいいじゃない♪映画はまた今度行けばいいんだし……それから―――」

美琴による不意打ちのキス。

「さ、さっきは邪魔が入ってできなかったから……じゃあ補習頑張ってね////////」

そう言い残して美琴は恥ずかしそうに走り去って行った。
残された上条は

「……お、俺は幸せだ……不幸に負けてたまるかー!!!」

そう叫んで学校へと走っていった。
とある春の1日、2人の走っていった方向は違ったがこの日上条も美琴も幸せに満ちていた。


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