とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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~4th day まこてんしょ~


チケット売り場に並んで十数分、ようやく麻琴たちはチケットを入手することが出来た。
さすが休日の遊園地、なかなかの混雑具合である。
上条と美琴はフリーパスでさっさと中に入って行ってしまったようで、周囲には見当たらない。
だが、つい先ほどゲートの付近のインフォメーションセンターに向かうのを見たのでまだそこにいるはずだ。すぐにそこに向かえば見失ってしまうことはないだろう。
しかし、麻琴はそれとは別の懸念事項を抱えていた。

「チケット代で早くも上条さんのお財布が若干ピンチに……」

自分とインデックスの分の代金を支払ったおかげで、心細くなった財布の中身。
自分の時代にいた頃は奨学金やらでお金に困るようなことは特になかったのだが、ここ数日は美琴から支給されるお小遣いのみなのだ。
まぁ、今日の分はインデックスの食費等も含め多目にもらってはいるのだが、やはり彼女の食費を考えると心もとない。

「まこと、そんな細かいこと気にしてちゃいけないんだよ」

「いや、細かくないわよ!? 結構重要なことよ!?」

「麻琴ちゃん。そろそろ行かないと本格的に上条さんたち追えなくなるんじゃない?」

コントのようなことをし始めた麻琴とインデックスに佐天が釘をさす。
佐天としても、このチケット代は予想外の出費なのだ。無駄に終わらせるわけにはいかない。

「そうだね。さっきとうまたちがあの建物に入っていくのを見たんだよ。出入りを見てた限りまだ中にいるはずなんだよ」

それに答えたのはなぜだかインデックス。私の完全記憶能力に間違いはないんだよ、と胸を張っている。

「あ、あれー? 今あたしが聞かれてたよね? 何でインデックスさんが答えてるの!?」

「早い者勝ちなんだよ」

「えぇ~……」

果たしてそういう問題なのだろうか。インデックスの答えになんだか納得のいかない麻琴である。

「よ~し、じゃあ、見つからないように建物のそばに隠れよっか」

「それがいいかも」

早速移動を始める佐天とインデックス。

「ちょっと、置いてかないでよー!」

麻琴もその後を駆け足で追いかけていった。


その頃、インフォメーションセンターに立ち寄った上条と美琴はあるサービスの説明を受けているところだった。

「と、いうわけでして、カップルの方は優遇されるサービスとなっております」

ニコニコと営業スマイルで説明をする係員の女性。

「どうする?」

「う、う~ん……」

上条に尋ねられ、ちらりと視線を部屋の一角に置いてあるストラップに向ける。
そのストラップはこの遊園地のこのサービス限定の代物のペアストラップ。それもラヴリーミトンとのコラボ品のゲコ太ストラップだった。
限定ゲコ太ストラップ。美琴からすれば喉から手が出るほどにほしい。ちょうど上条と美琴は、正真正銘のカップルでもある。それなのになぜ美琴が即決できずにいるかといえば……

「あ、あの。本当にキ、キスしてる写真撮らないとダメなんですか?」

「はい。あくまでカップル限定ですので、ご兄妹などの関係じゃない証拠としてお願いしています」

「うぅ……」

そう、これなのだ。カップルである証拠としてキスシーンの写真を撮られる。これが美琴を悩ませていた。
美琴だって上条とキスがしたくないわけではない。むしろ、キスをしたいくらいだ。
何せ告白された日以来、一度も上条と美琴はキスをしていない。いい雰囲気になりかけてもそれは人前だったりでできなかった。
でも、だからといってそういう雰囲気になってるわけでもないのに第三者の前でキスをする、というのは美琴にはいささかハードルが高すぎた。
目の前のハードルを飛び越えないと気がすまない美琴といえども、さすがに恥ずかしすぎるのだ。
ならば、限定ゲコ太ストラップが諦められるのかといえばそうでもないし、そもそもキスをするいいチャンスなのでは? という思いもあって決断できない。
でも、だけど……美琴の中で思考が堂々巡りを繰り返す。やがて迷いに迷った思考は迷路の出口にたどり着く。それは彼女の中にあった最も大きい欲求に沿うこと。
カップルとして上条と行動したい、上条とキスをしたい、ということだった。

「する」

ぼそりと美琴がつぶやく。

「え?」

「と、当麻とキス…する。当麻は……イヤ?」

「イヤ…じゃない」

潤んだ瞳で上目遣いで見つめてくる美琴に、上条が逆らえるわけもなかった。

「は~い。じゃあ、準備は出来てますので、彼女さんから彼氏さんのほっぺにチュってしちゃってくださいねー」

「わ、私からするんですか!?」

頬にするというのは、他人の前でやるには幾分かハードルが下げられた美琴ではあるが、自分から上条にキスをしなければならない、という新たな壁が立ちはだかった。
普段なら、美琴からキスを、しかも人前でやるなんてことは不可能だっただろう。
しかし、美琴の頭はすでに上条とキスをしたいという欲求に染められていた。

「それではいつでもどうぞ~」

「と、当麻……」

どこか熱にうなされたような表情を浮かべる。
上条の方が背が高いので必然的に爪先立ちで、そして体重を預けるように上条の肩に手を置き、頬に自分の唇を軽く押し付けた。
頬に伝わる感触に上条の顔も一瞬で真っ赤に染め上がる。これは、思っていた以上に恥ずかしいのかもしれない。

「はい、OKです。じゃあ次は彼氏さん。彼女さんのおでこにチュッとやっちゃってください」

頬とは言えど、美琴からキスされたためか、上条の思考もすっかりとろけてしまっていたようで、言われるがまま、美琴に向き合い、前髪をかきあげる。

「いくぞ……」

「ん……」

上条がゴクリとつばを飲み込む。なんだかその音がやけに響いた気がした。
美琴は顔を上げ、ぎゅっと目をつぶっている。その顔は真っ赤で目じりに涙がわずかに滲んでいた。美琴も恥ずかしいのだろう。
しかし、その顔がまた可愛くて、上条の心臓がバクバクとやかましく鼓動する。

「ひぅ……」

額に感じる上条の温もりに、くすぐったいような心地よいような感覚が全身を駆け巡り、変な声が出てしまった。

「は~い、OKです。では、プリントアウトしますので少しお待ちくださいねー」

恥ずかしさで固まっている二人をよそに、係員はテキパキと進めていく。顔がにやけ気味なのはこの二人を見ていれば仕方ないのかもしれない。

そんな様子を入り口付近からこっそり覗いていた3人は……

「うわぁ~。なに、なんなのこれ? なんか凄くキュンキュンするんだけど。あぁ、もう! 御坂さんホント可愛いなぁ」

「甘い、甘すぎるんだよ。うぅ、なんか胸焼けしてきたかも」

「慣れてると思ってたんだけど……、こういう初々しい反応見せられると、なんかこう!」

三者三様にすっかり上条と美琴のぽわぽわオーラにあてられてしまっていたようだった。



係員からカップル優待パスを受け取り、ついでにプリントアウトされたキスシーンの写真も渡された。
さらには携帯に画像データまで送信してくれるというおまけつきだった。上条には美琴から頬にキスされている画像を、美琴には上条から額にキスされている画像を送信してもらった。
美琴は恥ずかしがりながらも早速待ち受け画像にし、何度もその画像を見ては嬉しそうに微笑んでいた。
そして実は上条もこっそり待ち受け画像にしていたりする。恥ずかしいのでそんなことを口には出せないが。

「さて、優待パスももらったし、美琴はどこか行きたいとこあるか?」

「ふぇ!? そ、そうね。あそこはどう?」

あわてた様子で美琴がとある施設を指差す。
また、先ほどの上条におでこではあるがキスされた画像を見てにやけていたので、ろくすっぽ確認もせず適当に指差したのだが、それがいけなかった……。
美琴が指差した先にあったのは、学園都市の技術の粋を集めて作られた『お化け屋敷』であった。

「へぇ~。お化け屋敷か」

「お、お化け屋敷……」

美琴の顔がサーっと青ざめる。

「あれ? もしかして苦手なのか? だったら別の……」

「だ、だだだ大丈夫よ!! 別に苦手じゃないわよ! こ、怖がってなんかないんだからねっ! 早く行きましょ!」

上条に弱いところを見られたくないと思ったのか、美琴は上条の腕を引っ張ってずんずんと進んでいく。建物が近づくに連れ歩幅が少し狭くなり、怖くない、怖くない、などと小さくつぶやいている。


「とうまとみこと、あそこに行くみたいなんだよ」

「え~とあれは……お化け屋敷みたいだね」

インデックスが指し示す施設を佐天がパンフレットで調べる。

「お、お化け屋敷……」

じりじりと麻琴が後ずさる。

「どうしたの、まこと?」

「い、いやあのね、別にね、その……」

視線を泳がせ、おどおどと挙動不審な麻琴の様子にインデックスが首を傾げる。

「はっは~ん。麻琴ちゃん。お化け屋敷、苦手なんでしょ」

「なななな、なんのことでせうか!? 上条さんがお化け屋敷を苦手だなんてそんな子供みたいなことあるわけがないじゃないですか!!」

「まこと。なんだかとうまみたいな口調になってるんだよ」

じとーっと麻琴にいぶかしげな視線を向ける。

「さっ、御坂さんたち見失わないうちにあたしたちも行こっか」

しかし、そんな空気もなんのその、佐天は麻琴を腕を引っ張るとそのままずるずると上条たちの向かったお化け屋敷に引っ張っていった。

「るるる、涙子さん。別に入らなくてもいいんじゃない!? 外で待ってれば!!」

「インデックスちゃんはこういう所は初めてなんだから、楽しんでもらわないとね~。待ってるだけじゃつまらないよ」

麻琴の必死の説得も佐天に一蹴されるのあった。
佐天の顔が楽しそうな笑みを浮かべていたのは見間違いではないだろう。

「そうだけど、そうだけども、そうですけれどもの三段活よ…あぁぁ、待って待って待ってぇ~。そ、そうだ、インデックスさん。あたし困ってる、今凄く困ってるわよ。インデックスさんシスターでしょ。す、救いの手を……」

うるうると涙目でインデックスに助けを求めるあたり、相当追い詰められているらしい。

「そ、そうだね。るいこ、まことが嫌がってるんだよ。無理強いは……」

「インデックスちゃん。もう一度よく麻琴ちゃんを見て?」

佐天に言われたとおり、もう一度麻琴の様子を観察する。
お化け屋敷に行くのが本当に嫌なようで、溢れんばかりに涙をためて、両足を突っ張って精一杯抵抗しているようだ。すがるように潤んだ瞳でこちらを見つめている。
その視線を捉えた瞬間、インデックスをなんともいえないような感覚が襲った。ゾクゾクと何かが背筋を這い上がるような感覚。もっとその表情を見たいという嗜虐的な思い。

(な、何を考えているのかな私は! だ、ダメなんだよ。迷える子羊を救うのがシスターとしての役目なんだよ! こんな感情に流されちゃダメ。まことを救わなきゃ)

思いに飲み込まれないよう、気を引き締める。
さぁ、やめるように言わないと。

「まこと。おばけやしきがどんなものかは知らないけど、苦手だからって逃げてちゃダメなんだよ。きっとこれはまことに与えられた神の試練なんだよ」

まるで聖母のように、慈愛に満ち溢れた笑顔でインデックスはそう言ってのけた。
慈愛の慈の字もないようなことを。

「そ、そんな。待って待ってよぉ~。あぅぅうう」

普段はお転婆な麻琴のすっかり弱気な様子に、インデックスは何かに目覚めてしまったようだった。
涙目の麻琴をそのまま佐天とインデックスが引きずっていったのは言うまでもない。

「ひぅ!?」

「ふにゃ!!??」

お化け屋敷に入ってから、美琴は上条にぎゅっと抱きつき、ずっとこんな調子だった。
ほんのちょっとした仕掛けでも、びくっと身体をこわばらせているのが上条にも伝わってくる。
そんなに怖かったら無理しなければよかったのに、と思う上条ではあるが、強がってても怖がりな美琴がまた可愛くて、これはこれで捨てがたい、なんて思ってたりもする。

「美琴。大丈夫か?」

「だだだ大丈夫よ。こここ、怖くなんてないわよ、こんな子供だまsふにゃっ!?」

ぷるぷると震えながら上条の胸に顔をうずめて抱きついてくる美琴。
怖くない、怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせるようにつぶやいているのが保護欲をかきたててたまらない。

(あぁ、やばいやばいやばい。これは違う意味で上条さんピンチですのことよ。なんだよ、この可愛い生き物は。正直もうたまりません)

「と、当麻。離しちゃヤだよ……。そばに…いて……」

今にも泣きそうな顔で、上目遣い。震える声でそばにいてほしい。

(あぁぁぁぁ、俺は、俺はぁぁぁぁっ!!)

上条の本能と理性の世紀の大戦は、お化け屋敷から出るまで続いたのだった。
結局、勝敗はかろうじて、タッチの差で理性が勝ったようだ。後数メートルお化け屋敷が長ければどうなっていたかわからないレベルの僅差の勝利だったらしいが。


佐天、インデックス、麻琴の3人は……

「はぁ。まさか最初の仕掛けに驚いて気を失っちゃうなんてね~」

と、意識をはるか彼方に飛ばしてぐったりしている麻琴をおぶる佐天がため息をつく。
少しからかってやろうと思ってたのだが、まさかここまで苦手だったとは予想外だった。
どうやら、麻琴は美琴以上の怖がりだったらしい。

「それに、インデックスちゃんはなんか変な方に興味持っちゃってるし、お化け屋敷は失敗だったかなー」

元々魔術の世界で生きていたインデックスにとっては、幽霊の類などのオカルトはむしろ馴染み深い。それを偽者だとしても科学で再現されていたりするのが面白いのだろう。よく分からない用語を言いながら興味深そうに眺めている。

「まー。楽しんでるみたいだしいっか」

持ち前の前向きさで佐天も佐天なりにお化け屋敷を楽しむことにしたのだった。


お化け屋敷から出た上条と美琴が続いてやってきたのは、遊園地の花ともいえるジェットコースター。
なんでも学園都市の技術をこれでもかとつぎ込んだ、外の世界とはかけ離れた代物だ。

「なんだか上条さんは嫌な予感がするのですが……」

なぜか途中で途切れているレールに視線を向け上条が顔を引きつらせる。
上条の視線の先にちょうどジェットコースターが向かってきた。コースターはそのまま速度を緩めることなく途切れるレールに向けて突っ込んでいく。
当然、レールがなければそのまま慣性に従いぶっ飛んでいくわけで……
ギュオォォォと激しい音を立てて錐もみ状態で空を飛んでいくコースター。数十メートルほど空を飛び、その先のレールに再び着地し、何事もなかったかのようにそのまま走っていく。
これはすでにジェットコースターと呼べるものなのだろうか。

「大丈夫? 顔色悪いわよ?」

「なんというか、途中でいきなり止まって落下したり、レールを支える支柱がはずれたりする不幸が来るんじゃないかとな……俺だけならまだいいが、他の人を、美琴を巻き込んじまったら……」

誰かを巻き込みたくない、と口では言ってはいるが、実は単に怖いのを誤魔化しているだけなのには気付かれてはいけない。

「あぁ、大丈夫よ。いざとなったらアタシが磁力で無理矢理レールに本体くっつけるから」

事も無げに言う美琴。
さすがレベル5。これなら万が一があっても安心だね! なんて思ったりする上条ではあるが、それはイコール逃げられないということ。

「まさかアンタ怖いの?」

「ま、まさか何を言ってるんでせうか、このお嬢様は。上条さんが怖い? そんな幻想はぶち殺してやりますよ!」

「じゃあ、問題ないわね。さっさと行きましょ」

先ほどのお化け屋敷での怖がりようはどこへやら、うきうきと上条の手を引いて入り口に向かっていった。
なお、佐天とインデックスは気を失った麻琴を介抱するため、コースターの出口が見える場所で休んでいたらしい。


いくつかの遊具を堪能した上条と美琴は、園内のレストランに移動していた。
時間もちょうど昼時で、いったん昼食兼休憩をすることになったからだ。
食事はなかなかにおいしかった。色々とおしゃべりもできたし満足のいく昼食だった。
しかし、二人の表情は晴れやかなものではない。
その理由は、店員が食器をさげるときに持ってきたカップル優待サービスの特典らしい目の前のコレ。
大き目のグラスに注がれた飲み物、ただし2本のストローが刺さっているアレである。
戸惑いと恥ずかしさで上条も美琴も固まってしまっている。

「ど、どうする?」

緊張した面持ちで上条が口を開く。

「どうするって……その、せっかくのサービスだしさ、あの……」

顔を真っ赤にして答える美琴。
それでも決定的な言葉は口に出来ない。それは上条も同じこと。
互いに答えは決まっている。そもそも飲まないなんて選択肢は存在しない。行動に移せないのは恥ずかしいだけなのだ。
先ほどのキスも大概だが、まだ見ていたのは係員の女性一人だけだった。しかし、今度は公衆の面前である。そこでこんなものを二人で飲んでたら、俺たちバカップルですと宣伝しているようなものだ。
どうしたものかと悩む二人だったが、やがて意を決した美琴がパクリとストローをくわえた。

「ん!」

上条に早くと目で訴える。
恥ずかしさで顔はこれでもかというほど真っ赤だ。

(よ、よし。男、上条当麻、いきます)

大きく深呼吸して、上条もストローをくわえる。
すぐ近くに感じる互いの顔。

(近い近い近い~!)

ドキドキバクバクと暴れまわる心臓の鼓動に周囲の音さえ聞こえなくなるほどであった。


そんなバカップルな出来事をよそに、こっちはこっちで違う意味で盛り上がっていた。
場所は上条たちがいる所の近くにある別のレストラン。
窓越しに上条たちを見れるので見失うことがない絶好のポジション。

「おかわりなんだよ!」

顔を上げたインデックスが皿を隣の塔の上に乗せる。
その高さはすでにインデックスの身長を超え積まれている。

「大食いチャレンジやっててくれて助かったわ……」

「あは……は、なんかあたし見ちゃいけないものを見てるんじゃないかな……」

慣れもあり、黙々と自分の分を食べる麻琴と、インデックスの食いっぷりに圧倒される佐天。
他の客や店員も茫然自失といった風体だ。
すでにチャレンジ達成の目標数はとっくの昔に超えている。それでもインデックスは止まらない。
むしろ一般的な程度の大食いチャレンジなど、インデックスにとってはまさに言葉どおりの意味で朝飯前のことだ。この程度では止まりはしない。

「おかわりなんだよ! 早くしてほしいかも!」

また皿の塔が少し高くなる。
もはやその場にいたものは笑うしか出来なかっただろう。
結局、店長が泣いて許しを請うまでインデックスは食べ続けた。
この日、この店は開店以来最高額の赤字を計上したらしい。


時間は流れ、空が茜色に染まり始めた頃、上条と美琴は大観覧車に来ていた。
昼食後も色々と遊具を回りデートを楽しんだ二人が最後の締めとして選んだのがここなのだ。
ゆっくりと高度を上げていくゴンドラ。すでに地上を歩く人々はまるで蟻のように小さく見えてしまう高さだ。

「きれい……」

徐々に夕陽に染められていく学園都市の町並みに魅入られる。
自分たちの住んでいる場所なのに、なんだかまるで別の世界のようだ。

「そうだな……」

そう返す上条が見ているものは風景ではなく、外を眺める美琴の横顔。
なんとなく美琴の顔を見たら視線がはずせなくなった。はずしたくなくなった。ずっと見ていたい、独占したい。

「……本当に、綺麗だ」

「当麻?」

いつもと違う雰囲気の上条の言葉に違和感を感じて視線を移す。
そこにいたのはとても優しげな瞳で自分を見つめる上条。

「美琴……」

上条が自然な動きで美琴の隣に移動する。
美琴はそんな上条の様子を少し不思議そうな表情で見つめている。なんだろう、と小首を傾げてるその仕草が、その表情が、愛しくてたまらなかった。

「美琴……」

もう一度優しく彼女の名を呼ぶ。
綺麗な夕焼けがそうさせたのか、二人きりという現状がそうさせたのか、それともそれらを含め全てが要因か。

「どうかし―――」

暖かい感触に口をふさがれ、美琴はそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。
夕陽に照らされるゴンドラの中で二つの影は……



「あぁ~! 前のが邪魔なんだよ!! いいとこなのに!!!」

「キスですか、キスなんですか御坂さん!! あぁもうなんで、こんないいときに前のゴンドラが邪魔するのー!」

上条たちと1つ挟んだゴンドラに乗るインデックスと佐天が、恨めしげに視線を隠すような角度に来た前のゴンドラを睨みつける。
べたーっと窓に張り付かんばかりの二人の剣幕に、前のゴンドラに乗るカップルが引きつった表情を浮かべているのがこちらからもはっきりと見える。

「ちょ、ちょっと、インデックスさん涙子さん落ち着いて! 前の人なんか変な目でこっち見てるから!!」

前の見知らぬカップルの視線にいたたまれなくなった麻琴が二人の暴走を止めようと声をかける。しかし、興奮状態にあるのか全く聞いてないようだった。

「早くどくんだよ! とうまとみことのキスシーンが!!」

「誰なの、隣だとバレるから1つ離そうって言ったのはー!!」

「インデックスさん、だから落ち着いて、暴れないで! それに涙子さんです。離そうって言ったのは!」

今にも暴れだしそうなインデックスを後ろから羽交い絞めにして拘束する。
影からこっそり両親の初デートを見守ろうと思ってただけだったはずなのに、何故こうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうしてこの二人に振り回されているのか。
分からないことだらけの麻琴であるが、1つだけ分かっていることがあった。それは……

「とりあえずこの状況は、不幸……よね」

己の不幸体質は健在だということだった。


観覧車から降りた上条と美琴。
二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けに照らされているという理由だけではないだろう。
その少し後ろに、肝心のシーンが見れなかった苛立ちから地団太を踏む佐天とインデックス、そしてどこかげんなりした様子の麻琴がいたのだが、バレなかったのは上条たちがどこか上の空だったからに違いない。

なお、帰宅後、上条は散々インデックスにからかわれ、美琴も後日佐天に細かく追及されるはめになるのだが、幸せで胸がいっぱいな二人は、そのような少し不幸な目にあうとは思いもしていなかった。


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