とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part14

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匿名ユーザー

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5日目 中編


今思えば、今日は朝から何かがおかしかった。
寮の中はいつもよりざわついていたし、
普段から注目を浴びてはいるが、今日はいつにも増して視線を感じている気がした。
白井も朝から滝【シャワー】に打たれながら、なんだかぶつぶつ呪文を唱えている。 まだ上条を呪い殺す事を諦めていないらしい。

「スベテハアイノターメリック ハラハラハラペーニョ ナカレチャヤダモンシナモンカルダモン ムリカパプリカ―――」

節子…それも黒魔術の呪文やない。おいしいカレーを作るための呪文や。
うん、白井だけは通常運転だったようだ。

とまぁそんなわけで、御坂は今日一日中、授業も集中できなかった。
そう、今日は朝から何かがおかしかったのだ。

そして現在は放課後。 御坂は大勢の少女達に囲まれている。

「御坂さん! 好い殿方がいらっしゃるというのは本当ですか!?」
「さすがは御坂さんですわ! 是非、私にも紹介してくださいな!」
「御坂様がお選びになった方なら、きっと素敵な御人なのでしょうね……羨ましいですわ。」

なぜか、「御坂には恋人がいる」という噂が広まっていたらしく、彼女は放課後になると同時に質問攻めにあっていた。
どうやら噂の出どころは婚后らしい。
おそらく婚后は、昨日風紀委員第177支部で聞いた話を学校中に広めたのだろう。そして噂には尾ひれがつくものである。
たしかに常盤台の生徒にとって、これ以上の話のネタはない。
なにしろ御坂は、校内ツートップのひとりだ。 しかもそれが恋愛話となれば、それはもう盛り上がるだろう。
いくらお嬢様といえど、そこはやはり中学生なのだから。

だが当の本人はたまったものではない。
昨日、上条への想いを姫神にぶちまけたおかげで、多少吹っ切れたことは確かだが、それでもこの状況はあまりよろしくない。

「え…あの…だから…それは…アレが…コレで…ふにゃ…ふにゃ…」

御坂はあまりの恥ずかしさに、うまく否定することもできず漏電しかかっていた。
このままでは多くの少女達が犠牲になってしまう。
だが、ついに御坂が「ふにゃー」しかけたその瞬間、
周りを囲んでいた少女達は、一糸乱れぬ動きで一斉に御坂から離れ、
突然、腕を前から振り下ろして、前曲げを深く大きく反り始めた。

「なっ……!?」

おどろく御坂だが、彼女達が急にラジオ体操第二を、しかも途中から始めた事におどろいている訳ではない。
むしろ原因が分かっているからこそおどろいているのだ。
こんなことができるのは、学園都市広しといえど、いや、世界中探しても彼女だけかもしれない。
常盤台中学のもうひとりのLEVEL5。 食蜂操祈だ。

(……何を考えてるのかしら………)

助かったが、素直に喜べない。
食蜂は無償でこんなことをする人物ではないのだ。
ただの気まぐれか、何か企んでいるのか。 まぁ十中八九後者だろう。
だが問い詰めたところで、はぐらかされるのがオチだ。
なので、御坂は食蜂に会わずに教室を出た。
というより、そもそも会うのも嫌だったのだ。 それほど食蜂のことが苦手なのである。

走り去る御坂の背中を見つめながら、食蜂は何を思うのか。

「くすくすっ…上条当麻ねぇ………面白いこと聞いちゃった☆」

おそらく、ろくでもないこと思ってる。


御坂はいつもの公園に向かっていた。
上条と会うのは気まずいはずなのに、気が付くとそこへ足が向いていたのだ。
いやはや習慣とは恐ろしい。
ここは、上条のエンカウント率が最も高い場所だ。
とはいえ毎回会えるわけではない。 狙って会おうとすると会えず、忘れた頃にばったり会ってしまうのだ。
まぁ、はぐれメタルのようなものである。

見慣れた自販機が見えてきた。いつもハイキックをきめる、あの自販機だ。
するとその隣に人影が見えた。 その人影は、こちらにどんどん近づいて来る。 嫌な予感がする。 
見間違えるわけがない。あのツンツン頭。
御坂が今、一番会いたくない人物。 上条当麻だ。
やはりこの男は、会いたくないときほど、ピンポイントで会えるらしい。
御坂は、上条の存在に気付くやいなや、即座に踵を返し逃げようとした。
このままではマズイ。 一昨日の出来事が鮮明に蘇ってくる。
上条の顔を見ただけで、体温が1℃上昇しているのだ。 話しかけられたら、どうなるか分かったものではない。
しかし上条はそんなこと知る由もないらしい。 御坂は腕をガッと強引に掴まれた。
逃げられない。
いつもならこんなとき、適当に電撃でも浴びせて相手から距離をとるのがセオリーだ。
だが上条に能力【でんげき】が効かないことは、過去の経験【おいかけっこ】から分かりきっている。
そういった意味ではまさに天敵だ。いまなら神・エネルの気持ちがよく分かる。

「すまん美琴!! この前のは、俺が全部悪かった!!
 謝ってすむ問題じゃないけど、とにかくゴメン!!」

腕を掴まれて心臓がバックバックしている中、上条が一昨日のことを謝ってきた。
御坂も、自分の心音が上条に伝わらないか心配しながら答えた。

「べべべ別にいいわよ!!! あ、あれは事故だって分かってるし!!」

冷静に対応した(つもりだ)が、目は合わせられない。 もう何がきっかけで漏電するのか分からない状態なのだ。
だが、せっかくこっちが漏電しないように必死に頑張っているというのに、
上条は「知ったこっちゃねぇよ」と言わんばかりに、次々に追い討ちをかけてくる。

「美琴、ひとつ聞くけど……お前、俺のこと好きか?」

突然なんちゅう質問してくるんだコイツは。
きっと上条の作戦は「ガンガンいこうぜ」なのだろうが、「いのちだいじに」に変更したほうがいいのではないだろうか。

御坂的には当然「YES」なのだが、そんなもん言える訳がない。 だって恥ずかしいから。

「バッ!! ババババカじゃないのっ!!!?
 そそそんなことあるわけないじゃない!!! バカじゃないの!!?
 あ、あ、あたしが何でアンタのこと、す、すすすす好きじゃないといけないのよ!! バカじゃないの!!?」

思いっきり拒否ってしまった。 本当にツンデレというのは、苦労が絶えない生き物である。
しかし上条は諦めていないらしい。
彼は、少し切羽詰ったような真剣な顔で、御坂にある頼みごとをしてきたのだ。

それは御坂にとって、とんでもない要求だった。

「頼む美琴!! 俺の恋人になってくれ!!
 俺にはお前が必要なんだ!!」

…………………………?

御坂は、上条の言った言葉を頭の中で繰り返す。
始めはその意味が分からなかったが、彼女はこの学園都市でも三番目の頭脳だ。
30秒間じっくり演算した結果、ついにその意味を理解する。

!!!!!!!????

「美琴? おい美琴!!」

理解した結果、彼女は立ったまま気絶した。
氷帝の部長のように、この後坊主にされないか心配である。


「くそっ…美琴まで……」

突然気絶した御坂を、上条はゆっくりと公園のベンチに寝かせた。
きっと魔術によってこうなったとでも思っているのだろう。

(これからどうすっかな……)

上条はどう動くべきか悩んでいた。
一刻も早く魔術師を見つけなければならないが、御坂をこのままにしてもおけない。
そもそも敵の情報が少なすぎるのだ。 というかそんなものは端から無いのだが。
下手に動くこともできず、上条は御坂の隣に腰掛けた。

その様子を食蜂はこっそり見ている。
彼女はあの後、御坂のあとをつけていたのだ。
御坂にさとられないように大分距離をとっている為、会話はまったく聞こえなかったが、
二人の様子を見た感じ、確かに恋人同士に見えなくもなかった。

(あの御坂さんに彼氏ねぇ……情報力には自信あったけど、直接見るまでは半信半疑だったのよねぇ。
 それにしても、いまどき公園デートだなんて、なかなかカワイイ所があるじゃないのぉ。
 まぁ、御坂さんには子供っぽいデートの方がお似合いだけどぉ。)

そこで食蜂はニヤリと笑った。

(本当、その幸せそうな空気、私の改竄力でぶち壊したくなっちゃうわぁ……)

食蜂は、バッグからリモコンを取り出し、そのまま上条に向けた。

「ピーリカピリララポポリナぺーペルトー! 御坂さんのことが大っ嫌いになぁ~れ☆」

……………おかしい。
食蜂が、お邪魔な魔女のような呪文を唱えたことがおかしいのではない。 何も起きないことがおかしいのだ。

彼女の能力は「心理掌握」。
精神に関することならば、読心、念話、洗脳はもちろんのこと、
記憶の消去や意志の増幅など、もはや何でもござれな能力だ。 その応用性の高さから、十徳ナイフに譬えられる程である。
ベガ様のサイコパワーだって、ここまで便利ではないはずだ。

彼女が、「牛丼を嫌いになれ」と言えば、牛丼一筋300年の人だって食えなくなるのだ。
だが上条が御坂を嫌いになった様子は無い。
相変わらず御坂の隣に座っているし、
たまに御坂の髪を撫でてみたり、ほっぺをプニプニ突付いてみたりしている。
上条的には、「早く起きてくれないかなぁ…」と刺激しているつもりなのだが、
傍から見れば、カップルがじゃれ合っているようにしか見えない。

(ど、どうしてぇ!? 私の改竄力は完璧なはず……なのにどうして効いてないのぉ!?)

今までこの能力は、御坂以外に破られたことはない。
しかも、御坂のときのように電磁バリアで遮られている感覚はない。
まるっきり効いていないのだ。 まるでその場で打ち消されているような、そんな感覚だった。
全く出会ったことのない未知の能力に、食蜂は顔を強張らせた。
まさか「幻想殺し」なんてトンデモ能力がこの世にあるなんて、想像もつかなかったであろう。
しかし、ここで諦める食蜂ではない。

(………ほ、本人に効かないなら、周りの人間を使えばいいだけじゃない。)

食蜂は辺りを見回した。
すると、映画のパンフレットを二冊持って唸っている、小柄な少女を発見したのだ。


「むー……超迷いますね。
 『エイリアンVSプレデターVSジェイソンVSフレディ』にするか、
 それとも『実写版 ジョジョの奇妙な冒険(第5部)』にするか……
 どっちもC級の匂いが超しますが、今月はあの超名作『義妹』のDVDも発売することですし………う~ん……」

何かぶつぶつ言っているが、関係ない。
食蜂は「今度こそ!」と、意気込みながら、少女にリモコンを向けて能力を使う。
すると少女は、一目散に上条のところへ駆けつけた。

(……今回は全速力で効いたわねぇ。本当にさっきのは何だったのかしらぁ?)

上条はベンチに腰掛けながら、ケータイをじっと見ている。

(一応、一方通行と浜面にも連絡しといたほうがいいかな…? あいつらも『闇』に深く関わっちまってるし……)

などと思っていると、向こうから小柄な少女が猛ダッシュしてきた。
名前は知らないが見覚えはある。 確か、屈辱のバニーがどうとか言っていた子だ。

「えーと……何かご用でせうか?」
「好きです! 超好きです! 超付き合ってください! 今すぐに!」

上条は内心「またか」と思いながら、念のため少女の頭を触ってみる。
するとあっさり洗脳が解けた。

「あ、あれ? 私は何をしてたんですかね…?」
(解けた!? 姫神たちにはダメだったのに……
 幻想殺しも効くときと効かないときがあるのか。 何か法則があるのか?)

おどろく上条だが、その一方でもっとおどろいている人物がいた。

(な、な、な、何でなのぉ!? 私の洗脳力がまったく通用しないなんて、一体どんな能力なのよぅ!!
 くっ……ここは一旦退くしかなさそうねぇ…… 一度、彼のことをじっくり調べてから出直しましょう……)

食蜂は作戦を立て直すために、そそくさと帰っていった。
彼女は、もはや御坂を邪魔することよりも、上条本人に興味がそそられていることを、はたして自覚しているのだろうか。

「何だかよく分かりませんが、超助かりました。 ありがとうございます。」
「いや、気にしなくていいって。 それよりも、あんたを洗脳したヤツに心当たりはないか?
 犯人を追う手がかりが、ひとつでも欲しいんだ。」
「う~ん、分かりませんね……でもこの私の精神を乗っ取るってことは、
 相手は超やり手の能力者だと思います。 それこそ「心理定規」や「心理掌握」クラスの……」
「そっか…ありがとな。(なるほど、魔術師だとばかり思ってたけど、能力者って線もあるのか。)」

さらにドツボにはまっていく上条。
その上条を横目で見ながら、少女はケータイを取り出した。

「ケータイの番号、超教えてください。」
「? なんで?」
「協力します。 私もやられっぱなしじゃ超気が済みません。 情報が入ったら連絡しますので。」
「ありがと。 そう言えばお互い、自己紹介してなかったな。 俺は上条当麻。 よろしくな。」
「私は絹旗最愛です。 超よろしくおねがいします。」

アドレスを交換して絹旗と別れた。
食蜂と絹旗。 新たに二本の小さい旗【フラグ】を建てたことは、当然上条は知らない。

(それにしても、思ったよりも事態は深刻なのかもな…… やっぱり恋人役は必要だな。
 返事もまだだし、早く起きてくれ美琴~!!)

深刻なのはお前の頭の中だけである。


目を覚ますと、そこは公園のベンチだった。

(あれ……どうしてあたし、こんな所にいるんだっけ……)

ぼんやりとした頭が徐々にはっきりしてくると、なぜ自分が気絶したのか思い出してきた。

「!!!!!!!!」

御坂はガバッと起き上がる。 すると目の前には、いきなり上条の顔があった。

「おっ! やっと起きたか美琴……って、うおーい!!!」

再び気絶しかけた御坂を、上条は抱きかかえた。 そんなことするから気絶するんだってば。

「しっかりしろ! 美琴!!」
「ううううるさいわね!!! アアアアンタが変なこと言うのが悪いんでしょうが!!!
 ああああたしにだって、その、こ、こ、こ、心の準備ってもんが……(ごにょごにょ)」

変なこととは、先程の告白のことだろう。 確かに変だった。

「そっかぁ~…やっぱダメかぁ~…… そりゃそうだよなぁ~……」
「!!! ダ、ダメなんて言ってないでしょうが!! 何で簡単に諦めんのよ!!」
「えっ? じゃあいいのか?」
「えっ!!? ま、まぁどうしてもって言うなら? 考えてあげても? いいけど?」

テンパって自分でも何を言っているのかきっと分かっていないだろうが、御坂は恋人になることを否定しなかった。
この無自覚男が突然、本当に突然、不自然なくらい突然に告白してきたのだ。
聞きたいことなど山ほどあるが、そんなことは後でいい。 このチャンスを逃してはならない。
本当のところは、もういっぱいいっぱいなのだが、気絶なんかしていられない。 御坂は気合と根性で漏電を堪えていた。
そもそも、向こうから恋人になってくれと言っているのだ。
そりゃもう、なってやろうじゃありませんか。

「良かった~! ありがとな美琴!!」
「~~~~~!!!」

何かもう、うれしいとか恥ずかしいとか、色んな感情が入り乱れすぎて、どんな気持ちか分からない。

「じゃあ詳しく説明しなきゃな。(事件のこととか。)」
「い、いいわよ! あ、あ、あたしだって子供じゃないんだから!!
 ど、どうすればいいかなんて分かってるんだから!!
 (今のアンタの気持ちなんか詳しく聞いたら、絶対にまた気絶しちゃうじゃない!)」
「そっか、じゃあこれからヨロシクな!(美琴は事件のこと知ってるのか……まぁ説明する手間が省けたし、いいか。)」
「う、うん! ヨロシク!!(ヨロシクってことは……やっぱりそういうことよね…… うわ~!どうしよ~!!)」

こうして晴れて恋人同士(?)になった二人。
しかし、二人にはこれからも様々な障害が立ち塞がることだろう。
だって会話が成り立ってるようで成り立ってないんだもん。
そしてそんな二人のもとに、8人の魔術師が近付きつつあった。
彼等は果たして何者なのか。 敵なのか、それとも……?
つづく。

なんだこの状況。




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