とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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匿名ユーザー

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<第二章>


学校に着いた上条は、まるで蝉の抜け殻のように本体がどこか遠くへ行って
授業の内容はちっとも耳には入らなかった。まさに「紙条」である。
そんな状態に陥ってしまったのは先ほどの美琴の言葉と、その後彼女から送られてきた一通のメールにあった。


 『 送り主 御坂美琴 』

 『 ほんとにゴメン。結構朝の時間ヤバかったのよ。
   怪我してるかもしれないアンタを置いてったのはさすがに悪いと思ってる。
   でもアンタも気を付けた方がいいわよ?…本当に。

   助けてくれる人がいつも傍にいるなんて、そんなにないことなんだからね?ヒーローじゃあるまいし…
   ほんと、アンタの右手は神の御加護も打ち消すんでしょ?そしたらワタシといるとどんどん不幸になっちゃうわよ?
   もううんざりよ…なんせ、アタシには神様が付いてるんだからね♪打ち消されたらたまったもんじゃないわ!
   ……まあ、私がここんところ連続で運勢第一位なの、テレビ見てたら知ってるでしょ?アタシ、神様に愛されてるのかもね。
   んでもって、水瓶座のアンタは連続で最後尾よねm9(^Д^)プギャー ご愁傷さま~~、キャハ☆
   …こういった厭味ったらしい女より、もっと素敵な人がぜぇーったい見つかるわよ……きっと。
   まあ時間がないっ!ときてるから率直に言うわよ。告白の返事は【NO】ってことで。
   それでね、なんか告白受けちゃうとさー、どうも今までの関係が崩れちゃいそうなのよね。
   だからしばらく距離置きましょ?取り敢えず一ヶ月くらいでOK?
   それじゃ、次会うときは私の卒業式くらいよね、さみしいなー。+゚(゚´Д`゚)゚+。
   絶対私の晴れ姿見に来てよね!忘れんじゃないわよ~!
   じゃあねー

   P.S.

   返事よりも…分かったらまず行動で示しなさいよ~                     』




やけに長い文章だな、真面目に授業を受けてるのか?


――そんな感想は流石に出なかった。
告白に失敗したことが分かった上条にはもう明日が見えない。もう留年だろうが関係ない。
ついに、夢が正夢になってしまったのだから…

   ・
   ・
   ・

そんな上条を気にして、友人二人は密かに話し合っていた。

(かみやんどうしたんや?また不幸なことでもあったんかい?)
(いんや、アレはそんな些細な不幸で悩むタマじゃないぜよ。)
(…さては何か!ワイの小萌先生に『上条ちゃん課題提出できなかったので留年ほぼ確定なのですよ~』
 と言われたことまだ気にしてるのかいな!)
(そうでもないようだにゃ~ってそれは初耳ぜよ!)
(ワイに小萌先生の事で知らない事なんかないんやで~!しかもまた小萌先生と同じクラスなるかも、なんて…
 羨ましいにも程があbbbbbb)
(どうした変態スネーク、応答せよ、応答せよォォ!…ハッ!)

留年という言葉にも、今現在過敏になりつつある上条にとって、手を伸ばせば届く距離まで
迫って顔色を伺おうとする友人達の優しさすら虚しく、禁句を容易に放ったロリコン野郎には
鉄槌を下し、それを聞いてしまった男もまた華々しく散らした…。



「…ったく、何やってんだよお前ら。」
「ぐふっ、…カミヤン、今日はどうしちまったんだ?やっぱり情報は正しかったのかにゃー?」
「どこから漏れたのかは知らないが、まだ留年と決まった訳じゃねえからな。『ほぼ』だからな。」
「…いや~、久しぶりに本気の一発入ってもうた。だがまだワイは負けとらんで~!
 先生と共になら例え火の中・水の中!、ワイは留年もなんのそのや~!」 
「お前はいい加減そういう思考はやめろ!」
「そこの三馬鹿、黙って席に着きなさい!HRもう始まるわよ!」

――俺はひとまず御坂とのことを、頭の片隅に置いておくことにした。


  ◇

HRは短時間で終わり、そろそろ下校しようと思った時
先程小萌先生と、ある約束をしたのを思い出した。

『今日は補習も課題も出しませんでしたので、真っ直ぐ帰宅したらワタシのところに来てください。
 今後の上条ちゃんのことについて重要なことを述べさせいただきますよー』 

「…何かとてつもなく嫌な予感がするのですが、」

魔術師との戦いが一段落してからこれまで毎日補習・課題の繰り返しで、ろくに飯も食えないときがあったのだ。
こんな身近な幸福さえも疑ってかかってしまう。特に上条の場合はなおさらである。
彼には「幻想殺し」という摩訶不思議な能力を持つ右腕があるが、その能力は何も異能にしか
効かないわけではない。先ほど美琴が言ったように、他に効果を及ぼすモノがある。
『神の御加護』と『運命の赤い糸』を打ち消してしまうのだそうだ。
伝聞形式になってしまうのはその確証がないからである。しかし信憑性は非常に高くなった。
『運命の赤い糸』はともかくとして、常に不幸な上条にとって滅多に訪れることのない幸運は、
美琴との間におけるとんでもない不幸の前触れである。何かあると思うがこれ以上はないと思っている。
おそらく、幸運が前に来てしまったのだろうと、上条はまた無理矢理解釈した。

――という訳で、ぶつぶつ独り言を吐いていく内に、俺は自宅の玄関の前まで来てしまった。

ガチャッ、

「…ただいまー」

… … …

バタン。


当たり前の事だが、一人暮らしの学生マンションに帰ってきても出迎えてくれる人はいない。
それなのに彼が律儀にも帰りの挨拶を無人の部屋にしているのには理由がある。
彼には数ヶ月前まで同居していた銀髪のシスターがいたのだ。
その彼女もまた小萌先生の計らいで先生の住むアパートに居候させてもらっている。
何しろ調理・掃除・洗濯がまともにできず、一人ではここ科学の町では生きられない程、生活力の乏しい少女だったのだ。
先生も色々彼の負担を考えた上でそういう計画を立案してくれたのだろう。
だが彼女には他の人が持ち得ない優しさがあったりもして、少なからず以前の生活にも愛着があった。

もしその彼女が帰っていたときに、その優しさに触れるだけの態度をこちらが示さないと、彼女は年相応の
態度として上条の頭にかぶりつく。これが彼の不幸であり、今なお帰りの挨拶を忘れない理由であった。

  ・
  ・
  ・



一通り荷物の整理を終えて、夕飯も軽く済ませた上条は
小萌先生のアパートに行く間の道で、メールの内容をもう一度咀嚼してみた。 


(…確かにここんところ、アイツの運勢が飛躍的に上がったのは頷けるかもしれないが、
 それでも神様に愛されてるって、流石にオカルトもいいところだろ……)

――だが、確かにその通りなのである。

時は数週間前に遡るが、上条は知る由もなかったのだ。



――美琴が本当に神様に愛されてしまった真の理由を…


  ◇ ◇ ◇


小萌先生の住むアパートに到着すると、インデックスがまず一番に出迎えてくれた。
ただでさえ上条は人一倍不幸な目に逢うことが多いので、心配していたと見える。

「遅いんだよとうま!どこで道草食ってたの!」
「お言葉を返すようですが、上条さんはどこかのシスターさんのように食べられるからといって
 道に生えてる草なんかは食べませんのことよ?」
「そういう意味じゃないかも!まったく心配してたんだよ!」
「…ああ!そっちだったか。すまんすまん」
「二人ともー、そろそろこっちに来てくださ~い」

玄関で賑やかな声を聞き、呼びかけた小萌先生は焼肉の準備をしながら待っていたようだ。

「あれ、もしかして俺待ちでしたか?」
「そうなのですよー、インデックスちゃんはお腹からスタンドが出てくるような音を出して
 ずっと待ってくれてたのです」
「スタンド?」
「そっ、その話はいいかも!早くお肉食べよう、とうま!」

言われるがまま卓を囲むように座らされた上条に、「俺夕食済んでる」の一言を言う隙は与えられず
仕方なくその場の空気に同調した。

(まあ、どうせこの分量ならインデックスが残ったもん全部食べてくれるだろ)

以前は暴食気味だったインデックスも、このところは少し自重するようになってくれた。
先生の家に居候するようになったからではない。彼女の持っていた魔道書の毒が取り除かれたためである。
つまり、今のインデックスは103000冊の魔道書の毒に冒されずにいるのである。
無くした訳ではない。彼女に掛けられていた術式『自動書記』が今のインデックスに制御できるようになったらしいのだ。
そして自動書記の制御に伴い、彼女を内側から蝕んでいたと思われる魔道書の毒は体内で消滅できる仕組みになった。
魔術も本来備わっていた分が使える。鉄壁の防御結界『歩く教会』も元通りになった。

これらは全て上条が望んだことであり、記憶を失った少年が交わした約束を、守ったことにもつながっていた。



上条は普段味わうことのできない高級肉を二、三切れ食べたところで箸を置き、小萌先生の方に向き直って座った。

「先生、この催しは俺に普段以上の努力で頑張ってくれという励まし会のつもりなのでしょうか?」
「その通りなのですー。上条ちゃんは留年にならないために今必死になって勉強頑張っているようなので
 先生も奮発しちゃったのです」
「……冗談はやめてください。先生まだ一滴もビール飲んでないじゃないっすか」


上条の言う通り、励ましや祝いの席で小萌先生がビールを飲まないのは珍しい。
だから受け狙いでそれらしく聞いてみた。
「しっ、失礼ですよ上条ちゃん!これは制限してるだけなのですよー!」とでも言ってくれたら良かったのだが、
突っ込むべき小萌先生は箸を持ったまま黙ってしまった。

少し間を置いて、切り出した。

「鈍感な上条ちゃんにしては上出来なのですー、これは明日しっかり課題を提出してくれる前触れでしょうかねー?」
「先生しっかりしてください。明日は祝日ですし、課題は出さない約束でしょ」
「…」
「先生、本当のことを言ってください。俺は覚悟できてますから」

真剣な眼差しで逃がさないように睨んでいる俺に、先生は固く結ばれていた口を開いてくれた。

「これは今日の内に決まったことなのですが…」

 ◇

俺が小萌先生のアパートを出る際は、お腹を膨らませたインデックスは横になって気持ちよさそうに寝ていて、
小萌先生も俺に話をした後は躍起になってビールを四・五本瓶ごと飲み干し、酔いつぶれていた。
彼女等を起こさないようにそのまま布団をかけて来たので、風邪を引く心配はしなくて大丈夫だろう。
大丈夫じゃないのは自分だろう。激しい吐き気と頭痛、それに何だか疲労が蓄積している。
酒を少し飲んだからかもしれないが、――問題は先生の口から出てきた言葉にあった。



『留年の可能性があったのですがその話は無くなりました
 何でも私たちには説明できない事件や昨年の戦争に上条ちゃんが関わっていたので、
 学園都市に子供を預ける保護者達が不信に思い、上条ちゃんの経緯について調べたそうです
 その結果「この街に住む生徒達にも何らかの弊害が出る恐れあり」という結論が出されたのです
 これは抗議行動にも発展する恐れがあり、統括理事会も擁護しきれない部分があるらしいのですよ
 そのため上条ちゃんをひとまず匿う形で、学園都市外の高校に転入させることで手を打ったらしいのです』


「ふざけやがって……」


 全くもって不幸な出来事である。
 上条は記憶を失うよりもずっと昔、学園都市の外に住んでいたことがある。
 そこでは上条を不幸を招く『疫病神』として扱っていた。
 仕舞いには包丁で刺されたり、テレビに出されそうになったりもしたそうだ。
 だから“オカルトを信じない科学の町”である学園都市に来たのに、結局上の奴等の都合でたらい回しにされるのだ。

 …しかし、上条は今回の事について強く否定しきれない立場にもあった。
 保護者代表の御坂美鈴が今回出た結論に断固として反対していることはせめてもの救いであったのだが、
 彼女の率先した行動を良く思わない者共が少なくないのだ。それが今回出された結論に滲み出ていた。
 つまり、彼女がまた雇われスキルアウトの連中に狙われる可能性もあるのだ。

 勿論上条にもこれを拒む権利はあった。
 しかし、こうまで話がまとまっていて尚且つ不良高校生のレッテルを貼られている上条にしては
 留年の件もなくなり、能力開発の単位の遅れを取り戻そうとする努力もしなくてよくなるのは
 まさに天の救いのようなものだった。
 昨日の焼肉パーティーが最後の晩餐になってしまうのは切ないが、未練もなかった。
 小萌先生も非常に申し訳なさげではあったが、今回の転入については悪く思っていないらしい。
 ――それに、元から拒む道理のない、頼まれたら結局断れない上条にしてみれば即決だったのだろう。

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 [翌日の火曜日・祝日] 


上条はガンガンと響く頭を揺らしながら、学園都市を離れる上での重要事項を取りまとめるのに頭を使う。

「再来週にはこの部屋も手放すことになるんだよな…」




今日は身近なものの整理をする。そして…昨日までに出せなかった課題も終わらせる。

「立つ鳥後を濁さず、ってやつだな」

明日からはこの件がクラスの連中や友人達に漏れないよう細心の注意を払って生活する。

「特に青ピや土御門にバレないようにしなきゃな。…まあ何とかなるだろ」

来週にはインデックスをイギリスに帰す手筈を取る。一緒に付いて行くと言う可能性もあったのでこの話はまだ伝えていないが…

「難しいな…。歳が歳だけにまだ安心しきれないし…って、俺はいつからこんな世話焼きになっちまったんだ!?」

それから、それから…

「よし、こんなもんかな。…やれやれ、やっぱし深夜まで飲んだ上に普段使わない脳をフルに使うと
 かえってひどいな~」

ふぅっ、と重い息を吐き出し、依然続く頭痛に悶えたりして右手で頭を押さえた。


  ――――― 何処かで、パキィインという音が聞こえた。 ―――――


「それにしても……後一つ……何か忘れているような………アッ!!」

よほど重大なことなのだろう。先程まで続いていた頭痛も綺麗に消えていくように表情は緩やかになった
かと思うと、顔色はどんどん青ざめていった。


「御坂にまだこのこと伝えてねえじゃねえか!!」



 ◆


実は最後の決戦前夜に上条と美琴は二人の思い出の場所に立ち寄っていた。
そこで俺は美琴から告白『もどき』を受けていたのである。
齢十四歳。誰も助けを呼べない状況に忽然と現れたヒーローに一種の幻想を抱いているのだろうとそのときは思っていた。
しかし、彼女の想いは俺自身の単なる思い込みを遥かに凌駕していた。
彼女は最初に上条と会ったときは、それこそ「能力を打ち消すいけ好かない奴」如きに思っていたらしいが
その場所で本当の彼を知ったことで、急速に惹かれていったらしい。



―― 深夜の路上で不良に絡まれているところに俺が割って入ってきたこと
―― グラビトン事件において爆弾の盾になったこと

今も昔も、俺という人間が変わらずここに存ること…

―― 妹達(シスターズ)を悪夢の実験から解放したこと
―― 常磐台にいる彼女の後輩を助けたこと
―― 彼女の母親をスキルアウトから守ったこと

それら全てが、良くも悪くもかけがえのない思い出で、

―― 一晩中追いかけっこをしたこと
―― 恋人ごっこをしたこと
―― とある魔術師と大切な約束をしたこと
―― 大覇星祭の罰ゲームで携帯のペア契約をしたこと
―― そして、一緒に運命を懸けた戦いに挑むこと

アイツの、一番の宝物であること…


答えなんて最初から決まっていたようなものだった。
世間体だの何だの考えていても仕方のないことだ。別に青髪ピアスのような
唯のロリコン野郎になることを気にしていたわけでもない。そんなものは時間が解決してくれるだろう。
だがその場で返事をすることはどうしてもできなかった。

インデックスや他の大勢の人々を悲しませたくなかったから?
己の不幸に巻き込んでしまうことが怖かったから?
記憶を失った己のたった一つの信念がゆらぐ恐れがあったから?
…それらも当然あったのだが、本当は人に愛されることが堪らなく怖かったからである。
そして愛された分だけ、それ以上にその人を愛することができるのかが分からなかったのだ。

「それを考えるだけの時間を貰ったはずなのにすっかり忘れて告白で返しちまうなんて…
 どこまで馬鹿なんだ!俺は!」

自分の愚かさを嘆く暇はない。一刻も早くこの気持ちを伝えて謝らなければならない。
今日以外にアイツに会える日はあるのか分からない…もしこれで会えなかったら多分一生後悔するだろう。

そう思い、携帯の電源を入れようとしたが…電池が切れていた。
家の固定電話も、修理業者が来ない分には使えない状態に昨日からなっている。
なんと間が悪いことだろう。

「くそっ、直接行くしかねぇか!」

そう言うと上条はすぐさま着替えて軽く身支度をし、30秒後には自室を飛び出して
彼女のいる常盤台中学学生寮に走っていった。
間に合ってくれと祈りながら…



  ――俺に残された時間は余りにも少なすぎた。






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