とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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<新訳・第2章  御坂美琴の真実>


 (…う~ん、と。今日は結構動かせるみたいね)

 ぐっぐっ、と体をよくほぐしながら自分の体調を把握していく美琴。
 上条と臨んだ最終決戦において魔術師の攻撃を受け、大怪我を負った彼女はつい先日まで意識を失っていた。
 本来はまだ安静にすべき彼女が、自ら体調を確認するのには理由がある。

 (―よし、今日こそはアイツを捕まえてやる!)

 美琴には何となく分かっていた。上条が傍らでずっと彼女を見守ってくれていたことを…。

 意識を失ったとき、とあるツンツン頭の少年が夢の中に出てきてアタシを呼び止めたのだ。
 多分あれは、黄泉の国にでも行ってしまいそうなアタシを助けてくれたのだろう。
 …でもそのとき、自分が何を言ったのかまでは分からないが、多分ひどいことを言ってしまった。
 離れていくときに心の中で泣いていたアイツの顔が、夢の中の事なのに鮮明に思い出される。

 (…明晰夢ってやつよね?――それにしても、現実でもあんな顔は見たくないわね…)
 上条を窮地から救っていった過程で幻想殺しのもう一つの側面を知ったのだ。
 オカルトに触れられても信じることが出来なかった少女は、上条を通して飛躍的に成長していった。
 だが同時に怖くもあった。上条がまた自分から離れてしまうことが…
 夢のお告げのように、それこそオカルトチックなものが、今回より一層気になってしまう。

 だから、今日は無理してでも上条に会う。会いに行く。怒られるのは覚悟の上で、それでもアイツに会って、

 (告白の返事…聞かせてもらうんだから!)

 病室のベッドからそっと起き上がり、ひとまず隣のソファーに腰掛ける。
 …大丈夫、体は機敏に動く。
 そう自己暗示をかけるようにして、彼女はそのまま病室を後にした。

 ポケットにはあの時渡すはずだった『あるもの』を忍ばせて…

   ◇  ◇  ◇

 病院を抜け出して、ものの数分で上条のいると思われる寮の一室に到着した。
 告白をした美琴だが、上条の部屋を訪問するのは今回が初めてのことなので色々と分からないこともあった。
 ひとまず連絡した方が良かったかな、とも思ったが流石に入院中の身なのである。
 連絡しても「帰れ」の一言で終わるのは目に見えていた。

 (…?留守かな、アイツ)
 念のためドアノブを回して確認をしたが、鍵が掛けられている。
 そこで中の者がいないか電子線で探ってみた。
 だが、幻想殺しのように打ち消されるような感触は感じられずにいた。




 (…こっ、これは絶好の機会なんじゃ!?)
 落ち着け、落ち着け自分!
 直接会って渡すべきものだけど…今日という日を逃したら絶対に後悔するわよ。覚悟を決めなさい!

 ――そう自分に言い聞かせて、美琴は慎重に事を運んだ。


 病院へと戻る道、自販機のある公園をショートカットして帰る途中。

 (気付いてくれるといいな…)
 そんな淡い期待を抱き、ときどき頬を真っ赤に染めて足早に帰っていく美琴に、ある少女が目に留まる。
 どうやら自販機で飲み物を買おうとしたその少女は、お金を入れたはずなのに飲み物が出てこないことに対して
 ひどく動揺しているように見えた。


 「う、うう、せっかく、とうまが前に買ってくれたジュースを飲むことができるのに…
  やっぱりシスターにはそんなことは許されないのかな?」ウルウル

 …お分かりいただけただろうか?
 美琴は額に手を当てて、小さく溜息をつく。
 彼女はこの奇妙な偶然に、一方通行との対決の前に偶然出会ったあのツンツン頭の少年を重ね合わせていた。
 その少年も、そして自分も、この自販機に一度はお札を飲み込まれているのだ。

 (アイツと一緒にいると不幸がうつるのかもしれないわね…)

 彼女もまた大変なものを抱えていると、上条に聞かされている。
 その上で彼女を守っているとも言われたため、美琴には実質同棲していることが何となく予想できた。
 その話を伏せたのは、上条の、告白した美琴に対する配慮のつもりらしい。

 (いつもは鈍感で無自覚な素っ頓狂のくせして…肝心のときには割と分かってくれてるのよね…)


 ―でも、ちょっと寂しいな。
 ――この前までは結構一緒にいたのにね、
 ―――アタシの気持ち、ちゃんと分かってくれてるのかな?
 ――――もう少し、アタシを頼ってくれてもいいのにね…
 ――――――   

 そういったマイナス面の思考が、目の前の彼女を見ているとじわじわと沸いて出てきた。
 しかし、彼女には罪はない。
 告白の返事をまだもらっていないアタシの、ちっぽけな嫉妬のようなものだ。

 (ええい!…そんな感情はいっそゴミ箱へ捨ててしまえ、御坂美琴!)
 そういう意識が身体に命令を出したのか、目の前の少女に向かってこう声をかけていた。

 「ったく、なにやってんのよ」




   ◇  ◇  ◇

 望み通りジュースを買うことができたインデックスは、美琴にお礼を言うか言うまいか、迷っていた。

 「蹴りを入れなければジュースが飲めないきかいだったなんて、…そんな教義に反する行いはできないんだよ」
 「ほーう、つまり何? 行儀の悪いアタシにしかできないってことでいーのかしら?」
 「…それもそうかも」
 「な~んですって!!」

 端から見れば罵り合っているように見えるだろう。実際起爆剤となる上条がいれば、二人は盛んに燃え上がっていたのだろう。
 だが、その上条がもしこの光景を見ていたのならば、仲の良い姉妹の軽い口喧嘩のように思うかもしれない。
 ――そう思うくらいに、二人の間には依然程の刺々しい雰囲気は感じ取れなかったのだ。


 時間は午後5時になる。日本の2月にしては、日が沈むのがやけに遅く感じられた。     

 「――それじゃ短髪、わたしはもう帰るんだよ」
 「あ~…門限でもあるの?アンタも大変よね」
 「ううん、見たいアニメの再放送があるんだよ」
 「…」
 「ち、ちがうんだよ。決してカナミンが見れなくなっちゃうとか、そういうんじゃないんだよ!
  小萌に心配かけたくないからなんだよ!本当だよ!」

 先程まで彼女の言うことに耳を貸していたアタシは、彼女が留年の瀬戸際に立たされている
 アイツに気を遣い、彼から離れて暮らしていることを知った。 

 (確かにコレはアイツも苦労するわね…)

 また、彼女の抱えていたものはアタシやアイツの知らぬ間に、彼女自身の手で片付けたらしい。
 そういうところに少し頼もしさを感じるが、見た目も中身もやっぱり喜怒哀楽が極端な子供であることには変わりない。
 その点でアイツがイギリスに、彼女を引き渡そうとしなかったことも納得がいく。
 (それでも担任の家に居候させてもらっているのはどうかと思うけど…)

 「そう…。ねぇ、何ならアタシと来週の日曜さ、ゆっくりお茶でもしない?奢ってあげるからさ」
 「ほんとに!?いいの!?」

 突然目を輝かせて歳相応に嬉しがっている彼女に美琴はちょっとたじたじになる。
 (こういう素直なところがアイツの好みなのかな…)と思うと、なぜか自分のハートも打ち抜かれた
 ような気がしてコンチクショー、こんなはずじゃ…と、ガラにもなくショボくれてしまう。

 「え、ええ。もうお互い知らない仲じゃないんだし…。じゃあ来週の日曜、午前10時にここで会うことで」
 「午前10時ね、分かったんだよ」

 …あと一つ。

 「それと、アタシのことは美琴(みこと)って呼んでほしいのよね。
  御坂美琴ね、この町ではアタシのことを『超電磁砲(レールガン)』って呼んでる人もいるけど…
  短髪はさすがにひどいんじゃない?」
 「…分かったんだよ。でも短髪もわたしのこと、インデックスって呼んでないよね?
  短髪が名前で呼んでくれたら、心優しいわたしも短髪のこと、名前で呼べると思うんだよ」
 「ぐぐっ、わ、分かったわよ!そっちがその気なら、正々堂々正面から攻略してやろうじゃない!…インデックス!」
 「ふふーん、わたしには鉄壁の防御結界『歩く教会』があるんだよ。              
  これでみことは精神的だけじゃなく、戦闘力的にもわたしより遥かに下等民族で、攻略なんか不可能なんだよ!」


 「…」
 「…」


 ――― ぷっ、くくく、あっはははは! ―――


 このとき、二人は何となく、お互い分かり合えるようになるという直感がした。

 ……だが、エンディングには早すぎた。


  ―――上条の運命の歯車は、二人の再会により大きく動き始めていたのだ。




   ◆  ◆  ◆


 日曜の午前11時。天気予報は快晴。運勢は最高。
 場所はとある商店街。

 その日美琴とインデックスは、当初の予定を変更して上条へのバレンタインデーに向けて
 ある一つの賭けをしていた。

 「じゃあ、とうまにどちらがより美味しいチョコを作れるのかで、みことはわたしと勝負したいんだね?」
 「ええ、勝った方が負けた方の、アイツとの過去を一つ聞く権利を持つってことでいいわね?」
 「臨むところなんだよ!」

 …なんだこの自信は。
 まるで料理の神様でも舞い降りたかのように余裕綽々の表情を浮かべるインデックスに
 自ら勝負をふっかけておきながら、美琴は悩み出した。

 美琴はインデックスの料理の腕前を知らない。なおかつ上条が自炊しているとも思えなかったので、
 インデックスが毎日ご飯を作っていて、上条の好みの味を隅から隅まで知っているのかと思い込んでしまう。

 (だ、大丈夫よね?せっかくこの日のために佐天さんや初春さんから
  美味しいチョコレートの作り方を聞いたり、率直な意見を聞いてみたりしたし…)

 一応常盤台でも家庭科実習でチョコレートを作る機会があったのだが、そこで美琴の作るチョコは黒子に
 いつも全部食べられてしまうので、公平な立場での感想を今まで聞けずにいた。
 常磐台女子寮の厨房は、今まで入院していた美琴は使えないし、病院で作ることも医者にばれたので憚れた。

 そこで美琴は親友である佐天や初春の協力の下、チョコレートの作り方をおさらいしてみたり、
 彼女達に素直な感想を述べてほしかったのだが…

 ―――
 ――
 ―

 「…御坂さんがその人のために心を込めてあげるんなら、味も見てくれも関係ありません!」
 「そ、その通り!肝心なのは愛だよ、愛!いや~、活かす台詞だね~初春!」

    ・
    ・
    ・

 「そ・れ・で、そのチョコを渡す人は、やっぱり『あの人』なんですか?とーぜんコレを機に告白するんですよね~!」
 「ふえぇ~、御坂さんがどんどん遠い人になってく~~!」

 ―
 ――
 ―――

 (やばいわ…何か自信なくなってきた)

 友人達も心強いというより、興味本位なように思えてくる。
 その場ではアタシがアイツにもう告白済みで、後は結果待ちということは言えなかった。

 その後は、アイツにチョコをあげることを黒子に話してはいけないという主旨の条件付きで、
 彼女等に過去の話をしてあげたけど、途中で久しぶりに漏電してしまい、また病院送りとなった。




 別々に会計を済ませた私達は買った物を店側に預けておいて、とある商店街で行われている
 大規模な福引のために一時休戦することにした。

 「それにしても、…アンタが買った分で一気にポイント貯まって、三回も引けるようになるとは思わなかったわよ」
 「そ、そんなことはないんだよ。こもえがこつこつ貯めてくれたからなんだよ!」

 小萌という名の女性が上条の担任の先生で、インデックスの居候先であるという話は前に聞いた。

 公園になかなか来ないインデックスのために、この前調べたその先生のアパートに行ってみた。
 しかし出迎えてくれたのは、背格好からして、言動からして………子供であった。
 その場では学園都市七不思議の一つということで強引に納得したが、(…本当に大人だったんだなー)
 と、引き換えのポイントカードに記載されていた発行日を見て納得せざるを得なくなった。

 それはさておき、美琴達の順番が訪れる。
 ここは一つ公平にということで私がくじを引くことにした。

 「狙うは一等!牛一頭まるごとプレゼントなんだよ!!」

 …色々突っ込みどころがあったのだが、そんなことは今はどうでも良かった。

 (神様、お願いします!…ぜひ私に三等のプレミアムゲコ太を!)


 ――コロン、コロン…コロン。

 「はい、当たりで~す! プレミアムゲコ太-スペシャルバージョン三つ!」


 ◇  ◇  ◇

 天気予報がー嘘をついた。土砂降りのあーめーがー降ーる。
 そんなーとき、

 「しょ、しょうがないから入ってあげるわよ///」

 なーんて、隣にいる美琴が照れる。

 ――恋に落ちる音がした
    ・
    ・
    ・
 そんなことは万に一つも起きず、大雨で帰れなくなってしまった私達は立ち往生していた。

 「アン…インデックスは濡れても平気よねー。その修道服何枚も替えあるんじゃない?」  
 「ふふーん、そんなことよりもまず自分の心配をした方がいいかも。
  この服は物理的・魔術的に関わらずあらゆる現象を受け流しちゃうの。
  だから雨ぐらいどうってことないんだよ。……それっ!!」
 「あ、こら!待ちなさいよ!」

 牛を確保できなくてやけくそになったインデックスは大雨の中を傘なしで突っ切っていけるのに対し、美琴は傘も服の替えも
 すぐには用意できない。その上、先に行ってしまったインデックスの分のチョコレートの材料まで持っていくはめになった。
 例え傘を買っても、両手は買い物袋で塞がっている。

  (ったく、ほんとついてないわね。狙い通りゲコ太を引き当ててるから運勢は最高のはずなのになー。
   …つうか何でインデックスの買ったやつだけこんなに重いの!?まさかこんだけ自分で食べる気じゃないでしょうね!!)

 言葉にならない愚痴は幾つもあるが、――仕方のない時もある。
 取り敢えずアタシは雨の降り様を、屋根から手を出して確認してみた。

  (あれ?思ったより降ってない?)

 インデックスは風の速さで、もう見えなくなりそうなところまで走っていくのが見える。
 だったら自分もこのぐらいの雨ならば大丈夫なのかもしれない。…何の確証もなかったが。



     ・
     ・
     ・

 アイツの担任の先生がアパートの前で、雨に濡れてくるであろう私達二人を出迎えてくれた。

 「こもえ~、帰ったんだよー」
 「ただいま帰りましたー」
 「お帰りなさいインデックスちゃん、みことさん」

 すぐさまタオルを持ってきて、濡れたはずの服を拭こうとした小萌は驚いた。

 「…あれ、二人ともちっとも濡れてないじゃないですかー」
 「あ、あっはっはー、何か今日はラッキーなことが多いんですよね。さっきも福引で当たりが出ましたし…」
 「…えっ」

 インデックスはさらに驚く。
 帰り道での信号待ちは何回もあった。水溜りも多く、足がずぶ濡れになってた人は数えるのも
 馬鹿になるくらいはいた。
 全ては『決して一度見たものは忘れない』能力を持つからできる芸当であった。

 ――それなのに美琴の頭からつま先まで、全く濡れていないというのはどういうことだ?



 そして軽く顔を拭いた二人に勝負開始のゴングが鳴る。

 「…さてと、それじゃ始めますか!」
 「う、うん」

  ◇  ◇  ◇

 戦況は一方的だった。


 インデックスが、美琴に自ら負けを認めて、彼女の作ったチョコを堪能し尽している。

 「どれもこれも上品な味わいの上に、普通ならボソッ?とした味わいになっちゃう
  チョコがこんなにもふんわりとしてて、口解けもさわやかになるなんて…信じられないんだよ!」
 「お、おだてても、これ以上はもう出ないわよ?」
 「もっと食べたいんだよ!」

 本当に物欲しそうに見つめているインデックスを見て、自分は悪くないはずなのになぜか罪悪感が沸いてくる。

 (取り敢えず、チョコの出来は良かったみたいね…)
 そう安堵した美琴は次の上条戦の参考にするため、自分も味わってみた。
 (…あれ、これって普通よね?)
 特別味に五月蝿い、鋭敏な舌の持ち主とまではいかない美琴だったが、以前自分が作ったものと
 味はさほど変わらないように思った。

 「…インデックス、一つアンタが作ったのを食べさせてくれる?」
 「?いいけど…普通のチョコだよ」
 「念のためよ、念のため」

 私は、チョコなのかまた別の暗黒物質なのか分からないその一端を手で軽くつまむ。
 触った感触はもちっとしてたのは覚えている。

 …おそるおそる口へと運んだ。




  ◇  ◇  ◇  

 雨が一時的止み、ひとまず寮に帰ってきた美琴は、勝負のお預けとなったインデックスとその後
 話した内容を振り返りながら、退院して初めて帰って来る寮の前で、少々憂鬱な気分に浸っていた。

 ―――
 ――
 ―

 (最初に味わった感触がまさか「パンの耳」だったとはね。迂闊すぎたわ…。)

 その後30秒間は固まった美琴は、せめて自分のレベルまでお料理スキルを上げて、
 インデックスには上条のために美味しいご飯を作ってもらわなければならないと思った…。

 「って、何でアタシが気にしてるんだーーー!?」

 「でも、みことはいいよねーお料理できて…。とうまがパンの耳食べて美味しい美味しいって
  言ってたこともあったけど、本当はわたしの作る料理、食べたかったのかも…」

 「インデックス…」

 少しだけ、場がしんみりした。



  ――グギュルルル~~~

 「…」
 「おなかすいたんだよ」
 「あーはいはい、何か一瞬でもアンタに同情したアタシが馬鹿を見ましたよー」
 「そ、そんな冷たい目をされても本当のことなんだよ!」

 暫くそうやって、からかっていた美琴に今度はインデックスが切り出してきた。

 「ねえ、とうまはいつになったらみことに告白するんだろうね?」
 「ブハッ!!…な、なに言い出すのよインデックス!?」

 突然のことで軽く吹き出してしまった美琴。しかし、インデックスの言葉は続く。  

 「とうまがみことと一緒になったら、毎日美味しいご飯が食べられるようになるんだよ!」
 「結局アンタはそっちかい!!」


 「…でもね、どんなことがあっても、みことととうまが一緒にいてほしいと思う気持ちは本当だよ」
 「え…」

 その一言はインデックスと、ある少女の願いであった。

 「…インデックスはそれでいいの?」
 「………うん。
  わたし知ってるんだよ、とうまがわたしの元に帰ってきてくれたあの日…とうまは心ここにあらずって
  感じで、わたしが話しかけてもどこか眺めては溜息ばっかりのうわの空だった…」
 「…アタシがアイツに告白したこと、知ってたの?」
 「やっぱり、そうだったんだ…」


 「…な、なんか本当にしんみりしちゃったわね」
 「みこと、正直に言ってほしいんだよ。…本当にとうまが好きなの?」




 その質問に、美琴が首を縦に振るしかないことを知っていながらも、インデックスの言葉はなお続く。

 「………うん」

 「私もね、とうまのことが大好きなんだよ」

 「………うん」

 「でもね、わたしはね…みことのことも大好きなんだよ」

 「………うん」

 「それからね…それから…エグッ、」

 「………うん」

 ――言葉にできない言葉を何とか形にしようとして連ねていくインデックス。

 「グスッ…と、とうまもね、みことのことがね…ヒグッ…大好きなんだよ」

 「………」

 ――そんな彼女を、美琴は優しく抱きしめてあげることしかできなかった。


 ―  
 ――
 ―――

 しばらくそのままの状態が続いた…しかし、

 留年寸前の大馬鹿野郎が、小萌先生に提出する課題をどこかに紛失したとかで訪れたときに、抱き合っている
 私たちを見て「…おじゃましましたー」と、自らの行動を巻き戻していくのを機に、インデックスと私は
 大きな声でひとまず笑い合えるとこまでは回復することができた。

    ・
    ・
    ・

 その後は本当の仲直りの印として、インデックスに福引で当たったゲコ太をプレゼントしたり、
 勝負うんぬん抜きにして彼女とアイツ、私とアイツ、それぞれの思い出を語り合ったりする時間に費やしたが…
 インデックスがさらに目の下の隈を大きくさせてしまう結果となった。


 (…どうして、こんなふうになっちゃうのかな)

 美琴は考える。
 かつて上条が自分に聞かせくれた夢、
 『誰一人欠けることなく、誰一人失うことのない世界』を実現させるという夢。

 ――それを美琴自身の手で踏みにじっているのではないかと。

 (思えばアイツだけじゃなく、多くの人を巻き込んできちゃったなあ)

 かつて、こういった最悪の思考をした自分を変えてくれた大切な仲間や愛しい少年が
 自分からどんどん遠のいていく感じが、今の私にはあった。
 …それに、結局アイツからの告白の返事はもらっていない。

 (忙しいのは、分かってはいるんだけど…せめてメールくらい寄こしなさいよね)

 そんな風に、自分に限っていつも気を利かせてくれない上条に愚痴をこぼしながら、美琴は寮の中に入っていく。




  ◇  ◇  ◇

 美琴は自室の扉を開けてから、呆然と突っ立ていた。

 部屋全体が、自分の好みのぬいぐるみやクッション、装飾品から文房具までで隈なく埋め尽くされていたのだ。

 「な…なっ…」

 なんだコレは。
 確かに自分が欲しかったものが手に入り、それを部屋の中に飾って鑑賞するのも中々良い、という感情がないと言えば
 嘘になるが、こんな物…全部隠し切れない。その上知らぬ間に飾ってあったといって寮監が許すはずがない。

 そこに寮監が現れた。

 「御坂…」
 「あ、あのコレは違うんです!…私は何も「御坂!!!」はい!」   


 「何をそんなに怯えているんだ?誰しもそんな欲望・感情はある。私だってそうだった。
  …今回のことは特別に許してある。まあそう心配するな。他言もしてない」
 「スミマセンッ!!………えっ?」

 謝る姿勢、土下座を速やかに取っていた美琴は、あの寮監が絶対に言わないであろう言葉に耳を疑った。

 「?何を謝ることがある。若い内にいい『もの』を捕まえておかないと後々苦労するぞ?
  ………私のようにな。ふっふっふっ…」

 ――何処かもの寂しい表情を浮かべて去っていく寮監に、状況を認識できない私は返す言葉がなかった。


  ◇  ◇  ◇

 [翌日の月曜日]

 美琴は、自分が寮に帰ってきた昨日、同居人であったと思われる『壊れかけの黒子』の容態を案じていた。

 ―――
 ――
 ―

 「おんねぇえさまー!わたくしのお姉さまが帰られましわ!」
 「はいはい、心配かけてごめんね黒子」

 本当に心配をかけていたらしく、目の下に馬鹿でかい隈を作っていた。
 おそらく眠れない日が続いていたのだろう。

 そんな彼女を美琴は優しく抱きしめ、頭をなでてあげた。

 「ああ!お姉さま、そんなことをなされましたら黒子は、黒子は…!!

  wkjsazndbkdbciqer!vcopwrjvk!!!」

 「何言ってんのか全然わかんないわよ!」

    ・
    ・
    ・

 「それではお姉さま。おやすみなさいませ」
 「はーい、おやすみー」

 そう言っておきながら黒子はまだ布団を被らずにベッドの上に座っていた。
 寝巻きも着ず、普段着のままなのは更におかしい。




 (…襲う気なのかしら)
 懲りないわね…と思いながら、美琴は念のため黒子に気付かれないように顔を出しながら、眠りにつくふりをした。

 ――その後黒子は自分の机の上に座り、ぶつぶつとつぶやきながら、ただでさえ鋭い金属矢をさらに鋭くなるよう研いでいた。


 「うひひひ、これであの類人猿も…、うひひひ…」

 (………)

   ◇  ◇  ◇

 どうやら上条が病院に来て、気を失っていた美琴の看病をしていたことを見舞いに行って知っていたようだ。
 その場で上条への報復(?)は、事が事だけに諦めざるを得なかったらしく、明日決行するらしい。

 美琴はこれを終始聞いていて止めようとしたが、空間移動で寮を後にした黒子はどこかに行ってしまう。
 もう就寝時刻もとっくに過ぎているが、急いで初春に連絡し、黒子の現在地を聞き出そうとする美琴。

 ――シュン

 と、そこへ黒子が帰ってきた。

 「黒子!!…アンタってヤツは!!!」
 「お姉さま聞いてください。黒子はお姉さまの恋を応援していますわ」

 「……ハァ!?」 
 「黒子は確かめたいだけですの。あの男がお姉さまをどう思っているのか…」
 「アンタ、何言ってんのか…自分で分かってんの!?」
 「もう就寝時刻を過ぎていますわ。…おやすみなさいませ、お姉さま」

 そう言って、そのまま制服で眠りについてしまった黒子のガーターベルトを見ると
 先程まで何十本も装備していた金属矢は一本も残ってはいなかったのだ。
   ・
   ・
   ・
 彼女やアイツのことが心配で中々寝付けなかったアタシはその晩、とある夢を見た。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 私は神を崇め、奉る巫女。
 一生結婚が許されない身分だった。

 しかし、そんな私を好きになった少年がいた。

 ある時何の気なしに告白した少年は、神様に私を解放してほしいと願い出た。
 しかし、これに怒った神は少年に無理難題の試練を与える。
 少年は一人立ち向かう。

 …その後、力尽き果てた少年の盾になるように彼女は神様の前に立ってこう言った。

 「お願いします!私のことならどうなろうと構いません!
  …ですから怒りを鎮め、彼を今も苦しめている地獄の底から引き摺りあげてください!」

  その言葉に感服した神様は、常世の闇から少年を解放し、彼女を愛した記憶を忘れさせる。
  そして彼女は『彼の子』を身篭り、産まれた子供と仲良く暮らしていく。

 ――愛してくれた彼の記憶を忘れて…

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 深夜に目が覚めてしまった私は、起き上がるとべたりと肌に纏わり付く、嫌な汗を掻いていたのに気付く。

 その後も何度か夢を見たが、内容はやはり同じものだった…。

 ―
 ――
 ―――

 机の上に置いてあった携帯の着信音で目が覚めた美琴は、ひとまずシャワーを浴びて
 先程まで見ていた夢について深く考えていた。

 (神様に愛されるなんてね…こんな夢見ちゃうなんてアタシって一体…)

 上条は知らないことだが、美琴は最後の戦いで諦めようとした彼を庇うため、夢の中の彼女とほとんど同じことを思った。
 そして、魔術師の最後の攻撃への反応が一歩遅れた彼を突き飛ばして…


 そこまで考えて昨日はいつにも増して幸運が続きすぎたことを思い出す。

 ――商店街の福引で念願のゲコ太ストラップが三つも手に入ったこと
 ――大雨の中、傘を差さずに行ったのにちっとも濡れていなかったこと
 ――過程はどうであれ、インデックスに私の知らなかったアイツの秘密を聞き出せたこと
 ――規則違反のはずのぬいぐるみやその他諸々が寮監に見られたのに注意すらされなかったこと
 ――黒子がアイツとの交際を認める発言をしたこと

 …まるで、『神懸っていた』

 (それに、愛されたヤツがアイツそっくりだったな…)

 そう思うと、背中がぞわっとして――嫌な予感がしてきた。
 昨日の悪い思考が蘇ってくる。

 (ぐ、偶然よ…単なる偶然!) 

 そう思い直し、シャワールームを出た美琴は驚く。
 ――黒子が足を押さえて、地面に倒れていたのだ。

 「黒子!!!どうしたの!!!」
 「…ち、ちょっとフラットしただけですわ。昨日は遅かったものでして…」

 そうやって足を見せないようにして美琴の出たシャワールームの中に入っていく黒子を見て、
 美琴はあまり考えたくなかった「危惧していたこと」が起き始めているのに動揺を隠せない。

 そして、極めつけは上条からのこのメールであった。

 『 from  上条当麻 』

 『 オマエに伝えたいことがある。
   このメールをもし見てるんだったら、いつもの自販機の公園に来てくれ。
   …ずっと待ってるからな                       』

    ・
    ・
    ・

 美琴は迷った。
 これには『不幸』の兆候があったのだ。自分ではなく、上条の……
 今起きた黒子の怪我がそうである。自分の幸福は他人の幸福すら吸い取ってしまうように神様が作っているのかもしれない。
 しかし、これはまたとない幸福の兆しでもある。ずっと待っていた言葉が聞けるのかもしれないのだ。

 学校に行くか、今日は休むか…
 そんなことを考えても状況はどんどん悪くなっていくばかりである。
 時計の時刻を見る。ここから行ったのだと、約束の時間には間に合いそうにない。


 だけどアタシは、アイツに会いに行った。ごくわずかな希望を持ちながら…。


   ――今日の運勢が嘘をついた。…結果は最悪だったのだ。

     そして、私は変わってしまった。

     まるで確固たる『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が崩壊したかのように…





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